治崎は部下に壊理を連れてくるように命じたものの、冬美まで誘拐してきたことは完全に誤算であった。連れてきた部下はすぐに処刑されている。
冬美は自分たちを拐ったのが死穢八斎會であると知っている可能性がある。そのためそのまま逃がすことはできなかった。
「どうしてエンデヴァーの娘まで連れてきた!!」
これによりエンデヴァーとの対決は避けられなくなった。たとえ今でなくとも、何れはこの因縁によって戦う事になるだろうと治崎は考える。
冬美を殺さなかったのは、壊理が懐いていたため、大人しくさせるのに使える。そしてエンデヴァーと戦う際にも人質として使えると考えたためである。
死穢八斎會はヒーローと警察による強制捜査を全く察知していなかった。そのため彼らは、決めていた通りの対応をすることになった。
死穢八斎會の捜査当日、参加者は全員が屋敷の前に集まっている。
「緊張してきた」
「昨日決まって今日だからね。僕もちょっと緊張しているよ」
古瀬もこの場の雰囲気によって、多少ではあるが緊張してしまう。
「ここに居りゃいいんすけどね」
「他の場所が当たりって可能性もあり得る。見つからなくてもあまり気負わずに行こう」
古瀬は気の探知で壊理がここにいると分かる。少なくとも移動している気配は無さそうだった。
警察の一人がヒーローたちの方へとやって来る。
「ヒーロー、多少手荒になっても構わない。少しでも怪しい素振りや犯行の意志が見えたら、すぐに対応を頼むよ」
その人物が死穢八斎會のインターホンを鳴らす。それと同時に巨体の人物が飛び出してきて警察数名を殴り飛ばす。
しかし即座にエンデヴァーに鎮圧される。吹き飛ばされた数名は、イレイザーヘッドと緑谷によって受け止められる。
エンデヴァーはそのまま中へと進んでいく。
「まず一名確保か」
「やべぇな」
中からわらわらと組員が出てきて抵抗の意志を見せるが、エンデヴァーによって鎮圧されていく。
「マジで俺たちの出番無さそうだな」
「低レベルダンジョンで無双する人みたい」
しかし数が増えてくると、流石にエンデヴァー一人では捌ききれなくなる。他のヒーローたちも組員の確保に動く。
「邪魔だ!」
彼らは建物内部へと突入する。するとそこには、着ぐるみのような小男がいた。その手にはタブレットを持っている。
『よお、エンデヴァー』
タブレットに治崎の姿が映る。そして別の映像が表示される。吊るされた籠の中に轟冬美の姿があった。
部屋はマグマを詰め込んだように燃えている。冬美は口を塞がれ、椅子に縛られていて動けそうにない。
『娘の居場所を教えてやる』
「貴様っ!」
『おっと勘違いをするなよ。お前に恨みを持つ奴が、お前の娘を誘拐し、俺が偶々その情報を手に入れた。これは善意の情報提供だ』
「ふざけたことをっ!」
『ただの事実なんだがなあ。信じないならそれでもいい。だが助けたいなら急いだほうがいい。炎が部屋の温度を上げ切るまでにどれくらい掛かるだろうな?』
小男がエンデヴァーにタブレットを投げる。そこには地図とピンが表示されている。
『もしかするとそれほど長くは持たないかもな。安心しろ。お前の娘の姿は、リアルタイムで映し続けてやる』
エンデヴァーが炎を放つと、小男は小さな隙間に入り込んで逃げていく。
「冬美っ!」
エンデヴァーが呼び掛けると、冬美はその声に反応してカメラへと視線を向ける。そして必死に首を横に振る。
少なくとも声に反応を示している。これが過去の映像という事は無さそうだった。
「行ってください」
「俺にヴィランの策略に乗れというのか!」
ナイトアイの言葉にエンデヴァーは激高する。
「もしこれがあなたを足止めするための罠だとすれば、あなたにしか助けられない仕掛けがある可能性が高い。その事実が後で分かった場合、もっと重要な場面で離脱することになりかねません」
「こんなものはただのハッタリだ!」
