無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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闇バイト発覚

 ヒューマライズは内部分裂によって、多くの人間が脱退した。それにより、各都市への大規模テロを計画していたことが発覚する。

 

 選抜ヒーローチームはヒューマライズの各支部を襲撃、団員の捕縛に成功するが、指導者のフレクト・ターンとトリガーボムを発見することはできなかった。

 

 古瀬はヒューマライズの拠点を襲撃するために、ホークスたちと共にアメリカにいる。

 

「無個性こそが真の人類である、ねえ。古瀬くんはこういうのどう思ってんの?」

 

「あの組織って無個性と個性保持者とが交わること非推奨なんですよね。恋愛くらい好きにやらせて欲しいって思ってますね」

 

「何、彼女いるの?」

 

「ただの個人的な感想です」

 

 ホークスと古瀬がそのような会話をしていると、常闇がやって来る。

 

「やはりテロ計画は指導者とその直属が計画したもののようだ。一般団員はトリガーボムの存在について知らなかった」

 

「事前情報通りですね」

 

「となると、トリガーボムを見つけるには指導者を探し出すしかないか」

 

「ですが手掛かりなしでは難しいですよ」

 

 ホークスは懐から手紙を取り出す。

 

「実は古瀬くんに手紙が届いていてね」

 

 楽田の名前を聞いて、古瀬はマスクで周りからは見えていないが、面倒くさそうな顔をする。

 

「君に謝りたいそうだよ。お詫びの印として、ヒューマライズの拠点の位置が送られてきている」

 

「どうしてその手紙をホークスが持っているんですか?」

 

「いやほら、ヒューマライズの関係者からの手紙って怪しいだろ? 君はここにいるから直接開けてもらうには時間が掛かるし、だから先にちょっと調べさせてもらったってわけ」

 

「あまり人の手紙を勝手に開けるのは感心しないぞホークス」

 

「これって他の人も知っているんですよね。ホークスが勝手に持って来て開けたわけじゃないですよね?」

 

 楽田は既にヒューマライズを抜けている。ヒューマライズの計画の概要と拠点の位置を、敵対の意志は無い事を示すために送った。

 

「それで拠点の位置というのは?」

 

「新たに分かった拠点の中で俺が怪しいと思うのはここ、この場所を秘密裏に捜索しようと思う」

 

「秘密裏? ヒーローチームで一気に強襲しないのか?」

 

「まだこれが確定情報ってわけじゃないからね。それに追い詰めて、破れかぶれでトリガーボムを発動される、なんて事態になるのは避けたい。ここは慎重に行きたい」

 

 ホークス、常闇、古瀬はヒューマライズの本拠地の調査を行う。場所はスペインとイギリスの間にある島で、たぶん現実には無い架空の土地。

 

 ホークスが内部の調査を行い、古瀬は団員に変装して別ルートから潜入する。常闇は羽を全て使っているホークスの護衛を行う。

 

 古瀬が内部を調べていると、後ろから何者かに襲われる。振り返るとそれは、爆豪、緑谷、轟、ロディの四人だった。

 

 ロディは映画のオリジナルキャラ。父親がヒューマライズに誘拐されていたり、個性で嘘がばれやすかったりする。

 

 古瀬が振り返ると同時に、爆豪に爆破される。それを躱すと、轟の氷によって周りを囲まれ、緑谷が殴りかかって来る。

 

 緑谷の腕を掴んで氷に叩きつけると、再度爆豪が襲い掛かって来る。

 

「待って待って、僕だよ! ほら」

 

 古瀬はヒューマライズの仮面を取って素顔を見せる。しかし素顔を見せても、爆豪の攻撃は止まらなかった。

 

「なんでテメェがここにいんだよ!!」

 

「爆豪!?」

 

「落ち着いてよ、かっちゃん!」

 

「ここにいるってことはテメェも敵だろ! 丁度いい。テメェをここでぶちのめす!!」

 

 轟が爆豪に落ち着くよう呼びかける。

 

「爆豪、今は真面目に……」

 

「真面目だわ!」

 

