無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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オール・フォー・ワン・インフィニティー

 三月中旬、古瀬はA組の教室で麗日と話す。

 

「やっと短期講習が終わりました」

 

「完全復活だね!」

 

「あとこれ、バレンタインのお返しです」

 

「大型や。ありがとう」

 

 クッキーの箱を渡すと、麗日はお礼を言ってそれを鞄の中に入れる。

 

 それから、古瀬はもうすぐ春休みだと話題を出す。

 

「それでさ、春休みに旅行に行かない?」

 

「旅行かあ。でも外泊許可が下りないんやない?」

 

「そうかな? 遠征が終わったら、許可が通りやすくなるんじゃないかな?」

 

 三月下旬に、古瀬を除くB組生徒全員がインターンで遠征に行くとの事であった。古瀬が確認して見た所、A組も全員がそうであった。

 

 これは、ヴィラン連合との決戦ではないかと古瀬は予想する。一年の終わりに物語が終わるというのは区切りがいいし、メタ読みでそうではなかと考える。

 

 多分、何か大規模な戦いが行われるのではないだろうか。そこでラスボスを倒してハッピーエンド、全ての因縁に決着を、みたいな。

 

 戦いはおそらく四月までには終わるだろうと古瀬は予想する。全ての戦いを終えて二年史に進級する。そこで物語は幕を閉じる、そんな感じではないかと思った。

 

「温泉行こうよ、温泉!」

 

「委員長、あそこに不純異性交遊を企んでる奴がいるぞ!」

 

 峰田が血涙を流しながらそう訴える。

 

「峰田くん、そう決めつけるものではないぞ!」

 

「うるせぇ! 旅行なんてヤるための方便に決まってんだろうが!」

 

「ほっといてやれよ」

 

「いいや、あれは完全にその気だね。麗日を見ろよ、顔が真っ赤だぜ」

 

 麗日は顔を真っ赤にして俯いている。

 

 上鳴と峰田は、次郎にイヤホンジャック刺されて気絶する。

 

「日数的に旅行は難しいんじゃないかしら」

 

 古瀬は蛙吹にそう言われる。振り返ると真後ろに蛙吹の顔があった。

 

「遠征が終わった後だと、春休みはもう終わっているんじゃないかしら」

 

「うーん、今回は無理かなあ。行きたかったなあ、旅行」

 

「それなら、次の機会にまた行こ!」

 

「そうだね。またの別の機会に誘うよ」

 

 フリーズから復旧した麗日がそう言い、古瀬もその言葉に同意する。

 

 古瀬と麗日は旅行の約束をした。

 

 

 

 三月下旬、古瀬を除くヒーロー科の生徒は全員、インターンの遠征に出ている。また教員の多くも同様に、決戦に動員されていて学校にいない。

 

 この日、雄英生徒は安全のために外出許可が出ず、学校の外に出ることができなかった。また春休みという事もあって、多くの生徒は寮にいた。

 

 空は曇っており、あまりいい天気ではない。雨が降りそうで降らないような、そんな天気だった。

 

 その昼過ぎ、古瀬はサポート科の工房へと向かっていた。校舎の周りを歩いていると、放送で校長室へと呼び出される。

 

 ノックをして校長室に入るとオールマイトがいた。何があったのか、根津に聞いている。

 

 オールマイトはメディカルマシーンの治療によって、やや筋肉が少ないものの、ほぼマッスルフォームと変わらない見た目へと変わっている。

 

 見た目がどう見てもオールマイトのため、『オールマイトが個性で変質した説』『実は兄弟説』『八木先生が整形してオールマイトの影武者をやっている説』などが流れている。

 

「何かあったんですか?」

 

 そう声を掛けると、根津とオールマイトが古瀬の方を見る。

 

「ヒーローたちとの連絡がつかなくなった」

 

「説明しておくと、ヒーローたちは今ある作戦のために集結している」

 

「ヴィラン連合との決戦か何かでしょう? この状況を見れば流石に気付きます」

 

