無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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 古瀬が通う中学校でのことである。古瀬が教室の机に座って探知の訓練をしていると、廊下の方に担任と、一人の生徒がいるのが視界に入る。

 

「君には才能がある。これからも期待しているよ」

 

「いやあ、そんな」

 

 その生徒には見覚えがあった。名前は石九字、個性は確か青水晶だっただろうかと思い出す。

 

「古瀬、何してんだ?」

 

 名前を呼ばれて、古瀬はそちらん視線を向ける。見知った三人組、よく話す友人の顔がそこにはあった。名前は止目、入耳、間指である。

 

「いや、あそこに誰かいるなと思って」

 

 古瀬は石九字の方を指差す。それを見て止目は、ああ、と気怠そうな声を出す。

 

「石九字か。強い個性を持っているから、先生からも期待されているんだろう。代々宝石を生み出す家系で、親戚にプロヒーローがいるらしいぞ」

 

 青水晶は、触れた場所から青い水晶のような鉱物を生み出す個性である。使い方によってはかなり強力な個性という話であった。

 

「まあ俺達には全く関係が無いんですけどね。何せ」

 

「「「俺達弱個性四人組!!!」」」

 

「俺を入れないでくれ」

 

 三人の個性は、止目が高速で瞬きができる個性。入耳が、耳を自由に動かせる個性。間指が、指を逆方向に曲げられる個性であった。

 

 放課後、彼ら四人は一緒に帰宅していた。迷路のような飾り気のない、豆腐ハウスが並んだような街並みを歩いている。

 

 古瀬は落ちていた鉄パイプを拾って素振りする。この辺りは嘗ての工業区画で、たまに昔の部品が今もこうして残っている。

 

 四人が歩いていると、後ろから誰か人がやって来る。軽快な足取りが聞こえ、入耳が振り返ったため、他の三人も足を止めて振り返る。

 

「やあ、君たち。この辺りで、ヴィランを見なかったかい?」

 

 赤いスーツを着て、目の周りに黒いマスクをつけた男だった。プロヒーローであり、この辺りではよく見かける顔だった。

 

「いや、見てないです」

 

「知ってるか?」

 

「いや、知らない」

 

 三人は口を揃えてそう言う。古瀬が周辺にある気を探ってみると、廃工場の方に人がいるのが分かった。

 

「この先、真っ直ぐに誰かいるみたいですよ」

 

「ありがとう。では、また!」

 

 男は廃工場の方へと走っていく。中年太りが目立つ体形で、何というか大丈夫だろうかと古瀬は思った。

 

「あの人が確か、石九字の親戚のプロヒーローだよな」

 

「レッドクリスタルだっけ?」

 

 個性は赤水晶。触れた場所から鉱物を生み出す所は同じだが、生み出した鉱石に有毒性がある。また、人に突き刺さった場合、抜くのが非常に困難という特性も併せ持つ。

 

「というか、この辺にヴィランがいるのか?」

 

「学校からは何の連絡もなかったよな」

 

「早く帰った方がいいんじゃないか?」

 

 早く帰ろう、この場から離れようという事で意見が纏まり、四人は来た道を引き返す。

 

 引き返し始めてすぐに、辺りに煙が立ち込める。

 

「何だ?」

 

「これは、廃工場の方から来ているのか?」

 

 古瀬は屋根に飛び乗って、廃工場の方を眺める。扉を失い、大きく開かれた入り口から工場の中が見える。

 

 工場内、入ってすぐの場所に、先程の赤いスーツを着た男が倒れている。下半身しか見えないため生死は不明だが、動いているようには見えない。

 

「ちょっと様子を見てくる」

 

 そう言って、古瀬は口元を布で覆い、廃工場の方へと向かった。入耳が呼び止めようとするが、聞く耳を持たずに駆けだす。

 

 ここ最近、古瀬の実力は大きく上がった。あわよくばヴィランを捕らえられないか、そんな思いから、彼は廃工場へと向かった。

 

 煙は立ち込めているが、空へは昇っていない。空気より重いのか、何者かが操作しているのか、低い位置ほど煙は濃かった。

 

 廃工場は屋根が大きく剥がれてしており、そこから中の様子を窺うことができた。古瀬は屋根付近の鉄骨へと飛び乗り、そこから下の様子を窺う。

 

 下に居るのは三人、先程のヒーローと、見知らぬスーツ姿の男が二人。どちらもマスクを着けており、一人はかなりの大柄で両手先が球形だった。

 

 小柄、と言ってもかなりの長身だが、そちらの男が鉄筋の上へどっかりと座り込む。この場に危険は無いと判断しているのか、かなりの油断があった。

 

 それを好機と見た古瀬は、真上から下に向けて、大きく踵を振り下ろす。古瀬は体重こそ軽いものの、高さと気による身体強化もあって、かなりの威力があるはずだった。

 

