七月、超常解放戦線の施設で、古瀬と砂藤とトガは話をしている。
OFAを手に入れて日本もほぼ掌握した死柄木は、世界を手に入れるべく、アメリカへの侵攻を決定した。その準備に、全員慌ただしく動いている。
トガも侵攻軍に加わることが決定している。装備の新調に会議への参加など、それなりに忙しい。廊下では人が慌ただしく行き来している。
「こいつをどうぞ。前に言ってたザクロのケーキ。向こうに行っても元気でな」
「力道くん、ありがとうございます」
砂藤はトガにケーキを渡す。トガはそれを受け取って喜ぶ。
「古瀬は何かないのか?」
「えっ、何か渡そうか。何かあるかな?」
古瀬は携帯端末を操作して、リストから何かないか探す。その中に、トガが気に入りそうな血液を見つける。
「じゃあこれをあげるよ。いるかどうかは知らないけど。ステインの血と、蛙吹さんの血液」
トガはそれを受け取り、飛び上がって喜ぶ。
「ステさまの血! ありがとう、井梨くん」
「ステインの血なんてよく手に入ったな」
「何か捕まってたから抜いてきた」
ステインは何かをやらかしてヒーローに捕まっていた。彼にとって今のヒーローは贋物どころか別の何かであるため選考の対象外であった。
それはそれとして、ヒーローを名乗っていることが気に入らないため襲っていた。それを続ける中、何人ものヒーローに追い詰められて捕まった。
「しかしアメリカか。どうなるんだろうな」
「さあ、なるようにしかならないんじゃない? それよりも、ドクターが戻ってきたことの方がこっちとしては気になる」
ドクターは全面決戦の際に相澤に捕まり、それ以降行方知れずだったが、最近になって発見され解放された。ドクターが戻って来たことで、本格的な脳無の製造が再開される。
「氏子さんですか。ヒーローに捕まってたんでしたっけ?」
「どこかに捕まっていたらしいけど、僕も詳しい場所までは知らないな」
未だに黒霧の方は見つかっていない。現在は死亡したのではないかと囁かれている。
現状、生き残っている元雄英生の捕まっていた家族は、その殆どを海外に逃がした。しかし緑谷の親だけが、どこにいるのか分からなかった。
死柄木の指示で研究所に送られていることは分かっている。しかし古瀬では、死柄木直下の研究施設に関与することは難しかった。
おそらく、或いはもう既に、脳無にされているのではないかと予想していた。
八百万邸から脱出した四人は、根津たちに合流する。彼らが拠点としているのはボロボロのビルだった。
拠点にいる人間の表情はどことなく暗い。その場にいるのは殆どがヒーローだが、皆疲れたような顔をしている。
「麗日さん、それにみんなも!」
緑谷と尾白が四人のもとにやって来る。この場にいるのは二人だけではない。上鳴、耳郎、爆豪もこの場にいる。峰田は上鳴に声を掛けに行く。
「デクくん、それに尾白くんも!」
「皆さん、ご無事だったのですね」
「八百万さんたちも無事だったんだね」
彼らは互いの再会を喜ぶ。しかしこの建物内で明るいのは彼らだけであった。
これまで何をしていたのか、彼らは互いに簡単に話す。緑谷と尾白は女性の家に匿ってもらっていた。ここに合流したのはつい最近との事であった。
「耳郎さんもご無事だったのですね」
「うん……」
耳郎は八百万と目を合わせず、下の方を向いている。返事も素っ気ない物であった。
「チッ、呑気なもんだな」
その場を通りかかったロックロックが舌打ちをして去っていく。
「何あれ、感じ悪い」
「色々あるんだよ」
尾白は彼らを根津の所へと連れて行く。ノックして彼らは部屋に入る。
「やあ、よく来たね君たち。いや、こんな時に来てしまったというべきか」
「お邪魔でしたでしょうか」
「いや、そういうわけではないのだけど」
根津は歯に物が挟まったような言い方をする。彼らは何かあったのかと尋ねる。
「僕たちは今、度重なる襲撃を受けていてね。この場所も、すぐに超常解放戦線に見つかるだろう」
「それなら私たちも一緒に戦います!」
