十一月下旬、クラス対抗戦が行われる。クラス内で四人ずつに分かれて、A組とB組でチーム戦を行う。
心操はいない。彼にヒーロー科編入の話はまだ行っていない。
「今回の状況設定はヴィラングループを包囲し確保に動くヒーロー! お互いがお互いをヴィランと認識しろ!」
という事でチーム分けが始まる。その最中に、円場が古瀬に話しかけてくる。
「古瀬は誰と戦いたい?」
彼女が相手でも大丈夫か、とにやにやと笑っている。
「誰が相手でも全力を出すよ。でも彼女がいるからカッコいい所を見せたいかな」
「こいつ……」
二人がじゃれ合っていると、チーム分けが決定する。古瀬は第四試合、チームメンバーは鎌切、取蔭、泡瀬の三人だった。
「よろしく」
「おう、よろしく頼む。相手は爆豪、耳郎、砂藤、瀬呂か」
「戦ってやるぜぇ……」
「あっちは爆豪のワンマンチーム、そこさえ崩せば余裕でしょ」
話し合いの結果、攻撃と撤退を繰り返しつつ、相手のミスを誘発させる作戦に決まる。
「向こうは十中八九、爆豪の行動、命令に他が合わせる。だから爆豪にストレスを与えつつ、何度も何度も待ち伏せて優位を保ち続ける」
「作戦があるなら、取蔭さんの方針に従うよ」
「俺もそれでいいぜぇ……」
「でも爆豪と砂藤は火力が高いぞ。そんな何度も撤退できるか?」
試合の合間に話し合いを行う。結局は相手の行動を見ながら動くことになるが、いくつかのサイン決めを行った。
さほど時間が掛からずに、第三試合まで終わる。他の生徒が運ばれていく中、飯田だけコンクリか何かに埋まっていた。
機械が掘り砕いていたが、自分がやった方が早いと思い、古瀬は飯田を固めている物を二重の極みで砕く。
「細かいのは自分で取って」
「ありがとう、助かった」
「おーい、次の試合だぞ」
「すぐ行くよ」
取蔭、鎌切、泡瀬と合流する。気絶者多数に付き、反省会は後回しとのことだった。
位置に付くとすぐに、第四試合が始まる。
『第四セットスタートだ!』
開始と同時に、古瀬は気を探って相手の位置を特定する。
「右斜め、この先真っ直ぐ。距離は60m」
「便利だなそれ」
「奇襲受けないんでしょ? 何で常にやらないの?」
「周りの裸が見えるから。それでもいいならやるけど」
「じゃあ今も取蔭の裸が見えているのか?」
取蔭が泡瀬の頭を叩く。
「精度を高めれば見えないけど、そういった理由で普段使いはしていないんだよ」
取蔭は体を分割させ、音を立ててA組チームを誘導する。
「あっちは四人纏まって動いてる。目的地到達まで、3、2、1」
「ハイしゅーりょー」
頭上の鉄パイプがA組チームへと降り注ぐ。爆豪がそれらを吹き飛ばすが、泡瀬が爆豪に金属をくっつけて足止めを行い、鎌切が次郎へと斬りかかる。
しかし砂藤が装備諸共爆豪にくっついた金属を破壊し、爆豪は鎌切を吹き飛ばす。次郎は泡瀬へと衝撃波を放ち、瀬呂がテープでそれを確保する。
爆豪はそのまま鎌切を撃破し、周りの援護を得て閃光弾で取蔭も気絶させる。
「えっ、えぇ……?」
古瀬は撤退時の支援役だったが、上から様子を見ていたら一瞬で三人が戦闘不能になった。考えが纏まらない内に爆豪が来襲する。
「後はテメェだけだ!!」
「氷氷雷火火、ブリザド、ブリザド」
爆豪の両腕を氷漬けにして、古瀬は相手の顎を蹴り上げて気絶させる。そして砂藤の方へと蹴り落す。
砂藤は爆豪を受け止めるが、その間に古瀬は耳郎に向けて攻撃を放つ。
「サンダー」
電撃が耳郎の頭部へと直撃して、彼女はそのまま意識を失う。
「ファイア、ファイア」
一発を瀬呂に、もう一発を泡瀬に向けて撃つ。泡瀬は炎によって拘束を解かれる。
「熱ぅイ!」
「逃げるぞ!」
「ちょっと失礼」
古瀬は爆豪を抱えて逃げようとする砂藤へと近付き、頭を突いて一点眠打によって眠らせる。その間に瀬呂は逃げ出して、どこかに消える。
「悪い、助かった!」
「三人を牢まで運べる? 僕は瀬呂くんを追うよ」
「ここに溶接しておけば動けないだろ。追うなら二人の方がいいんじゃねえか」
「いや、瀬呂くん相手だと、逃げに徹されると確実に捕まえられるか分からない。それなら三人を捕まえて、二人が生き残ることを目指した方がいい」
「つまり運ぶのを邪魔されないよう、足止めしに行くってことか」
古瀬と泡瀬はやる事を決めて、行動を開始する。
今回はあまり壊しすぎないようにと言われている。そのため、広範囲技は使わない方がいいだろうと古瀬は考える。
