無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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USJ襲撃事件

「今日はお前たちに、学級委員長を決めてもらう!」

 

 それを聞いて、古瀬以外の全員が一斉に手を上げる。ヒーロー科では、集団を導くトップヒーローの素地を鍛えられるという事で、やりたい人間が多かった。

 

「どうやって決めるんだ?」

 

「クジでも引けば?」

 

「バトルロワイヤルしようぜ」

 

「それでいいぜぇ……」

 

「もうちょっと穏便にいこうな?」

 

 好戦的な面々が拳藤に気絶させられる。気で防御しているため、自分は気絶されられないと分かってはいるが、古瀬はその光景を見て息を呑む。

 

「それなら投票でいいんじゃね?」

 

「そんなの自分に入れるだけだろ」

 

「それなら、自分以外に投票しなければならないってことにすればいいんじゃない?」

 

「それに賛成ですぞ」

 

 投票の結果、学級委員長は拳藤に決まる。物間は自分がゼロ票であることに色々言っていたが、誰も気にしなかった。

 

 

 

 同日の昼休み、学校内に警報が鳴り響く。死柄木に雄英高校のゲートが破壊され、マスコミが雪崩れ込んできたことが原因であった。

 

 古瀬は丁度昼食を食べており、生徒たちが一斉に出口に殺到するのを見て、そういえば何かこんなのあったなと思い出す。記憶の中を探り、この先の展開を思い出そうとする。

 

「大丈ー夫!!」

 

 飯田天哉が壁に張り付いて状況を説明したことで、その混乱は収束する。

 

 古瀬は話しかけようかと思ったが、緑谷がいたため止めておいた。この場から離れて、ゲートの方へと向かう。

 

 相当な分厚さがあるゲートが、ボロボロになって崩れている。古瀬は話の終盤を知らないため、死柄木の個性について、崩壊としか知らなかった。

 

 手で触れた物が崩壊するなら手形が残るだけ。どの程度までが手で触れた判定になるのだろうと古瀬は思った。

 

 

 

 それからさほど時が経たずに、USJ襲撃事件が発生する。その事件に古瀬が関わることは無く、事件の発生のみを知ることとなった。

 

「明日臨時休校だって」

 

「俺らも?」

 

「ヴィランに襲撃されたわけですからな。警備体制の見直しなどが行われるはずですぞ」

 

「そういえば雄英で警備のバイトをしている人がいるなあ。今日あたり襲われないといいけどねえ」

 

「そんなにすぐには襲撃してこないと思うよ。警備も厳重になっていると思うし」

 

「夜の学校ってどんな感じ? 心霊現象に遭遇したことってある?」

 

「エクトプラズム先生かな」

 

 エクトプラズム先生、個性は分身。口からエクトプラズムを飛ばし、任意の位置に分身を作ることができる。エクトプラズムは、心霊主義における半物質、またはエネルギー状態を指す。

 

 そうこう話をしていると、ブラドキングが教室にやってくる。USJ襲撃と、明日の臨時休校に関する説明が行われた。

 

 授業が終わった後、古瀬は宍田獣朗太に話しかける。彼の個性はビースト、二倍ほどの大きさの獣になり、感覚器官と筋力が大幅に向上する。

 

「宍田くんは明日どうするの?」

 

「私ですかな。特に予定はありませんが、やる事が無いようであれば昼寝でもしているつもりですぞ。古瀬氏はどうするつもりですかな」

 

「僕も特に決まってはいないかな。まさか休校になるとは思っていなかったから。でもヴィランに襲撃されたくらいで大袈裟じゃない?」

 

 二人は教室から出て、歩きながら話す。

 

「ヴィランによる襲撃ですぞ!? 聞いた話では怪我人も出たとのことですぞ」

 

「ヴィランなんてその辺によくいるじゃないか。そんなに珍しい事かな?」

 

「それは個人レベルの話ですぞ。オールマイトの出現以来、大きなヴィラン組織は全て撲滅されております。今回の大規模な襲撃はなかなかに大事ですぞ」

 

 なるほどなあ、と古瀬は相槌を打つ。

 

「怪我人については何か知ってる?」

 

