無個性のヒーローアカデミア   作:明灯月陽

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雄英入学試験

 雄英の入学試験には、筆記試験と実技試験の二つがある。この内、実技試験に関してはその詳細を知っているため、古瀬はあまり心配してはいなかった。

 

 問題は筆記である。雄英は偏差値79、倍率300倍以上、というエリート校である。という事はつまり、ヒーロー科の合格者が40人のため、受験者は一万二千人以上となる。

 

 推薦枠での合格者が四人いるため、10800人かもしれない。どちらにしても、狭き門であることに変わりはない。

 

 冷静に考えると、受からない方が普通なのでは? 一万人以上の中の、上位四十人に入れとかムリゲーでは? 

 

 古瀬は、はっきりとは憶えていないが、アニメで会場に一万人も人がいただろうかと疑問に思った。複数の会場に分かれても、一つの会場に千人以上。しかし彼の記憶では、人はもっと少なかったような気がした。

 

 最初のプレゼント・マイクが説明していた会場にはかなり人がいた気がするが、実際の試験会場にはそれほど人がいなかった気がする。

 

 という事はつまり、筆記で落とされたのかもしれない。

 

 古瀬は理系科目は得意だが、文系科目、特に論述には自信が無かった。ヒーローの資質が求められる場所なのに、闇バイトの経験から、かなりヴィラン側寄りの思考に染まっている。

 

 素で書いたら絶対に受からない。それが分かるため、論述への対策は必須であった。

 

 また、古瀬はヒーローに興味がほぼ無かった。誰がどこで戦ったとか、プロヒーローの名称とか、そういった物に対する関心が全く無かった。

 

 一応知識として記憶してはいるが、気を抜くと頭から消えて無くなりそうだった。憧れとか分からん。どいつもこいつも肉塊よ。

 

 試験会場には数十人くらいいただろうか。映っていない人数を入れると百人くらい。筆記で十分の一にまで減らされるのだろうか。

 

 数度に分けて試験を行うという可能性もある。ロボットの修理も、そういった個性持ちがいれば簡単なのかもしれない。

 

 そもそも入り口からよーいドンなのに、千人は無理でしょ。それとも複数の入り口から突入するのか。

 

 戦いなんて、準備がほぼ全てである。訓練でできなかった事が本番で突然できるようになるなんて、少なくとも古瀬は思っていなかった。

 

 せめて実技試験に辿り着きたい。そんな事を思いながら、古瀬は試験に臨んだ。

 

 

 

 何やかんやあって、実技試験の会場に来た。試験会場には、かなり早い時間に入った。

 

 なお、筆記に論述なんて無かった。普通のテストで、完全に拍子抜けだった。

 

 服装は自由らしいので、動きやすい服を用意する。それ以外は、切断するための布のみ持ち込んだ。

 

 古瀬は作戦を確認する。憶えている限り、プレゼント・マイクが軽い感じでスタートを宣言して、周りは全員出遅れていた。

 

 なので、スタートの宣言と同時に先行し、ロボットを撃破していく。ある程度ヴィランを撃破した後は、戻ってレスキューポイントを稼ぐ。

 

 配られたプリントを見る限り、敵は四種類。一から三ポイントの敵と、お邪魔ロボット。古瀬は四種類の敵と巨大ロボットだと思っていたため、改めて記憶は当てにならないと思い直す。

 

 また、古瀬はロボットに武装があることに驚く。安全のために武装が無く、攻撃するにしても腕を振り回すとか、その程度かと思っていた。

 

 流石に実弾という事は無いとは思うが、記憶だと受験生の活躍を見せる場面だったため、攻撃されているイメージが無かった。

 

 1ポイントの仮想敵の下に、速いぞ! 脆いぞ! と書かれている。脆いって何だろう。素材が脆いのだろうか。そんな脆い素材でロボットを作れる技術の方が、古瀬としてはむしろ気になった。

 

 座っていると、同じ学校の生徒がやって来る。ちらほら、他の学校の生徒たちも座り始めている。

 

「おーす」

 

「うーす」

 

 視線をプリントに向けたまま、古瀬は返事をする。横を見ると、二つ隣の席に別の学校の生徒が座っている。

 

「受けるのって二人だけか? 石九字も受けるって言ってなかったっけ?」

 

「いや、あいつあの一件の後に転校しただろ」

 

