無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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二年目
逃げるに如かず


 スケアクロウ社へと移動した古瀬とオールマイトは、傷の治療を行う。仙豆が一つしかなかったため、メディカルマシーンを使用する。

 

 古瀬にやや遅れて、オールマイトの治療が完了する。ドラえもんがいる、スケアクロウ社最上階に三人は集まる。

 

「やっと来たか」

 

 やって来たオールマイトに対して古瀬はそう言う。ドラえもんはタチコマに、各種指示を出している。

 

「これから今後について話し合いたいが、構わないか」

 

「ああ、分かった。しかし私は目覚めたばかりで状況が分からない。まずは現在の状況を教えてくれるか」

 

「現在はAFOが言った通り、各都市が機能停止、ヒーロー校が壊滅、刑務所が破壊されてヴィランが逃げ出しています。しかし政府はまだ機能しているようで、各地に救援が送られています。ですが手は足りていないようです」

 

 ドラえもんがオールマイトに答える。

 

「そして超常解放戦線捕縛のために動いていたヒーローチームと警察は、壊滅したらしい」

 

「壊滅!? 雄英教師や生徒たちはどうなった!」

 

「取り敢えず、何人か生きているのは気で確認できる。ただ、現状情報が錯綜していて正確な状況が分からない。ネットだと、戻ったヒーローの半数が個性を失っているらしい」

 

「正確な所は不明ですが、かなりの人が亡くなったという話もあります。そして現在は、超常解放戦線によるヒーローの残党狩りが行われているようです」

 

「Shit! 何という事だ!」

 

 オールマイトは、飛び出して行こうとはしないし、その力も無い。今自分が行っても、彼らを助けることはできない事を理解している。

 

 残党狩りは超常解放戦線が主導しているが、彼らが行っているかと言うと微妙に異なる。彼らが集めた異形型の集団が行っている。

 

「超常解放戦線の状況は不明、それなりに損害を与えたと思いたい所ですが、楽観はできません。以上を踏まえた上で、今後の事について話し合いたいのですが構いませんか?」

 

 オールマイトは了承する。

 

「まず僕は、超常解放戦線に降伏しようかと思っています」

 

「What!? 何を言っているのか分かっているのか?」

 

「理由は単純で、このままいけば超常解放戦線が勝つと思っているからです。ヒーローチームが壊滅した現状、彼らを阻むものは何もありません」

 

「しかし、それは負けを認めるという事か?」

 

 オールマイトは古瀬が、そう一筋縄でいく人物だとは思わなかった。

 

「現状で、僕らが超常解放戦線に勝つのは難しいと考えています。AFOが持っていた個性はトゥワイスの二倍、もしあれを死柄木も持っていた場合、僕では勝てない」

 

 ドクターの研究資料から、古瀬は個性を複製できることを知っている。

 

「AFOに勝てたのは、殆ど偶然です。もしあの場所にAFOの本体がいなければ、僕らは負けていた」

 

 AFOは、オールマイトの死に様を見るためにあの場に来ていた。

 

 死柄木は失敗から学ぶだろうし、同じ手は通じないだろうと古瀬は考える。

 

「勝つためには、OFAが必要です。ですが現状、OFAの状況は分からない」

 

「緑谷少年の様子は分からないのか?」

 

「生きていることは分かります。ですが、OFAを持っているかどうかまでは分かりません。もしもOFAが奪われているのであれば、奪い返す必要があります」

 

 オールマイトは神妙な顔で頷く。

 

「というか君は、OFAについて知っているのだな」

 

「まあそれなりに。そこまで詳しくは知りませんよ。話を続けますが、その場合に備えて、僕は長期戦に備えようかと考えています」

 

「長期戦?」

 

 古瀬はオールマイトの反応に頷く。

 

「もしこのままヒーローがヴィランを倒すのであれば、僕が先走ったという話で済みます。その時は、こういう理由で敵に付いたんだと、オールマイトから周りに口利きをお願いします」

 

 しかしそうでない場合は、超常解放戦線の世になる。そうなれば、歯向かう人間は叩き潰されることになるだろう。

 

「このまま逆らってもこの程度の会社、簡単に潰されるだけです。それなら真っ先に降伏して、敵の内部に潜り込んだ方がいい」

 

