無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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救出

 古瀬はトランペットの会見の三日後に避難所へと向かう。色々と忙しかったため、こちらに顔を出すことができなかった。

 

 向かう途中、近くに葉隠の気があるのを見つける。バイクで向かってみると、誰もいない個人商店に葉隠はいた。

 

「ここで何をしている?」

 

 純粋な疑問であった。なぜこんな所に一人でいるのか、避難所のメンバーと合流していて、物資の回収に来たのかとも考えるが、どうもそういうわけではなさそうであった。

 

 葉隠はステルス行動が必要な時は、コスチュームの手袋とブーツを脱ぐ。現在はステルス行動中であった。

 

 店の中の角に身を潜めて、息を殺している。見つかっていないと思っているのか、問いかけに反応しない。

 

「こちらに君を害するつもりは無い。困ったな」

 

 困る理由として、葉隠は現在、何も身に付けていない。他の生徒のようにコスチュームを着ていればヒーローと分かるのだが、彼女の場合はそうではない。

 

 古瀬は変装して別人を装っているため、葉隠を知っていてはおかしい。そのためヒーローではなく、怯えている少女として扱うしかなかった。

 

「もう大丈夫だ。私は通りすがりの仮面ライダー。君を安全な所まで連れて行こう」

 

 葉隠に手を差し伸ばす。まだ隠れ続けるつもりなのか、反応しない。目を瞑り、座り込んで蹲っている。

 

 全裸の少女を強引に引っ張って連れて行くわけにもいかないため、古瀬は呼びかけ続けるしかなった。

 

「何か飲むかね? ガスが止まっているので、暖かいものは無理そうだが」

 

 見た所、外傷は無い。多少の擦り傷はあるが、おそらく転んだのではないかと予想する。

 

 店の中にキャンプ用のガスコンロがあったため、それを使ってお茶を温める。それを渡すと、葉隠は両手で受け取る。

 

 少し冷ましながら、お茶を飲む。一息ついた所で、古瀬は再度尋ねる。

 

「落ち着いただろうか?」

 

「あ、はい。お手数をおかけしちゃってすみません」

 

「いいや、構わない。それよりも移動しよう。ここはあまり安全とは言えない」

 

 外はダツゴクに遭遇する危険性がある。その確率は低いが、絶対に安全といえる場所ではない。

 

「その前に服を着た方がいい」

 

「ひょっとして、見えてます?」

 

「いや、そういうわけでないが……」

 

 古瀬は気の探知で葉隠を見つけたが、今演じているキャラの設定だと、どうやって見つけたのかが謎だった。増強系の設定なので、少なくとも見えてはいないはずである。

 

「問題無いなら忘れてくれ。近くに避難所があるので、そこまで案内しよう」

 

 古瀬と葉隠はバイクに乗って、避難所へと向かう。全裸で後ろからしがみ付かれるが、展開装甲が厚くて胸の感触などは分からなかった。

 

「三十分ほどで着くが、疲れたなら言ってくれ」

 

「はい。あの、えっと、あなたの名前は?」

 

「大吾だ。君の名前は?」

 

「葉隠です。葉隠透!」

 

「透くんか。いい名前だ!」

 

 しばらく走って、避難所に到着する。その付近の光景を見て古瀬は驚愕する。

 

 避難所の周りが更地になっている。おそらくは戦闘によって、見渡す限り辺り一帯の建物が破壊されている。

 

「えぇ……」

 

 そんな場所に、避難所だけがぽつんと残っている。おそらく無事ではあるのだろうが、中身がどうなっているのか不安になった。

 

 数名いた見張りは一人に減っている。古瀬が声を掛けると、手を振り返してくる。

 

 二人が中に入ると、八百万が喜ぶような顔で出迎えてくる。

 

「よかった、ご無事だったんですね」

 

「百ちゃん、会いたかったよ!」

 

 完全ステルス状態の葉隠が八百万に抱き付く。突然腹部に強い衝撃を受けて、八百万は呻く。

 

「葉隠さん!? 無事だったんですね」

 

 葉隠は八百万に抱き付いた後、泣き出してしまう。後から来た芦戸と麗日が、彼女を奥へと連れて行く。

 

「何があったんですか?」

 

「分からない。商店にいる所を発見した」

 

 古瀬は八百万に連れられて、ファットガムや回原などがいる奥の部屋へと向かう。

 

「おう、あんさんも無事やったんやな」

 

「こちらは無事、というわけではなさそうだな」

 