「どうして古瀬くんがここに?」

 

 古瀬はヒューマライズの服を脱ぎ捨てる。

 

「ここの情報を掴んで、別ルートから潜入していたんだ。君たちこそどうしてここに?」

 

「実は……」

 

 轟はこれまでの経緯を説明する。緑谷が指名手配されたこと、その原因がヒューマライズのトリガーボム解除キーを入手したためであること、同時に入手した情報からここにトリガーボムの制御システムがあることなどを話す。

 

「なるほど。他のヒーローにその事は伝えた?」

 

「他のヒーローは爆弾の対処に追われて来れそうになかったから」

 

「また独断専行か。そういうの良くないと思うよ」

 

 古瀬は周辺の情報を探る。ホークスの羽が、この会話を聞いていることを確認する。

 

「それじゃあ解除しに行こうか」

 

「えっ、潜入はいいの?」

 

「どうせもう見つかってるよ」

 

「爆豪もそれでいいな?」

 

「わーっとるわ! いちいち確認すんじゃねえ!」

 

 五人は制御システムの場所へと向かう。途中、敵の襲撃によって轟と爆豪が離脱する。

 

 建物の最奥にはフレクト・ターンがいた。解除キーを渡せと要求してくる。

 

「解除キーは?」

 

「ここに……」

 

 古瀬は緑谷からそれを取り上げる。

 

「それじゃあ、解除は僕がやるから、この場を願いできる?」

 

 緑谷はそれを了承する。ロディに下がるように言って、フレクトとの戦闘を開始する。

 

 古瀬はレーザー攻撃を避けながら、部屋の奥へと向かう。そこで解除キーを使い、トリガーボムを停止させる。ついでにトリガーボムのデータも貰っておいた。

 

 緑谷たちの戦いの影響で、幾度も建物が揺れ、それによって瓦礫が降って来る。それを躱しながら、古瀬は生き埋めになる前に先程の部屋へと戻る。

 

 古瀬が部屋に戻ると、緑谷とフレクトが倒れている。他の敵と戦っていた轟と爆豪もその場に合流する。

 

「テメェ、もうちょっと考えて戦え! 生き埋めになるところだったわ!」

 

 OFAの力は強いから仕方がないのだが、死穢八斎會の時もそうだったが、こいつちょくちょく周りに被害を出すなと古瀬は思った。

 

 緑谷は何とか起き上がり、トリガーボムはどうなったのかと聞いてくる。

 

「解除したよ」

 

「テメェ今回なんもやってねぇな! 一人だけ無傷じゃねぇか!」

 

「本来の任務は潜入だったから」

 

 古瀬と爆豪の言い合いを見て緑谷は笑う。そうこうしていると、他のヒーローたちが救援にやって来る。

 

 古瀬は緑谷たちよりも一足先に、ホークスたちと共に帰国する。その途中、空港のテレビで流れているニュースを見る。

 

『闇の大物ブローカーの顧客リスト流出』

 

 超常解放戦線の手によって、義爛の顧客リストが流出させられる。公開されたリストの中には、古瀬の名前も存在した。

 

 そのニュースを見て、古瀬はかなりやばい状況だと認識して顔を引きつらせる。どうしようという絶望感が、心の内を空洞にした。

 

 

 

 顧客リストが流出したことで、公安は対応に追われることになる。調査によって、ヒーローのみならず、公安職員も裏取引に関わっていたことが判明する。

 

 逮捕時の証言が食い違っていたにも拘らず、ヒーローの功績として認められていたのは、この職員が承認していたためであった。

 

 ヴィランの功績売買は、寧ろ公安の計画だったのではないか、という話すら内部で持ち上がる。

 

 別派閥の計画だった。しかし事実であってもおかしくないからこそ、その言葉を誰も口には出さなかった。

 

 公安職員が関わっていたこの一件を、彼らとしては揉み消したかった。公表されてしまった以上隠蔽は無理だが、周りの関心が無くなるまで引き延ばして煙に巻いて有耶無耶にしたかった。

 

