無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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育成プロジェクト

 泥花市で、ヴィラン連合と異能解放軍との戦闘が発生した。結果はヴィラン連合の勝利、異能解放軍はヴィラン連合に吸収され、超常解放戦線が新たに結成される。

 

 それらの事実は隠蔽され、表向き泥花市の悲劇を起こした犯人は死亡したと報道される。

 

『事件から今日で九日、たった二十分の暴動約五十分ほどで泥花市は壊滅に追い込まれたのです』

 

「何か大きな事件っぽいけど、何だろうこれ?」

 

 原作イベントなのかそうじゃないのか。まあ今更、考えても仕方がないかと古瀬は思った。

 

 ここから先の知識は何もない。だから確認のしようがないし、既にインターンが記憶の内容と違っている。もうこの先は、なるようにしかならないだろうなと思った。

 

「オールマイトが休止して一月でこれか」

 

「これまではヒーローへの非難一色だったのが、叱咤激励へと変わっているか。エンデヴァーのおかげかねえ」

 

 などと話しているとミッドナイトとMt.レディが入ってくる。本日はヒーローインタビューの練習を行うとの事であった。

 

「まあやるからには全力でやりますけども」

 

 拳藤はあまり乗り気ではなさそうに声を上げる。

 

「凄いご活躍でしたね、バトルフィストさん!」

 

「いきなりですか!?」

 

「何か一仕事終えた体で、はい!」

 

 バトルフィストは拳藤のヒーロー名。

 

「上手いこと答えてるなあ」

 

「CM出演とかやってたから慣れてるんじゃない?」

 

「お前もインタビュー受けてたよな。何かコツとかあるのか?」

 

「あれは聞く側がプロだったから」

 

 インタビューは必殺技の話題へと移る。

 

「必殺技の話題は苦手だな。円場くんの必殺技って何?」

 

「対抗戦で見てただろ。エアプリズン、音を通さない箱型の檻だ」

 

「前は脆かったけど、檻として使える程度の強度はあるの?」

 

「多少の足止めくらいにはなるぞ」

 

 そんな事を話しながら授業は進んでいく。二人とも特に問題無く受け答えを行った。

 

 

 

 古瀬はドラえもんに、仙豆の在庫を確認するために電話を掛ける。

 

「ドラえもん、仙豆の販売状況ってどんな感じ?」

 

「大盛況さ。数カ月先まで予約でいっぱいだよ」

 

「よくそんなに売れてるな。値段設定、一粒一千万円じゃなかったっけ?」

 

「僕の腕がいいからね。サンプルを送ったら、すぐに注文がひっきりなしさ。特に欧州の人がよく買ってるね」

 

 古瀬は欧州と聞いても、すぐには何も思いつかなかった。

 

「そうなんだ。その中で悪いんだけど、仙豆をいくつか用意してもらえないかな?」

 

「いくつかってどれくらい?」

 

「数個。難しい?」

 

「うーん、できなくはないけど。仙豆は作れる数がそもそも少ないんだよね。もっと生産量を増やすことはできない?」

 

「そうだねえ、何か考えておくよ」

 

 仙豆の確保を頼んで古瀬は電話を切る。それから他のB組生徒の所へと戻る。

 

「古瀬、お前もクリスマス会に参加するだろ?」

 

「それって何日にやるの?」

 

「クリスマスだよ」

 

 少し考えてから、古瀬は一旦回答を保留にする。

 

 その翌日、麗日に聞いた所、A組も同じようにクリスマス会を行うとのことだった。

 

「こっちと同じだね。じゃあ前日にちょっと会えない?」

 

「い、いいけど」

 

 麗日は表情がかなり強張っている。手で顔を揉んで表情をほぐす。古瀬はそれを笑いながら見ていた。

 

 クリスマス前日に、古瀬は麗日の部屋へと訪れる。途中、入ってから人に見られることは無かった。

 

「はい、これ」

 

 古瀬はクリスマスプレゼントを麗日に渡す。中身は手袋、そこまで高い品ではない。麗日は受け取ってお礼を言う。

 

「はい、私からはこれ」

 

 麗日が渡したのは切り餅だった。そのまま両手で顔を隠す。

 

「こんなもので申し訳ない」

 

「ありがとう」

 

