全面決戦の日、緑谷はAFOの注意を自分へと向けるために戦いを挑んだ。その結果、危うく捕らえられかけるも、他生徒の尽力によって辛くも逃れた。
その後、彼らはAFOに追撃されながら逃走を続ける。何人かと逸れるが、それとは別の生徒と再び合流する。
背後にはAFO、前には超常解放戦線の人間が立ちはだかる。彼らは包囲を突破するために、超常解放戦線の構成員へと攻撃する。
「レシプロターボ!!」
「おぉ、速いねぇ。でも速いってことは、それだけぶつかった時の衝撃も強いってことなんだぜ?」
構成員の一人が、前面にナットやネジをばら撒いて空間に固定する。飯田は目の前に現れたそれらにぶつかり、コスチュームが砕け、肉が抉れる。
「飯田くん!!」
彼らは飯田を回収して、包囲を突破する。何とか、一時的に追っ手を振り切ることに成功する。
空き家の前に集まって、飯田の具合を確認する。いくつもの金属が体へと突き刺さり、かなりひどい状態であった。
その場に居るのは、青山、蛙吹、飯田、尾白、切島、口田、砂藤、瀬呂、轟、葉隠、爆豪、緑谷であった。
そんな彼らの所に、障子が現れる。息を切らしながら、口元の布は外れており、体にはいくつもの傷があった。
「助けが……助けが必要なんだ。緑谷、来てくれないか……」
「障子くん?」
障子はそれだけ言うと、背中を向けて走り出す。
「待って、障子くん!」
「助けが必要なら、俺も行くぜ!」
「待って、飯田ちゃんはどうするの? 無理に動かすのはよくないし、ここに置いていくのも危険よ」
「それなら私が戻るまで見てるよ」
葉隠がそう名乗りを上げる。障子の姿は遠ざかっており、早く追わねば見失いそうだった。
「よし、それじゃあ行こう、みんな」
「命令すんじゃねぇ!」
「ご、ごめん。かっちゃん」
「先行くぞ」
轟が障子の後を追っていく。彼らはバラバラに、飯田と葉隠以外の全員が後を追う。
山の中腹にある、小屋の前で障子は足を止める。追って来た生徒たちもその場に到着する。
「ここに助けが必要な人がいるの?」
「ああ、そうだ」
障子は段差を上って、小屋のドアノブに手を掛ける。
「緑谷、すまない……」
ドアを開けると、中に居たのは……
時は少し遡り、障子はAFOに捕縛されて、小屋の前へと連れてこられる。そこにはAFOの他に、荼毘とスピナーもいる。
AFOは上から障子を見下ろす。
「やあ、障子くんだったかな? 実は君に頼みたいことがある。緑谷出久をここに連れてきてほしいんだ」
「緑谷だと?」
「そう、彼は僕が欲しいものを持っていてね、それを手に入れる協力をして欲しいんだ」
「断る!」
「なるほど、なるほど。君はこの場の戦力差を理解しているのかな?」
「どれだけ力に差があろうと、俺がお前たちに屈する事など無い!」
睨みつける障子に対して、AFOはどこか楽しそうであった。荼毘は呆れるようにつまらなそうな表情をしている。
障子はAFOに対してオクトブローを打ち込むが、決着はすぐについた。ボロボロになって障子は地面に倒れ伏す。
「もう一度お願いしようか。緑谷出久をこの場に連れてきてくれないかな?」
「断る! 俺が、仲間を売ることなど無い!」
障子は血を零しながらも、なんとか立ち上がる。AFOはその光景を満足そうに見ている。
「君が死ぬことになってもかい?」
「くどい!」
障子は大技、オクトスパンションを放つが、AFOに簡単に吹き飛ばされて地面に倒れ伏す。意識はあるが、動く事すらやっとといった状態であった。マスクが外れて、口元の傷が露わになる。
「君は異形型であることを理由に、村の人間から迫害されていたそうだね。どうだろう。彼らに復讐したくはないかね? 僕に協力すれば、彼らに復讐する機会を与えようじゃないか」
