国の救援が来る少し前、今後の事についてファットガム、八百万、骨抜は話し合う。
この場に古瀬はいない。彼は三日か四日に一度様子を見に来る程度で、常にいるわけではない。
「そろそろここにも国の救援が来るそうや。俺らもそろそろどうするか決めなあかんな」
「国の救援に合流するってのは?」
「ですが国は超常解放戦線に乗っ取られています。作戦に参加してた私たちの扱いがどのようなものになるか」
「合流した瞬間、即捕縛って事もあるかもなぁ。天喰先輩の様子はどうなんですか?」
「精神的には少し立ち直ったけど、今後ヒーローとしてやっていくんは無理やろうな」
その場が少し暗い雰囲気になる。
「まずは、国の救援に合流するかせんかを決めなあかんな」
「フォットガムの意見は?」
「どうなんやろうな。来る奴は真面目に救援活動するんやろうか?」
「大吾さんの話では、来るのは超常解放戦線とは関係の無い軍関係の方たちだそうなので、その辺りは心配無いそうです」
ファットガムは少し考え込む。
「正直、あの大吾ってやつ信用して大丈夫なんやろうか。少し探りを入れてみたけど、過去の経歴は怪しい所がかなり多いで」
前は色んな街を旅していた設定なのに、街に関する情報が乏しかったりする。
「ですが大吾さんがいなければ、私たちはあの場所で殺されていました。私は信用できる方だと思います」
「俺もそういった意味で疑っとるわけやないで? ただ信用するにはあまりに嘘が多い気がするんや。信じすぎんほうがええと思う」
ヴィランだと疑っているわけではないが、かといって信じ切れるわけでもない。ファットガムとしてはかなり怪しみ疑っていた。
「まあそれで、結局どうするんです? 俺としては国に合流するのも一つの手だと思いますけど」
「俺は残ってもええ。でも君らは学校に帰り。これまではここの人たちには君らの力が必要やったけど、これからはそうやない。危なくなる前に、ここを離れた方がええ」
「ファットガムだけ置いて帰るってわけにはなあ?」
「俺は大丈夫や。流石にいきなり殺されるってことは無いやろう。それより君らは学校に戻って、今後の事を相談した方がええ。雄英高校もこれまで通りとはいかんやろうし、身の振り方について考えた方がええ」
国の命令で廃校になるかもしれない。ヒーローという職業すら、今後どうなるか分からない。では国の意向に逆らえるかといえば、そんな力は無い。それを理解しているからこそ、八百万と骨抜は何も言えなかった。
他の生徒たちの元に戻ると、芦戸たちが話をしていた。
「学校に戻ったら補習かなあ」
「一月ここに居たからね」
「無断で一月近く休んでた奴もいるし大丈夫でしょ。あ、八百万! 学校に戻ったら、また勉強教えてくれない?」
「ええ、私でよければ喜んで」
八百万は不安を覆い隠すように、笑顔を創ってそう答えた。
一方で、緑谷と麗日は荷物を運んでいた。緑谷はまだ体が完治していないため軽い物を運んでいる。荷物を下ろした所で、麗日は緑谷に尋ねる。
「ねえデクくん、ヒーローが人知れず人を殺してたって本当なんかな?」
公安委員会がヒーローたちに暗殺の指示を出していた。この避難所では、そんな話は出鱈目だという意見の方が多かった。
しかし麗日はその実例について一つ心当たりがあった。トガヒミコが、仁くんがホークスに殺されたと言っていた。
その言葉をそのまま信じているわけではない。しかし、トガの表情から、事実なのではないかと心のどこかで思っていた。
「そういった陰謀めいた話はいくつもあるよ。界隈じゃ割と有名な話だよ。ヒーローの不審死とか事故死と、実はヴィランと癒着していたんじゃないかって噂とか。でもこれまではあくまで噂で、陰謀論の域を出ていなかったけど、超常解放戦線がまさかこのネタを拾ってくるなんて。眉唾物の話が多くて僕は正直信じていないんだけど、中には真実味のある話もあって面白いんだ。でも正直、レディ・ナガンの告白は衝撃的だったね。暗殺は事実だったと証言するなんて」
緑谷の怒涛の呟きに、いつものやつだと麗日は笑みを浮かべる。
レディ・ナガンはよく分からないまま取材を受け、過去に自分が行った暗殺について話した。
リ・デストロは公安の被害者としてナガンを扱い、彼女の罪は公安に帰すべきだとして、旧公安委員長の殺害以外を無罪として釈放した。
