無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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職場体験

「全員コスチュームは持ったな。公共の場では着用厳禁のため、紛失しないように!」

 

「「「はい!!」」」

 

 ブラドキングの注意に対して、B組生徒は返事をする。その後、生徒たちは分かれて各目的地へと向かう。

 

「宍田君はそっちか」

 

「そうですな。それではここで」

 

「お互い頑張りまショー」

 

「そうだね。お互い頑張ろう」

 

 同クラスの生徒と別れて、古瀬は自身の職場体験場所へと向かう。走るか飛んだ方が早いが、個性使用認定されるため交通機関しか使えない。瞬間移動ですら、誰かに見られれば怒られるだろう。

 

「個性じゃないんだけどなあ」

 

 想像以上に、異能というものに対して厳しい社会だと実感させられる。みんな正しく普通に生きましょう、まさにそんな社会だ。そして自分がヒーローになると、そんな民衆に枷を掛ける側になるのだな、と古瀬はぼんやりと思った。

 

 ガンヘッドの事務所で麗日と合流する。その後、ヒーロースーツへと着替える。

 

「雄英高校の古瀬井梨です。よろしくお願いします」

 

「麗日お茶子です。よろしくお願いします」

 

 古瀬は基本笑顔で接するため、顔が見えなくなるマスクは外している。できるだけいい印象を与えた方がいいだろうという判断だった。

 

 最初に、パトロールと共にヒーロー活動についての説明が行われる。

 

 一応は公務員、給料は基本歩合、副業が許されている。この辺りは事前に知っていたため、殊更新しい情報は無かった。

 

 職場体験とは言っても仮免も無いため、本格的なヒーロー活動はできない。基本的にパトロールか事務所での訓練が職場体験の主な内容であった。

 

「それじゃあ古瀬くん、こっちに来て」

 

「技の見本になればいいんですよね」

 

 古瀬と麗日はガンヘッドからガンヘッド・マーシャル・アーツを教わる。

 

「関節技か」

 

 古瀬の基本戦闘スタイルは、受け流しと相手の力を利用しての投げ技。打撃系は強すぎて対人では使えない。後は気を纏っての足技で、関節技は使わない。

 

 異形型には使えないし、自分より遥かに体格が大きい人にも極まりにくい。使用できる範囲が限られるため、今までは覚えてこなかった。

 

 とはいえ、その条件はガンヘッドも同じである。となればそういった相手への対処法も当然ながら持っているはず。せっかくだから、ここではそれを学ぼうかと古瀬は思った。

 

「古瀬くんはこっちで実戦訓練をやってみようか」

 

 古瀬はガンヘッドと対峙する。本気でやり合いたいが、これから何日かこの事務所に来るのに、初日に事務所の主を倒したらその後がすごく気まずい。適度に手を抜きつつ、負けた方がいいだろうなと思った。

 

 気を見ることで相手の動きを事前に察知することはできるが、流石にプロだけあって身体能力上昇無しに戦うのは流石に厳しい。古瀬は次第に追い詰められ、床へと押さえつけられる。

 

「参りました」

 

 その後は、他の人と一緒に訓練をする。麗日は真剣にG・M・Aの習得を行っていたため、邪魔しない方がいいかと思った。

 

「よろしくお願いします。サイドキックの方ですか?」

 

「そうだよ。よろしく、古瀬くん」

 

 気さくな兄ちゃんといった感じの人だった。この人には勝つか負けるか、古瀬が一番の下っ端のため、先達にどう対応していいのかが分からなかった。

 

 流石に練習にならないので、ガンヘッド以外には勝っていいだろうと判断する。接戦を演じつつ、僅差で勝ったように演出する。

 

「運ぶんですか? 手伝いますよ」

 

 それと、古瀬は雑用を積極的に引き受けた。その時に事務所の人から、裏話みたいなものがあればそれを聞いた。

 

「お疲れさまでした」

 