「ダツゴクが襲ってきて大変だったぜ」

 

「その辺りも含めて、一度情報共有をいたしませんか?」

 

「葉隠くんはいいのか?」

 

「葉隠さんの話も聞きたい所ですが、今は落ち着くのを待った方がよろしいかと。彼女には後で私から伝えておきます」

 

 まずは、ファットガムが避難所の状況について話をする。

 

「あんさんは、心求党の記者会見は知っとるか?」

 

「ああ。色々と言っていたな」

 

「その時に、市民の個性使用を許可するって言っとったやろ」

 

 市民の個性使用が解禁されたことによって、その僅か数時間後に揉め事が起こり、避難所に二人の死傷者が出た。

 

 初めは些細な言い争いだったが、双方が個性を使った事で、かなりの大惨事になった。ファットガムはまとめ役と相談して、避難所内での個性の使用は禁止とした。

 

「それとかなりの数のヴィランが襲ってきやがった」

 

 ダツゴクが徒党を組んで避難所を襲撃した。撃退には成功したものの、その時の戦闘で周りの建物の多くが倒壊した。また、捕縛したヴィランは現在倉庫に閉じ込めているとのことだった。

 

「それは大丈夫なのか?」

 

「八百万が創った拘束具とセンサーで何とかしてる」

 

「逃がしてもまた襲ってくるだけやし、他に閉じ込めておける場所も無いんや。ただこのまま人数が増えると、管理しきれんで危ないんや。この前も、子供が面白半分で入って大変な事になりかけたし。どっかダツゴクとかを収容できる施設とか知らんか?」

 

「残念ながら、心当たりはない」

 

 それ以外にも、麗日が目を覚ましたこと、芦戸というヒーローが合流したこと、物資は何とかなっていること、などについて聞く。

 

「それと、国は超常解放戦線に乗っ取られた」

 

「あの心求党の党首は超常解放戦線の幹部なんだ」

 

 知ってる、と内心で思いながら古瀬は相槌を打つ。あまり信じてはいないような、半信半疑といった様子を見せる。

 

「それでは、今度はこちらの話をしても構わないだろうか?」

 

 古瀬は、超常解放戦線の拠点に、緑谷という少年が捕らえられている事について話す。

 

 

 

 超常解放戦線に参加して古瀬がまず思った事は、ヴィラン側も現在の状況を正確に把握していないという事だった。AFOの所在、各地の状況、オールマイトの動画の真偽、いくつもの情報が欠けている。

 

 となれば今は情報戦のフェイズ、より速く正確に多くの情報を得た方が有利になる。あまり派手には動けないが、今は情報収集に努めようと古瀬は考えた。

 

 超常解放戦線は、オールマイトがAFOを倒したのではないかと判断する。動画の撮影者を見つけて話を聞くが、詳しくは知らなかった。他にも目撃者はいたが、偽物も多く、その情報から真相を知るのは不可能と判断された。

 

 つまり超常解放戦線側から見ると、国の全都市を数時間で破壊するヴィランを倒せるヒーローがこの国のどこかにいる事になる。彼らからすれば怖くて仕方がない。全力で捜索するが、見つける事は今の所で来ていない。

 

 共倒れになったのではないかという意見も出るが、あまりに楽観が過ぎる意見とスケプティックは一蹴する。ヒーロー資格更新も、オールマイトを誘き出すための作戦であった。最もヒーローとしてはもう戦えないため、来ることは無いが。

 

 古瀬は気の探知で、オールマイトと根津校長が生き残った生徒の回収を行っていることを知っている。当然、その情報は伝えない。

 

 しばらくは情報を集めながら、隠蔽工作をしつつ、ドクターの研究資料を強奪、回収しつつ、個性を奪う道具の作成を行っていた。

 

 あまりの多忙さに、何回かぶん投げて避難所に遊びに行こうかと思ったが、本当に遊ぶために行くだけになるので止めておいた。

 

 十日ほど経ってようやく一段落ついたので、古瀬は緑谷を救助しに行くことにした。

 

 居場所は以前から分かっていた。しかし死柄木が不在で、まだしばらく余裕がありそうだったため後回しにしていた。

 

 変装して、バイクで緑谷が捕らわれていると思われる超常解放戦線の拠点へと向かう。先に避難所に行ってもよかったが、十日以上開いたので、何かいい知らせをお土産に用意した方がいいかなと思った。

 

