無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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仮免許

「仮免って本来は二年でとるものなんだよね? それで試験が毎年六月九月の二回。それでA組B組が別々の会場で受けていると。でも全国三カ所で行われるなら、雄英の二年生ってどこにいるんだろう? 残り一カ所で全員受けているのかな?」

 

「去年、イレイザー、全員除籍」

 

「うわぁ……だから一年は前倒しできたんですね」

 

「一応半数は残ってるはずだけど、六月に受かったか、全員落ちていても残る一カ所で足りるってわけね」

 

 原作だとオールマイトの引退無かったらお前ら殆ど除籍だ、などと言っている。この世界だとオールマイトはまだ引退していないが、一応A組は誰も除籍されていない。

 

 B組生徒とブラドキングは現在、仮免試験会場へと向かっている。緊張している者、いつもと変わらない者、生徒たちの様子は様々だった。

 

 試験会場に到着した後、生徒たちはコスチュームに着替える。その後、公安委員会の人間から試験内容についての説明が行われる。

 

 一次試験の内容は、受験者が身に付けたターゲットにボールを当てるというもの。受験者はおよそ千五百人で、先着百人が勝ち抜ける。

 

「勝ち抜けか。最初は様子を見たいけど、守っていたらすぐに試験が終わりかねないか」

 

「かなり攻める必要がある試験ですな」

 

「ここは全員で協力しよう!」

 

 物間がそんな事を言い出す。古瀬は広範囲技が少なく、多対一があまり得意ではない。そのためその提案は願ってもないものだった。

 

 試験開始と同時に、周りの受験者から雄英生徒は一斉に狙われる。

 

「向こうから来てくれるなら、むしろ好都合だろ!」

 

 B組生徒は協力しつつ、他の受験者を撃破していく。脱落者を出すことなく、一次試験に合格した。

 

 二次試験は救助活動、その行動が適切かどうかを減点方式で採点される。

 

「まず私が歩行可能か確認しろよ! 呼吸の数もおかしいだろ! 頭部の出血もかなりの量だぞ!」

 

「めんどくさ」

 

「まあまあ」

 

 各々チームに分かれて救助活動を行う。古瀬は気を探知して、まだ救助できていない人の位置を救助活動している人に伝える。

 

 しばらくして、ヴィラン役のプロヒーローが現れる。

 

「あれは、シシド!」

 

「シシド?」

 

 ヒーロービルボードチャートJP、この時点だとまだ出ていないが、下半期13位の実力者。ギャングオルカとはライバル。

 

「何かあっちの方、人が吹き飛んでないか?」

 

 この時点で受験者たちは、救助活動を継続する人、救助者が集まる救護所の避難と警護をする人、仮想ヴィランを倒す人の三種類に分かれていた。

 

 仮想ヴィランの方へと向かった人たちが、軒並み吹き飛ばされている。

 

「ヴィランの足止めができてない!」

 

「駄目そうだね。ちょっと行ってくる」

 

 古瀬は足止めのために、シシドの方へと向かう。到着するとそこは、何人もの受験者が倒れ、救助演習場よりよほど凄惨な事件現場と化している。

 

「どうしたテメェら、気合が足りてねぇぞ!!」

 

「うわぁ……」

 

 その場には古瀬の他にも、何人かの受験者がいる。彼らは協力して、仮想ヴィランの足止め、撃退を行っている。

 

 古瀬はシシドが他の受験者と戦う中、不意打ち気味に雷撃を纏わせた足を振り下ろす。

 

「こんなもんで!」

 

「まあ、倒れませんよね」

 

 G・M・Aは力任せに振り解かれそう。投げ技も効果は薄そう。拘束する前に弱らせる必要があるように古瀬は感じた。

 

 相手が反撃に転じる前に、即座に二撃目を叩き込む。シシドは腹部を殴られて壁に叩きつけられるが、よろめきながらも立ち上がってくる。

 

「意外に頑丈ですね」

 

 しかしその後は他の受験者との共闘によって、シシドは拘束される。それから間もなく、試験終了のブザーが鳴る。

 

『配置された全ての人員が救助されました。これにて仮免試験全工程終了となります!』

 

 それからそれほど時間が経たずに、合格者が発表される。B組生徒は全員が合格していた。

 

 その後、合格した生徒には仮免許証が発行されるが、古瀬には発行されなかった。

 

 

 

