無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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回収

 市街地へと来た古瀬は、バイクを走らせながら麗日の気を探す。

 

 道には瓦礫や電柱など、多数の障害物が転がっている。高いパワーと走破性でそれらを避けるか乗り越えるが、古瀬はなれない操作に苦戦する。

 

「乗り越える事は容易いが、中々のじゃじゃ馬だ!」

 

『こんなパワー必要無いでしょって、最初見た時は思ったけど、この様子を見るとそうでもなさそうだね』

 

 ヘルメットに取り付けられた通信機から、ドラえもんの声が聞こえてくる。

 

 住人は近くの避難所へと避難しており、辺りに人の姿は無い。建物の倒壊は、強盗と市民の戦闘によって発生したものである。

 

 デトネラット社は決起の前に、市井へとサポートアイテムをバラ撒いていた。それを装備した市民が身を守るために戦闘を行い、周辺に大きな被害を出した。

 

「しかしここはどこだ?」

 

 群訝山荘は近畿、奈良と和歌山の境目辺り。今、古瀬がいるのはそこから数十キロ離れた内陸の街である。

 

 ドラえもんが調べて、それを伝える。

 

 古瀬は少し移動して、麗日を発見する。全身にいくつかの傷を負っており、特に腹部の傷が深い。かなりの重症であった。

 

 傷を治せないかと、古瀬は麗日の荷物を調べる。彼が渡した仙豆のケースを見つけるが、中は既に空だった。

 

 一先ず、古瀬は麗日を近くの誰もいない民家へと運ぶ。そこに寝かせて、傷の様子を確認する。

 

『かなり重症だね。できるだけ早い処置が必要だよ』

 

「治療、俺、いや私がやるのか」

 

 古瀬は自分だとバレないように口調を変える。

 

「確かに授業で習ったが……」

 

 縫合を上手くやる自信は無かった。とはいえ、そうも言っていられないため、持ってきた救急キットをバイクから取って来る。

 

「もしここでの治療が難しいようなら、本社に運ぶ必要があるな」

 

 降伏するため、傷をポンと治すわけにはいかなかった。命が危ないとなれば話は別だが、現状での使用はできるだけ控えたかった。

 

『何をすべきか、薬なんかの指示はこちらが出すよ』

 

「縫合は私か。やるしかないか」

 

『もう。しっかりしなさい。一番痛いのは麗日ちゃんなんだから』

 

 ドラえもんの指示に従って、古瀬は何とか傷の処置を行う。慣れない作業でかなり苦闘する。

 

「これで何とかなったのか?」

 

『まあ素人にしては頑張った方じゃないかな。でもこれは応急処置だ。早く専門の医療機関に連れて行った方がいい』

 

「病院の場所は分かるか?」

 

 地図を見て、古瀬は少し考える。近いのは診療所だが、人の居ない街並みを見た感じ、誰も居なさそうだなと思った。

 

「この近くの避難所は分かるか?」

 

 診療所の医者もそこに避難しているのではないかと考える。

 

「避難所で治療は可能だろうか?」

 

『場所にもよるんじゃないかなあ。無理そうなら別の病院に連れて行く必要があるけど、この状況下でまともに機能しているのかどうか』

 

 病院そのものが無事かどうかが不明。さらに機能していたとしても、パンク状態であることが予想される。加えて、治療に来たヴィランと市民、あるいは市民同士の諍いが起きた場合、個性の使用によって破壊されているかもしれない。

 

 古瀬は、ここよりは安全だろうと考えて、麗日を避難所へと連れて行くことにした。

 

 バイクは二人乗りできなくもないが、意識が無い人間を運ぶのは難しかった。麗日を毛布で包み、それを背負ってから、民家にあったベルトで固定する。

 

 雨が降る中、古瀬はバイクを走らせて避難所へと向かう。敷地内へと入ろうとすると、その少し手前を銃撃される。

 

「来るな!」

 

「待ちたまえ、こちらに敵対の意志は無い。ここに避難しに来ただけだ!」

 

 古瀬は両手を上げて、敵意が無い事をアピールする。しかし相手、建物の二階と三階にいる数名の人間は無視して攻撃する。

 

「来るんじぇねえ!」

 

「この中に知り合いはいるか! いないなら帰れ! ここには入れねえ!」

 

「待ってくれ、負傷者がいるんだ!」

 

 いくつもの攻撃が飛んでくる。古瀬は落ち着くように呼び掛けるが、効果は無かった。

 

「問答無用か」

 

