“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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第一章(2)純白の魔法少女

 鞭のようにしなる鎖の嵐を掻い潜り、薙ぎ払うように放たれる冷気の突風を――、

 

「はぁ――ッ!」

 

 振り抜いた蹴りが霧散させる。

 

「っ……!?」

 

 動揺の顔が見えるが、次の行動に移すよりも先に彩李の拳が槍のように腹を貫く。

 殴り飛ばされたワニは外へ、一瞬でグラウンド中央へと身を投げられる。

 彩李もグラウンドへと飛び出て、跳躍する。

 

こい(・・)――っ」

 

 彩李の声に呼応するように『黒紫の剣(・・・・)』が魔法によって作られ、片手に収まる。

 ――間違いない、前世の時に使用していた剣だ。

 五〇〇年ぶりだというのに感覚は変わらない。

 落下していく中、ぐるんっ、ぐるんッ! と回転しながらブーストをかけ、起き上がろうとしているワニを一閃する。

 

「あ、ぶね……ッ!?」

 

 斬ッッッ!! と、グラウンドに一閃が振り下ろされる。

 直前で回避したワニは後方へ飛び、氷の槍を五本生み出し人間の動体視力を上回る速度で射出する。

 人間では追えない以上、彩李が串刺しにされるのは避けられない。

 

「ふ――ッ!」

 

 ――だが、

 そこにいるのは魔王を打倒せし魔法使いの生まれ変わり。

 人間でありながら『人間の域』を越えた者。

 この程度の脅威を対処できなければ、魔王など倒せてはいない――。

 

『(――構えろ、ワニ野郎。

 ここにいるのは私を打倒せし魔法少女(まほうつかい)じゃぞ?)』

 

 ――メイナの言う通りだった。

 

 一射目。

 剣で迎え撃ち霧散させる。

 

 二射目。

 剣ではなく、足で迎え撃つ。

 魔力を帯びた蹴りは槍では貫通できず、真っ正面から激突したというのに一射目と同じ末路を辿った。

 

 三射目。

 難しい事は考えない……槍の側面を殴り四射目の槍にぶち当て自爆させ、槍の対処の手間を一本分減らす。

 

 五射目。

 見るのはワニだけ……最後の槍の持ち手をノールックで掴み、初見だというのに力のかけ具合と体の回転で威力を流し――そのままワニへと投げ返す。

 

「はぁあああああああああー!?」

 

 ワニは驚愕で目が飛び出そうになるが、鎖を操り投げ返された()を薙ぎ払い……薙ぎ払った腕で一瞬だけ正面の視界が塞がり、

 

 ――腕を振り抜いた時、もう眼前に迫っている黒衣の魔法少女を見た(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ……ワニよ、六射目はあるか? ……ない?

 ――――ならお前は終わりだ(・・・・・・・・・)

 

「――ぐッッッ、りぃあッッッ!?」

 

 あまりの熱さに、ワニは自分の体が溶けたかと錯覚した。

 実際には振るわれた剣の刀身に凝縮された魔力に触れた。

 鎖を張っても、冷気を壁にしてもほとんど意味を成さない……なら魔力をと思ったが――その時には振り抜かれた剣の斬撃によって空の彼方まで飛ばされていた。

 

          ◆

 

「ふぅー――――」

 

 大きく息を吐く。

 五〇〇年ぶりの戦闘だったが、衰えを感じなかった。

 メイナの言っていた“魂”に込められた戦闘能力というのは、本当に当時のまま秘められていたらしい。

 

『(……いや、流石にキレは少し落ちておった。

 恐らくは今世(こんせ)の体がまだ完全には馴染めておらんのじゃ。……ま、それもこの調子ならすぐ感覚を取り戻すじゃろうがな)』

 

 メイナの訂正を聞きながら黒紫の剣を粒子化させる。

 

「あとはみんなを――」

 

 敵を倒したのなら、次は傷ついたみんなの手当てだ。

 ……しかし自分には治癒魔法の才がない。

 なら、救急車を呼ぼうとスマホを取りだそうとし、

 

『(案ずるな。その必要はない)』

 

 瞬間――『中』にいるメイナが広範囲の治癒魔法を行使した。

 範囲はこの学校全体。

 あの魔物に傷つけられ意識を失っていた生徒や教職員たちの傷が癒されていく。

 

「治癒魔法……こんな広範囲に」

 

『(これでとりあえずは大丈夫じゃ……学校の方は無理じゃがな)』

 

 ほっ、と胸を撫で下ろしながら、

 

「……ありがとう、助かった」

 

『(礼は不要じゃ……それよりも、君に客人が来たぞ。

 ……一応、フードを被って顔は隠しておけ)』

 

「? 客人……?」

 

 言われた通りにフードを被った瞬間、

 ――バサッ、と。

 強大な魔力を誇る少女がグラウンドに降り立った。

 

ワーニス(・・・・)の魔力が遠くに……?」

 

 白い髪に金色の瞳を持つ、彩李よりも歳上だと思われる少女が、ワニの魔物――ワーニスの飛んでいった方向を見る。

 

『(……ほう、この少女……)』

 

(っ……この()がどうかしたのか?)

