無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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文化祭

 文化祭前日、補習が終わり、古瀬は文化祭の準備に参加している。

 

「うちの演目のタイトル何だっけ?」

 

「ロミオとジュリエットVSチェンソーマンVSダークライ~メガシンカを沿えて~」

 

「タイトルが変わってる……」

 

 B組は通しで練習を行う。演技に熱が入っている。

 

「時間はA組と被ってるんだっけ?」

 

「そうだぞ。お前は他に心配事があるんだよなあ?」

 

「A組の女の子と一緒に回るんだってなあ?」

 

「何で知ってるの……」

 

 円場と回原が馴れ馴れしく肩を組んでくる。古瀬は麗日に、クラスの出し物が終わったら合流しないか、とメッセージを送る。

 

 返信がきたのは十時過ぎであった。了承を伝える内容であったが、その頃、古瀬は既に眠っていた。

 

 

 

 文化祭当日、ジェントルとラブラバが来たが、緑谷と戦い捕まった。原作のように来客を絞ってはいないが、誰でも無制限には入れるわけではない。

 

 二人はそのまま警察署に送られたため、その戦いの事をほとんど誰も知らない。

 

「あれ、物間たちは?」

 

「拳藤氏の様子を見に行くと言ってましたぞ」

 

 そんな話をしていると、プレゼントマイクから文化祭開催の放送が行われる。

 

 B組は出し物の演劇を行う。古瀬の担当は照明だった。劇は全体的に色々とトラブルが起きたものの、何とか無事に終えることができた。

 

 麗日と連絡を取りつつ、片付けを終えた後に合流する。

 

「お待たせ」

 

 麗日は蛙吹と耳郎と一緒だった。二人とはその場で別れる。

 

「どこか行きたい所はある?」

 

「ミスコンやってるから見に行かん?」

 

 二人は食べ物を買ってミスコンを見に行く。優勝者は波動ねじれだった。

 

 その後、お化け屋敷やアスレチックを見て回る。その途中で、古瀬は轟に呼び止められる。

 

「ちょっといいか? 壊理がお礼を言いたいって言ってんだが」

 

 轟の横には壊理が、その後ろには冬美がいる。壊理は轟の後ろに隠れるように立っており、前へと押し出される。

 

「壊理ちゃんだ!」

 

「助けてくれて、ありがとう」

 

 本人が感謝しているのは確かだが、どちらかというと、教育の一環としての側面が強い。あまり言いなれていない様子だった。

 

「気にしなくていいよ」

 

 笑顔を顔に張り付けて古瀬はそう言う。冬美からもお礼を言われる。

 

「あの時はありがとうございました」

 

「いえ本当に、全然気にしないでください」

 

 冬美に頭を下げられて、古瀬は目を逸らす。自分が巻き込んだとも言えるため、お礼を言われることに罪悪感があった。

 

 轟家の三人と別れて、古瀬と麗日は歩く。

 

「壊理ちゃんと冬美さんを助けたのって古瀬くんだったんだ」

 

「助けたのは通形先輩だよ。僕はそれを運んだだけで、殆ど何もしていないよ」

 

 サー・ナイトアイのことも見捨てているし、古瀬からするとあまり触れてほしくない話題だった。

 

 射的やミニ遊園地など、出し物を一通り回ったのち、二人は人気のない屋上へと向かう。告白しようかと思ったが、辺りの気を探ると何人もに付けられている。

 

「皆さん、恥ずかしい真似はおよしなさい」

 

「いい身分じゃねえか」

 

「しっ、静かに!」

 

「ボクハ、ダレトツキアオウト、ウララカサンノジユウダシ」

 

「緑谷くん!?」

 

「告白タイムですネ!」

 

「人いすぎでしょ」

 

「青春ね」

 

 古瀬は気の探知で、会話内容まで聞こえている。何というか完全に見世物であった。苦笑しながら、小さく呟く。

 

