“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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第一章(16)残された最後の希望

 夢華の姿が影へと消えていく。

 捕食を終えた影をアリファは何も出来ぬまま呆然と見つめていた。

 

「あ……、ぁ…………」

 

「これで邪魔な奴は消えたな……あとはもう一人の魔法少女とやらか」

 

 コルバの言葉など耳に入ってこない……そんなのはどうでもいい。

 いま胸の中にあるのは『何故?』『どうして?』という困惑だけ。

 

「はぁ……っ、はぁ……ッ……! ……コ……コルバ……」

 

「……だが報告によれば、ソイツの他にもう一人――」

 

「コルバ――ッ!!」

 

「――チッ……何だ?」

 

 ガシガシと頭を搔き、忌々しくアリファを睨んでくる。

 崩れ落ちそうな()鷲掴(わしづか)みにし、震える喉を奮い立たせ、ボスに……否、(コルバ)に声を飛ばす。

 

「手を、出さないんじゃなかったの……?

 恵弥は殺さないって……魔法少女だって、行動不能にして、力を奪うだけだ、って……」

 

 ――――魔力が体を駆け巡る。

 思考よりも先に、本能が行動しようとしている。

 ……次の言葉(ひとこと)

 それが何であるかによって……本能(自分)が何をするのか……自分でもわからないまま返事を待つ。

 

「はっ――」

 

 男はバカにするように笑った後、

 

「生かすなんて話、本気にしてたのか?

 魔法少女の方は力を奪うのは本当だ……まあ、あの世界(・・・・)に落ちた以上、死ぬのは避けられないだろうがな」

 

 ――――気づけば、

 

「――ッ!!」

 

 ……気づけばイメージが固まっていた。

 ……気づけば『(魔法)』を行使していた。

 

 三枚に下ろすように斬撃が放たれる。

 円錐形(えんすいけい)の射出物を生み出し、全方位から射出する。

 

「……っ、」

 

 ニヤリ、と笑いながら当然のようにそれを回避する。

 円錐形(射出物)の嵐も瞬間移動の如き速さで回避し、焦るアリファを置き去りにあっさりと背後を取る。

 

「アイツを片付けた以上……アリファ/ミア(お前ら)の役目はもう終わりだ」

 

 暴風を思わせる旋風(せんぷう)を纏い迫りくる一打。

 まともに喰らえば胸に大穴が開くであろう一撃は、振り返ろうとしているアリファの背中へと穿たれ――

 

 ――ゴォンッ!! という鈍い音と共に防がれた。

 穿たれる寸前に間に飛び込んできた彼女が自らの大鎌(得物)を盾とし、拳を受け止めていた。

 

「ミ……ミーちゃん!?」

 

「ぐ、ぅ……ッ! 速く逃げろッ!

 ――――走れ、魔法少女(もう一人)の元へ!!」

 

 押し返すとまではいかずとも、何とか受け止めているミアが怒鳴るように叫ぶ。

 背後で息を飲む音が聞こえ、次いで全速力で駆け出す気配が鳴る。

 

「随分早い帰りだな」

 

「気に食わない奴だったが、まさかここまでするとはな……!」

 

「妹だけでも逃がそうってか? ……健気なお姉ちゃんだなッ!!」

 

 首をねじ飛ばす蹴りをバックジャンプで()け、続く飛び込みを防ぎ、最後の振り下ろしも横にかっ飛び回避する。

 

(っ……コイツの戦闘方法は魔力操作と徒手空拳による打撃――そして、)

 

 ……コルバの周囲にぐりゃりと影が広がり、その中より影で構成された墨のような『影の獣』が何体も現れる。

 狼のような敏捷性(びんしょうせい)に優れた獣から、象のような巨大な獣まで。

 

 ――――これこそがコルバの行使する魔法。

 “――自らが生み出した影の世界。そこに住まう無限の影の獣……その世界を/影の獣を自在に操る魔法。”

 

 ――コルバが名付けたこの魔法の名は『獣界(じゅうかい)』。

 ……先ほど夢華を影へと喰わせたのもこの魔法であった。

 