「その場所に冬美さんが本当にいるという可能性も完全には否定できません。オーバーホールにとって彼女は死んでも構わないという事はあなたも分かっているでしょう」
「行って、エンデヴァー。彼女の事はあなたに任せるわ!」
「ここは俺らに任しとき。壊理ちゃんの方は俺らがしっかり助けたるさかい!」
エンデヴァーは短く舌打ちをして地図の場所へと飛んでいく。
「すぐに戻る!」
その地点はここから離れており、救出も含めれば短時間で戻ってくることはできない。
穿った見方かもしれないが、上手く追い出して主導権を取り戻したものだな、と古瀬は思った。
「皆さん、屋敷の中を隈なく捜索してください」
「リーダーぶるない!」
「スケアクロウ!」
「はいはい」
古瀬は物質の気から、屋敷の内部構造を把握する。
「ここに隠し階段があります。すぐ先に三人が待ち伏せしています」
「烈努頼雄斗、ぶち破るで!」
「おう! 烈怒頑斗裂屠!!」
ファットガムと切島が攻撃するが、扉は多少凹んだ程度で開かない。この先には最も隠したい物がある。その扉は数十センチある、最新素材の防護扉だった。
「堅ぇ!!」
「どいて!」
リューキュウが竜へと姿を変えて拳を叩きつける。しかしそれでも扉が開くことはなかった。
ちなみに本来は板敷を決まった順番におさえる事で開く。
「しょうがないな」
古瀬が刀を抜いて扉を細切れにする。すると中から、待ち伏せていた組員が飛び出してくる。
「一人頼む!」
センチピーダーとバブルガールがその三人を取り押さえる。
「追って来ないようおとなしくさせます。先行ってください。すぐ合流します!」
二人はここで離脱する。その他のメンバーは先へと進む。すぐ先が壁で塞がれていたが、緑谷と切島が破壊する。
探索なら分かれて探したほうが効率がいい。それを行わないという事は、壊理の居場所が分かっているのか、それとも各個撃破を避けるためか。
そう思いながら、古瀬はどこかで離脱できないかと様子を窺うが、現状全員で固まって行動しており、一人だけこの場を離れるのは難しそうだった。
間を置かずに、三人の足止めが現れる。
「ここは俺らで相手する! 他のヒーローと警察は先に行き!」
「おっしゃ!」
「三対四か。一人足りてないな」
「先に行ってください。固まるより、別れて探した方が早い!」
古瀬、切島、天喰が一人ずつ足止め組員の相手をする。古瀬の相手は宝生結だった。
宝生結、個性は結晶。体からかなりの硬度を持つ結晶を生成する。結晶に金銭的価値は無い。
古瀬が接近すると、宝生は結晶を生成して防ごうとする。
「縁があるな。昔同系統の個性と戦ったことがあるよ」
古瀬の拳が結晶を砕き、宝生の鳩尾へと突き刺さる。そのまま顎を殴って意識を刈り取った。
周りを見ると、二人はまだ交戦中だった。切島は体の表面を、頑丈な顎を持つ多部によって食い千切られており、かなり苦戦している。
援護に回ろうと思った所で建物の地形が変わる。ミミックの個性、擬態によって床に大穴が空く。
ミミック、個性は擬態。物体の中に入りこんで操ることができる。本来は最大で冷蔵庫程度だが、個性ブースト薬を使えば地下全体を変えることも可能。
古瀬は布を配管に巻き付けてその場に止まるが、それ以外の人間は下に落ちる。開けられた穴はすぐに塞がる。
「分断されたか。こちらとしては好都合だ」
古瀬は気の探知によって壊理の居場所を特定する。地下にいる敵を避けながら、時折壁を破壊しながら最短ルートで突き進む。
流石に移動は物体をすり抜ける通形の方が速く、既に壊理と接触している事が分かった。後追いでその場へと到着すると、通形は壊理を抱きかかえており、オーバーホールと対峙している。
「大丈夫! 君の事は必ず俺が守る!」
「じゃあこの子は貰いますね」
古瀬は後ろから、壊理をひょいと取り上げる。通形は振り返り、一瞬呆気に取られたような表情をする。