 しかし男は腕を上げてその攻撃を防ぐ。かなりの威力があると自負していたが、男は片腕で古瀬の攻撃を受け止める。

 

「強化外骨格か!」

 

 流石にその感触から、古瀬は男が何か中に着込んでいることに気付く。それでも完全な無傷とはいかず、腕がかなり傷む様子だった。

 

 古瀬はいったん距離を取り、再度男に向かって突撃する。しかし既に男に油断は無く、数度の攻防を経てもまともにダメージを与えることができなかった。

 

 潮時と見た古瀬は跳躍し、屋根から外へ出てこの場から離脱する。ある程度移動した所で振り返ると、拳を振り上げる大男の姿が真後ろにあった。

 

「ツインハンマー!」

 

 男が拳を振り下ろすと同時に、古瀬が足場にしていた建物が倒壊する。古瀬は鉄球を躱して隣の建物へと移った。

 

 男は腕から出る鎖を伸ばして、先端の鉄球を振り回す。数度の回避によっていくつもの建物が倒壊するが、古瀬は男の視界から逃げ去ることに成功する。

 

 古瀬が三人の所へと戻ると、間指が地面に倒れていた。残る二人はそのすぐ近くにいて、不安そうにそれを見ている。

 

「どうした」

 

「分からない。突然倒れたんだ」

 

 理由は、今は重要ではない。古瀬はすぐにこの場から離れなければならないと思った。

 

「とにかくここから離れよう。俺が、あれ……」

 

 古瀬は眩暈に襲われる。足元がふらつき、間指と同じようにその場に倒れ込んだ。

 

「古瀬!?」

 

 更なる負傷者の発生に止目は絶叫する。それぞれの行動から、この煙が原因ではないかと彼は思った。

 

「どうする!?」

 

「とにかくここから離れよう。間指は俺が持つから、そっちは古瀬を頼む。煙はできるだけ吸わないようにしてくれ」

 

 二人は来た道を引き返す。どれだけ進んでも、煙は一向に薄くならない。

 

「どこに行く!?」

 

「病院、いや、学校に戻ろう。まだ保健室に先生がいるはずだ!」

 

 止目と入耳は二人を背負って学校へと戻った。煙のせいで学校は暗く、なぜかそこには人の気配が無かった。

 

 二人は校舎へと入り、煙が入り込まないように戸を閉める。そのまま急いで保健室へと向かった。

 

「失礼します!」

 

 保健室には養護教諭の永意がいた。部屋にいるのは彼女一人だけで、特に変わった様子は無く、机に座って仕事をしていた。

 

 永意に慌てる様子は無く、振り返って立ち上がる。背負われている古瀬と間指の姿を見て、ベッドに寝かせるように言った。

 

「何があった?」

 

「ヴィランが出たんです。いや、直接見てはいないんですけど。その後に煙が出て、それで様子を見に行った古瀬と、煙を吸い込んだ間指が倒れて……」

 

「煙?」

 

 永意は窓の外を見る。今初めて煙の存在に気が付いた様子だった。

 

「本当だ。煙が出ているな」

 

「気が付いていなかったんですか?」

 

「何か暗いなあ、とは思ってはいたが……」

 

 頭を掻きながら、永意はスマホを取り出す。警察に連絡しようとするが、電源が入らない。

 

 まさかと思い、携帯電話を出すよう止目と入耳に言う。そのどちらもが動かなかった。

 

「通信妨害、いや、電子機器を動かなくさせる個性か?」

 

「という事はつまり……」

 

「助けを呼ぶことはできないわけだな」

 

 そうして話していると、古瀬が目を覚ます。体を起こして、しばらく辺りを見回す。

 

「何があったんだ?」

 

 永意たちが視線を、目を覚ました古瀬へと向ける。そこで彼らは、互いに情報交換を行った。

 

「廃工場には二人のヴィランがいたと」

 

「そして今、電気製品が使えず外部との連絡が取れないと」

 

 彼らはどうしたものかと頭を悩ませる。

 

「永意先生の個性って何ですか?」

 

「解毒だ。この状況で役に立つ個性ではないよ」

 

 解毒は、相手に口付けをすることで体内の毒素を消す個性である。口付けする場所はどこでもよく、口付けした場所に近いほど効果が高い。

 

「ちなみにこの煙を無効化することは?」

 

「無理だ。私は全ての毒を解毒できるわけではない」

 

 どうしたものかと、彼らは再度考える。こうなっては仕方がないと、永意は棚の鍵を開けて中からガスマスクを取り出す。

 

「こうなっては仕方がない。誰かが助けを呼んでくるしかないな」

 

「そのガスマスクは何ですか?」

 

「何でそんな物がここにあるんですか?」

 

「こういった事は稀に良く起こるからな。ガス災害が起きた時のために、ここに一つ常設されているんだ」

 