 一日目の職場体験が終了する。麗日と古瀬は事務所に寝泊まりしてもいいという事になった。

 

「変な事しないようにね」

 

「分かりました」

 

 揶揄うように言ってくるガンヘッドに、古瀬は笑顔でそう答える。

 

「麗日さんはホテルに泊まった方がいいんじゃない?」

 

 古瀬は、何となく泊まれそうだから、というふわっとした理由で事務所に泊まろうとしている。だから麗日がここに寝泊まりする理由が完全に謎だった。

 

「せ、節約のために」

 

 とても麗らかじゃない顔でそう答える。古瀬はあまり深くは聞かなかった。

 

 

 

 夜に、古瀬は暗い訓練場で練習をしていた。G・M・Aではない。気を足に纏って、型をなぞるように振り回す。

 

 古瀬の戦い方は我流の喧嘩殺法であり、明確な型は無い。しかし中学時代と違い、敵を捕縛する必要があるため、そのための方法を模索していた。

 

 そうしていると、訓練場に麗日が入ってくる。

 

「あれ? ごめん、起こした?」

 

 麗日の表情はやや驚いたものだった。古瀬の近くへと歩いて行く。

 

「今のって古瀬くんの個性?」

 

「まさか。これはただの技術だよ。気を集めて纏っているだけ」

 

 そう言って古瀬は手を光らせる。青白い光が、炎や放電と変わる。

 

 麗日は爆豪が言った台詞を思い出す。

 

「常闇くんとの試合じゃ使ってなかったよね」

 

「そうだね。実戦で使うにはまだいろいろと難しくてね。体育祭には間に合わなかったんだ」

 

 そういう事にした。その言葉を信じたのか、麗日は少し安堵した表情をする。

 

「それより、男と同じ場所に泊まるのは危ないから止めた方がいいと思うよ。こんなに可愛いのに」

 

「ええ、私なんて別にそんな」

 

 困惑した様子で麗日は否定する。

 

「かわいい。すごく可愛いよ。よーしよしよしって撫でたいくらいに。今の時代にそんなことしたらセクハラだけど」

 

「私は別にそういうのは気にしないけど」

 

「えっ? じゃあ抱きしめてもいい?」

 

 麗日は少し困惑するも、少し俯くように視線を逸らして頷く。

 

「う、うん」

 

「えっ? じゃあ、行くよ?」

 

 古瀬は麗日の体を抱きしめる。そしてすぐに離れて距離を取る。

 

「あはは、ありがと。何か元気出た」

 

 古瀬は気恥ずかしさを笑ってごまかす。麗日も同じように笑っていた。

 

「古瀬くんはさ、どうしてヒーローになろうと思ったの?」

 

 少し落ち着いてから、ありきたりな話題として麗日が尋ねる。全く予期していなかった質問に、古瀬は意表を突かれる。

 

「えっ……うーん。別に隠してるわけじゃないから言うけど、俺は昔事故にあったんだ」

 

「あっ、その時にヒーローに助けられて?」

 

「だったらよかったんだけどね。倒壊寸前の建物の中に助けに来たのは用務員さんだった。でもその人は、無個性は助けなかったんだ。持てる数には限りがあったからね。それで取り残された人は全員が死んだんだ」

 

「それって……」

 

 麗日は事故を想像して言い淀む。

 

「別にそれは気にしていないんだ。誰の名前も憶えていないし、特に親しい人もいなかったんだと思う。でもその時に思ったんだ。もし無個性にも価値があると思っていたなら、少しくらいは誰かが助かったんじゃないかって」

 

 古瀬は淡々とした軽い口調だったが、過去を思い出してか少しだけ感情が籠る。

 

「もし俺がヒーローになれば、それを示せるんじゃないかって思ったんだ。もう彼らを助けることはできないけど、次の彼らは救えるかもしれない」

 

 そんな感じだよ、と古瀬は最後に付け加える。

 

