「唐音っちー。付き合ってぇー」
「なっ……なななっ!?」
「ナナナぁー? かーいーよねぇー」
「テレビ東京のマスコットキャラじゃなくて!」
勘違いしちゃう唐音っちも可愛いけど、からかうのはほどほどにして、相談の内容を伝えた。
「——笑顔の練習? あんたまだ表情が合ってないとか気にして……」
「あー。そうじゃなくってぇー。ほら、あーし明日誕生日じゃーん?」
「ああ、うん。そうだけど……自分で言っちゃうのね」
「二週間前が数っちの誕生日だったから、さすがに覚えてるしぃー。そんでねぇー。恋太郎っちがサプライズしてくれるって言ってくれてぇー」
「その時点でサプライズではないけどな」
「あーしも満面の笑顔でサプライズ返しぃー、したくてぇー」
「……なるほどね。それは分かったけど、なんであたしなのよ」
「なんでってぇー。唐音っちが一番にぃー、思いついたからぁー?」
「は、はあ!? べ、別に嬉しくなんかないんだからねっ!」
「一周回ってバチクソ素直だしぃー」
なんだかんだ言って付き合ってくれるのが優しくて、気分も上がってきた。こうして笑顔修行の旅に出発したんだ。
「笑顔を意識するのは美容にもよろしいんですのよ! そのためには顔筋を意識することですわ!」
「筋肉ムキムキってことぉー? それはかーいくないしぃー」
「むしろ小顔効果が期待できますのよ」
「確かに美々美っちが『ふふーんですわぁー』してる時、ちっちゃくなってる気がするぅー」
「それはデフォルメの都合なのよ」
美々美っちが詳しく説明してくれた。顔筋っていうのが弛んでいると表情が動きづらいらしいから、適度にほぐしてあげるといいんだって。顔全体を使ってゆっくりと大げさなくらいに動かすのが大事らしい。そのまま「あいうえお体操」の指導をしてくれることになったんだ。
「あ」
美々美っちが目を見開いて、口も大きく縦に開けて、五秒くらいキープしてた。ビックリしてる感じでやればいいみたい。
「さあ、やってごらんなさいな」
「あー」
「目も口もめちゃくちゃ横長に伸びてますわよ……!?」
「あ、あ、あんたのことなんか、普段から努力しててすごいなんて思ってないんだからねっ!」
「あいうえお構文でもございませんのよ……!?」
「紅葉に任せるのです。こ、これは……大変なのです!」
「どういうことですの……?」
「それぞれがスライム筋とツンデレ筋の影響を受けているせいでほぐせないのです……!」
「どういうことですの……!?」
あーし達は顔をほぐす系だとダメみたい。教室を後にして、お次は化学室に突入した。
「『笑い薬』やるから困ったら飲めばいいのだ」
「それ前にマジバチクソブチうけたけどぉー、爆笑はできなかったしぃー」
「そーいやそうだったのだ。唐音にやるのだ」
「……本当に笑えるんでしょうね?」
「ほら、飲ませてやるのだ」
「ちょっ……! ……あーはっはっは!」
「悪役の高笑いみてーなのだ」
「かーいー」
「はあっはあっ……。別に笑ってなんかないんだからねっ!」
「そんなことで張り合ってどうすんのだ」
お腹を抱えて笑っちゃう唐音っちは可愛かったけど、お祝いされた時の笑顔は自然なものがいいから、別のやり方がいいな。
「お酒飲めばー?」
「マジヤバーい」
感情豊かな百八っち先生ならと思ってテントに来たけど、今日はもうべろんべろんみたい。
「薬以上にダメなもん渡してくんな」
「唐音サン。酒屋サンだって、生きてるんだど……!」
「そのお子さんの育て方は間違えたかもしれないけどな」
「こういうのはどうでしょう? 笑顔に他の要素もプラスしてアピールするというのは」
「えー? どういうのぉー?」
羽香里っちが耳打ちすると山女っちが顔を赤くして、二人で手を繋いで上目遣いを向けてきた。
「こ、これがっ……おで達のお返しだど……」
「わー」