「今は超常解放戦線と名乗っているのさ。最高指導者は死柄木弔、異能解放軍を吸収した組織で、その総勢は十一万を超えている」

 

 十一万という数値を聞いて、古瀬は驚きの声を漏らす。ただその戦闘力については、いかほどのものかと疑問に思った。

 

「大軍ですね。異能解放軍というと確か、デストロが作った組織でしたか?」

 

「デストロの遺志を継ぐものによって、水面下で勢力拡大を続けていたのさ。そしてヴィラン連合がその組織を吸収する形で、新たな組織が作られた」

 

 デストロ、超常黎明期に異能解放軍を結成して国と対立するも、最後には多くの構成員と共に逮捕され、その後自決した。

 

 個性の母と、呼ばれる女性の息子でもある。まだ個性を持つ人間が少なかった頃、異能を持つが故に罵倒されながら石を投げられる息子を庇いながら、『この子のこれは個性です』と言ったのが、異能が個性と呼ばれるようになった切っ掛けである。

 

 ただ国はこれを美談として扱い、個性という言葉を定着させるために利用したのが、デストロが決起した理由でもある。

 

 超常黎明期は、個性を持った人間は迫害され、無個性は個性持ちに襲われて殺されるという、AFOの支配が平和と謳われるほどの、中々に世も末な状態であった。

 

 人口は大きく減少、文明は停滞、治安は崩壊していた。犯罪者とヴィジランテが暴れ合い、それ以外は他人を恐れて家に引き籠っていた。

 

 この状況を終わらせたのは、英雄の登場ではなく、時間の流れに伴う、個性を持った人間の増加であった。

 

「それで連絡が途絶えたというのは?」

 

「現地にいる全員、ヒーローや警察との連絡がつかなくなった」

 

「通信妨害か何かですか?」

 

 通信を妨害する個性持ちは偶にいる。そういった類かと、古瀬は根津に尋ねる。

 

「まだ分からない。しかし残っている他の教員と同じように、二人には万が一に備えて待機しておいてほしいのさ」

 

「分かりました」

 

 古瀬とオールマイトは退室する。そこでオールマイトは独り言のように呟く。

 

「彼らが無事だといいが」

 

「まあ、何とかなるんじゃないですか?」

 

「確かに杞憂であればいいが」

 

「僕はそこまで心配していませんよ。だって、物語の結末なんて、ハッピーエンドと相場が決まっているものですよ」

 

 それから、古瀬はコスチュームに着替えて、待機室へと向かう。そこには根津や他の教員も集まっている。

 

 根津は情報収集を行う中で、異変に気付く。外部との連絡が取れない。すぐに雄英の警備システムが作動し、学校内に警報が鳴り響く。

 

「校長!」

 

「外部から攻撃を受けています! 校内ヴィランが侵入!」

 

「教員はヴィランの迎撃、生徒たちを地下へと避難させるのさ!」

 

 校長とオールマイトを除く教員、全員が部屋から出ていく。オールマイトも出て行こうとするが、その前に別の報告が入る。

 

「シェルター内にヴィランが侵入しました!」

 

「僕が行きます!」

 

 返事を聞かずに、古瀬は生徒の気がある場所へと瞬間移動する。

 

 雄英は区画ごと地下へと潜り、シェルターとして機能する。そして電導リニアシステムによって、地下を移動して、遠く離れた安全な場所へと避難する予定であった。

 

 古瀬が移動した時、その地下区画は明かりが消えていた。全体が移動している様子も無く、その機能を停止させている。

 

 振り返ると、何人かの生徒が負傷している。そして彼らの視線の先には、AFOがいた。

 

 またこいつかよ、と思いながらマスクの下で古瀬は苦笑する。なぜこんな所に、とも思うが、この場を何とかすることを優先する。

 

 まともに戦って勝てる相手ではない。持っている個性によっては一撃死すらあり得る。緊張によって、刀を握る手に汗が滲む。

 

「スケアクロウ!」

 

「お前らは早く避難しろ。こいつは俺が何とかする」

 

 負傷した生徒に、別の生徒が肩を貸す。歩けない生徒は、別の生徒が運んでいく。

 