「っ……! 速い――ッ!」

 

 目の前の影の獣(そんざい)は形こそ実在の獣だが、その身に秘めた力や身体能力は常軌を逸している。

 

 駆け抜けてくる狼を魔力で撃ち抜こうとするが、狼はその全てを(かわ)し、被弾どころか(かす)ることもしないまま、ミアの脇腹を喰い千切る。

 

「ア゛、ァア゛ッ!!」

 

 悲鳴ごと歯を食いしばる。

 喰い千切り、脇腹の血肉を堪能している狼の首に鎌を振り下ろすが、飛び退いて躱されてしまい、

 

「ぐ、ぼ……ッ!?」

 

 背後から振るわれた象の鼻に体を薙ぎ払われる。

 肺の中の空気が全て吐かれ、込み上がってくる血を感じながら一瞬で体が数十メートル先へと吹き飛ばされる。

 

「ぐ、おえ……ッ! げ、は……ッ!!」

 

 視界が明滅(めいめつ)する。

 何とか息を整えようと大きく息を吸い、

 

 

 

「……安心しな、妹もすぐに後を追うさ」

 

 

 

 目の前へと現れたコルバの蹴りが首を捉え、そのまま木へと激突。

 ミアの首は折れるまではいかなかったが、木と蹴りに挟まれたことによって『く』の字に曲がり……、

 

「が!?  、  …… …………ぅ、 ぁ  ……」

 

 ……喉が呼吸の仕方を忘れる。戦う意志よりも先に酸素を求める抵抗の方が強くなり一時的に戦闘続行が困難となる。

 

「ご、お――ッ!?」

 

 苦しみを紛らわそうと喉に両手を置いて/――ドスッ!! と、がら空きの腹部へと鋭い膝蹴りが入り、ミアの体は打ち上げられる。

 

 ……どれほどの距離を打ち上げられたのか……風圧を全身に浴びながら呼吸もできないミアの視界はぼんやりと空中をなぞり、

 

「――死ね」

 

 既に(ふところ)に現れていたコルバの右手が、胸元で魔力()を帯び――――

 

          ◆

 

「はぁ……! はぁ……っ! はぁ……ッ――!!」

 

 逃げる、逃げる、逃げる――。

 足を前へ、前へと出し続け、少しでも遠くへ逃げる。

 ……帰る場所などない。ノクスは事実上の壊滅……魔法少女は獣界()へと落ちた……ワーニスは死に、ミアは足止め……残る者など――

 

「……もう、一人、の……」

 

 魔法少女(もう一人)の元へ走れ、と。逃がしてくれたミアはそう叫んでいた。

 この状況で頼れる者など――彼女たちしかいない。

 

 以前、自分を追い詰めた魔王と名乗る少女……そして、その戦場にいたもう一人の……桃色髪の――

 

 

 

 

 

「アァaaAア■■アAAAa■ああア■■アアァ■アaAAa■■aァァAァ■アアaアAa■a――ッッッ!!」

 

 

 

 

 

 ……空を切り裂いていく、鼓膜を破るような魔力の奔流(断末魔)

 

「――――え?」

 

 足を止め、呆然と魔力の跡を見上げる。

 ポタッ(・・・)……と、そこから落ちた彼女の吐血を顔面に浴びる。

 ……吐血を浴びたことよりも、今の叫びが鼓膜に粘り付いている。

 

「…………ミー、ちゃん……?」

 

 間違いない……今のは彼女の声で……、

 

「……ミー、ちゃん――ッ」

 

 魔力の奔流に焼かれ、街の方へと消えていったのは――

 

「――お姉(・・)ちゃん(・・・)……ッ!」

 

 止まっていた手足にもう一度力を込める。

 全身を総毛立たせる焦りが逆に気力に変わる。

 飛んでいけば速いというのに……背中に『幻の翼』を生やすのも忘れて駆け出していく。

 

 ……かろうじて魔力はまだ感じられる。

 ならばまだ生きている。助けられる。

 ――もうこれ以上は失いたくないと、心が叫んでいて、

 

 

 

 

 