 それに超常解放戦線は総勢約十一万、少しでも戦力が欲しいこの時期に、ヒーローの数を減らすような真似はできるだけ避けたかった。

 

 そのため公安としては、ヒーローたちをこの件で厳しく処罰することは避けたかった。かといって無罪放免というのも難しく、難しい対応を迫られる。

 

 厳しく罰すれば寝返りかねない。実際、何人かのヒーローは超常解放戦線に寝返っている。そういったヒーローが新たに出ないとも限らない。

 

 というわけで、よっぽどやらかしていない限り、罰は軽めにするというのが公安の方針であった。超常解放戦線との戦いでの活躍次第では、それの取り消しもあり得るとした。

 

 現実問題として、リストの全員を罰するのは困難であった。関与している人間が膨大なのに加えて、事実関係の確認が困難であった。

 

 全員正直に話すはずがなく、何が真実で何が嘘なのか、情報が錯綜する。中には十年以上前の記録もあり、物的証拠の確保も極めて困難だった。

 

 それにリストそのものが、必ずしも正しいとは限らない。全く関係のないヒーローの名前が、この中に加わっていてもおかしくない。

 

 そのためリストを鵜呑みにして罰することはできない。

 

 などの理由もあって古瀬だが、処罰自体はそれほど重くはない。当時中学生であったことや、現在も未成年であること、ここ一年間は全く関わっていないなどから、かなり軽いものとなった。

 

 そもそもヒーローを罰さない方針なのに、古瀬にだけそれ以上重い処罰をするというのも難しいし、行う理由も無い。それらの事情もあって処罰は軽減される。

 

 公安にとって重要なのは、関与した公安職員、次いで関わったヒーローたち、それからその他である。彼らにとって古瀬の重要度は低かった。

 

 関与した罪も、重犯罪は無かったこと、かなりやらかしてはいるのだが、本人の証言以外に証拠が無い事も罰しにくい原因としてあった。

 

 さらに個性とは異なる異能を使うヒーローとして、その実例として広報に使いたかった公安の思惑もあって、その分罪が軽減された。

 

 年末と新年に事件を大量に解決した功績や、那歩島での戦闘、ヒューマライズ壊滅などが加味され、オールマイトやホークスの執り成しもあって、ある程度罪が軽減される。

 

 それから古瀬を厳しく罰した場合、メディカルマシーンが使用できなくなる可能性がある事も軽くなった理由にある。古瀬がいないと使えないわけではないが、知った事かと製造もメンテナンスを放り投げる事は考えられる。

 

 などもあって処罰は非常に軽いものなのだが、それはそれとして死ぬほど怒られた。主に教員から長期に及ぶ説教を受ける。

 

 古瀬は後で発覚した場合のリスクを考えて、全て正直に答えた。

 

「他に隠していることは?」

 

「あとは、死穢八斎會から壊理ちゃんを連れ出したくらいですかね」

 

「あれも君か!?」

 

 教員は古瀬の処分をどうするか話し合う。

 

「違法ヒーロー活動に、運び人、人身売買を行っていたヴィラン組織と、プロヒーローを殺害したこともあるヴィランの捕縛及び売買ですか」

 

「ヨクモココマデヤラカスモノダ」

 

「でも個性の不正使用は行っていないんですよね。無個性の中学生がこれは中々にすごい」

 

 ちなみに、ミルコは中学時代に地下ファイトクラブを荒らし回っている。それにより補導されて学校バレして、停学処分を受けている。

 

「即刻除籍処分にするべきです」

 

「待ってくれ。これはあくまで当時の事だ。それ以降の事も考慮するべきだろう」

 

「校長はどうお考えなんです?」

 

「中学時代は我々が関与できた範囲ではない。しかしそれはそれとして、この件に関しては厳しく罰するべきだと思っている」

 

 誰も何も言わず、一時その場は静まる。

 

「ではその罰というのはどのようなものでしょうか」

 

「まず退学にはしない。過去の罪はともかくとして、我が校の生徒を見捨てるような真似をするつもりは無いのさ」

 

「放置したほうが危険そうですしね」

 

