よくよく見ていくと説明が足りてなさすぎるぞこの作品……
いらんと思ってパヴァーヌ1章切ったけどパヴァ2やるんなら1章いるんじゃないかなこれ……
あ、関係ないですけどユウカガチャ引いたらフユ来ました。ようこそ!!!
「装着よし。違和感は?」
「ありません。大丈夫ですよ」
私の両足と左手に、専用の器具が取り付けられた。ウタハがひとりで作り上げた、私専用の試作歩行支援器である。
ミレニアムサイエンススクール、フィットネスセンターの片隅。リハビリルームと呼ばれる、医療関係者も利用する場所。そこが、私達2人だけの試験場。
「左手の筋肉の動きを器具が感知して信号を送り、腰付近の脊髄に磁気刺激を与え、足に命令を伝達する仕組みになっている。まどろっこしいけど、これが限界だった」
「ひとりでこれだけのものを作り上げるのは、そう簡単なことはありませんよ。もっと誇ってもいいんじゃないですか?」
「……そういう事は、立つことができたら、かな」
緊張半分、決意半分の表情で、あなたは言った。
「…あなたが行なった試験では、どうでしたか?」
「ちゃんと動いたよ。あとは…ヒマリでどうかだ」
機器の試運転の結果も上々のようだった。ならば、ますます良い結果を出すしかなくなる。らしくなく、緊張が走る。
あなたが、車椅子の足置きから、私の足をそっと地面に下ろした。僅かに伝わる足のつっかえた感覚が、着地していることを知らせてくれた。
「…始めようか」
「……ええ。始めましょう」
今度こそ。
私の為に立つのではない。
あなたの情熱に応えたいから―――
――心の底からの笑顔が見たいから、立つのだ。
レポートなんて書く気にもなれなかった。いや、僅かな望みにかけて、書きたくないというのが本音だった。
ミレニアム本校敷地内の中庭には、植生物観察部が植林した植物が規則正しく盛んに生えていて、ミレニアム内では珍しく、自然を形成している。何でも、長い目で植生の移り変わりを見たいらしい。何年かかるんだ。
そんな途方もない、当代では不可能であろう事でさえ、彼女らは前向きだった。同じような事に取り組む私はご覧の通り。
「……昔は私も、空の向こうを目指したな」
私の心とは相反する、憎たらしいほど青い空を見上げた。空港を飛び立ったであろう一機の旅客機が、定規で引いたような飛行機雲を描いている。その向こうに積乱雲が見えた。夏が近い。
私の心はこんなに曇っているのに、何故空はこんなに青いのだろうか。と、どうしようもない感情を心の中にぶちまけた。それでも抑えきれず、小さく悪態を付く。
「どうしたよ、こんなとこでしけたツラしてさ」
「ひゃうっ」
「はは、隙だらけだぜ、おい」
不意に横から声を掛けられたと思ったら、首筋に何か冷たいものを当てられた。いきなりのことで、思わず間抜けな声が出る。
「あたしだよ」
「…ネルか、びっくりしたよ」
そこには制服姿のネルがいた。メイド服以外の姿は珍しい。
「ほら、やるよ」
「……いいの?」
「バァカ。いいんだ、あたしの奢りだよ。あたしが悩みありそうなヤツに金せびる人間に見えるか?」
「……じゃないね」
「だろ」
ネルはそう言うと、持っていた缶ジュースの1本を投げて寄越した。本人はプルタブを空けながら、私の隣に腰掛けた。
私もプルタブを空け、ぐいとひとくち。コーラの甘みと炭酸の刺激が喉を抜ける。ほんの少しだけ、心が爽やかになった。
「……なんかあったのか」
「……」
「言いたくねえなら言わなくていい。ただ…言ったほうが楽になることもあるぜ」
そう言うと、ネルも缶ジュースを呷った。勢いよく喉を鳴らしながらコーラを飲むその様は、CMにすればジュースがよく売れそうだ。
「…失敗したんだ」
「……ヒマリのやつか」
「うん……」
試験は失敗した。"現時点では"だが。
ヒマリは試験に意欲的だった。心なしか、気合いが入っているような気さえした。
私もそうだった。今回の新型歩行器には自信があった。私の身体を用いた試験でも、求める結果が出た。
今回こそは。そう、思っていた。
『……今日はもうやめておこう』
そう言い出したのは私だった。立位姿勢を維持しようと苦しむヒマリのことを、見ていられなくなったのだ。