 メリットは社を維持できること。そして敵の内部情報を得られること。

 

「最大の目的は、金を稼ぐことです。僕はAFOを研究して、個性を奪う道具を開発しようかと考えています。丁度いいものもありますし」

 

 古瀬は保管されたAFOの死体の方へと視線を向ける。

 

「しかしそれを行うためには、莫大な資金が必要になります。設備も、秘密裏に研究、開発できる場所も必要だ。そのためにも今は、この会社を失うわけにはいかない」

 

 古瀬は会社を失うことを惜しいと思っているわけではない。別に無くなっても、また作って稼げばいいと思っている。

 

「君の言いたいことは分かった。OFAを奪い返すために、敵に降るという事だな。しかし、超常解放戦線がAFOを倒した君を受け入れるだろうか」

 

 そのまま殺されるのではないか、とオールマイトは懸念する。

 

 古瀬もその可能性がありそうだなと、同じことを懸念している。

 

「まあ、そうかもしれませんが。この動画を見てください」

 

 古瀬はオールマイトに、十数秒程度の短い動画を見せる。それはオールマイトがボロボロの状態で、勝利のスタンディングを行っている様子だった。

 

「これは……?」

 

「あの場所にいた人が撮影していた動画です。詳細な状況は完全に不明ですが、オールマイトが昨日現れたヴィラン、AFOを倒したのではないかという話が広がっています」

 

 動画は、オールマイトが勝利のスタンディングを行っている以外何も分からない。それ故に様々な憶測を呼んだ。

 

 時間、撮影場所、この動画がフェイクかどうか、このオールマイトは本物かどうか、いくつもの解析班が結成される。

 

 通信システムが麻痺しているため、この時点ではまだそれほど広まっていない。

 

「しかしAFOを倒せたのは君の力があってこそだ」

 

「無名の学生が倒したなんて言っても誰も信じませんよ。同じような動画を投稿したって、古瀬くんじゃ再生数は伸びないだろうね」

 

「それに今は、オールマイトが倒したという事にしておいた方が都合がいい。どうなるかは不明ですが、無関係を装えるかもしれません」

 

 それと、と言って古瀬は台の上に乗せられた、人型のロボットをオールマイトに見せる。

 

 古瀬がロボットの鼻を押すと、ロボットは古瀬と全く同じ姿へと変わる。

 

「コピーロボットです。これを使いながら、安全かどうか少し様子を見ようかと思っています」

 

 コピーロボットは、ドラえもんとパーマンに出てくる道具である。ただし大きさは人間と同程度、古瀬が真似て作った物であり、細かい設定は微妙に異なる。

 

「なるほど、安全対策はできてるというわけか」

 

「バレるとまずいので、重要な場面では使えませんけどね」

 

 コピーロボットは基本的に自立して動くが、遠隔操作することも可能である。

 

「というわけで、僕はこれから超常解放戦線側に付いて、情報収集と、個性を奪うための道具作成を行おうかと考えています」

 

「君の考えは分かった。しかしやはり危険ではないのか?」

 

「確かに危険ですけど、現状はどちらに付いても、危険であることは変わらないと思いますよ」

 

「既にAFOの死亡から二十四時間近くが経過しています。動くのであれば、急ぐ必要があります」

 

 古瀬とドラえもんの言葉を聞いて、オールマイトは拳を前に出す。

 

「……分かった。だが、いや。頼んだぞ、スケアクロウ」

 

「まあ、裏切らないとは限りませんけどね」

 

 古瀬は拳を合わせる。

 

「怖い事を言うな、君は!」

 

「本気で勝ち目がないと思ったら裏切りますよ。僕がヒーロー側に付くのは、最後にはヒーローが勝つと思っているからですから」

 

 とは言っても、勝ち目が見えない状況下でAFOと戦っていた。そのためオールマイトも、話半分くらいに受け取る。

 

「オールマイトはこれからどうするつもりですか?」

 

「私は根津校長と合流しようかと思っている」

 

 古瀬が最後に気を確認した時、生き残っていたのは根津、心操、発目、リカバリーガールの四人であった。

 

 発目が生き残っていたのは、頑丈な工房内にいたから。根津、心操、リカバリーガールはほぼ同じ場所にいた。

 

「連絡がついたんですか?」

 