とはいえ、機動力に優れる瀬呂相手に追いかけっこをするのも面倒。そのため気配を消して、相手から近付いてくるのを待った。
近付いて来る度に攻撃して追い払う。それを繰り返すうちに、試合時間が終了。
『第四セット、3-0でB組の勝利!』
その後、反省会が行われる。
「双方、相手方の戦力把握ができていなかった。B組は最初、圧倒的に有利な盤面を作っておきながら跳ね返された。一方でA組は、四対一を作っておきながら各個撃破されている」
「お前たち、よくやった。優位を作るための作戦、勝ちを狙う的確な判断力、素晴らしかったぞ!」
「爆豪、チームワークを活かして反撃しておきながら、最後の最後で一対一に拘ったのがまずかったな。あの場面は全員で戦うべきだった」
「最初の奇襲は悪い手ではなかった。しかし敵戦力に対する認識が十分ではなかったな。結果は勝利だが、ワンマンチームと呼ばれてもおかしくない戦いだった事は憶えておけ」
第五試合が始まるが、取蔭はしばらく落ち込んでいた。
「完全に失敗したあ」
「まあ、仕方ないだろ」
「あの状態から押し負けるとは思わなかったしね」
「この失敗を胸に刻もうぜぇ……」
取蔭は気持ちを切り替えて顔を上げる。
「てか古瀬、強くない? あんなに強かったっけ?」
「偶々だよ」
「こいつ体育祭で爆豪に勝ってるし、林間学校でもバチバチにヴィランと戦ってる」
「ああ、だから爆豪があんなに強いって分からなかったんだ」
爆豪は体育祭、個人戦一回戦で敗退している。
五回戦の試合が進み、緑谷の個性が暴走する。腕から黒鞭が飛び出して、周りを破壊する。
「あらら、止めた方がいいんじゃないですか?」
これがどういう状態なのか古瀬は知らない。何らかの予期せぬ暴走状態であることを懸念して、止めることを提案する。主人公がまた再起不能になったのでは、たまったものではないと思った。
「止めに行ってもいいですか?」
教師二人からの返事は無い。現場への移動を始めたため、古瀬はその後についていく。
「戻ってろ!」
「まあまあ、今は急がないと」
古瀬は相澤の言葉を軽く流す。相澤は舌打ちしつつもそれ以上は何も言わなかった。
これは後で反省文コースだな、と古瀬は思った。
肉眼で確認できる位置まで、八木を含めた四人は近づく。状況は麗日が緑谷を落ち着かせようとしているが、あまり上手くはいっていない様子だった。
「古瀬、何か分かるか?」
「内部から別人の気が出ています。詳しい事は分かりません」
「どうするイレイザー?」
しばらく様子を見るが、黒鞭が収まる気配は無かった。やむなく、相澤は抹消を使用してその場の個性を消す。
黒鞭と無重力が消えて、緑谷と麗日が落下する。古瀬は移動して二人を受け止める。
訓練用に作られた設備のため問題無いが、周りは黒鞭によってかなり破壊されている。相澤の判断によって、訓練は中断になった。
「それとお前は反省文な」
「仕方ないか」
その日の放課後、古瀬が反省文を書いていると、B組教室に爆豪がやって来る。
「おい、表出ろ」
「今反省文書いてるから無理かな」
「顔貸せって言ってんだよ」
「分かったよ。後で時間を作るから……」
古瀬の顔があった場所が爆破される。それを見て周りはどよめく。
「爆豪!?」
「何やってんのあんた!?」
「うるせぇ! 外野は黙ってろ!」
爆豪は、躱して立ち上がった古瀬を睨みつける。
「おい、今この場で俺と戦え」
古瀬はそれを聞いて、少しだけ考える。
「嫌です」
「あぁ!?」
爆豪は殺さんばかりの目で睨むが、古瀬は動じない。
「だって怪我したら危ないじゃないか。それに君と戦っても、良い事なんて一つもないし」
「俺とは戦う価値もねえって言いたいのか」
「別にそうは言わないけど、今日負けたのに、今日戦う事に意味ってあるの?」
「ぶっ殺す!!」
爆豪が爆殺しようとするのを、周りは必死に押さえつける。
「煽らないで!」
「煽ってないです」
「もう少し言葉を選んでくだされ!」
仕方がない、といった表情で、古瀬は爆豪を見る。
「どうして僕と戦いたいの?」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと表に出ろ!」
助けて、という顔で周りを見るが、無理です、という顔を返される。
「大方今日の訓練で負けて、その腹いせにリベンジしに来たんじゃないのかい? 負けを認められない人間はみじめだねえ。あははははは」
物間がご機嫌な様子で高笑いをしている。実際その通りにしか見えないため、周りは何とも言えなかった。