「あまり詳しくは知りませんぞ。生徒と教師が負傷したという噂だけですな」

 

「僕も同じようなものだね。聞きに行く、というのも直後はちょっと憚られるからね。バイトに行けば何か分かるかな?」

 

 そのまましばらく歩いたのち、古瀬は宍田と分かれた。

 

 

 

 古瀬がバイト先である警備室に行くと、業務内容の変更を言い渡される。

 

「これからは校舎の見回りのみを行うように!」

 

「USJの襲撃があったからですか?」

 

「口答えは許されていない! 不信な物を発見した場合は、直ちにこちらへと連絡するように、以上!」

 

 古瀬は校舎の見回りを行う。最初からこの仕事内容でよかったんじゃないかと思った。

 

 見まわっていると、明かりの付いた教室を見つける。古瀬はドアを開けて中の様子を確認する。

 

「帰宅時間は過ぎていますよ」

 

 中にいたのは雄英教師のパワーローダーと、一年の発目明だった。

 

「あれ、パワーローダー先生でしたっけ。何をやっているんですか?」

 

 パワーローダー、個性は鉄爪、両手の爪が鋼鉄くらい硬い。サポート科を受け持っている。

 

 発目明、個性はズーム。物凄く目がいい。

 

「おっと、もうこんな時間か。発目、帰りなさい」

 

「待ってください。もう少し、もう少しだけお願いします」

 

 発目は何かの機械を作成している。古瀬は横から、覗き込むようにそれを見る。

 

「サポート科の監督ですか?」

 

 古瀬はパワーローダーと少し話をする。その中で、サポートアイテムの開発にはライセンスが必要であることを知った。

 

「えっ、作るのってライセンスが必要だったんですか?」

 

「くけけ……まあ誰でも最初は無茶するものさ。その後も無茶苦茶する奴もいるけどな」

 

 パワーローダーは視線を発目へと向ける。それを見て古瀬は苦笑する。

 

「ライセンスってどうやって取得するんですか?」

 

 しばらく話して、古瀬はパワーローダーからライセンスを取得する方法を聞く。その後、学校内の見回りを続けた。

 

 

 

 臨時休校が明けてその翌日、雄英体育祭に関する説明が行われる。行われるのは五月、プロヒーローの目に留まるチャンスだから頑張れとのことだった。

 

「いいか、雄英体育祭は我が校における最大のチャンスだ。プロヒーローの目に留まることでそこから先の道が開ける。各々が結果を残せるように訓練を怠るな!」

 

「「「はい!」」」

 

 ブラドキングが教室から出ていったあと、古瀬は気怠そうな顔をする。

 

「と言ってもなあ」

 

 雄英体育祭自体は、その後の物語にほとんど関係が無い。全体的な流れの中で、あっても無くても大して変わらない。

 

 それに、無個性が目立ちすぎると陸なことが起きない。不正だ何だと難癖をつけられて、バッシングを受けるかもしれない。

 

 頑張るにしても、個人戦の二回戦か三回戦くらいで負けた方が無難だろう。はっきり言って、あまりやる気が起きなかった。

 

「みんな割とやる気なんだなあ」

 

 今後の進路にも関わるため、B組の生徒の士気は高かった。そんな中、鉄哲が隣のクラスに、ヴィランと戦った時の話を聞きに行く、と言って出ていく。そしてその少し後に、怒った様子で戻ってくる。

 

「どした?」

 

「A組の奴ら、かなり調子こいてやがった!!」

 

 どうも、A組の生徒がかなり偉そうなことを言ったらしい。

 

「それはひどいな!」

 

「落ち着けよ。そういう事を言った奴がいるってだけだろ」

 

「調子に乗ってるね。これはもう、僕らに対する宣戦布告だよ」

 

 今の所、古瀬にはA組と敵対する理由が無い。彼らが敵視するにしても、できれば巻き込まれたくなかった。

 

「まあまあ、泥棒洞窟実験って知っている?」

 

 アメリカの泥棒洞窟州立公園で行われた、集団の対立や競争のメカニズム、そしてそれを解消する方法を調べるために行われた実験である。

 