 AFOと殴りあえる戦闘力、個性を再現可能な開発力、数ヶ月で億単位の利益を出す経営力、多数のロボットを率いる指揮能力。学校や社会への恨みを抱かせたまま放流するには危険すぎる人間だった。

 

「では停学ですか?」

 

「停学ねえ。既に一週間近く停学状態ですが」

 

「これだけやらかしてんだから、二月くらいなら安いもんだろうがYo!」

 

「一月くらいの停学が妥当な気がするけど、公安からあまり厳しく罰さないように言われているのさ」

 

「なぜ公安から?」

 

 メディカルマシーン関連もあるのだろうな、と校長は考える。

 

「公安はこの一件をヴィラン側からの攻撃と考えているのさ。ヒーローの不祥事による社会への混乱、それに伴う戦力の低下を狙っていると」

 

「公安はこの件でヒーローたちを罰さないというのは本当ですか?」

 

「ヴィランが流した情報を真に受けて罰する方が問題なのさ。というわけで彼にはこの件に関しては深く反省してもらい、再度行わないように厳しく指導していくのさ」

 

 古瀬への処罰は、インターン活動の停止と、しばらく指導を受けることに決まる。ちなみに公安からの処罰は、急遽執り行われることになった短期講習の受講である。

 

 

 

 一方で、古瀬は長期の取り調べと説教で疲弊していた。体力的に、特に精神的に疲弊しており虚ろな目をしている。

 

 そんな古瀬のもとに面会人がやって来る。

 

「邪魔するぞ」

 

 入って来たのはワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの虎であった。

 

 表向きはマスキュラーを捕縛したのは、サワーマジシャンという事になっていた。しかしそれが嘘だったと発覚して、洸汰が塞ぎこんでいると聞いているため、虎を見た時、古瀬は一発くらいは殴られるかなと思った。

 

 虎は指導室で古瀬を見下ろしたのち、勢い良く頭を下げる。

 

「洸汰の両親を殺害したヴィランを捕縛してくれたこと、感謝する」

 

 古瀬はまさか頭を下げられるとは思わず困惑する。どういうことか意味が分からず、何も言えなかった。

 

 虎は初め、古瀬の事を聞いた時ぶん殴ってやろうと思った。洸汰が傷付いたのは、こいつの身勝手な行動も原因だと憤った。

 

 しかも理由が金欲しさであったという。そんな人間の強化訓練に自分が協力してやっていたというのにもまた腹が立った。

 

 しかし調べてみると、それほど単純な話では無いと知る。

 

 少年は無個性であることを理由に育児放棄され、その後は施設で育った。一度施設が事故にあい、多くの知り合いを失っている。

 

 中学時代は無個性のみを集めた、愚連隊のようなものを結成している。その時の知り合いに紹介されて、犯罪行為に手を染めていった。

 

 金が欲しかった理由は学費を稼ぐため。虎が思っていたような、遊ぶ金欲しさというものではなかった。

 

 これらの情報を調べていくうちに、お前が悪いとぶん殴って上から目線で叱責するのは、正直どうなのかと虎は思った。

 

 そりゃあ責めるのは簡単である。どのような理由があろうと、法を犯したお前が悪いと言えばいい。真っ当な方法で稼げばよかったのだと。

 

 しかしこの初期状態から這い上がるのは並の方法では無理だっただろう。個性があり、親がいて、学費で苦労したことも無い人間が、お前は間違っていると偉そうに言っても、相手の心に響くとは思えなかった。

 

 それは単に自分の感情をぶつけて、憂さを晴らそうとしているだけなのではないか。その行動はヒーローとしてどうなのかと虎は考え直す。

 

 少年の行動を肯定するつもりは無いが、個性が無く、金も無く、頼れる人もいなかった人間に、正しいやり方でやればよかったのだ、なんて上から目線で暴力を振るうのは、相手の事をまるで考えていない独り善がりな行動な気がしてきた。

 

 叱責はただ相手を否定するだけでしかない。聞いた話では十分に反省しているようだし、許してやってもいいのではないかと虎は思った。

 

