十二月上旬、サポート科の工房、古瀬は売れそうな商品の開発を行っていた。その最中に、発目が試作に失敗して爆発を起こす。
「お前なあ、思い付いたものを何でもかんでも組むんじゃないよ」
「失敗は発明の母ですよ。かのトーマス・エジソンが仰っています。『作った物が計画通りに機能しないからといって、それが無駄とは限らない』と」
「偶にはニコラ・テスラを参考にしてみてはどうですか?」
爆発の衝撃によって、発目は部屋の外へと吹き飛ぶ。彼女は丁度部屋に入ろうとしていた緑谷を下敷きにしている。
外には試して感想を教えて欲しいと古瀬が呼んだ尾白と、緑谷と麗日と飯田がいた。麗日は緑谷に大丈夫か聞いている。
「おや、緑谷くんにお茶子さんに飯田くん。どうしたの?」
「コスチュームの改良を頼みたくてね。古瀬くんはここで何をしているんだ?」
「ちょっと開発をね」
尾白は何を試せばいいのかと古瀬に尋ねる。
「まずはこれをお願いできるかな」
試作したスーツを尾白に渡す。
「これは?」
「簡単なパワードスーツだよ。内部のゲル状物質が補助筋肉に変化するんだ」
元ネタはガンツスーツ。
尾白に着替えてもらい、少し体を動かしてもらって使用感を聞いてみる。
「どんな感じ?」
「何というか、すごいスーツだとは思うけど……」
「やっぱり合わない?」
古瀬は予想していた通り、といった様子だった。
このスーツは本人に50の力があるとすれば、そこに50の力を加算して100の力を発揮する。そのため尾白は体の動かし方の違いに戸惑った。
確かにこのスーツを使えば100の力を発揮できるが、スーツありきの体の動かし方になってしまうため、尾白としてはあまり良く思わなかった。
アイテムはあくまで補助であって頼り過ぎてはいけない。アイテムを失ってしまえば力を発揮できない、などという状態になるのは望ましくない。
「素の身体能力が低い人用にどうかと思ったけど、格闘戦主体の尾白君にはむしろ邪魔になるかな」
「というより、全身スーツだから破損しないように立ち回るのが難しいかも。このスーツって破損したら機能を失うのかい?」
「度合いにもよるけど、基本的にはそうだね。後はレンズカ所が壊れると機能を失うよ」
「遠距離主体ならいいけど、近距離だとちょっと厳しいかも」
「もうちょっと機能を集中させてみるかな」
古瀬は次のアイテムを試して欲しいと頼む。
「パワードスーツか。身体能力が低い常闇くんや物間くんが身に付けるなら確かに。でもやっぱり個性を伸ばした方が……」
「多才やねえ」
「サポートアイテムを開発できるのか」
緑谷と麗日と飯田もその光景を見ている。
「コスチュームの改良は終わったの?」
「ああ、パワーローダー先生にお願いした」
尾白は着替えて、防弾ベストのようなものを身に付けて出てくる。
「これは?」
「これは……」
古瀬は玩具の銃に金属の玉を入れて、防弾ベストに向けて撃つ。
「特定のダメージを肩代わりする防具、かな」
「ダメージを肩代わり?」
「衝撃やエネルギーなんかを吸収して肩代わりするんだ。銃弾くらいなら防げるよ。ただし肩代わりできるダメージには上限がある。限界を超えると、このポケットに入っているゲル状の物質が変質して使えなくなる」
防弾ベストの表面に取り付けられた無数のポケット全てに、ゲル状の筒が入っている。肩代わりできるダメージはそれなりに大きい。
「そして」
古瀬は尾白の腕に向けて金属を撃つ。
「近くであれば直接守られていない部分にもこの効果は発揮される」
「安全なのは分かったが、許可も取らずにいきなり撃つというのは……」
