無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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一年生
入学式


 バイトがしたいと相談した所、古瀬は雄英から雄英高校の警備のバイトを勧められる。

 

「あそこに警備なんて必要なのかね。まあ、変な所に行くよりはってことかな?」

 

 わざわざ高校生をあの場所の警備員として雇うという所に、何か意図のようなものを感じる。プロヒーローが沢山いるのに、警備が必要だと思うのだろうか。

 

 仕事内容は見回りなので、そういった物も必要なのかもしれないと古瀬は思った。

 

 バイト時間は夜の六時から九時。バイト代はそれなりに高い。

 

「訓練施設の使用に申請とかって必要なんですか? あるなら、出し方とかって教えてもらえますか? いつから使えますか?」

 

 などを雄英高校で聞いて、古瀬は帰る。

 

 安いアパートを借りて、古瀬は現在はそこに住んでいる。寮があったら入ろうかと思っていたが、そんな物は無かった。

 

「途中で全寮制になるのになあ」

 

 仕方がないので安アパートを借りることにした。どうせ全寮制になるのだからと、契約の仕方には気を付けた。

 

 

 

 入学初日、古瀬は自分がB組であることを確認する。

 

 所詮自分なんて、主役にはなれないモブってことかな。と、そのクラス分けを見て古瀬は斜に構える。

 

 どちらがいい、などと考えていたわけではない。それまではとにかく、受かればいいという認識だった。クラス分けというものを始めて認識したのはこの時である。

 

「おはようございます」

 

 古瀬は勢いよく戸を開ける。中にはすでに半分くらい生徒がいた。

 

 前世の記憶の中に、B組に関する記憶はほぼ無く、知っているのは物間と拳藤くらい。その内、拳藤の方は個性を詳しく知らない。

 

 後は、体育祭でツルを使って戦う生徒がいたという記憶もある。

 

 今教室にいるのは、物間はいないが、拳藤はいる。話しかけてみるか、それとも自己紹介まで待つか。

 

 取り敢えず、近い人間に話しかけてみようか、と古瀬は思った。

 

「こんにちは。僕は古瀬井梨。君は?」

 

「俺か? 俺は」

 

「角取ポニーです。Nice to meet you」

 

「いや、俺に話しかけてただろ。えっ、俺だよな!?」

 

 頭に角がある少女、角取ポニーが古瀬と握手する。古瀬はその行動に苦笑する。もう一人の少年、回原旋はその状況に困惑していた。

 

「ふーん。ヒーロー科っていうからどんなものかと思ったけど、案外大したことなさそうだね」

 

「なんだお前は!!」

 

 うわ出た、と古瀬は心の内で思った。物間寧人の発言に、鉄哲徹鐵が反応する。

 

「君たちは大したこと無さそうって言ったんですけど!?」

 

「何だこいつ」

 

 そうこう話していると、担任のブラドキングが教室に入ってくる。入学式があるため向かうようにとのことだった。

 

「さっきは言いそびれたが、回原旋だ」

 

「古瀬井梨です。よろしく」

 

 握手を交わして、彼らは入学式へと向かう。隣の教室、A組クラスを見ると、既に誰もいなかった。

 

 入学式には全校生徒が集まっていた。なお、A組生徒は全員不参加である。

 

「A組がいない!?」

 

 A組は現在、個性把握テスト中。古瀬はこの事を知ってはいたが、実際にこの光景を見ると驚愕する。

 

 出席者からすると、何かあったのか、なぜいないのか、と中々に不安になる。誰も座っていない、椅子だけが並んでいる光景は中々にホラーチックであった。

 

「誰もいない。怖」

 

 そう言ったのは、柳レイ子であった。彼女は怖い話が好きで、興味深そうに見ていた。

 

 恙無く、恙無く? 入学式が執り行われる。多少、この校特有のノリはあったが、特に何事もなく終わった。

 

 その後は教室に戻って、各自の自己紹介が行われる。ちなみにこの世界のB組の人数は原作通りの二十人、原作と違い、吹出漫我がいない。

 

 拳藤の自己紹介が終わり、古瀬の番になる。

 

