“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
(うぅ……まだ震えが止まらない)
寒くもないのに震える体を抱きしめながらアリファは街を歩く。
……今でもメイナとの戦闘を思い返すと恐怖で体が怯えだしてしまい何も手につかなくなるため、気分転換にと外に出てきたが、空気に触れるだけではトラウマは和らいではくれなかった。
(そもそもアイツは何だったの……?
――わたしたち
……そんなことを思いながら歩いていると、
「え……? おわ――!?」
爪先が引っ掛かってしまい、そのままガードレールの角に顔が落ちて――
(!? ヤバ――)
「――危ない!」
ガードレールに突き刺さる直前で体を誰かに抱きしめられ危機を回避した。
どしんっ! と、アリファともう一人の子は同時に尻餅をつく。
「だ、大丈夫……!?」
「あ、うん……ありがとう」
助けてくれた茶髪の子の問いかけに反射的にお礼を言う。『よいしょ』――と、少女は続けてアリファを立ち上がらせ、
「気をつけてね。ここら辺、
「平気だよ。……あー……えっと……」
「わたし、
あなたの名前、聞かせてもらってもいい?」
(な、なんていうかこの子……)
自然と、それでいて流れる水のような軽やかさでこちらの
だからこそか、こちらもさらりと名を名乗ってしまった。
「……ア、アリファ」
「アリファちゃんって言うんだ。可愛い名前だねー!」
「……っ、」
ノクス内では同年代の者などいなかったからか、こんな些細な事を言われるだけでも少し照れてしまう。
「ん……、どうも」
「アリファちゃんはこれから何処か行くの?」
「わたしは――」
――トラウマを癒すものを探すために街をぶらぶらする予定……と言いかけて口を閉じた。
……なに流されるように話そうとしてるんだわたしは。
まぁ、それほどこの子との会話を“苦”とは感じていないということだが……いや、それよりもどこか……
「アリファちゃん?」
「んえ!? あ――あぁ……! その、今は……しょ、
「しょーしん?」
「簡単に言えばちょっとショックになることがあったってこと!
――じゃあ、そういうコトだから! 助けてくれてありがとうね!」
言って、そそくさと立ち去ろうとして――
「待って!」
「ぐえっ!?」
「げほっ!? ど、どこ掴んでんの……!」
「わわ! ご、ごめんなさい……!」
首もとを擦りながら振り返る。
「あ、あのね……アリファちゃん、最近ショック受けることがあったんでしょ?
だったら、アリファちゃんが元気になるようにわたし手伝うよ!」
「て、手伝うって……そんなことして、あなたに何の得があるの?」
「得とかじゃないよ! 助けたいからだよ!」
ガシッ、と――優しく、強く、恵弥はアリファの両手を掴む。
「ね、ちょっとアリファちゃんの時間をもらえる?」
真剣な目で見つめてくる恵弥から、自然と目を反らしてしまう。
敵意を向けられることはあっても、こんなに間近で、真剣に見つめられるなんて初めてだ……。
「ま、まぁ……行き先、決まってなかったし……少しなら」
アリファの答えを聞いて、ぱぁあ! と、顔を明るくする恵弥。
「ありがとう! じゃあ行こっか――!」
そして手を握りながら小走りで駆け出していく。
「ちょ、ちょっと恵弥ぁー!?」
◆
恵弥に連れられやってきたのは公園だった。
「ここに用事があったの?」
「うん。多分もうすぐで――」
恵弥が言い切るよりも早く、目的の人物は公園へと入ってきた。
「恵弥ちゃーん! お待たせー!」
「いえ、全然待ってませんから大丈夫ですよ
恵弥の待ち人とは、この白い髪の少女の事らしい。
ほとんど同じ身長の恵弥やアリファとは違い、頭一つ分ほど大きい少女。
名前は……いま、
「恵弥、この人を待ってたの?」
「うん! たくさん遊んでくれるお姉さん、
「恵弥ちゃん、隣の子は?」
「この子はさっき出会ったアリファちゃん!
前に何かあったらしくてショックを受けて街を歩いてたんだけど……元気付けたくて、一緒に遊ぼうと思って連れてきたんだ。
アリファちゃんと一緒に遊んでくれる? 夢華さん」
「もちろん! 大歓迎だよ!」
近くまで歩み寄ってくると、アリファの前で膝を折り、目線を合わせる。
「初めましてアリファちゃん。私は晴風夢華。気軽に夢華って呼んでね」
「あ……うん、よろしく夢華」
えへへ、と笑う夢華を見ながら、
(……何だろう……この子と、最近どこかで――)
――方や、魔法少女に変身中は服装も髪型も変わり、
――方や、戦闘時にはローブのフードを深く被っている。
……偶然が重なり、二人はお互いが先日戦った敵同士とは認識できていなかった。
◆
鬼ごっこから始まり、かくれんぼ、ジャングルジムの上の鐘を鳴らす競争。
三人で一つになって滑り台を滑ったり、今に至っては――
「ふっふっふ……上手く隠してるつもりかもしれないけど――顔にでてるよアリファちゃん!」
「な――そ、そんなブラフに引っ掛かるわけ――!」
「こっちだー!」
「んなッ!?」
恵弥に右手のカードを引かれ、残っているのは左手の
「やったー! またまたわたしの勝ちー!」
「まぁ~た負けた~!
