無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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インターン

 全校集会で、校長がインターンについて触れる。古瀬の記憶があてになりそうな最後のイベント、インターン編の始まりである。

 

 インターンの詳しい説明は、ブラドキングから行われる。

 

「仮免許を取得したことで、お前たちはこれまで以上に本格的なヒーロー活動が可能となった。ヒーローインターンとは、仮免を取得したものが行える、本格的なヒーロー活動の事だ」

 

 インターンは校外のヒーロー事務所で行われる。生徒の任意で行われる活動で、受け入れてくれる事務所は自分で見つけてこいとのことだった。

 

「仮免……あっ」

 

 周りの視線が古瀬へと向けられる。

 

「まあ、何だ。元気出せよ」

 

「学校が掛け合ってくれてるんでしょ?」

 

 古瀬は仮免を受け取った事を周りに言っていない。ただし学校側には流石に言っている。

 

「知らないのか? 古瀬は既に仮免を持っているぞ」

 

「そうなの!? ちょっと言いなよそういう事は」

 

「ごめん。そんな公言するようなことでもないと思って」

 

 などと話しつつ、さらに詳しい説明を聞く。

 

「今日はインターンがどのようなものなのか話を聞くために、三年生に来てもらっている。入ってくれ」

 

 そう言われて教室に入って来たのは、通形ミリオ、天喰環、波動ねじれ、の三名であった。

 

「この三人は三年生のトップ、通称ビッグ3だ」

 

 通形ミリオ、個性は透過。発動中はあらゆる物をすり抜ける。個性破壊弾を撃たれる。

 

 天喰環、個性は再現。食べたものの特徴を自分の体に再現できる。

 

 波動ねじれ、個性は波動。自身の活力をエネルギーにして衝撃波を放つ。

 

「それでは簡単に自己紹介を頼む」

 

「駄目だ、何も言葉が出てこない。帰りたい……」

 

「彼はノミの天喰環、それで私が波動ねじれ。今日はインターンについて皆に話をしてほしいと頼まれてきました。けどしかしねえところで」

 

 波動ねじれはB組の生徒の気になった所を質問していく。しかし古瀬を見ても、特に気になる所は見つからないようだった。

 

「君は、特に気になる所は無いかな?」

 

「無個性ですからね。でも僕は波動先輩の事に興味がありますよ。先輩の個性は波動でしたよね。僕も波動拳という技を使うので、参考になるかもしれないので、先輩の個性に興味があります」

 

 古瀬と波動は話を弾ませるが、その辺にするようブラドキングに止められる。

 

「大トリは俺、通形ミリオ。前途!!? 多難、っつってね。よし、掴みは大失敗だ!」

 

 このままインターンの話をするのかとB組生徒は思っていたが、通形ミリオは模擬戦をしようと言い出す。

 

「いいでしょ、ブラド先生!」

 

「ふむ、お前たちどうする?」

 

「私は普通に体験談が聞きたいんだけど……」

 

「いいぜぇ……、戦ろうぜぇ……」

 

「よっしゃあ、雄英トップがどんなもんか確かめてやる!」

 

「戦闘狂メンバーが駄目みたいですね」

 

 B組生徒は体操服に着替えて体育館へと移動する。割とみんなやる気だった。

 

「どうやって戦る? 数人ごと? 一人ずつ?」

 

「波動先輩たちも戦うんですか?」

 

「いいや、戦うのは俺一人さ。全員でかかってきな!」

 

「いや、全員で来いと言われましても」

 

「そう言うってことは、一対多に強い個性なんじゃないかぁ?」

 

「予め言っておくが、ミリオの個性は一対多に特化したものじゃない。ミリオ、止めた方がいい。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

 

 B組生徒は、天喰のビッグマウスに苛立った様子を見せる。舐められていると、顔を互いに見合わせる。

 

「それなら、遠慮なく行かせてもらおうかな!」

 

 物間が周りの個性をコピーして先陣を切る。奇襲するように攻撃を仕掛ける。

 

「物間!?」

 

「せこい」

 

「油断している方が悪いのさ!」

 