 攻撃に当てようとする意志は無いが、彼らの命中精度はあまり良くない。麗日に当たりかねないと判断して、古瀬は一旦引き返すことにした。

 

 

 

 先程の民家へと古瀬は戻る。

 

『もう、ちっとも話を聞こうともしない。一体何があったって言うのさ』

 

「何かあったのか、それともパニックになっているだけなのか」

 

『どうする? 別の病院を探す?』

 

 古瀬は少し考え込む。

 

「いや、今は他のヒーローの回収を優先したい。幸い、彼女の容態は安定している。あちらは時間が経つごとに生存率が下がる」

 

『でも麗日ちゃんはどうするのさ。ここは安全とは言えないよ』

 

「それはそうなんだが……」

 

 一人残している間にヴィランが来ないとも限らない。だから避難所に連れて行きたかったわけで、誰もいない民家に残すのは戦力面で不安だった。

 

 しかし誰か見つけて連れてくれば、その問題を解決できる。そのためにも、誰かを早く回収したかった。

 

 念のため爆殺トラップを仕掛けておく。麗日が起きた時のために、民家の中の保存食と飲み物を勝手に拝借して、食べるようにメモを残す。

 

 準備を終えた後、古瀬は一番近い知り合いの気を探してその場所へと向かう。一番最初に発見したのは回原だった。

 

 回原は雑木林の近くにいた。交戦したのかそれなりに傷を負っている。手足からの出血が多いが、重傷という程ではない。

 

 古瀬、仮面を付けてバイクに乗った男を見て声を上げる。

 

「誰だ!」

 

「落ち着け。こちらに交戦の意志は無い。私はただの、通りすがりの仮面ライダーだ」

 

 古瀬の見た目は、異形型に見えなくもない。ヘルメットが顔に見えるかどうかは、微妙な所であった。

 

「ヒーローなのか?」

 

「いいや、ヒーローになれなかった男さ」

 

 古瀬はジェントルを参考にして、このキャラの過去設定を作った。嘗てヒーロー校で学んでいたが、ヒーロー資格を取ることができなかった。その後は無為な日々を過ごしていたが、全面決戦でヒーローの敗北を聞き、彼らを助けるためにこの地へとやって来た。そういう設定であった。

 

「こちらは現在、ヒーローたちの救助を行っている。君は一人か?」

 

「ああ、そうだ」

 

「来たまえ。安全な所まで連れて行こう」

 

 古瀬は回原を後ろに乗せて、来た道を戻る。その間、回原から何があったのか詳しい話を聞く。

 

 声は変声機で変えているため、回原は古瀬とは気付かなかった。

 

「では白髪のヴィランが、ヒーローチームを壊滅させたのか?」

 

「ああ。俺らは市民を避難させてたんだが、突然そいつらが現れて街を目茶苦茶にしやがった」

 

 一瞬で町が破壊され、ヒーローたちは戦ったが、そのヴィランの数に呑み込まれていったと回原は言う。

 

「それからどうなったんだ」

 

「そのヴィランの後は超常解放戦線の奴らに襲われた。俺は他のヒーローと一緒にいたんだけどよ、何度も襲われて、バラバラになった。なあ、あんた他のヒーローを見なかったか?」

 

「一人保護したが、それ以外は今の所見ていない」

 

「マジか」

 

 一人保護したと聞いて、回原は少しだけ明るい顔をする。

 

 その後、より詳しい話を聞きながら、二人は民家へと到着する。

 

 回原は保護したというヒーローの顔を見て声を上げる。

 

「ウラビティじゃねぇか!」

 

「知り合いかね?」

 

「同じ学校だ。そっか、こいつも無事だったのか」

 

 二人は部屋から出て、下の階へと向かう。

 

「あいつ大丈夫なのか?」

 

「あまり大丈夫とは言えないな」

 

 麗日は今もまだ目を覚ましていない。生きてはいるが、具合はかなり悪そうであった。

 

「医者に診せた方がいいんじゃねぇか?」

 

「そうしたいのは山々だが」

 

 古瀬は避難所の事を説明する。

 

「つまり攻撃してきてまともに話を聞いてくれないってことかぁ?」

 

「一言でいえばそうなる。詳しい理由までは分からない。どうにかできればいいのだが」

 

 回原はそれを聞いて少し考える。

 

「なあ、そこに行ってみてもいいか?」

 

「それは構わないが、何か考えがあるのか?」

 

「任せとけって。これでもヒーロー科の生徒なんだ。何とかしてきてやるって!」

 