公園のベンチに座りながらババ抜き大会の真っ最中だ。
いつも一番にあがる夢華はニコニコして二人の戦いの様子を眺めながら、ドーナツの移動販売車から歩いてくる。
「二人ともお疲れー。――はい!」
トランプを終えた二人に夢華は買ったばかりのドーナツを差し出してくる。
「ありがとう夢華さん!」
目を輝かせて受け取る恵弥と違い、アリファは少々困惑したようにドーナツと夢華を交互に見る。
「ん? どうかした、アリファちゃん?」
「えっと……その、」
「……もしかして、ドーナツ嫌いだった?」
「いや、好き、好きだけど……! ……わたしが、もらっていいものかなぁ、って。
わたし、今日初めて二人に会ったし……そもそも、今日わたしは来る予定じゃなかったもんだから……」
「遠慮なんてせずに、貰っていいんだよ!
食べてもらいたくて私は買ったんだから」
すっ、と顔の前へと差し出されるドーナツ。
甘い香りが
「じ、じゃあ……遠慮なく」
「うん。どうぞ」
熱々のドーナツの油が染みだした耐油袋を受け取り、
「ありがとう……いただきます」
「いただきまーす!」
元気のいい恵弥と一緒にかぶりつく……そして、
「~~~っっっ!!」
そのあまりの美味しさに目を見開いた。
外側は固いのにすぐに噛み砕けて砂糖を砕いたかのような甘さが口の中に広がり、中の柔らかい生地も、どちらも熱々なのに癖になる美味しさをこれでもかと押し出している。
『美~味しい~!!』
恵弥と同時に美味しさに包まれた『幸せ』の表情を表に出す。
笑顔になった二人を見ながら、夢華も自分の分のドーナツを食べる。
「美味しいでしょ? このお店のドーナツ、私のオススメなんだ!」
お互いに笑い合いながら一口、また一口と食べていくと、あっという間にドーナツを平らげてしまう。
「ふぅ~……美味しかった~」
「改めて夢華さん、ありがとう!」
「どういたしまして~」
お礼を告げた恵弥はそのままアリファの顔を覗き込む。
「ど、どうしたの……?」
「いひひ――!」
嬉しそうに笑った恵弥は静かに微笑んで、
「だってアリファちゃん、笑ってるんだもん!」
え――? と、きょとんとしてしまうが……確かに、と気づく。
鬼ごっこから、今のドーナツに至るまでに、
いつからかはわからない……けれど、どこからか自分は自然と笑い初めていた。
家族とも言えるワーニスやミアと話している時には安心感こそはあったが、こんな風に笑うことなど少なかった。
……ましてやメイナとの戦闘の後はトラウマも重なり、笑顔になることなど一度もなかった。
「ショックを受けてたって言ってたけど……これで少しは元気になれたかな?」
「――――、わたしは――」
……思い返しても体は震えなかった。
その事に気づいたら――胸の中に不思議な安心感が広がった。
大きく、優しく息を吐き出して、
「うん――元気になれたかも」
「本当!? よかったー!」
よかったのはこちらだというのに、恵弥はまるでそれを自分の事のように喜んでいる。
くすっ、とその様子に笑みを溢して、
「不思議な人ね、あなたは」
「え?」
「見ず知らずのわたしを気遣ったばかりか、元気になったのを自分の事のように喜ぶなんて」
どうしてそういう気持ちになれるのか、
自分にはわからない……ノクスでは一度もそういう事がなかったのだから、余計に。
でも――そんなアリファの疑問を吹き飛ばすように恵弥が声を上げてきた。
「見ず知らずじゃないよ!
わたしとアリファちゃんは
友達が元気になったのを見たら、嬉しくなっちゃうでしょ?」
「――――友、達?」
「うん! 友達!」
「――――」
疑問は一瞬で晴れていった。
友達、と。
目の前の彼女はそう言ったのだ。
(……い、いや、でも、友達になりたいなんてお互いに一言、も――)
――――最初。
最初に……この子と出会った時、
自分は、この子との会話を“
それどころか、
(あぁ、そっか――)
あの時にはもう、自分は彼女に気を許していて、
彼女は自分の事を“友達”と思っていたのか――。
「!? ――マズい……!」
「へ?」
恵弥が突然立ち上がったかと思うと、公園に設置されていた時計を見ながらあわあわとし出した。
針は五時を指している。
「わたしもうすぐ門限だ! そろそろ帰らなきゃ!」
「じゃあ、今日はここまでだね。私もそろそろ帰ろうかな」
恵弥が立ち上がると、アリファも反射的にベンチから立ち上がった。
「今日は本当にありがとう、夢華さん!」
「あ、ありがとね、夢華」
「うん。また遊ぼうね、二人とも。
二人とも、自分で家に帰れる?」
「わたしは大丈夫だけど、アリファちゃんは?」
「わたしも平気、自分で帰れるよ」
「なら、安心だね」
最初に出会った時のように、恵弥は別れ際にアリファの両手をギュッと握って、
「アリファちゃん、また遊ぼうね!」
「っ――うん。また、ね」
三人はそれぞれ別の道だった。
初めに夢華が二人に手を振りながら公園を後にし、
「またねー!」
恵弥もぶんぶん! と手を振って公園から出ていった。
そして一人残ったアリファは恵弥が見えなくなるまでその背を見送って、
「
小さく手を掘り返しながら、その
◆
「また……か」
――また今度、今日のような楽しい日を過ごせる。
その事実がアリファの胸の内を温もりでいっぱいにしてくる。
「ふふっ、はは――っ」
込み上げる
(それにしても……“友達”、か)
こんなわたしにも友達が出来るんだなぁ……と、恵弥の顔を思い出しながら微笑んでいると、
(“――――アリファ”)
「おわっ!?」
突如として脳内に響いてきた男の声に飛び跳ね言葉を返す。
「
ワーニス。アリファ。ミア。
――
三人の生みの親であり、
軽く……冷たく、アリファに“指示”を出した。
(“
「…………………………は?」
初めての友達、なのに……………………