「俺は、復讐者じゃない! 嫌なことは山ほどあったし、忘れることは無い。だがそれよりも、この姿でよかった思い出に縋りたい! 俺の望みは、世界一カッコいいヒーローになって、次に、いい思い出を紡ぐことだ!」
AFOは満足そうに頷く。
「君は川で少女を助けたそうだね」
障子の表情が固まる。なぜ知っているのか。調べられたのか、記憶を読んだのか。実際はそのどちらでもない。聞いたのである。
AFOは連れて来るようにスピナーに指示する。スピナーは物陰から、異形型の少女を連れてくる。怯えた様子で障子の方を見ている。
「彼女にはこの小屋の中に入ってもらう。誰がいると思う? 特別に来てもらったんだ。君の村の皆さんだよ」
荼毘が小屋のドアを開ける。中には障子が暮らしていた村の住人がいた。その光景を見て彼は愕然とする。
AFOは障子の体を測定する。そして、障子の複製を作り出す。
「知っているかもしれないが、複製はある程度のダメージを受けると消滅する。今の君の複製じゃあ、そう長くは持たないだろうね」
異形型の少女が小屋の中へと入れられる。小屋の中にいる村人は、手に様々な道具を持っている。
「止めろ!」
「好きにするといい。どうするかは、君の自由だ」
複製と二人で暴れてたとしても、少女と共に、AFOと荼毘とスピナーに殺されるだけでしかない。少女を連れて逃げるのはどうかと障子は考える。
「緑谷出久が来れば、その子を小屋から出してあげよう」
障子の体はボロボロ、もはや戦う事は困難だった。もはや自分の力だけでは、少女を助けることはできない。
無論ヒーローらしく、最後まで戦う事もできる。しかしそれはただの自己満足であり、その後に残るのは二人の遺体だけでしかない。
おそらく次は無い。抗えば、今度こそ殺される。どうしようもない状況に直面して、障子は、緑谷を呼ぶことを決断する。
「緑谷を呼んできてくれ」
障子は自身の複製に頼む。そして自分は、小屋の中へと入った。
「誰かを傷つけるという理由では動けないのに、誰かを守るという理由なら動けるんだ。どちらも同じ行動でしかないのにねえ。ヒーローは守るものが多くて大変だ」
「悪趣味だな」
スピナーはそう吐き捨てる。スピナーもまた、異形型の差別が根強い田舎出身である。AFOのやり方は不快だったし、どちらかといえば障子の方に共感した。
しばらくして、緑谷が小屋へとやって来る。彼らは小屋の裏手に隠れて待った。
小屋の中には、庇うように異形型の少女に覆い被さる、背中に無数の刃物を突き刺された障子の姿があった。
「もう……大丈夫だ……」
少女を小屋の外へと押し出す。少女は振り返ろうとするが、障子は後ろを見ないように、少女の顔を掴んで前へと向ける。
「緑谷、この子を頼む」
そう言った直後に、障子は絶命する。体が崩れ落ちて、床に倒れる。
「障子くん!」
「障子!」
拍手をしながら、AFOが小屋の裏から登場する。
「ありがとう、障子くん。君のおかげで、僕は欲しいものを手に入れられる」
「AFO!」
緑谷はAFOに対して激高する。
同じように出てきたスピナーは、障子の頭を掴み上げる。
「誇れタコ野郎! お前はあのガキを守ったぞ!」
それから荼毘は焼き尽くそうと、まだ村の人が残っている小屋の中に手を向ける。
「そんじゃあ、ゴミは処分するか」
「お待ちください! 私たちはあなた方の指示通りに……」
「んー、君たちは別にいらないかな?」
「よせ!」
荼毘によって小屋が焼かれる。無数の絶叫と呻きが小屋の中から響く。
「消火を……」
周りに潜んでいた無数のAFOが現れて、その数を増やす。彼らは完全に囲まれ、なすすべなく蹂躙されていく。
「AFO!」
緑谷はOFAの力を引き出してAFOと戦う。いくつもの分身を倒すが、圧倒的な数によって押し潰される。
それでもなお劣勢を覆そうとOFAの力を引き出して、緑谷は体に多大な負担を掛ける。数百のAFOの攻撃と、OFAの反動によって、緑谷は満身創痍になる。