 そう言うならばと、古瀬と回原は避難所へと向かう。何か考えがあるのかと古瀬は思った。

 

 

 

 二人は避難所へと到着する。回原は敷地内に入って、中の人に呼びかける。

 

「おーい!」

 

 回原へと攻撃が飛んでくる。古瀬は敷地の外からその様子を見ている。

 

「ちょっと待てって! 話を聞いてくれ!」

 

 攻撃は止まらない。寧ろその激しさを増していく。

 

「おい、いい加減にしろ! 話がしたいって言ってるだけだろ!」

 

「部外者は帰ってくれ!」

 

「せめて何で追い払うのか言えって!」

 

 攻撃に押し返されて、回原は敷地の外へと戻ってくる。

 

「やはり説得は難しいか」

 

「こうなったら強行突破するしかねぇ!」

 

「いや、それは流石にどうなのかね?」

 

 ヒーロー的にそれはどうなのだろう、と古瀬は少し疑問に思った。

 

「時には強引にこじ開けることだって必要だ! 前に一歩踏み出さなきゃ、先には進めねぇ!」

 

「それはそうかもしれないが、しかしどうする気だ?」

 

「上を通るのが駄目なら、下を通りゃいい! 下にトンネルを掘って、建物の所まで突き進む!」

 

「強引すぎないか? それはもう敵対行動ととられるのではないか?」

 

「まあ見てろって!」

 

 回原は体を回転させて、地面を掘り進んでいく。古瀬はそのすぐ後ろに続く。

 

 地上から穴の軌跡が見えることは無かったが、その振動は建物を真下から揺らす。中に避難している人間たちはそれに驚く。

 

「何だ!?」

 

 すぐに建物の床から、回原と古瀬が飛び出してくる。その光景を彼らは茫然と見ていた。

 

 二人は戦闘員をすぐに見極めて、彼らを無力化していく。武器を取り上げて拘束し、その数名を連れて上の階へと上がる。

 

「交戦する意思は無いと言った。我々は君たちとの話し合いを求めている」

 

 彼らはそれでもなお戦おうとする。更なる交戦をしようとしたとき、市民の内の一人が舌打ちをして、二人に付いて来るように言う。

 

「それで、話し合いがしたいって?」

 

 二人は建物の一室へと案内される。まとめ役らしき人物の他に、その部屋には五人の市民がいる。彼らは武器を、二人の方へと向けている。

 

「ええ。穏便な話し合いの場を設けて頂き有難うございます」

 

 古瀬はその場の状態に、全く動じていない。回原は自分に向けられている武器の方を警戒するように見ている。

 

「まず、我々に武器を向けた理由を窺ってもよろしいでしょうか?」

 

「この人、えっとあんた名前なんて言うんだ?」

 

「大吾だ」

 

「この大吾さんにも向けたってことは、ヒーローだからって理由じゃないんだろう?」

 

 回原の、ヒーローという言葉を聞いて、まとめ役は鼻で笑う。

 

「ヒーロー? はっ、あいつらが何の役に立つってんだ」

 

 二人は意味が分からず顔を顰める。

 

「お前ら、外の状況がどうなってるか知っているか?」

 

「いや、俺は全然」

 

「私も詳しくは知らないな」

 

「俺も知らん」

 

 何だこいつ、といった目で二人はまとめ役を見る。

 

 武器を向けている市民の一人が口を開く。

 

「昨日から、外部との連絡が取れないんだ。電話やネットが繋がらねえ」

 

「そうなのか?」

 

「どうもそのようだ」

 

『AFOが都市を破壊したことで、通信システムも一緒に破壊されたんだ』

 

 ドラえもんの声は周りには聞こえていない。なぜこの通信は使えるのかというと、どこでもドアを作れる奴が作った通信機なので。

 

「そのくせ悪い知らせばかり入ってきやがる。どこかの監獄から、ヴィランが大量に脱走したらしい」

 

 回原は驚くが、古瀬は知っていたため動じない。

 

「その噂なら私も聞いたことがある。何でも刑務所が破壊されたとか」

 

「ヴィランなんて入れた日にゃこの避難所は終わりだ。だが誰がヴィランかなんて分かりゃしねえ。だったら、知り合い以外来る奴全員追い返すしかねぇだろうが!」

 

 なるほど、と古瀬は相槌を打つ。

 

「それが追い返そうとした理由か」

 

「ヒーローを呼ぶこととかできなかったのか? この辺りの地方ヒーローとか」

 

「ヒーローは、引退したよ」

 

「は?」

 