 目的の拠点を今回はすぐに発見する。入り口に見張りなどはおらず、簡単に入ることができそうだった。古瀬は草むらにバイクを停めて中に入る。

 

 そこは前に見たのと似たような、異形型の拠点であった。ただし前に見つけた街のような場所ではなく、当たらに作られた基地のような場所であった。

 

 ここにいる異形型は最近集められたばかりの連中で、古瀬が堂々としていても、全く気に留める様子が無かった。

 

 気を探って緑谷の居場所を探すと、大きな牢を見つける。大きいと言っても巨大ではなく、大きな部屋程度の大きさの牢だった。

 

「少しいいだろうか。ここは何の部屋なのだろう?」

 

 入り口にいた異形型に尋ねるが、鼻を鳴らして鬱陶しそうに追い払われる。そこで次に、食事を運んでいる豚のような異形型に同じことを尋ねる。

 

「こ、ここには、恐ろしいヒーローが収監されているんだ」

 

「恐ろしいヒーロー?」

 

「こいつが解き放たれたら、俺たちは全員殺される」

 

 緑谷にという意味だろうか、AFOにという意味だろうか、と古瀬は考える。

 

「それは食事か?」

 

「ああ。毎日運べって言われてる」

 

「どこから入れるんだ?」

 

「扉の下に隙間があるだろ? ここから入れるんだ。おい、食事だぞ!」

 

 豚のような異形型は長い棒を使って、トレーを扉の下へと押し込む。

 

 扉の格子から中を覗き込むと、何重もの扉の先に部屋があるのが分かる。ただし見える部分は小さく、緑谷の姿を確認することはできなかった。

 

 その後、古瀬は他の異形型から話を聞いて、緑谷に関する情報を集める。話を聞く限り、ここに連れて来たのはAFOのようであった。

 

 緑谷の牢はコンクリートで何重にも囲まれている。その中にセンサーが埋め込まれており、それが衝撃を感知すると、別の場所にいる子供が死ぬ仕掛けのようであった。

 

 OFAがあればあの程度の牢、脱出することは簡単である。しかしそれを行わないのは、子供を人質に取られているためであった。

 

 牢の中の行動はカメラで監視されている。トイレと洗面台、ベッドはあるらしい。コンクリートの中のセンサーが感知しなくても、緑谷が牢から居なくなる、緑谷が子供に近づくなどの条件でも作動する仕掛けという事であった。

 

 子供は別々の場所に捕らえられている。世話は何人かで行われており、部屋から出すと仕掛けが作動する。鍵は簡易なもので、それさえ開けられれば入るのはさほど難しくない。

 

 情報を集めた所、子供たちを助けるためには、この爆弾を仕掛けた個性持ちを見つける必要がありそうだった。

 

 しかし今は、それが誰なのか皆目見当がつかない。日も暮れてきたため、一度帰って仕切り直すことにした。

 

 

 

 その後、知恵を借りるため、あるいは失敗した場合の責任分散のために、古瀬は避難所にいるヒーローたちに相談しに行くことにした。

 

 その途中、葉隠を見つけたため回収する。自分は傷を治した後、しばらくその基地の調査を行っていた、という事にした。

 

「というわけで、超常解放戦線に捕まっている少年を見つけたが、逃がすことができず困っている」

 

「緑谷さんもご無事だったんですね」

 

「逃げたら子供が死ぬって、なんつう仕掛けだよ」

 

「悪意のある仕掛けやな。せやけど子供のためには我慢するしかないっちゅうわけか」

 

 この場にいる人間は少し考え込む。

 

「そういった仕掛けって何とかできないのか?」

 

「流石に実物を見てみないことには……」

 

「任せとけ! 俺が行って全員助けたる!」

 

「ですがダツゴクが襲ってくることを考えると、全員で向かうことはできません。最低でも三人か四人は残すべきではないでしょうか」

 

 では誰が行くかと四人が相談を始めると、ドアが開かれて葉隠が入ってくる。

 

「話は聞かせてもらった! その救出、私に行かせて!」

 

 少し遅れて、芦戸と麗日が入ってくる。

 

「もう大丈夫なのかね?」

 

「平気だよ。放っておけないし、それに緑谷くんには、あの後何があったのか聞きたいし」

 

「あの後、というのは私たちが分かれた後の事ですか? 葉隠さん、私たちが分かれてから何があったんですか?」

 

 緑谷を追って一部が離脱し、その後、AFOや超常解放戦線に追われて彼らは散り散りになった。

 