「問題はそこじゃあないんだよ。まあ、長旅で疲れただろう。まずはゆっくり休むといいのさ」
彼らは寝室へと案内される。その後、荷物を置いて彼らは再度集まる。それから尾白によって、今この場所がどのような状況なのか説明される。
根津とオールマイトは施設の襲撃に失敗した結果、協力者の殆どを失った。それから再度、超常解放戦線と戦うためにヒーローへの呼びかけを行った。
それによって、二十人近いヒーローが集まった。しかしそれを察知したのか、超常解放戦線に拠点を襲撃される。それも一度や二度ではない。連日、多い時には日に四度も襲撃が行われた。
その度に仲間が捕縛され、或いは殺されていった。仲間は少しずつ集まるが、その数は一向に増えていない。
そんな中で、これは個性によって探知されているのではなく、仲間の誰かが裏切っているのではないかという話が持ち上がる。
これには歴としたいくつもの根拠があり、この場所の人間はみな疑心暗鬼になっている状況であった。
そんな所に外部の人間が来ると、その人が裏切り者ではないかと疑われる。尾白や八百万たちは周りから疑われている状態であった。
「何で後から来た人間が疑われるの? 情報を流したのは、それ以前からこの組織内にいた人だよね?」
「まず前提として、裏切り者が一人とは限らないからです。裏切り者が以前から居た人の中にいたとしても、新たに来た人が裏切り者ではない保証はありません」
寧ろこんな状況の組織に来るような人間である。怪しくて仕方がない。そして、新たに来たという事は他の人間との繋がりが無く、既に信頼できる人間同士で固まっている場合は孤立しやすい。
「新たに来た人が過去の情報を流した人間かどうかは重要ではなく、重要なのは新たに送り込まれた裏切り者かどうかです」
「私たちが裏切り者じゃないかって疑われてるってこと!?」
「さっきからそう言ってんだろうが」
芦戸に無理やり連れてこられた爆豪が舌打ちをする。
「そんなわけで、ここに居る間は窮屈な思いをするかも」
「それなら、ここでの仕事を手伝えばいいんじゃないかな。余計なお世話でも少しずつ、信頼を勝ち取っていくのはどうかな」
何人かはそれに賛同するが、爆豪は反対する。
「誰がやるかそんなもん! やってる時間なんてねぇんだよ!」
「ご、ごめん」
「僕はいい案だと思うよ。余計なお世話はヒーローの本質だって言うし」
その後、彼らはこの拠点での作業を手伝いつつ、他の人たちから話を聞く。最初は警戒していたものの、少しずつ色々な事を教えてくれる。
しかしすぐに、警報が鳴り響く。超常解放戦線の襲撃だという放送と同時に、拠点のヒーローたちは戦闘の準備をする。
窓から外を見ただけで数十人の人間がいる。戦闘の目的は防衛ではなく逃走なのだが、今日ここに来た四人はその事をよく分かっていなかった。
配置も役割も分からないまま戦闘を行った事で逃げ遅れる。尾白に呼ばれて、急いで地下の隠し通路へと向かう。
「急いで!」
彼らが隠し通路へと向かうと、分厚い防壁がヒーローによって閉じられようとしていた。
「待ってください、まだ他の人たちが来ています!」
「この扉は警報後、十分以内に閉じなければならない。これは決められたルールだ!」
生徒たちが入る前に、防壁が閉じられる。尾白と緑谷が開けようとするが、他のヒーローに止められる。
「まだ向こう側に他の人がいるんだ!」
「我々がこれまで好き好んで犠牲を出してきたと思うのか! これは教訓だ! 生き延びるために何が必要か、仲間が身をもって教えてくれた!」
「この扉を開ければ敵が雪崩れ込んでくる。そうなる前にこの場から離れるんだ!」
「彼らを見捨てられません!」
「邪魔するな! どけ!」
扉の一部が芦戸の酸で溶ける。緑谷は自分の腕が傷付くのも厭わずに、そこに手を入れて扉を引っ張ろうとする。
「待って、溶解力の低い酸で洗い流すから!」
強力な酸を薄めた後に、緑谷が残り火を使い、扉を引っ張って破壊する。通路には取り残された数名と、超常解放戦線の構成員が数十人いた。
