無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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国盗り

 全面決戦当日、群訝山荘に集まっていた超常解放戦線のメンバーたちは、ヒーローチームの奇襲を受けていた。

 

 黒霧は既に捕縛されているため、ワープゲートで逃走することはできない。彼は九月に、不用意に外出した際に捕まった。

 

 ギガントマキアは、事前のホークスの仕込みによって眠らされている。この時は、地下空間から動いていない。

 

 全ての出口を塞がれ、完全包囲されて山荘と地下空間に閉じ込められる。何とか脱出を試みようとするが、形勢は完全に不利だった。

 

 そんな中、トゥワイスがホークスに殺害される。荼毘とトガがその場に現れるが、常闇が救援にやって来る。

 

 その直後に、AFOが現れる。AFOが持っていたのは二倍のコピー、ドクターに複製させたものであり、死柄木も同じものを持っている。

 

 現れたAFOによって、ホークスは個性を奪われ、殺害される。そしてAFOは殺害されたトゥワイスを見下ろす。

 

「可哀そうに。彼の個性を使って、蹂躙するといい」

 

 AFOはトガに、トゥワイスの血を差し出す。

 

 AFOの登場によって、戦局は一気に反転する。群訝山荘を包囲していたヒーローチームは逆包囲され、内部から溢れるトゥワイスと、AFOによって蹂躙される。

 

 AFOの広範囲攻撃によって、多くのヒーローが倒される。超常解放戦線の構成員たちは地下に閉じ込められていたため、この攻撃に巻き込まれた人間はあまりなかった。

 

「Mt.レディ!」

 

 Mt.レディは個性を奪われて投げ捨てられる。シンリンカムイにキャッチされて、再度個性を発動させようとするが使えない。

 

「個性が使えない!?」

 

「どうしたMt.レディ!」

 

「先輩、個性が使えなくなってる!」

 

「個性破壊弾というやつか!」

 

 治崎が作った個性破壊弾は死柄木の手に渡った。それを量産しているという情報の方は、他のヒーローたちにも共有されている。

 

「戦えなくなったヒーローたちを後ろに下げろ!」

 

「後ろの救護部隊の所まで連れて行くぞ!」

 

「血路を開け!」

 

「逃げることないじゃないか。せっかく来たんだ。ゆっくりしていきたまえ」

 

 エッジショットはAFOの一体と対峙する。彼はヒーロービルボードチャートJPで、下半期四位、体を細く薄く延ばすことができる。

 

 AFOのいくつもの個性を使った攻撃を避けて接近するが、押し飛ばされて地面に叩きつけられる。AFOはエッジショットを素手で持ち上げる。

 

 その油断を突いて、エッジショットはAFOの体内へと侵入する。内部から体を破壊したことで、そのAFOは泥へと変わる。

 

「やるじゃないか」

 

 十体以上のAFOがエッジショットに向けて賛辞を述べる。抵抗できないほどのダメージを与えられて、再度持ち上げられる。

 

「うーん。やっぱり、君の個性はいらないな」

 

 細くなった体を握り潰されて、エッジショットは絶命する。

 

 最初は奮戦していたヒーローたちも、自分たちよりも遥かに強い、増え続けるAFOを前にして、勝つことを諦めて逃走を始める。誰かがそれを命じたわけではなく、そのタイミングはバラバラだっただめ散り散りになる。

 

 多くのヒーローはヴィランを前にして、逃げる、とは言えなかった。

 

 包囲していたヒーローたちが居なくなったことで、超常解放戦線の構成員たちは外に出られるようになる。

 

「我々も行くぞ。ヒーローを殲滅しろ!」

 

 リ・デストロの命令によって、超常解放戦線は逃げ惑うヒーローたちへと襲い掛かる。AFOはその光景を楽しそうに見ている。

 

 しかし午後三時過ぎに、AFOたちの姿が崩れ始める。あるAFOは怨嗟の声を上げながら、あるAFOは最後の力で周りに個性を押し付け、あるAFOは周りを破壊しながら泥へと変わる。

 

 全てのAFOが消失したことを異常事態と見たリ・デストロは、ヒーローへの追撃を止めさせて、構成員たちを集める。その後の追撃は、戦力としては期待できない、スピナーの名で集めた異形型に任せる事にした。