古瀬はガスマスクを着けており、現在ヒーローの足止めを行っている治崎直属の部隊、鉄砲玉『八斎衆』は全員がマスクを着けている。
通形はくぐもった声と姿で誰か気付いたが、治崎の方は一瞬どちら側か分からなかった。
古瀬はすぐに踵を返して、その場から走り去る。両手で脇を掴んで、壊理を頭より高くに持ち上げる。
「待てっ!」
後ろで治崎が何か言っているが、聞く耳を持たなかった。音も無い素早い動きによって、古瀬は一瞬で彼らの視界から消える。
他の組員を避けながら、古瀬は地下から屋敷の外へと脱出する。
このままフェードアウトしてもいいが、周りが戦っている中で、一人だけ安全な所でぬくぬくしていると、ヒーローの行動としてはどうなのかと疑念の目を向けられそうだ、と古瀬は思った。
仕方がないので壊理の保護は誰かに頼んで、自分は再度屋敷に突入しようと思った。
近くに頼めそうな人はいないか古瀬は探す。その時丁度、その子を保護しようと申し出る警察官が現れる。
「そうですね。お願いします。ああそうだ、一応確認のために警察手帳を見せて貰っていいですか?」
古瀬は警察手帳を受け取る。本人のもので間違いなさそうだった。
「じゃあ名前と生年月日を言ってください」
警察官の表情が固まる。分かりましたと言った後に、古瀬は斬りかかられる。
「だからさっさと奪えって言っただろおが」
「うるさいですね。ちょっと失敗しただけです」
「ヴィラン連合? 相澤先生の言葉は当てにならないな」
古瀬は警察官の事を疑っていたわけではない。ただあくまで、念のために確認を行っただけに過ぎない。
最初の斬撃は完全に不意打ちだったが、何とか躱した。というよりは、目的を達成して馬鹿みたいに気を抜いていた。
荼毘とトガの二人が現れる。トガは前、荼毘は後ろ、前後に挟まれている上に、古瀬は壊理を持っているため両手が塞がっている。
交戦を開始するが、動きにくさもあって完全に防戦一方になる。本来であれば気で刃物を防げるためトガは脅威にならないが、壊理に攻撃してくるため守らざるを得なかった。
荼毘の方は普通に脅威だった。しかも無差別に住宅地で炎を放つため、位置取りが大変だった。
「ガキを渡せ」
「そんなに欲しいなら、受け取れ!」
古瀬は切れ気味に壊理を頭上に投げる。荼毘がそちらに目を奪われることはなく、炎を放つが刀を抜いた古瀬に炎を斬られる。
後ろから斬りかかってきたトガを掴んで、荼毘へと投げつける。更に蹴りつけると、二人は泥のように崩れて消え去った。
古瀬は落ちてきた壊理を受け止める。
「偽物か」
警戒していれば最初から気付いて防げた。もう少ししっかりしようと思って刀を納める。
その場所から少し移動した所で、古瀬は突入に加わっていた十数人の警察を発見する。
「この子をお願いします。その前に、本人確認いいですか?」
古瀬はその警察官から、名前と生年月日を聞く。
「免許証番号を言ってみてください」
「ちょっと憶えてないです」
「ありがとうございました。この子をお願いします。ヴィラン連合が誰かに成りすまして奪いに来る可能性があるので、誰かに渡す際は十分に注意してください」
免許証番号の元ネタは、まじっく快斗。
古瀬は壊理に対して、仮免試験で何を学んだんだというくらいに、全く不安を取り除こうとはしなかった。その余裕が無かったというのもあるし、過去のぼろが出ないようにするためにできなかったというのもある。
壊理が何か言おうとするが、そちらに意識を裂こうとはしなかった。壊理を警察に預けた後に、古瀬は再び屋敷へと向かう。
治崎は組長が意識不明となった後に、恐怖によって組を支配していた。しかしそれ故に警察が突入した際に、死ぬよりはましとわざと捕まる組員も多かった。
屋敷の中には誰もいない。残っている人は全員、地下にいることを感じ取る。
この時、古瀬は戦闘に参加するつもりが無かった。どうせ治崎対緑谷が始まって決着が付くだろうと思い、それまでどこかで時間を潰そうかと思っていた。
