古瀬が早朝に学校で訓練をしていると、拳藤が登校してきていることに気付いた。
「あれ、拳藤さん早いね」
「古瀬の方こそ早いじゃん」
「僕は一番早くに来て一番遅く帰るくらいじゃないと、他の人に追いつけないから」
古瀬は一緒に訓練しないかと誘い、拳藤はいいよと返事をする。
「拳藤さんの個性は何だっけ。拳を大きくする、体の一部を大きくする個性?」
「それならよかったんだけどね。大きくできるのは拳だけ」
拳藤の個性は大拳、両拳を巨大化させることができる。小柄な人を包み込み、金属製の盾を破壊することも可能。
「この世界の金属脆くない? 違うなら人の体が硬すぎない?」
「突然どうしたの?」
もう人の体で武器を作れよ。死柄木弔は正しかった?
「いや、鍛えたら強くなりそうな個性だなと。僕だと拳藤さんの相手をするのは結構面倒そうだなと思って」
拳が届く範囲、中距離はどうしても不利になる。となればより接近するか、距離を取って攻撃することになるが、本人に機動力があるため距離を取るのが難しい。
そう言うと、地面に倒れている拳藤は起き上がって顔を引きつらせる。
「さっきから一撃も入れられていないんだけど!?」
「それは単に、今はまだ実力差があるから。この先、必殺技とか覚えたら僕みたいなタイプだと相手をするのは難しいと思うよ」
「そこは自分が、とは言わないのね」
「僕も成長するかもしれないから。でも今の僕くらいなら、簡単に越えられると思うよ」
拳藤は攻撃を当てても、その勢いを利用して投げられる。掴もうとしても同様であり、そうなると頼るのは大技で、その動きは非常に読みやすかった。
「大技の欠点は隙の大きさ、そして位置取りの難しさ。でも今の拳藤さんに必殺技と呼べるほどの威力は無い。となると後は腕を振り回すくらいで……」
古瀬は拳藤の腕を掴み、後ろに捻り上げて拘束する。
「僕相手だとこうなる」
古瀬は腕を放して、拳藤から離れる。
「素人の考え方だから、あまり真に受けないでね」
最初、拳藤は古瀬の面倒を見てやろうかくらいのつもりだった。しかし全く歯が立たず、自己嫌悪で落ち込む。
「はい、落ち込むのは終わり! もう一回行くよ!」
拳藤は勢いよく立ち上がる。古瀬は拳藤と格闘訓練を行った。
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
オールマイトが教室に入ってくる。
「早速だが今日はこれ!! 戦闘訓練!!! そしてそいつに伴ってこちら!!! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた……戦闘服!!!」
B組生徒はコスチュームに着替える。古瀬のコスチュームの特徴は、青いバーカーにガスマスクとゴーグルである。
「よっしゃ! やってやるぜ!」
「要望ってなんて書いて出した?」
「普通の服」
全員がグラウンドに集合する。あっちはあんな感じなのかと、古瀬は出てきたB組の女性陣を見る。
「おいおい、見すぎだぞ」
「えっ、そういうつもりで見ていたわけじゃないんだけど」
「誰を見てたんだ?」
「うーん……」
そう聞かれて、古瀬は女性陣の顔と体つきを一人ずつ見ていく。しいて言えば、拳藤かなと思った。
「止めたまえ! 女性をそのような目で見るのは恥ずべき行為だ!」
庄田の大声によって、全員の視線が古瀬へと向く。ちょっとした揶揄いのつもりだった回原は、周りに否定しようとする。見ていたのは事実なので、自分がこのクラスの峰田枠かと古瀬は諦めた。
オールマイトが咳払いをする。
「これから君たちには、屋内での対人戦等訓練を行ってもらう!」
オールマイトから、屋内での方がヴィラン出現率は高いことが説明される。
「君らにはこれから、ヴィラン組とヒーロー組に分かれて、二対二の屋内戦を行ってもらう!!」
設定は、ヴィランがアジトに核兵器を隠しており、ヒーローはそれを処理しようとしているというもの。
ヒーロー側の勝利条件は、制限時間以内にヴィランを捕まえるか、ハリボテの核を確保すること。
ヴィラン側の勝利条件は、制限時間まで核を守るか、ヒーローを捕まえること。
「コンビ及び対戦相手は、くじだ!」
古瀬の相方は、小森希乃子に決まる。
「最下位コンビだ」
古瀬も全く同じことを思ったが、先に周りに言われた。加えて、先程の行為のせいで凄く関わりにくかった。
「小森さんだっけ。今回はよろしく」
臆していても仕方がないので、古瀬は声を掛ける。相手はものすごく臆していた。