 AFOは無言で、離れようとする生徒たちに向けて攻撃を放とうとする。

 

 古瀬がまずいと思った瞬間に、上から誰かが降って来る。そのまま踏み潰すように蹴りを放つが、AFOは後ろに跳んでそれを躱す。

 

「わーたーしーがー、上から来た!」

 

「オールマイト!」

 

「君たちは早く避難を!」

 

 生徒たちは非常口へと走っていく。古瀬とオールマイトはAFOと対峙する。

 

「生徒たちに手出しはさせんぞAFO! 貴様との因縁、今ここで決着を付ける!」

 

 その言葉を、AFOは鼻で笑う。腕を膨らませて巨大なエネルギーを放つが、古瀬にそれを両断される。

 

「これで少しは勝ちの目が出てきたか」

 

 後方で、二つに分かれたエネルギーが巨大な爆発を起こす。

 

 AFOは触手のような鋲を指先から出して、古瀬を刺し貫こうとするが躱される。接近してくるオールマイトから距離を取ろうとするが、足を凍らされてそれを阻まれる。

 

「デトロイトスマッシュ!」

 

 頬を掠めるが、ギリギリの所でそれを躱す。それから、氷を砕いて宙に浮く。

 

「やるじゃあないか。所詮は残りカスと、完全に見縊っていたよ」

 

「貴様、何をしにここに来た!」

 

 オールマイトも、AFOがなぜこのシェルターにいるのかが分からなかった。理由が何であれ、今は全力で敵を倒すことに集中する。

 

「素直に答えると思うかい?」

 

 AFOの体から、光や球体、物体など、様々な物が混ざった攻撃が放たれる。その一撃によって、その地下区画内にある全ての建物が倒壊する。

 

「こういう大技を、雑に放ってくるから……」

 

 瓦礫を押しのけながら、古瀬は立ち上がる。オールマイトもその付近で立ち上がる。

 

「古瀬少年、大丈夫か!」

 

「ああ、こっちはね。そっちは、やばそうだな」

 

 肉体的には回復したが、OFAは譲渡されており、オールマイトはもう殆ど戦えない。出せる力はもう、残り僅かであった。

 

「すまないが、少しだけ隙を作ってくれ!」

 

「了解。こっちも長々と戦っている余裕はないからな」

 

 古瀬は空中から降りて来たAFOに対して斬りかかる。この暗闇の中で、自分たちを感知している個性の器官を破壊する。

 

 一瞬怯むと同時に、オールマイトがAFOの体へと拳を突き立てる。オールマイトの拳はAFOの体を貫き、AFOの体は泥へと変わる。

 

「何!?」

 

「これはトゥワイスの個性?」

 

 トゥワイス、個性は二倍。一つの物を二つに増やすことが可能。しっかりと計測することで人を複製することが可能。複製された人間は、耐久力こそ低いものの、戦闘力は本物と変わらない。

 

 非常口の扉が開く。先程、生徒たちが逃げて行った場所である。

 

 扉の奥から、赤い水溜りが流れ込む。その奥から、赤い足跡を作りながら、幾人もの人影が出てくる。

 

 それらは全て、AFOだった。二十人を超えるAFOが非常口から出てくる。

 

 古瀬が気の探知を使うと、それらは全て複製だった。この中に本物はいない。

 

「貴様っ!」

 

 非常口の奥にいる生徒たちを助けに行こうとするオールマイトを、古瀬は手で遮って押し戻す。そのままAFOに殴り掛かりそうな勢いだった。

 

「あの先にはもう、生きている人は誰も居ません」

 

 オールマイトは歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。

 

「オールマイトは地上をお願いします」

 

「君はどうするつもりだ!」

 

「殿を務めます」

 

「あの数を、一人で相手するつもりか!」

 

「足止めくらいにはなりますよ」

 

 それが極めて危険であることくらい、古瀬にも分かっている。別に勝算があって言っているわけではない。

 

 状況として、この場で戦う意味合いは薄い。この場にいるのは複製で、倒した所でまた作られる。

 