立とうとして、尻もちをつく。
立とうとして、膝から崩れ落ちる。
また立とうとして、失敗する。
自らの腕の力で立位姿勢まで行ったとしても、それは所詮腕の力で成り立っている姿勢。すぐに重力に引かれ、倒れた。
痛々しかった。涙を浮かべ、歯を食いしばりながら立とうとしていた。己の身体に鞭を打ち、立とうとしていた。
『…ごめんなさい』
リハビリルームを出る直前、弱々しく、ヒマリは言った。その後、振り向くことなく部屋を出ていった。
後日、改めて試験を行う約束をしている。だから、"現時点では"失敗なのだ。
だが、今の私には、なんとなく結果は分かっていた。そして、それはヒマリも同じはずだった。
わかりきっている結果を得るために、ヒマリに負担を掛け、傷つける。そんなこと、したくない。
「…すまない、こんな事を話して……ネルには関係ないことなのに」
全て話した。楽になった気はしなかった。
「…楽になったか」
「いや」
「だろうよ…見りゃわかる。悪ぃな、無理言って」
そう言いながら、ネルは空き缶を、少し離れたゴミ箱に投げた。缶は見事な放物線を描き、軽快な音と共に中に入った。
「…で、どうしたいんだ、お前はさ」
「……どう、って」
「続けたいとか、辞めたいとか、色々」
ネルは空を見上げる。私も同じように見上げてみた。ジェット機が二機の戦闘機に追われていく。追う戦闘機の一機は片翼が赤、もう一機は両翼が青の機体。逃げているのは領空侵犯機だろうか。
「……続けたい。けど……怖いんだ」
「……」
「…ヒマリは、どう思ってるんだろう、って」
もしもそれが、私のエゴだったら。
もしもそれを、ヒマリが望んでいなかったら。
私はどう生きていけばいい。どうヒマリと接したらいい。
「……これは、私の……人生の一部みたいなもので…失うのが、とても怖いんだよ」
わかってる。これはエゴなんだ。
始まりだってそうだったんだ。あれは一方的な、私の宣言で始まった。
あの時は私に賛同してくれた。だが今はどうだ。
苦しい。
辛い。
――辞めたい。
もし、ヒマリがそう思っていたら?
「……個人が勝手なこと言うけどよ」
「……」
「聞いてみろよ。本人に」
上空では、二機の戦闘機と領空侵犯機がドッグファイトを繰り広げているようだった。飛行機雲が幾つもの弧を描き、複雑に絡んでいる。ここから少し距離があるのに、轟音がこちらにも響いてくる。
相変わらず連邦生徒会長失踪から治安が悪い。空は以前よりも悪い意味で自由になっていた。
「……でも」
「…怖いよな。そう、怖いんだよ。できねえのもわかってる」
「でも、本人から聞かねえと分かんねえよ」
そう言いながら、ネルは私の目を見た。情熱に燃えるオレンジの目だ。目つきは悪いが、その奥には確かな厚情を宿している。
「ヒマリのやつはきっと親身になって話してくれる。あいつは情に厚いやつだ、無碍にはしねえよ」
「……それで、求める答えが得られなかったら…?」
「……あたしが胸を貸してやる。死ぬほど泣けばいい」
「…」
「そういう問題じゃねえよな。…勝手なこと言った。ごめん」
「……いや、いいんだ」
「……ま、ハラ決まったら、一回話してみんのもテだぜ」
そう言うと、ネルは再び空を見上げた。その瞬間、領空侵犯機に空対空ミサイルが直撃。火を吹いて、市街地に落ちていった。
「…あ」
「げぇ、市街地に落ちやがった!」
「不味いのかい?」
「あたしらの仕事が増えんだよちくしょう!任務終わったばっかだってのに…!」
「あらら……大変だね、C&Cは」
ネルは立ち上がり、スマホで連絡を取ろうとしている。恐らくC&Cの他のメンバーだろう。
「…ねえ」
「あ?」
「……どうして、私の話を聞いてくれたんだい?…言い方は悪いが、君には関係のない話だろうに」
そう話すと、ネルはスマホを操作する手を止めた。そして、再び私の目を射抜く。
「…だって、ダチ、だし」
「…ダチ?」
「あたしん中じゃな、いっぺん殴り合ったやつは皆ダチなんだよ。この前やり合ったろ」
それに同い年だし、とネルは笑う。何時もの睨むような顔つきからは考えられない、少年のような笑みを讃えている。