 

 会議室に、今後の行動を話し合うために行動隊長が集まる。メンバーはリ・デストロ、トランペット、荼毘、トガ、スケプティック、Mr.コンプレス、スピナーである。

 

 居ないのは改造中の死柄木と、死亡したトゥワイスと、周辺を警備している外典である。

 

 トランペット、個性は煽動。彼に心を許す者を高揚させ、肉体、精神をブーストさせる。国会議員で、心求党の党首。

 

 スケプティック、個性は人形。人と同程度の物に触れることで、操り人形に変えられる。表向きの職業は、大手IT企業の取締役。

 

「緊急事態だ」

 

「そりゃあ、ヒーローに襲撃された事か? あのおっさんが居なくなったことか?」

 

「AFOが消滅した件についてだ。トガくんが言うには、AFOが死亡したためという事だが、本当だろうか?」

 

「仁くんと同じ消え方でした。間違いないと思いますよ」

 

 AFOの消滅、彼らからすれば、まず本当に死亡したのかどうかが疑わしかった。

 

「本当に死んだのか? 実は生きてて、姿を隠すために死を装いました、とかって無いかな?」

 

「AFOが生きているにせよ死んでいるにせよ、ここに居ない事に違いはない。これからどうするか、我々だけで決めるしかない」

 

 死柄木とAFOの二人が不在。指導者不在の状況で、今後の方針を決める必要があった。

 

「まず各部隊の被害報告から頼む」

 

 超常解放戦線側にも多数の負傷者が出ているものの、ヒーロー側と比べるとその数は微々たるものだった。

 

 それに勝利したため、捕虜になった人間も少ない。しかし蛇腔病院にいたドクターは、ヒーローに捕縛されたため行方が分からなくなっている。

 

「死柄木って氏子さん居なくて大丈夫なのか?」

 

「不明だ。一応、機械は動いているらしいが、あのまま放置していいのかどうか」

 

「おい、本当に大丈夫なのか!?」

 

「分かる人があの人以外に居ないのだから仕方あるまい。下手に触るわけにもいくまい」

 

 死柄木は容器の中、AFOは消滅と、超常解放戦線側もかなり混乱していた。しかし、事態は既に動き出してしまっている。

 

 ヒーロー側に計画が露見したという事は、体勢を立て直せば、再度攻撃してくるかもしれない。その前に、こちらから動く必要があった。

 

 もしAFOが各都市を破壊したなら、今が攻勢に出る絶好の機会でもある。計画の第一段階は既に達成していると言っていい。

 

「まず、私が臨時の指揮を執っても構わないだろうか」

 

 旧ヴィラン連合側に、指揮を執れそうな人物はいない。リ・デストロがそう提案すると、荼毘が同意する。

 

「いいんじゃねえの?」

 

「ありがとう。まず今後の方針だが、当初の予定通り、私と心求党による政界への進出を行おうと思う」

 

「現在、この国の各都市は壊滅状態にある、はずだ。おそらく政府も混乱しているだろう」

 

「はっきりしないな」

 

「仕方ないだろ! 通信システムが破壊されたことで、各地の状況が分からないんだ!」

 

 AFOが各地を破壊したことで、超常解放戦線側も状況の把握ができていなかった。

 

 もしかしたら各都市の被害はそれほどではないのかもしれない。もしかしたら、自分たちの動きは読まれていて、首都に残存戦力を集中させているかもしれない。

 

 こうであったらまずい、というパターンはいくつも存在する。

 

「しかし今は動くしかない。今程の絶好の機会はない」

 

「俺たちはこの場の戦力全てを移動させて、首都の制圧を目指す」

 

「どうやって移動するんだ?」

 

 現在地、奈良辺り。目的地、東京。この場の兵力はおよそ一万七千。交通インフラは現在機能停止中。命令を出せる人がいないため、脳無は言う事を聞かない。

 

「船、かなあ?」

 

「そういった移動系の個性持ちは居ないのか?」

 

「まあ何とか、頑張って方法を考えて移動しよう」

 

 彼らは分かれて、様々な方法で首都へと向かう。そうして再集結してから、首都の制圧を開始する。

 