「いいんだ。モニターになると言ったのは僕だから……」
「尾白くん、何か諦めてない?」
古瀬は尾白にネイルガンとライターを渡す。しばらくそれで使用感を試してもらう。
「しかし君はコスチュームの開発もできたんだな」
「コスチュームというか、できれば市販品として売りたいんだけどね」
「えっ、どうして?」
この機能がコスチュームにあれば、負傷を押さえられるのにと緑谷は思った。
「事故や事件の際に負傷者の発生を抑えられるかもしれないだろ?」
「君は被害者の事を考えて……」
「いや、そういう理由なら売れるかと思って。さっきのスーツはオーダーメイドで作る必要があるけど、こっちはサイズさえ合っていれば着れるから、量産に向いているかなと思って」
「現実的な理由やね」
「君ってやつは、もっと人を助けるためにだな!」
「まあまあ、命が助かる。僕は儲かる。お互いにメリットのある話だろう?」
本気かどうかよく分からない顔で古瀬は笑う。飯田のヒーロー講習が始まるが、尾白の声がそれを遮る。
「これ凄いね!」
「そうなんだ。僕も撃っていい?」
「緑谷くん、怖いこと言うな……」
「いや、僕が身に付けて自分で撃つって意味で……」
緑谷がしどろもどろになって答える中、古瀬はどう思ったか尾白に尋ねる。
「確かに熱や衝撃を吸収するのはいいんだけど、今のままだと必要のない弱い衝撃も吸収しているのが気になるかな」
「ああ、一定以上の強さのみを吸収した方がいいのか」
古瀬が尾白の感想を聞く横で、緑谷は衝撃吸収ベストを着て性能を確かめる。
「この技術を使って、反動を抑えるサポートアイテムは作れないかな?」
OFAの反動を抑えられないかと思って、緑谷はそう口にする。
「申し訳ないけど、他人のコスチュームまで面倒を見ている時間は無いかな」
「ちなみにこの技術は彼が開発したもので、私に同じものは作れません」
発目がそう付け加える。
「そ、そうだよね。ごめん、変な事言って」
緑谷は誤魔化すように表情を歪めて頭を掻く。
「それじゃあ最後は、これをお願いできるかな」
「それは?」
「昔作った壁に張り付くスーツを、雄英の技術で作ったんだ。低電力、バッテリーの小型化、低コスト、伸縮性の高い素材で作ってみた」
尾白が着替えている間、古瀬は麗日に声を掛ける。
「お茶子さん、ちょっと手を出して。はい、ありがとう」
肉球に触れないように手を合わせて、古瀬は麗日の手の大きさを測る。
「え、今の何?」
「その内、分かるよ」
なんやろう、と笑いながら戯れる。二人の姿を緑谷は固まった表情で見ている。
すまねえ。対抗戦で心操くん居なかったのは本当にすまねえ。完全に忘れてた。
尾白は着替えて、試しに壁に張り付いてみる。
「これはいいね。戦い方の幅が広がりそうだ」
「意外に高評価だな」
尾白は両手で壁に張り付いて移動する。古瀬のこのアイテムに対する評価は低かった。
「張り付くにしても全身はいらないかな。手は使うから、手の甲の部分で張り付けるようなのが欲しい」
「なるほど」
古瀬は尾白の意見をメモする。それから、今回のお礼を言う。
四人の帰り際に、古瀬は緑谷に黒鞭の暴走について尋ねる。
「そういえば緑谷くん、対抗戦の時のあれはもう大丈夫なのかい?」
「うん……大丈夫だよ」
本当か? と飯田と尾白と麗日に視線を向ける。尾白は視線を逸らし、麗日は悩むような表情で、飯田の表情は硬い。
「あれは何だったの?」
「たぶん個性の派生というか、大本は一つなんだけど、別の部分が発現したというか……」
こいつの個性ってOFAだよな。別の部分って何だ?