「よろキノコ」
「随分と元気がないね」
「もうおしまいだ。せっかく雄英に受かったのに、個性テストでは無個性に負けて、今度は最下位コンビノコ」
「そうだね。笑っちゃうね」
「笑ってる場合じゃない! こうなったら絶対勝ちを取りに行くノコ!」
「プラスウルトラってやつだね」
古瀬と小森の試合は四番目、対戦相手は泡瀬洋雪と円場硬成であった。
試合開始前に、古瀬と小森はどのように動くか話し合う。
「小森さんはどう動くべきだと思う?」
「キノコが二人を引き付けるから、古瀬はその隙に核を奪取して」
「分かった。泡瀬君の個性が溶接で、円場君の個性が空気凝固だったっけ」
溶接、触れた物同士を分子レベルで結合できる。生き物にも無機物にも使える。ただし結合させたい物同士が触れていないと発動しない。
空気凝固、吹き出した空気を固めて透明な壁を作る。肺活量に応じて大きさが決まり、強い力を加えると割れる。
「溶接で部屋を塞がれたら小森さんの胞子が届かないし、空気凝固で核の周りに壁を作られたら厄介だね」
「そうなったら穴を開けてキノコ攻めにしてやる」
「……そうだね。今回は小森さんの指示に従うよ。僕は個性がどういうものなのか、理解しているとは言い難いからね」
古瀬としては、勝つつもりではあるが、勝敗に興味は無かった。負けても除籍されるわけではないため、気などは使わないつもりでいた。
屋内対人戦闘訓練が始まる。小森は一階の探索、古瀬は上の階へと、それぞれ分かれて行動する。
古瀬は気を探って、ヴィランチームの位置を特定する。気の探知は見ていても分からないだろうと思い使った。
ヴィランチームは二人とも最上階にいる。同じ位置という事は、ここが核のある場所なのだろうと考える。
外に出て、窓から窓へと飛び移って移動する。ヴィランチームがいる部屋の窓の外から、中の様子を窺う。
「ヴィランチームを発見。場所は最上階、階段を上ってすぐの部屋。陽動し次第突入可能」
古瀬は通信で小森に知らせる。突入する際に恐いのは、窓が溶接されている場合と、核の周りの空気が固まっている場合。
蹴破れば当然バレるし、かといって他に方法も思いつかない。その場合は、戦闘に突入した方がまた勝ち目があるかもしれないと古瀬は思った。
二人が階段の方へと近寄っていく。どうやら小森が来たらしい。ドアを開けており、空気凝固で壁を作っているようだった。
古瀬は窓を蹴り破って中へと突入する。そして即座に核の確保に向かった。
「円場、核を守れ!」
円場が核の周りの空気を固めるが、固めた空気にキノコが生える。
「キノコまみれになるノコ!」
固まっている空気が見えたことで、核までの最短経路が分かる。円場と泡瀬の位置が重なるように移動しつつ、固まった空気を破壊して、古瀬は核を確保する。
「ヒーローチーム、WIIIIIN!」
勝利のアナウンスが流れる。古瀬は近くにいた小森とハイタッチする。
その後、彼らは戻ってオールマイトの講評を聞く。それから五試合目が行われ、授業が終わった。
放課後、古瀬は職員室へと向かっていた。
「まさか勝てるとはな」
古瀬は勝つつもりではあったが、気の使用無しに本当に勝てるとは思わなかった。まだ入学したてで、個性の強度が弱かったためだろうと考える。
「セメントス先生はいますか?」
「はいはい、何かな?」
「こういった風に、コンクリートを並べた訓練場が欲しいんですけど」
古瀬はその様子を描いた紙をセメントスに見せる。それは立方体のコンクリートを、少し間隔を空けて4×5列に並べたものだった。
「一辺2mくらいで」
「はいはい」
古瀬はセメントスに説明を行う。その後、空いている場所に、その訓練場を作ってもらった。
「セメントス先生の個性って、コンクリートを生み出す事じゃなかったんですね」
「それで俺に頼んだのかい? その場にコンクリートが必要でね」
セメントスの個性はセメント、コンクリートの粘度を操る個性である。粘度を操るだけなら形は変わらなくねって思うけど、まあいいか。
「それと、刃物の使用に許可って必要ですか?」
古瀬は新たに、大地斬を習得しようと思った。既にある程度使える技は揃っているため、本来ならこれ以上技を増やすより、各技の練度を高めた方がいい。ただ、習得方法が明確なため、やってみようと思った。
大地斬はダイの大冒険に出てくるアバン流刀殺法の一つである。習得方法は大岩を剣できるというもの。原作では疲労状態の時に、自然な動きで振ることで成功させた。