 しかし通形は全くの無傷だった。それを見て、B組生徒たちは驚愕する。

 

「そりゃあ、雄英のナンバーワンが弱いわけないよな」

 

 全員が戦闘態勢を取る。一斉に攻撃するがすり抜ける。

 

「まずは遠距離持ちだよね!」

 

 通形は、一番後ろから様子を見ていた古瀬の背後に現れる。古瀬は跳躍して躱し、体育館の天井に掴まる。

 

「これってどれくらい全力でやっていいんですか?」

 

「全力だ!」

 

 ブラドキングの言葉を聞いて、古瀬は手を放して下に降りる。降りる頃には、他の全員が倒されていた。

 

「累計で十秒くらいだったんだけどな」

 

 通形が古瀬の背後に現れる。振り返ると同時に腹を殴られるが、総身によって殴った通形の手の方が砕ける。

 

 通形の様子がおかしい事に周りが気付く。腹部を殴ったまま動かない。

 

「痛ったあああああああい!!」

 

「通形!?」

 

 通形は殴った方の手を押さえる。その手が折れていることは明白だった。

 

「リカバリーガールを呼んできますね」

 

「いや、こちらから運んだ方が早い」

 

「これくらい、大丈夫さ!」

 

「言ってる場合か。安静にしてろ」

 

 通形はロボットに運ばれて行く。やってしまったと思いながら、古瀬はその姿を見送った。

 

 

 

 古瀬は休み時間に通形の様子を見に保健室へと向かうが、既に治療して教室に戻ったとのことだった。そのまま通形の教室へと向かう。

 

「あ、通形先輩」

 

 途中の廊下で通形、天喰、波動の三人に遭遇する。

 

「やあ、さっきぶりだね!」

 

「手の方は大丈夫ですか?」

 

「リカバリーガールのおかげでこの通り、もう平気さ!」

 

 通形はギプスを付けている。治療はしたが、今日はまだ安静にしていろとのことだった。

 

 古瀬は改めて謝罪をする。

 

「先程は申し訳ありませんでした」

 

「気にしないで! こっちから言い出した戦いだしね! それよりさっきのはどうやったの?」

 

「えっと、どこからでも攻撃を打てる技があって……」

 

 通形と古瀬が話す横で、天喰は壁と向かい合っている。

 

「何も知らずに、上から目線で語ってしまった……」

 

「私も聞いてもいい?」

 

 古瀬は少し三人と話した後、教室に戻る。その間に、これからの行動方針について考えることにする。

 

 古瀬としては、できれば麗日、次点で切島と同じ事務所でインターンを受けたい。

 

 ただし説明を聞いていて思ったのが、インターンは生徒側が望んだ事務所に行けるわけではなく、相手側の意向が大きく反映される。相手側に気に入られる必要があり、同じ事務所に行くのはかなり難しそうだと思った。

 

 まあ別に、行かなくても困ることはない。緑谷への嫌がらせができないというだけで。

 

 詳細は不明だが、戦闘時に壊理がいないと緑谷は困るらしい。だから古瀬は真っ先に突入して、壊理を確保した後、そのまま離脱しようと思っていた。

 

 しかし死穢八斎會の状況が不明なため、そもそも対死穢八斎會戦が起きるかどうかが分からない。そのため絶対に行きたいかと聞かれると、首を傾げる状態であった。

 

 古瀬は壊理の居場所を知らない。気を探せば見つけられるが、どうせ会いに行くわけでもないしと、探してもいなかった。

 

「失礼します。みんなインターンどこにいくか決まった?」

 

 A組の教室に入って、古瀬は周りに尋ねる。

 

「まだ説明されてないです」

 

「インターンって何?」

 

 A組はまだインターンに関する説明が行われていなかった。逆にインターンは何なのか、古瀬の方が押し寄せるように質問を受ける。

 

「インターンは校外で行われる任意のヒーロー活動、みたいなものかな? 事務所側に受け入れてもらって、そこで活動する感じなのかな?」

 

 古瀬もインターンについてよく分かっているとは言い難い。何となくそんな感じだと、ふわっとした説明を行う。

 

