無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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必殺技

 青山が捕まった件について、自分たちではもう止まれないみたいだったし、協力を望んでいないならああするのが一番だった気がする。

 

 たぶん本来捕まるのはずっと後、これによる影響が何なのかはさっぱり分からない。でもやってしまった物は仕方がない、と古瀬は思っていた。

 

 途中、古瀬は怪しい行動をしてしまったので、疑われないように、しばらくは大人しくしていようと思った。

 

 そんな事がありつつの入寮日、古瀬は他のB組生徒と共にB組寮へと来ている。

 

 全寮制になった背景には、内通者が生徒たちの中にいないとも限らないため、それを秘密裏に探るという目的もあった。

 

 もう見つかっているが、全寮制の許可を得るための家庭訪問を行った後だし、生徒たちの身の安全を守る事も目的のため、今更取り止めとはならない。

 

 彼らは各々引っ越しの作業を行う。古瀬は直ぐに終わったため、サポート科の工房へと向かう。

 

 各部屋を回ったり、部屋王決めも無く、B組の引っ越しは終了する。B組の部屋がどんな感じか分からないから仕方ないね。

 

 

 

 八月中旬、仮免取得に向けての必殺技作りが始まる。

 

「これよりお前たちには、仮免の取得を目指してもらう」

 

「本免許はどうやって取るんですか?」

 

「仮免飛び越えて本免許とかは取れないんですか?」

 

「仮免を取得すればインターン活動が可能になる。いきなり本免許を取得するよりも、仮免を取得してインターン活動の経験を得る事で、より高い実力を身に付けられるというわけだ」

 

 なるほど、とB組生徒は納得する。

 

「具体的な試験内容はどんなものなんすか?」

 

「試験内容は毎年異なる。様々な適性が試されることになるが、その中で最も重要視されるのは戦闘力だ。というわけで、これからお前たちには、必殺技を作ってもらう!」

 

「必殺技?」

 

「詳しい話は体育館に移動してから行う」

 

 B組生徒はコスチュームに着替えて体育館へと移動する。しかしまだA組が使っていた。

 

 その中には青山もいる。彼は両親に反対されている、という表向きの理由から寮には入っていない。

 

 退学や除籍処分にもなっていないが、現在厳しい監視下に置かれている。また、他の生徒たちには彼が内通者であることは知らされていない。

 

「ねえ知ってる? 仮免試験って半数が落ちるんだって! A組全員落ちてよ!」

 

 先生から、A組とB組は別会場で申し込みしてあることが知らされる。

 

 古瀬はこれを聞いて、仮免試験にトガヒミコが来ることを知っているため残念だなと思った。暇だったら様子を見に行こうかと思っていた。

 

 A組が退室し、B組の特訓が始まる。

 

「必殺技か。何覚えよう。シャイニングフィンガーでも覚えようかな」

 

 本音を言えば明鏡止水を完全に習得したかったが、見た目に変化が無いため必殺技として見てはもらえないだろうなと思った。

 

 シャイニングフィンガー、ゴッドフィンガー、Gガンダムの技。

 

 適度に練習した後、他のB組生徒の様子を見て回る。

 

 調べてみると、B組は全員に必殺技が無い。キャラが多いから仕方ないね。

 

 古瀬は戻って真面目に訓練を行う。コンクリートを掴んで爆散させる。

 

「ヒィィィィト、エンドッ!!」

 

 コンクリートが熱によって融解し、残った部分が粉々に砕け散る。

 

 完全に殺し技である。気が一点に集約されている分、その威力は凶悪といえる。

 

 必殺技、確かに『必殺』ではあるが。古瀬はこれを人に向けることに躊躇いを覚えた。

 

 集中して、視覚、気の流れから目の前の物質を正確に認識する。手に気を集めて、それら全てを熱へと変えて一気に放つ。

 

「石破天驚拳!!」

 

 石破天驚拳、Gガンダムの技。自身の気を極限まで高めて気功弾を放つ。

 

 古瀬は気を炎へと変換して放っており、こちらは気の性質変換の発展形といえる技である。石破天驚拳の名前を借りているだけの、真似てはいるが全く別の技である。

 

 コンクリートが融解し、熱の拡散によって周囲の温度が上がる。冷房によって、急遽温度が下げられる。

 

 古瀬はこれまでB組生徒にはあまり実力を見せてこなかったため、周りの何人かはその光景を見て驚いていた。

 

「何かすごいな」

 

「こんなのただの技術だよ。僕なんて全然、全く以て大したこと無い」

 

 謙遜するように古瀬は言う。その後も彼らは訓練を続けた。

 

 

 

 八月中旬、古瀬は尾白と訓練をしている。全方位からピンポン玉が撃ち出され、それらは古瀬の体に当たって弾ける。

 

「やればできるものなんだな」

 

「みたいだね」

 

 古瀬は総身を習得できたことに困惑する。途中から何かできそうだとは思ったが、まさか本当にできるとは思わなかった。

 

「でもこれで殴ってきた相手の腕を砕けるようになったぞ」

 

「うわあ……」

 

 知らずに攻撃を当てれば反撃を食らうという、中々に面倒な技である。格闘戦主体の尾白はその面倒さに引いている。

 

「でもこれで必殺技が完成したんじゃない?」

 

「これは必殺技じゃないよ。全然関係の無い技。必殺技はもう少し派手なのをそれっぽく作るよ」

 

 地味だから必殺技にはしない。職業ヒーローが人気を得るためには派手さが必要なのだ。普段から地味と言われている尾白は身につまされる。

 