「あの後、私は緑谷くんたちと合流して一緒に逃げてたんだよ。けど、その時に飯田くんが負傷して動けなくなって。それから障子くんが呼びに来て、他のみんなは障子くんと一緒に行ったんだけど、私は飯田くんとその場に残ったの。けどそれからすぐ超常解放戦線に襲われて、飯田くんが私を突き飛ばして逃げろって言って足止めを……。それから私は、私は……」

 

 俯く葉隠を芦戸と麗日が肩を抱く。

 

 この精神状態で連れて行って大丈夫かと、古瀬は八百万の方を見る。

 

「葉隠さん、厳しい事を言いますが、今のあなたが緑谷さんの救出に参加して力になれるとは思えません。これはチームミッションです。一人のミスが全員を危険に晒します。それでもなお、参加する意思がおありですか?」

 

 八百万としてもこのような事を言いたいわけではない。しかし誰かが突きつけねばならないと、憎まれ役を買って出る。

 

「あるよ。私はまだ、ヒーローになりたいから!」

 

 八百万は古瀬の方を見て、嘆願するような視線を向ける。

 

「大吾さん、よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく頼む、ヒーロー」

 

 古瀬は葉隠に手を差し出す。葉隠は差し出された手を、握り締める。

 

「芦戸くん、だったか。君の個性はどのようなものだろう?」

 

 古瀬は芦戸の個性、酸に関する説明を聞く。

 

「それなら協力を頼めないだろうか。秘かに逃がすのに向いているかもしれない」

 

 芦戸を連れて行きたい本当の理由は、そのコミュ力を期待しての事である。しかし今日初めて会った人間がそんな事を知っていてはおかしいため、このような理由になった。

 

「私はウラビティ、触れた物を無重力にします」

 

 麗日は作戦に参加しようとアピールする。

 

「いい個性だ。次の機会に頼らせてもらおう」

 

 麗かは軽くショックを受ける。続いて峰田が紹介を始める。

 

「オイラはもぎたてヒーロー、グレープジュース。女子に抱き付くか、抱き付かれたいから連れて行ってくれ」

 

 バイクだからそういう形になる。

 

「凄い邪念だ」

 

「そういえば私たちも自己紹介をしていませんでしたね」

 

 続いて八百万も自己紹介を行う。古瀬は、知ってる、と思いながら聞いていた。

 

 その後、古瀬、芦戸、葉隠の三人はバイクに乗って超常解放戦線の基地へと向かう。その前に八百万が三人にあるものを渡す。

 

「これをどうぞ。通信機です。近い距離なら、お互いに連絡を取れるはずです」

 

 芦戸と葉隠は耳に装着する。古瀬はヘルメットを脱いで、耳に装着する。

 

「お前それヘルメットかよ!」

 

「そんな顔だったのかよ!」

 

 グラハムに変装した顔を見て、周りは衝撃を受ける。顔そのものよりも、実は知り合いの誰かなんじゃないかと思っていた。

 

 その後、三人はバイクに乗って基地へと向かった。

 

 

 

 三人は超常解放戦線の基地へと到着する。草むらにバイクを停めて、今後の行動について確認を行う。

 

「私と芦戸くんは情報収集、葉隠くんは緑谷くんと意思疎通できないか試してくれ。それと可能であれば鍵を拝借して、子供の様子の確認も頼めるだろうか」

 

「りょーかい!」

 

「まっかせといて!」

 

 三人は中に入って、それぞれ分かれて行動する。

 

 葉隠はまず、教えられた場所へと向かい、牢の中の様子を確認する。奥にある小さな部屋は遠く、様子は分からなかった。そのため彼女は、小声で奥に呼びかける。

 

「おーい、もしもーし、聞こえてる? 聞こえてたら返事して!」

 

 七重の扉の奥、格子の付いた小窓から緑谷が顔を覗かせる。

 

「葉隠さん!?」

 

「しー、おっきい声出さないで。聞こえてない振りして」

 

 緑谷は扉に背を向けて、格子付近に耳を寄せる。

 

「どうして葉隠さんがここに?」

 

「助けに来たんだよ!」

 

「他の人もここに捕まってるの?」

 

「分からない。かっちゃんは、轟くんは、他の人は無事なの!?」

 

 緑谷は扉の方へと振り返ろうとする。

 

「こっち向かないでってば」

 

「ご、ごめん」

 

 自然体を装うように葉隠は言うが、緑谷は意識すれば意識するほど体がぎくしゃくする。こういう人間だから仕方がない、と葉隠は切り替える。

 