「こちらが事務所を指名して行う形式ですか?」

 

「職場体験とか、とにかくコネを活かして見つけてこい話だったよ」

 

「私達だとガンヘッドさんに頼むことになるんかな?」

 

「どうなんだろう?」

 

 記憶では、麗日のインターン先はガンヘッドではなかった。その可能性もあるのか無いのか、正直、古瀬にはよく分からなかった。

 

 まだ話すら聞いてない以上、これ以上聞いても仕方がない。そう思って、古瀬はB組の教室へと戻る。

 

 しばらく周りの様子を見ながら、どうするか考えることにした。

 

 

 

 サポート科工房、古瀬は新たなアイテムの開発を行う。

 

「本日の開発品はこちら、透明化スーツ。葉隠さんの協力を得て作成しました。許可があれば商品として販売し、その利益の半分を得られますがどうしますか?」

 

「やらないよ! こっちの商売あがったりだよ!!」

 

「ですよね」

 

 葉隠は怒ったような動きをする。誰でも透明になれるとなれば、葉隠の個性が目立たなくなる。それはヒーロー活動をする上で致命的である。

 

「正直、僕もそうだろうなあ、とは思っていました」

 

「くけけ、だがこのスーツには多くの欠点があるんだろう?」

 

「今の段階では他のサポートアイテムとの併用が難しかったり、体の多くの部分を覆う必要があるため、スーツが破けるせいで近接戦との相性が悪いという欠点もありますね」

 

 研究を続ければ改善できそうではあるが、と付け加える。

 

「駄目だからね!?」

 

「まあ、このスーツ自体は葉隠さんの劣化型でしかないんですけどね。レーザーに対して完全にノーダメとはいきませんから」

 

 電力も必要だし、光の屈折率も葉隠ほど自由に変えられるわけでもない。

 

「それじゃあ残念だけど、破棄するか」

 

 古瀬は透明化スーツと資料を焼却処分する。それを見て葉隠は驚く。

 

「万が一にでも流出したら困るだろう? だから研究資料も含めて、全部破棄するよ」

 

「うおお、思い切りが良すぎる」

 

 古瀬は工房でサポートアイテムの開発、作成、破棄を行った。

 

 

 

 数日が過ぎ、一年生の内、何人かのインターンが決まる。

 

「リューキュウ?」

 

 その名前を聞いて、古瀬はその場でどんなヒーローか調べる。

 

 リューキュウ、個性はドラゴン。巨大な竜に変身できる。

 

「うん。波動先輩の紹介で、梅雨ちゃんと一緒に受け入れてもらった」

 

「今はその四人で活動しているんだ」

 

 女性ばかりだし、自分が入るのは難しそうかな、と古瀬は思った。無理やり入ってもいい事は無いだろうし。

 

「飯田くんは?」

 

「僕は行っていない。受け入れてくれる事務所があれば……」

 

「一年生は実績が多い事務所に限り許可する、だからね」

 

 そんな事務所との伝手を得るのはなかなかに難しい。でも飯田なら、兄の伝手を使えば何とかなりそうではある。

 

「緑谷くんは?」

 

 表面上、取り繕いはする。おそらくサー・ナイトアイだろうなと思いながら、古瀬は緑谷に尋ねる。

 

「僕はその、今度通形先輩の事務所を紹介してもらう予定で……」

 

「そうなんだ」

 

 古瀬は素っ気なく、そう相槌を打つ。一応会話くらいはするが互いに距離があり、古瀬は緑谷に思う所があり、緑谷は無個性の古瀬にほぼ関心が無かった。

 

 そうなると、死穢八斎會に関わるかどうかは不明だが、切島の事務所に受け入れを頼んでみようかと古瀬は思った。

 

 その場から離れて、切島に声を掛けに行く。

 

「切島くんはインターン活動やってる?」

 

「おう。俺はファットガムの事務所にお世話になってる!」

 

 ファットガム、個性は脂肪吸着。彼の脂肪は何でも吸着し、沈められる。衝撃を吸収して抑え込み、一気に放出する技もある。

 

「実はお願いがあるんだ。インターン先に、切島くんの事務所を紹介してもらえないかな」

 