「いや、警戒しているのか、居場所までは分からない。だがメッセージは残っている。何とか見つけて、合流するつもりだ」

 

 それを聞いて、古瀬は頷く。

 

「分かりました。今後は、連絡を取ることが難しくなります。こちらからの連絡は全て罠だと思ってください。念のために連絡先を一つ渡しておきますが、これはいざという時に一度だけ使ってください。それ以降の連絡は全て受け取りません」

 

 オールマイトはそれを聞いて頷く。続いてドラえもんが言う。

 

「それと少し前に、全ての病院に設置されていたメディカルマシーンが破壊されました。今後、僕らが協力することはできないので、重度の負傷には気を付けてください」

 

「失った手足なんかを治せば、僕らが関わっていることが一発で露見しますからね」

 

 ヒーラーは真っ先に狙われる。スケアクロウ社にメディカルマシーンがあることはあまり知られていないが、それでも降伏しなければここが狙われるのは時間の問題であった。

 

 治療手段を確保しておきたかったオールマイトは、渋々といった様子で頷く。

 

「後は、もし僕らに何かあった場合は、ここの隠し扉の奥に研究成果を入れておくので取りに来てください。二重の隠し扉、最初の部屋にダミーとして、OFAを秘かに研究していたかのように見せておきます」

 

「そのような事がないのが一番だが、分かった。憶えておこう」

 

「後、他に何か言っておくことってあったかな?」

 

「今はそんな所じゃないかな。現状だと不明な点が多い。まずは情報を集めないと」

 

「そうだな。私にもはや戦う力は無いが、できるだけの事をやってみよう」

 

 彼らはそれぞれ、行動を開始することにした。

 

「出る時は正面から出ればいいのかな?」

 

「いえ、ドラえもん、あれを」

 

 ドラえもんは腹部の四次元ポケットから、どこでもドアを取り出す。

 

「そのスマホは好きに使ってください。それと、使えるか分かりませんが、ここに五百万あるのでこれを渡しておきます」

 

「いや、お金なら私は……」

 

 アーマードオールマイトを作れるくらいの資産はある。

 

「今無一文でしょう。当座の活動資金として使ってください。資産は凍結される恐れがあるので、引き出すなら早めにしておいた方がいいですよ」

 

 あって困るものではないから、と古瀬はオールマイトに現金を押し付ける。

 

「行き先はどこにしますか?」

 

「東京に行けるだろうか」

 

 ドラえもんはどこでもドアの移動先を設定する。

 

「これ以降、連絡を取ることは難しくなりますが、何か言っておくことはありますか?」

 

「では手短に、また会おう!」

 

「そうなることを願っていますよ」

 

 オールマイトはどこでもドアの奥へと歩いて行く。それから、ドラえもんはどこでもドアをポケットの中に仕舞う。

 

「さて、こっちも動くか」

 

 古瀬はベルト型の展開装甲を装着する。

 

「変身!」

 

 装甲が古瀬の全身を覆う。その見た目は昭和ライダーのようであった。理由は動きやすさ重視、変なゴテゴテ付けては戦えないから。

 

 古瀬は一旦変身を解除する。

 

「ヘルメットが壊れないとも限らないから、下も変装しておくか」

 

 何にしようか、と言いながら、マスクを使って顔を変える。その間に、ドラえもんはバイクの用意をする。

 

「グラハム・エーカーっぽい見た目にするか」

 

 グラハム・エーカー、ガンダム00に登場するキャラ。割と見た目が多いが、似せるのは1stシーズンの時の顔である。

 

 オールマイトに言ったことは嘘ではないが、それとは別に、古瀬は生き残っているヒーローたちの回収に行くつもりであった。

 

 降伏するとなれば、周りは裏切ったと考える。これまでと同じ関係ではいられないだろう。オールマイトは古瀬と麗日の関係を知っていたので、それを呑み込んだ上で行うのだろうと、あえてそこには触れなかった。

 

 しかし古瀬にそのつもりは全く無く、麗日には事前に伝えておこうと思っている。

 

 古瀬に集まったヒーローたちの現状は分からない。ただネットを見る限り、状況はあまり良くなさそうだと思った。

 

 取り敢えず、最優先で確保しておきたいのは彼女と、原作主人公である緑谷。彼さえいれば、結局は何とかなるだろう。

 