本当に大丈夫なのか、古瀬はどうにも不安だった。
「Hey you! 手紙が届いてるぜ!」
古瀬はプレゼントマイクから、手紙を渡される。その場で開いて見ると、昔の知り合いからだった。縁を切ったつもりだったが、一体何の用だろうかと古瀬は怪訝に思った。
「彼女からのラブレターかよ!」
「ははは」
古瀬と同じ、気を使った異能を扱う少年。呼び出しの内容は、今夜指定した場所に来てほしいとのことだった。古瀬は呼び出しの内容をプレゼントマイクに伝える。
「今夜? だったら俺が付き添ってやるぜ!」
という事で古瀬は、プレゼントマイク改め山田、私服の姿と共に指定された場所へと向かう。場所は特に変わった所のないファミレスだった。
夜八時、山田の車に乗って目的地へと向かう。途中、山田に昔の知り合いはどんな奴なのかと聞かれるが、はっきりとは答えられなかった。
初めは目元が前髪で隠れた暗い奴だったが、時間と共に見た目は変わっていった。家族については、全員が話したがらないので聞いたことが無い。
「全然知らねーんじゃねぇか!」
「確かに言われてみるとその通りですね」
車は目的地へと到着する。外出ついでに古瀬はデパートで買い物を行う。
「彼女へのプレゼントかよ!」
「まあまあ」
その後、二人はファミレスへと向かう。普通に営業しており、買った物は車の中に置いて、二人は店に入る。
中にはそれなりに客がいて、店員は二人を席に案内しようとする。待ち合わせであることを伝えると、奥の方にある席へと案内される。
「久しぶりだな。まあ、座れよ」
楽田の体は、かなり鍛えられている。戦闘のプロといった感じではないが、その辺のチンピラとも、普通の高校生といった感じでもない。
山田と古瀬は向かいの席に座る。
「何の用?」
「何か食べるか? 好きなものを注文してくれ」
「さっさと要件を言ってくれないかな」
フライドポテトが運ばれてくる。楽田は食べないかとそれを押し出す。
「まあそう急ぐなよ。お前はヒューマライズという組織を知っているか?」
ヒューマライズは、ヒロアカ映画第三弾に出てくる組織。ボスヴィランはフレクト・ターン。あらゆるものを反射する。
「ヒューマライズ、確か昔、そんな名前の組織から勧誘を受けた事があるな」
「ヒューマライズっていやあ、ヴィラン組織指定を受けてるカルト教団じゃねえか!」
真後ろの席の人物が、山田の頭へと銃を付きつける。
「黙れ! 我らをカルト呼ばわりする貴様らこそが異常なのだ!」
「よせ、銃を下げろ」
その状況を見て、山田は深く息を吐く。
「こいつは穏やかじゃねえな」
「まあ、こんなわけだ。俺は今こいつらの教導官をしている」
「特定ヴィラン組織の?」
「そう。でもこいつらこの通りでな。話が通じないから、まともな奴のスカウトに来たんだ。古瀬、ヒューマライズに入るつもりは無いか?」
「無いよ」
楽田は周りに言って聞かせるように、掌を店の中に向ける。
「まあそう結論を急ぐなよ。そうだなあ、お前はヒューマライズがどんな組織か知っているか?」
「知らない」
「ヒューマライズは構成員の大多数が無個性の組織だ。そこで戦力強化のために気の扱い方を教えてほしいとスカウトを受けて、俺は教導官になった」
今古瀬たちを取り囲んでいる人間も、ある程度気を使うことができる。最も、僅かに使える程度で、脅威になるような強さではない。
「なあ、俺たちは無個性のために力の研究をしてたよな。この場所こそが、俺たちが本当に力を振るえる場所だと思わないか?」
古瀬は冷めた目で楽田を見る。流石に自分でも無理があると思い、楽田は机に突っ伏す。
「だよなあ。ヒューマライズの教義を知っているか? 『無個性こそが真の人間であり、個性所持者は撲滅すべき』ってものだ」
「おいおい、個性所持者がこの世界にどれだけいると思ってんだ」
「俺が言いだしたわけじゃねえよ。つーか、あんた誰だよ」
「俺を知らないってか!? だったらよーく憶えとけ! 俺の名前は……」