 そしてこの場に助けるべき人間はもはや誰もいない。加えてこの場に拘るよりも、他のまだ人が残っている所に救助に向かった方がいい。

 

 しかし、この場にいるAFOが自分たちを見逃すかどうか。そしてオールマイトが、この場にいる脅威を見過ごすことを許容するかという問題があった。

 

 オールマイトであれば、勝てないまでも、戦う力が残っている限り、時間稼ぎのために最後まで戦う事を選びかねない。

 

 複製であるとはいえ、耐久以外はAFOと同等、それが二十体以上。どう考えても確実に勝てるとは言えない相手である。

 

 オールマイトを置いて一人だけ離脱することもできるが、流石にそれには抵抗があった。となれば、二人とも生き残るためには、自分が足止めをして、その間にオールマイトに他の人の救助を行ってもらうしかない。

 

 二人掛かりで苦戦していた相手が二十体。古瀬には、どうにかなるのか、という強い不安があった。死を感じるほどに、一周回って逆に笑えてしまう。

 

「他の人をお願いします」

 

「……必ず戻ってくる。それまでこの場を頼んだぞ、スケアクロウ」

 

「いざとなったら瞬間移動で逃げますよ」

 

 オールマイトは跳躍して、地上へと向かう。それに向けてAFOたちが攻撃を放とうとするが、古瀬が放った雷撃によって阻まれる。

 

「ふむ、君にはまるで興味が無いのだが」

 

「それは申し訳ありません。ですがもう少しだけ付き合っていただきます」

 

 古瀬は腰の後ろにある鞘へと刀を仕舞う。そして両手の指に気を集める。この場でのAFOの敗因は、彼を脅威として認識するのがあまりに遅すぎた。

 

「重重重重重重重重重重、グラビガ×10。4の十乗、104万8576倍重力」

 

 AFOたちは反応しようとするが、それよりも先に体が押しつぶされる。泥水へと変わるように、その場に居た全てのAFOの体が地面に沈む。

 

 ちなみにブラックホールは、サイトによって数値にかなりのばらつきがあるが、地球の330万倍くらいの重力らしい。

 

 この技は、古瀬の気の総量の半分近くを使うため、多くても日に二発しか撃てない。仙豆などを使って気を回復させれば、それ以上の使用も可能である。

 

 その場に、AFOが残っていない事を古瀬は確認する。息を吐いて、気の抜きかけるが、すぐに天井が爆発して瓦礫が降って来る。

 

 地下深くから、古瀬は何とか地上へと這い出す。

 

「ゲホッ、何度目だよ」

 

 這い出した所を、オールマイトに引っ張り上げられる。

 

「大丈夫か、古瀬少年!」

 

「オールマイト、一体何が……」

 

 周りの光景を見て、古瀬は言葉を失う。雄英高校は森に囲まれた小高い山の上にあったが、周りが完全に更地になっている。そして瓦礫となった雄英高校の周りを、地平を埋め尽くすほどの数のAFOが取り囲んでいる。

 

「これは……」

 

 古瀬は立ち上がってその光景を見つめる。地を埋め尽くすほどの数のAFOが、二人の方へと向かってきている。

 

 周りの気を探ると、生きている人間はほぼいなかった。片手で数えられる程度の人数が生き残っている。

 

 しかしそれ以外の生徒は、予定通りに区画が他のヒーロー校へと移動することは無く、全員がここで亡くなっている。

 

 この状況に、古瀬はむしろ笑ってしまう。絶望的なのだが、もはや笑うしかない、と言った様子で軽く笑う。

 

 古瀬は過去の経験から、人の死に対してあまり動じない。しかし彼は他科の知り合いが多かった。その全員が死亡したことを知って、少なからず怒りが湧く。

 

 肉体がどれだけ回復しようとも、もはやOFAは存在しないに等しい。オールマイトに力を使える時間はほとんど残されていない。

 

 古瀬はオールマイトの横に並ぶ。

 

「オールマイトはアニメってよく見ますか?」

 

