というわけで楓の
「待て待て。置いていくなアタシ達を」
おや、胡桃さん。地の文に割り込んでくるとはいい度胸ですね。
「全部口に出てんだよ」
「これは失敬。かまってちゃんみたいになってしまいました」
「それ以外の何者でもなかったけどな。だいいち今春じゃねーか」
「それがなんとある山の頂上が局所的に秋になっているらしいのです」
「ご都合設定が過ぎるだろ」
「ダメですよ胡桃さん。原作の悪口は」
「この小説に言ってんだよ」
「まあまあ。俺は紅葉ちゃんが行きたいならお供したいよ」
「……アタシも行かないとは言ってないけど」
他のファミリーはたまたま予定や都合が合わなかったので、お二人と一緒に山登りをすることになりました。歩き始めてしばらくすると、冷たくて乾燥した風に吹かれました。
「……それにしても寒いですね」
「山は冷えやすいとは聞くけど、思った以上だな。ふもとの方は春らしい暖かさだったのに」
「そんなこともあるかもと思って、カイロを持ってきたんだ」
「おおー。ありがとうございます。早速揉むのです」
「最近のカイロは揉むと逆効果だけどな」
ああ、そういう説を唱える方もいらっしゃいますね。
「何故人はカイロを揉むのか……そこにカイロがあるからなのです」
「だから山も登ってるみたいになるけど。……ん?」
長いトンネルを抜けると、そこは雪国でした。
「そうはならんだろ」
「このパターンは……! 分かったぞ! この山は頂点だけが局所的に秋になってるわけじゃなくて、段階的に春夏冬もあるんだ!」
「この世の理はどうなってんだ」
「今更じゃないですか?」
降り注ぐ粉雪が段々と豪雪へと姿を変え、ただでさえ体力を消耗しているのに体温を持っていかれてしまいました。
「うう……。カイロの温暖揉みルギーだけでは足りなくなってきました」
「この状況であったかさ以外のものも求めるなよ」
「むっ。胡桃さんだって折角なら温かい食べ物にありつきたいはずです」
「それは当たり前だろ」
「そんなこともあるかもと思って、肉まんを蒸しておいたんだ」
「結婚して!!」
「するよ」
「ふおー! モチモチなのです」
いつの間にか中華料理店でしか見たことのない木の入れ物を手にした恋太郎さんが、ホカホカの肉まんを渡してくれました。生地の揉み心地に拘っていて、これは中々……ほほう……!
「おいっしいぃ〜!!♡」
こうして必要なエネルギーを補給して回復した紅葉たちにさらなる困難が襲い掛かりました。——ミーンミンミン! と、蝉も鳴くほどの日差しが一転して照りつけてきたのです。
「どうやら恋太郎さんの読み通りのようですね……」
「気象の仕組み舐めすぎだろ」
「そんなこともあると思って、冷却シートを持ってきたんだ」
「まさかのカイロと同時持参」
「これはまた肌に吸いついて……あー子さんのほっぺのようなむにむに感なのです」
「揉むとくっつかなくなるぞ」
ひんやりとしたジェルが心地良く、しばらくは暑さに耐えられていたのですが……
「うっ。頭がくらっとしてきた……」
先程との寒暖差でしょうか。それに加えて、汗ばむような陽気から猛暑へと気温が上昇していっています。頂上まであと少しなのに……。
「こうなったらあの方法しかありません」
「何か策があるのか!」
「冷却シートを胡桃さんのお胸に貼って冷やせば、あるいは……!」
「真面目に考えて?」
「ですが慢性的な寒冷揉みルギー不足なのです。冷たくて柔らかいものを生み出すには、もはや胡桃さんのぷにふわお胸しか……ん?」
「さっきからお胸お胸って連呼しやがって……!」
まさか触られるのが嫌なのでしょうか……? 紅葉はただ女性の柔らかい体の感触を味わいたいだけなのに。
「柔らかそうなイメージが刷り込まれて食べたくなるだろーが……!」
「あ、そっちでしたか」
迂闊でした。胡桃さんのくるくる判定は食べ物以外にも適用されるのでしたね。理性を失った獣のような瞳が紅葉の胸へと向けられます。
「なるほど。これが本当の紅葉狩りというわけですね」
「言ってる場合か! ……あ、ダメだ。もう……! 我慢できないっ!」
「そんなこともあるかと思って、たまごアイスを冷やしておいたんだ」