この一件によって、公安の暗殺は事実であったとして世間に認識されるようになった。
「ヒーローが殺した人は、私たちじゃ助けられないのかな?」
緑谷は麗日の手を掴む。
「救けるよ。ヒーローが取り溢してしまった人も、必ず!」
緑谷は慌てて麗日の手を放す。
「あ、ご、ごめん」
「そうだね。デクくんは、かっこいいね」
麗日はその真っ直ぐな救けるという想いに憧れを抱いた。
外に出ると、回原がやって来て、もうすぐ電話とネット回線が復旧するらしいという話をする。
「それなら外の様子も分かるかも」
「雄英にも連絡できる」
彼らはその話を聞いて希望を抱く。各地の状況が不明、雄英とも連絡が取れない、そんな状況下で一月も避難所生活を続けていて、彼らも不安だった。
その翌日に、古瀬がやって来る。救援が来る前に雄英に戻ると聞いて首を傾げる。
「雄英に行くのか。何のために?」
話を聞いて、彼らは雄英が既に無い事を知らないのだと古瀬は気付いた。まあ行けば分かることだし、実際に自分の目で確かめてもらうかと思った。
死柄木は目を覚まし、自分が入った容器を破壊する。培養液が床に広がり、彼は割れたガラス片の上に着地する。
その場にいた超常解放戦線の人間は、その光景に驚いて身を強張らせる。彼らがヒーローではない事は死柄木にも分かった。
「怯える必要はない。僕は、魔王だ。今の状況を教えてくれないかな?」
知らせを聞いた外典がやって来る。
「お目覚めですか、最高指導者」
「君は確か……」
「外典です。リ・デストロがお待ちです」
死柄木は着替えて、首都へと向かう。そこには幹部が揃って待っていた。
「遅いです」
「やっとお目覚めか」
「まあそう言わないの。その分、沢山遊べたでしょうが」
死柄木は中央の椅子に座る。その場の人間は、ほとんどが明後日の方向を向いている。
「詳しい状況は道中に聞いたよ。どうやら既にこの国を掌握しているようだね」
「お前、死柄木なのか?」
「もちろん。僕は死柄木弔であり、AFOでもある」
スピナーの問いに、死柄木はそう答える。実際はほぼAFOであり、OFAを奪うために死柄木の憎しみが必要なため、まだ彼は残っている状態である。
「さて、どうしたものか」
魔王の器が完成した以上、後はOFAを手に入れれば死柄木の目的は達成される。彼の考えでは、脅威となるのはOFAと新秩序の結託のみであった。
しかし現状、死柄木はほとんど個性を持っていない。後で譲渡するつもりで、多くはAFOが持っていた。
「AFOが倒されたというのは事実なのかい?」
「真偽は不明ですが、ここまで出てこないという事は、その可能性が高いかと」
倒したのはオールマイトと聞いて死柄木は驚く。よもやそのような力が残っていようとは、全く予想だにしていなかった。
「あのウドにそんな力が残っていたとは。オールマイトの居場所は?」
オールマイトは殆ど戦えない、はずである。しかしそれを確認していない以上、死柄木としては念のために潰しておきたかった。
「現在捜索中です。引き続き捜索いたしましょうか?」
「いや、いい。もはや奴に陸な力など残っていないだろう。それよりも、OFAの継承者、緑谷出久を探してくれ」
次に死柄木は、自身の傘下に加わりたいという人間たちに会う。
「どうも初めまして。僕ドラえもんです」
「君は超常解放戦線に加わりたいそうだね。望みは何かな?」
「もちろんお金です。金こそこの世の全て。お金が欲しくて僕はここに来ました。金の切れ目が縁の切れ目。もはや衰退しつつあるヒーローに興味はありません。欲しい物はご用意しましょう。もちろん、相応のお金を頂けるならの話ですが」
「それは頼もしい。所でモリアーティー君は元気かね?」
「さあ、何の事やら?」
「ふっ、そういう事にしておこう」
二人は互いに笑い合う。こうして彼らの謁見は終わった。
避難所に国の救援がやって来る。それを見て、ヒーローたちは慌ただしく車に集まる。
「あんたたちの事は、連中には絶対に言わねえ」
「元気でね。良かったらこれ食べて」
「お姉ちゃんたち行っちゃうの?」
「大丈夫、これからは国の人が来てくれるから」
避難所の人との別れを済ませて、彼らは車に乗り込む。そしてファットガム以外のメンバーは、雄英高校へと出発する。