「…直接はやってないけどね」
「いいんだよ細かいことは!あたしとお前はダチ!OK!?」
「…はは。ああ」
「よしっ!じゃああたし行くわ!」
そう言うと、ネルはミレニアムタワーの方へ走っていく。
「ネル!!」
その背に向けて、私は声を掛ける。待ってくれ、と言おうとしたのかもしれない。なんだか、ひとりは寂しかった。それをぐっと飲み込んで、叫ぶ。
「ありがとう!!」
ネルは振り返らず、ひらりと手を振り返した。
相変わらず心模様は曇ったまま。だが、少しだけ光が差したような、そんな気がした。
ネルが去ったあと、私は空になった缶を、ネルに倣ってゴミ箱へ投げてみた。
缶は縁に当たって、ゴミ箱の外へ落ちた。私はそれを拾って、改めてゴミ箱に捨てた。
「…そう簡単にハラは決められないなぁ」
情けないなと思いながら、いつか話さねばならないだろう、と、ひとり思いながら、後日の歩行試験の用意を始めるべく、帰路についた。
「部長、元気ないね」
和泉元エイミからの問いかけに、私は答えなかった。机に突っ伏したまま、動けないでいる。
「…何か飲む?」
「……温かいお茶を…」
「梅こぶ茶でいい?」
エイミからの問いに、少しだけ頷くことで答える。エイミはそれに何も言わず、ケトルを使ってお湯の用意を始めた。
こぽこぽとお湯が沸く音が聞こえてくる。時折、熱い、というエイミの声も聞こえる。冷房が効いているというのに、彼女の身体は難儀なものだ。
「…はい部長」
「……どうも」
「…ハンカチ、いる?」
「要りません。泣いてませんよ…」
「…泣いてるかなんて聞いてないよ、部長」
顔を上げて、傍に置かれたお茶をひとくち啜る。梅干しの爽やかな酸味と昆布の深い味がじんわりと口の中に広がる。心まで温めてくれるようだった。思わず、息が漏れる。
湯呑みを机に置く。直ぐ側にエイミのハンカチがあった。
歩行試験は失敗した。私は立てなかった。どれだけ足に力を込めようと、どれだけ歩行器に信号を送ろうと、地に立つことは叶わなかった。
『……今日はもうやめておこう』
ウタハがそう言ったとき、私は、転倒したときより心が痛んだ。表情は影になってよく見えなかったが、おおよそ明るいものではなかったはずだ。
『……まだ、やれます。私のことは――』
『…駄目だ。ヒマリの身体に負担が掛かりすぎる。…やめておこう』
結局、私の要望は却下され、今日の所は終わりということになった。
―――悔しかった。今日こそはと臨んだ歩行試験だった。
ほぼ不可能な、無謀な挑戦であることは重々承知。だが、ウタハの為にも立ち上がってやりたかった。
部屋を出る直前、横目でウタハの様子を見た。気落ちしているとか、そういうレベルではなかった。
悲痛。そういう表情。
『…ごめんなさい』
思わず口を衝いた言葉だった。
振り返るのが怖かった。どんな顔をしているのか、確認するのが怖かった。だからそのまま部屋を後にし、逃げるように部室までやってきたのだ。特異現象捜査部。私達が今いる、この部屋に。
「…何かあった?」
エイミからの問いに、答えるべきか逡巡した。これはウタハ、ひいては私の問題だ。言い方は悪いが、エイミには関係のないことだ。
それに、特異現象捜査部は目下行動中。余計な事で気を使わせたくなかった。そう考えている当人がこの様子では、と自嘲気味にも思うが。
「…例えば、ものすごく悩んでいる、大切な友人がいるとしますね」
迷った末、少しだけ話すことにした。それも、少しぼかしながらではあるが。
「その人は真面目に、一生懸命に頑張っているんです。…でも結果が出ない」
「うん」
「…そうして、時が経つにつれて、見ればわかるほど追い詰められていっている」
海岸で見た鬼気迫る表情と、リハビリルームで見たあの表情。間違いなく、彼女はこの一年と少しの間に追い詰められつつある。最近では、専ら笑うところを見ていない気さえする。
「…その、追い詰められている原因が……自分自身であるとするなら、エイミは、どうしますか」
エイミは黙り込んで、少し考えるような素振りを見せる。目線が少しだけ、宙に逸れていた。
暫しの沈黙の後、エイミは言う。