「自分の手には負えないそうだ。家族を連れて、もっと安全な場所に避難しに行きやがった」

 

「安全な場所? そんな所があるのか?」

 

「ヒーロー校だよ。あそこはもっと警備が厳重だからな」

 

『ヒーロー校は既に全て破壊されているけど、ここの人は知らないみたいだね』

 

 最も、AFOがそう言っていただけで、古瀬たちも自分で確認したわけではない。

 

 逃げ出した人は途方に暮れているだろうなあ、と古瀬は思った。

 

「そういうわけだ。悪いが帰ってくれ」

 

「何でだよ!」

 

「あんたらが信用できない」

 

「俺たちはヴィランじゃねぇって! もしそうなら、あんたたちを攻撃してるだろ!」

 

「中に入りこんでから、やる気かもしれねえ」

 

「ヴィランがそんなまどろっこしい事するかよ!」

 

 回原と周りの言い合いを聞きながら、古瀬は少し考える。

 

「行動で信用してもらうことはできないだろうか?」

 

「行動でだあ?」

 

「私は外を出歩くことができる。ここで不足している物があれば、回収してくることが可能だ。そして彼はヒーローだ。この避難所を守ることができるだろう」

 

「そうだ! 俺たちを信用してくれ!」

 

 古瀬とまとめ役は、しばらく睨み合って沈黙する。

 

「駄目だ。信用できない」

 

「何でだよ!」

 

「お前らがヴィランではないと誰がどうやって証明する。外の情報を得られない、この状況でだ!」

 

「学生証ならあるぞ」

 

「そんなもん、本物かどうかなんて分かるかよ」

 

 古瀬は軽くため息を吐く。

 

「どうしても信用していただけないだろうか。私なら外の状況を調べてくることもできる」

 

「悪いが帰ってくれ。あんたの力は、ここには必要無い」

 

「なるほど、では他の人に聞いてみるとしよう!」

 

 そう言って古瀬は、周りを無視して部屋から出る。周りの市民は武器を突きつけながら待つように言うが、それを無視する。

 

 古瀬は他の市民がいるところへと向かい、聞いて回る。

 

「食料は十分だろうか。不足している物は?」

 

「おい、止まれって言ってるだろ!」

 

「私は外から物資を調達してくることができる。足りていない物があれば教えてくれ!」

 

 そう言われて、何人かの市民が口を開く。

 

「実は毛布が……」

 

「ちょっと言いにくいんだけど」

 

「専門的な道具になるんだけど……」

 

 まとめ役が追いかけてきて、古瀬にサポートアイテムを突きつける。

 

「止めろって言ってんだろ!」

 

 古瀬はまとめ役のサポートアイテムを掴んで、自身の額に押し付ける。

 

 その場には多数の市民がいる。彼らは顔を強張らせ、その光景を固唾を呑んで見守る。

 

「我々にあなた方を害する意思は無い。信じてはもらえないだろうか」

 

 しばらく睨み合った末に、まとめ役は息を吐く。

 

「好きにしろ」

 

 まとめ役はサポートアイテムを下げて、その場から立ち去る。周りはそれを見て、少しほっとする。

 

「あんた無茶するな!」

 

 回原がやって来て、古瀬にそう言う。

 

「しかしこうでも言わねば、受け入れてはもらえなかっただろう」

 

 一応、先程の男は周りからの支持を得てまとめ役を行っていた。周りが求める中で、一人だけ反対を貫くことはできなかった。

 

 また、古瀬は先程危なかったかと言うとそうでもない。動くタイミングが分かるため、額に当てている状態からでも避ける事は出来た。

 

 それにあの状態で撃てば、客観的に見れば殺意を持って撃ったことになる。自分の意見を押し通すために人を殺してしまえば、あとは恐怖支配に突き進むしかない。そこまで理性を失っているようには、古瀬には見えなかった。

 

 古瀬と回原は少し離れた廊下で話す。

 

「物資って当てはあるのか?」

 

「どうだろうな。しばらくは近場から調達できるだろうが、問題はそれが尽きた後だな」

 

「国の救援は来ないのか?」

 

「来ればいいがな」

 

 政府、国内にその余力があるとは、古瀬は思わなかった。国外からの支援の方がまだ期待できそうな気がした。

 

「私は彼女を連れてくるから、この場を頼めるか?」

 

「分かった」

 

 古瀬は麗日を連れて避難所へと移動する。ようやく雨が止み、空は曇りへと変わる。

 

 避難所にいる医者が治療しているのを見てから、古瀬は他のヒーローの回収へと向かう。

 