 実験は11から12才の少年たちを集めて行われた。彼らを二つのグループに分け、集団形成、競争、協力の三つの段階に分けて行われた。

 

 実験の結論は、集団間の競争は敵対心や偏見を生む。そして共通の目標が協力を促進する、というものであった。

 

「少し冷静になりなよ」

 

「おやおやあ? 君はあれかな? A組のスパイかな!?」

 

「でもA組ばっか注目されてるのは事実よね。そういう事言ってくるってことは舐めてるってことじゃないの?」

 

「別にそこまで思っての発言じゃないだろ」

 

「あれれえ、ここに裏切り者がいますよお? クラスのために協力しようって気は無いのかなあ?」

 

「体育祭は個人戦だ。ここにいる皆とて本来はライバル。集団で挑みかかるよりも、各々が力を付けるべきではないだろうか」

 

 発言に対する怒りはあるものの、B組は割と冷静な人間が多かった。燻ぶるものはあるものの、それは本番でぶつけようという事になった。

 

 騎馬戦を考えれば、クラスで協力するというのは全く悪くは無いのだが、体育祭への古瀬のやる気はかなり低かった。

 

 

 

 アバン流刀殺法には三つの技がある。大地斬、海波斬、空裂斬。大地斬を覚えたので、古瀬は次に海波斬を習得することにした。

 

 海波斬は速さの剣、炎や水など、形なき物を斬る剣である。最速の斬撃によって、剣圧を発生させることでそれを行う。

 

 速度と言っても、どのようにしてそれを会得すればいいのか。取り敢えず古瀬は、池の前で素振りをしてみることにした。

 

 朝を除いて、空いている時間はとにかく素振りに費やした。校舎からよく見える場所だったため、他の生徒によく馬鹿にされたが、古瀬は特に気にしなかった。

 

 感謝の正拳突きだって最初は遅かった。気を整え、祈り、振り下ろす。古瀬はこの工程を何度も繰り返す。

 

 同じ場所で飽きもせずに、ただ剣を振り下ろすだけの古瀬を見て、周りは馬鹿にしていた。

 

 しかし十日が経った頃、その剣圧によって水面が波打つ。それは次第に大きくなり、やがて水面を切り裂く。

 

 数日の内に、池が割れる。その光景を見て、周りは歓声を上げる。初めは何もできなかった人間が、水面を波打たせ、やがては池を切り裂いた。

 

 それは子供の成長を見ているかのような心境であった。初めは馬鹿にしていた人間も、掌を返してその光景を称賛する。

 

 この時初めて、古瀬はヒーロー科の生徒と認められたと言っていい。

 

 海波斬を完全にものにした後、最後に周りに一礼して訓練を終了した。

 

 ちなみに、この後古瀬は『池の魚を傷つけた』ということで、反省文を書くことになった。一応、池を割っただけで殺してはいない。

 

 

 

 古瀬が食堂に向かうと、A組の飯田が一人でいた。珍しいな、と思いながら古瀬は声を掛ける。

 

「A組の飯田君だっけ? 一人でいるなんて珍しいね」

 

「君は確か、いつもその辺で素振りをしている……」

 

「古瀬だよ。よろしく」

 

 古瀬は昼食を置いて、正面の席に座る。飯田はあまり関心が無さそうだった。

 

「今日は一人なんだね。いつもの二人は?」

 

「緑谷くんの事か? 別の場所で昼食を食べるそうだ」

 

「そうなんだ。君の方はどうなの? 準備は順調?」

 

 そう話していると、隣に轟焦凍がやってくる。

 

「隣いいか?」

 

 轟焦凍、個性、半冷半燃。炎と氷を出せる。エンデヴァーの息子。

 

「いいよ。君は確か、轟君だっけ?」

 

「ああ」

 

 会話が続かない。黙々とそばを食べている。壊理があの後どうなったのか知りたかったが、古瀬にはどうすれば聞き出せるのか思いつかなかった。

 

 兄妹の事、少女の事、昨年のクリスマスの事。どう話題を振れば、その話に持っていけるのか。疑われないようにその話を聞く方法が思いつかない。

 

