“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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 アリファの曇らせ、急加速


第一章(13)……そうだ、お前のせいで■んだ

 ……腕の中には気絶した恵弥がいる。

 アリファは用が済んだのにも関わらずノクス本拠地に戻らないまま、森の中で木を背に座り込んでいた。

 

「……」

 

 今はコルバからの念話もない。

 その事実だけで心の重りが取れたような気がする……でもモヤモヤだけは絶対に取れない。

 

(……何でここにいるんだろう、わたし)

 

 後は帰るだけなのにその行動を完全に拒否している。

 このままではミアの時間稼ぎも無駄になるかもしれないのに、それ以上に腕の中の少女が気にかかってしまう。

 

 言葉にするのが難しい、

 言葉にできない思い、

 ――こんなのは初めてだ。

 

「お? やっぱここだったか」

 

 こんな心情の時には場違いの明るい声が鼓膜を振るわせる。

 しかし不快感も何も感じなかった。

 その声は日頃からよく聞いている“家族”のものだったから。

 

「……ワニちゃん」

 

「――よっ」

 

 ノシノシ、と重い体を動かしながらワーニスが傍らにまでやって来る。

 

「中々帰ってこねぇから、迎えに来たぞ」

 

「どうしてここってわかったの……?」

 

「お前、何かあるとここに来てよくぼーっとしてるからな。ここだろうなと思ったんだ」

 

 ……大きな手で頭を撫でてくれる。

 そのお陰で少しだけ心を落ち着かせる事ができた。

 

「――ここは、ワニちゃんとミーちゃんとわたしの三人で、よくピクニックに来る場所だから」

 

 街の外れにありながら、街を見下ろせる隠れた名所。

 どれだけ騒いでも注意されず、見られる事もない、三人の秘密の場所。

 

 料理が得意なワーニスがお弁当を持ち、

 外へ出るのが好きなアリファがここを見つけ、

 仕事を優先するミアでさえも二人の誘いだけは仕事よりも優先していた。

 

「いつ見ても綺麗だな、ここは。

 ……ところで、その子どもは?」

 

 腕の中の恵弥に目を向けてくる。

 

「えっと……この()は……」

 

 別に隠す事でもない。

 むしろ、誰かに聞いて貰いたかった……。

 包み隠さず、コルバから言われた事を話す。

 

「――なるほどな」

 

 親身になって聞いてくれたワーニスは聞き終わると、そっと息を吐くように呟いた。

 次に何を言えばいいか分からず黙り込んでしまう……すると、

 

「お前はどうしたいんだ?」

 

「――え?」

 

 突然の言葉にワーニスの顔へと首を向けると、ワーニスは口元を緩めながら問いかけていた。

 

「だから、お前はどうしたいんだよ?

 コルバからの命令はこの通り済ませた。でもお前は帰らずここにいる……つまり、コルバからの命令に不満があるからだろ?

 その証拠に、人質にするその子を大事そうにしてるじゃねえか――さっきからその子の頭をずっと撫でてるぞ?」

 

「え?」

 

 急いで見下ろすと、無意識のうちに恵弥の頭をずっと、ずーっと撫でていた。

 穏やかな寝息を立てている恵弥の顔を、静かに、慈愛(じあい)に満ちた顔で眺める。

 

「本音を言うとね、この()を巻き込みたくないの。

 命令通りに捕まえたけど、本拠地に連れて帰らないのはそれが理由……でも――」

 

 ぞくり、と。

 胸の内に広がる恐怖を感じながら、

 

「このままじゃ、いつか念話を繋げられて、連れて来るように言われちゃうでしょ? ……そのまま見張られてたらこんな風に隠れている事もできない。

 そうなったら連れていくしかないから……どうすればいいかわからなくて……」

 

 魔法少女への人質として使うと言っていたが……あのコルバだ――傷つけられるかもしれない、下手をすれば殺されるかもしれない。

 だから連れていきたくない。叶うのならこのまま家に返してあげたい。

 

「この()は……わたしの初めての友だちだから」

 

「――――」

 

 一言一句を聞き漏らさないように耳を傾けていた。

 アリファの言っている事はコルバへの裏切りだ。もっと言えばノクスそのものへの裏切りにもなる。

 

「どうすれば、いいのかな……」

 

 コルバの命令と、恵弥の安全。

 その二つが(せめ)ぎ合い、アリファの心にはモヤが出来ていた……このモヤを晴らすにはどうするべきなのか――

 

「――いっそのこと魔法少女に助けを求めちまうのはどうだ? 俺も付き合うぜ」

 

「……へ?」

 

 トンでもない変化球が飛んできた。

 あまりの事に間抜けな声をあげてしまう……今、彼はなんと?