地下を探索していると、隠し部屋、資料室を発見する。どうやら治崎や壊理、その他いくつかの個性に関する研究資料のようだった。
「せっかくだから貰っておくか」
警察が押収する前に、古瀬はコピーを取ることにした。手持ちの記録媒体をPCに入れる。
資料をコピーしてから部屋を出ようとすると、壁を叩く音が聞こえてくる。何かと思って探ると、その部屋の奥にもう一つ隠し部屋がある。
何かと思って扉を出現させ、小さな鉄格子から中を覗き込むと、中の人物が勢いよく顔を近づけてくる。その人は轟冬美だった。
「開けてください!」
「轟冬美さん!? なぜここに!」
あっ、分身か。エンデヴァーが助けに行った方の冬美は、トゥワイスが作った分身だったのだと古瀬は気付く。
死穢八斎會とヴィラン連合との関係は悪いという事前情報だったため、その可能性に思い至らなかった。
古瀬はヴィラン連合の個性についてあまり詳しくない。覚醒なども含めると、誰の個性についても正確には知らない。
古瀬は扉を開けて、冬美を解放する。現状の騒動から、この場所が襲撃されているという情報は得ているようだった。
「ここにまだ、壊理という子が捕らわれているんです!」
「その子は既に警察が保護しています。あなたもすぐにここから脱出をぉ!?」
衝撃と共に天井が落下してくる。巨大な瓦礫が目前に迫ってくる。
嫌な事を思い出させてくれる。いや、ここは夢だから、危機も記憶の中にあるものなのかな。そんな事を古瀬は思った。
古瀬は冬美を引き寄せ、片手で気弾を放つ。巨大な瓦礫は吹き飛ばしたが、小さな破片が降り注ぐ。それらから覆い被さって彼は冬美を守った。
「何なんだ、一体」
瓦礫の中から古瀬は這い出る。手を掴んで、その場所から冬美を引き上げる。
振り返って顔を上げるとすぐにオーバーホール、治崎の姿が目に付く。そういうファッションなのか、腕が四本だった。
治崎の周りは針山地獄の様相だった。無数の棘が地面から突き出ている。
まだ倒せてないじゃん。古瀬はそんな事を思った。
古瀬は辺りの様子を確認する。近くには極めて深刻な負傷をしたサー・ナイトアイ、これは記憶通りなので特に驚きは無かった。
他にも何人かが付近に倒れている。ルミリオン、ファットガム、サンイーター、そして、デクもまた同様に。
「は?」
この時まで古瀬は、何をやってもどうせ最後は主人公が勝つのだと思っていた。どんな困難も、苦難も、結局は都合よく解決されるのだ。結局すべては糧でしかない。緑谷が最高のヒーローになるための、彼にとって都合のいい物語でしかない。
だから緑谷が負けるだなどと想像もしていなかった。
あり得るはずの無い現実を目の当たりにして、ようやく古瀬はここが夢ではなく現実だと認識し始める。
古瀬は冷静に、負傷者の状態を感知する。ルミリオンは銃創、おそらく個性を破壊されている。ファットガム、サンイーター、サー・ナイトアイ、全員が危険な状態。
デクは片腕を分解され、腹部にトゲが突き刺さっており、体が宙に浮いている。おそらくはOFAの反動で、両足もかなりひどい状態であった。
「ぷはっ、ひどい目に合ったぜ!」
瓦礫の中から切島が出てくる。多部との戦いで負った傷こそあるものの、深い傷は見当たらない。
「大きな衝撃だったけど、大丈夫?」
「みんな、応援に来た……」
地上から、麗日と蛙吹が降りてくる。麗日はその場の光景を見て言葉を失う。
「デクくん!!」
「ファットガム、サー・ナイトアイ、それに通形先輩に天喰先輩も」
「次から次へと……」
古瀬の治崎に対する脅威度認識はかなり低いものであった。触れられると即死ぬため警戒こそしているが、治崎がどの程度の強さなのか、よく分かっていなかった。
対して、この状況を見て最も戦意の喪失が顕著なのは蛙吹であった。なまじ状況が見える分、今がどれだけ危険かを理解してしまう。
「冬美さん!? 何でここに!?」