 麗日は顔を上げて笑い、古瀬もそれを見て笑う。二人はプレゼントを横に置いて、少し戯れる。

 

「ねえ、キスしてもいい?」

 

 聖なる夜を過ごした。

 

 

 

 クリスマス当日、古瀬は起床して一階へと降りる。

 

「おはようございます」

 

「もう昼過ぎだぞ」

 

「ひょっとして飾り付け終わりましたか?」

 

「片付けは頑張れよ」

 

「誠に申し訳ない」

 

 髪を後ろで纏めて、軽食を腹の中に放り込む。その後は寮の一階で、何かやる事があれば手伝った。

 

 クリスマス会は恙無く行われる。その際に、明日からの次世代ヒーロー育成プロジェクトの話題が出る。

 

 次世代ヒーロー育成プロジェクトは、ヒロアカ映画第二作に出てくるプロジェクト。登場ヴィランはナイン、劣化AFOを使用する。

 

「ヒーロー科生徒による、プロヒーロー不在地区での、実務的ヒーロー活動推奨プロジェクトだっけ?」

 

「新しいヒーローが来るまでの間、代理でヒーロー活動を行う、だったっけか?」

 

「俺らが行くのは東の島だよな」

 

「A組は南の離島らしいよ。その時に、ちょっと途中で抜けていい?」

 

「何が?」

 

 誕生日プレゼントを渡すために、その日、三十分位抜けようかと古瀬は思った。またサボる気かと塩崎に締め上げられる。

 

「離島に行って、実家に帰って、それからインターンか。そりゃあ実地してくれるのはありがたいけど、何というか忙しい年末よね」

 

「正直もっとゆっくりしたくない?」

 

「仮免取得が本来二年からだからねぇ」

 

「ゆっくりしたって学校から動けないからなぁ。インターンに行った方が、むしろ自由に動けるんじゃね?」

 

 そのような会話をしつつ、夜も更けてパーティーはお開きになった。

 

 

 

 その翌日の早朝、それぞれの勤務地へと向かう前に、古瀬は麗日に声を掛ける。

 

「ちょっといい? はいこれ。一日早いけど、誕生日プレゼント。食べれば傷が治るアイテムだけど、結構貴重だから、使い所は考えてね」

 

 出発前で割と慌ただしく、それだけ言って古瀬は立ち去ろうとする。

 

「ありがと。それじゃあまたね」

 

 お互いに手を振って、それぞれのバスへと向かう。

 

 古瀬がバスに乗り込むと、拳藤が搭乗者の確認を行っていた。

 

「全員乗ったか?」

 

「鉄哲と物間がまだです」

 

 少しして、二人が乗ってすぐにバスは発車する。そこから空港へと向かい、そこから彼らは勤務地へと向かう。

 

 その島でのヒーロー活動は多岐にわたり、かなり忙しいものだった。

 

「海難救助に、負傷者の救助運搬、土砂災害の撤去作業に住民の手伝い、その他etc」

 

「やる事が、やる事が多い」

 

「この人口でこの忙しさってマジ?」

 

「あはははは、君たち頑張りなよ?」

 

「こいつ……」

 

 物間は現場への移動途中に個性が切れるため、微妙に使い勝手が悪かった。誰かと一緒に行けば役に立つが、問題が発生し次第生徒たちは現場に向かうため、全員がこの場にいるわけではない。

 

 同じ個性持ちが二人以上いたほうがいいという現場ばかりでもないため、何とも物間を持て余していた。

 

 逆に古瀬はできることが多いため酷使されていた。現在は不貞腐れて寝ている。

 

 そんな事をしていると、ホークスから電話が掛かってくる。

 

「はい」

 

「おっ、通じた。そっちはヒーロー育成プロジェクトの最中なんだって? どう、元気?」

 

 古瀬は起き上がって、窓の外を見る。

 

「元気ですよ。どうかしましたか?」

 

「ある島の様子を見に行ってくれないかな。確か瞬間移動が使えるって言ってたよね」

 

「あれは知り合いが居ない場所は無理です」

 

「それなら大丈夫。丁度今、常闇くん達が行ってる島だから」

 

 拳藤が手でサインを送り、古瀬はそれを見て全員に聞こえるようにする。

 

「ちょっと気になる案件があってね。ヴィランがその島の住人を狙っている可能性があるんだけど、島との連絡が取れないんだ」

 