 そしてヒーローとして相手を助けるにはどうすればいいか考えた結果、まずは少年を認めてやるべきではないかと思った。

 

 頭を下げられて古瀬は困惑する。どう反応すればいいのかが分からなかった。

 

「本来ならマンダレイが来るべき所だが、洸汰の事があってな」

 

「はい」

 

「その様子では知っているか」

 

「はい」

 

「あの子はまだ塞ぎ込んでいる。サワーマジシャンが不正をしただなんて嘘だ、と言い張っているよ」

 

「はい」

 

「後悔しているなら、それ以上は何も言わん。お前の行動が人を傷つけたことだけ忘れるな」

 

「誠に申し訳ありませんでした」

 

 虚ろな目で機械的に返事を繰り返す古瀬を見て、虎はかなりやばそうな状態だなと思った。かなり反省していると思うことにした。

 

「今は難しいだろうが、そのうち落ち着いたら洸汰に会ってやってくれないか?」

 

「彼に、ですか?」

 

「このままではお互いに、相手の事を何も知らずにすれ違ったままだ。できればでいい。仲良くしろとも言わん。ただ会って、話をしてやってくれ」

 

 古瀬は虎の意図を計りかねて何も言わなかった。

 

 その内でいい。考えておいてくれ。そう言って、虎は立ち上がり部屋から出ていく。

 

 それからしばらくして、別の面会人がやって来る。部屋に入って来たのは轟と壊理だった。

 

 古瀬は会いたくない相手が来たな、と思いながら表情の無い顔をする。

 

「あの、助けてくれて、ありがとうございます」

 

「気にすること無いよ。かなり利己的な理由でやったから」

 

 古瀬は、壊理を逃がしたのは、あの場所にいない方が自分にとって都合がよかったからだと周りに説明している。

 

 あの場所で何が行われていたのかについては知っていた。しかし逃がしたのは、壊理を助けるためではなかったとはっきりと言っている。

 

 しかし結果として、壊理を助けているのは事実である。方法は全く褒められたものではないが、警察を頼らなかった理由も聞いて、この件に関しては消極的ながら肯定的な意見が多い。

 

 警察を頼らなかったのは、組長と血縁関係があるため取り返される恐れがあったから。なぜヒーローを頼らなかったとも言われるが、最終的には頼っている。

 

「それでも、ヒーローみたい、だったよ」

 

「はは、ありがとう」

 

 古瀬はヒーローと呼ばれても特には喜ばない。しかしそう言われて、気持ちが幾分軽くなった。

 

 それから、横に座っていた轟が口を開く。

 

「壊理がそれでいいなら、俺から言う事は何もねえ」

 

「はい」

 

「早く学校に出て来いよ」

 

「はい」

 

 そのような会話をした後、轟と壊理は部屋から出ていく。

 

 それから間もなく、別の面会人がやって来る。部屋に入って来たのは麗日だった。

 

 一番会いたくない人が来たなあ、と思いながら、疲れた様子で笑うような表情を作る。

 

「久しぶり」

 

 いつもの軽い感じではない、ガチトーンだった。麗日は正面の椅子に座る。手を組んで睨みつけ、古瀬はその気迫に押される。

 

 古瀬は、これはもう駄目かもしれないなあと思った。

 

「何したか分かってる?」

 

「誠に申し訳ございません」

 

「井梨くんがやったことのせいで、他の誰かが傷付いたかもしれないんだよ!」

 

「はい」

 

 麗日は落ち着いた様子で真っ直ぐ古瀬を見る。

 

「何があったか全部話して」

 

 古瀬は過去の出来事について話す。はっきりとは憶えておらず曖昧な所もあったが、おおよそ中学時代に何をしていたかについて語る。

 

「中学時代からヴィラン退治!? しかも値段が数百万!?」

 

「はい」

 

「ヴィランってお金になるんやね」

 

「もう胴元が捕まったので、換金はできませんけどね」

 

 捕まった公安委員会職員は取り調べ中。処分はまだ決まっていない。

 