 AFOの攻撃によって、首都は既に機能停止していた。この時は、生き残ったヒーローたちが救助を行っている。

 

 公安委員会は超常解放戦線の攻撃を予想していた。しかしこの混乱した状況下で戦力を集結させることはできず、後手に回る。

 

 ヒーローたちに救助を止めて、これから来る敵の襲来に備えて集結するように伝えるが、反発される。しかし何とか、軍と警察を動かす事には成功する。

 

 しかし敵と味方、市民と構成員たちの見分けがつかない状況下での戦闘は、常に後手に回る。市民だと思っていたおばちゃんに奇襲され、歩いていた青年が突然周りを攻撃して混乱を起こす。

 

 各地の捕縛を逃れた超常解放戦線の構成員たちも合流して、その勢いを増す。戦闘開始から半日も経たぬ内に、国の中枢機関を制圧する。

 

 日が落ちたことで、戦闘がある程度落ち付く。未だに外では小規模ながら交戦が続いているが、戦局を変える程のものではない。

 

 超常解放戦線の行動隊長たちは、ビルの一室に集まる。未だに戦闘が続いているため、自分は警備すると言って外典はここにはいない。

 

「落ちたな」

 

「うむ」

 

 当初の予定とは違うが、国の中枢機関を制圧した。完、で終わればいいのだが、未だにトップ不在が続いている。

 

 とはいっても総理は逃げたため、どこかの国で亡命政権を作るか、どこかの残党と合流して戦い続けるだろう。降伏してくるという可能性も無いとは言い切れない。

 

 リ・デストロは内心穏やかではいられなかった。勝手に戦って、しかも勝ってしまった。本来は救世の解放者たる死柄木と共に行う予定の破壊を、本人がいない内にやってしまい、何とも言えない気まずさがあった。

 

 しかし国を落としたはいいものの、死柄木の方針が不明な状況で、これ以上進めることはできなかった。

 

 とはいっても、めでたい事に変わりはない。この場にいる面々は、豪華な夕食を食べている。

 

「さて、そろそろ話してもいいだろうか。これからの行動方針についてだ」

 

「一応、政府は掌握したが、ここからヒーロー側が戦力を集めて反撃してくるという可能性も無くはない。トゥワイスが死亡して戦力は激減、脳無も動かせない。死柄木も居ない現状、しばらくは国の掌握に努めようと思う」

 

「それで君たちだが、ヒーローの残党狩りをして欲しい」

 

「おいおい、使いっ走りかよ」

 

「そう深く考える必要はない。解放者が戻るまでは、自由行動と捉えてくれればいい。もちろん君たちの要望は最大限叶えよう。何か要望があれば言ってくれたまえ」

 

 まず最初に口を開いたのはトガだった。

 

「行きやすい世の中にはならないんですか?」

 

「現状で強引な改革は難しい。段階的なものになるだろう」

 

「そうですか。残念です」

 

 リ・デストロはスピナーの方を見る。

 

「スピナー君には異形部隊の統括を任せても大丈夫だろうか」

 

「俺がか!?」

 

 異形型たちはスピナーの名で集められたが、スピナーはただ流れに乗せられただけで、代弁者だの何だのという自覚は無かった。

 

 あまり乗り気ではなかったが、否定する言葉を見つけられず了承する。

 

「そういう事なら一つ頼みがある。ヒーロー制度は残してくれ」

 

 荼毘の言葉にリ・デストロとトランペットは首を傾げる。

 

「ヒーロー制度を? まあ、それは……どういう意味で?」

 

「ヒーローでないあいつなんてつまらない。あいつにはまだ、人々の希望として頑張ってもらわないとなあ!」

 

「……できるかね?」

 

「はっ、まあ。制度として残すだけなら」

 

 リ・デストロは、コンプレスへと視線を向ける。

 

「コンプレスくんは何かあるかね?」

 

「俺か? それなら、この腕を治すことはできるか?」

 

 コンプレスは死穢八斎會との接触の際に左腕を失った。その後、ドクターが作った回復カプセルによって左腕そのものは再生されたが、その左腕で個性を使うことはできなかった。

 