 数年に一度はこういった事態が起こるらしい。前回の反省を活かせて偉い、と言うべきか、こんな事態がよく起こるこの世界にドン引きするべきか、古瀬は迷った。

 

 と同時に、保健室の窓が割れる。何かが飛んできて、反対側の窓ごと吹き飛ばした。

 

 割れた窓から煙が入ってくる。混乱する室内で、永意が叫んだ。

 

「準備室に移動しろ!」

 

 古瀬は間指を引きずりながら準備室へと移動する。入る直前で、止目と入耳に間指を任せて、自分は永意からガスマスクをひったくって外へと向かう。

 

 煙のせいではっきり見えないが、少し離れた場所に二人組がいるのが分かる。それを視認すると同時に、無数の何かが古瀬目掛けて飛んでくる。

 

 それを躱して近づくと、相手の姿がはっきりと見えてくる。一人は腕を砲へと変えており、もう片方の腕で土を取り込んでいる。

 

 もう一人は小柄な男だった。個性は不明だが、手にステッキを持っている。どちらもスーツ姿で、先程戦った二人組と同じ姿だった。

 

 腕が砲の男は、校舎に向けて無数の砲弾を放つ。古瀬がそちらに気を取られると同時に、真上から無数の砲弾が降り注いだ。

 

 振り返ると、校舎に傷は無く、先程撃ったはずの砲弾が消えている。

 

「転移か!」

 

 男が撃つたびに、全く違う方向から砲弾が飛んでくる。それは必ずしも一方向からではなく、見晴らしのいい場所に立てば全方向から弾が飛んでくる。

 

 距離を詰めようとすれば、転移して逃げられる。それ以前に火力を集中されるため、近付くことは容易ではなかった。

 

 一度仕切り直すために、古瀬は距離を取る。視界の外であれば転移させられないかもしれないと思い、彼は遮蔽物の陰に隠れる。

 

 ここからどうするか考えていると、二人組の影が消える。近づいて確認すると、二人組の姿が無かった。

 

 どこに行ったのだろうと辺りを見回していると、上から声が聞こえてくる。

 

「私が来たァ──────!!!!」

 

 着地と同時に、町を覆っていた煙が全て吹き飛ぶ。あまりにも出鱈目な光景に、古瀬は顔を引きつらせて驚愕する。

 

「もう大丈夫だ。私が来た!!」

 

「オールマイトだああああああ!」

 

「助かったああああああ!」

 

「実物を見るのは初めてだな」

 

 オールマイトの到着と同時に事件は解決する。最も、来る直前に撤退したためヴィランを捕まえることはできなかった。

 

 しかし市民には、一人の被害も出ることは無かった。オールマイトが来ることを察したヴィランたちが諦めたためである。

 

「フーモファミリー?」

 

「ああ。元は欧州のマフィアだったらしいが、ゴリーニファミリーとの抗争に負けてこちらに流れて来たらしい」

 

 フーモファミリーの生業は人身売買。手始めに町一つ、全ての人間を捕まえて売る計画だったことが判明する。

 

「町一つって……」

 

「煙で覆ってしまえばあとはって感じだったのかもな」

 

「どうやって外部と連絡を取ったんだ?」

 

「町の誰かが煙の外に出て助けを呼んだらしい」

 

 複数人が煙からの脱出に成功した。そもそも最初から、少数で何万人もを隔離し続けるのは困難だったといえる。

 

 古瀬たちは、警察とオールマイトの所へと歩いていく。そこで彼らは、捕まった市民は全て救出された事を知る。

 

「市民の犠牲はゼロ、ね」

 

「レッドクリスタルは無理だったか」

 

 レッドクリスタルの死亡が廃工場で確認されている。その経緯が不明なため、古瀬としては何とも言い難かった。

 

 止目たちはオールマイトからサインをもらっていた。古瀬はいらないと断る。

 

「それより聞きたいことがあるんだけどさ、オールマイトは無個性がヒーローになれると思うか?」

 

「少年、ひょっとして君は……」

 

「ああ、無個性だよ」

 

 古瀬はあっさりとそう言う。それ自体に関しては、特に気にしていなかった。

 

「個性無しにプロになることはとても難しだろう。いや、おためごかしだな。プロはいつだって命懸けだ。力が無くとも成り立つとは、とてもじゃないが口にはできない。夢を見るのは悪い事ではないが、相応に現実も見なくてはならない」

 

 それを聞いて、古瀬は笑った。

 

「あははっ。ああいや、全く同じ意見だったから」

 

 無個性はプロになれない。やはり、それが普通なのだと古瀬は思った。

 

 オールマイトは傷付けてしまったかと少し動揺する。

 

「別に傷付いてはいないさ。寧ろ、誠実な対応に感謝するよ」

 

 そう言って、手を振りながら古瀬はその場から立ち去った。その心の内にはどことなく、原作主人公に対する仄暗い感情が燻ぶっていた。

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