「事故ですか?」

 

 古瀬はヴィランの襲撃による影響かとも考えるが、その一言だけで結びつけるのは早計な気がした。

 

「まだ分からないから、ちょっと様子を見てきてくれないかな」

 

「分かりました」

 

 通話を切って、ガスマスクと刀を装着する。

 

「行くの?」

 

「頼まれた以上は、行かないわけにもいかないからね。向こうの様子も気になるし、インターンで顔を合わせることになるから無視したら気まずいから」

 

 それはそう、と周りは同調する。古瀬はその場に居る人間を見回す。

 

「それじゃあ、拳藤さんと、骨抜くん、円場くんも一緒に来てくれる?」

 

「ああ、いいぜ」

 

「おっ、ご指名か?」

 

「行くのはいいけど、じゃあ代わりに……」

 

「この場は僕に任せてもらおうか」

 

 物間がリーダーに立候補する。自分が行って大丈夫かと、拳藤は少し心配している。

 

「物間連れて行きなよ」

 

「僕とは相性が悪いんだよ。無個性だから」

 

 向こうの状況が分からないため、どの場面でも使えるわけではない、相性の悪い物間は選びにくかった。

 

「アハハハ、それじゃあここから先は、僕が仕切らせてもらおうか!」

 

「あんまり変な事すんなよ」

 

「じゃあ三人とも掴まって」

 

 古瀬は切島の気を探って、瞬間移動でその地点へと移動する。触れていた三人も同様に。

 

 移動した先には、A組の面々が倒れていた。何かと戦ったと思われる痕跡が、その場に深く広く残っている。

 

「おいおい……」

 

「息はあるな」

 

 古瀬が体を動かすと、切島が意識を取り戻す。

 

「痛みはあるか? これが何本か分かるか?」

 

「俺は……大丈夫だ。それよりヴィランが……」

 

 四人は顔を見合わせる。話を聞いた時点でその可能性はあったが、心のどこかではまだ別の可能性を思い描いていた。状況を認識して、彼らは警戒心を上げる。

 

 よく見ると、遠くに見える島の町並みはかなり破壊されている。既に火は消えているが、多くの建物が焼け崩れている。

 

「洞窟に、島の人が避難してる」

 

 切島は後ろを指さす。四人もその先を目で追った。

 

「ヴィランの数は?」

 

「残りは、一人だ。緑谷と、爆豪が戦ってる……」

 

 切島を横にして、四人はどう動くか話し合う。

 

「A組の回収と治療、住民の保護、それにヴィランの捕縛、四人じゃ手が足りないな」

 

「まずは外に連絡するべきでしょ」

 

「どうする? スケアクロウが受けた案件だ。お前の指示に従うぜ」

 

「……まずはヴィランの確保を優先しよう。一人だけなら対応は簡単なはず」

 

 拳藤をその場に残して、三人はヴィランを捕縛しに向かう。幾度も爆発が鳴り響く場所へと向かうと、そこには緑谷と爆豪が倒れていた。

 

 近くにヴィランの姿は無い。古瀬は気の探知で、ヴィランの居場所を特定する。

 

「かなり弱っているな。ツブラバ、この場を頼める? マッドマンは付いて来て」

 

 ヴィランを追った所、二人は花畑へと到着する。ヴィラン、ナインは満身創痍の状態で、花を踏み潰しながら這いずっている。

 

「こいつなのか?」

 

「たぶんそうだと思う」

 

 骨抜は倒れているナインを捕縛する。ナインは抵抗しようとするが、古瀬に頭部を突かれて眠らされる。

 

 楽な作業だった、そんな事を口にしそうな空気の中、黒い泥と共に誰かが現れる。二人が振り返るとそれは、死柄木弔だった。

 

 それを見て、古瀬は骨抜の前に出る。

 

「そいつを頼む! 俺はこいつを足止めする」

 

 骨抜はナインを連れて、個性を使って地中に潜る。

 

「そいつを渡せ!」

 

「ウォタラ!」

 

 死柄木は接近して手を伸ばすが、古瀬の水撃に押し流される。

 

「双水蛇」

 

 古瀬は大量の水を出して、気の糸で形を変えて操り、巨大な二匹の蛇を形成する。十メートルを超える二匹の蛇が、左右に分かれて死柄木を囲む。

 