 本当にそうだろうか? 運命など定まっていない。歯車一つ狂うだけで、あれは簡単に負ける。

 

 本当に奴は助けるに値するのだろうか? 世界が緑谷のために都合よく動かないのであれば、奴にどれ程の価値があるというのか。

 

 少なくとも古瀬はまだ、緑谷のことを認めてはいなかった。主人公という色眼鏡無しに、緑谷を頼もしい存在として見ることはできなかった。

 

 それでも何かの役割はあるのかもしれない。そう思って、優先的に助けに行くことにした。

 

 かなり前から、麗日の気が弱まっているのが分かっている。古瀬としてはできるだけ早く向かいたかったが、何の準備も考えも無く動くことはできない。

 

 一応、直ぐに死にそうではないが、これでも古瀬は急いでいる。可能な限りの準備を終えて、変身したのち大型バイクに跨ってエンジンを掛ける。

 

「それじゃあ、こっちの事は任せる」

 

「分かった。降伏の準備を進めておくよ」

 

 古瀬は頷いて、バイクを走らせてる。そのまま、どこでもドアを通って外に出る。

 

 出た先は、建物の多くが部分的に壊れている市街地であった。辺りに人の気配は無く、雨が静かに降っていた。

 

 

 

 ヒーローチームによる超常解放戦線の掃討作戦当日、雄英高校一年生の多くは、後方で市民の避難誘導を行っていた。

 

 当初、作戦は順調に進んでいた。ドクターと死柄木がいる蛇腔病院と、超常解放戦線の定例会議が行われている群訝山荘を完全に包囲し、外に繋がる通路を塞ぐことに成功する。

 

 異変が生じたのは蛇腔病院側からであった。死柄木の入った容器を破壊しようとした瞬間にそれは現れる。

 

「もう大丈夫。僕がいる」

 

 AFOは、初めは普通に戦っていた。多数のハイエンドと共に、ヒーローたちを圧倒する。

 

 戦い方を変えたのは、群訝山荘側にも多数のヒーローが集結しているという報告を聞いたためであった。

 

「やれやれ、弔がせっかく準備して積み上げてきたのに、僕が壊してしまってもよいものか」

 

 AFOはハイエンドの後ろに下がって、相澤の視線から外れる。そして隠れた所から、数十、数百のAFOが現れる。

 

 ヒーローたちの表情が固まる。押し止めようとしたクラストが個性を奪われ、エンデヴァーに連れられて、負傷したミルコと共に離脱する。

 

「こいつを頼む!」

 

 プレゼントマイクは、捕まえていたドクターを相澤に投げ渡す。彼はその後ろから個性を奪われて、心臓を刺し貫かれる。

 

「山田!」

 

 すぐに病院を埋め尽くし、溢れ出るほどのAFOへと分裂する。それらはさらに数を増やして、近くにいたヒーローたちに襲い掛かる。

 

「なんだありゃあ?」

 

 遠くからでも、その光景を見ることができた。建物を覆う蝗の集まりのような影が、少しずつ広がっていく。

 

『来るよ』

 

 緑谷に対して、初代OFA継承者、死柄木与一が呼びかける。その声に反応して、緑谷は蛇腔病院の方を見る。

 

『止めるんだ』

 

 AFOには身体に多大な負荷がかかる最終奥義が存在する。それは肉体へのダメージを度外視できる非常に特殊な条件下でなければ使用しない。

 

 複製であれば、その身を犠牲にするのであれば、瞬間的にであれば、その技を使うことが可能である。

 

『全因解放、全ては一つの目的のために』。自身の保有する全ての因子を解き放つ。極めて膨大なエネルギーを帯びた巨大な質量弾。そのエネルギーは街一つを軽く覆いつくし、余波だけで射線上の建造物を吹き飛ばす。

 

 その数発の余波によって、彼らが避難させていた街は一瞬で倒壊する。幸い、住民は既に避難していたため、人的被害は少なかった。

 

「それでは始めて行こうか」

 

 膨張を続けるAFOたちは一斉に広がる。群訝山荘の方だけではない。全方位に、数を増やしながら散らばっていく。

 

「本体だ。あれがトゥワイスの二倍なら、あの中に本体がいるはずだ!」

 