 その後も彼らは訓練を続けた。

 

 

 

 古瀬は商店街で花火大会のチラシを見かける。それを持って寮へと戻る。

 

「みんないる?」

 

 B組の寮に入ると、何人かの生徒がそこにはいた。

 

「花火大会に行かない?」

 

 古瀬はチラシを他の生徒たちに見せる。しかし反応は芳しいものではなかった。

 

「んー、今はちょっとどうなのかな?」

 

「この前ヴィランによる襲撃があったばかりですし、人が集まる場所は避けた方がよろしいですぞ」

 

「ショッピングモールにもいたらしいしな」

 

「必殺技の習得で忙しいしね」

 

「そもそも外出許可が下りないんじゃないか?」

 

「そっかあ。まあ、言われてみれば確かにその通りだね」

 

 それもこれも、全部ヴィラン連合って奴が悪いんだ。

 

 取り敢えず、古瀬は外出許可を出してみる。

 

「外出許可? どこに行くんだ?」

 

「花火大会です」

 

 どうするか、ブラドキングは相澤と相談を始める。最終的に、教師が同行するのであれば許可するという事になった。

 

 古瀬は再度寮へと戻る。

 

「みんな、花火大会行かない?」

 

「その台詞さっきも聞いたぞ」

 

「教師の同行付きなら行ってもいいって」

 

「何でそういう所だけ全力なの」

 

「いいじゃん。拳藤、行こうよ」

 

「花火、夏祭り、かき氷、日本の夏には欠かせまセーン!」

 

「悪いが俺は断る。必殺技の方を優先したい」

 

「俺もいかねぇ! 今は特訓の方が大事だ!」

 

 何人かに聞いて回った結果、B組の八人で行くことに決まる。思ったよりも少な目だな、と古瀬は思った。

 

「A組も誘ってみるか」

 

「おいおい、トラブルを引き寄せるA組を誘う気かい? A組なんて呼んだらまたヴィランが出てきて中止になるかもしれなあ!」

 

「物間、あんた誘われた?」

 

 物間の表情が固まり、古瀬の方へと顔を向ける。

 

「もちろん物間くんも誘わせてもらうよ。でもA組とは揉めないでね」

 

「仕方ないなあ。そうまで言われたら僕がA組との格の違いを教えてあげるよ」

 

「目茶苦茶嬉しそうじゃん」

 

 A組を誘った所、それなりの人数が来ることになった。青山も誘ったが、流石に許可が下りなかった。

 

 A組参加者十三名、芦戸、蛙吹、飯田、麗日、尾白、上鳴、砂藤、耳郎、瀬呂、轟、葉隠、峰田、八百万。

 

 B組、拳藤、小大、古瀬、角取、取蔭、骨抜、物間、柳、鱗。

 

 外出許可を取って、夕方に集合する。引率はブラドキングと相澤が行う。

 

「何だかんだ二十人を超えたな。緑谷くんは?」

 

「必殺技をもうちょっと頑張るって」

 

「君たち、今回はヴィランを引き寄せたりしないでくれよ?」

 

「何だこいつ!」

 

 彼らは屋台を回り、食べて、飲んで、騒いで、遊んで、花火を見て、何事もなく終了する。特にヴィランが現れるなどはなかった。

 

「こういうのでいいんだよ! こういうのでいいんだよ!!」

 

「写真送ったら、回原が『行けばよかった』って泣いてる」

 

「何やってんだ」

 

「このまま二次会行こう!」

 

「駄目だ。問題が起きない内に速やかに帰るぞ」

 

 何人かは相澤に引きずられて、彼らは寮へと戻る。そのままA組B組、男子女子と別れて行き、自分たちの部屋に戻って就寝した。

 

 

 

 八月下旬、古瀬は他科の生徒たちと交流している。

 

「見えた、水の一雫」

 

 周りの攻撃を軽くいなし、静かな淀みの無い動きによって、相手の手足が霞を殴るが如く空を切る。

 

「というわけで、明鏡止水を習得した」

 

 別の日、尾白との訓練で古瀬はそう言う。実際にどのようなものなのか見てもらう。

 

「うん、ごめん。分からない」

 

 元が強すぎるため、明鏡止水の使用前と使用後で、何がどう変わったのかが周りには分からなかった。

 

 もしかしたら実力があるヒーロー科の生徒なら分かるんじゃないかと期待したが、特にそんな事は無かった。

 

「せっかく習得したのに周りから理解されない。悲しいなあ」

 

「まあ、うん。結局どういうものなの?」

 

「淀みの無い鏡面世界というか、感情の乱れが無い静かな世界というか。極めて平静な状態といえばいいのかな?」

 

 光ったり、外見に劇的な変化があるわけではない。Gガンダムのハイパーモードとはたぶん違う何かである。

 

「精神的に強くなったってことかい?」

 

「得られる恩恵としては、気や五感による周辺認識能力の精度向上、範囲拡大。より正確に相手の動きを把握できたり、周りの動きが遅く感じるようになる」

 

 気を使った能力も大幅に上がるが、最小の動きで相手を制せるため、大きなを使う必要が無い。超人社会で力こそ正義みたいな部分があるため、それがむしろ周りに分かりにくくさせていた。

 

「せっかく覚えたのに、周りから見ると全く違いが分からないんだな」

 

 手を抜いていたか、そうではないか、くらいの認識差しか生まれない。

 

 期待していたわけではないが、それでも落胆はあった。

 

「まあ仕方がないか」

 

 古瀬は明鏡止水を覚えた。

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