無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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期末試験

 ヒーローに求められるのはヴィランを無力化する事。しかし普通に戦ったのでは被害が大きくなる。もっと簡単に無力化させる方法は無いかと古瀬は思った。

 

 相手を状態異常にさせるような技は作れないかと考える。現在は殴って気絶させるか、関節技で取り押さえるかのどちらかしかない。どちらも簡単かつ確実とは言えず、もっと簡単に無力化できる、搦手のような技が欲しかった。

 

 状態異常といえば、毒、暗闇、混乱、眠り。その中で、この学校には相手を眠らせることを得意とする教師がいることを思い出す。

 

「失礼します。ミッドナイト先生いらっしゃいますか?」

 

 古瀬はミッドナイトに質問するため職員室へと向かった。

 

「あら何かしら?」

 

「質問よろしいですか?」

 

 古瀬はミッドナイトの個性、眠り香について尋ねる。具体的に眠る原理について、気絶と眠る事の違い、どのようにすれば一瞬で眠らせることが可能なのかなどを。

 

 一通り質問を終えた古瀬は退室する。それを見てセメントスは口を開く。

 

「古瀬くんですか。よく来ますねえ彼も」

 

「練習には真面目といいますか。でも、期末試験どうするんでしょう?」

 

 古瀬はそれなりに教師との実戦訓練を行っており、教師と互角に戦える程度に強い事は知られている。

 

 期末試験の演習試験はハンデを付けて二対一で教師と戦うというものであり、そのまま行ったのでは簡単に突破することが予想される。

 

「でも一人だけ試験内容を変えるわけにもいきませんしねえ」

 

「俺が相手をするのは厳しいかもしれませんねえ。前に一回普通に負けてるんですよね」

 

「相澤先生は相性が悪そうですよね」

 

「相澤君は駄目よ。五分で格下扱いされて、むしろ気を遣って負けられたらしいから」

 

「となると、ミッドナイト先生はどうです。あの子、眠り香は防げないでしょう」

 

「あの子のコスチュームってガスマスクなのよね」

 

 そうこう話していると、エクトプラズムが鼻を鳴らす。

 

「本気デ戦ッテイタワケデ無シ、普通ニ戦エバ問題アルマイ」

 

「そう言うなら、演習試験はエクトプラズム先生に任せましょうか」

 

 勝手に決まってエクトプラズムは驚く。周りは解散していき、いつの間にかそういう事に決まった。

 

 

 

 ブラドキングから期末試験、林間学校、夏休みに関する説明が行われる。期末試験に落ちた生徒は、林間学校中に補修を行うとのことだった。

 

 なお、B組はテスト順位が不明のため、誰の頭がいいとかは分からない。

 

「期末テストか。このクラス平均点高いんだよな」

 

「どうする? 勉強会でもする?」

 

「俺はいい。数人でやったら絶対遊びだす」

 

 古瀬は勉強会には参加せず、何人かと図書室で勉強する。

 

 途中で気分転換のために外に出ると、心操に遭遇する。古瀬は洗脳を警戒して、声は出さずに合成音声で会話をする。

 

『君は確か、心操くんだったっけ? 君も勉強しに来たのかい?』

 

 合成音声を使っての会話を試みると、心操は露骨に嫌そうな顔をする。

 

 古瀬は心操に対して特に罪悪感などは無い。というより、合同戦闘訓練で登場することや、最終決戦でオール・フォー・ワンを誘き出す役割があることなどを知らない。

 

「ああ。俺の個性を知っているのか」

 

『体育祭の時に普通科から唯一出ていたからね』

 

 心操は古瀬がヒーロー科であることは知っているが、体育祭で最後に自分から鉢巻を取った相手とは認識していない。その意識は小大や凡戸に向いており、後ろで支えていただけの古瀬に対しては低かった。

 

「はっ、だからっていい気になるなよ。今回は駄目でも、俺は絶対ヒーロー科に入ってやる」

 

『そう。そうなるといいね』

 

 心操は古瀬の横を通り過ぎる。古瀬も今後彼が登場するとは思ってないため、返事はあっさりしたものだった。

 

 図書室に戻ると、常闇に遭遇する。

 

「常闇くんも勉強かい?」

 

「そうだ。お前たちもそのようだな」

 

 この場にB組生徒は四人くらいいる。

 

「A組の方はどんな感じ? みんなで勉強とかしてるの?」

 