天井を破壊して通路を塞ごうとするが、敵の個性によって瓦礫を吹き飛ばされる。外に出てこようとする敵を、その場にいたヒーローたちが押し戻す。
「行け! 我々が足止めする!」
「でも……」
「二人共、走ってください!」
八百万が芦戸と麗日の背中を押して走らせる。緑谷は残り火を使って通路を埋めようとするが、効果が切れて使えなくなる。
緑谷は呆然と立ち尽くして、足止めをしているヒーローたちの方を見る。
「僕が、扉を壊したから……」
「全くだ。だが、仲間を救おうとする姿に俺たちも動かされた。後の事は頼んだぞ!」
緑谷は背を向けて走り出す。その後、ヒーローたちが戻ることは無かった。
彼らが逃走していると、車が走って来る。ドアが開いて、中から相澤が姿を現す。
「乗れ、お前たち!」
車は彼ら全員を回収して走り去る。追手が来る様子は無かった。
「相澤先生、無事だったんですね」
「少し用があって離れていた。これから根津校長たちと合流する」
彼らは新たな拠点へと向かい、そこで根津と戻って来たオールマイトと合流する。そこで相澤は、敵施設への攻撃を提案する。
「今回の襲撃で五名のヒーローが殉職、または捕らえられました。度重なる襲撃で、ヒーローたちの士気は大きく下がっています。彼らの士気を上げるためにも、何かしらの勝利が必要です」
「それは分かっているのさ。でも、こんな状況で動いても上手くいくとは思えないのさ」
相澤は弱気な根津に、襲撃することを強く主張する。
「このままではじり貧です。完全に戦力を失う前に、敵施設を襲撃して、敵に大きな打撃を与えるべきです」
相澤は根津の反対を押し切って、ヒーローたちの意見を纏める。ヒーローたちもこの状態でいいとは思っておらず、何かしらの転換点を作ることを望んでいた。
多くのヒーローたちの支持を得て、相澤は敵施設への襲撃を決行することを根津に伝える。この流れを止める事はできそうになかった。
「敵施設への襲撃とは言うが、一体どこを襲うつもりなんだい?」
「ヒーローの中に裏切り者がいる可能性が高い現状、誰にも目的地を話さないのが最も合理的です」
情報の漏洩を防ぐために、襲撃の直前まで、相澤はどこを襲うのか周りに教えないつもりであった。
相澤が去った部屋で、根津とオールマイトが話す。
「大丈夫でしょうか?」
「プレゼントマイクとミッドナイトを失ってから、彼の精神はずっと不安定なのさ。とはいえ、彼が言っていることもまた事実なのさ」
相澤は元生徒たちにも、この作戦への参加を求める。彼らを集めて、敵施設への襲撃を行うこと、この作戦に参加して欲しい事を伝える。
「敵施設への襲撃ってマジですか!?」
「無理強いするつもりは無い。だが俺たちには戦力が足りていない。もう教師ではない俺がお前たちに命じる事はできない。だから頼む、力を貸してくれ」
相澤は生徒たちに深く頭を下げる。彼らの反応はバラバラだった。いいも悪いも、今の情報だけでは判断できなかった。
「特に緑谷、お前には期待しているぞ。お前のパワーがあれば、施設を一撃で破壊することができる」
「相澤先生……」
緑谷がフルパワーで攻撃を放てば、腕を負傷する。それを推奨するような物言いに、彼らはどことなく嫌なものを感じた。
「それと上鳴、お前は来なくていい。別の場所に移動しろ」
「えっ、俺だけですか!?」
「個性を失ったお前じゃ戦えないだろう。ここから離れて、安全な場所に退避しろ」
「それなら爆豪だって……」
爆豪は素の身体能力が高い。勝てなくとも、何かしらの役割はこなせるだろうと相澤は判断した。
「これが最も合理的な判断だ」
「そんな……」
「はっ、ざまァ!」
「爆豪、あんたね!」
「あァ!? 文句あんのか! そもそもこいつが個性を失ったのは、テメェがヴィランに売ったからだろうが!」
それを言われて、耳郎は黙り込む。周りはそれを聞いて驚き、上鳴は相澤の言葉にショックを受けている様子だった。
作戦は三日後、それまでにどうするか決めるようにとのことだった。