 その要求を聞いて、リ・デストロはほう、と声を漏らす。

 

「それならば都合がいい。実は紹介したい人達が居てね」

 

 入って来るように、リ・デストロは扉の外に言う。

 

 外から、ドラえもんと古瀬が入ってくる。コピーロボットではない本人である。

 

「スケアクロウ社の方だ。我々に降伏したいらしい」

 

「どうも皆さん初めまして。僕はスケアクロウ社CEOのドラえもんです。こっちは総責任者の古瀬井梨」

 

 古瀬はその場の人間に軽く会釈をする。

 

「おいおい、そっちは雄英の生徒じゃねえか。雄英生が俺たちに降伏したいってか?」

 

 荼毘が乾いた声で笑う。

 

「彼の事は気にしないでください。実質的に経営しているのは僕ですから」

 

 その場の人間は、ドラえもんをロボットではなく異形型だと思った。

 

「彼らは我々の仲間になりたいらしい」

 

「仲間だと?」

 

「仲間といっても暫定的なものだ。仲間にするかどうかは、解放者が目覚めた後に、改めて決めてもらうつもりだ」

 

「これからよろしく、みなさん。ふふふ」

 

 下がるように言われて、古瀬とドラえもんは退室する。

 

 その後、スピナーは深い考え無くリ・デストロに視線を向ける。

 

「信じるのか?」

 

「むろん、完全には信用していない」

 

 しかしスケアクロウ社は、超常解放戦線に付くと、はっきりと明言している。様子見が多く、強引に事を進められないこの状況で、彼らを明確に拒絶することは得策ではないとリ・デストロは判断する。

 

 受け入れて、その選択肢もあるのだと周りに示す。それにスケアクロウ社の協力があれば、深い傷を負った構成員たちを治療できる。

 

 拒否すれば、ヒーロー関係者は受け入れないと判断され、多くの人間が敵に回る。それなら取り込んで、監視した方がましだという判断だった。

 

 ホークスが裏切った件もあるため、完全には信用しない。作戦や重要な情報については教えないし、会議にも参加させない。影響力を持たせないために、元雄英生という経歴を利用するつもりも無い。

 

 スケアクロウ社の本音がどこにあるのかは不明だが、それはどの企業も同じである。今後軍門に降る企業や組織は、表面上は従いつつも、裏ではヒーローたちへの協力を続けるだろう。それは組織としてではなく、個人として納得できないためである。

 

「しばらくは様子見といった所だ」

 

 しかしそれは高い視点を持ったリ・デストロの意見であり、荼毘などはホークスの裏切りもあって、ぬるい対応だと思った。

 

「まずは各地で捕まった、同士の解放を行おう」

 

 群訝山荘以外の支部にいた超常解放戦線メンバーも、かなり逮捕されていた。リ・デストロはまず、彼らの解放を行うことにした。

 

 

 

 八百万と峰田が来た二日後に、芦戸が避難所に合流する。

 

「という事は、芦戸さんは自力でここまで辿り着いたんですか?」

 

「うん。まあ自力で、まあ自力でってわけじゃないけど」

 

 何人ものヒーローが個性を奪われた人間を逃がすために超常解放戦線の足止めを行った。芦戸もそれに加わったが、捕まる前に他のヒーローに逃がされた。

 

 その後、各地を彷徨いながら、この避難所へと辿り着いた。

 

 多くの人の死を目の当たりにして、内心では落ち込んでいる。しかしここに居る全員、それを表に出すことなく明るく振舞っている。

 

「他の人は大吾って人に連れてこられたんだ」

 

「はい。超常解放戦線に捕まっている所を助けていただきました」

 

「どんな人?」

 

「お会いした時間は短かったので、どのような人かまでは」

 

 もし見かけたら教えるからと、芦戸は容姿について尋ねる。

 

「あれはコスチュームだったのでしょうか。異形型のような見た目の、大型バイクに乗った緑色の方です」

 

「じゃあもし見かけたら教えるね!」

 

 そう言って、二人は歩いて行く。

 

 

 

 麗日が復帰したのは、治療を受けてから一週間後であった。

 

「麗日さん。もう動いても平気なんですか?」

 