ある程度進むと、街が見えてくる。海岸沿いの復興は早く、先程までいた避難所の周囲が荒野だったのに対して、かなり街並みが元に戻っている。
未だ再建途中ではあるし、比較的最近破壊された建物もある。しかしそれでも彼らから見れば、かなり復興しているように見えた。
上に目をやると、青い機械がビルの再建を行っている。
「あれって、タチコマ?」
よく見ると街には何台ものタチコマがいる。多くは街の再建を行っているが、それ以外の作業に従事している機体もいる。
「タチコマ?」
「かわいー!」
「タチコマって確か、古瀬が作ったロボットだろ? 何でこんな所にいるんだ? それもこんなにたくさん」
麗日は道を走っているタチコマを呼び止める。呼ばれたタチコマは車の横へと来る。
「こんにちはー。麗日ちゃん、どうかした?」
「タチコマはここで何してるの?」
入力されているのは麗日だけではなく、雄英高校全員の情報が入っている。
「建物の再建だよ。この辺り一帯全部壊れてたからね」
「古瀬さんもこの場にいらっしゃるのでしょうか?」
「社長は居ないよ。今頃は超常解放戦線の基地にでもいるんじゃないかな?」
その発言に彼らは驚く。
「どういう意味だよ」
「あれ、知らない? スケアクロウ社は超常解放戦線に降伏したんだよ」
「古瀬も超常解放戦線に降伏したのか?」
「そうだよ。どこにいるかは知らないけどね」
麗日はその情報を聞いて強い衝撃を受ける。事実であるとするならば、古瀬が敵に回ったことになる。
「麗日さん……」
「ん、大丈夫。タチコマは私たちの事を捕まえたり、報告したりするん?」
「特にそういった命令は受けてないよ。この先、命令を受けたらやる事になるかもね」
タチコマは手を振りながら、軽い口調でそう言う。
「井梨くんから、何か伝言とかはある?」
「特にないよ。伝言があるなら預かっておこうか?」
「ううん、いい」
行こっか、と麗日は運転席の八百万に呼びかける。少し心配そうな顔で、もういいのかと尋ねるが、彼女の答えは変わらなかった。
「お気をつけてー」
タチコマは手を振って車を見送る。それから自分の作業へと戻っていった。
車内に微妙な空気が流れる。芦戸が元気付けるために、トランプでもやらないかと提案する。
周りの心配とは裏腹に、麗日は古瀬の事をあまり心配はしていなかった。簡単にそんな事をする人ではないし、仮に裏切ったとしても、意味もなく行うとは思わなかった。
それはそれとして、もしかしたらという一抹の不安はあった。周りには特に何ともなさそうな、平気そうに装った。
途中、運転席の窓がノックされる。外を見ると、古瀬がバイクに乗って横に並んでいる。
「雄英に行くなら、同行してもいいだろうか?」
「もちろん構いません」
八百万の同意を得て、古瀬は同行する。八百万はこの時、自分たちを無事送り届けるために同行するのだろうと思った。
彼らは雄英高校に到着する。そこは更地となっており、周りが復興される中、今もなお、瓦礫の撤去すらされていない。
その光景を見て、彼らは愕然とする。近隣の人の話から、白髪のヴィランによって破壊された事を知る。
「まったく、プロヒーローの集まりだっていうのに、俺たちの身なんて全く守っちゃくれない」
そう不満を零しながら住人は歩いて行く。彼らはそんな言い方はどうなんだと思いつつも、何も言い返せなかった。
彼らは瓦礫の上に座る。目的地へと到着したが、これからの目的を見失う。
「オイラたち、これからどうなるんだ?」
「先生たち、どうなったのかな?」
「ここで待ってれば、きっと先生たちが戻ってくるよ!」
「現実を見ましょう。雄英が襲われたのは一月以上前です。その間に誰も戻って来ておらず、瓦礫の撤去すらされていないという事は、おそらく」
その場に重い沈黙が流れる。葉隠が古瀬へと尋ねる。
「大吾さんは知ってたの?」
「知っていた」
「先生は、他の生徒たちはどうなったの!?」
「おそらくオールマイトは生きている。しかしそれ以外は、不明だ」
古瀬は首を横に振る。周りの表情はかなり暗い。
「これからどうする?」
「まぁ、こうなっちまった以上、このままここに居続けても仕方がないだろ。俺は、一度実家に戻るわ」
「このまま放って行くって事!?」
雄英が無くなってしまった以上、自分たちはもはや学生でも、インターン生でもない。あるのはヒーローの仮免のみ。それもあと一ヶ月で失効する。