「回原くん、この場は任せたぞ」

 

「おう! そっちこそ気を付けろよ!」

 

 回原に避難所の事を任せて、バイクに乗って出発する。八百万を見つけたのでそこに向かうつもりだったが、近くに別の気があるのを見つけたためそこへと向かう。

 

 ファットガム、天喰、骨抜の三名は超常解放戦線、異形部隊の追撃を受けている真っ最中であった。

 

 ファットガムが天喰を体に入れて走り、骨抜が異形型の足止めを行っている。疲労からか、個性の出力がかなり落ちている。

 

 そんな異形型たちと三人との間にバイクが割り込む。

 

「どうやら助けが必要なようだな」

 

「ヒーローか!」

 

「通りすがりの仮面ライダーさ」

 

 三人が古瀬の方へと視線を向ける。

 

「あんさんは……」

 

「止まるな、走れ!」

 

 古瀬はバイクから跳躍して、異形型たちに向かって飛び蹴りを放つ。自動に切り替えたバイクは近くに停止する。

 

 地面に十メートル程のクレーターを作ると共に、異形型たちを吹き飛ばす。適度に足止めを行った後、古瀬はバイクに乗ってその場から去る。

 

 古瀬は三人に追いついて、避難所の事を説明する。

 

「あんさんは何者なんや。ヒーローかいな?」

 

「いいや。ヒーローになれなかった男さ」

 

 見知らぬ相手であったが、天喰のこともあるため、ファットガムは古瀬の案内に従って避難所へと向かう。

 

「君たちは無事だったようだな」

 

「俺らはな。でもサンイーターが……」

 

「個性を……奪われてしもうた」

 

 天喰は先程からずっと、ファットガムの脂肪の中へと入れられている。項垂れるように、ずっと下を向いている。

 

「そうだったか。聞いた話によれば、かなりのヒーローが個性を奪われたそうだな」

 

「個性だけやない。多くのヒーローが命を落とした。リューキュウも……」

 

 ファットガムは悲しそうな顔をする。リューキュウは他の人を逃がすために戦い、AFOに殺害されたとの事であった。

 

 麗日はリューキュウ事務所にインターンに行っていた。それを聞いて、あまり良くない知らせだな、と古瀬は思った。

 

「その他にヒーローについて、何か知っているか?」

 

 道中、古瀬は他のヒーローに関する情報を集める。誰が生きていて誰が死んだのか、不確実ではあるが情報を入手する。

 

 避難所に到着したのち、古瀬は中の人間に彼らは安全であることを伝える。武装していた市民たちは武器を下ろして、四人を建物の中に入れる。

 

「何やけったいな様子やな」

 

 あの敗北の直後とはいえ、既に市民たちが武装していることにファットガムは疑問を感じる。あまり穏やかではなさそうだと思った。

 

 ファットガムはそれなりに有名なヒーローであるため、知っている避難民もそれなりにいた。まだ情報が伝わっていないため、彼が来たことを歓迎する。

 

 中に入ると回原が出迎えてくる。

 

「骨抜! 無事だったのか!」

 

「あぁ、無事って言っていいのか分かんねぇけどな」

 

 古瀬はファットガムに呼びかける。

 

「ファットガム、ここを任せてもいいか。外に出てくる」

 

「お、おう。せやけど気を付けるんやで」

 

 私の事は気にするな、と言って古瀬はバイクを走らせる。殆ど留まらずに、彼は再度外に出る。

 

 そうして走っていると、ドラえもんから通信が入る。

 

『超常解放戦線が首都への進軍を開始した。現在、残存ヒーローと警察との間で、激しい戦闘を繰り広げているみたいだ』

 

「どっちが優勢なんだ?」

 

『さあ、何せ伝聞だから詳しい状況までは。ただやっぱり撮影場所の推移からも、戦力的にも超常解放戦線じゃないかなあ』

 

 現在はAFOが各都市を攻撃した翌日である。立て直しどころか、ヒーローたちの回収すらまだできていない。

 

『降伏が戦闘中になるか、戦闘後になるかは微妙な所だね。向こうも忙しいみたいだし』

 

「その戦闘に負けたら降伏って必要なのかな?」

 

 超常解放戦線が負けたら、わざわざ降伏しなくてもいいんじゃないの? 