 水に実体は無く、頭部が蛇の体を突き抜けて、その内の一匹が死柄木を呑み込む。

 

 固体に触れることができず、水の中で死柄木は藻掻く。古瀬は水の流れを内側へと形成して死柄木を閉じ込める。

 

 そのまま閉じ込め続けていれば、死柄木は意識を失っていただろう。しかし横から飛んできた攻撃によって、死柄木は水の中から弾き出される。

 

「もう大丈夫。僕がいる」

 

 現れたのは、白髪の中年男性だった。古瀬はAFOののっぺらぼうの姿しか知らず、それが誰か分からなかった。

 

 その男性は、円環状の力場を形成させて宙に浮いている。黒いスーツのような服装で、その瞳には艶が無い。

 

「新手か」

 

 ヴィラン連合の一員だろうか、と古瀬は思った。そのような事を考えていると、後ろから援軍が到着する。

 

「助けに来たよ!」

 

「おいおいおい、マジかよ!」

 

「なんかさらにヤバそうなのが増えてんだが」

 

 骨抜、円場、拳藤が参戦する。骨抜が辺り一帯を液状化させて、円場がその上に足場を作る。

 

 古瀬は液状化した地面を使って蛇を作り、再度死柄木を呑み込む。しかしAFOは古瀬に向けて、巨大化させた腕を振るう。

 

「おいおいおい」

 

「冗談でしょ」

 

 腕の一振りで、周辺の地形が変わる。古瀬は咄嗟に躱したが、顔を引きつらせる。

 

 古瀬は相手のその特徴的な気から、青山のおじさんだと思い出す。つまりこいつは、AFOであると理解する。

 

「気軽に遭遇していい敵じゃない」

 

 刀を引き抜いて構える。状況の悪さに笑ってしまうが、その顔はマスクに隠される。

 

「やるじゃないか。確実に当てたと思ったんだがね。次はどうかな?」

 

「僕がこいつの相手をする。そっちで死柄木を抑えられる?」

 

「やるしかないでしょ!」

 

「指に触れるなよ。俺が沈める!」

 

 古瀬は接触発動型の個性を恐れて近付けず、しばらく中距離戦が続く。

 

 骨抜が地面に沈めて、円場が伸ばしてきた死柄木の腕を固定する。その隙に拳藤が攻撃して地面に叩き落とす。

 

 AFOは死柄木を浮かせようと攻撃を放つが、その一瞬の隙を突いて、古瀬が腕を切り落とす。しかし攻撃そのものは放たれて、一面が吹き飛ぶ。

 

「動く前にその全てを潰してくるな。大した技量だ。予知でも持っているかのようだ」

 

 AFOの腕が再生される。超再生か、と古瀬はマスクの下で苦笑する。

 

「こういう戦いをしたくないから、モブでいたかったんだけどな」

 

 AFOと古瀬の戦いは、現状では拮抗している。しかし消耗の差と回復アイテムの有無によって、長期戦は古瀬が不利であった。

 

 一方で、死柄木はかなり消耗している。特に骨抜との相性が悪く、周り一帯が液状化して何も掴めない。その苛立ちは時間と共に増加する。

 

「また失敗したね、弔。でも何度でもやり直せばいい。そのために、僕がいる」

 

 死柄木は液状化した地面の中から引き出され、吊り上げられる。口から土を吐き出して、大きくむせる。

 

「失敗したなら帰れよ」

 

「ここで捕まえる、なんて言える相手じゃねえなぁ」

 

「どちらか片方だけでも捕まえさせて、くれそうにはないか」

 

「どっちも一撃で死ぬの怖すぎなんだけど!」

 

 四人はかなり疲弊している。長期の戦闘ではあるものの、精神よりもAFOの攻撃の余波による肉体へのダメージの方が大きかった。

 

 骨抜と拳藤は、実はかなり無理をして気合で立っている。それを悟らせないために顔は笑っているが、体はかなり痛んでいる。

 

「さあ、どうしたい?」

 

「先生、あそこに降ろせ」

 

 死柄木が指し示したのは彼らのいる地点から少し離れた場所であった。その言葉を聞いて、AFOは笑う。

 

「良い判断だ」

 

 何かしようとしているのは分かる。しかしその何かが、四人には分からなかった。

 