「古瀬くんも、誰かのためにヒーローを目指しているんだね」

 

「そんな綺麗な理由じゃないよ」

 

 自分の陸でもなさは自分が一番よく知っている。古瀬は苦虫を噛み潰すように、吐き捨てるようにそう言った。

 

「麗日さんは?」

 

「え、えっと、そのう……」

 

 麗日はこの話の後に言いだしにくくて言い淀む。

 

 古瀬は、麗日の実家が建設会社を経営している事を聞く。あまり流行っていないらしく、両親を楽させるためにヒーローを目指しているとのことだった。

 

 両親を云々というのは古瀬にはよく分からないが、世間的にはそれほど珍しくない、よくある普通の願いではないかと思った。

 

「麗日さんの方こそ、誰かのためにヒーローになろうとしているんだね」

 

「結局はお金のためなんだけどね」

 

 麗日は気恥ずかしさを隠すように視線を逸らす。

 

「それじゃあ、お互いそのために頑張ろうか」

 

 そう言って、古瀬はその場から立ち去ろうとする。麗日もその後に続こうとする。

 

「そういえば、古瀬くんってデクくんの事が嫌いなん?」

 

 古瀬はぴたりと足を止めて振り返る。その顔には笑顔を張り付けている。

 

「好きではない」

 

 あからさまな程に嫌っている。その事は麗日にもすぐに分かった。

 

「えぇ……な、なんで?」

 

「一言でいえば嫉妬、ただの逆恨みだよ。俺は昔、あいつと同じ学校にいたから知っているけど、あいつはかつて間違いなく無個性だった」

 

「え、でもデクくんには個性が……」

 

「あれはたぶん、人に与えられた個性だよ」

 

 聞いた事の無い話に麗日は驚く。本当かどうか、半信半疑といった様子だった。

 

「そういった個性があると聞いたことがある。同じ無個性なのに、親から愛されて、個性だって与えられて、だから好きになれないんだと思う」

 

 これが完全な本音かと言えばそうではない。いくつかある理由の一つに過ぎない。

 

「でもそれはデクくんが悪いわけじゃないやろ」

 

「そうだね。変な話をしてごめん。今のは全部忘れていいよ」

 

 古瀬は困惑する麗日を置いて、その場から立ち去ろうとする。

 

「それじゃあ僕はそろそろ眠ることにするよ。おやすみ」

 

「あ、おやすみ」

 

 そのまま仮眠室へと向かい、古瀬は眠った。

 

 

 

 職場体験二日目、早朝に起きた古瀬は朝食を食べて軽いトレーニングをする。

 

 しばらくすると、麗日が半分寝ぼけたような状態で起きてくる。

 

「おにぎりあるけど食べる?」

 

「食べる」

 

 コンビニで買ったおにぎりを与える。その間、古瀬は訓練場の清掃をやる事にした。

 

 単に、こういう事やってますよアピールである。ちょうどガンヘッドたちが来る時間帯辺りに行う。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

 この日も昨日とやる事は変わらず、パトロールとトレーニングを行う。

 

 トレーニングで古瀬はサイドキックと手合わせする。古瀬が勝つと、相手は向きになって再戦を求めてくる。二度三度と戦うが、その全てに負ける。

 

「一日で上達したなあ」

 

「先輩の指導の賜物ですよ」

 

 そうして笑っていると、鼻っ柱をへし折ろうと別の人が挑んでくる。かなり大柄な人で、この事務所の中でかなり上位の実力者だった。

 

 二度三度と負けるが、その人は何度も挑んでくる。

 

「学生にしてはお前、中々やるじゃないか」

 

「先輩の指導が良かったおかげです」

 

 上から目線で余裕を保ってはいるが、多少の苛立ちがあるのが分かる。先程の先輩は、自分が指導した結果じゃないと、必死に首を横に振っている。

 

 八度目の敗北を喫した所で、そろそろ変われと別の人が挑んでくる。それを見ながら周りは、感心する声を上げる。

 