「緑谷くんは今の状況って分かってる?」

 

 緑谷は現状に対する考察をぶつぶつと呟く。しかしそれは外部の状況についてであり、葉隠が聞きたかった牢に関する情報ではなかった。

 

「いや、そうじゃなくて、今ここの状況。子供が人質に取られてるって聞いてるよ」

 

「そうだ、子供が、僕が逃げたらあの子たちが」

 

「だから振り向かないでってば。それについて詳しい事って分かる?」

 

 葉隠は緑谷から詳しい話を聞く。緑谷の牢の中には子供たちの様子が映っており、緑谷が指示に従わないと子供たちに電流が流れるとのことだった。

 

「なにそれ酷い! 早く助けないと!」

 

「うん、だから……」

 

「ちょっと、もう三回目だよ! まじめにやってよ! 子供の命が掛かってんだよ!」

 

 緑谷が振り返りかけて、葉隠は怒ったような様子を見せる。緑谷は少しだけばつが悪そうな顔をする。

 

 このまま話していたら超常解放戦線にバレそうだと思った葉隠は、子供の方を先に調べる事にする。聞いていた場所から鍵を拝借して、こっそりと中に入って子供の様子を調べる。

 

 子供は横になって眠っている。痩せてはいるが体調に問題はない。首に爆弾付きの枷、ベッドの下に別の爆弾があるのを確認する。古瀬の話ではこれに加えてもう一つ、個性で付与された体内の爆弾があるとの事であった。

 

 子供は全員で七人、バイクでは一度に運ぶことはできない。救出にはファットガムか八百万の協力が必要になる。

 

 首輪の解除方法は古瀬がすでに調べている。残りは体内の爆弾、そしてどのようにして救出するかであった。

 

 葉隠は牢に戻って、緑谷に呼びかける。

 

「聞こえてる? 緑谷くんも子供たちも、私たちが必ず助けるから、今は体力を温存しておいて。緑谷くんが何かしようとすると爆発する仕掛けになってるから、私たちの合図を待って」

 

 緑谷の行動は、OFAの歴代継承者たちの間で賛否が分かれていた。

 

 子供を救けたいという意志自体は素晴らしいものだ。しかしその行動は結局、AFOを利するものでしかない。OFAを奪われるリスクを高めている。今も敵に時間を与えている。子供を救けるよりも、脱出することを優先するべきだ。

 

 AFOの脅威を知っている継承者ほど、子供を見捨ててでも脱出することを提言するが、緑谷は首を縦に振らなかった。

 

 

 

 一方で、古瀬は体内に仕掛けられた爆弾に関する情報を入手する。仕掛けたのは白髪、中年の男性、AFOのようであった。

 

 という事は、AFOは既に死亡しているため消えている可能性が高い。ただ問題は、この情報をどのようにして伝えるかであった。

 

 芦戸と合流して、何か情報は得られたか尋ねる。

 

「爆弾を仕掛けたのは、白髪で中年のヴィランらしいですよ」

 

 それが蛇腔病院と群訝山荘に現れたヴィランであることに芦戸は気付いている。集まったヒーローチームを単独で圧倒し、全ての都市を破壊した超強くて凶悪なヴィラン。それが既に死亡している事をどう伝えるべきか、古瀬は困った。

 

「そのヴィランは既に亡くなっている可能性がある。となればすぐに、彼らを救助することが可能かもしれないな」

 

「そうなんですか!? じゃあ、すぐに助けに行きましょう!」

 

 古瀬は手で芦戸の口を塞ぐ。

 

「落ち着きたまえ。声が大きい。あくまで可能性といっただろう。いやしかし、そうだな。助けに行くか」

 

 色々と死亡した証拠とか理由とかを考えていたが、芦戸がその辺りを深く気にしないのであれば、さっさと助けていいかと古瀬は思った。

 

「まずは葉隠くんを探さなくては」

 

「ステルス中は通信機も外してるからなあ」

 

 しばらく探していると、葉隠を発見する。三人は外に出て、一旦避難所へと戻る。

 

 

 

 三人は集めた情報を避難所のメンバーと共有する。それらを基に、彼らは救出作戦を計画する。

 

「理想を言えば、基地の人間に知られることなく救出したいな」

 

「そのために問題はなんは、監視カメラと食事やな。監視カメラは管理室を押さえたら何とかなるけど、一日三食しっかり配膳しとるから、その時にどうしても発覚してまう。やるなら食事後やな。ただどうやって見つからずに八人を外まで連れだすかが問題やな」