「いいぜ!」

 

 古瀬が頭を下げて頼むと、切島は快活に承諾する。

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「と言っても、俺にできるのは先輩に紹介する事だけだけどよ」

 

 切島と古瀬は三年の教室へと向かう。

 

「天喰先輩!」

 

「切島、それにえっと……」

 

「古瀬です」

 

「こいつにファットガムの事務所を紹介してあげてくれませんか?」

 

 天喰は不思議そうというか、意外そうな顔をする。古瀬がファットガムの事務所に行きたがるタイプだとは思わなかった。

 

「いいよ」

 

「ありがとうございます」

 

「実際に受け入れられるかは分からないけど、ファットガムに聞いてみる」

 

 すぐに受け入れが決まり、古瀬はヒーローインターンのためにファットガムの事務所へと向かう。

 

「受け入れるのは構わんけど、スケアクロウ君、無個性なんやって? 大丈夫なんか」

 

「実力は確かです」

 

「よろしくお願いします!」

 

 実力が無い者を受け入れて、死なれでもしたら事である。頭を下げられて、ファットガムは少し考え込む。

 

「よっしゃ、分かった。このファットさんが面倒見たるわ!」

 

「ありがとうございます」

 

 それから彼らはパトロール活動を行う。ファットガムの事務所周辺はイザコザが多く、すぐに問題が発生する。

 

「喧嘩だ!」

 

 古瀬は気の探知によって、周りの状況を精密に認識している。問題が起きる前から発生を予見しており、問題が起きると同時に対処する。

 

 問題を起こした五人組をファットガムの方へと投げつける。

 

「はい、おつかれさん」

 

 五人組がファットガムの脂肪へと沈む。身動きが取れなくなり、そのまま警察へと連行されていく。

 

 基本的にこの行程だけで済むため、切島と天喰は活躍の場に恵まれなかった。すると今度は古瀬が気を使って、防げた問題を見逃し始める。

 

「ヒーローは実力社会。先輩やろうが後輩やろうが、そういう気の使い方はアカンで。それで被害を被るのは一般市民の皆様なんやからな!」

 

「はい」

 

 とはいえ現状四人いても手が余るのは事実。ファットガムは二手に分かれて様子を見ることにする。

 

「よし、二手に分かれるで! 烈努頼雄斗はサンイーターと、スケアクロウは俺とや!」

 

 本当は、天喰と古瀬を組ませて様々な対応を学ばせたかった。しかし全力でやらなあかん、と言っておきながら、現状相性がいい古瀬とファットガムの組み合わせを変えるのもどうかと思った。

 

 しばらくして、切島と天喰が何者かと交戦を開始する。

 

「あちらは誰かと戦っているみたいです」

 

「ほな俺らも援護に向かうで!」

 

「はい!」

 

 ファットガムと古瀬は、向かった先で天喰を発見する。その場には何人かのチンピラが倒れている。

 

「サンイーター、どないした!」

 

「烈努頼雄斗が発砲した奴を追ってる!」

 

「スケアクロウ、どっちや! サンイーターは無事ならここを任せた!」

 

「無事だけど、個性が発動しない!」

 

 天喰は何かを撃たれて、個性が発動できなくなる。

 

 古瀬はこれを聞いても、壊理とは結びつかなかった。もしかしたら模倣品かもしれないし、効果が一時的だったため、完全に個性を使えなくさせる個性破壊弾と、必ずしも同系統のものとは思わなかった。

 

 その後、古瀬と天喰は捕まえたチンピラを警察に引き渡す。切島とファットガムもしばらくしてから合流する。

 

「先輩は大丈夫なんすか?」

 

「辛い」

 

「個性が出ねえなんて、ヒーローにひでえ仕打ちだ。……いや、古瀬の事を悪く言いたいわけじゃねえぞ!」

 

「気にしてないよ」

 

 そうしていると、周りの人に声を掛けられる。

 

「烈努頼雄斗、ようやったな!」

 

「スケアクロウもええ働きやったぞ!」

 

