“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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※今回の話、ちょっと曇らせ過ぎじゃないかと思われるところがあるかもしれませんが、
 作者は曇らせは晴らす派なので、ちゃんと希望はあります。そこはご安心ください!

 ……なお、今回の話にはショッキングな展開がありますが、この作品は鬱でも胸糞でもありません。
 ですから大丈夫です! と、先に言っておきます。

          ◆

 曇らせは止まらない。
 ……全ては、お前のせいなのだから


第一章(15)なんで…………どう、して…………?

 森を抜け、広場となっている場所に飛び込む直前に魔法少女へと変身する。

 

「恵弥ちゃん――!」

 

 顔を上げる。

 周囲を注意深く見渡すまでもなく……目的の少女はそこ(・・)にいた。

 

「ひぐっ……えぐっ……! …………ぇ、魔法、少女?」

 

 どれだけ泣きじゃくったのか……目を真っ赤に充血させ、服の袖口を涙で濡らし、今もなお体を震え上がらせている恵弥が――筒上の透明な機械(・・・・・・・・)に閉じ込められていた。

 

 すぐに助けに駆け寄ろうとするも、その足を止めさせる声が広場に放たれた。

 

「やっと来たか、魔法少女」

 

 黒髪に黒眼。(はた)から見れば青年にしか見えない存在。

 ……だがそれが人間ではなく魔物であるということは、その身から放たれる濃密な魔力が証明していた。

 

「コルバ……ッ!」

 

「久しいな、魔法少女」

 

 恵弥の入れられた機械に手を添えながら、こちらを見下す。

 

「くくっ……このガキと親しくしているところを見ていた(・・・・)が……まさか本当に釣られてやってくるとはな」

 

 コルバとは数回あった程度ではあるが、それでも今まで相対した魔物の中でも、ヤツが一番冷酷な存在であることは身に染みている。

 

 ――アイツは“殺す”。

 ……何の躊躇(ちゅうちょ)躊躇(ためら)いもなく、筒の中に入れられている恵弥を今この瞬間にでも殺すことができる。

 

「……恵弥ちゃんに何をするつもり?」

 

 だというのに……コルバ(ヤツ)は自らの趣味のために、非道なやり方を取ってきた。

 ……それは、筒を擦りながら語られた。

 

「……このガキを入れてる筒はな。時間経過で上の重りが落ちてくる仕掛けが施してある」

 

 恵弥の入れられている筒の上には……恵弥など簡単に潰せてしまうであろう巨大な重りが、自分の圧殺(しごと)を今か今かと待ちわびていた。

 

「そうだな……あと、五分程度でこのガキは潰れるだろうさ」

 

「っ……へ――?」

 

 言われたことを理解できないのか、それとも拒んでいるのか。

 恵弥が涙を流すことさえ忘れて、呆然とコルバの言葉を聞き……、

 

「……ぃ……や――い、やッ! 嫌だ……! 嫌だ!! 嫌だッ!! た、たす、け――助けてええええッ!!」

 

 ガンガンガンッ! と錯乱(さくらん)しながら割れる筈もない筒を両手で狂ったように叩く。

 

 ……その叫びが心の潤いとなるコルバはニヤニヤと笑い、

 ――その叫びに答えようと魔法少女は敵へと飛び掛かる。

 

「コルバァ――ッッッ!!」

 

 加減などない。

 飛び込みと共に振り下ろされる一刀はコルバのみならず、この山さえも両断するだろう。

 だというのにニヤニヤとした笑みを崩さず防御の姿勢も取らない。

 ならば一瞬後に体ごと命は断ち切られて――

 

 

 

 ――斬ッッッ(・・・・)!! と。

 夢華の斬撃よりも先に(・・・・・・・・・・)――半透明の『()』の斬撃が繰り出された。

 

 

 

 攻撃を防御に変え(しの)いだ夢華は、幻の斬撃を放ってきたもう一人の魔物を睨む。

 

「邪魔するな……!」

 

「――――」

 

 フードを被った魔物――アリファは口を開かない。

 