 妨害しようとするが、AFOは死柄木を囮にして攻撃を放つ。空中にあった足場が全て壊れて、四人は地面に着地する。

 

 その隙に、AFOは死柄木を離れた場所へと投げる。そこは地面が液状化しておらず、死柄木は着地して地面に触れる。

 

「何だ?」

 

 死柄木が触れた場所から地面が崩壊する。それは地面から広がって、接触する全ての物へと伝っていく。

 

 それがある程度広がった所で四人は慌てる。骨抜が地面を液状化させるが、その部分は防げてもより深い地面の崩壊は防げない。

 

「ツブラバ!」

 

 拳藤の呼びかけと同時に、円場が空中に足場を作る。四人はそれに飛び乗ろうとするが、AFOが古瀬に攻撃してくる。

 

「君が一番邪魔だ」

 

「僕からすれば、あなたの方がよっぽど邪魔だ」

 

 古瀬は片足に雷撃を纏い、雷光波動脚でAFOを袈裟斬りにする。

 

「落ちろ」

 

 拳藤が古瀬の片足を掴んで持ち上げる。AFOは地面へと落ちて片手を突くが、即座にそれを切り捨てて浮遊する。手首は超再生によって、すぐに再生が始まる。

 

「やばいぞ、これどこまで広がるんだ!」

 

「海への道を作って! 海には伝わってない!」

 

「俺から離れるなよ」

 

「待って、触れた物に崩壊が伝わってる。マッドマンの個性は触れることが発動条件でしょ。使ったらあんたにまで崩壊が伝わる」

 

 それでも万が一全員が落ちた場合は、一人の犠牲で他三人が助かる。拳藤が使わないように言うと、骨抜はそれに同意する。

 

 崩壊は町へと広がる。繋がったもの全てを破壊しながら、それらを塵へと変えていく。

 

「町が……」

 

 三人はこの島の住人の避難状況を完全には把握していない。もしかしたら取り残されている人がいるかもしれない。そんな思いの中、ただ見ている事しかできなかった。

 

「空裂斬!」

 

 古瀬が斬撃を放つと、伝播する崩壊が止まる。それを見て彼らは希望を見出す。

 

「これなら」

 

「待って、崩壊が城跡に向かってる!」

 

 城跡は島の北西にある孤島である。砂浜で島と繋がっており、現在は島の住人がそこの洞窟内に避難している。

 

「なら今ので防げば……」

 

 円場にAFOから攻撃が飛んでくる。強力な衝撃波が飛んでくるが、古瀬が切払う。

 

「うっそだろ」

 

「急ぐぞ!」

 

 四人は空気の足場を飛び移りながら移動するが、AFOの方が速い。

 

 AFOによって拳藤の足場が破壊される。骨抜が飛び出したのを、円場が足を掴んで引き止める。拳藤は骨抜の手を掴み、その間に円場が新たな足場を作る。その間、古瀬はAFOの足止めを行っていた。

 

「逃がさないよ」

 

「行って。私が足止めする!」

 

「君じゃ無理だ」

 

「お前が行かないと、避難民全員が死ぬだろうが!」

 

「だからって誰かを犠牲にして行くわけにもいかないだろ」

 

「お前らこんな所で争うなよ。なあ、マッドマンも何か言ってやってくれよ」

 

「悪い。水の上じゃ、俺は無力だ」

 

 古瀬は傷を負いながらもAFOを蹴り飛ばす。

 

「命大事に! 犠牲は無しで! 全員で行くよ!」

 

 そう言って、古瀬は三人を進ませる。そうして何とか、崩壊が伝わる前に、島と孤島とを繋ぐ砂浜へと到着する。

 

「と言っても結局、後ろのあれを何とかしなきゃなんだよな」

 

「うん」

 

 向こう岸、島に死柄木の姿があるのが見える。周りを崩壊させて、楽しそうに笑っている。

 

 やって来たAFOが辺りを吹き飛ばす。一般ヒーローの必殺技を超える攻撃を、通常攻撃で気軽に繰り出してくる理不尽さだった。

 

「で、これどうすんの?」

 

「ツブラバ、前に足止めできるって言ってたよね」

 

「あれは無理だって!」

 

 崩壊が孤島に迫ってくる。古瀬は意識を集中させる。

 

「時間が無い。短時間でもいい。とにかく壁を作ってくれる」

 

