“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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【第二章】『孤独な純白の魔法少女』
第二章(1)“敵”は、ただ一人


「――――――――っ……」

 

 目を覚ます。

 知らない部屋のベッドの上にミアは寝ていた。

 

(治療、されてる……)

 

 布団をかけられた体は多少のダルさや痛みはあれど先ほどまでの激痛はなく、折れていた筈の右足は感覚が途切れてはおらず繋がっている。

 

「っ――、魔法少女……!」

 

 倒れるまでの記憶を思い出し、電流のような痛みが(はし)る中、起き上がろうと体を起こし――ごつんッ(・・・・)!!

 

『痛ッ――!?』

 

 ミアの顔を覗き込んでいた少女とごっつんこ。それぞれ額を擦りながら悶えた後、ゆっくりと顔を上げる。

 

「いてて……、大丈夫なのか様子を見てたけど、これなら大丈夫そうだな」

 

「――――」

 

 待ち望んでいた声が聞こえた――。

 桃色髪の小柄な少女は苦笑しながらベッド横の椅子に腰かける。

 

夜釖(やとう)彩李(さいり)……」

 

「目が覚めてよかった。玄関前に倒れてたから心配したんだぞ……?」

 

 ……つい数時間前に戦ったというのに、何もなかったように話しかけてくる彩李とは違い、ミアは気まずい上この上ない。

 助けを求めているのは自分だ。ここに来たのは自分だ。

 でも先ほどまでの自分にあったのはこの家へと辿り着くための気力であって、顔を合わせた時の言葉ではない。

 

「……、ぁ……その……」

 

 何と言うべきなのか……乾いた唇が小さく(せわ)しなく動き、

 

「……助けてくれて、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 まずはお礼だと思い、必死に喉奥から声を引き出した。

 

「ウチの家の前で倒れていた理由は気になるけど、まずは食べなよ……ほらっ、」

 

 机に置かれていた湯気の出ている卵粥をこちらに差し出してくる。

 突然の(ほどこ)しにソレを受け取るか躊躇(ちゅうちょ)してしまったが……彩李のこちらの身を案じる瞳と、あまりの邪気の無さに……気づけばよそよそと卵粥を受け取っていた。

 

「――い……いただきます」

 

 備えられていたスプーンで(すく)い口に運んだ。

 

「っ……美味しい」

 

「それならよかった」

 

 肉体的、精神的なダメージが大きかったからか、美味しい物を食べられるというだけで落ち着きを取り戻してくる。

 

「……お前らの方で、何かあったのか?」

 

 半分ほど食べたところで彩李が様子を見ながら言葉を発してきた。

 

「倒れていた時のお前の怪我、普通じゃなかったぞ。

 ……仲間割れでもしたのか?」

 

 僅か数秒……細く、息を整えるように息を吐いて、

 

「そんなものだ……私の家族も、魔法少女も……みんな、コルバにやられた」

 

          ◆

 

 ミアからの話を聞いている時、

 彩李は時に驚き、時に悲しみ、時に怒りを覚えていた……それでもミアへの同情の心が消える瞬間(とき)は一瞬もなかった。

 

 恐らくは……家族を殺された(・・・・・・・)――それが彩李にとっては何よりも心に突き刺さる一言だったからだろう。

 

「……そんなことがあったのか」

 

「……あぁ……魔法少女に関してだが……彼女の事は実際に見たわけではないが、魔法少女の魔力が消えるのを感じたからな……恐らくは、やられただろう……」

 

 重い沈黙が落ちる。

 魔物たちだけでなく、魔法少女である晴風(はるかぜ)夢華(ゆめか)までノクスのボス――コルバにやられてしまった。

 どう声をかけるべきか……お互いに答えを出せずにいると、

 

 

 

『(――それだけではないぞ)』

 

 

 

 彩李にとっては聞き馴染んだ声が(うちがわ)で鳴ると同時に、彩李の胸元から『灰色の輝き』が抜け出し一瞬で人の形をとる。

 

「な、なんだ……!?」

 

 三度目の実体化。少女の姿をしたメイナ(魔王)はミアの驚愕を受けて、

 

「初めまして、じゃな。

 私はメイナ――お前らに伝わっているかはわからんが、あの日、アリファを倒したのは私じゃ」

 

(っ……! アリファが言っていた魔法少女とは違う者――“魔王”とは、コイツの事か――!)