「昔はよく見ていたな。それがどうかしたのかい?」

 

「古いアニメの台詞を一つ思い出しました。勝てるかどうかは、『やってみなきゃわかんねぇ』!!」

 

 古瀬は跳躍してから、舞空術でかなり高い場所まで飛ぶ。そこで両手を上げて、近くにいる人間の気を頭上に集める。

 

「強制徴収、元気玉!」

 

 古瀬が作った、周囲の人間の気を強引に奪う技である。遠く離れた、星全体から気を集めるような事はできない。その代わり、無差別ではあるが、本人の同意無しに気を奪うことができる。

 

 すぐに変化は無かったが、しばらくしてAFOたちの体が泥のように崩れていく。奪われた気が耐久を超えて、泥へと変わっていく。

 

 AFOたちの気が、古瀬の真上に集まる。それらは気弾として形成され、少しずつ膨張していく。

 

 まだ生きている人間やオールマイトからも気を奪ってしまうが、まずはこの場を何とかすることを優先する。

 

 本来は気を奪ったからといって、それだけで相手を倒せるわけではない。気怠さこそ感じはするが、動けなくなるまでにはかなりの時間を要する。

 

 地平の彼方まで、広範囲のAFOたちが全て消える。そんな中一体だけ、元気玉の効果範囲の中に残っているAFOがいる。

 

「そいつが本体だ!」

 

 オールマイトが本物のAFOへと殴りかかるが、その衝撃を反転させられる。即座に左手で殴り飛ばし、AFOの口から血が流れる。

 

「決着の時だ、AFO!」

 

「遅かったじゃないか、オールマイト」

 

 AFOが腕を振るうと、オールマイトは後方へと吹き飛ぶ。

 

「君の凄惨な最後を見てあげるとしよう」

 

 AFOの複製たちによって、雄英高校付近一帯は破壊されている。戦闘は雄英から少し離れた、瓦礫となった市街地で行われる。

 

 戦いはAFOが圧倒的に優勢だった。お互いに拳を合わせても、オールマイトは耐えきれずに吹き飛ばされる。

 

「憐れなものだ。お互い傷が治って、僕は力を取り戻し、君は衰えた!」

 

 オールマイトに余裕はない。もはや戦う力は残されていないと言っていい。

 

 下の状況を見ながら、まずいなと古瀬が思っていると、地平の彼方から光が飛んできて直撃する。

 

 咄嗟に気でビームを防ぐが、地平の彼方を見ると、無数のAFOが並んでいる。それら全てが、古瀬の方へと指先を向けている。

 

「マジかよ」

 

 数万の光が古瀬へと直撃する。何とか気で防ぐものの、マスクは割れ落ち、衣服は破れて、その衝撃で体が傷付く。

 

「そこから動くことができないみたいだね。さあ、何発まで耐えられるかな?」

 

 次は受けられない、そう感じた古瀬は技の発動を止めて、集めた気弾を持って落下する。

 

 古瀬がいた場所に無数の光が集まり、空に幾何学的な円模様が描かれる。光の集約によって、空は眩い光を放つと同時に爆発する。

 

 爆風と共に古瀬は落下する。AFOの本体目掛けて、集めた気弾を前に突き出す。

 

「合わせろ、オールマイト!」

 

 AFOは真上からの攻撃に気付くが、オールマイトに腕を掴まれ、その体に拳を叩き込まれる。

 

「UNITED STATES OF SMASH!!」

 

 オールマイトは残っている自身の力、OFAの残り火全てをこの一撃に込める。その一撃はAFOを倒すには至らぬものの、体を浮かせて気弾へと叩き付ける。

 

 叩き上げられ、AFOの体が気弾の中へと沈んでいく。その体は少しずつ砕けていき、やがて完全に呑み込まれて消滅する。

 

 二つの力に挟まれて、押し付けられたその力を完全に受ける。その攻撃が終わった時、AFOの体は完全に消え去っていた。

 

 終わった、二人がそう思った時、AFOがいた場所に稲妻が走る。

 