 後日、古瀬は校長室へと呼び出される。そこで仮免許証が発行されない事についての説明が行われる。

 

「公安委員会から、仮免許証の発行は待つようにとの通達があった」

 

 古瀬は怒っても悲しんでもない。いつもと同じ、笑うような顔をしている。

 

「ヒーロー資格とは元々、個性の使用を限定的に許可するために作られたものだ。委員会は無個性の君に、ヒーロー資格を与えることに懐疑的なようだ」

 

 ブラドキングは反論を述べるが、校長はそれを手で制する。

 

「もちろんこれは我が校の方針とは異なる。我々は公安委員会に仮免許を発行するように求めるつもりだ」

 

 しかし、と校長は付け加える。

 

「公安委員会から君に招待状が来ている。公安委員会本部に来て実力を示すことができれば、仮免許を発行するそうだ」

 

 古瀬は校長から日付と時間が記された招聘状を受け取る。

 

「我々が公安委員会を説得するのを待ってもいいが、これはより早く確実に手に入れるチャンスかもしれない。どうするかは、君に任せるよ」

 

 しかしこの招待はもっと悪辣な、罠のようなものである可能性もある。そのため校長は、積極的に行くように勧めようとはしなかった。

 

 古瀬は渡された封筒を見る。その場で表情を変えることはなかった。

 

 

 

 数日後、古瀬は公安委員会本部へと訪れる。受付に招待状を渡すと、上の階の指定した部屋へと向かうように伝えられる。

 

 そこは控室のような部屋で、古瀬はしばらくそこで待たされる。その後、呼ばれて別室へと向かう。

 

 連れていかれた先は、広い部屋だった。殆ど何も無いのにしっかりとした造りの高そうな部屋で、スーツを着た十数人の人間が正面と左右に並んで座っている。

 

 古瀬は周りに囲まれた中心へと立たされる。その顔には笑みを浮かべている。

 

 周りを囲んでいる内の一人から、名前と生年月日、年齢の確認が行われる。

 

「無個性、間違いありませんね」

 

「はい」

 

「それでは、古瀬井梨に仮免資格を与える否か、審議を始めます」

 

「まず聞きたいのは、君には特殊な力が使えるとか」

 

「特殊な力なんてありません。僕が使っているのはただの技術、誰にでも使えるものです」

 

「その辺りはこちらでも確認しています。その上でそれを手に入れた、具体的な経緯について説明してください」

 

 古瀬は過去の出来事について話す。様々な個性を研究して、訓練によって身に付けたものであることを説明する。

 

「胡散臭えな。本当にあるのかそんなもん」

 

「そのような物が本当にあるのか、怪しいものですな」

 

 強面の中年男性が口を開く。

 

「ヒーロー資格ってのは、個性の使用を限定的に許可するために発行されるもんだ。無個性の人間には必要のないもんだ」

 

「ヒーロー資格とは、ヒーロー活動を行うための、国家公務員になるための資格です。無個性かどうかは、取得の可否に関係ありません」

 

「確かに嘗ては個性の使用を許可する物という側面が強かったのかもしれません。しかし現在は公務員資格としての側面が大きいです。別によろしいのではありませんか?」

 

 本人そっちのけで議論が始まる。公安委員会も、この議題に対して意見が分かれている様子だった。

 

「しかしだねえ、やはり無個性に許可を与えるというのは」

 

「そうだよ。こいつに資格を与えて、このヒーロー社会でやっていけるのか?」

 

「結局の所、彼に戦う力があるのかどうか。それこそが重要なのだ」

 

「その辺りは模擬戦で確認すればよいのでは?」

 

「ならやればいいだろう。そこで実力を示せなけりゃ、この話はここで終わりだ」

 

 公安委員会の一人が鼻を鳴らす。委員会の一人が、公安委員長へと視線を向ける。

 

「確かに百聞は一見に如かず。まずは見てみるのが早いかもしれませんね」

 

「何をするにしても、まずは実力の確認が一番です」

 

 公安委員会の一人が、古瀬の方へと視線を向ける。

 

「これより模擬戦を行います。ですが君には断る権利があります。どうしますか?」

 

 古瀬は模擬戦を行う事を伝える。

 

 模擬戦の相手を呼んでくるようにと、公安委員長が後ろに控えている女性に伝える。

 

 その間、古瀬に声はかけられない。何も言われず、ただ待たされる。

 