 ヴィランの被害は地味だったが、捕縛はかなりの広範囲且つ派手に行っていた。

 

 切島は照れくさそうに返事をして、古瀬は奇術師のようにボウ・アンド・スクレープで一礼する。

 

 事務所へと帰る途中、ファットガムが呟く。

 

「しかし、個性を全く使えなくする薬いうんは、聞いたことが無いな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、俺は昔そういうんばっか捕まえとったんやけどな、初めて聞いたわ」

 

 それならやっぱり、あの少女関連なのかなあ、と古瀬は考える。彼はこの事務所が死穢八斎會突撃に関係するか分からないため、話半分に聞いていた。

 

 

 

 後日、古瀬がサポート科の工房にいると、ファットガムから呼び出しの連絡が来る。指定した場所に来るようにとのことだった。

 

「大阪じゃないな」

 

 確認した所、切島も同様の連絡を受け取っていた。

 

「何の用事だろう。コスチュームはいらないって書いてあるけど」

 

「行けば分かるんじゃねえか」

 

 数日後、古瀬は切島と合流して集合場所に向かう。その際に、緑谷、麗日、蛙吹の三人に遭遇する。

 

「おはよう、麗日さん、蛙吹さん、緑谷くん」

 

「梅雨ちゃんって呼んで」

 

「気が向いたらね」

 

 梅雨ちゃんと呼んでもらいたのは友達になりたい相手だけらしいので、自分なんかは呼ばない方がいいなと古瀬は思っている。

 

 彼らの行き先は全員同じ駅だった。

 

「全員同じ!? 奇遇だね」

 

「どう考えても偶然じゃないでしょ。君たちの目的地は? ちなみに僕らはここだよ」

 

 古瀬は三人に目的地を見せる。彼らの目的地もその場所と同じだった。

 

 これは死穢八斎會案件か? 奇遇だね、と意見を翻して古瀬は思った。

 

 到着すると、ビッグ3、相澤やグラントリノ、エンデヴァー、その他のプロヒーローなどが集まっていた。

 

 エンデヴァーの姿を見て古瀬は驚く。しかし自分がやったことを考えれば、居てもおかしくないのか? と考え直す。

 

 エンデヴァーいるなら、この案件楽勝なのでは? 

 

 そんな事を心の内で思っていると、死穢八斎會についての説明が行われる。

 

「おい、早く始めたらどうなんだ」

 

「そうですね。それでは死穢八斎會についての協議を始めさせていただきます」

 

 話の内容は、死穢八斎會がヴィラン連合に接触したよ。個性を破壊する弾を作ってるよ。その材料は人間だよ、その人間は轟壊理だよ。

 

「轟?」

 

 古瀬は小声で切島に尋ねる。

 

「ああ、轟の妹ちゃんだ」

 

 こそこそ話していると声が上がる。

 

「おい、エンデヴァー。どういうことだ!」

 

「順を追って話しましょう」

 

 ナイトアイが説明を行う。

 

「今から一年前、十二月二十五日に轟家の玄関前に子供が置き去りにされていました。それが現在の轟壊理です」

 

「置き去りとは穏やかじゃないね」

 

「その場には、この子を頼みます、という置手紙があったそうです。それ以降、この子供は轟家に保護されていました」

 

「ああ」

 

「あんたが保護施設に連れて行こうとするのを、俺と姉ちゃんが必死に止めたんだよな」

 

 古瀬は小声で切島に尋ねる。

 

「あれは誰?」

 

「さあ?」

 

「エンデヴァーの息子さんらしいで」

 

「何でそんな人がここに来てんですか?」

 

 轟夏雄、轟家の次男。エンデヴァーに対する感情が複雑。

 

「そして今年、八月三日に、轟冬美さんとの買い物の最中に、冬美さん共々何者かに誘拐されました」

 

 現在は九月中旬。エンデヴァーが歯を強く食いしばる。纏う炎が強くなり、部屋の温度が数度を上がる。

 

「そういえば、何でみんなコスチュームなんですか? 僕たち浮いていませんか?」

 

「必要無い言うただけで、着てきたらあかんとは言うてへんやろ?」

 