「うん。私だけ寝てはいられんから!」

 

 医者はまだ安静にしているように言うが、麗日はもう平気だと言って他の人たちを手伝う。それは不安と後悔を紛らわせるための行動であった。

 

「もう少し休んでいてもよろしいのですよ?」

 

「もう全然平気。それ運ぶの手伝うね」

 

 から元気のようではあるが、じっとしていられないという気持ちは分かるため、八百万はあまり強くは言えなかった。

 

 AFOの都市破壊から十日目、外部からの救援は無く、まだ何とかなってはいるが次第に避難民たちの不安が募る。

 

 この避難所はヒーローたちの助力もあって、その不安が表面化はしていない。しかし先の見えない生活によって、全員に疲れとストレスが蓄積されている。

 

 そんな中、テレビとラジオが復旧する。その事を伝えに、回原がやって来る。

 

「おい、ラジオが!」

 

「こちらもテレビが受信しました!」

 

 荒い映像が、少しづつ明確になっていく。ニュースキャスターと思われる男性が、何かを話している。

 

『国会議事堂を武力制圧した心求党による記者会見が先程開かれました』

 

「国会議事堂を武力制圧!?」

 

「今は話を聞くんや!」

 

 記者会見の場に心求党の党首、トランペット、本名、花畑孔腔が現れる。

 

『皆さま、我々が武力によって政権を奪取したことに批判的な方々もいらっしゃると思います。しかしこれは、政治を、本来あるべき姿に戻すための、必要な措置だったのです』

 

『必要だったとはどういうことですか!』

 

『武力革命であることは否定しないのですか!』

 

『この大災害は、心求党によって起こされたという事ですか!』

 

 警備の人間が、押し寄せる記者たちを落ち着かせる。

 

『まず、この国の政治を裏から操っていたのは誰か、皆さまは御存じでしょうか。それはヒーロー公安委員会です』

 

「この花畑って人、確か超常解放戦線の幹部だよな?」

 

「じゃあ超常解放戦線にこの国を掌握されたって事!?」

 

「じゃあオイラたち、どうなっちまうんだ!?」

 

「皆さん、お静かに! まずはニュースを観ましょう!」

 

 この場にいるヒーローたち、全員が動揺する。比較的冷静な人間であっても、それは変わらない。

 

『彼らはこのヒーロー社会を脅かす存在を、人知れず排除してきました。それは時には、ヒーローへのテロを計画していたヴィラン、あるいはヴィラン組織と癒着して名声と金を得ていたヒーローチーム、あるいはヒーローに批判的な業界人、あるいは自分たちにとって都合の悪い公約を掲げる政治家。彼らは正義の名のもとに消されていった』

 

 社会の基盤を揺るがしかねない人間が人知れず消されていった。ただし、業界人や政治家が殺されたかどうかは不明である。トランペットは公安委員会を悪く見せるために、半分は本当で、半分は嘘を吐いている。

 

『我々の同志もまた、彼らの手によって殺されました。またデトネラット社の四ツ橋氏も、彼らの奸計によって危うく命を落としかけました』

 

 これは本当である。殺されたのはトゥワイス、四ツ橋、リ・デストロは商談の提携という建前で呼び出され、複製した分身を殺されている。

 

『この国は法治国家、例え犯罪者であろうと、裁判を受ける権利があります。しかし彼らは皆、法に裁かれることなく罪ごと消された』

 

 この世界に人権があるかは、正直怪しい所である。タルタロスとかいう絶対に出られない拘置所も存在するし、個性によっては良くてもずっと外に出られない人間もいるだろう。

 

『なぜこのような事が許されるのか。我々は声を上げる事すら許されないのか。政治は公安委員会の会議室で決められる。自分が気に入らないからと言って人を殺すのであれば、それは独裁と何も変わりません。我々は公安委員会の支配を打破すべく、人々の自由を解放すべく、立ち上がった次第であります』

 

 記者たちは興奮静まらぬ様子で、いくつもの質問を投げかける。警備の人間が必死に彼らを押さえる。

 

『既に公安委員会の人間は、我らの手で捕縛しております。やがて事の真相は明らかとなるでしょう。殺害された人間のリストも、仮ではありますができております。この後、皆さまにお配りいたします。ネットが回復し次第、そちらにも公開いたしましょう』