「ウラビティ、彼女を地上まで運んで」
「待って。この辺りにはヴィラン連合がいるから、一人だけで行動させるのは危険だよ」
「ヴィラン連合が!?」
四人の生徒は治崎と対峙する。
「負傷者の容態がかなり悪いわ。早く病院に運ばないと」
「まあ、それができればいいんだけどね。まずはこの相手をどうにかしないと。ここで逃がすわけにもいかないし」
「プロヒーローを全滅させた相手を俺達だけで!?」
「私たち四人だけで……」
四対一、数の上では上回っているが、周りには負傷者がいる。もし彼らが狙われた場合は、それを防がざるを得ない。
「先手行くよ。切島くん、冬美さんを頼む」
古瀬が接近すると、治崎は周りに大量のトゲを生成する。古瀬はその勢いを利用してトゲの上に乗り、上から落雷を落とす。
「サンダラ!」
治崎は腕の一本で自身を修復しながら、古瀬に向かって突撃してくる。古瀬は触れられないために、常に中距離を保った。
古瀬の攻撃は修復され、治崎の攻撃は全く当たらない。苛立った治崎は、負傷者に向けてトゲを生成する。
「安無嶺過武瑠!」
無数のトゲを切島が受け止める。
「こっちは任せろ!」
麗日と蛙吹は、負傷者と冬美を一カ所に集めている。
古瀬はその言葉に頷いたが、すぐに体に異変が現れる。気が何者かに奪われている。
「何だ?」
「これってさっきの」
「活力吸収、死穢八斎會の組員の個性よ」
活瓶力也、個性は活力吸収。直接触れて吸息することで活力を吸い取り巨大化する。ブースト薬を使えば離れた場所の人間からも吸うことができる。
「僕の天敵みたいな個性だな」
古瀬だけでなく、切島、麗日、蛙吹からも活力が吸われていく。
古瀬も全く同じことができるが、こちらも無差別のため、古瀬は奪われた分を取り戻すことも可能だが、周りは吸われる量が二倍になる。
治崎も活力を奪われているが、体を分解、修復して失った活力を取り戻している。それを見て古瀬は、長期戦は困難だと悟る。
「そんなのありかよ!」
「こっちは奪われるのに、向こうは傷も活力も元に戻るなんて」
「状況は、悪くなる一方ね」
状況の悪化に二の足を踏んでいると、治崎が声を掛けてくる。
「おい、壊理はどこだ?」
「警察に保護されているよ」
「よかった。もう救助されたんだ」
「待って。何かおかしい。僕は今答えるつもりなんて無かった」
「治崎は、人と融合することで、融合した相手の個性を使用することができるようになる」
ナイトアイが力を振り絞って口を開く。
「待って。それってつまり、手当たり次第に融合すれば、その全員の個性を使えるようになるって事!?」
強すぎないか!? この時ようやく、古瀬は治崎の危険性を認識する。
治崎は潔癖症のため融合をあまり使いたがらない。つまりあまりやりたくないだけで、やろうと思えば可能である。
「君たちは逃げろ」
「こんな状況で逃げられるわけないでしょうが!」
ナイトアイの言葉に切島は食って掛かるが、返ってきた言葉は冷たいものだった。
「状況をよく見ろ。最善を考えるんだ。君たちだけの力で奴を倒すことは困難だ。外から応援を呼んできてくれ」
本当に救援を求めているわけではなく、自分たちを逃がすために言っている。そのことは彼らも分かっている。
「波動先輩とリューキュウは?」
「どちらもまだ組員と戦っているわ」
疲労も負傷もしない。時間を掛ければ活力を奪われる。触れられれば即死。どうにかしなければとは思うものの、この状況の悪さを否定する事はできなかった。
助けを呼びに行くなら身軽さが必要だ。負傷者を連れて行くことはできない。誰かが負傷者を守らなければならない。誰かが足止めをしなければならない。
いるかどうかも分からない応援を呼ぶために。三人の表情が暗くなる。
「うん、これは無理だ」
治崎の相手をしていた古瀬が、そんな事を言い出す。
「スケアクロウ?」
「悪いけど、僕は諦めさせてもらうよ」