 

 アリファからの話を思い出し目を見開いた。それを『知っている』という事への証と受け取り、メイナは言葉を続けていく。

 

「先ほどのお前の話じゃが……まだ足りない(・・・・)部分がある……まぁ、その時の場にはいなかったのじゃから仕方ないが」

 

「……メイナ? お前、何か知っているのか?」

 

「あぁ……私もあの娘(・・・)から聞いたのじゃ」

 

 パチンッ――と指を鳴らすと、その音に呼応するように彩李の胸元から今度は『白い光』が飛び出した。

 

「ひゃあっ!?」

 

 二度目は予想外だった彩李が可愛い悲鳴を上げる。

 白い光はメイナのような体の構築の手間を必要とせず(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)――ソレは人となって、幼い少女はこの部屋に足をつけた。

 

「――って……め、恵弥(めぐや)ちゃん!?」

 

「あ……あはは……お久しぶりです、彩李さん……」

 

 驚く彩李に何処かぎこちない……恵弥自身もまだ驚いているような挨拶を返した。

 ぽんっ、とメイナは恵弥の頭に手を乗せて、

 

「ミアよ……お前が言っていた広場にはな、この娘もおったのじゃ」

 

『――えっ?』

 

 その発言にミアのみならず、彩李の声も重なる。

 

「この娘はな……魔法少女である晴風夢華への人質として、コルバに指示されたアリファが連れてきた存在だったのじゃ」

 

(コルバが……アリファに、指示……)

 

 ――心当たりはある。

 コルバに彩李を“足止めしろ”と指示された時……何故彩李を倒せではなく足止めなのだろうと疑問に思っていた。

 足止めということはつまり、別の目的(・・・・)があるということ……足止めしている間に何かを為す(・・・・・・・・・・・・・・)ということ――つまり、

 

(アリファに人質となるこの少女の誘拐……それを彩李に邪魔させぬよう“足止め”の指示を出した、ということか)

 

「……最終的にこの娘は、重りを上に設置した筒の中に閉じ込められてな……その重りは外部からの衝撃によって下がる細工がされており、それによってこの娘は潰される――ところじゃった(・・・・・・・)

 

「ところじゃった……?」

 

 彩李の溢した言葉に、恵弥が振り返り説明する。

 

「メイナさんがギリギリのところで助けてくれたんです……そして、彩李さんの中の『幻界(げんかい)』ってところに引っ張ってくれたんです」

 

 今でも間に合ってよかったとホッとしているのか、メイナはそっと息を吐いた。

 

「幻界の中から広場の状況を知った私は、急いで二つの事を行った。

 ――恵弥を幻界に引っ張ってくる事と、

 ――コルバの目を欺く魔法を組み上げる事(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、」

 

「コルバの目を(あざむ)く……?」

 

「一言で言ってしまえば、偽物(・・)の血と肉、骨を生み出す魔法じゃ。

 急ぎ即席で生み出したため、多少はお粗末な作りとなってしまったかもしれぬがな。

 ――彼女が重りで潰される直前、その体を幻界へと引き込み、変わりに恵弥がおった位置に魔法を行使した。

 ……結果としてコルバの目を欺き、恵弥を助けることに成功したのじゃ」

 

 あっ……、と。ある事を思い出した彩李が問いかける。

 

「もしかして今日、あまり話しかけるなって言ったのは……」

 

「恵弥を助ける準備をしとったからじゃ。

 魔法を組み上げるだけでなく、今まで『魂』や『意識』しか引っ張ってこなかった幻界に――生身の体(・・・・)を引き入れるのは初めてじゃったからな……苦労した」

 

 説明を終えたメイナはもう一度息を吐いた。

 ミアは恵弥の事を見て、申し訳ない気持ちになりながら思考を走らせる。

 

「そうだったのか……じゃあ、コルバにやられてしまったのは――」

 

 そこで言葉を止めた……ちら、と恵弥を見る。

 恵弥が彼女たちとどのような関係なのかはわからないが、夢華への人質に使われるほどだ……仲が良かったことには違いない。

 

 ……夢華はコルバに倒されてしまい、自分はその片棒を担いでしまっている……この状況下で、自分だけは彼女の名前を出してはいけないと強く思った。

 

