“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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第一章(12)曇り始めた日常

「ね、ねぇ、コルバ……それって、どういうこと?」

 

(“どうもこうも、あの恵弥というガキが白い魔法少女と関係を持っているからだ。人質には丁度いい”)

 

「は……? え、あの()が!?」

 

(“そうだと言っているだろう……わかったらさっさと捕まえてこい”)

 

 イラついたように言葉を吐き捨ててくる。

 

「……いや……でも……、」

 

 恵弥(めぐや)が走っていった方向を見る。

 まだそう遠くには行っていない。アリファなら問題なく捕まえられる距離だ。

 恵弥と出会う前だったら二つ返事で引き受けていた。

 

 でも今は違う……あの娘はもう友だちなのだ。

 家族であるワーニスやミアとは違う愛情を向けている存在だ。

 捕まえてこいと言われて二つ返事で引き受けられるほど安い関係ではない。

 

(“俺の言う事が聞けないのか?”)

 

「……っ、」

 

 言葉に詰まり、会話に沈黙を落としてしまう。

 どう返すべきか考えていると――はぁぁぁ……と、深いため息が吐かれ、

 

(“なら連れてこいとは言わん”)

 

「っ! ほ、ほんと……!?」

 

(“あぁ……俺が捕まえてやる(・・・・・・・・)”)

 

 安堵(あんど)は一瞬で霧散した。

 コルバが手を下す……そう認識した途端、息を飲んだ喉を無理やり抉じ開け、念話を切られる前に言葉を絞り出した。

 

「ま、待って!! わ、わたし……! わたしがするから……っ!」

 

 コルバに生み出された三人には少なからずとも優しさはある。

 

 ワーニスは、いつも二人に手料理を振る舞い、

 アリファは、人を小馬鹿にしながらも自分に良くしてくれる者は無下にはせず、

 ミアは、卑怯な手を好まず他者を労る心を持っている。

 

 ――だがコルバは違う。

 優しさも慈悲もなく、自分の願望を満たす為だけにこの世界を『魔界』へと変えようとしている。

 

 そんなコルバが恵弥に手を出したらどうなるか……抵抗をすれば手足など簡単に折られてしまうだろう。

 死なない程度にその身を潰されるだろう。

 

 ……ならば自分が行くべきだと思うのは当然であった。

 

(“それでいい――なら急げ……万が一にも邪魔は入らぬよう、白い魔法少女とは違う『黒衣の魔法少女』の方には既に手を打ってある”)

 

「……手を打ってる?」

 

(“あぁ……”)

 

          ◆

 

 メイナとのデートより三日。

 ……今でもコスプレ地獄を思い出すと恥ずかしかっただけでなく途中からヤケクソになったことに悶絶しそうになるが、それでも何とか立ち直れていた。

 

 そして今日、買い物帰りの道で――

 

 

 

 

 ――――斬ッッッ(・・・・)!!

 

 

 

 

 何度目かの大鎌が振り下ろされる。

 大地に巨大な亀裂を走らせる一閃。それをすんでのところで回避した彩李(さいり)は胴体を二つに分けようとする一撃を防ぐ。

 

「ちっ……!」

 

 自分の得物である『黒紫の剣』が火花を散らす。

 堅牢の如き防御力を誇る『黒衣』を纏い――(厳密には違うが)魔法少女の姿になった彩李はつばぜり合いを弾き、回し蹴りを放つ。

 

 ガッッッ――!! という衝撃と共に相手の体が後方へと飛ぶ。

 相手は靴底を地面に当て、摩擦(まさつ)を起こし勢いを止める。

 

「実際にやり合うのは初めてだが……中々やるじゃないか、桃色髪」

 

 恵弥の連れ去りに邪魔が入らぬよう、コルバの打った手――それがこの少女(魔物)だ。

 魔物――ミアは口元の汚れを拭い、片手でくるくると大鎌を回し、構え直す。

 

「ミア……」

 

 対する彩李も気を引き締め直す。買い物帰りに突如として襲撃してきたミア。

 以前のように話しかけてくるのではなく、いきなり襲ってくる荒々しさに息を呑んだ。

 

「悪いな、今回は穏便に出来そうにない。

 コルバ(ボス)からの直々の命令でな――ここを通りかかったら倒せ、とな」

 

 ――この先には、アリファと恵弥がいる。

 もし連れ去ろうとするのを目撃すれば間違いなく彩李は止めに入るだろう。

 だからこそミアはこの場に配置された。

 

「ふっ――!」

 

 彩李はその場からかっ飛び、間髪入れずに四連撃。

 本格的に戦う事になるのは初めてだが、数撃打ち込んだだけでわかる……攻撃の受け流し方から、剣舞を受けても一切の動揺を見せない様子。

 ワーニスやアリファの比ではない――三人の中でも格段に実力は上だ。

 

「お前らのボスは何を企んでる?」

 

「それは私にもわからん……お前を足止めしろ、としか言われていないからな。

 それに、以前のように話を逸るに逸らされ戦えなかったのは私としても不本意だからな……この話はチャンスとも思った――さ!」

 