 

『もう、そういう中途半端な態度が一番悪いんだ』

 

「冗談だよ。それなら今の内に、周りに俺たちは降伏するって伝えとこうか」

 

 真っ先に降伏する人間を処断するようなら、他の人間は尻込みする。多少思う所があろうと、呑み込まざるを得ない状況を作っておこうかと古瀬は思った。

 

 その後、古瀬は八百万と峰田の気がある近辺へと到着する。しかしその辺りは山間部で、二人の姿は見つからなかった。

 

 しばらく辺りを探していると、異形型の集団を見つける。古瀬は彼らへと声を掛ける。

 

「少しいいだろうか?」

 

「誰だ! ヒーローか?」

 

「いいや、通りすがりの仮面ライダーをしている者だ。君たちはここで何をしているんだ?」

 

 彼らは互いに警戒した様子で、互いに顔を見合わせる。

 

「あんたは、超常解放戦線の人間か?」

 

「いいや、違う。しかしこれから入るかもしれない人間だ」

 

 嘘は言っていない。嘘を見抜く個性持ちがいても反応はしない。

 

「それを聞くという事は、君たちは超常解放戦線の人間なのか?」

 

「いや……」

 

「まだ違うが、その内そうなるかもな」

 

 彼らにそれを嫌悪している様子は無い。かといって人によっては、必ずしも乗り気というわけではなさそうだった。

 

「おい、それより早く運ばないと」

 

「おっと、邪魔してしまったかな。お詫びに私も手伝おう」

 

「いや、それは……」

 

「よし、私はこれを持とう」

 

 古瀬はバイクをその場に置いて、いくつかのダンボール箱を持って、彼らに同行する。

 

 彼らは、顔は分からないが、自分たちに忌避感を持っていないし、人手が増えるから、まあ別にいいかと気にしないことにした。

 

 彼らはやや小さい、掘られた穴の中へと進んでいく。その奥には、多数の異形型が集まる空間があった。

 

 荷物を運んだ後、古瀬はその空間を見て回る。ゲリラ戦を想定したような造りではなく、どちらかと言えば地下街のようであった。

 

 この場所が何か知りたかったが、聞いて回ればおそらく目立つ。何人か明らかに堅気ではない、超常解放戦線の人間がいるため行わなかった。

 

 八百万と峰田が居る場所を見つけるが、そこは牢のようで見張りがいる。古瀬は賄賂を渡して中に入れてもらう。

 

「チクショウ! あと少しでヤオヨロッパイに届くってのに!」

 

「真面目にやってください峰田さん!」

 

 二人は同じ牢の中に拘束されている。峰田は縄で巻かれているだけだが、八百万はこの場に似つかわしくない、外部から提供されたと思われる拘束具だった。

 

「こんな所にヒーローが捕まっているとはな」

 

 古瀬は檻の外から中を覗き込む。

 

「何だおめぇ、八百万に手を出すんじゃねえ!」

 

「峰田さん」

 

「このオッパイはオイラのもんだ!」

 

「峰田さん!」

 

 これだけ厳重に拘束されているという事は、おそらく八百万は個性を奪われていない。そして峰田も髪を見る限り、その様子は無さそうだった。

 

 ここでの会話は聞かれている。小声でも、助けに来たと伝える事は難しい。

 

「君たちはなぜ捕まったのかね?」

 

「ボロボロの状態で逃げられなかったからだよ!」

 

「多勢に無勢で、気が付いたらここに」

 

 なるほど、と頷きつつ、古瀬はどうやって助けたものかと考える。

 

「君たちはここがどのような場所か知っているだろうか?」

 

「超常解放戦線の基地だろ?」

 

「私もはっきりとは。あの、あなたは外部の方でしょうか? 外にいるヒーロー、雄英高校に私たちの事を外に伝えてはいただけませんか!」

 

 雄英高校は既に無い。まだ希望を見出している八百万の瞳から、古瀬は目を逸らす。

 

 一旦部屋の外に出て、作戦を考える。強行突破は難しいだろう。二人が動けるならともかく、八百万の拘束を解くのは難しい。

 

 手段を選ばないならともかく、今の古瀬は増強型の個性持ちという設定である。正体が露見しかねない、不用意な行動は避けたかった。

 

 周りの作業を手伝いながら、古瀬は情報を集める。酒場や飲食店などから集める事も考えたが、異形型ばかりのこの場所でヘルメットを脱ぐのは危険と判断した。

 

「忙しい理由? 超常解放戦線の奴らを持て成すためさ」

 

「歓迎のため、というわけではなさそうですね」

 

「そりゃあねえ。できるだけ時間を稼ぎたいのさ」

 

「時間を稼ぐ?」

 