もはや周りを助けるどころではなく、自分たちのこれからを考えなければならない。それが必要なのは分かるが、感情としては納得しにくかった。
「ヒーローになるなら、他の学校への転入が必要だ。仮免のままじゃ、ダメだろ」
「でも、そりゃそうだけどよお」
「ねえ、待ってよ。まだ雄英が終わったって決まったわけじゃないよ。もしかしたら先生が、再建をしようとしてる所かもしれないし」
葉隠の言葉に、骨抜は静かに首を横に振る。
「どっちにしろ、その間どうするか考えなきゃならねえ」
「おい、本当に戻るのかよ。だってまだ、誰か戻ってくるかもしれないだろ!?」
「峰田くん……」
「周りの様子を見ただろ。もうかなりの場所が復興してる。それなのに、ここだけが、このままだ」
もう過去の場所でしかない。復興する街並みに対して、この場所は朽ち続けている。
「俺は、一度家に戻る。どの道、ヒーローはもう目指せない」
天喰はフードを深く被ってそう言う。回原もそれに同意する。
「そうだな。このままここに居ても仕方ねぇし、俺も一回家に戻るわ」
「私も一度、実家に戻ります。それからまた、ここに来ようかと思います」
「じゃあ私も家に戻ろうかな。それでこれからどうするかを考える」
八百万と葉隠も同調する。緑谷は、麗日に尋ねる。
「麗日さんは?」
「私は、私も家に戻ろうかな。出戻りだね。デクくんは?」
「僕は、家はこの辺りだからすぐに戻れるんだけど。家で落ち着いて考えるよ」
そうなんだ、と言って皆の方に向こうとする麗日の手を緑谷は掴む。麗日はそれに驚く。
「ご、ごめん。でも麗日さんが、救けてほしそうな顔してたから」
「何言っとるんだね君は」
麗日は笑いながら緑谷の背中を叩く。そんな様子を芦戸が揶揄う。
「おっ、浮気か?」
「そんなんやないから」
ちなみに古瀬はこの光景を、まあこんな感じだろうな、と思って見ていた。主人公とヒロインだし、くっついた所で不思議は無い。その時は、悲しみはするが、まあこういう事もあるかな、と思って切り替えるだけである。
「ねえ、みんなまた会えるよね?」
芦戸がその場の人間に向かって言う。もし他の学校に行ったら、もう会うことは無いかもしれない。会うのはこれが最後かもしれない。
「当たり前だろ! ヒーローやってりゃまたそのうち会えるって!」
「まぁ、死ぬわけじゃないしな」
「駄目な時は、またみんなで集まればいいんだよ!」
「うん、そうだよね。その時は私のブレイクダンス見せてやる!」
周り全員が決めたことで、峰田も一度家に戻ることを決める。
「話は纏まったようだな。家に戻るならこれを使ってくれ」
古瀬は五十万が入った封筒を八百万に渡す。それを見て周りは少なからず驚く。
「よろしいのですか?」
「今の君たちには必要だろう。それと連絡先を渡しておくから、何かあったら呼んでくれ」
古瀬は全員と、連絡先を交換する。もうすぐ電話とネットが使えるようになることを彼らに教える。
実家は、天喰と芦戸が千葉、回原と葉隠が東京、骨抜と峰田が神奈川、緑谷が静岡、八百万が愛知、麗日が三重である。
「それじゃあね」
「一緒の方向だな」
「ちくしょう、男とかよ」
「麗日さん、途中まで送って行きましょう」
「百ちゃん、ありがとう!」
それから各自分かれて、彼らは実家へと戻った。
麗日は八百万に愛知まで乗せてもらった後、使える交通機関を乗り継いで実家へと戻る。彼女の実家は建設会社で、両親が暮らしている。
ヒーローになれなかったことを申し訳なく思う一方で、こんな形とはいえ、麗日は両親と会えることに喜んでいた。
家に戻ると、麗日の実家は半壊していた。建物の前部分が崩れており、中に人の気配は無い。それが起きたのは、かなり前であることが分かる。
麗日がそれを見て固まっていると、回線が復旧して、携帯に電話が掛かってくる。
『こちらヒーロー公安委員会の者です。あなたの両親の身柄はこちらで預かっています。無事に返してほしければ、緑谷出久を我々が指定する座標まで誘き出してください』
「なんで、なんで公安委員会がっ!」
公安委員会の発言を聞いて、麗日はひどく狼狽する。
『ご両親が無事に生きて戻れるかは、あなたの行動次第です。余計な事は考えず、我々の指示に従う事をお勧めします』
通話が切れる。顔を上げると目の前には、倒壊した建物が残っていた。