「古瀬井梨です。個性はありません。無個性です。僕みたいな人間が雄英に入学できるだなんて、とてつもない幸運だと思うよ。至らぬ点はあるかもしれないけど、できるだけ頑張るつもりなので、よろしくお願いします」

 

 古瀬は昔のバイト先の影響でちょっとガラが悪くなっていたので、高校デビューに合わせてキャラ変しようと思った。

 

 そのキャラ作りの参考にしたのが、ダンガンロンパ2の狛枝凪斗である。

 

 周りは少し引き気味だったが、軽く拍手をして受け入れる。自己紹介は次の生徒へと移った。

 

 その次の休み時間、物間が古瀬に絡んでくる。

 

「君は無個性なんだって? 無個性の君がどうやって試験を突破したのか、後学のために教えてくれないかな。せいぜい僕たちの足を引っ張らないでくれよ?」

 

 拳藤が「物間!」と呼びかけるが、どちらにも特に動揺は無かった。

 

「そうだね。僕みたいな人間が君たちと対等だなんて、烏滸がましいと思うよ。せめて君たちの力にはなれなくても、糧になれるように努力するよ」

 

 ちなみに、笑顔で言ったこの発言は周りをドン引きさせる。その様子を見て、古瀬は程々にしておいた方がいいなと思った。

 

 

 

 その後、グラウンドで個性把握テストが行われる。内容は、ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈の八つ。

 

「さーて、どうしたものかな」

 

 Aクラスであれば、気を使いつつ、中間辺りの順位を狙うつもりであった。しかし除籍が無いBクラスであれば、それを行う理由も無い。

 

 古瀬としては物語において、矢面に立つつもりが無かった。話を盛り上げるために、おそらく後半は目茶苦茶なバトルが繰り広げられるであろうと予想されるのに、わざわざそれに関わりたいとは思わなかった。

 

 怖いのではない。興味が無いのだ。古瀬の目的はあくまでヒーローになって無個性だって無力ではない示す事であって、原作の問題を解決する事ではない。

 

 原作主人公たちが頑張っているのを、後ろから見ているつもりであった。終盤がどのような物かは分からないが、大方最終決戦をやって敵を倒して終わりだろう、というのが古瀬の予想であった。

 

 どうせ自分がいなくても主人公が倒してくれるのに、わざわざ危険な相手、おそらくラスボスであろう死柄木弔かオール・フォー・ワンを相手に、戦うつもりなんて無かった。

 

 何もしなくても解決するなら、戦って死にたく無かった。死の恐怖を感じているわけではない。目的を達成できない事が嫌だった。絶対に嫌なわけではないが、少なくともこの戦いで賭けるチップではない。

 

 弱いように見せかければ、戦わなくていいのでは? そんな風に思いついて、古瀬はどうするか考えこんでいた。

 

 Aクラスであれば除籍がかかるため、ある程度、身体能力の底上げを行うつもりだったが、そうでないならば使う必要も無いのではないだろうか。

 

 あるいは、B組に所属した時点でモブみたいなもので、寧ろどれだけ力を使っても問題無いのだろうか。

 

「おやおやあ? 無個性には厳しい内容かなあ?」

 

「そうだね。こんな僕が才能の塊みたいな君たちと張り合おうなんて烏滸がましいのかもしれない。ちっぽけな力だけど、精一杯頑張らせてもらうよ」

 

 周りの目も、無個性には厳しいだろうという感じだった。そこまで言うなら無個性でやってやるよ、という体を取ることにした。

 

 流石に何の理由も無く気を使わないというのは不自然である。ほぼ怒ってはいないが、彼らがそう思っているのであれば、それを利用することにした。

 

 古瀬は自分が使ういくつかの技術について、周りが知らない事に気付いた。それならしばらくは、それらを使わずに潜伏しようかと思った。

 

 というわけで個性把握テストの結果は、古瀬は二十人中十九位だった。最下位ではない事に、彼はむしろ驚愕する。

 

 ちなみに最下位は小森希乃子。逆に一位は物間。このルールだと周りの個性を取り放題だったため、無双していた。

 