「侮っていたよ。まさか君達相手に、この切り札を使うことになるとは」

 

 粉々になった肉体が、時間が巻き戻るように復元される。

 

 その光景を見て、オールマイトは冷や汗を流し、古瀬は顔を引きつらせる。

 

「不死身かよ」

 

「いいや。この巻き戻しは使ったが最後、最終的に僕は消えて無くなる」

 

 その言葉を聞いて古瀬は驚く。まさか回復の代償が、AFO自身の死だとは思わなかった。

 

「消えて無くなる?」

 

「馬鹿な! ならなぜそんなものを使った!」

 

「僕の夢は既に弔に引き継がれている。AFOの夢が! 魔王の夢が!」

 

「魔王?」

 

 古瀬の疑問に対して、AFOは時間を使おうとも構わずに、楽しげに語る。

 

「単純だよ。コミックに影響されてね。その悪役は世界中から恐れられていた。何でだと思う?」

 

「強い力を持っていて、それを気ままに振るっていたとか?」

 

「歪んだ欲望と、支配を望んでいたからだろう!」

 

 二人の回答を、AFOは一笑に付す。

 

「文化も価値観も無数に広がるこの世界で、誰もが顔を顰め嫌悪する行為。それは思い描く未来を阻まれること。だから僕はね、世界中の未来を阻みたい。ただそうありたいと願っただけだ」

 

「馬鹿馬鹿しい。未来なんてどっちもこっちも閉ざされてばっかりじゃないか。望んだ未来に進める人間の方が珍しい」

 

「貴様が世界の未来を阻むというなら、私が貴様の行く手を阻む! 誰にも、彼らの歩みを邪魔させはしない!」

 

「それにふわっふわし過ぎなんだよ。未来を阻むって、つまり具体的に何をしたいんだ」

 

 AFOは予め答えが分かっていたかのように、その手を二人へと向ける。

 

「理解はしてもらえなかったようだね」

 

 古瀬は刀を引き抜いて構え、オールマイトは拳を握る。

 

「話し合いは終わりか」

 

「もはや私に力は残っていないが、時間さえ稼げれば……」

 

「させると思うかい?」

 

 AFOの攻撃によって二人は分断される。衝撃が二人の中間を通り過ぎて、後ろの瓦礫を吹き飛ばす。

 

「逃がしはしない。弔の邪魔にならないよう、君たち二人にはここで死んでもらう!」

 

 古瀬が背後に回って、足に雷撃を纏って切り裂くが、AFOはそれを避けようともしない。傷付いた体は即座に巻き戻り、後ろの古瀬に対して衝撃を放つ。古瀬は避けようとするが完全には避けられず、後ろの瓦礫へと吹き飛ばされる。

 

「さあ、ここから無個性二人に何ができる?」

 

 オールマイトにもはや戦う力は残されていない。それでも陽動のために、AFOに呼びかける。

 

「貴様が殺したいのは私だろう! 私はまだここにいるぞ!」

 

「もはや無個性の君は脅威にはならない。そこで大人しくしているといい」

 

 AFOは腕をオールマイトへと向ける。

 

「ああ、もちろん逃げても構わないとも。その時はここにいる、生き残っている人たちを殺すとしよう」

 

「貴様……」

 

「大人しくしていなよ、オールマイト。君はもう舞台から降りたんだ」

 

 AFOは相手の滑稽さを笑い、指から衝撃を放って、オールマイトを吹き飛ばす。そして立ち上がった古瀬の方を向く。

 

「君は毒ガスが苦手なんだって? それならこれはどうかな」

 

 AFOから広範囲にガスが広がる。一種類ではなく、複数の種類が混ざり合っている。

 

 古瀬は先程のビームでガスマスクが破壊されている。彼はその光景を見て、顔を引きつらせて笑う。

 

 奇跡は起きない。力の覚醒など存在しない。訓練でできなかったことができるようになることなど無い。だとすれば、どうすればいい? 