「そうなのか?」

 

「当事者なのに関心が無さすぎる。仮にいるとしても、別の席だろ」

 

 そうなんだ、とほとんど関心が無さそうに古瀬は答える。今重要なのは試験であって、特に気にするようなことでもない。

 

 周りを見るが、アニメに出てくるキャラの姿は見当たらなかった。確率的に三百人見れば、一人は見つかるはずだが、関わるような理由もない。

 

「余裕そうだな」

 

「別にそうでもない。どうしたって無個性の俺は不利だからな」

 

「お前はいいじゃないか。学校で実績を残してるだろ。俺なんて何の実績もないぞ」

 

「あの実績が羨ましいか? あれを実績と言っていいのか?」

 

 揶揄うように言われて、古瀬は少し呆れて笑う。少し力が抜けた所で、そろそろ試験が始まりそうだった。

 

 プレゼント・マイクによる試験の説明が始める。各自指定の演習会場へと向かうように、とのことだった。

 

 協力しないように同じ学校の生徒は同じ演習場にならない。隣の生徒とはここで別れることになる。

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

 原作キャラの飯田がいる。これまでに会ったのは、ヴィランだったりゲストキャラだったりと、原作のメインキャラではなかった。この記憶はただの誇大妄想ではないのだなと、古瀬は久しぶりに実感した。

 

 遭遇に感動していると、緑谷の姿も発見する。飯田にボソボソ喋るなと怒られていた。

 

 まあそりゃいるよね、と古瀬は冷める。表立って攻撃したりするつもりは無いが、それはそれとして、やはりどうにも好きにはなれなかった。

 

 説明が終わり、着替えて演習場へと移動する。移動する方向を見ていたが、緑谷とは別の会場のようだった。

 

 古瀬はいつ始まってもいいように準備をする。攻撃手段は雷撃、行動不能にする一撃を叩き込んで即座に次に移るを徹底すること。

 

 絶縁体の素材が使われている場合は、布か拳で対処すること。その場合どこが中枢か分からないため、可能ならば関節部を狙って機能停止にさせること。

 

 集団の先頭に立って、開始の合図を待つ。

 

『ハイスタートー!』

 

 そんな軽い口調で試験の開始が宣言される。古瀬が演習場に飛び込むと、それを見たほかの受験生たちが動きを止める。

 

『どうしたぁ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れえ!! 賽は投げられてんぞ!!?』

 

 古瀬は目に付いた最初の仮想敵に、稲妻を纏った跳び蹴りを放つ。あまりにもあっけなく壊れたため、彼は逆に困惑する。

 

「本当に脆いな!?」

 

 最初の三体は雷撃で倒したが、気の無駄だと思い、殴るのに切り替える。上に蹴り上げて落とした方が簡単かなとも考えたが、確実に壊れるか不明だし、後続がそれに気づかなかったら危ないかなと思った。

 

 壊し方も大体わかり、先頭の利を活かして仮想敵を倒しながら駆け抜ける。十数体の仮想敵を倒した所で、そろそろレスキューポイントを稼ごうかと思った。

 

 真っ直ぐ駆け抜けたため、この時、古瀬は人がいる場所から離れていた。人が多くいる場所に行こうと、瞬間移動を使う。

 

「えっ!?」

 

「あれ?」

 

 移動した先は、受験生と仮想敵の間だった。後ろに仮想敵がいることに気付いて、古瀬は反射的にその仮想敵を破壊する。

 

「ごめんっ!」

 

 敵を倒してしまった事を謝りつつ、古瀬はその場から移動する。そして周りの顔や建物を見て、間違って別の試験場に移動していないか確認する。

 

 瞬間移動を使ったのは失敗だったな。結果として妨害のような形になってしまった事を反省しつつ、今後は使用を控えようと思った。

 

 古瀬は周りの危なそうな人を救助しつつ、まだ残っている仮想敵を倒していく。ある程度仮想敵が減った所で、ようやく巨大ロボットが現れる。

 

「おっ、来た来た」

 

 0P仮想敵が、建物を破壊しながら近づいて来る。多くの受験生たちが、倒す価値の無いその仮想敵から逃げている。

 

「おいあんた、何やってんだ」

 

 逃げる受験生の一人が、0P仮想敵の方に行こうとする古瀬を見て呼び止める。

 

「何って、あいつを倒しに行くんだよ」

 