「付けられてるみたいだね」

 

「えっ? あ、本当だ」

 

 麗日が振り返ると、飯田と目が合った。誰かに引っ張られてすぐにしゃがむ。

 

 どうするか、古瀬は少しだけ考える。

 

「ちょっと失礼」

 

 古瀬は麗日を横抱きにして、フェンスを飛び越えて屋上から飛び降りる。

 

「逃げた!」

 

 古瀬は舞空術で着地するつもりだったが、麗日が個性を使って速度を落とす。

 

「ありがとう」

 

 速度を落として地面に着地する。そのまま、追ってくる生徒たちから逃げる。

 

「あの、古瀬くん、自分で走るから」

 

 多くの人に見られている中、抱きかかえられたまま走っている。古瀬は麗日を降ろして、一緒に走って逃げる。

 

 途中、飲み物を買って麗日に渡す。互いの能力を駆使しつつ、追ってくる生徒たちを振り切った。

 

 建物の屋上で、気が抜けて互いに笑い合う。さっきのこういった能力の使い方がすごかったと互いに褒め合った。

 

 二人きりになった所で、これからどうすればいいのか古瀬は考える。

 

 何かこう思った以上にいい感じだが、結局、麗日は緑谷の事が好きなんじゃないかという疑念があった。仮に付き合えても、最終的には主人公の方に靡くのではないかと思った。

 

 さりげなく、『実は君、緑谷が好きなんじゃないの?』と聞きたかったが、どう聞けばいいか分からなかった。

 

 唐突に緑谷の話をするのも不自然な気がする。相手がもし楽しんでいるなら、そんな所にこんな質問をするのもどうかと思った。

 

 少なくとも告白する前に振る話題ではない気がする。

 

「そういえば、仮免試験はどうだったの? ちょっとよくない噂も聞いたけど」

 

 トガヒミコ関連がどうだったのかの確認を行う。記憶では来ていたから聞いているだけで、実際に噂を耳にしたわけではない。

 

 受かっている事実は知っているはずのため、麗日は不思議そうな顔をする。

 

「ばっちり受かったよ。インターンにも行ったし」

 

「ヴィラン連合はいなかった?」

 

「いなかったよ」

 

 実際はいた。トガヒミコの個性に関する情報はその内共有される。

 

 それを聞いて古瀬は、居なかったんだな、と思った。

 

「そうなんだ。緑谷くんの個性をヴィラン連合が狙っているって聞いたから、ちょっと気になってたんだ」

 

 仮免試験でのヴィラン連合の狙いを古瀬は知らない。これは適当に言っている。

 

「デクくんの個性? そういえば、前に与えられた個性だって言ってたね」

 

「人から人に受け継がれる個性、OFA。オールマイトから受け継いだものだそうだよ」

 

 本当は危険が及ぶため話してはいけない内容だが、古瀬はそれを知らないし、誰からも口止めされていない。

 

「オールマイトから!? でもオールマイトは個性を使ってない?」

 

「残り火というので、少しだけ使えるそうだよ。いつかは消えるそうだけど」

 

 麗日は疑っているわけではないが、完全には信じれていない様子で聞いている。

 

「デクくんの事が苦手なのって、それが理由?」

 

「前ほど苦手ってわけじゃないけど、まあ今もかな。彼の事を文字通り、選ばれた人間だと思っていたから」

 

「オールマイトに、ってこと?」

 

「もちろん決めるのはオールマイトだから、僕が口を挟むようなことじゃないよ。あの人にはあの人なりの選ぶ基準があるのだと思うし、好きに決めればいいと思う。でもその結果、全てが都合よく、当然のように、定められた運命のように、選ばれた特別な人間として、ヒーローとしての栄光を手に入れていくのかと思うと、好きにはなれなくてね」

 

「まだ結構嫌ってるね。でもデクくんは選ばれただけじゃなくて、努力もしてるよ!」

 