 

 自分が毒ガスの中に入れないなら、相手を毒ガスから引きずりだせばいい。そう考えた古瀬は、気と空気で糸を生成して、それをAFOに巻きつけて引っ張る。

 

 糸にAFOを拘束できるだけの強度は無い。すぐに引き千切られるが、毒ガスの外へと引っ張り出すことに成功する。

 

 AFOは腕を巨大化させて、古瀬を迎撃しようとする。しかしその前に、AFOの体が、負傷していた時の体へと巻き戻る。

 

 それを好機と見た古瀬は、刀を上に放り投げて、AFOに大技を放つ。

 

「石破天驚拳!!」

 

 模倣して作った、全く異なる技である。気の性質変換の発展形、一点へと熱を集中させて、AFOの上半身を融解させる。

 

 AFOの巻き戻りは加速し、負傷していた時期を通り過ぎて、再度全盛期の肉体を取り戻す。

 

「駄目だ! その体には何をやっても巻き戻る! 時間を稼ぐんだ!」

 

「だったらその力ごと、斬ればいいだろ!!」

 

 落ちてきた刀を逆手に掴む。AFOの体が再生しきる前に、古瀬は刀を振り下ろす。

 

「あんたが魔王を名乗るなら、この一撃が効かない道理は無いよなぁ! アバンストラッシュ!!」

 

 頭の先から、正中線に沿って、刀はAFOを両断する。真っ二つに切り裂かれて、AFOの体の中心にズレが生じる。

 

「あ……」

 

 AFOは手で自分の体を押さえる。もう片方の手に可能な限りの個性を発現させて、古瀬にぶつけて遠くへと吹き飛ばす。

 

 両断されようとも、超再生によって体はくっつく。或いは縫い合わせてもいい。何にせよすぐに処置すればまだ間に合う。

 

 そう思おうとした所に、オールマイトが目の前に立つ。

 

「一度斬れたものを引き離すくらいなら、今の私にもできる!」

 

「よせ、来るな!」

 

 AFOは片手でいくつもの種類の攻撃を放つが、狙いが全て外れている。真っ直ぐ進むだけで、それらは殆ど当たらない。

 

 最後の悪足搔きとして、体を発光させて目を眩ませようとするが、それもオールマイトには通じない。

 

 拳を握りしめて、オールマイトは腕を突き出す。

 

「これが正真正銘、最後のSMASH!!」

 

 オールマイトの拳がAFOを殴り飛ばす。衝撃によって、AFOの体が二つに分かたれる。

 

 AFOの体は分かれて、数メートル離れた地面に倒れる。それぞれの体が腕を伸ばして、憎むようにオールマイトへと視線を向ける。

 

「「オールマイト!!」」

 

「何というしぶとさだ!」

 

 呆れを超えて、いっそ感服しそうですらあった。

 

「「もはや何をやっても無駄だ。僕はここに来るまでに、全ての都市と、全ての刑務所、全てのヒーロー校を破壊した。ヒーローはもういない! 社会は崩壊した! オリジナルのAFOは弔に譲渡した! OFAの継承者も捕らえた!」」

 

「貴様っ! 緑谷少年をどうした!!」

 

「「僕の勝ちだ、オールマイト!!」」

 

 腕が地面に落ちる。伸ばした手が何かを掴むことは無く、憎しみと嫌悪に染まった顔のまま、AFOは絶命する。

 

 遠くにいる、AFOの複製たちが崩れていく。それらは思い思い行動を取るが、一つとして残ることは無かった。

 

 到底、勝利と言えるような状況ではない。それでもオールマイトは、片手を上げて勝利のスタンディングを行う。

 

 近くにいた男性は、その光景をスマホで撮影する。それから、誰かが近づいて来る音を聞いて身を隠す。

 

 オールマイトは傷と、疲労によって意識を失い地面に倒れる。

 

 古瀬も同様にひどい傷だが、何とか戻ってきてオールマイトを担ぐ。それとAFOの死体を回収して、スケアクロウ社へと瞬間移動する。

 

 男性が再び様子を窺った時、オールマイトの姿は消えていた。

 

 動画が投稿されたのは、その数時間後の事であった。

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