「自分たちの革命に協力しろって言ってきてんだけどねえ、若い奴らは自分たちを迫害した奴らに復讐だって息巻いてるけど、そんなもん上手くいくかどうか分かんないだろ?」

 

「ああ、それで時間を稼いで上手くいくかどうか様子を見たいわけですね」

 

 古瀬はまた別の人から話を聞く。

 

「ここは追い出された異形型が集まってできた村なのさ」

 

「ここで暮らしているという事ですか」

 

「地図には乗っていない、地中に作られた異形型の村だ。超常解放戦線の奴らに、誰かがここの事を教えたんだろうな」

 

 周りには普通の、彼らを迫害した村がある。そのため、意見が超常解放戦線に傾くのは時間の問題だろうというのがその人の予想だった。

 

「この村が周りから攻撃を受けないのは、長の腕っぷしがあるからだ。周りは長を恐れてここに手を出してこないのさ」

 

「長という人はどのような人物なんです?」

 

「昔気質の親分だな。ちょっとばかし融通が利かない所がある」

 

 などと情報を集めていると、広間の方が騒がしくなる。何かと思って古瀬も向かうと、八百万と峰田の処刑が執り行われようとしていた。

 

 二人と古瀬の会話は看守に聞かれていた。そりゃ外部に自分たちの事を伝えてください、なんて言ったらこうもなる。

 

 処刑の執行人はこの場所の長であった。異形型でかなり体が大きい。巨大な青龍刀を研いで振り回す。

 

「嫌だああああああ、死にたくないいいいいい! 誰か助けてくれえええええええ!」

 

「峰田さん、最後まで諦めないで! せめて体が動けば……」

 

 八百万の体は分厚い棺桶のような拘束具に入れられている。首から下は全く動かすことができなかった。

 

 今の所、二人を助ける方法は全く思い付いていない。しかし今助けなければ確実に死ぬため、古瀬はやむなくその場に出ていく。

 

 振り下ろされた青龍刀を片腕で受け止める。青龍刀は展開装甲に食い込むが、気を纏った腕を切り裂くことはできなかった。

 

「その処刑、待ってもらおうか!」

 

 処刑を見守っていた周りがざわめく。元々この処刑には賛否があったが、超常解放戦線の目があるため、ヒーローに友好的な態度を見せるわけにはいかなかった。

 

「あなたは!」

 

「うおおおおおお、誰でもいいから助けてくれえええええ!」

 

 古瀬は青龍刀を横に払いのける。長が確認すると、青龍刀は欠けていない。

 

「何だお前は!」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ」

 

 さあて、ここからどうしたものか、と古瀬は内心で困っていた。この状態の二人を連れて逃げるのは無理、かといって二人を守りながらこの場の全員と戦うというのも難しい。

 

 逃れるためは奇手が必要だと思った。

 

「この二人を放してはもらえないだろうか」

 

「はっはっは、面白い冗談だ。それをして俺に何の得がある」

 

 古瀬は力を込めて地面を殴り、その場に十メートルほどのクレーターを作る。

 

 その光景を見て、周りは顔を強張らせる。相手は自分たちよりも強い猛者である事が窺える。

 

「私の力はこの程度のものだ。この腕一本と、この二人を交換してはもらえないだろうか」

 

 古瀬は腕を横に伸ばして見せる。

 

 長はその発言を聞いて、狂人の戯言と大声で笑う。

 

「断る、と言ったらどうする」

 

「その時は仕方がない。全力で抗わせてもらう」

 

 その会話を聞いて、八百万と峰田は慌てる。もし本気なら、この人は自分たちを助けるために、自分の腕を犠牲にしようとしている。

 

「おい、冗談だろ!?」

 

「お止めください。他に方法が……」

 

 長にとって最も重要なのはこの場所である。ここが壊れるような戦闘は避けたいはず。そして腕を切った後に、襲ってくるような真似もおそらくはしてこないはず。

 

 それを行った所で問題は無いが、超常解放戦線の目があるこの場所で、信用できない人間と思われるのは避けたいはず。

 

 結局の所、伸るか反るかは相手次第。古瀬と長はしばらく睨み合う。

 

「いいだろう。ただし、まずはテメェの腕からだ!」

 

 異形型二人に、腕を机の上に置かれて押さえられる。青龍刀が振り下ろされ、古瀬の二の腕から先が切断される。

 

 仙豆かメディカルマシーンで治せる。だから問題無いと思っていたが、古瀬はあまりの痛さに絶叫しそうになる。

 