 

「それが一番安全だろ」

 

「……ワ、ワニちゃん? どうしちゃったの? トラウマが刻まれ過ぎて思考回路が次のステージに登っちゃったの?」

 

「いやいや、俺は正常だぜ? ただ、お前の迷いを晴らすにはそれがいいんじゃねえかってな」

 

「そ……それは……そうかも、しれないけど……。

 それは……裏切りだよ?」

 

 ふっ、と。ワーニスは優しく笑いながら、

 

「なーに言ってんだ。さっきまで裏切りを考えてたのはお前じゃねえか。

 人質として連れていく筈の子どもの身を案じて連れていっていない時点で、裏切りに片足突っ込んでるだろ?」

 

「む……むぅ~……」

 

 何も言えず唇を尖らせる。

 

「……正直な話、俺は前のアレでひびっちまってずっと後方に回ってるだろ? だからこのままじゃ、コルバに『処分』されるだろうなって思ってるんだ。

 ――だったらもう魔法少女側に回っちまった方が、まだ長生きできるんじゃねえかって思ってな……流石に死ぬのはイヤだし」

 

「ワニちゃん……」

 

「そんで、そこに裏切ろうか考えてるお前ときたもんだ。タイミングはバッチリ。

 お前がその子を助けたいから魔法少女側に行くってんなら俺も行くぜ。二人なら不安も(やわ)らぐだろ?」

 

「でも……そしたらミアが」

 

「……心配ないと思うぜ?

 アイツもコルバより俺たちの方が好きだからな、もしかしたら俺たちに続いてノクスを辞めるかもしれないぞ?

 仮に抜けないとしても、アイツは俺たちの中では一番の世渡り上手だ。死ぬことはないだろうよ。

 ――ほら、後はお前次第だぜ?」

 

 ワーニスの、さっぱりとした性格の言葉に心が軽くなっていく。

 迷い(モヤ)が晴れるように、体が気力を取り戻していく。

 恵弥を抱いたまま、すっと立ち上がり、

 

「恵弥……酷い事してごめんね。今すぐお家に返して上げるから」

 

「よっし! 決まりだな!」

 

 トン! と、背中を叩かれる感覚に元気を貰い、

 ふふっと笑いながらワーニスを見上げる。

 

「ありがと、ワニちゃん!」

 

「へへ! いいってことよ!」

 

 ガシガシ! と頭を強く、それでいて優しく撫でてくるワニの手。

 それに温もりを感じながら微笑み、

 

 

 

 

 

 ……ワーニスの心臓を貫く(・・・・・・・・・・)ヒトの手刀を見た(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「ぁ…………え……?」

 

「な、――ん……」

 

 襲撃者の顔を見るよりも先に、ワーニスが振り返るよりも先に……襲撃者の低い声が響いた。

 

「……裏切りか?」

 

 それは『ヒト』だった。

 厳密にはヒトの形をした魔物(・・)

 黒髪に黒眼(こくがん)、その身を黒い服装に包んだ、人間として見れば成人している男。

 

 ……その瞳に慈悲はなく、見る者全てを見下す支配者としての威圧があった。

 その正体は――

 

「コ……コルバ(・・・)……ッ」

 

「裏切り者に用はない」

 

「お、ま……ガッ――!?」

 

 引き抜かれる手刀。心臓を破壊され、仮にも(ふた)になっていた手を抜かれたワーニスは込み上がる血を押さえきれず吐き出してしまう。

 ピシャリ……! とアリファのみならず、腕の中の少女にまで赤い液体が付着する。

 

「ワニちゃん……っ!!」

 

 投げ捨てられるワーニスと、へたり込むアリファ。

 涙を流しながらも声をかけようとするが、それ以上にコルバがここにいるという恐怖が勝り、びくびくと震えながら顔を見上げてしまう。

 