 誰かがそう叫ぶ。しかしこれだけ散らばってしまった以上、この中から本体を見つける事など殆ど不可能だった。

 

「このままじゃ……」

 

「あいつらどこに向かってんだ?」

 

「他の都市だ!!」

 

 ホークスから伝えられた超常解放戦線の目的は、全国主要都市を一斉に襲撃、心求党が政界へと進出し、混沌の世を創り出す事であった。

 

「移動できるヒーローはあいつらを追って……」

 

「行かせると思うかい?」

 

 この場から、全てのAFOが居なくなったわけではない。いくらか残ったAFOたちは、その数を増やしながらヒーローたちに襲い掛かる。

 

「待って、助けて!」

 

「個性が使えない!?」

 

「嫌だ、嫌だああああ!!」

 

 避難は完了していない。倒壊した建物から負傷者を助けなければならない。散らばったAFOたちに対処しなければならない。

 

 何人かのヒーローは、その光景を見て立ち竦む。

 

「これはもう、ダメでしょ」

 

 個性を失ったヒーローと、まだ戦えるヒーローが混在する。どちらなのか見分けがつかなかった。コスチュームを着た人間たちが、AFOに背中を向けて逃げ出す姿を見て、市民たちは失望する。

 

「個性を失った人は下がって!」

 

 中には個性を失ってもなお戦おうとするヒーローもいた。しかしそれは時間稼ぎにすらならず、いとも容易く体を消し飛ばされる。

 

 邪魔にならないために、個性を失ったヒーローたちはその場から去るしかなった。

 

「あなたたちは市民を連れて避難しなさい!」

 

 ミッドナイトが雄英のインターン生たちに命じる。彼らはそれを聞いて、でも、と抗弁しようとするが、ミッドナイトは取り合わなかった。彼女は他のヒーローたちがまだ戦っている所へと向かう。

 

「みなさん、今は私たちにできる事を全力で行いましょう!」

 

 八百万の言葉を聞いて、周りは頷く。

 

 そんな中、緑谷は市民がいる場所とは全く別の方向に向かう。

 

「おい、どこ行くんだ!」

 

「忘れ物! すぐ戻るから!」

 

 緑谷にはAFOはOFAを狙っている。自分が動けば周りの負担を減らせるのではないかという考えがあった。

 

「あのクソナード! 連れ戻してくる!」

 

 爆豪が緑谷の後を追う。それによって彼らの意見が真っ二つに割れる。

 

「俺も行ってくる!」

 

「待ってください、市民の避難が最優先です!」

 

「俺たちの役目は市民を守る事だろ」

 

「だったらあいつらを見捨てるのかよ!」

 

 その状況に拳藤が提案する。

 

「待って。だったら二手に分かれましょう。緑谷たちを追うチームと、市民を避難させるチームに」

 

 彼らは二手に分かれて行動を開始する。緑谷はAFOに敗北して捕まるも、他生徒の力によって何とか逃れることに成功する。

 

 一方で、市民を避難させていたインターン生たちはAFOの脅威にさらされる。

 

 AFOは有用な個性を求めて、積極的にヒーローたちを狙う。自分たちの集まっている所が攻撃されて、町が瓦礫の海へと変わる。

 

 市民を守るためには、自分たちが市民たちから離れるしかなかった。逃げるように離れていくヒーローたちを見て、市民たちは罵倒する。

 

 自分たちを助けようとして、幾人ものヒーローたちが犠牲になる。どれだけ押し止めようともAFOは増え続ける。抵抗に意味は無く、個性を奪われて捨てられる。

 

 インターン生たちは散り散りになって、別々の方向に逃げる。走って走って走り続けて、見上げると、AFOの姿はどこにもなかった。

 

 麗日は単独で、廃墟となった街の人がいない方向へと逃走していた。そんな中、麗日を追って来た、ある人物に追いつかれる。

 

「トガヒミコ!」

 

「久しぶりだね。お茶子ちゃん」

 

 この状況は超常解放戦線にとって、絶好の好機であった。生き残ったヒーローたちを撃破すべく追撃する。

 

 トガの背後には、超常解放戦線のメンバーが二人いる。どちらも実力者というわけではないが、トガを補佐するためにこの場にいる。

 