 エンデヴァーの圧が凄すぎて、話題に触れられない。

 

「つまり誰かがその子をエンデヴァーの家に置いて行って、その子がまた誘拐されたってことか? それってあんたの失敗なんじゃないのか、ナンバー2!」

 

「黙れ」

 

 ロックロックがその気迫に息を呑む。

 

「冬美も壊理もこの俺が助ける。絶対にだ!」

 

 少し間を置いて、リューキュウが質問する。

 

「つまり話の流れからすると、死穢八斎會が冬美さんと壊理ちゃんを誘拐したってことでいいのかしら?」

 

「何か根拠があるのか?」

 

「死穢八斎會が、壊理ちゃんと同じ特徴を持った子供を探していたことは確認が取れています。最も、ナンバー2ヒーローに喧嘩を売る度胸は無かったようですが」

 

「エンデヴァー、あんたはその事に気が付いていたのか?」

 

「壊理を保護して以降、怪しい奴が家の周りに現れるようになった。そのため、サイドキックに定期的に家の周りを見回らせていた」

 

「もう一つ、個性破壊弾が出回るようになったのは、壊理ちゃんが誘拐されてからです」

 

「疑うわけじゃないが、根拠としては弱くないか? もっと確定的な証拠は無いのか?」

 

「ファットガムが手に入れた弾の細胞が、病院で検査した際の、轟壊理のものと一致しています」

 

「確定やないか!」

 

 ファットガムが声を上げる。リューキュウがそれに同調する。

 

「悍ましいわね」

 

「若頭、治崎の個性はオーバーホール。対象の分解、修復が可能という力です」

 

「それはどの程度?」

 

「おそらくは人体の分解と修復が可能と思われます」

 

「つまりその力を使って、壊理ちゃんの体を弾丸にして売り捌いているってことだろ」

 

 エンデヴァーの圧がさらに強くなる。全員が暑いと感じている。

 

「それで、誘拐された二人がどこにいるかは判明しているのかしら?」

 

「俺なら本拠地には置いとかないね。攻め入るにしてもその二人が居ませんでしたじゃ話にならねぇぞ」

 

「八斎會と接点のある組織・グループ、及び八斎會の持つ土地。可能な限り洗い出しリストアップしました。皆さんには各自その個所を探っていただき、拠点となりえるポイントを絞ってもらいたい」

 

「二人の居場所が確定してから動くってことか? それじゃ遅すぎないか?」

 

「でも居場所が分からないなら、助けようがないだろ」

 

「俺は即時突入させてもらう」

 

 エンデヴァーが立ち上がってそう口にする。ナイトアイは、座ったまま眼鏡を押さえる。

 

「待ってください。二人の確実な救助のために、可能な限り情報を集めて確度を高めるべきです」

 

「それでは遅すぎる! 誘拐事件は時間と共に生存率が下がっていく。少しでも生存率を上げるためには、一刻も早い救助が必要だ!」

 

 この辺りは、確実な救助を求めるナイトアイと、身内が誘拐されているエンデヴァーで意見が異なるのはやむを得ない。

 

 どちらが正しいというものでもなく、互いに自分の意見と都合が存在する。

 

「悪いが好きにやらせてもらう」

 

「待ってください。今回チームアップ要請をしたのは私です。急ぎたい理由は分かりますが、無暗に突入しても居場所が分からなければ救助は困難です」

 

「ならば全ての施設へと一斉に突入するまでだ。活動可能なヒーロー全てを動員し、死穢八斎會に関連施設への同時捜査を行う!」

 

「しかしそれでは戦力の分散に……」

 

 エンデヴァーとナイトアイは、意見が合わずにしばらく口論を行う。

 

「船頭多くして船山に上りそうだ」

 

「エンデヴァーは絶対に折れなさそう。ここはナイトアイに折れてもらうしかないんじゃないですかね」

 

 やがて意見が決裂して、エンデヴァーは席を立つ。

 

「俺は明日、死穢八斎會への一斉捜査を行う」

 

 それだけ言って、部屋から出て行く。エンデヴァーが突入する以上、施設の捜査を行っても仕方がない。ヒーローたちは自分たちも突入に加わろうという空気になる。

 