 それから少しして、上から男が降りてくる。

 

「いやあ、お待たせしました」

 

 ホークス、ヒーロービルボードチャートJP上半期3位。公安直属。

 

 ヒーローに殆ど興味が無い古瀬ですら名前を知っている男であった。

 

 古瀬は、これは受からせるつもりが無いな、と思った。ただの仮免試験にナンバー3ヒーローを呼ぶなんて、どう考えても戦力として過剰すぎる。

 

「これよりあなたにはホークスと戦ってもらいます」

 

「ホークス、手加減無しでやれ」

 

「ホークス、実力の確認をお願いします」

 

「はいはい……」

 

 苦笑するような、どこか呆れるような顔でホークスは答える。

 

「それでは始めてください」

 

 公安委員会の人間は、立ち上がって少し後ろに下がる。移動を終えた後、ホークスが少しおどけた様子で古瀬に言う。

 

「着替える時間くらい上げようか?」

 

 古瀬の服装は現在制服、体操服ですらない。対してホークスはコスチュームである。

 

「必要無い。我々も忙しい。手短に済ませろ」

 

 公安委員会の言葉を聞いて、はいはい、とホークスは笑う。コスチュームは戦闘力を底上げする。ただでさえプロと素人なのに、服装でさらに差を付けられる。

 

 古瀬の表情は先程から変わらない。その笑みから、彼の心情は窺えない。

 

 勝たせるつもりが無い、負けることを望まれている。哀れみはするがホークスに手を抜くつもりは無かった。

 

「これだけ付けさせてもらっていいですか?」

 

 古瀬はカバンの中からガスマスクを取り出す。コスチュームの物ではない。その辺の市販品である。

 

「ガス攻撃でもするつもりかい?」

 

「ただのお守りみたいなものです」

 

 もし緑谷なら、周りが予想しない行動をして、『こいつにはヒーローの素質がある!』とか周りが勝手に思うのだろうか。負けはするがホークスや周りから気に入られて、結局なんやかんや仮免を手に入れるのかもしれない。

 

 同じ無個性でもあいつは特別で、自分は、何だろう。人を動かす力なんて無くて、周りを変える事も無くて、無価値で生きてすらいない。

 

 何もしなければ、何もできないままの案山子でしかいられない。行動と力でしか、自分には周りを変えられない。

 

 そんな事を古瀬は思った。ガスマスクを被って、準備を終える。

 

 その場の誰も、ホークスの勝ちを疑っていない。負けるなどとは思っておらず、どのように勝つかに思いを馳せるのみであった。

 

「もういいのかい?」

 

「はい。僕なんかじゃ相手にもならないでしょうが、よろしくお願いします」

 

 古瀬は指に気を集める。会話の後すぐに、審判が開始を告げる。

 

「始め!」

 

 ホークスは様子を見るために、宙に浮こうとする。この時、彼の心には確実に油断があった。

 

「重重重重重、グラビデ×5、32倍重力」

 

 古瀬が持つ技の中で、唯一の広範囲対空技である。古瀬が掌を床に付けると同時に、ホークスの体が床へと叩きつけられる。

 

 即座に技を解除し、古瀬はホークスへと接近する。立ち上がりきる前に、ホークスの首を片手で掴み上げる。

 

 ホークスの羽の何枚かが、古瀬の体を動かそうとするが、触れると同時に総身によって砕けて消える。

 

「いーち、にーい」

 

 古瀬は少しずつホークスの首に加える力を強める。

 

 足場を崩そうとすれば避けられ、持ち上げようとすれば羽は壊れ、物をぶつけようとすれば躱される。

 

「さーん、しーい」

 

 カウントが進むごとに力が強まる。気を失うのは時間の問題であった。

 

 奥の手が無いわけではないが、危険なため使わなかった。仮に使っていたとしても、斬撃系のため古瀬には効かない。

 

 やがてホークスは両手を上げる。

 

「参った」

 

 その言葉と同時に手を放される。体が落ちることはなかったが、しばらくは顔色を青く、赤く変えていた。

 

「馬鹿な!」

 

「これで決まりですね」

 

 公安委員長は背を向けて歩いて行く。

 

「ホークス、手を抜いたんじゃないだろうな!」

 

「いやあ、結構真面目にやりましたよ?」

 

 その後、仮免を発行するため受け取るように古瀬は言われる。この部屋は会議で使うので、それまで別の場所で待つようにとのことだった。

 