「あれは0Pだぞ。倒したって意味ないだろ」

 

「本当にそう思うのか?」

 

 どういう意味だ、とその受験生は聞き返す。

 

「あれだけのデカブツ、そして0P、何かあるって言ってるようなものじゃないか。きっとあの中には隠されたポイントが存在するんだよ」

 

 そうかな? そうかも、とその受験生は信じかける。その間に古瀬は、0P仮想敵の所へと向かう。

 

 0P仮想敵は、緑谷と同じ会場だった場合は、あいつに譲ろうかと思っていた。そうしないとあいつが合格しないから。

 

 古瀬には、緑谷の道を意図して塞いでやろうとか、そういった考えは無い。ヒーローになりたければなればいいし、人を救いたいなら救えばいい。ただ、それはそれとして気に入らないのである。

 

 世界からの寵愛を受けているなら、このくらい突破できるよね、と難易度を上げたいのであって、道を塞いで、お前にはできねえ、と言って笑いたいわけではなかった。

 

 というわけで、もし緑谷と同じ会場だったら0Pは譲るつもりだった。しかしそうではないので、この仮想敵を古瀬は自分で倒すつもりだった。

 

 理由は、中学時代の素行が悪すぎて、普通に点を取っただけでは合格させてもらえるか分からないためである。

 

 闇バイト、人身売買、違法取引、薬機法違反、幼女誘拐、不法侵入、不法占拠、違法改築、学校での乱闘×3。

 

 雄英高校がどこまで把握しているのかは不明だが、普通に点数を取っただけでは合格しないのではないかと古瀬は思っていた。

 

 それに先程、受験生と仮想敵の間に割り込んだのも、もしかしたら妨害と取られているかもしれない。それもあって、できればプラスアルファが欲しかった。

 

 古瀬は仮想敵の前に立つ。分かってはいたが、建物より大きいロボットって何なんだ。二乗三乗の法則って知ってるのか。一体何の素材でできているんだ。軽量化に成功しているのだろうか、いや、重量で建物を押し潰しているからそれは無いか。

 

 気の探知で、周りの人の位置を確認する。巻き込まないように攻撃しなければならない。

 

 0P仮想敵を倒す修行をする上で、最も大変だったのは修行場所の確保である。この規模の敵を倒す技を練習するには、広い場所が必要だった。

 

 周りは山だらけだったが、この仮想敵を倒せるような爆発をドンドコドコドコやっていたら、すぐに通報されてしまう。

 

 では海はどうかと思ったが、海にも見張りの目がある。色々考えて、修行できる場所なんて無いんじゃないかと思った。どこでやっても通報されそう。

 

 という事で、実際に使う事は諦めた。それが理論的にできる事だけを確認して、後は小さな的を使ってその技の練習を行った。

 

 つまり、実際に大火力で打つのはこれが初めてである。仮想敵を倒せるかどうかは分からない。それでも合格するためには、リスクを冒す必要があった。

 

 仮想敵は腕を振り下ろす。それを見ながら、古瀬は正面に立って構えを取る。

 

「行くぞ。酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ!」

 

 古瀬は酒に酔って踊っているかのように舞踊した後、0P仮想敵に対して跳び蹴りを放つ。

 

「爆破!!」

 

 酔舞・再現江湖デッドリーウェイブはGガンダムに出てくる流派東方不敗の技である。この技は、気の波動を放ちながら跳び膝蹴りによって敵機体を貫き、その時に流し込んだ気を爆発させるという技である。

 

 対して古瀬は、仮想敵を貫くだけの力が無かったため、跳び蹴りを当てて、内部に気を流し込んで爆破している。つまり名前を借りただけの、かなり別の技である。

 

 最後の決めポーズと同時に、0P仮想敵は内部からの爆発によって炎上する。その巨体がゆっくりと倒れ始める。

 

 古瀬は仮想敵が倒れきる前に、近くにいた危なそうな受験生たちを拾っていく。倒れる前に全員を回収して離れた。

 

 拾った人をその場に置いて、残っている仮想敵を倒しに行く。しかしほとんど時間は残っておらず、すぐに終了のアナウンスが入る。

 

『終了~!!!!』

 

 やっと終わったと、古瀬は体を伸ばした。周りに「おつかれ」と言いながら、入口へと歩いて行く。

 