「まあそれじゃあ、誰がどこを担当するか決めないとな」

 

 明日突入する施設についてエンデヴァーと話し合うために、多くのヒーローたちが部屋から出ていく。

 

「おいおい、どうすんだこれ?」

 

「まあ、俺等も加わるしかないやろな。俺もちょっと話し合いに行ってくるわ」

 

 古瀬がナイトアイの方を見ると、眼鏡を光らせながら暗い表情で沈んでいる。

 

「まあ、仕方がないか」

 

 古瀬であれば壊理の居場所は分かるのだが、なぜ分かるのか聞かれた場合に答えられないため言えなかった。死穢八斎會が壊滅しそうな現在、過去に連れ出したことを知られても問題は無いだが、なぜそれを行ったのか、の部分を言うつもりは無かった。

 

 壊理は死穢八斎會の本拠地にいる。ただし冬美の居場所は分からない。

 

 古瀬と切島は、一階に降りて緑谷、麗日、蛙吹の三人と合流する。周りが暗い雰囲気の中、古瀬は渡された資料を呼んでいる。

 

「必ず助けよう!」

 

「おお! 俺の力がその子の為ンなるんだったらやってやる!」

 

「そうね。小さな女の子を傷つけるなんて許せないもの」

 

「あんな話聞かされて、黙ってなんておれんよ!」

 

 古瀬は一旦、資料を机の上に置く。

 

「確か轟くんって、仮免は……」

 

「持ってない」

 

「仮免が無くて家族の救出に参加できないのか。それはつらい」

 

「仕方ないわよ。規則だもの」

 

 そうは言いつつも、蛙吹はどことなく悲しげな表情をしている。

 

「僕はどちらかと言えば冬美さんの方が心配かな。壊理ちゃんは一応身の安全は保障されているけど、冬美さんはそうじゃないから」

 

「安全って、体を材料にされてんだぜ!」

 

「相対的にって意味だよ。生きていれば救出できる。でも冬美さんは、どのような状態かすら分からない」

 

「実は私も同じことを思っていたわ」

 

 冬美が巻き込まれたのは、ある意味では古瀬が原因のため罪悪感があった。

 

 何もしなければもっといい結末があったかもしれない、なんてことになりかねない。古瀬だけが知っている、証明できない自分の罪。

 

「二人とも、必ず助ける!」

 

 周りは神妙な顔で頷いているが、具体的な手段も計画も無い。これで頑張って助ける、助かるのだから嫌いなのだと古瀬は思った。

 

「でもナイトアイの事務所は作戦に参加するのかしら?」

 

「た、たぶん大丈夫だよ」

 

「ここまで関わって、今更止めるってのは無いんじゃねえか?」

 

 当初立てていた計画が全部崩れて、主導権もエンデヴァーに取られた。おそらく作戦には参加するだろうが、思う所が無いといえば嘘になるだろうな、と古瀬は推測する。

 

「それなら心配いらないさ。僕がサーの代理で会議に参加してきたからね」

 

 通形、天喰、波動の三人が彼らに合流する。古瀬が通形に尋ねる。

 

「通形先輩、ナイトアイの様子はどうですか?」

 

「ちょっと落ち込んでるみたい」

 

 通形は苦笑しながらそう言う。

 

「先輩、俺らは明日どう動けばいいんですか?」

 

「それについて俺から話がある」

 

 相澤がやって来る。

 

「俺はお前たちにインターンの中止を提言しに来た」

 

「中止!?」

 

「何で今更!?」

 

「ヴィラン連合が関わっている可能性があると聞かされただろう」

 

 古瀬はA組の話だろうと思い、関係無さそうに資料を読む。

 

「それにビッグ3はともかく、お前たちの役割は薄いと思っている。お前たちは自分の意志でここにいるわけでもない。どうしたい」

 

「僕は、助けたい。助けられる人がいるなら」

 

 意外と主人公らしいこと言うもんだな、と古瀬は驚く。

 

「俺もやるぜ、イレイザーヘッド!」

 