古瀬は刀を抜いて、治崎に向けて構える。
「無傷で捕まえるのは諦める」
少しほっとするものの、その表情は依然として険しい。
「どうするつもり?」
「治崎の個性は手で触れた物を分解、修復する個性だ。腕を無くせば、個性は使えなくなる」
ヴィラン連合はそうやって、治崎の個性を使えなくさせていた。その意味するところを考えて、三人の表情はむしろ強張る。
「協力はしなくていいよ。僕がやる」
そう言って古瀬が刃を治崎へと向けると、麗日は意を決したような表情になる。
「私も協力する」
「分かった。俺もやってやる!」
「一つ確認しておきたいのだけど、その後、腕はどうなるの?」
「すぐに病院に運べばくっつくんじゃないかな?」
「そういう事なら、私もやるわ」
四人は並んで、治崎と対峙する。時間が経つほど有利になるため、治崎は会話の邪魔をしなかった。
「それじゃあまずは、重重重重、グラビデ×4。16倍重力!」
自身の重量で、治崎の体が床に沈む。融合したことでその体重が増えていることもあり、特に上半身に対してその影響が顕著だった。十分な速度で腕を振り回せなくなる。
治崎は古瀬の個性が何か分からなかった。増強系か、あるいは電撃系かと思っていたところに、全く違う攻撃が飛んできて驚愕する。
「何なんだ、お前の個性は!」
「無個性だよ」
無重力状態であれば、重力の影響は受けない。これは以前、試したことがあるため知っていた。古瀬は麗日に浮かせてもらう。
「行くぞ!」
切島は古瀬を治崎の方へと投げる。16倍の重力下の中を、無重力状態で進んでいく。
治崎の腕は四本とも床に触れており、古瀬の真下から無数のトゲを生成する。それら全てを古瀬は刀で切り裂く。
治崎は腕の射程内に入ると同時に、古瀬に向けて腕を振るう。しかし急速な軌道変更によってその腕は空ぶった。
古瀬は蛙吹の舌に足を掴まれて、真上へと上げられる。それと同時に、布を治崎の四本の腕に巻き付けて切断する。
「解除。切島くん、後は頼んだ!」
切島は腕を失った治崎の方へと突撃する。おうという返事と共に、自身の全力を叩き込む。
「烈怒頑斗裂屠!!」
切島の一撃を受けて、治崎は完全に意識を失う。トゲへと叩きつけられて、そのまま体が崩れ落ちる。
「よっしゃあ!!」
「とも言っていられないよ。負傷者の救助、ヴィランの捕縛をやらなくちゃ。切島くんは応援を呼んで。救急車をできるだけ早く。まだ生き埋めになっている人がいるから麗日さん、いや蛙吹さん協力をお願いできる? あと下ろして」
古瀬は床へと着地する。
「麗日さんは負傷者の手当てをお願いできる? 蛙吹さんはこっちをお願い」
「分かった」
「梅雨ちゃんと呼んで。何をすればいいの?」
「救急車を呼んだぞ!」
「じゃあ治崎の応急処置をお願い」
古瀬は埋まっている人を探してその場所へと移動する。グラビデを上に展開して、真上に重力を発生させる。
瓦礫が上へと落ちる。それと一緒に出て来た人を蛙吹が舌で確保する。
「便利ね」
「でも気がかなり減っているから、全員助けられるか正直怪しい。多分足りると思うけど、駄目そうなら麗日さんと交代するよ」
「でもこんなに雑に持ち上げて、瓦礫に挟まれたりしないのかしら?」
「一応瓦礫の形状は確認しているけど、そういう場合は人力で掘り起こすしかないかな」
古瀬と蛙吹は埋まっている人を回収して、麗日の所へと持っていく。
「緑谷くんはどんな感じ?」
「古瀬くん、このトゲの先端部分を切れない?」
緑谷に突き刺さったトゲを体から引き抜かないように、その手前で切断する。麗日は緑谷の体を無重力にして浮かせる。
「重量は大丈夫?」
「まだ大丈夫」
この時点で、麗日が浮かせられる重量には限界がある。現状、麗日は負傷者全員を浮かせている。
「警察と救急車が来た。負傷者を乗せた後は休んだ方がいい」
その後、負傷者を搬送したのち、まだ動ける人間も検査のために近くの大学病院へと送られた。