「一番効率的なのは…その人から離れる事じゃない?」
エイミの発言に返答しようとして、それが詰まった。私の中で、それは一番したくない選択だったからだ。
「……離、れ」
「…だって、原因は自分自身なんだから。それで解決するでしょ?」
いつもの調子でエイミは続けた。呆気に取られる私を横目に、氷と麦茶の入ったコップを呷っている。机に置く瞬間、がらり、と氷が音を鳴らした。
「……」
「……」
またしても、沈黙。先程よりも重たい沈黙。クーラーの駆動音と時計の音だけが、部屋に響いている。
「……でも、部長はそうしたくないんだよね」
先に口を開いたのはエイミ。
「……」
「部長って案外分かりやすいね。…"大切"なんでしょ」
「…はい」
そう、大切なのだ。彼女の夢が私を立たせることなら、私の夢はそれが叶うことなのだ。
私が彼女を苦しめているのなら、私から彼女の傍を離れればいい。でも、それだけは嫌なのだと、心が喚いている。
苦楽を共にした友人だから。
情熱をぶつけてくれるから。
私を大切にしてくれるから。
本気でそう思っている。だが、ウタハがどうかは分からない。
友人で居て欲しい。
情熱をぶつけ合いたい。
私を大切にしてほしい。
「なら、今の関係を大切にしたらいいと思う」
「……エイミ」
「わかるよ。今のままじゃ、って思う気持ち。なら、少しだけ接し方を変えればいい」
接し方を変える。
「…どんな風にですか」
「どんな風にでも。何処かに出掛けてみたり、好きなものの話をしたり。何でもいいと思う」
「……」
「…ねえ、部長」
「部長はさ、その友達の好きなもの、知ってるの?」
―――よく、知らない。
振り返ればそうだった。私達は、試験に関することばかり話して、私達の話をしたことがなかった。
私はウタハのことを知らない。彼女も、私のことをよく知らない。
「…私は部長より長く生きてないし、分からないことも部長に比べたら多いよ。だから、差し出がましいかもしれないけどさ」
「そういう小さい所から始めてみなよ」
俯き気味だった顔を、少しだけ上げる。真っすぐこちらを見つめるエイミと目が合った。
―――よくもまあ、私のライバルは頼れる後輩を充てがってくれたものだ、と思う。きっとこうなることもお見通しだったはずだ。憎たらしいほどお見通しで、何考えてるか分からなくて、それでいて私をよく理解してくれている。
「…今日初めて目が合ったよ、部長」
口元に少しだけ笑みを浮かべながら、エイミは言った。
「…お気遣いありがとうございます、エイミ。……少し元気になりました」
「…そっか」
「…またこういう機会があれば、頼ってもいいですか?」
「私の手が空いてたらね」
「む、いじわる」
そう言いながらわざとらしくむくれてみると、何それ、と言いながら、再びエイミが笑った。私もなんだか可笑しくなって、控えめに笑った。
その時だった。部室に備えられたスピーカーから、館内放送が流れた。
『明星ヒマリさん、調月リオ会長がお呼びです。至急――』
「…お呼ばれだね」
「……気が乗りませんが、行くしか無さそうですね」
調月リオ――ミレニアムの生徒会長であり、私のライバルが、私を名指しで呼び出した。こういう時は大抵ろくなことにならない。
「ついていこうか?」
「いえ、どうせ二人だけで話が、とか言い始めますから。大丈夫ですよ」
「そっか。気を付けてね」
「はい。…ありがとうございます」
「ふふ。どういたしまして、部長」
エイミに見送られて部屋を出た。
今はリオとの話より、ウタハとの今後についてが楽しみだった。
「…はぁ」
ミレニアム本校舎内、生徒会長室。そのデスクに腰掛けている調月リオはため息をついた。
理由は今見ているデータ。つい数週間前に起こった、ゲーム開発部が起こした騒動と、その後の戦闘で美甘ネルが取ってきたデータだった。
「……予想通り、といったほうが良さそうね」
データに書かれているのは、つい最近ゲーム開発部に入部したと見られる転入生――天童アリスについて。
生徒情報上では、他校からの編入ということになっている。皆はそれを信じているが、キヴォトスに蔓延るオーパーツ等を調査していたリオにとって、それは全くの欺瞞といって良かった。