「それは言わなくていいので、話を続けてくれるかな」
プロヒーローであると知ったらどんな反応をするか分からないため、古瀬は山田の口を押さえて続きを促す。
「問題は、入団者の多くがカルトに傾倒してたわけじゃないってこった」
「どういうこったよ」
「別に好き好んで入ってたわけじゃないってこったよ。一人じゃ生きていけない人間、個性持ちに対する嫉妬。お前だって言ってただろう。俺たちは団結しなくちゃ生きていけないって。この個性社会じゃ俺たちは肩身が狭いもんだ」
「そいつがどうしたっていうんだよ」
「俺はこの力を教団内に広めた。ところが指導者がこんなことを言い出した。『その力は個性と同じだ』ってな」
「というと?」
「指導者にとって忌むべきは、個性ではなく異能だったってことだな。俺が広めたこの力も、同じ異能だって思われたわけだ。そうなると問題が出てくる。多くの人間は個性持ちに対抗するために集まった人間だ。ようやく手に入れたこの力を、教義だから捨てよう、とはならなかったわけだ」
「それで?」
「そこから先は宗教あるあるの内ゲバさ。俺たちは今、真っ二つの分かれて争っている。この力の容認派と、否定派にな」
注文したアイスティーが運ばれてくる。頼んでおいて、楽田は手を付けなかった。
「争いを収めるために、手を貸してくれないか。お前の力が必要なんだ。俺に協力してくれ!」
「おいおい、うちの生徒に何言ってくれてんだ! うちはヴィラン勧誘お断りだぜ!」
「部外者は黙っててもらおうか! どうなんだ!」
古瀬は表情無く笑っている。
「仮にその争いに勝ったとして、その先何をするつもりなんだい?」
「もちろん平和裏に融和への道を探すさ」
「どうして今日、ここに来たか分かる?」
楽田は怪訝そうな顔をする。
「黒瀬から、お前が馬鹿みたいな誇大妄想を口にしていたって聞いたからだよ」
その言葉を聞くと同時に、楽田が合図を送る。楽田を含む構成員全員が二人に気弾を放ち、ファミレスが爆発する。
山田と古瀬は窓の外へと飛び出して逃れが、その混乱に乗じてヒューマライズの構成員たちが逃げ出す。
「逃がすか!」
山田が声による音波攻撃を放つ。しかしそれは、突如として現れた巨大な壁に阻まれる。
「知らない技だ。技を開発していたのは、こっちだけじゃないってことか」
古瀬は追うべきかどうするか迷ったが、敵がバラバラに逃げていることもあり、店内の負傷者の救助を優先する。
しばらくして、山田が戻ってくる。何人かの構成員は捕まえるが、楽田や他の大多数は捕まえられなかった。
負傷者を病院に送った後、ホークスから電話が掛かってくる。
「はい」
「もしもーし。今ちょっといいかな。公安が君の異能でできる事のリストを作って欲しいって言ってきてるんだけど」
「分かりました。急ぎますか?」
「そこまで急ぎはしないだろうから、ゆっくりでいいよ。実はヒューマライズって組織の構成員が、君と同じ異能を使っているらしいんだ」
「タイミングいいなおい!」
横で聞いていた山田が、そう声を上げる。
「あれ、近くに誰かいる? まあいいや。それでその対策のために、できることを教えてほしいって言ってんだけど、頼めるかな?」
「全部ですか?」
「うん。今後の規制にも関わるから、できるだけ頼むよ」
古瀬は乗り気ではなさそうに返事を返す。
「それと冬のインターンだけど、良かったらうちの事務所に来ない?」
「冬のインターン? おいおい、何だそりゃ?」
まだ話を聞いていない山田は疑問の声を上げる。
「インターンって、いつからなんですか?」
「一月の頭だけど、暇だろうし大晦日から来なよ」
確かに帰る実家も無いから暇だけど、その呼び方はどうなんだと古瀬は思った。
ファットガムは既に復帰しているが、インターンを受け入れるかどうかは微妙な所であった。ホークスはナンバー2だし、学ぶべき所も多いかと考える。
「分かりました。よろしくお願いします」
「いやあ、良かった。それじゃあよろしく頼むよ」
首を傾げつつ、古瀬は冬のインターン先を決めた。