 

 公安委員会の人間が手錠を掛けられて、連れて行かれる様子が映像で流れる。怪我をしている様子は無く、警察に捕縛されている。

 

『この未曽有の災害は、彼らの怠慢による結果なのです』

 

「オメェらがやったんだろうが!」

 

「峰田さん、お静かに!」

 

『彼らの傲慢な考え、殺せば済むという安直な解決手段、それらは膿となって溜まり、人々の自由を、意思を、感情を押し込めた。それらはヴィランの活性化を招き、争いは拡大し、最後には暴発いたしました。我々はこの未曽有の混乱に対処していく所存であります』

 

 会場が騒めく。取り敢えずトランペットは、公安に責任をぶん投げた。

 

『まず各地に対して、およそ一月後を目安に支援を行いたいと考えております』

 

 それを聞いて、避難所内に歓声が上がる。これまでは先が見えなかったが、一月後に救援が来ると聞いて希望を持つ。

 

 それを見たヒーローたちの心境は複雑だった。

 

『それとヒーロー公安委員会は一度組織を再編するつもりです。それに伴い、全てのヒーロー資格を一度剥奪しようかと考えています』

 

『今各地で活躍しているヒーローたちから資格を奪うという事ですか?』

 

『少し違います。今から二か月後に、今使っているヒーロー資格は有効期限が切れます。それまでに指定された更新が可能な建物へと向かい、資格の更新を行ってください』

 

『資格の更新を行う意図は何でしょうか?』

 

『今回の災害によって、多くのヒーローが戦えなくなりました。残ったヒーローにも、今後どうするか考えてほしいためです。それと、ヒーローの体制を一度見直すためです』

 

 自分たちにとって都合の悪いヒーローを捕まえるためである。のこのこ更新にやって来たヒーローを囲んで捕縛する。来なければ来ないで、ヴィラン指定して捕まえるつもりであった。

 

「ヒーロー資格の更新!? それって仮免にも適応されるのか?」

 

「超常解放戦線が用意した更新を行うのは危険ではありませんか?」

 

「罠か、それともGPSでも仕込んどるんかもしれんな」

 

「でも更新しないと、ヒーロー活動は行えなんじゃ」

 

 この世界のヒーローとは職業名に過ぎない。上の意向に逆らうことは難しい。

 

『さらにこの災害に対応するために、市民の個性使用を許可します』

 

 記者会見の場がざわつく。

 

『刑務所から脱走したダツゴクから身を守るため、そして不足する物資を確保するためにも、皆さんの個性が必要です。そう判断して我々は、個性の個人使用を一時的に許可することにいたしました』

 

『一時的にという事は、あくまで限定的な許可という事でしょうか?』

 

『はい。ですがいずれは、全ての人間が個性を自由に使える社会を目指すつもりです』

 

 記者会見はそれで終了する。記者たちの質問にいくつか答えた後、トランペットはその場から立ち去った。

 

 個性の使用が一時的なものなのは、強い反発が予想されるため。少なくともそれによって混乱が生じる事は理解しており、まだ時期尚早と判断したためである。

 

 ネットの復旧はまだだが、テレビとラジオは復旧した。ネットも復旧しようと思えばできるが、一方的に情報を発信するためにまだ行わない方針であった。

 

 避難所の、テレビがある一室に気まずい沈黙が流れる。一月後に救援が来ること、超常解放戦線に国を乗っ取られたことが判明する。

 

「何が救援だ! ふざけんな!」

 

「芦戸さん、落ち着いてください」

 

「でもよぉ、救援が来るのは良い事なんじゃねぇか?」

 

「その場合、オイラたちってどうなるんだ? 政府の人間に捕まったりするのか?」

 

「資格の更新の話を聞く限り、そういった方針では無さそうでしたが」

 

「いいや、信用したらアカン。そうやって信用させて裏切るんがヴィランや」

 

「それに、ここの人たちを見捨てられんよ」

 

 これまでとやる事は変わらない。しかし救援が来た後は、その後はどうすればいいのか、先の見えない不安に彼らは襲われた。

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