 まだ動けなさそうな人がいるが、その内リカバリーガールが来るだろうから助けなくてもいいかな、と古瀬は思った。

 

 人を助けますアピールをしてもいいが、できることが少ないのに気を遣うのもどうなのだろう、と止めておいた。

 

 できる事は全部全力でやったので、後は結果を待つことにした。

 

 

 

 雄英高校では、古瀬を合格にするかどうかについて、割と揉めていた。中学時代の素行もあったが、やはり無個性であることが問題視される。

 

「古瀬井梨、無個性ですか」

 

「間違いないんですか?」

 

「病院に確認した所、彼は間違いなく無個性だったそうです」

 

「ではこの力は何なんです? 普通の仮想敵を殴り壊すのはともかく、大型仮想敵を爆発させていますよ?」

 

「爆発物を持ち込んでいたとか?」

 

「だとすれば最初のはスタンガンを持ち込んでいたことになりますね」

 

 入学試験は持ち込み自由なため、持ち込むこと自体に問題はない。それが正規の手続きで入手した物であればの話だが。

 

 大火力の爆発物なんて、正規の手段で手に入れられる物ではない。

 

「ヴィランと戦うためには力が必要です。無個性に勤まるものじゃありません」

 

「でも点数は足りているんでしょう?」

 

「無個性はヒーロー科に入れないというのであれば、最初からそう提示しておくべきでしょう。試験だけ受けさせて、無個性だからと不合格にするのはいかがなものでしょう」

 

「それにこの受験生には、試験内容を事前に知っていた疑惑があります」

 

「試験に有利な道具を持ち込んでいたり、明らかにレスキューポイントを意識した動きを取っていたという話ですか」

 

 有利な道具はスタンガン、この時、雄英教師は電撃をスタンガンによるものだと考えていた。

 

「でも証拠は無いんでしょう? それに流出元もはっきりしていないわけだし」

 

「レスキューポイントも、それらしいものがあると思っていたという事は、会話内容からはっきりしています」

 

「それに、他受験生に対する妨害行為も行っています」

 

「でもこれって、お互い驚いているように見えるのよね」

 

「妨害行為とは言えませんが、この失敗はちょっと減点ですかね」

 

「確かに怪しい部分はあると思うわ。でもね、決めポーズはいいと思わない?」

 

 古瀬が0P仮想敵を倒した時の映像が投影される。『爆破!』の掛け声と共に後ろで爆発が起こり、その爆炎を背景に決めポーズを取る古瀬の姿が映り停止される。

 

「まあ、確かに」

 

「これはヒーロー向きですね」

 

 そんな馬鹿な、と相澤は思ったが、意見は古瀬を合格させる方向へと傾く。点数が足りていたことや、救助の過程など、その他の積み重ねがあってこそのことではあるが、合格の最後の一押しになったのは決めポーズだった。

 

 教師たちが話し合うのとは別に、根津校長はオールマイトと話をしていた。

 

「君は彼についてどう思う?」

 

「古瀬少年ですか? 私からは何とも……」

 

「あの力は、オール・フォー・ワンによって渡された力だと思うかい?」

 

 オールマイトは少し言葉に詰まる。その可能性を完全に否定する事はできなかった。

 

「調べた所、あの力は無個性でも使えるように、彼らが開発した技術らしい」

 

「彼らというのは?」

 

「彼と、その仲間たちの事さ。彼らも、彼と同じ力を持っていた」

 

「という事は、あの力はオール・フォー・ワンとは関係が無いという事ですか?」

 

 根津校長はその質問には答えず、少し考え込んで目を開く。

 

「だから君の意見が聞きたい。彼らとオール・フォー・ワンは無関係だと思うかい?」

 

「仮にあの力を与えたのが奴だとしても、力を持つことが悪ではありません。古瀬少年が人のために力を使うというなら、私はその手助けがしたい」

 

 オールマイトは古瀬の事を憶えていない。言えば思い出すだろうが、彼にとってあの時会った少年は、数多くいる助けた人の中の一人に過ぎなかった。

 

 根津校長とオールマイトは会議室に戻る。話し合いはまだ続いていた。最終的に根津校長が、採決を取ることを提案する。

 

「それじゃあ決を採ろうと思う。古瀬井梨の合格に賛成の人は挙手。では次に、反対の人は挙手をお願いします。反対は相澤君だけか」

 