「それでお金のためにヴィラン退治しとったんやね」

 

「片方はそうです。もう片方はただの嫌がらせです」

 

「嫌がらせ」

 

「この先、こうなるんじゃないかという予想があって、その通りに選ばれた人間の糧になるくらいなら、と思ってやりました」

 

「その嫌がらせの相手ってデクくん?」

 

「はい」

 

 なるほどなあ、と麗日は聞いている。昔の話で今とは違うし、理由も知っているので殆ど驚きは無かった。

 

 麗日は緑谷のことが嫌いではないし、好感度も高い。ただ古瀬と付き合って以降、その感情は憧れとして認識している。

 

 ちなみに他の人には、ここまでは話してない。

 

「井梨くんでもお金稼ぐのは難しかったんだ」

 

「かなり。雄英を受けるつもりだったので、そちらに時間を取られすぎるわけにもいかなかったので。あの頃は、お金を稼げるし戦闘経験も積めるから、丁度いいかなくらいに思っていました」

 

「それが始めた本当の理由?」

 

「そうかもしれません」

 

 麗日は怒った様子で呆れている。

 

 ヒロアカはかなり管理、抑圧された社会である。規範から外れた者に対する忌避感が強いというか、ロウ属性としての側面が強い。

 

 そのため麗日が古瀬に抵抗感を抱くのは普通である。ただし古瀬は直接誰かを傷つけたわけではなく、理由や背景は多々あれど、まだ規範からは外れていない。

 

 麗日にとって古瀬は、初めは偶に会う知り合いだった。それからよく遊びに誘われて、親しくなるうちに、麗日に都合を合わせることもあって、自分に好意があるのではないかと言われて意識し始めるようになった。

 

 告白された段階で、明確に古瀬の事が好きだったわけではない。ただその時の高揚と雰囲気で付き合うことになった。

 

 それから付き合ううちに、好意を寄せるようになった。夢に向かって一心に頑張るタイプではないが、何だかんだ嫌いではないと思っている。

 

 やっていたことを許す気にはなれない。それはそれとして、古瀬の事が好きだというか、愛情があるんだろうなと麗日は思った。

 

「他は?」

 

「壊理ちゃんを死穢八斎會から連れ出しました」

 

「壊理ちゃん……えっ、何で?」

 

「ただの嫌がらせです」

 

「嫌いすぎ」

 

「申し訳ございません」

 

 壊理を連れ出すことがなぜ嫌がらせになるのか、はっきりとは分からないが、何かしらの理由はあるんだろうなと麗日は思っている。

 

「他は?」

 

「今思い出せるのはそれで全部です」

 

「反省してる?」

 

「はい」

 

「もうやったらあかんよ」

 

「誠に申し訳ございません」

 

 麗日は立ち上がる。そして古瀬の方へと近づいて両手を伸ばす。

 

「抱きしめる?」

 

「いいんですか?」

 

 二人は椅子の上で抱きしめ合う。麗日が古瀬の高さに合わせる形であった。

 

「正直、別れを切り出されるかと思ってました」

 

「別れたい?」

 

「別れたくないです」

 

 古瀬は麗日を強く抱きしめる。仕方ないなあ、と言いつつも、麗日は怒ってはいるとは相手に伝える。

 

「処分どうだったの?」

 

「しばらく学校の指導を受けるのと、三月に行われる短期講習を受けるようにだそうです。それと相手側に迷惑が掛かるので、インターンも中止になりました」

 

「そっか。しっかり務めてくるんだよ」

 

「分かりました」

 

「罪を償ったら、またどっかに遊びに行こ」

 

「はい」

 

 時間が過ぎた後、古瀬と麗日は部屋から出る。寮へと向かう途中、廊下でエンデヴァーに遭遇する。

 

 古瀬は壊理を轟家に置いて行ったことに対して、エンデヴァーに頭を下げる。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 下げた頭に拳を落とされる。大きなたんこぶを作って頭を押さえる古瀬に対して、エンデヴァーは鼻を鳴らす。

 