その夜、上鳴の個性が奪われたことについて、何があったのか、女子は耳郎から話を聞く。両親を人質に取られた事、それに堪えられず上鳴を超常解放戦線に引き渡したこと、既に両親は死んでいた事を聞く。
「そのような事が。ですが私に、耳郎さんを責める事はできません。私も自分のために、多くの人を犠牲にする道を選びました」
「私も、同じ気持ち。責める事なんてできんよ」
「結局、超常解放戦線が悪いんじゃん。責めるならあっちからでしょ!」
「でもみんなは、仲間を売らなかったんでしょ。どうしてその選択ができたの」
耳郎は丸まるように膝を抱えて、外界を閉ざすように蹲る。
「私は目の前のデクくんを見捨てられんかったから。でもその結果、父ちゃんと母ちゃんを見捨てのを選んだことを後悔しとる」
「私はこの選択を後悔することになるかもしれません。ですが、手を差し出してくれた友人を、見捨てることはできませんでした」
「できるわけないじゃん。友達を見捨てるなんて!」
誰も友達を見捨てていない事で、一層自分が惨めになった。周りと自分は違うんだ、そんな風に耳郎は卑屈に思った。
一方で、緑谷は居なくなった上鳴の姿を探していた。彼としては、無個性の辛さを知っているつもりであった。
上鳴は拠点から少し離れた空地で、ぼうっと空を見上げていた。
「良かった、上鳴くん。君が苦しそうな顔をしていたから、気になって」
「緑谷か。何の用だよ」
「僕にも、君の気持ちはよく分かるから。僕も、個性がなかなか発現しなくて、だから無個性の気持ちが分かるんだ」
上鳴は緑谷から顔を背けている。夜の闇も相まって、その表情は見えない。
「僕も、もうすぐ個性が使えなくなるんだ。AFOに奪われて、まだ使うことができるけど、少しずつ使える時間が減ってる」
「ならもし、そのまま個性が使えなくなって、誰かが個性を新しく与えてくれるとしたら、お前ならどうする?」
緑谷はオールマイトを想像する。オールマイトはOFAを奪い返す方法に、考えがあると言っていた。しかし、上鳴が言っているのはAFOのことだろうとも考える。
「僕は、もしもう一度個性を与えてくれるなら、今度こそその力を使って、人を救けたい。でもそれを与えるのがAFOなら受け取っちゃ駄目だ。都合のいいように利用されて、心を支配されるだけだ!」
「何だよそれ」
上鳴はしばらく何も言わず、何かを考えている様子だった。
「悪いけど、しばらく一人にしてくれ」
「えっ、でも。分かった。何かあったらすぐに呼んで。救けに来るから!」
「今の俺は、救けられるような人間なんだな」
緑谷が去った後に、上鳴は呟く。しゃがみ込んで、頭を抱えた。
その翌日も、拠点への襲撃が行われる。彼らは何とか敵を追い返し、その際に数名の捕虜を得る。
相澤は、捕縛した超常解放戦線の構成員を尋問したのち、首を掻き切って殺害する。それを見て、生徒たちは短く悲鳴を上げる。
「相澤先生!?」
「俺たちにはこいつらを捕まえて置ける場所も、施設も無い。逃がした所でまた敵になるだけ。これが最も合理的な方法だ」
「だからって、こんなのヒーローのやる事じゃない!」
「ではどうする。この場に捕まえておくか、それとも開放するか? 何か考えがあるなら、言ってみろ」
そう言われて、生徒たちは口籠る。逃がした敵が再び襲ってきて誰かを殺す、そんな事があったという話を彼らは聞いていた。
「でも……」
「ヒーローは場合によってはヴィランを殺す。お前たちも知っているはずだ。ずっと以前から公安とヒーローは、平和のためにヴィランを殺していた」
「相澤先生、私はそれが正しい事だとは思っておりません。もしも理想を求めて戦うのであれば、公安のやり方は変えるべきだと思っています」
「お前たちは甘すぎる。社会の現実を分かっていない。理想だけじゃ役に立たない。世の中には、殺すしかない奴が山ほどいるんだ!」
相澤の呻くような様子を見て、生徒たちは驚く。相澤はすぐにはっとして、謝罪してその場から去っていった。緑谷がその後を追った。