「マジで俺がやるのか!」

 

 円場の個性は肺活量によって大きさが決まる。可能な限り息を吸い込んで大きな壁を作る。それを幾度も繰り返して、分厚い空気の防壁を展開する。

 

「空裂斬!」

 

 斬撃が、伝播する崩壊のエネルギーを消滅させる。しかしそれは簡単にはいかず、広がる崩壊を古瀬は切払う。

 

 AFOの攻撃が空気の防壁を破壊する。一撃で、全ての防壁がいとも容易く破壊される。

 

「無情!」

 

 AFOは近付いて、鋭利な触手のようなものを伸ばして古瀬を刺し貫こうとする。しかし拳藤が手を巨大化させて、間に割って入って盾になる。

 

「バトルフィスト!」

 

「大丈夫、急所は避けたから」

 

 骨抜は岩を柔化させてぶつけ、個性を解除して拘束しようとする。あっさりと岩は砕かれるが、僅かながら時間を稼いだ。

 

 古瀬は孤島に向かってくる破壊を何とか防ぐことに成功する。しかしその結果、刀の刃はボロボロに崩れ落ちる。

 

「首切が……」

 

 その刀そんな名前だったのか、と拳藤は思ったが、突っ込む元気は無かった。

 

 AFOは四人の前に降り立つ。崩壊の伝播を止めたことに対しては、素直に感心する。

 

「やるじゃないか。それじゃあ次は、手駒を増やそうか」

 

 AFOが手を広げると、周りの空間から泥と共に、二十体近い脳無が現れる。正確には十八体、その形状は様々だった。

 

 これまでAFOと死柄木だけなら、何とか抵抗できていた。しかし脳無が現れたことで、戦力の均衡が完全に崩れる。

 

 今の彼らに、抗う力はほとんど残されていない。

 

「撤退するよ。次は防げない」

 

 古瀬は刃がボロボロになった刀を見せる。

 

「撤退ってどこに……」

 

 後ろの孤島の洞窟内には避難民たちがいる。もし再度崩壊の伝播が来た場合、もしそれが洞窟まで到達すれば、彼らは全員塵へと変わる。

 

「どこでもいい。とにかく少しでも助かるように、できるだけの人を逃がして」

 

「拳藤は俺が運ぼう。円場は住人に逃げるように伝えてくれ」

 

「待って。私もまだやれる」

 

「お前らの方が重傷だろ!」

 

 AFOは余裕の笑みを浮かべている。そして振り返って、死柄木がいる島の方を見る。

 

「さあ弔、次はどうしたい? 弔?」

 

 死柄木はボロボロの状態で立っている。力の反動で手の皮膚は剥がれ落ち、その呼吸は荒い。先程の戦闘で酸素が不足していたこともあり、よろめいてその場に倒れる。

 

「何だ?」

 

 島と孤島とを結ぶ砂浜は伝播する崩壊によって消えた。今は海によって断たれている。

 

 AFOは島の方へと飛んで移動する。彼は倒れている死柄木を見下ろす。

 

「また失敗してしまったね。でも大丈夫。また、何度でも、やり直せばいい」

 

 その言葉と共に、AFOと死柄木は黒い泥に包まれて消える。その姿を四人は視認する。

 

「って、こいつらも連れて帰れよ!」

 

 十八体の脳無が孤島に取り残されている。脳無たちは四人に襲い掛かろうとしている。

 

「状況は最悪から、その一歩手前にまで下がったかな?」

 

「そりゃそうなんだけどさ」

 

「お前らまだ動けるか?」

 

 先程よりはましになったが、脳無は複数の個性を持ち、筋力は常人の数倍、おまけに数はでも劣っている。このまま数の差で圧し潰される未来が浮かんだ。

 

 そんな中、古瀬はある気を感知して空を見上げる。

 

「どうやら、援軍が来たみたいだよ」

 

 襲い掛かってきた脳無の前に、何者かが降り立つ。脳無の攻撃を受け止めて、殴り返す。

 

「もう大丈夫だ! なぜって? 私が来た!!」

 

「「「オールマイト!?」」」

 

 別の脳無がオールマイトに襲い掛かろうとするが、数枚の羽根がそれを別の場所へと運んでいく。

 

「待たせたね」

 

「ホークス!」

 