丁度その時、峰田と上鳴が教室の前を通る。
「あ、丁度いい所に。峰田くん、上鳴くん、ちょっとこっちに来てくれないかな」
「お、どうした?」
「Rは?」
「見れば分かるよ」
爆豪が拳藤と宍田に取り押さえられている。その周りをB組生徒が囲んでいる。
「何これ?」
「特殊なプレイだな」
「黙ってろ!」
体と手を取り押さえられた状態で爆豪は睨みつける。
「さっきから戦えって言ってきて困ってるんだけど、何か心当たりってない?」
「今日負けたからじゃね?」
「負けは素直に認めるもんだぜ」
「黙ってろ!!」
上鳴と峰田をデコイにしつつ、古瀬は爆豪に尋ねる。
「戦わないとは言わないけど、せめて理由を教えてくれないかな」
爆豪はしばらく黙っていたが、やがて舌打ちをして話し出す。
「テエェ、俺と戦う時、手を抜いてやがったな」
「……何の話? 心当たりが無いんだけど」
全力だったとは言わないが、古瀬は今日の戦いで手を抜いたつもりは無かった。
「体育祭の時だ! テメェは俺との戦いで、ずっと手を抜いてやがった!」
「そのような事していたのか」
「昔の事だから憶えていないよ」
咎めるような視線に対して古瀬はそう恍ける。爆豪は話を続ける。
「その前からずっとだ。ガキの頃、体力測定で俺より上の結果を出したことがあったな」
「ガキの頃?」
「昔、彼と同じ学校だったことがあるんだ」
「マジか、世界狭ぇな」
上鳴の疑問に、古瀬が小声で答える。
「あの時の教師がテメェに言った。『何かズルをしたんじゃないか』ってな。それからだ。テメェが本気を出さなくなったのは」
「そうなのか?」
「憶えてない。割とよくある話だよ。個性持ちよりいい結果を出すと、何かやったんじゃないかって疑われるのは」
「小中の体力テストって個性禁止だろ? それなのに疑われるのかよ」
「まあ、割とね」
教師が疑わなくとも、他の生徒から異議が上がることもあった。また、いい結果を出したからと言って、彼らに目を向けられることも無かった。
「俺が、テメェに劣るだと。情け掛けてもらって取った一位だなんて冗談じゃねえ。全力を出せよ。その上で、俺がテメェをぶちのめす!!」
「全力を出せだって? まるで君も今日は全力じゃなかったみたいじゃないか!」
「物間!」
「だってそうだろ? どう理由を付けたって、つまりは同じ相手に二度負けたのが気に入らないってだけだろう? 体育祭でのあの大言からの敗北、林間学校では誘拐されて、そういえば仮免試験にも落ちたんだってね。そして今回の敗北、ああヘドロ事件の被害者でもあったね。君って客観的に見て大したことないよね。ただ焦っているってだけなんじゃないのかい?」
「ブッ殺す!」
爆豪が暴れるが、拘束から抜け出せない。神妙な顔で上鳴が語りかける。
「悪かったな爆豪、気付いてやれなくて。お前も傷付いてたんだな」
「今後は格下として頑張っていこうぜ」
「ブッ潰す!」
宍田は情けで手を放してやるべきか一瞬迷った。
「いいじゃねぇか! こいつがこれだけ胸襟を開いたんだ! 全力で戦いたいって気持ちも分かるぜ!」
鉄哲がそんな事を言い出す。面倒だなあ、と古瀬は内心で思った。
「やり方はともかく、やりたいことははっきりしてていいんじゃない?」
「宿敵との闘い、一度は経験してみたいのぜぇ……」
「あんま無理強いするもんでもないだろ」
戦いに賛同する方向にその場の意見が傾いている。どうするかは古瀬次第だが、受けてあげてもいいんじゃないかという圧をひしひしと感じる。
やる気があるのは悪い事ではないか。あまりにも周りからボコボコに言われている事への同情から、古瀬は戦うことにした。
「分かった。でも今日と同じ強さじゃ同じ結果になるだけ。戦うのは二か月後、それまでに意思が変わらないなら、相手になるよ」
爆豪は軽く舌打ちをする。軽く体を振って、拘束を振りほどく。
「ルールはそちらが好きに決めていいよ。ただし安全のために、審判として教師を呼ぶこと。それと、負けても再戦は行わないからね」
「逃げるんじゃねえぞ」
「逃げてもいいなら逃げるよ。ほら、こんな無個性に勝っても誉になんてならないよ」
爆豪は舌打ちをして教室から出ていき、その場に居る全員がほっとする。
「大丈夫なのかよ」
「さあ? まあ、死なないように微力を尽くすよ」
古瀬は道化のようにおどけて見せる。二カ月もあれば忘れるだろうと、できればそうであってくれと願った。