「まだこんなところにいたのか……ミアのバカが時間を稼いだっていうのに……」

 

 

 

 

 

 ……体が浮かんでいる(・・・・・・・・)

 気づけば胸が熱かった……熱かったかと思えばその感覚は痛みへと変わる。

 視線を下ろせば、胸から突き出ているコルバの手がある(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「――――う、ぷっ……!?」

 

()しくもワーニスと同じ絵面だな」

 

 背後からコルバの声が呟かれる。

 貫かれ、浮いていた体は手刀を抜かれるのと同時に地面に落ちた。……胸から溢れ出す血が山の草を染めていく。

 

「さっきは殺しにかかってきたが、それほど大事だったのか? アイツらが」

 

 うつ伏せに倒れているアリファの頭を掴み、ぐいっ、と自分の顔へと向けてくる。

 

「聞くまでもないな……その顔を見れば。

 そもそも俺は、この顔が見たくてわざわざ回りくどい手を使ったんだからな」

 

「……っ――!」

 

 込み上がる血を噛み締め……全部コイツの手のひらの上だったことに消えることのない怒りを覚え、

 

「……わた、しが……っ」

 

 ……その上で友だちと家族が死んだのは自分のせいだと自らの心に(くさび)を打ち、

 

「ふ、ははっ……お疲れさん」

 

 バカにしてくる男を涙目で睨んだ……。

 

「ッ……、かっ……」

 

 ガンッ!! と、掴んでいた顔を地面へと叩きつけられる。

 ……顔面の皮膚が裂けて、ドロリと鼻血が落ちてくる。

 

「アイツをやられて怒りを覚えるほどなら……一緒のところに送ってやるよ」

 

 パチン、と指を鳴らすと夢華の時のように影が広がり、アリファを獣界へ呑み込もうとしてくる。

 

「お前に発現した『幻』を生み出すという何でもありな魔法……興味があったしな。

 魔法少女の力と一緒に貰うとするか」

 

 …………コイツには与えちゃだめだ。

 そう思っているのに、体は起き上がらない……動かない。

 

(……そうか…………)

 

 ……この怒りも、悲しさも、悔しさも、

 

(わたしへの……“罰”か……)

 

 感情に打ちのめされた体が影に呑み込まれる。

 果てのない真っ黒な渦に落ちていく感覚。

 ……きっと夢華も、この中へと落ちていったのだろう。

 

(……あぁ……)

 

 もし……神様という存在が本当にいるのなら――どうか、

 

(どうか……わたし以外の人たちを……助けてください――――)

 

          ◆

 

 ……魔力の奔流を目撃した人たちが集まってくる。

 否……正確には、その奔流から落ちてきた彼女(もの)を見に集まってくる。

 

「……っ、……ぁ…………」

 

 ずりずりと足を引きずりながらその場を離れる。

 滴る血が落下物たる彼女の位置を教えていたが……吉か凶か雨が降ってきていた……その雨が落ちたばかりの血を流していく。

 

「……はぁ…………ふぅ…………」

 

 ……気を抜けば失ってしまいそうな意識を奮い立たせ、ミアは歩みを進めていく。

 激痛。喪失。無念。……全てが合わさりグチャグチャとなっている思考。

 けれどその中に……確かに行き場所を見つけていた。

 

「…………ぁ…………、ぅ…………」

 

 コルバの手により壊滅したノクス。

 殺されたワーニス。

 ……先ほど突然消失したアリファの魔力……だがきっと生きていると信じて――

 

(……魔法…………少女……、桃色……髪…………)

 

 行き場所は決まっている。

 覚えている彼女の魔力。なけなしの意識を集中させれば、彼女の魔力が何処にあるか感じ取れる。

 

 ……言ってしまえば敵同士だ。さらには先ほど争った者同士。

 虫のいい話だと思われるだろう……そう言われ目を逸らされれば終わりだ。

 

 だけど――――

 

(……助けて、くれ……魔法少女…………)

 

 今のミアにとって(すが)れるものは、

 残された最後の希望は、桃色髪の魔法少女だけだった――。




 次で第一章は終わりです。
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