 古瀬は、荼毘について知っている。轟の兄という事は知っているが、それ以上の事は知らない。

 

 君ってお兄ちゃんいる? 実は今ヴィランやってるんだよ。流石に無いな、と古瀬は思った。

 

 古瀬が困っていると、麗日お茶子がやって来る。

 

「お待たせ。あれ、そっちの人って確か」

 

「古瀬です。よろしく。君は確か、麗日さんだっけ?」

 

「詳しいな。敵情視察か?」

 

「別にそんなつもりは無いよ。僕なんかじゃ君たちには敵わないさ」

 

「やる前から負けた気になるものじゃないぞ!」

 

 飯田の言葉に古瀬は苦笑する。知らないからこそ出るセリフだなと思った。

 

「そういえば、うちのクラスは打倒A組って言ってたよ。何でも馬鹿にされたとか何とかで」

 

 その言葉を聞いて、飯田と麗日は顔を引きつらせる。言ったのは爆豪だが、思い切り心当たりがあった。

 

「関係ない。邪魔をするなら、叩き潰すだけだ」

 

「そっかあ」

 

 会話が続かなくて、古瀬は泣きそうになる。ただでさえ兄妹とかエンデヴァーとかで地雷原が多いのに、轟に会話する気が無い。

 

「君も打倒A組を目指しているのか?」

 

 飯田が気を遣って話を振る。

 

「僕は、そういうのは気にしないかな。揉めてもいい事なんて何も無いしね」

 

 その後、彼らは昼食を食べて分かれる。結局、壊理の情報を得ることはできなかった。

 

 

 

 体育祭直前、古瀬はブラドキングに頼んで、戦闘訓練の相手をしてもらっていた。その場には、拳藤と尾白もいる。

 

 古瀬は目隠しをしたまま、ブラドキングと攻防を繰り広げる。体格差と目隠しがあってなお、かなりいい勝負であった。

 

 しかし固めた血を飛ばされたことで、古瀬はそれを避けられずに大きく怯む。少し距離を取って、目隠しを取る。

 

「駄目だな。やっぱり物を飛ばされると避けられない」

 

「気の探知だと、物までは分からないんだっけ?」

 

「人の動きは分かるんだけど、そこから分離された物になると、位置が分からなくなるんだ。拳藤さんみたいに、体の一部が変化する場合は分かるんだけど」

 

 気の流れで、個性を発動させるタイミングが分かるため、ものにもよるが古瀬は多くの攻撃を躱せる。しかし投擲類に関しては、事前に察知できず避けるのが難しかった。

 

「ならば、常にそういった物を警戒する立ち回りを覚えるか、頑張って分離されたものを探知できるようになるしかないな」

 

「それができれば話は簡単なんですけどね」

 

「気というものは分からんが、分離してすぐに気が消えるとは考えにくい。草木にも気は存在すると言うが、それを感知できてはいないのだろう? ならば未だ未熟なだけで、訓練することで物を認識できるようになるかもしれん」

 

「まあ、そうかな? そうかも」

 

 元気玉だと草などから気が出ていたから無機物には無いと思っていたが、土や岩に気が無いとは限らない。確かにそうかもしれないと、古瀬は納得しかける。

 

「脳筋解決法ですね」

 

「為せば成るさ。それではな」

 

 ブラドキングは仕事があると帰っていく。三人はその姿を見送った。

 

「鉱物に気か。うーん、考えたこともなかったな」

 

「それにしても先生に協力してもらうなんてね」

 

「何が駄目なの? せっかくプロヒーローから指導を受けられるんだから、使わない手は無いと思うけど」

 

「古瀬のそういう強さを得る事に貪欲な所は嫌いじゃないよ」

 

「力なんてどれだけあっても困るものじゃないからね。使える手は、何でも使わないと」

 

 頼むことに対して、何の躊躇もしていない。自分もこれくらい図々しい方が上手くやれるのだろうかと、尾白は一瞬本気で考える。

 

「忙しいって言われなかった?」

 

「言われたから、空いている時間を聞いてお願いしたんだ。こういうのはもっと、暇な時期に頼まないとだめだね」

 

 古瀬は、尾白と拳藤と特訓をした。

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