「人それぞれだ。お前は、何の勉強をしているんだ?」

 

 教科書の他に、テストと全く関係の無い参考書が古瀬の横に積まれている。

 

「コスチュームとサポートアイテム開発ライセンスを取得するための勉強だよ。先生に聞いたら取得可能って話だから、やってみようかと思って」

 

「自分用のコスチュームを自分で作るのか?」

 

「どうなるかはまだ未定。取得してから考えることにするよ。常闇くんの方は、勉強は順調?」

 

「そこそこだ」

 

 常闇の成績は二十人中十四位、クラスの中では凄く頭がいいというわけではない。

 

 その後、彼らは引き続き勉強を行った。

 

 

 

 筆記試験が終わり、演習試験が始まる。内容は記憶で知っていた通り、教師との二対一での戦闘であった。

 

 古瀬は予想した通り物間とのチーム、対戦する教師はエクトプラズムであった。

 

 エクトプラズムとは先日戦ったため、実力は知られている。あからさまに手を抜けばバレるだろうし、どのようにして負けようかと古瀬は考える。

 

「足を引っ張らないでくれよ? いやもう存在自体が足を引っ張っているんだけどね!」

 

「確かに僕じゃ君の力にはなれないかもしれないけど、できるだけ頑張るよ」

 

 組み合わせが発表された後は、試験ステージまで学内バスで移動する。

 

「それでどうやって戦う? 作戦は物間くんに任せるよ」

 

「話を聞いていなかったのか? 詳しい試験内容はまだ説明されていないだろ。それにここには先生がいるだろ」

 

 同じバスに乗って移動中である。今ここで話したところで対応されるという判断だった。

 

 試験場所は建物の中、周りに柱が並ぶエントランスホールのような場所であった。

 

 試験の内容は、制限時間は三十分、手錠を掛けるか、どちらか一人がステージから脱出することが勝利条件。ヴィランと会敵したと仮定して戦う事。教師側にはハンデとして体重の半分の重りを付ける。

 

「分カッタカ」

 

 大凡の内容は知っていた通り。古瀬に特に聞くべきことはない。

 

「こんなの重りが付いてるんだから、逃げるの一択じゃないですか!」

 

「デキレバイイガナ」

 

 すぐに試験開始のアナウンスが始まる。

 

『期末テストを始めるよ! レディイイゴオ!!』

 

 開始と同時にエクトプラズムは分身を生み出す。古瀬と物間は数体の分身に囲まれる。

 

「作戦は!」

 

「君が囮、僕が逃げる!」

 

「分かった」

 

 古瀬は新しいサポートアイテムの刀を抜いて、近くにいる分身を両断して突破口を開く。ちなみに刀の名前は『首切』。

 

 その場から物間を逃がして、自身は分身たちの相手をする。この囲みから抜け出しても、物間が脱出するのは難しいと判断しての行動である。

 

 古瀬はエクトプラズム本体の位置を探す。見つけた所で悲鳴が響き、振り返ると物間が分身に捕まっていた。

 

「えぇ……」

 

 試験開始一分弱、あまりにも早すぎる終了であった。

 

 物間は自分も分身を作ろうと息を吐くが、何も生まれない。

 

「無駄ダ。貴様ガ触レテイルノハ分身ダ。個性ヲコピースルコトハデキナイ」

 

 ここから単独で脱出することも可能だが、古瀬の目的は不合格になる事である。物間の指示に従っている風を装いつつ時間を潰す、という作戦は早々に潰えた。

 

 どうしたものかと考えていると、巨大な分身が下から古瀬を呑み込もうと現れる。

 

「ジャイアントバイツ」

 

 自分を呑み込もうとする分身を、古瀬は真っ二つに両断する。

 

「未完・アバンストラッシュ!」

 

 分身は額から二つに割れ、倒れると同時に消え去る。

 

「訓練じゃないので、武器ありで行かせてもらいますよ」

 

「今ノヲ凌グカ」

 

 とはいえ、どうしたものかと考える。普通に戦って負けるのは不自然、となれば。

 

「おーい、早く僕を助けてくれないかなぁ!」

 

 この状況で自身の救助を要求する物間に、古瀬とエクトプラズムは呆れる。

 

「仕方がないなあ」

 

 古瀬は分身の一体を蹴り飛ばし、エクトプラズムへと接近する。そして刀を振るい、エクトプラズムが身に付けている重りを破壊する。

 