 ……恵弥を助けたいのに助けられない。

 ……コルバを倒してでも救わなきゃいけないのにそれもできない。

 …………何もできずグチャグチャになった心が、全ての意欲(いよく)に服従という名の鎖を付けてしまっていた。

 

 夢華の連撃を『幻』の具現化を防御に回し防ぎきる。

 ……しかし一瞬の隙を突かれ、力の限り振り抜いてきた左の拳がアリファの頬をフードごと貫いた。

 

「ッ……!? か、は――!」

 

 バッ! と片手を向け、手のひらより流星を思わせる幾条もの魔力を放つ。

 四方八方より迫る魔力。

 全身を穿たれたアリファは吹き飛び、森の木を何本もへし折りながら奥へと消えていった。

 

 ……これで邪魔者はいない。

 傍にはコルバがいるが、今の夢華には恵弥を閉じ込めている筒しか眼中にない。

 

 ……この際コルバを殺すのは後回しだ。

 時間経過と共に重りが落ちてくるならば先に()すべき事は決まっている。

 

「い、らァア゛――ッ!!」

 

 一閃が炸裂する。

 恵弥よりも上の部分を切り飛ばす。重りごと筒は無惨にも切り殺される……筈、だった――

 

「な――!?」

 

 ……筒には傷一つ付いていなかった。

 渾身の斬撃を嘲笑うように、筒は破損どころかヒビ一つ入っていない。

 

「こ、のッ!!」

 

 次は剣を突き立てる。

 魔力を剣の切っ先に込めた突きだったが、これであっても欠けることさえしない。

 

 焦りに焦りが重なる……どうすればいいのか、どうやったら助けられるのか……そう思考している間に、

 

「隙だらけだな」

 

「ぐ――ッ!? か……!」

 

 コルバの蹴りが死角より振るわれた。

 地面にクレーターさえ刻む蹴りは、夢華の脇腹(ひふ)を割り、内臓や肺までもを損傷させる。

 

「あ、あぁ……ッ! ぐ、ご――!?」

 

 沸き上がってくる(ソレ)を逆らわずに吐き出し、損傷した部位に治癒魔法をかけながら顔をあげる――その時だった。

 

「――?」

 

 ガガ(・・)()……ッ! と。

 何か重いものが動き出す(・・・・・・・・・)ような、そんな音が目の前より鳴った。

 音の発信源はコルバ……ではない。コルバのすぐ近く(・・・・・・・・)

 

「え――? い、やァア……ッ!!」

 

 喉が裂けるような絶叫だった……叫びの元へと顔を向ければ、

 

「いっ――う……あ……!」

 

 見れば……筒の中の重りが一気に下がり、恵弥を押し潰そうとしていた。

 恵弥の小柄な体が壊れていくのを楽しむように、ミシミシッ! という体からの悲鳴を重りは堪能(たんのう)している。

 

「っ!? な、なんで……!?」

 

 時間経過で落ちてくる筈だ。

 先ほどの説明を聞いてからまだ三〇秒も経っていない。

 いくら筒の中とはいえ、それなりに距離はあった筈だ……それなのに、なぜいきなり……、

 

 困惑する魔法少女の顔を、愉快愉快、と耐えきれないと言わんばかりに笑いながら、コルバは口を開いた。

 

「ふ、はっ――――あぁ、言ってなかったな。

 この重りは時間経過ともう一つ――外部からの衝撃に反応して重りが落ちるんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 くつくつと笑いながら今にも押し潰されようとしている恵弥を見下ろす。

 それを見て/聞いて――夢華の全身は総毛立ち、血走った目でコルバを射貫く。

 

「アンタ……ッ!! 私の手で、やらせるために――ッ!」

 

「さて、何のことか。くはっ――それよりもいいのか?