その二日後、襲撃作戦決行日、生徒たちは作戦に参加するかどうかを聞かれる。あまり乗り気ではないものの、流されるように彼らは参加する。
その場には、相澤を含めて二十三人のヒーローが集まっている。これに生徒たちが加わる。根津とオールマイトは留守番である。
「それでどこに行くんだ、イレイザーヘッド」
ミルコが相澤に尋ねる。彼女は全面決戦の際に手足を失っているが、おそらくこの場の最大戦力であった。
「目的地は、スケアクロウ社だ」
それを聞いて生徒たちは驚く。スケアクロウ社、つまりは古瀬が作った会社である。
「スケアクロウ社の商品は、俺たちの脅威になっている。ここを叩くことで一時的に商品の生産を止められるはずだ」
スケアクロウ社の商品が彼らの脅威になっているのは事実であり、生徒以外にはこの襲撃は納得できるものであった。ただし社が行っているのは装備やサポートアイテムの製造であって、直接的に攻撃してきているわけではない。
特に麗日は古瀬と付き合っていたため、驚きも殊更強かった。襲撃すると言われても、すぐに決意が定まらなかった。
相澤は麗日の肩を掴んで説得する。
「あいつは超常解放戦線に協力している。もう俺たちの敵だ。無理に来いとは言わないが、覚悟を決めろ!」
これまで考えないようにしてきた事を言われて、麗日は動揺する。周りに手を引かれて背中を押されるように、気持ちとは裏腹に足を前に出す。
「みんな、ちょっと待って! 上鳴、知らない?」
耳郎が走って来て、生徒たちを呼び止める。
「上鳴がどうかしたの?」
「朝からどこにも姿が無くて、校長たちも知らないって!」
「探しに行こう!」
生徒たちは襲撃には参加せず、上鳴の捜索を行う。相澤は立ち去ろうとする麗日を呼び止める。
「先延ばしにしたところで、時間の問題だ。何れは殺す覚悟が必要になるぞ!」
顔を青くする麗日を置いて、相澤たちはスケアクロウ社の襲撃に出発した。
上鳴は人気の無い空き地にいた。ヴィランやチンピラや市民が暴れたことで辺りは荒廃して、今はもう誰も住んでいない。防衛手段が無く人が住まなくなった土地が、今は増えつつあった。
「上鳴!」
耳郎が呼びかけても返事はない。ずっと背を向けて、掌を見ている。
「ウチずっと謝らなきゃって思ってて、許してもらえるとか思ってないけど、本当にごめん」
「なに謝ってんだよ。耳郎が何か間違ったことやったか? 親のために、仕方の無い事だったんだろ? だからこれも、仕方の無い事なんだ」
上鳴の掌から放電が起きる。それを見て、耳郎は何があったのかを察する。周りも追いついて、その光景を見る。
「上鳴、アンタ……」
「おかしいか? あっちに付けば、個性を取り戻せて、家族も解放してもらえて、ヒーローになる事だってできる。全部取り戻せるんだ!」
「でも家族は……」
「ああ、そうかもな! でも、多くのものが手に入る、取り戻せる。こうして追われることもない。なあ、俺何か間違ってるか?」
周りに潜んでいた、多数の超常解放戦線の構成員たちが現れる。三方から、彼らは半包囲されている。
「はっ、ぐだぐだ言ったって要は、俺たちを売ったって事だろうが!」
「ああそうだよ。なら他に、どんな選択肢があったってんだ!」
「上鳴くん、それならどうして、そんな顔をしているんだ。君だってこんなことはしたくないんだろ! AFOは人を玩んで苦しめる! 僕もそれを体験した! そっちはヒーローへの道なんかじゃない! この手を握ってくれ! 君はまだヒーローになれるんだ!」
「できるわけないだろ。もう遅いんだよ。緑谷、お前、まだ自分がヒーローのつもりなのか? 相澤を見ただろ。好き勝手人を殺して、あれがヒーローのやる事かよ。お前たちは、ヴィランだよ」
「アホ面!」
爆豪が上鳴に殴りかかるが、放電であっさりと行動不能にされる。言い訳のしようがないほど簡単に、地面に叩きつけられる。
「なあ爆豪、個性のないお前なら、俺でも勝てるんだぜ?」