 しかし――

 

「夢華と……お前の妹も、恐らく無事じゃ(・・・・・・・)

 

 絶望の底を照らすような一言がメイナの口より放たれた。

 

「え……?」

 

「メイナ……今、なんて――?」

 

「恐らくは無事と、そう言ったのじゃ」

 

 気を使った嘘……ではない。

 メイナの目を見れば、それが核心を持って言っているという事がわかる。

 

「夢華とアリファの魔力の消え方じゃ(・・・・・・・・)

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……じゃが、夢華とアリファの魔力(消え方)はそうではない。

 ……供給が止まり、ゆっくりと消えていくのではなく、

 ……一瞬で(・・・)何の前触れもなく消えた(・・・・・・・・・・・)

 ――そしてこの消え方と似たモノを、私は知っておる」

 

 視線を彩李へと向ける。

 

「私が彩李の『中』に展開している、こことは別の世界である幻界……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の消え方は、まさにそれじゃ。

 何の前触れもなく消える――別の場所へ瞬間的に移動したかのように」

 

 厳密に言えば別の場所ではなく、別の世界(・・)

 ――『幻()』と名付けた意味はそこにある。

 一瞬で小規模とはいえ別の世界へと移動してしまったのならば魔力が唐突に消えてしまうのも当然だ。

 そして、

 

「ミアよ……先ほどのコルバの説明。

 確かコルバは『獣()』という魔法を使うんじゃったな?」

 

「ッ!? まさか――」

 

「影の獣を召還し、使役するならば――その獣を仕舞っている空間(・・・・・・・・)……『世界』がある可能性が高い。

 二人が『そこ』へと入れられたとするならば、魔力の唐突な消え方にも説明がつく」

 

「なら――」

 

 話を聞いていた彩李が小さく口角を上げ、

 

「すぐに助けにいかないとな」

 

「ふっ……そうじゃな」

 

 彩李に呼応するようにメイナも小さく笑ってみせた。

 

「……どうして、」

 

 ……まるで当たり前のように助けようとする二人をミアは見上げる。

 

「ミア。お前がここに来た理由は、アリファを助けてほしいから、だろ?」

 

「っ……なんでわかったんだ? まだ言って――」

 

「言わなくても、見てればわかるよ」

 

 アリファが死んだかもしれないと説明していた時には拳を握り締め、

 生きているという話を聞いた時には目を見開きながら(すが)るように顔を上げ、

 メイナより生きている可能性を次々と語られた時には、今みたいに泣きそうになっている(・・・・・・・・・・)

 

 ――これが妹を助けたいお姉ちゃんの姿以外のなんだというのか。

 

 ……初めて、目尻に貯まっている涙に気づいたメイナは、それを指で拭い、

 

「でも……どうして、助けようとしてくれるんだ?

 私は敵だ……自分で言うのもなんだが、キミたちに助けてほしいと願うのはおこがましいと思っている……それなのに、どうして?」

 

 ……細かい理由など不要だった。

 彩李が動こうとしている理由は単純なものだ。

 ――人が誰しも持っているであろう思い。

 

「お前が全力で妹を助けようとしてるからだ。

 だから俺たちも、全力で力を貸すさ」

 

 本気で何かを成し遂げようとしている人が目の前にいるなら応援したい。

 人がふとした瞬間に抱く感情と同じものだと、彩李は言い切った。

 

「でも、私は敵で……」

 

「それを含めた上でだ。……それに、」

 

 お前は多分、変わる(・・・)――これを機に絶対に変わる。

 家族を思う気持ちがそれほど強いのならば大丈夫。

 ――これからは、きっと敵にはならない。

 

 彼女と話したのはほんの数回だが……それでもわかる。

 ――彼女はとても誠実で、仕事熱心で、それでいて家族思いだ。

 その仕事を与えていたコルバ(もの)から離れ、妹と共に生きるのだから……そんな彼女がもう一度悪事を働こうとするなど、決してない。

 

「それに……何だ?」

 

「――。いや、なんでもない」

 

 口には出さず、思いを胸の中に留めた。

 

「助けにはもちろん、お前も行くだろ?」

 

「……あぁ――もちろんだっ!」




 今日はもう一話投稿します。
 時間は午後6時5分です。
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