 ここまで押し潰していたら、あとは時間経過だけでも殺せてしまうぞ?」

 

 重りは今もなお動き続けている。恵弥の骨格を折ろうとしている。

 この、元凶の男の背後で。

 

「い、たい……痛、いぃッ……!!」

 

「恵弥ちゃん……!! ッ――!!」

 

 後先考えず前へと駆け出す。

 助けるにはあの筒を破壊、もしくは恵弥を中から出さなければならない……だがそうしようとすれば重りが落ちる。

 ……冷静に考えようとしても、目の前のコルバ(こいつ)がそんな時間を与えないだろう。

 ならばまずはと、コルバを斬り伏せようとするが、コルバは時間稼ぎ(・・・・)にと逃げ回るばかり……。

 

 どうすればいいかわからない……時間が経てば経つほど焦りが大きくなり動きが雑になっていく。

 ……そんな攻撃がコルバに当たるわけなく、

 

「はっ――」

 

 (あざけ)る笑いと共に、膝蹴りが夢華の胸を貫いた。

 

「ぐ……っ!? が――ッ……!?」

 

 間髪入れずに回し蹴りが(あご)を捉え、夢華の体をバネのように弾き空へと踊らせる。

 息を満足にできない状態で、それでも体勢を整えようとし――

 

「そらッッッ――!!」

 

 瞬間移動の如き速さで現れたコルバによって一〇〇メートル下の地面まで殴り返される。

 

「ごうッ、ガ――ッッ!?」

 

 治癒が間に合わない……腹部や背の激痛に加え、呼吸も満足にできない。

 叩きつけられた背を起点として広がる小規模のクレーター。

 そこに倒れ伏す体をなんとか起き上がらせようとするが、収まらない激痛が立ち上がろうとする気力の妨害をしてくる。

 

「お……お姉、さん……っ」

 

 落とされた場所は皮肉にも筒の真横だった。

 顔を動かせば……今にも圧殺されそうな恵弥がこちらを呼んでいた。

 

「恵弥……ちゃん……」

 

 自然と手が伸びる……何もできないのに、それでも何とかしたくて手を伸ばす。

 

 それは恵弥も同じだった。

 筒という隔たりを知りながらも、すーっ……と、筒の内側から届かない彼女の指をなぞる。

 

「っ……、――ぐっ!」

 

 その思いが、動かなかった体に元気(ちから)をくれた。

 地面を押すようにして立ち上がろうとする。

 気力は気持ちに答えるように力を貸し始め、夢華の体はついに起き上がり……、

 

「――もう一回寝な……ッ!!」

 

 ――空から急降下してきたコルバの槍のような足が夢華を貫いた。

 

「ご……ッ!? え、ア゛ァ゛――ッッッ!!」

 

 喉が擦り切れる断末魔。それを祝福する鮮やかな喀血(かっけつ)

 自分の口からこれほどの吐血をしたのは長い戦いの中でもこれが始めてだ……。

 吐き出された血は宙を舞い、そのまま重力に従って自分の顔面に斑点(はんてん)となって付着する。

 

「ぁ…………ぇ、ぅ…………」

 

「お姉、さん……ッ!!」

 

 虫の息の少女と、発狂と共に生きていることを願う女の子。

 そこに流れていく、ドロリとした泥のような()の声。

 

「へっ――」

 

 コルバが手を(かざ)した途端、夢華にかかる重力が何十倍にも倍増され、恵弥よりも一足早く体が潰れた。

 

「グ――!? か、ぁ……!」

 

「そろそろ終わりにするか。俺の目的は、お前の力を奪うことだしな」

 

 ぴたっ、と。

 筒の側面へと手を添える。

 それとニヤけた(つら)を見れば……今から何が行われるのかなど想像に固くなかった。

 

「っ……!! や、やめ、て……!」

 

 止まらない……とんっ、とんっ、と、まるで下準備だとでも言うかのように軽く叩かれる。

 

「やめて……ッ!! わ、私の力が欲しいんでしょ……? あげるから……なんでもするから……ッ! お願い、その子だけは……ッ!!」

 

 …………力が込められる。

 ケケッ……という笑いしか返されなかった。

 やめる様子はない。体は動かない……。

 

 目の前に……目の前にいるのに……ッ!!