「もう一回結婚して!!」
「百回だってするよ」
「oh……♡ おっぱいアイスなのです」
いつの間にか漁業でしか見たことのないサイズのクーラーボックスを携えた恋太郎さんが、キンキンに冷えた卵状のアイスを渡してくれました。最初はカチカチに凍っていたゴムが段々と柔らかくなっていって、これは中々……ほほう。
「おいっしいぃ〜!!♡」
ゴムの先端を切ってチューチュー吸う胡桃さんはまさにお胸を吸っているようでした。もっとも中身が一瞬で吸い込まれて、次々にアイスを手渡される様はどちらかと言えばわんこそばのようでしたが。
「おや。着きましたね」
そうこうしているうちに無事に頂上に到着しました。
「……良かったのかな。あたしはずっと幸せだったから、いいんだけど。こういうのってもっと、苦労してたどり着いた感とか……」
「確かに恋太郎さんのおかげで、思ったより楽に到着しましたね」
「なんらかの作為が彼女を脅かそうとするなら、俺はあらゆる想定をして対策してみせるよ」
「創作史上初の試み」
強い風こそ吹き荒れていましたが、多少肌寒いくらいで、これまでの道のりを乗り越えてきた紅葉たちにとっては苦ではありませんでした。すると胡桃さんが巻き上げられた落ち葉を掴み取りました。
「へへっ。
「……ふっ。かかりましたね」
「何が?」
「この世に紅葉として生を受けた人のイジられネタ堂々の一位なのです」
「あ……悪い。気に障ったか?」
「あ、いえ。そうではなくてですね。その……紅葉はこの世に紅葉として"生を受けた"人なのです」
「詩人みたいなこと言ってる」
「……何か言うことはないですか?」
恋太郎さんはさすがに気付いていると思うのですが、胡桃さんはやはり覚えていないのでしょうか……。
「いや、そんなことしなくても最初から分かってるよ。……誕生日おめでとう」
「おめでとうッッ!」
「……! その一言が聞きたかったのです」
他のファミリーは祝ってくれたのに同級生の胡桃さんからはなくて、さすがの紅葉も気にしていました。ペコデレでお腹が空いているうちは言い出せなかっただけなのですね。まったくもう。紛らわしいですね。
「全部口に出てんだよ」
「おや、失敬。誕生日だと気付かせたくて、回りくどいことをしたかまってちゃんみたいになってしまいました」
「それ以外の何者でもなかったけどな。……けどまあ。楽しかったよ」
「紅葉もなのです。欲を言えばお胸を揉み損ねましたが……」
「……お腹ならいいよ。今日だけな」
「うむ。くるしゅうないのです」
「ははっ、なんだよそれ」
しばらくは落ち葉にダイブして無防備になった胡桃さんのぷにふわお腹を堪能させていただきました。
「……それで、その。恋太郎先輩。……お願いしてもいいかな?」
「もちろん。こんなこともあるかと思って、サツマイモを持ってきたから」
「愛してる!!」
「俺も!!」
落ち葉を拾い集めて焼き芋を焼いてくれたのです。ホクホクでこれも中々いい揉み心地ですが……。
「むむ……ちょっぴりジェラシーなのです」
「もちろん紅葉ちゃんのことも銀河一愛してる!!」
「あ、はい。紅葉もなのです。んー……では恋太郎さん。今紅葉が欲しいものを四十文字以内でお答えください」
「『柔らかい感触は十分味わったので、マッサージの勉強のためにアトムを揉ませて欲しい!』」
「ジャスト四十文字」
「その答えを待っていたのです……!」
紅葉狩りの目的は誕生日を思い起こさせることだけではなかったのです。恋太郎さんの筋肉をアトムらせるためでもあったのです!
「両手に花なのです」
「普通恋太郎先輩のセリフだけどな」
恋太郎さんのアトムと胡桃さんのお胸を同時に堪能していると、一陣の風が吹き荒れて二人に楓の花が舞い落ちました。紅葉のためにアトムってくれる恋太郎さん、体をたまに揉ませてくれる胡桃さん。誕生日に大切な恋人とご友人とやりたいことをして過ごせるというのは、なんと素晴らしいのでしょう。
「どさくさに紛れて胸を触るな」
「焼き芋のおかわりなのです」
「おいっしぃぃ〜!!♡」
「ふふっ」
こうして紅葉は最高の誕生日プレゼントをいただいたのです。