「私も、止めときましょとはいきません!」

 

「先生が駄目と言わないなら、お力添えさせて欲しいわ」

 

 切島は肘で古瀬を小突く。

 

「ああ、僕もか。もちろん僕も参加しますよ」

 

「分かった。ただ、一番の懸念であるヴィラン連合だが、警察の見解では奴らは良好な関係にはないとのことだ。同じ場所にいる可能性は低いだろう」

 

 古瀬が持つ記憶では、死穢八斎會とヴィラン連合が接触した際に、揉めて一人が死んでいた。それに戦いが終わった後に、ヴィラン連合は治崎の両腕を破壊して個性を使えないようにしていた。

 

 ただし、死穢八斎會とヴィラン連合が現在は協力関係にあることは知らない。確かに良好な関係では無さそうだし、今回出てくることは無さそうだと古瀬は思った。

 

 話が纏まり、話題は明日の予定に移る。

 

「それで明日の事だけど、俺たちは同じ場所を担当することになった」

 

「僕らは全員、死穢八斎會の本拠地への捜索チームに加わる」

 

「学生組は同じ場所に纏めておけって感じだったよ」

 

「それだけではない」

 

 ナイトアイ、ファットガム、リューキュウが合流する。

 

「私は轟壊理がいるのは、本拠地の可能性が最も高いと見ている」

 

「サー・ナイトアイ!」

 

「もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ。こうなってしまった以上、我々も捜索に加わらないわけにはいかない。当初予定していた戦力よりも少ないが、できる範囲で最善の行動を取るしかない」

 

「それで、本拠地の可能性が一番高いっちゅう話やけど、結構前に組員が女児向けの玩具を買うとったそうや」

 

「組員の趣味かもしれないし、十日以上前だから既に別の場所に移送されている可能性もあるけど、現状これが一番信頼のおける情報よ」

 

「死穢八斎會本拠地の捜索は警察、サー・ナイトアイ事務所、ファットガム事務所、リューキュウ事務所、ロックロック事務所、イレイザーヘッド、エンデヴァーで行う」

 

「エンデヴァーと一緒に?」

 

「エンデヴァー一人だけですか? サイドキックは?」

 

「俺一人だ」

 

 エンデヴァー、そしてロックロックが合流する。エンデヴァー事務所は戦力の振り分けのために分散することになった。

 

「明日に向けて一つだけ言っておく。俺はお前たち学生には期待していない。せいぜい周りを見張っていろ。足だけは引っ張るな!」

 

 エンデヴァーは一睨みして帰っていく。学生組はその気迫に押される。

 

「俺もこいつらを連れて行くのは反対だね。足手纏いになるだけだ。せいぜい邪魔にならないように大人しくしてろ」

 

 そう言って、ロックロックも帰っていく。

 

 周りの空気が少し悪くなる。初のインターン、戦闘経験も周りと比べると殆ど無い。事実であるだけに言い返すことができなかった。

 

「まあまあ、いいじゃないか。僕らは僕らにできることをやろう。重要なのは、困ってる子がいる、でしたよね?」

 

 全く気にしていない様子で、いつものような笑顔で古瀬はリューキュウの方に視線を向ける。元々は彼女の言葉である。

 

「そうね」

 

「では明日は各々最善を尽くそう。今日はこれで解散とする」

 

「あ、ちょっと待ってください。一つだけ確認しておきたいんですけど、もし誘拐された二人を見つけた場合、どう行動すればいいんですか? 優先すべきは二人の確保なのか、敵の捕縛なのか」

 

「両方や。と言いたいところやけど、それが難しいようなら、被害者の保護が優先や」

 

 分かりました、と古瀬は笑顔で答える。これで壊理を確保した後に、その場から離脱する名目が立ったと思った。

 

 その日はそれで解散、学生組はそのまま学校へと帰ることにした。

 

「じゃあ、壊理ちゃんって体育祭に来てたんだ」

 

「ああ。轟の事を応援してたぜ」

 

「そうなんだ。エンデヴァーは見かけたんだけど、その子は見なかったな」

 

 のんびりと、明日はどうするか古瀬は考えていた。

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