―――世界に破滅を齎す存在。それが、リオがアリスに下した評価。
否定したい気持ちもある。だが、目の前にあるデータが、そうであると無機質に告げている。
ウタハの発明品である200kgのレールガンを持ち上げる腕力。
実戦経験豊富なC&Cと渡り合う戦闘センス。
エンジニア部の調査によって判明した、人ではなく、ガイノイドであるという存在。
間違いなく、今まで調査を進めてきたオーパーツのそれであったのだ。
「…ヒマリはああ言ってたけれど……」
ヒマリは、アリスを可愛い後輩だと評価した。
否定はしない。ミレニアム編入から見てきたことだが、彼女は間違いなく"善"寄りの存在なのだ。
だが、彼女がこの世界の敵であることにかわりはない。今、ミレニアムは起爆寸前の爆弾を抱えているのと変わりない状況にあるのだ。
もしも、いい人のふりをしているだけだったら。
もしも、力を制御できず、暴走したら。
どうなるか。
キヴォトスは終わりだ。
「リオ様」
いつの間にか、私の手助けをしてくれているメイド――誰も知らないC&Cの5人目、飛鳥馬トキが部屋の中にいた。
「…何かあったのかしら」
「はい。ヴェリタスの部室が吹き飛びました」
「……人的被害は?」
「1年生2名が負傷。1人は意識不明、1人は軽傷です」
「原因は?」
「
想定していた最悪の事態が起きた。爆弾が爆発したのだ。
こうなってしまった以上、私は行動を起こさざるを得ない。キヴォトスを守るために、ミレニアムを守るために―――
―――天童アリスを殺さなければならない。
「……分かったわ。…始めましょう」
「はい。先導します、こちらへ」
そう言うと、トキは部屋の扉を開けた。電気の消えた廊下が伸びている。
手を汚すのは私だけでいい。1人が死に、もう1人が手を汚すことで世界を救えるのだ。これほど合理的なことはない。
だが、そう考えても尚、私の心のざわめきは収まらなかった。
キヴォトスに於いて、1人1人の死は重い。世界を救うためという大義名分があって尚、大きな忌避感がのしかかる。できることならば―――
「……トキ」
「はい、なんでしょうか」
「……どうすれば、彼女を殺さずに済むかしら」
問いかけると、トキは表情を崩さず、しかし少し困惑したようだった。
「…ごめんなさい。変なことを聞いたわね」
「……」
「……貴方も手を汚すことになるわ。嫌なら、今からでも降りていいのよ」
そう言って、部屋を出ようとした。するとその時、トキが口を開いた。
「…
「…トキ」
「私は」
「リオ様がどのような決断をしても、着いていきたいと思っています」
真っすぐな、濁りのない青の瞳のまま、彼女は言った。私はそれに答えることができず、黙ったまま、心に針が刺さるような痛みを覚えていた。トキの発言は、たとえ手を汚すことになっても、という決意表明だったからだ。
―――これは、私1人でやらなければならないのに。
「…行きましょう」
「ええ。…私は明星ヒマリを確保してきます」
「お願い。…後戻りはできないわよ」
「もとよりそのつもりです」
ウタハには悪いが、
らしくなく合理と感情の合間で揺れながら部屋を出た。廊下は何時もより冷たく、何時もより暗く感じた。
―――翌日。ヒマリはリハビリルームに来なかった。
モモトークに通知が何件か届いている。
『ヴェリタスの部室が吹き飛んだ』
『アリスちゃんが急にレールガンを撃った』
『マキとモモイが怪我をした』
『アリスちゃんが会長に連れて行かれた。行方は分からない』
「……嫌に、なったのかな」
誰かが怪我をして、誰かの居場所が吹き飛んで、誰かの大切な人が連れて行かれているというのに―――
「…ヒマリ……何で来てくれないんだい……?」
―――自分達の事しか考えられない私がいる。その事実に、心底吐き気がした。
戦闘機の描写は治安悪いよねってだけです。
そもそも存在するのかって話ですが、最終編後のシャーレ復旧イベのスチルで後ろのほうに固定翼機が飛んでるっぽいので、このキヴォトスではあることにしておきます。
お気に入りとか感想とか高評価入れてくれるとモチベにもなるしものすごいありがたいので何卒〜