「ヒーロー科に無個性の人間を入れるのは、合理的じゃありません」

 

「でも初の無個性ヒーロー、話題にはなるんじゃないかしら?」

 

「ヒーローになった所で、力が無ければヴィランとの戦いで命を落とすだけです」

 

 言い合いは続くが、一先ず古瀬井梨の合格が決まる。根津校長は書類にハンコを押した。

 

 

 

 一週間後、雄英高校から試験結果が送られてくる。一人で見るか全員で晒し者にするか迷った結果、古瀬は全員の前で開封することにした。

 

 道場に持って行って、通知が来たと伝える。どうなったのか聞かれたため、その場で開けて結果を見ることにした。

 

 封筒を開けると、中に入っていた小型の機械から映像が投影される。

 

『私が投影された!!』

 

「おや?」

 

 オールマイトの姿が映る。不合格者全員にこんなもの撮っている暇なんて無いだろうし、これを見て古瀬はもしかして、と思った。

 

『今回の君の合否については、様々な意見があった。筆記はできている。だが、無個性の君がヒーローとしてやっていけるのか。実技試験の君のポイントは40P、そして気付いていたようだが、これとは別に救助活動Pが存在する。君の救助活動Pは19P、合計59P。少ないと思うかい? それくらい、今回の議論は紛糾したんだ。しかし、君は見事に自分の力を証明して見せた。おめでとう、合格だ』

 

 古瀬は素直に、この結果に驚く。倍率や具体的な数字から考えて、正直、受かるとは思っていなかった。

 

「おめでとう」

 

「おめでとう」

 

 何かエヴァンゲリオンみたいで嫌だな、と思いつつも、その言葉を素直に受け取る。ありがとう、と何とも言えない表情で言った。

 

「それじゃあ今日は、お祝いするか」

 

「あー、そうだな。やるなら急いだほうがいいか」

 

 受かった以上、高校入学に向けての準備をしなければならない。ここから通うことはできないため、家探しからバイト探し、その他様々な手続きも行わなければならない。

 

「ここの片付けもやらなくちゃいけないし」

 

「やっぱり解散するのか?」

 

「どの道、雄英に受からなくても別の場所に行くつもりだったからな。この集まりも、今月限りで終わりだ」

 

 名残惜しそうに、少女はどことなく反対するような表情を見せる。

 

「別に残しておいても」

 

「元々廃墟だからな。残しておいても危険なだけだ」

 

 取り壊すというわけではないが、中の荷物は全て持ち帰らせるつもりだった。使いたいなら勝手に使えばいいが、この集まりは終わりである。

 

「次の土日に荷物を全て片付けて、解散祝いでもするか」

 

 古瀬はメンバー全員に、解散するから土日に来るように連絡を入れる。今使っているスマホも、闇バイトと縁を切るために後で全て粉砕しておかないとな、と思った。

 

 

 

 日曜日、古瀬たちは道場の片付けと掃除を行う。何人かは掃除する気が無かったが、少しだけ顔を出して、そのまま掃除を手伝うことになった。

 

 全てが終わったあとに、彼らは昼食の出前を取ることにした。

 

「これって何頼んでもいいの?」

 

「古瀬の奢りだって」

 

 最終的にこの場所に来るようになったのは十九人、その内、最後の集まりに参加したのは十六人だった。

 

 昼食を食べた後、彼らはそれらを片付けて建物から出る。建物の中は、少し物が減っただけで、さほど変わらない様子だった。

 

「お前らは地元の高校に進学するんだっけ?」

 

「まあ、大体の奴はそうだな。何人かは別の所に行くらしいけど」

 

 靴を履いて、扉から出る。もう散ったかと思ったが、建物の前で止まっていた。

 

 最後の、締めの何かを待っているような様子だった。古瀬は演説でもしようかと思ったが、多くは中学生だから、聞く耳を持たないだろうなと思った。

 

「それじゃあ最後に」

 

 古瀬は道場の看板を取り外して、真上、空に向けて投げる。そして炎を纏った気弾を放って撃ち抜く。看板は爆発し、いくつかの破片になって落下する。

 

「お疲れさまでした!」

 

「「「「「お疲れさまでした!!!!」」」」」

 

 降って来る燃える破片から身を守りながら、彼らはその場から散っていく。最後に消火をして、古瀬も別の方向に歩き始めた。

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