 

 ファットガムが行ければいいが、知名度も戦力的にも一番強いため、避難所から離れるのは難しかった。

 

「それなら私にお任せください。変装用の道具をお創りいたします」

 

「運ぶために車が必要だな。近くから調達しよう」

 

 八百万は車を作れるが、現状彼女の負担はかなり大きい。そのためできるだけ負担を軽減するべきかと古瀬は思った。

 

「お気遣いなく。車も私がお創りいたします」

 

「あまり無理をするな。ずっと個性を使っているのだろう」

 

 避難所に必要なもの全てを作っているわけではないが、足りないものは八百万が補っている。

 

「いえ、やはり私が創ります。車を創っておけば、今後も役に立つはずですから」

 

 自分に何かあって創れないかもしれない。その時の移動手段として、八百万は創っておきたかった。

 

「ちなみに車の運転をするのに免許は必要だろうか?」

 

「あんさんは?」

 

「持っていない。この非常時だ。多少は仕方があるまい。ただ、君たちがそれを許容できるのかどうか聞いておきたい」

 

 法律違反だけど大丈夫? この雁字搦めの社会に生きる人間として、ヒーロー的にも許容できる? 

 

「でも助けるのに必要な事なんだろ?」

 

「アカン。緊急事態やいう理由で法律破ってええんやったら、ヒーローは法をいつでも破ってええいう事になる。今回の事の責任は俺が負ったるわ」

 

「いえ、そういうわけには」

 

「誰かが責任を負わなあかん。君らは俺の指示でやった、ええな?」

 

 完全に納得したわけではないが、彼らは頷く。

 

「それでは救出に行くメンバーだが、私と芦戸くん、葉隠くん、それと八百万くん、頼めるだろうか?」

 

「女ばっかじゃねえか!」

 

「私たち三人は内部の構造を知っている。それとあと一人、運転手が必要と考えると彼女になっただけだ」

 

 ファットガムは不明だが、それ以外だと車を運転できるのは八百万くらい。法律を気にしなくていいなら、古瀬も運転するだけなら可能である。

 

 三人はそれを了承する。

 

「私が管理室の制圧、芦戸くんが爆弾の解除、葉隠くんが外までの手引き、八百万くんは車内での待機を頼む」

 

 四人は車とバイクで超常解放戦線の基地へと向かう。夕方に到着し、車内で待機して深夜になるのを待つ。

 

 古瀬は見回りをしてくると言って、車から離れる。

 

「ドラえもん、聞こえているか?」

 

『どうかした?』

 

「葉隠が聞いた話だと、緑谷は個性を失っていないらしい」

 

『そうらしいね』

 

「それならもう後は、あいつに任せてもいいんじゃないか?」

 

『それも一つの手かもね。君が彼を信じられるならそうしたらいいんじゃないかな』

 

 古瀬は忌々しそうに表情を歪める。

 

「だが、あいつが個性を失っていないなら、あの道具を作る必要はないんじゃないか?」

 

『これからの方針は決めた? もし彼が全ての敵を倒すなら、僕たちの身も危ないよ』

 

「その時は、様子を見ながらどこかでオールマイトに合流するかな」

 

『中途半端な対応だなあ、もう』

 

「先行きが分からなからな。緑谷を助けた後は、しばらくは様子見するか」

 

 古瀬は通信を切って、車へと戻る。緑谷を救出することにした。

 

 三人は入り口の鍵を酸で溶かして基地に侵入する。古瀬は管理室にいた人間を気絶させて制圧する。他二人は捕らわれている子供たちを救出していった。

 

『子供たちは全員回収しました』

 

「分かった。こちらも戻る」

 

 子供は全員を救出し、残るは緑谷のみとなった。古瀬が警報を切って、芦戸が牢の壁を溶かして担ぎ上げる。

 

 緑谷はすぐに起きるが、芦戸に静かにするように言われて口を閉じる。その後、車へと運ばれて、彼らは出発する。

 

「なんか、驚くくらい上手くいったね」

 

「分かる。何回か危なかったけど」

 

「二人共、まだ作戦は終わっていませんよ」

 

『子供たちはそちらに任せてもいいだろうか?』

 

「構いませんが、どちらへ?」

 

『他の場所に行ってくる』

 

 そう言って古瀬は、バイクを停止させる。車を見送った後、別の方向へと走っていった。

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