 四連撃を(しの)いだミアが、空いている左手を(かざ)し魔力を(きら)めかせる。

 顔面へと迫る魔力を避け、横凪ぎの蹴りを振り抜くも(かわ)され……距離を取ろうとバックジャンプで飛び退くミアへと飛びかかる。

 

 彩李の斬りかかりを受け流し、次は跳躍(ちょうやく)

 

「――ッ!」

 

 魔力の奔流が彩李を呑み込もうと放たれる。

 地面に到達した魔力は大爆発を巻き起こすが、そこに彩李の姿はない――辺りの建物を空への足場とし、爆発から一秒足らずでミアに近接戦を持ち込む。

 

(やるな……っ!)

 

 空を飛ぶ手段を持ち得ない二人の自由落下の空中戦が始まる。

 落下までの時間だけ考えれば三秒もない。

 ――そこに戦闘を含めれば時間は二秒もない。

 

 僅か一秒の間に二人は得物を踊らせ、互いに火花を散らし、

 

「ぐお……ッ!?」

 

 次の一秒の間に彩李の蹴りがミアの腹部を捉え、地面へと斜めに吹き飛んでいく。

 空中で身を回転させ、地面への激突は()けたミアが顔を上げれば――魔力を纏わせた彩李の剣が迫っていた。

 

「は――! せ、ァア――!!」

 

 ガァンッッッ!! と。

 魔力の込められた剣を受ける度に並々ならぬ魔力が辺りに弾け飛ぶ。

 マトモに受けたらマズい――直感が動きを研ぎ澄まし、大鎌が一閃一閃を確実に防いでいく。

 

(ここだ……!)

 

 隙を突いたミアが彩李の顔面に拳を打ち込む。

 確かな手応えと共に彩李の体は殴り飛ばされるが、

 

「っ――はぁッ!」

 

 身を(ひるがえ)した彩李が大地を裂く斬撃(ざんげき)を繰り出す。

 コンクリートを裂きながら迫り来る高さ一〇メートルの巨大な魔力の斬撃。

 絶大な威力を誇るソレを前にしてミアは眉一つ動かさず、体内の魔力を奔らせる。

 

「――ぁぁぁああああああッ!!」

 

 ボバッ!! と――迎え撃つは左の(てのひら)より放たれる魔力(光線)

 魔力(斬撃)魔力(光線)は数秒間押し合い……やがて相討ちとなり、街そのものが悲鳴を上げる暴風へと姿を変えた。

 

          ◆

 

「ひゃ……! ……な、なに……?」

 

 突如として街そのものが悲鳴を上げたかのような巨大な揺れに立っていられず、恵弥(めぐや)はどしん! と尻餅をついた。

 

「今のって……?」

 

 振動が奔って来た方向へと振り返る。

 その方向は、自分が先ほどまでいた公園がある方向と一緒だった。

 

「……アリファちゃん」

 

 最後まで公園に残っていた友だちを思い出す。

 もしまだ残っていたとしたら……あの()は大丈夫だろうか?

 

「――っ、」

 

 不安より心配が勝ってしまい、危険かも知れないと思いながら来た道を戻る。

 そして曲がり角を曲がったところで、

 

「おひゃあ……!?」

 

 目の前に人影があり、二度目の尻餅をついてしまった。

 だが、すぐに恵弥の表情は安堵へと変わる……そこに立っていたのは心配していた少女、アリファその人だったからだ。

 

「アリファちゃん! ――よかった。今の強い振動が公園の方からだったから心配だったんだ」

 

「……」

 

「……っていうか、もしかしてアリファちゃんのお家もこっちなの? なら、一緒に帰らない? さっきみたいな揺れが来たら心配だし……!」

 

「…………」

 

「? アリファちゃん? どうしたの……?」

 

 (うつむ)いたまま一言も喋ろうとしない友だちを心配し、顔を覗き込もうとする。

 それでも顔は見えなくて……代わりに、まるで何かを耐えるように拳を握り締めているのが見えた。

 

「ど、どうしたのアリファちゃん、具合悪いの……?」

 

「………………恵弥、」

 

 やっと言葉を発してくれた事にホッとしたのも束の間、アリファは一瞬で恵弥の(ふところ)にまで入り込んで来て、

 

「――恨んでいいから」

 

「え――?」

 

 恵弥がそれ以上戸惑うよりも先に、回された手刀がうなじを殴った。

 

「うっ!? ……ア、リファ……ちゃん……?」

 

 気を失った友だちをそれ以上傷つけないように抱きしめる。

 

「……ごめん……ごめんね――――っ」

 

 必死に抱きしめながら、どうにもならない謝罪を繰り返す。

 何度も、何度も……、

 

 

 

(“おい、早く連れてこい”)

 

 

 

「本当に……ごめん……」

 

 鬱陶(うっとう)しい声が脳内に響いてもなお、(すが)るように謝り続けた……。

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