「梅雨ちゃんともお話ししたかったなあ。梅雨ちゃんは大切なカアイイお友だちだもの。出久くんともお話ししたいの。私いつもボロボロになってる出久くんがカッコよくて大好き! お茶子ちゃんもカァイくて大好き! 私お茶子ちゃんみたいになりたいの。だから教えてお茶子ちゃん。私をどうしたい?」

 

 トガは麗日にナイフを突き立てる。麗日は相手の腕を掴んて横に逸らして、ナイフを後ろの柱に突き立てる。

 

 ナイフを引き抜けぬまま、トガは後ろに蹴り飛ばされる。

 

「あなたこそ私をどうしたいの?」

 

「お茶子ちゃん、私ね、大好きな人の事を考えると、その人そのものになりたくなるの。その人の血が全部欲しくてたまらなくなるの。キュンとする。私はそうなの。でも皆はそうじゃない。とっても生きにくい」

 

 トガは別のナイフを引き抜いて麗日に襲い掛かる。二人もそれに合わせて、麗日を攻撃する。

 

「この前ね、私の普通をカァイソウって言って、殺そうとしてきた嫌ーな人がいたんだよ。だからお茶子ちゃんの血と個性で、高い所から落としたの。好きな人の血だと個性もその人になれた。あの時とっても幸せだったよ」

 

 麗日は一人を宙に浮かせて無力化する。トガが注射針を投げつけると、ワイヤーを放って反撃する。

 

「私は人を落として幸せを感じたりしない。何が……さっきから何が言いたいの!」

 

「仁くん、優しいお兄ちゃんでした。私が死にかけた時は、血を分けて助けてくれました。でもヒーローに殺されました」

 

 その一言に、麗日は顔を強張らせる。

 

「ホークスが殺しました。逃げる背中を斬りつけて。それを聞いたヒーローの人が言ってました。『正しい事をした』って。『信じてる』って。何ですかそれ。私たちは駄目なのに、自分たちは正しいんですか?」

 

 ちなみに言ったのは常闇。

 

「人を助けるのがヒーローなら、仁くんは人じゃなかったのかな。私の事も殺すんでしょうか」

 

 トガは麗日を斬りつける。

 

「何をもって線を引くのでしょう? ねぇ、お茶子ちゃん、私をどうしたい?」

 

「私は……」

 

 トガのナイフが麗日の腹部に突き刺さる。麗日はトガの手を掴んで抑える。

 

「私はあなたを殺したりしない。でも、好きに生きて他人を脅かすなら、その責任は受け入れなきゃいけない」

 

 ホークスはこの作戦のために、超常解放戦線へと潜入して多数の情報を入手した。その行動が、間違っているとは麗日は思わなかった。

 

「うん、そうだね」

 

 トガの顔には涙が浮かんでいた。その顔を見て、麗日は何かがすれ違ったように感じる。

 

 トガは別のナイフを取り出して斬りつけようとするが、麗日は無重力を解除して、浮かせていた敵の一人をトガの上に落とす。

 

 麗日は窓から外に出て、上に逃げる。構成員の一人が、それを見ながらトガに尋ねる。

 

「追いますか?」

 

「戻ります。モヤモヤはもう晴れました」

 

 トガは後を追わずにその場から離れる。構成員の一人が窓の外を見上げるが、既に麗日の姿は無かった。

 

 逃げ出した麗日は、ナイフを引き抜かずにテープで止血する。

 

 超常解放戦線はしばらくの間、追撃を続ける。やがてそれはスピナーの呼びかけに応じた、異形型の集団へと引き継がれる。

 

 個性を奪われたヒーローたちが集中的に狙われる。これが意図したものではなく、倒せそうな弱い人間を狙った結果であった。

 

 異形型の集団の戦闘力はヒーローに大きく劣った。個性を奪われていないヒーローたちが応戦するが、全員は守れなかった。

 

 原作だと、一万五千人いてもヒーローと警官を含めた二百人に押し勝てない。

 

 この戦いによって、ヒーローの三割が死亡。作戦に参加したヒーローの内、およそ七から八割のヒーローが個性を奪われた。

 

 奪われた個性はAFOが死亡したことによって消滅する。死柄木に渡されてはいない。

 

 体を休ませるために、麗日は建物の陰に座り込む。傷と疲労によって、そのまま意識を失い地面に倒れ込んだ。

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