「アリファ」

 

「ひ……っ!!」

 

「そのガキを家に返す、だったか?」

 

 ただ歩いているように……追い詰めるようにゆっくり距離を詰めるのでもなく、スッ、スッ……と軽い足取りで迫ってくる。

 

「ぁ……っ……、ぅ…………」

 

 完全な裏切り行為……それを肯定し手助けしようとしたワーニスがこうなったのだ……裏切りを考えた張本人がどうなるかなど、火を見るより明らかだ……。

 

「死ね」

 

 魔力で編まれた剣が振るわれる。

 首を跳ねる一刀は必死に恵弥を抱きしめるアリファを一瞬で絶命させる――

 

「……………………、ぇ……?」

 

 ――ことはなかった。

 それよりも一瞬早く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その鎖を持つのは他でもない――

 

「ワニちゃん――!!」

 

「ぐ、ぬぅ……!」

 

 血濡れの歯ぎしりでコルバを睨む、死にかけのワーニスだった。

 

「早く……逃げろ! 魔法少女のところへ――」

 

 

 

 ――――斬ッッッ(・・・・)!!

 

 

 

 ワーニスの顔は驚きの表情のまま上半身と共に宙を舞っていた……。

 下半身をその場に置き去りにして(・・・・・・・・・・・・・・・)……、

 

「……  …………  。  、 ワニ……ちゃん……?」

 

 顔色一つ変えぬまま振るわれた一閃は鎖ごとワーニスの体を両断した。

 ボトッ……そんな鈍い音と共に下半身から離れた位置に上半身が落ち、色を失った瞳がアリファを見つめている。

 

「これでもまだ逆らうか?」

 

 ……最後の選択肢が与えられる。

 だが解答なんてあってないようなものだ。

 

 ……否定の意を示すことができない。

 だって、そんなことをすれば……、

 

「次は……ミアの番(・・・・)だぞ?」

 

 もう一人の家族の命まで奪われる……。

 残されたアリファに選択肢などなかった。

 ……死の恐怖……ワーニスの死亡……そして腕の中にいる恵弥への申し訳なさで胸が張り裂けそうになり、

 

「……お、お願いします……従い……従いますから!

 ミアとこの()には何もしないでください……!」

 

 恵弥を抱いていなければ地面に額を擦りつける土下座をしていたことだろう。

 みっともなく涙を流し、鼻声で、びくびくと震えた声だったが、コルバに届いたことを祈るばかりだった。

 

「ふっ……ミアはいいだろう。

 だがこのガキは使わせてもらう」

 

 腕の中から強引に恵弥を奪われる。

 一瞬で引き剥がされた友だちを助けようと(おび)えながら手を伸ばす。

 

「ぁ……、あ……、か……返し、て……!」

 

「…………」

 

 手を伸ばすアリファをゴミを見るような目で(さげす)み……まるで当然の事のように恵弥の指を折ろうとする(・・・・・・・・・・・)

 

「ッ!! や、やめ――!!」

 

「命さえ残ってればいいんだ……聞き分けが悪いなら、このガキの指の一本や二本、ここで折ってやろうか?」

 

「ぅ……、……ぐ……ッ――」

 

 ……心が折れるという事を、初めて実感した。

 放たれた言葉が毒矢だったように、それに射貫かれたアリファの体から力が抜けていく。

 伸ばしていた手からも、かろうじて前屈みになっていた体からも……、

 

「…………ぅ…………ぁ…………」

 

 何もできず、何も守れず……服従するようにアリファは俯くことしかできなかった。




【ワーニス】

 コルバに体を真っ二つにされた。
 アリファやミアにとっては、さっぱりとした性格の兄貴的な存在だった。


【アリファ】

 家族の一人を真っ二つにされ、もう一人を人質に、さらには友だちを盾として扱われ、心が折れてしまった。

 アリファにとって、ワーニスは『兄』、ミアは『姉』に当たる存在。


【コルバ】

 この作品のラスボス。
 ノクスの他の三人とは違う、完全悪。

 三人を生み出した父親的存在ではあるが、当の三人は生み出してくれた恩はあれど、その性格を嫌っており、父親とは思っていない。
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