 物間の個性はコピー、触れた相手の個性を一定時間使うことができる。数に上限があるかは不明、時間内であれば複数の個性を使用可能。

 

「あれれー? 全然結果を残せてない人がいるなあ?」

 

 ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、それをやったら何のために普通に体力測定をやったのかが分からない。怒りを抑えつつ、古瀬はキャラを演じる。

 

「不甲斐ない限りだよ。物間君はすごいね。いくつもの個性を使えるんだ」

 

 物間は得意げに笑う。長々と自分の個性について話し始めた。

 

「これはあくまで今の結果だ。記録を残せなかった者も、明日からが本番だと思え!」

 

「「「はい!!」」」

 

 物間を置いて授業が終わる。彼らは着替えて、教室へと戻った。

 

 

 

 放課後、せっかくだし誰かを遊びに誘ってみようかと思い、古瀬は鎌切尖に声を掛ける。

 

「鎌切君だっけ? 暇だったらどこかに遊びに行かない?」

 

「これから訓練だぜェ……悪いが他の奴を誘って欲しいのぜェ……」

 

「やっぱりみんな訓練するのかな。僕も、訓練施設の使用許可を取ってるんだよね」

 

「ならそっちに行くのぜェ……なぜ誘ったのぜェ……」

 

「だって、みんなが遊びに行く中、一人だけ訓練してるって悲しくならない?」

 

「気持ちは分かるのぜェ……」

 

 鎌切に断られたため、古瀬は借りた武道場に向かうことにした。その途中で、A組の尾白に遭遇する。

 

 尾白猿夫、個性は尻尾。尻尾が生えているだけというシンプルな個性である。本人は格闘家の家系の出身。

 

「君は、尾白君だっけ? こんな所で何をしているんだい?」

 

「えっと、君は……」

 

「B組の古瀬だよ。会うのは初めてだから、知らなくても無理ないけどね」

 

 一年生の顔と名前は全員頭に入れている、と言って古瀬は軽く笑う。嘘ではない。ただしB組の名前を知ったのは今日である。

 

「特に何かしていたわけではないけど」

 

「そうなんだ。暇ならちょっと、模擬戦をやってみない?」

 

「模擬戦を?」

 

「他の雄英生がどんな実力なのか、一度戦ってみたいと思っていたところなんだ」

 

 尾白の戦い方は近接格闘、今の自分の実力がどの程度のものなのか、確かめるのに丁度いい相手だと古瀬は思った。

 

「いいよ。どこかいい場所はある?」

 

「武道場の使用許可を取っているから、そこでやろう」

 

 なお、A組はこの翌日に戦闘訓練がある。怪我をしてもリカバリーガールに治してもらえるが、どちらも知らないからこんなことを言っている。

 

 古瀬は、戦闘訓練があることは知っているが、その日数までは流石に知らなかった。もっと一週間くらい後だと思っていた。

 

 

 

 武道場に移動した古瀬と尾白は体操服に着替える。簡単な準備運動をした後に、向かい合って対峙する。

 

「それじゃあ準備はいい?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

「止める人間がいないから、軽い手合わせにしよう。それじゃあ、本気で行かせてもらう」

 

 個性把握テストとは違い、今回古瀬は本気で戦うつもりだった。気の使用あり、性質変換あり、ただし危険なため二重の極みは無し。

 

 古瀬は尾白に一瞬で近づく。軽く腹部、胸部を突いて、足を払う。

 

 尾白は転倒するが、すぐに反撃に転じてくる。尻尾を活かした攻撃に防御、さらに高所から尻尾を振り下ろしてくる。

 

 かなりの威力で床に敷かれていた畳が吹き飛ぶ。シンプルな個性だが、雄英に入れるだけあって実力は高い。

 

 古瀬は相手の攻撃を受け流し、尻尾を掴んで壁に投げる。動きを把握した後は、全ての攻撃を受け流し、ただ投げるだけの作業になった。

 

「なるほど。これが雄英生か」

 

 尾白は息を切らしながら立ち上がる。対して古瀬は全く息が乱れていない。

 

「一度休憩にする?」

 

「まだやれるよ」

 

「そう。それじゃあ続けようか」

 