二人とも胸を寄せ合って強調してて、照れちゃった。
「ひゅー! エッチじゃん!」
「ば、バッカじゃないのっ!?」
「んー、でもあーし二人みたいに胸がないしぃー」
「唐音さんよりは全然マシですけどね」
「喧嘩売ってんのか!!!」
目玉が飛び出しそうな勢いの唐音っちを落ち着かせて、保健室に向かった。こうして見ると唐音っちってツンデレだけど、笑ったり怒ったりがハッキリしてるかも。と、思っていたら唐音っちがこっちに振り向いた。
「なに羨ましそうにしてんのよ」
「えー? 唐音っちマジエスパぁー?」
「そうじゃなくて。あんただって抑揚はないかもしれないけど、表情にちゃんと出てるってこと!」
「……えへへぇー」
「ちょ、ちょっと!」
気づいたら抱きついちゃってた。前にもこんなことあった気がする。あーしやっぱり表情のこと気にしてるのかな。少し気にしてるのかも。なんでだろう。前みたいに嫌な感じじゃないけど、皆がちゃんと伝えられてるからかな。
「笑顔ですか〜? あー子さんも普段からニコニコしてますよ〜」
「いつも同じ感じだからぁー。もっとにっこりぃーってしたら、喜んでくれるかなってぇー」
「確かにそれは喜んでもらえるかもしれませんね〜」
笑顔といえば千優っち先生。もしかしたら最後の砦かも。なんだかドキドキしてきた。そうしたら唐音っちがこっちをチラッと見て、プイッと首を振った。
「……でも、それだけが喜んで貰える方法ってわけじゃないでしょっ」
「そうなのぉー?」
「そうですよ〜。私も笑顔に大きな差はありませんが、保健室に来る皆さんはいつもと変わらない表情を見て、落ち着いてくれます〜。私が恋太郎さんの立場でしたら、いつもと変わらない笑顔を見せてくれたら、すごい嬉しいですよ〜」
「いつもと変わらない……そっかぁー。そうかもぉー」
「……皆みたいに伝えたいって気持ちは分かるわよ。あたしもそう思ったことあるし。でも分かったでしょっ。あたし達は一人一人特別だから、無理に変わろうとしなくていいってこと」
「随分遠回りしちゃったしぃー。ありあとぉー。二人ともぉー」
もしかしたら唐音っちは最初から分かってたのかも。でもあーしが納得できないとしょうがないことだから、納得するまで付き合ってくれたんだ。
「ふ、ふんっ。別に屋上で明日の準備してるから、近づけさせないようにしてたわけじゃないんだからねっ!」
「えー? そうだったんだぁー。全然気づかなかったしぃー」
「あらあら〜」
唐音っちに頼んで良かった。しかも前日から準備してくれてるみたい。なんだろう。全然分かんないや。けど、今から心臓バクバクしちゃってる。どうしよう。寝れないかも。
すごいぐっすり眠れちゃった。唐音っちと一緒に階段を上って、屋上の扉を開いた。どうなっちゃうんだろう。
「わー」
屋上が可愛いもので埋め尽くされててビックリした。これって……。
「ファンシー王国だしぃー。かーいすぎぃー」
「よく一日で埋め尽くしたな……」
「もしかして恋太郎っちがぁー?」
「ああ。これは詩人が提案してくれたんだ」
「ボクが提案したとも言えるし、言わなくても恋太郎がやっていたとも言えるね。つまりは君に喜んで欲しかったのさ。ここにいる皆がね」
「せーのっ。誕生日おめでとー!」
可愛い着ぐるみを着た皆が、クラッカーを鳴らしてくれた。
「あたしも……その。お、お、おめでとうっ……!」
唐音っちも恥ずかしがりながら祝ってくれて、何か考えたりする前に言葉が出ちゃった。
「えへへぇー。ありあとぉー、みんなっ」
「ぎゃわっ!!!」
いつも通りに笑ったのかな。よく分かんないけど、悪くはなかった気がする。恋太郎っちは吹き飛ばされちゃった。全力で喜べるのがいいなとも思ったけど、その全力がいつも通りだから、変わらなくていいんだって思えた。こうしてあーしは最高の誕生日プレゼントを貰ったんだ。