 古瀬が廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられる。

 

「奇遇だねえ。ちょっと話でもしない?」

 

「ええ、もちろん構いませんよ」

 

 後ろにいたのはホークスだった。彼らは近くの店へと移動する。

 

「一応、説明しておこうかと思ってね」

 

 ホークスは焼き鳥を注文する。

 

「説明ですか?」

 

「そう。どうして君に仮免が発行されなかったと思う?」

 

「それは、あの人が言っていたように、僕が無個性だからじゃないんですか? ヒーロー資格は個性を使用するための許可証で、個性の無い人には必要無いからじゃ」

 

「ブブー、ハズレ。ヒーロー資格はヒーロー活動をするための資格だよ。個性の使用許可はそこに付随する権利の一つに過ぎないさ。個性が無いからヒーローの資格が取れない、なんておかしな話だろ?」

 

「何か別の理由があるという事ですね」

 

 ホークスは運ばれてきた焼き鳥を食べる。

 

「そう。知っての通りこの社会は原則、個性の使用が禁止されている。ところがそこに、個性に由来しない異能を使う人間が現れた。これによって、公安はその異能にどう対応するかで意見が割れた。まあ多くの人は今日まで懐疑的だったけどね」

 

 なるほど、と古瀬は相槌を打つ。

 

「君は自分の力を技と呼んでいるけど、公安から見ればあれは技ではなく異能だ。しかも、誰にでも使える、ね」

 

「そういう言い方もできるかもしれませんね」

 

「公安の方針としては、超常的な力は原則禁止。でも今のままだと、この力は個性じゃないから好きに使っても問題ない、何て言い出す輩が出かねないだろ?」

 

「そうですね」

 

 最も、現在は個性と異能の違いが周知されていないため、古瀬は基本的に公共の場で技は使わない。

 

「でも問題になったのが、君が使っているのは本当に異能なのかってことだ。何らかのトリックなんじゃないかって意見も少なからず存在した。だからあれはトリックで、禁止はあくまで個性に留めるべきだとする保守派と、対応しなきゃまずいだろという対応派に分かれた。その結果意見が纏まらず、君の仮免は発行されなかったってわけだ」

 

 そうなんですね、と古瀬は相槌を打つ。今となってはそういった物があったんだなあ、くらいの感慨しかない。

 

「その内意見も統合するだろうし、ここまでの混乱は今日くらいだろ。だからまあ、今日の事はそんなに気にしなくていいと思うよ」

 

 古瀬は店から出た後、ホークスと別れる。その後、仮免を受け取り学校へと戻った。

 

 

 

 古瀬は尾白と特訓をしている。

 

「新しい技を作ったから、ちょっと受けてみて」

 

「安全な技なんだよね?」

 

 今回はメタ的に、使えはするけど、今後使う予定が無い技シリーズである。もしかしたら使うかもしれないし、使わないかもしれない。

 

 必要な技はもう既に全て覚えている。空裂斬だけ紹介していないが、闘気と心眼が習得条件なので既に使える。

 

『一つ目はテレパシー!』

 

 界王様が使っているのを思い出し、便利だと思って習得した。原理は気を相手に送るという単純な物。ヒロアカだとマンダレイが同様の個性を使える。

 

『相手に言葉を伝えることができるし、相手が見ているものを見る事もできる』

 

 界王様ってテレパシーを使う際、その場所の状況も分かっていたよね。と思い出し、同様の事ができないから色々試した結果こうなった。ちなみに界王様が現場見れているのは千里眼を使えるから。

 

「これってマンダレイの上位互換なんじゃ」

 

 でも今の所使う予定が無い。たぶんどこかで使いはする気がする。

 

「二つ目は一点眠打、指で相手の頭部を突くことで相手を眠らせられるんだ」

 

「えっ、怖い。それって安全な奴なの?」

 

「これまで何度か動物に試したけど、特に問題は無かったよ」

 

 相手を拘束するために開発した技である。ただし長時間眠らせられなかったり、強者相手には効かなかったりと、中々に使い勝手が悪く、出番が無い。

 

 傷つけずに無力化する、という点で見れば優秀な技なのだが。

 

「待って。本気で使うの?」

 

「はい、気を楽にして」

 

 額を突かれて尾白は眠る。話す相手がいなくなったため、古瀬は訓練を終了する。

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