「アメーリカ式バレンタインをやるデース!」
バレンタインデーを三日後に控えた祝日のことです。
「というと……お手紙や花束を贈り合ったりするんですか?」
「そんなのジャパニーズの女子供する事デース。アメーリカヒューマンはいつもスイーツイート。だからチョコレートをプレゼントするデース! 恋太郎ボーイからはホワイトデーにお
「それは日本特有の文化ですね」
「知与ロリータはアメーリカジョークが
「あっ。もう作っちゃったんですね……」
「チャレンジイートして欲しいデース。マウスインサプライズパーティこと間違いなしデース!」
「そういうことでしたらいただきま……す?」
お作りしてきたものを意気揚々と取り出すと、何故か知与さんは固まってしまいました。つられて私も目を落とすと……
「ホワッ!!? ——間違ってあずき
「和菓子の王道じゃないですか。何をどう間違えちゃったんですか」
「おかしいデース。確かにアイアムはチョコレートを買って、
「チョコレートどこかにいっちゃいましたね」
「きっとまだアイアムのおハウスにありマース……」
「ふふっ……本当にもう。一緒に作りましょうか」
「知与ロリータ……! お
「わっ、分かりましたから……!」
大胆に抱きつくと知与さんは照れてしまいました。その仕草がどことなく恋太郎君を彷彿とさせます。やはりいとこなのだなと感慨深くなりました。
「それじゃあ先に私の分の買い出しから……」
「それはアイアムのを使えばいいデース」
「えっ……でも、ファミリーの皆さんの分も作りたくて」
「アイアムもそう思って沢山買ってありマース。こういう
「ナディー先生……。はい、ありがとうございます」
知与さんは小さい体で無理するきらいがあり、他人に甘えることができないでいました。今ではこうして等身大の笑顔を見せてくれるようになり、これもまた成長と言えるのかなと思う次第です。
「ナディー三分クッキングデース!」
「チョコレート溶かすだけで終わっちゃいますね」
お家に到着し、エプロンを付けて調理開始です。知与さんはうっかり小豆を手にした私を制すると、包丁でチョコを細かく刻み、ボウルに入れて湯煎で溶かしていきます。
「知与ロリータの
「ありがとうございます。でもナディー先生もお料理上手ですよね。なぜか和に偏っているだけで」
「……!」
心の奥底にしまい込んだ何かが痛みました。ナディーとしての私で覆い隠している、大和撫子としての私……。過去に置いていきたいのに、切り離せない自分自身。
「ナディー先生……?」
「……アイアムは
「あ……すいません。昔のことを思い出させちゃって」
「ノー! 知与ロリータ悪くありまセーン。悪いのは全てを妹に押し付けてきたアイアムデース」
「そんな……。確かに先生のご家庭のことですから、どうだったとは言えません。けれど私はナディー先生は間違っていなかったと思うんです」
「え……」
思わず目を見開きました。私が大和家から逃げてきたことを、肯定されるとは思わなかったのです。それも事情を慮り、無責任な発言を嫌う知与さんに。
「先生は教えてくれました。自分の気持ちを大切にすることを。アメリカな生き方に私は救われたんです。自分の立場より"なりたい自分"にひたむきで、包み隠さず表現できるナディー先生は素敵です!」
私はかつて知与さんに伝えました。人生の主役は自分なのだから、自由でいいのだと。けれどそれは過去の自分と彼女を重ねて、自分を肯定していた部分もあったのかもしれません。そんな私を恋太郎君のように受け入れてくれること。それはいとこだからなんて言葉で片付けられることではなく、曲げない自分を体現しているのだと感じられました。
「知与さん……。ありがとうございます」
「ふふっ、違いますよ。ゴーイングナディーウェイで行きましょう!」
「……! ベリーベリーサンキューデース!」
今でも家出という選択が正しかったのか、分からなくなります。けれど今の私の生き方を正しいと言ってくれる人がいる。これからの未来を選ぶ上で、これ以上心強いことはありません。
「……そうだ。最中の皮もいただいていいですか?」
「もちろん構いまセーンが……知与ロリータもうっかりしちゃったデース?」
「ふふっ。こうするんです」
「ホワッ!?」
すると何を思ったか、知与さんが溶かしたチョコをスプーンですくって最中の皮に流し込んでいきました。
「実は最近流行ってるんですよ、チョコ最中。アメリカ式ではありませんが……たまにはこういうのもいいじゃないかなって」
「
そうしてほとんどがチョコで満たされると、蓋をするためのもう一方の皮を手渡されました。
「私は……好きですよ。誰かにやらされるんじゃなく、うっかり出ちゃうナディー先生の和の姿も。——誕生日おめでとうございます」
「……!」
今の今まで、忘れていました。いえ、思い出さないようにしていたのです。大和家に生まれたことを、心の奥底に押し込んでいたから。
二人で顔を見合わせて笑うと、私はチョコ最中の仕上げに皮を被せました。押し込むようにではなく、包むように。過去に置いていこうとした自分も私の一部なんだと認められたのは、もしかしたら成長と言えるのかもしれません。
「
「日が重複しちゃってますね」
こうして私は最高の誕生日プレゼントをいただきました。