 周囲から攻撃を行う尾白に対して、古瀬はほとんど動いていない。

 

「それにしても、思った以上の強さだね」

 

「この状況で言われても、嫌味にしか聞こえないな」

 

「嫌味じゃないさ。正直、まさかここまでやるだなんて思っていなかった」

 

 当初は尻尾をただ振り回すだけかと思っていたが、思った以上に威力が高く、古瀬は驚いた。原作で簡単にやられるキャラだからと、無礼ていた感は拭えない。

 

 となると、今の自分じゃ雄英生上位には届かない感じか。少なくとも、ワン・フォー・オールに勝てるヴィジョンは浮かばなかった。

 

 これは修行が必要だな、と古瀬は思った。模擬戦を続けるが、尾白に状況を覆すことはできなかった。

 

 

 

 模擬戦が終わった後、古瀬は尾白に、訓練に協力して欲しい、と頼む。

 

「今、相手の気の流れを読む訓練をしているんだ」

 

 これまでは気を察知する際、人を灯のようにしか感知できていなかった。しかしその技術が習熟するにつれて、近くの灯を人の形として認識できるようになった。

 

「より正確に相手の気を感知できるようになる訓練。いうなれば心眼かな。目を閉じていても、相手の動きが分かるようになりたいんだ」

 

 気の探知で相手の動きが分かるようにはなったが、それが実戦で使えるかどうかはまだ分からない。しかし練習には相手が必要だった。

 

「僕は目隠しして戦うから、その相手をして欲しいんだ」

 

「それは分かったけど、本当に大丈夫なのかい?」

 

「やってみれば分かるさ。まだ完全じゃないから、お手柔らかにお願いするよ」

 

 古瀬は目の前の気の塊の動きに合わせて、攻撃を防ぐ。未だ不完全な人の形ながら、ある程度動きを察知することができた。

 

 先程のように、完全に動きを見切った動きではなく、かなりいい勝負をする。攻撃を受け流すのではなく受け止め、怪我しないように転がすのではなく拳を撃ち返す。

 

 少しずつ相手の気の流れが鮮明になり、感知が上達していくのを感じる。

 

「ここまでにしよう」

 

 ある程度の時間が経ち、古瀬はアイマスクを外してそう言う。時計を見ると、もうすぐバイトの時間だった。

 

「今日はありがとう。助かったよ」

 

「いや、そんな。こちらこそいい訓練になったよ」

 

 それじゃあ、と言って古瀬は尾白と分かれる。荷物を持って、警備室へと向かった。

 

 

 

 警備室に向かうと、そこには警備主任が待っていた。

 

「貴様にはこれから、各施設の見回りを行ってもらう」

 

「サー、イエッサー!」

 

「声が小さい!」

 

「サー、イエッサー!!!!」

 

 主任は満足したのかゆっくり頷く。その後、雄英の地図を広げて片端から片端までなぞる。

 

「貴様にはこれより、全ての施設の安全確認、見回り、点検を行ってもらう」

 

「サー、イエッサー!!!! サー、全ての施設ですか、サー! えっ、全部って広い、広くないですか?」

 

 雄英の敷地は広く、一部施設へはバスを使って移動する。また夜間の警備は、普通はロボットが行っている。

 

「全てだ。全ての施設の確認、見回り、点検を行え。返事はどうした!」

 

「サー、イエッサー!!!!」

 

 古瀬が警備のバイトをやると言ったのは、楽そうだと思ったからである。授業や午後の自主訓練などでオーバーワーク気味になっても、警備のバイトなら歩いて回るだけだから楽でいいよね、と思ったからである。

 

 既にこの時点で、古瀬は警備のバイトをやると言った事を後悔し始めていた。

 

 気による身体能力の強化によって、長距離を跳躍しながら、古瀬は各種施設の安全確認を行う。

 

「次はUSJか」

 

 USJ、いつかは不明だが、ヴィランたちが襲撃してくる場所。しかし古瀬はB組のため、その事件には関わらない。

 

 その場に居ない以上、特にやることは無い。逃げ道の確保や戦闘の対策、そう言った事が全く必要のない案件だった。

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