 その他、他のヒーローや軍が救助と脳無の鎮圧を行っていく。四人は邪魔にならないように、少し離れた位置からそれを見ていた。

 

「大丈夫なんですか? もう一時間も動けないんでしょう?」

 

 ホークスが、後ろにいるオールマイトに話しかける。

 

「大丈夫さ。この程度、一時間も必要無い!」

 

 ホークスは呆れたようにため息を吐く。

 

 戦闘は三十分も経たずに終わる。脳無たちが拘束される中、オールマイトは膝を突いてトゥルーフォームへと戻る。

 

 その光景を見ていた四人は八木へと近づく。

 

「八木先生!?」

 

「どういうことだよ!」

 

「つまりはまぁ、そういう事だろ」

 

 三人はオールマイトと八木が同一人物であると気付く。オールマイトがいなくなって八木が来たこともあり、すぐに納得がする。

 

「すまないが、このことは内密にしてくれ」

 

 八木は口元から流れ出る血を拭う。三人は承知する旨の発言をするが、オールマイトがここまで弱体化していることは、彼らにとっては衝撃的だった。

 

「はいはい、後日学校から説明があると思うけど、この事は誰にも言わないようにね」

 

 ホークスがそう言って、四人をその場から引き離す。三人は、聞きたいことはあったものの、その言葉に従った。

 

 その後、四人は病院へと搬送される。古瀬、拳藤、骨抜の三名が負傷、円場は軽傷であった。

 

「何気にヴィランとの戦闘で負傷するのって初めてかも」

 

「私もだよ。というか普通、そんなにヴィランと戦わないから」

 

「まあいいじゃねぇか。全員明日には退院できるんだから」

 

 そのような会話をしていると、ドラえもんがやって来る。

 

「どうも皆さん、初めまして。古瀬くんがお世話になってます」

 

 拳藤と骨抜は、ドラえもんの事をロボットではなく異形型かと思った。二人は簡単に挨拶を返す。

 

「はい、これ。頼まれていた仙豆」

 

「助かるよ」

 

「もう、本当に予備は少ないんだからね。気軽に怪我しないでよ」

 

「そうなんだよね。本当に何とかしないと」

 

 古瀬は仙豆が無くとも、明日には退院できる程度の傷である。でも傷跡が残るのが嫌なので、ドラえもんに頼んで持って来てもらった。

 

 ドラえもんは病院からすぐに帰る。

 

「誰だったの?」

 

「知り合いか?」

 

「まあそんな所」

 

 傷は治ったが、古瀬は一日病院に泊まる。その後、退院して彼らは円場と合流する。

 

「警察の聴取終わった?」

 

「なんか言われた?」

 

「何か教えてもらったか?」

 

「一気に聞くなよ!」

 

 今回の事件で死者は出ておらず、島の住人は全員が無事との事であった。しかし島は三分の一が消滅、現在はその復旧作業が行われている。

 

 島を襲ったヴィランは捕縛され、ナイン含めて全員収監されている。ただし死柄木ともう一人の男については現在捜索中との事であった。

 

 彼らはセメントスの引率の元、他の生徒より一足先に学校へと戻る。そこで校長から、オールマイトに関する説明を受ける。

 

 AFOについては、ヴィラン連合の凶悪なヴィランとしか説明されなかった。

 

「じゃあオールマイトは何年も前から弱体化していたんですか?」

 

「もう三十分も戦えないってマジかよ」

 

 現在の緑谷の戦闘力はどれくらいなんだろう、と古瀬は思った。ラスボスを倒すために、今の進行状況に必要なだけの力があるのか、ないのか。

 

 この事は内密にと校長に言われて、四人はそれを了承する。

 

 彼らは退室しようとするが、古瀬だけ呼び止められる。

 

「君の会社の仙豆を定期的に購入させて欲しいのさ」

 

 現状、仙豆は予約待ち状態で購入が難しい。これまでに負傷した人のために、買いたいとの事であった。

 

「ヴィランの活性化が続く今、おそらくこれからも負傷者は出るのさ。そういった人達のためにも、できれば考えてほしい」

 

「オールマイトのためにも、ですか?」

 

「……彼は体が治っても、もう元のようには戦えない。完全復活は無理でも、せめて負担を減らしてあげたいのさ」

 

「分かりました。何とかしてみます」

 

 そう返答して、古瀬は校長室から退室した。

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