 それら全てを破壊した後、古瀬は大きく後ろに下がる。

 

「ドウイウツモリダ」

 

「手加減された上で勝っても誉にはなりません。どうせやるなら、本気の相手でないと」

 

 古瀬は渡された手錠、ハンドカフスを破壊する。

 

「勝利条件は先生を倒して二人で脱出する。これ一つだけでいい」

 

 古瀬の行動に対して物間は非難の声を上げる。

 

「馬鹿なのかな君は! どうしてわざわざ難易度を上げるかなぁ! それなら最初から手加減している相手に勝てばいいだろ!」

 

「それでもいいんだけど、相方が開始早々捕まったから、それなら配慮しなくてもいいかなって。だからここからは、好きにやらせてもらおうかと思ってね」

 

 エクトプラズムは重りが外された、手首の状態を確認する。

 

「ナメラレタモノダナ。ソレガ驕リデアルコトヲ、身ノ程ヲ教エテヤロウ」

 

 古瀬としては時間ギリギリで物間を解放し、脱出しようとするが惜しくも間に合わなかった、という形にするのが望ましい。そのためその作戦のために、しばらくは様子を見るつもりであった。

 

 しかし実際の所、古瀬は完全に攻めあぐねていた。接近しようとすれば囲まれ、数を減らそうとすれば即座に増やされる。時間制限があるため、消耗を狙うのも難しい。

 

 何とか一気に数を減らすか、分身との分断を図る必要がある。物間を利用するのは、難しそうだった。しっかりと捕縛されている。

 

 近くにある柱を武器にすれば一気に薙ぎ払えるのではないかと思ったが、建物を破壊して武器として使うのはヒーローとしてどうなのだろうと考える。

 

 自分の手札から何かできないかと考えるが、有効な手立てを見つけられないまま時間が過ぎる。制限時間は、残り十分を切ろうとしていた。

 

「ドウシタ、何ヲ躊躇ッテイル! 手ガアルナラ、ヤッテ見セロ!」

 

 古瀬は二階の手すりの上に立って下を見下ろす。

 

「確かに、手段を選んで勝とうだなんて傲慢か」

 

 古瀬は分身を倒しつつ一階に降りて、建物を支える柱を壊して回る。やがて建物は、音を立てて崩れ出す。

 

 折れた柱を掴んで、物間とエクトプラズムの頭上へと投げつける。僅かばかり、二人の頭上に振る瓦礫が少なくなった。

 

 エクトプラズムは巨大な分身を作って、自分と物間の身を守る。そして分身を解除すると同時に跳び出してきた古瀬へと蹴りを放つ。

 

 古瀬は蹴りを腕で逸らすが、エクトプラズムは直ぐにいくつもの分身を生み出して囲もうとする。しかし瓦礫によって高低差ができていたことによって、分身が古瀬に到達するのが少しだけ遅れる。

 

 蹴りを弾いて接近し、G・M・Aによってエクトプラズムを拘束する。

 

「動かないでください。分身を作るより、口を塞ぐ方が速い」

 

 周りの分身たちは、観念したように消えていく。物間を拘束していた分身も同様であった。

 

 この時、時間にはまだ少しだけ余裕があった。相手が強く攻めきれない焦りから、早めに仕掛けたためである。

 

 物間が急いで脱出すれば間に合うかもしれない程度の時間が残った。古瀬はエクトプラズムを拘束しているため動けない。

 

「やった──ー!! 自由だ──ー!!」

 

「あ、ちょっ」

 

 呼び止める間もなく物間はゲートへと走っていく。間に合うかどうか、どうなるか微妙なラインだなと古瀬は思った。

 

「一ツダケ教エテイナイコトガアル。我ハ訓練ノ時ニ三十体シカ分身ヲ出シテイナカッタガ、二、三曲歌ッタ後ナラモウ少シ数ヲ出セル」

 

「……つまり?」

 

「予メゲート付近ニ分身ヲ配置シテオイタ」

 

「でもこの倒壊で、分身は消えているんじゃないですか?」

 

「ドウカナ」

 

 どうなるか、古瀬はエクトプラズムと見ていると、物間はゲートの陰から出てきた分身に拘束される。

 

「あらら……」

 

 それからすぐに、試験終了のアナウンスが行われる。

 

 B組、物間と古瀬、補修決定。

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