「刃物をどうやって入手するかな……」
習得にどれくらいの時間が掛かるか分からない。そして剣を何度もコンクリートにぶつければ、折れて使い物にならなくなる。
この技を習得するために、大量の剣が必要だと古瀬は思った。しかしどうやって入手するか。そこでA組の八百万の存在を思いだす。
八百万百、個性、創造。カロリーを消費してあらゆる物体創り出すことができる。
頼めば作ってくれるだろうか。古瀬はダメ元で聞いてみることにした。
「失礼します。八百万さんっていますか?」
ドアを開けてA組に入る。中にはまだそれなりに人がいた。
「はい、私ですが」
「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、時間いいかな?」
廊下に出て話をする。古瀬は八百万に拝むように頭を下げる。
「実は剣を創ってほしいんだ」
「剣ですか?」
「訓練のための百本くらい」
八百万は百本という数に少し驚くが、承諾してくれる。二人はセメントスが作った訓練場へと移動する。
「ここで創ればよろしいんですね」
「ありがとう。本当に助かる」
古瀬は剣を百本手に入れた。再三お礼を言って、八百万と別れる。お礼として後日、菓子折りを渡した。
「よし、やるか」
古瀬は手への負担が減るように厚手のグローブをはめる。
コンクリートへと剣を振り下ろすが、全く斬ることができなかった。一本、二本と剣が潰れていき、一日目には何の進展も得られなかった。
疲労状態じゃなかったからか、事前に疲れておいた方が良かったのか。何が悪かったのか考えながら、よろよろと立ち上がってバイトへと向かう。
二日、三日と時間が経つ。進展が無いわけではないが、それは微々たるものだった。凹んだコンクリートの前で、古瀬は膝を突いて息を切らす。
「おい、無個性が剣を振り回してるぞ」
他の生徒に、そう笑われることもあった。しかしそんな声など、古瀬の耳にはまるで入らなかった。
笑うのは当然である。自分は昔から、ずっと馬鹿な事をやっている。嘲笑など、あって当たり前のものでしかない。
ちなみに彼らは普通科の生徒。ヒーロー科の試験に落ちて入った者も多い。自分たちが入れなかった、手に入れられなかった栄光に、入ることができた無個性の存在が、彼らからするとひどく気に入らなかった。
成績優秀者はヒーロー科への年次編入を検討する、という復活枠でもある。そのような事実は無いが、古瀬が消えれば席が一つ空くという認識が彼らの中にはあった。
八日後、古瀬は全ての剣を使い潰したが、大地剣を習得することはできなかった。
何かは掴みかけている。全く手応えが無いわけではない。しかしまだ先、習得にはまだ足りていなかった。
剣を全て使い切ったため、心苦しくはあるが、古瀬はもう一度八百万に頼みに行く。
「申し訳ないんだけど、もう一回剣を創ってもらえない?」
拝むように八百万へと頭を下げる。彼女はそれを快く了承する。
「分かりました。もう一度剣百本ですね」
「ありがとう。本当に助かるよ」
古瀬は一度目より申し訳なさそうにそう言う。作ってくれる彼女には本当に感謝しかなかった。
「さてと」
剣を無駄にしないためにも、古瀬は集中する。自然な斬撃、それが何かはまだ分からないが、力が抜けた動きは分かるような気がした。
百六十五本目にして、ようやく古瀬は大地斬を習得する。そこからさらに修練を重ね、彼はその場にあるコンクリートを細切れにした。
古瀬は訓練場を元に戻してもらうために、セメントスに頼みに行く。
「セメントス先生、訓練場を直してほしいんですけど、お願いできますか?」
セメントスは訓練場へと移動し、その場の光景を見て少し驚いた声を出す。コンクリートはその全てが、片手で摘まめるサイズにまで切り刻まれていた。
「次に使った後、訓練を終えようと思っているのですが、その時は自分で片付ければいいですか。それとも先生にお願いすればいいですか?」
「そうだねえ、それじゃあ呼んでくれるかな」
分かりました、と古瀬は返事をする。訓練場を直してもらってから、訓練を再開する。
大地斬を習得してから、さらに五本剣を使い潰した。完全にものにするためには、もう少し慣らす必要がある。
その後コンクリートが残っていたら、別の技の練習にでも使おうかと思った。
古瀬井梨
Birthday:4/1
Height:177cm
Hair:オレンジに近い赤、長め
好きなもの:救いのない物語の、ご都合主義のハッピーエンド