「彼、中々やりますね」

 

「ここでも上位に入れそうなくらいに強いね。無個性だけど」

 

「まあ、無個性なんですけどね」

 

 あくまで手合わせ、実戦は個性ありの戦いである。どれだけ強かろうと、周りは個性ありなら自分たちの方が勝るという認識であった。

 

 

 

 職場体験三日目、緑谷から麗日に位置情報のアドレスだけが送られてくる。

 

 それを聞いて古瀬は、ステイン戦が始まったのかなと思った。特に関わることは無く、そのまま職場体験を続ける。

 

 その後、緑谷から麗日にステインと戦ったことが伝えられる。その時に麗日はガンヘッドからコイバナかと揶揄われていた。

 

 古瀬が麗日から聞いた話によると、轟、飯田、緑谷の三人は怪我を負ったものの死んではいないとのことだった。

 

 記憶通りの結末だろうか。詳細までは分からないが、特に違和感は無い。

 

「どうした、集中できていないぞ」

 

「すみません」

 

 古瀬は相手の足を払って拘束する。考えるのは後にすることにした。

 

 

 

 職場体験最終日、古瀬と麗日はガンヘッドにこれまでお世話になった挨拶をする。

 

「これまで指導していただき、ありがとうございました」

 

「お世話になりました」

 

「気を付けて帰るんだよ」

 

 帰ろうとしたところで、古瀬はガンヘッドに呼び止められる。

 

「そうだ、古瀬くん。最後に一回本気で戦ってみない?」

 

「……いいですよ」

 

 中に入る前に、古瀬は麗日に言う。

 

「麗日さんは先に帰ってていいよ」

 

「私も見てていい? 今後の参考にしたいけん」

 

 という事で、麗日も同行する。古瀬は着替えて訓練場へと移動する。その場には他に誰もいなかった。

 

「一本勝負、個性の使用はどちらでも構いません」

 

「個性は使わないよ。危ないからね。そちらは全力で来るといい。それじゃあ始めようか」

 

 開始と同時に、古瀬はガンヘッドが個性を使用する前提の動きをする。

 

 ガンヘッドの個性はガトリング、腕の銃口のような器官から、硬質化した弾を発射できる。

 

 身体能力を強化して、射線に入らないように移動しつつ接近する。負けた時の言い訳にならないように、撃った所で当たらないように動く。

 

 しばしの攻防が続いた後に勝敗は決した。古瀬がガンヘッドを拘束することに成功する。

 

 古瀬の勝因は、ギリギリまで身体能力の強化倍率を誤認させたこと。ここで気による強化を使っていなかったため、その強さをガンヘッドは知らなかった。

 

 最初にガンヘッドの腕力と同等だと誤認させ、決める瞬間にガンヘッドの腕を強引に押し上げることで技を決める。

 

「まいった」

 

「ありがとうございました」

 

 身体能力が上がるだろうとは思っていたが、無個性だからおそらくそれほど高くはないだろう、という油断もあった。

 

 古瀬はガンヘッドの腕を放して開放する。数歩後ろに下がって一礼する。

 

「お見事」

 

「偶々です」

 

 最後の挨拶をした後、古瀬と麗日はガンヘッドの事務所から帰宅する。途中までは同じ交通機関で移動する。

 

「さっきの試合凄かったよ。まさに達人同士の攻防って感じで」

 

「偶々奇襲が上手くいっただけだよ。向こうも本気じゃなかったし」

 

 ガンヘッドが最後の試合を申し出たのは、古瀬が全力ではない事に気付いていたためである。あくまで腕試しが目的で、プロの高さを教えてやるとか、死合いをするとかそういった意図は無かった。

 

「麗日さんの方はどうだった。職場体験で何か得るものはあった?」

 

「とても有意義だったよ」

 

「それはよかった」

 

 しばらく話をした後、古瀬は麗日と別れて帰宅した。

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