地面に叩きつけられて、AFOに頭を掴み上げられる。
「ふむ、やはり奪えないか」
爆豪が高速で突撃して、緑谷を奪還する。しかし全方位からの攻撃を浴びて、二人は地面へと落下する。
その場にいる、青山と尾白以外の全員の個性が奪われる。尾白が奪われなかったのは、別にいらないかなと思われたためである。
一方で、葉隠と飯田の方にも追っ手が放たれる。見えるだけで数十人はいる超常解放戦線の構成員が、二人へと襲い掛かる。
「ど、どうしよう……」
「逃げろ」
葉隠は飯田に突き飛ばされて、坂の下へと転がり落ちる。
「君は逃げろ!」
飯田は超常解放戦線の人間に組み付いて足止めを行う。負傷した状態では、大した足止めにもならない。加えて、足止めできるのはたった一人だけである。
葉隠はその場に留まって、様子を見つつ飯田を救出しようとするが、上で飯田が絶命する姿を目撃する。そして、もうどうしようもないと思い、その場から逃げ出した。
しかし時間が経ってから、自分が見た物に自信が持てなくなる。本当に飯田は死んでいたのか、自分の勘違いだったのではないかと、そんな希望を抱いた。
緑谷はその後、超常解放戦線の基地の一つへと連れて行かれる。分厚く小さい部屋へと入れられる。
OFAの継承者たちの話し合いによって、緑谷が目を覚ますまでにかなりの時間が掛かった。
目を覚ました緑谷は、すぐに脱出しようとするが止められる。もし牢を破った場合、一つにつき一人の人間が死ぬと伝えられる。
「誰が死ぬかって? こいつらだ!」
七人の子供の映像が投影される。その内の一人は、障子が助けた子供だった。
緑谷が助けようと、OFAを使おうとすると子供たちに電流が流れる。
「やめろ!」
「やめて欲しいなら大人しくしていな。死んだら補充するだけだ。手加減なんてすると思うなよ?」
継承者たちはすぐに脱出することを提案するが、緑谷はそれを選択しなかった。なんとか子供たちを助けられないかと手を尽くすが、その度に子供たちに電流が流れる。
『もう余計な事をしないでくれ!』
「ごめん。でも僕は君たちを助けたくて」
『だったら大人しくしてろよ。ちくしょう!』
「ごめん」
その後、古瀬、芦戸、葉隠、八百万の四名によって彼らは救出される。緑谷は肉体への負担と傷の深さから、すぐに動くことはできなかった。
リカバリーガールはおらず、傷を短期間で治すことはできない。仮にいたとしても、完全には治すことができないレベルの負荷がかかっていた。
幸い、仙豆によって十月以前の傷は全て修復されていたため、二度と腕を動かせないといった事にはならなかった。
話せるようになった数日後に、緑谷は障子や他の生徒の事をファットガムや他の生徒に伝える。何人かはその話を聞いて涙を流す。
「僕の力が足りなかったから。僕がもっと頑張っていれば、障子くんを助けられたのに。みんなだって、守らなくちゃいけなかったのに」
緑谷は苦しそうに呻いて目元を歪める。
「緑谷のせいじゃないよ」
「そうだ! 悪いのはあの白髪のヴィランだろ!」
A組とあまり絡みの無い回原は、後ろの方で芦戸と峰田の励ましを見ている。
そんな緑谷の所へと、捕らわれていた子供たちがやって来る。
「あの、あの時はひどい事を言って、ごめんなさい」
余計な事をするな、そう言った子供が緑谷に謝る。
「緑谷くんがこの子たちを守ってたんだって言ったら、謝りたいって」
逃げようと思えば逃げられた。しかしそれを行わなかったのは、子供たちを助けるためだった。
「僕の方こそ、助けられなくてごめん」
緑谷は子供たちの手を握りしめる。それから彼は、動けない間、よく子供たちと話した。
その後、国の救援が来る少し前に、緑谷はある程度なら動けるようになる。避難所の人の手助けができて、彼は充実した日々を過ごす。
記者会見からおよそ一カ月後、四月末に避難所に国の救援がやって来た。