「次からは、やる前に相談しろ」

 

 そう言って、エンデヴァーはその場から立ち去る。

 

 大丈夫かと聞いてくる麗日に対して、古瀬は大丈夫だと答える。

 

 寮の手前で別れる前に、麗日はあることを思い出して荷物の中から何かを取り出す。笑いながら、チョコレートを古瀬に押し付ける。

 

「はい、これ」

 

「ありがとうございます。そのうちお返し送りますね」

 

 古瀬は笑いながらそう言う。二人はそれぞれの寮へと戻っていった。

 

 

 

 二月下旬、古瀬と麗日は部屋でアニメを見ている。

 

「気の使い方ですか?」

 

「井梨くんは無重力でも好きに移動できるやろ。あれ私もできたら便利だなって」

 

「教えてもいいですけど、あれを覚えるのって結構時間が掛かりますよ?」

 

「いいの? 前に個性持ちには教えないと言ってなかった?」

 

 そう言われて、まあそうだけど、と古瀬は口にする。

 

「どうせヒューマライズ信者から伝わるでしょうし、今後そういった力を使うヴィランも現れるかもしれません。それなら教えた方がいいかなと」

 

 古瀬が教える理由は、彼女だから、以上の理由は無い。他の人に頼まれても、自分の訓練に集中したいからと断っている。

 

「ただ必ず習得できるとは限りませんよ。どちらも中途半端になるかもしれないし、個性を伸ばすのに集中した方がいいんじゃないですか?」

 

 最悪、時間の浪費になりかねない。習得できたとしても、両方同時に伸ばすのは難しい。

 

「それに本当に、年単位でかかるよ。僕は習得するのに四年かかっている。実を結ぶのに時間が掛かるから、その間成績が落ちることにもなる」

 

 途中から『みんなを笑顔にするヒーロー』に変わっているが、麗日の初期目標は両親を楽させるためにお金を稼ぐことである。成績の低下は将来に響く。実力を伸ばすだけなら、学校側が考えた訓練計画の方がいいのではないか。

 

 なお四年というのは、八から十二で、数え方は割と雑。

 

「そっか、デメリットも大きいのか。でもせっかく井梨くんが教えてくれるって言ってるんだからやってみたい」

 

「まあ、そう言うなら教えますけど」

 

「ありがと。でも時間大丈夫?」

 

 古瀬はまあ、何やかんや色々とあって忙しい。補習とか、訓練とか、会社経営とか、開発とか、指導とか。

 

「彼女とイチャつく以上に重要な時間は無いから大丈夫だよ」

 

「ははは、何言ってんだい」

 

 古瀬と麗日は、使用許可を取って体育館へと移動する。

 

「宜しくお願いします!」

 

「訓練としてやる以上、真面目にやります。まずは背中を向けてください」

 

 古瀬は体操服の麗日の背中に手を当てて、自身の気を分け与える。そうすると、麗日の中から気が溢れて発光する。

 

「光っとる!」

 

「その状態で、軽く体を動かしてみて」

 

 麗日が体を動かすと、普段よりもかなり速く体が動く。跳躍すると、六メートルほど跳びあがる。

 

 麗日は咄嗟に自分を無重力にする。それと同時に光が消え、彼女はしばらくその場に滞空する。その後、ゆっくりと下に降りてくる。

 

「今のは、お茶子さんに気を送りました。ペットボトルの中に、強引に空気を押し込んだようなものだと思ってください。光っていたのは容器から溢れた気です。内部に残っていた気が、身体能力を上げていました」

 

「光っていた方がロスなんだ。そういえば井梨くんは光らないよね」

 

「本来は、気の総量を増やして放出できるようにする事から始めますが、お茶子さんはヒーロー科の訓練である程度鍛えられているので、気の総量を増やすのと、コントロールから始めましょう」

 

「鍛えてないとどうなるの?」

 

「爆発します。というのは最悪の場合ですが、上手く放出できないとあまりいい事にはなりません」

 

「最悪は爆発なんだ」

 

 その後も定期的に、古瀬と麗日は訓練を行った。

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