上鳴はこの情けない姿が自分のIFだと考えて、泣きそうな顔になる。彼の選択肢は、何もできない無個性でいるか、個性を取り戻すかの二択だった。
「私のせいだ。私が上鳴を止めないと!」
「響香ちゃん!」
耳郎が構成員たちを吹き飛ばして、上鳴の所へと向かおうとする。しかし敵の数が多く、その行為はあまりに無謀だった。
あっさりと包囲されて、個性で殺されそうになる。そこにバイクが飛んできて、構成員たちを蹴散らす。
「状況は分からないが、緊急事態のようだな」
「大吾さん!」
古瀬は上鳴の所へ向かおうとする耳郎に手を伸ばす。
「乗れ!」
「でも、ウチは上鳴と話さないと!」
「今はこの場から離れるんだ!」
耳郎は構成員たちの奥にいる上鳴に視線を向ける。そして届かないと感じて、彼女はバイクの後ろに乗る。
古瀬は包囲を強引に突破して、他のメンバーの後ろに追いつく。しばらく追われるが、彼らの前に車が止まる。
「私が車で来たァ!」
根津が運転する大型の車に乗り込んで、彼らは撤退する。何とか犠牲を出さずに撤退することに成功する。
古瀬も後ろから、バイクごと車の中に乗り込む。そしてオールマイトと対峙する。
「君は確か……」
「大吾だ。通りすがりの仮面ライダーをしている」
古瀬は手を差し出す。オールマイトは相手と握手を交わした。
一方で、相澤たちはスケアクロウ社へと向かう。社の敷地の外に車を停めて、中の様子を窺う。
スケアクロウ社の警備は主にロボットが行っている。この世界のロボットは戦闘力で人に劣るが、超常解放戦線の人間を信用できないための措置であった。
個性を消す相澤とは相性が非常に悪い。それでもなおここを襲撃地に選んだのは、復讐のためだった。
ミッドナイトとプレゼントマイク、そして黒霧を失って以降、相澤は古瀬が超常解放戦線のスパイだったという妄想に取り憑かれていた。
何かに責任を押し付けなければ持たない精神状態だった。そんな中で、スケアクロウ社が超常解放戦線の傘下に降ったという話を耳にする。
あいつはずっと俺たちを騙していたんだ。そのために雄英に入ったんだ。俺がどうにかしなければいけない。
そんな妄想に取り憑かれて、古瀬を殺すべき存在として認識する。それが最も合理的だと、安易で身勝手な判断をした。
彼らは正面入り口から敷地内に入る。しばらく進んで建物に入ろうとした所で、何人かのヒーローが倒れる。
相澤が振り返ると、何人かのヒーローが、何人かの別のヒーローの攻撃で倒されていた。
「ロックロック、お前が裏切り者だったのか!」
「悪いなイレイザーヘッド。ガキとあいつが人質に取られてんだ」
「そんなもの、言い訳になるか!」
相澤は抹消でロックロックの個性を消す。しかし裏切り者は彼一人ではない。二十三人中、七人の裏切り者、そして周りからの銃撃によって、ヒーローたちは一気に劣勢に立たされる。
相澤の拳がロックロックに突き刺さる。しかし太腿と腕を撃たれて動けなくなる。
ヒーローたちが倒れていく中、ミルコがタチコマの一体を蹴り飛ばす。
「行け、ミルコ!」
ヒーローの一人がミルコを空高くに投げ飛ばす。弧を描きながら、ミルコはビルの中へと侵入する。
「まずい! タチコマたち、彼女を止めるんだ! 最上階には絶対に来させるな!」
ミルコはタチコマたちを破壊しながら最上階へと向かう。折り悪く、この時、古瀬は外出中だった。
ドラえもんは呼び戻そうかとも考えるが、向こうも戦闘中、現有戦力だけで何とかすることにした。
タチコマたちは個性を再現した兵器を多数搭載している。多数集まればヒーローとも交戦可能であるが、この時は相手が悪かった。
ミルコは多数の傷を負いながらも、タチコマたちを蹴散らしながら最上階へと向かう。ボロボロの状態で、手足を失いながらも戦闘を続ける。
最終的に、襲撃を行ったヒーローたちは全員が捕縛される。ミルコも例外ではない。しかし、彼女を取り押さえた時、スケアクロウ社の最上階は完全に破壊されていた。
八割近く完成していた、個性を奪うための道具も、この襲撃で完全に破壊された。