 しかし今は、二人を助けるのが先と最後まで演じ切る。

 

「約束は守ってもらうぞ!」

 

 二重の極みで、八百万の拘束具を破壊する。上半身しか壊れなかったが、残りの部分は彼女が自分で開錠する。

 

「行くぞ!」

 

 峰田の縄を切ったのち、三人はその場から去る。他の異形型を押しのけながら、出口へと向かう。

 

 異形型は三人を追おうとするが、長はそれを呼び止める。

 

「行くな!」

 

「いいんですか?」

 

「放してやるってのが約束だ。見逃してやるさ、俺たちはな」

 

 細長い通路を通って三人は地下から出る。八百万はその道中に、布を創って古瀬の腕を止血する。

 

 超常解放戦線の人間が追ってきている。それに追いつかれないように三人は移動する。

 

「こっちだ」

 

 古瀬はバイクがあるところへと戻る。それに乗って逃げようとするが、動かすのに手間取る。

 

「片腕では難しいな」

 

「代わってください。私が運転します」

 

 八百万が運転し、古瀬がその後ろ、峰田が一番後ろに座る。古瀬は八百万の腹部に手を回してしっかりとしがみ付く。

 

「前と後ろ代わらないか?」

 

「この行動に邪な意図は無い。落ちないようにしているだけだ」

 

「落ちそうなら、オイラのもぎもぎでくっつけてやるからよお!」

 

「そこまでは必要無い」

 

 三人はバイクに乗って逃走する。超常解放戦線が追ってくるが、徒歩だったためすぐに引き離した。

 

 バイクは日が沈みかけている街並みを疾走する。電気が止まっているため街に明かりは殆ど無く、景色は全体的に薄暗い。

 

「あの、腕は大丈夫ですか?」

 

「あまり大丈夫とは言えないな。流石に無茶をしすぎた」

 

「申し訳ありません。私たちが捕まってしまったばっかりに」

 

「気にするな。こちらが勝手にやった事だ」

 

 バイクは明かりをつけて、暗闇の中を駆け抜ける。この道をまっすぐ進むよう、古瀬は八百万に伝える。

 

「どこに向かってんだ?」

 

「避難所だ。そこに何人かのヒーローがいる」

 

 その言葉を聞いて、峰田は歓喜の声を上げる。

 

「やったあ、助かるんだ俺たち!」

 

「一人は個性を奪われているが、それ以外は……」

 

 そうして話していると、ドラえもんから通信が入る。

 

『超常解放戦線が首都を制圧した。降伏しに行くから、できるだけ早く戻って来てくれ』

 

 正確には国会の制圧、現在はヒーロー側残存戦力の掃討を行っている。

 

 古瀬は通信に耳を傾けていたため、しばし沈黙する。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「いや、すまない。少し考え事をしていた」

 

「お加減が悪いようでしたら、遠慮なく言ってください」

 

「その時は頼らせてもらおう」

 

 しばらく移動して、三人は避難所へと到着する。古瀬は見張りの市民に、二人を入れるように呼び掛ける。

 

「これで中に入れるはずだ。それでは、私はこれで」

 

「おい、どこに行くつもりだよ!?」

 

 古瀬はバイクに跨って、その場から去ろうとする。

 

「他に用事があるのを思い出した。すまないが、中の避難民たちを頼む」

 

「せめて腕の治療を行わせてください」

 

「気にするな。私の個性なら、自分の腕を再生させることが可能だ」

 

「ですが、そのまま放置すれば細菌感染の恐れがあります。それにその状態で夜間に運転するのは危険です」

 

「私は大丈夫だ。それよりも君たちこそ、まずは傷と疲れを癒すんだ。他に困っている人がいるからと言って、無理をしてまで手伝おうとするものではないぞ」

 

 そう言って、古瀬はバイクを走らせてその場から去る。

 

 すぐにドラえもんから通信が入る。

 

『本当に大丈夫?』

 

「そんなわけあるか。二度とやらない。仙豆かメディカルマシーンの用意を頼む」

 

『はいはい。でにその前に、どこでもドアを出すよ』

 

 どこでもドアを通って、古瀬はスケアクロウ社へと戻る。ブレーキをかけて、弧を描きながら止まる。

 

 古瀬は仙豆を食べて腕を治す。しかし血を失ったため、少し眩暈がした。

 

「これから超常解放戦線の所に向かうのか?」

 

『そうだね。事前に通達はしているけど、早い方がいい』

 

 ドラえもんに案内されて、古瀬は超常解放戦線の所へと向かった。

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