「そうだね。だからこれはただの嫉妬。砕いて消してしまった方がいい感情だよ」

 

 古瀬はいつものように無機質に笑う。それを見て麗日は心配そうな顔をする。

 

「古瀬くんだって、頑張ってるよ」

 

 麗日の方を見ると、顔を真っ赤にして視線を逸らす。

 

 緑谷の話を出して反応を窺ったが、余計に混乱する事態となった。麗日が緑谷をどのように思っているのかについて、古瀬には全く分からなかった。

 

 古瀬は何とも言えない表情で話題を変える。

 

「麗日さんは両親のためにヒーローを目指しているんだっけ?」

 

「うん。でも最近は、誰かを助けたいって、思ってる」

 

「そうなんだ。正直、僕に親というものはよく分からない。無個性だと判明して以降、殆どネグレクト状態だったからね」

 

 古瀬はフェンスに凭れ掛かる。

 

「色々と陸でもない事もやったよ。尤もらしい理由を付けた所で、利己的でしかない行動をね。僕は根っからのヒーローじゃないんだ。困っている誰かを助けようと思った事なんて無い」

 

「でも壊理ちゃんと冬美さんを助けたって」

 

「自分の目的のために、助けた方が都合が良かっただけだよ。それにああなったのは、俺に原因が無いわけじゃない」

 

「どういう意味?」

 

「……はっきり言って、俺は陸でもない人間だよ。誰が傷付いたって本当はどうだっていいんだ。ただ、そうではない人間を演じているだけだ」

 

 麗日は、視線を逸らす古瀬の方をじっと見る。

 

「でも林間合宿でだって助けに来てくれた」

 

「本当にそう思う? 周りの被害を考えるなら、ヴィランを捕まえた方が良かったはずだ。でも俺は、その方法を探そうともしなかった」

 

「後悔してるの?」

 

「……そうだね。今のままじゃ駄目だと思っているよ」

 

「じゃあ私と同じだ!」

 

 麗日は拳を突き出す。

 

「私もこれから、もっと人を助けられるヒーローに変わっていくつもり!」

 

「……それじゃあ俺は、少しだけ周りを助けられる人になろうかな」

 

 古瀬は麗日と、拳を付き合わせる。

 

「志が低い!」

 

「少しずつ変わっていくことにするよ」

 

 お互いに笑い合う。そんな事を話をしていると、他の生徒が追い付いて来る。

 

「やっと、見つけた」

 

「ウチのイヤホンジャックから逃れられると思うなよ!」

 

「何でそんなにやる気なの」

 

 他の生徒が来たことに古瀬は気付き、凄い執念だなと思った。また逃げるのも面倒なので、このまま話を続ける。

 

「麗日さんって明るくて優しいよね」

 

「そのようなことは」

 

「それに可愛い」

 

「そうかな?」

 

 麗日は照れた様子で頭を掻く。

 

「そんな麗日さんが好きです。よかったら付き合いませんか?」

 

 麗日は目を丸くして、周りを確認するように左右を見る。ひとしきり惑った後、顔を赤くして俯く。

 

「は、はい……」

 

 一方、少し離れた校舎内。

 

「い、いった」

 

「や、やった」

 

「『はい』、受け入れたみたい」

 

 その場に小さな歓声が上がる。

 

「よし、撤収すっぞ撤収」

 

「青春ね」

 

「合理性に欠ける」

 

「君たち油売ってないで早く仕事に戻るのさ」

 

「ウララカサン、オメデトウ」

 

「緑谷少年!?」

 

 聞こえてるよ、と思いながら古瀬はそちらの様子を感知する。

 

「それじゃあ、みんなの所に戻らない?」

 

「そうだね、戻ろっか!」

 

 少し歩いた所で、古瀬は足を止めて振り返る。

 

「手を繋いでもいい?」

 

「いいよ」

 

 古瀬と麗日は手を繋いで他の生徒の所へと戻った。

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