 

「……や…………だ…………」

 

 泣き疲れた掠れる声。

 すぐ傍から聞こえる声に胸が締め付けられる。筒を隔てて手を合わせている恵弥からの、どうすることもできない懇願(こんがん)

 

「助、けて……助けて、よぉ…………わた、し――」

 

「っ……ぁ…………恵弥、ちゃん…………っ」

 

 自分に泣く権利などないのに……それでも涙を流しながら、届かぬ女の子の声を聞いた。

 

「わたし……死にたく、な――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      グヂュジャアッッッ(・・・・・・・・・)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何の我が儘でも、無茶でもなく、

 ただ、叶って当然のことを口にしながら、

 

 

 

 

 

 ……新芽恵弥は、血肉と成り果てた…………。

 

 

 

 

 

          ◆

 

 気絶からアリファは目覚めた。

 幾条もの魔力を浴びた感覚はまだ残っている。

 しかし動けないほどではない。

 コルバの手足として、魔法少女の妨害を続行しなければ……そう思い、目覚めてすぐに広場へと戻り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      グヂュジャアッッッ(・・・・・・・・・)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「            え    ?  」

 

 ……重りによって血肉(圧殺)される、初めての友だちを見た……。

 頭が真っ白になるとは、こういう事をいうのか……力が入らない。目の前の光景を受け入れようとしない。起きた事実を拒絶している。服従し人形となった事実を忘れる。

 

「…………どう、…………して……?」

 

 最後のトドメにと筒を叩いたコルバ。

 ……魂が抜けたように意識を凍結しようとしている魔法少女の顔を面白がって蹴り、偶然にもアリファの方へと首が曲がる。

 

 

 

“――魔法少女を呼び出し、行動不能にした上で力を奪うだけだ……このガキまでは殺さねえよ”

 

 

 

 ……この作戦を決行する前、コルバは確かにそう言っていた。

 そう言っていたからこそ、アリファも承諾していた――(選択の余地などなかったが)――なのに……どうして?

 

 ……地面に伏せる魔法少女は、敵が戻ってきたことなどもう眼中になかった。

 絶望し、意識も定まらず、精神も崩壊しかけ……それが引き金になったように纏っていた変身が解けた。

 

「――――え?」

 

 絞り出たような声はアリファだった。

 今まで変身後の姿しか見ていなかったアリファが、初めて変身前の少女の姿をその目に納めた。

 

「…………夢、華……?」

 

 その顔を知っている。

 ついさっき――心に傷を負っていた自分を癒してくれた恵弥と……もう一人の、優しい人。

 初めて会う自分を受け入れてくれて、ドーナツまで奢ってくれた、どこまでも善良な少女。

 その彼女が…………魔法少女(倒すべき敵)――?

 

「                 」

 

 …………どうして自分の名前を?

 夢華は止まりかけの意識の片隅でそんな事を思う。

 

 そして……運命は残酷だ。

 風が吹いた……アリファの被るフードを簡単に剥ぎ取るほどの強風が。

 夢華の目の前で素顔を晒される……今、自分が一番バレたくなかった人に……、

 

「…………アリファ、ちゃん……?」

 

 絶望に搔き混ぜられた顔で呟いた。

 涙に濡れた顔は、恵弥の死と、自分への無力さで打ちのめされていて……(はた)から見ても酷い有り様で、

 

「……なん、で……? アリ、ファ……ちゃん……だよ、ね? 嘘、なんで……コイツ、と……」

 

 ……そんな顔にさせてしまった一端は、他でもない自分自身で、

 

「ぁ――ぃ、あ……! ち、ちが……っ……!」

 

 ……何が違うのか、自分は何を言おうとしているのか……それは、自分にもわからなくて……。

 ……駆け寄ろうとした足に力が入らない。……一歩も進めないまま膝立ちとなり、地面に吸われるように気力が抜けていく。

 

「――お前の力を貰うぞ」

 

 ドプッ……! と、まるで泥のような『影』が倒れている夢華の背から広がり、呑み込むように広がっていく。

 

「ッ!? ――コ、コルバ!! やめ――ッ!!」

 

 アリファの制止は届かなかった。

 まるで死人のようにこちらを見つめる夢華の金色の瞳は、黒く歪んでいき……、

 

「…………なんで…………どう、して…………?」

 

 涙も枯れた瞳でアリファを見ながら、

 夢華の体は……影へと呑み込まれて(喰われて)いった。




 第一章はもうすぐ終わるかも

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