 

 先ほどまでの彼女とは違う雰囲気に、心の声で問いかけてしまう。

 メイナは本質を見抜くように白い少女を見据え、

 

『(一応気をつけておけ……この()、相当なやり手じゃ)』

 

 落ち着いた声でメイナは続けてくる。

 

『(魔力の流れが人間のソレとは違う……どう見ても一般人ではないが、それにしたって魔力の流れが君と同じ“強者”のソレじゃ。

 ――全盛(ぜんせい)の私とでも、防衛戦ならばこなせるかもしれんのう)』

 

 メイナの声を聞き、自然と体が強ばってしまう。

 体に魔力は通さない――臨戦態勢(りんせんたいせい)をとった途端、この娘は勘づくという予感がある。

 穏便に済ませたいのならば、一旦相手に合わせるのが重要だ。

 

『(……あくまで戦うことになったら、という話じゃ。気を楽にせい)』

 

「ねぇ、キミ」

 

 と、黙ってばかりの彩李に白い少女が問いかけてくる。

 思わず反射的に返事を返すと、

 

「ここにさ、ワニみたいなヤツがいたと思うんだけど……ひょっとしてキミ、そのワニに何かした?」

 

「あ、うん……俺が倒した」

 

「え――た、倒したッ!?」

 

 グラウンド中に響くような大声。

 あっ、と思い深呼吸をして落ち着いた少女は、

 

「えっと、体とか大丈夫? どこか怪我したりしてない!?」

 

 真っ先に彩李の身の心配をしてきた。

 メイナはくすっ、と笑うと、

 

『(……この少女は優しいのう。彩李(きみ)とは仲良くなれそうじゃ)』

 

「あはは……俺は大丈夫だよ。学校のみんなも」

 

 それを聞いて、ほっ、と胸を撫で下ろす少女。

 

「とりあえず、大丈夫そうでなにより。

 ――それで、」

 

 ゆらりと、片手が上がり、

 

「キミは何者かな――?」

 

 ――数多の魔法を行使する少女が、その手のひらを彩李に向けた。

 

「私以外に魔法少女(まほうしょうじょ)は存在しないし、これからも誕生しない(・・・・・・・・・・)……なのに、どうしてキミは私と同等かそれ以上の力を保有してるの?」

 

『(……ずいぶん空気がピリつくのが早かったのう。フラグとは本当にあるんじゃな)』

 

 彩李の『中』で、頬杖をつきながら魔王はため息を吐いた。

 ……フラグという一言から始まった一文に少し笑いそうになったが、笑ったら勘違いされて本格的に警戒されると思い必死に堪える。

 それにしても、

 

(魔法少女……いまこの()はそう言ったよな?)

 

『(あぁ、言っとった。噂の魔法少女がこれほど若く……これほど強いとはな)』

 

 目の前にいる純白(じゅんぱく)の魔法少女の魔力の密度は、メイナの言う通り強大だ。

 まるで歴戦の猛者(・・・・・)を前にしているかのようなプレッシャーさえ感じる。

 

「――――。……ごめんね、手を向けられてたら話しづらいよね」

 

 ふっ――と敵意を消し、魔法少女は片手を下ろす。

 

「私、晴風(はるかぜ)夢華(ゆめか)。キミと話をしたいだけなんだ」

 

「……」

 

 言われ、俯きながら考えてしまう。

 

『(どうしたのじゃ? 隠さず言ってしまえばよかろう)』

 

(……簡単に言うなよ。俺に対する説明なんて、何もかもが難しいだろ……)

 

 ……そうだ。

 前世では魔法使いで、魔王と一緒に生まれ変わったら女の子で、さっき記憶を取り戻して魔物を倒した。

 しかも魔物を倒せたのは魔王(メイナ)が前世の転生時に(おこな)っていた魔法の恩恵のおかげだ……それも上手く説明するとなると……今すぐにでは無理だ。

 

 そもそも自分はメイナに聞きたいことがあるのだ……一旦情報を整理したい。

 

『(なるほどのう……情報を整理したいだけに、今は身の上話は難しいということか。

 ――個人的にはそうなった時の君の困り顔で酒を飲みたい気分じゃが♪)』

 

(――こォんの小悪魔のじゃロリが! 体から出てきやがれぇーッ!!)

 

『(我が姿のお披露目はまた今度な。今はこの場をどう切り抜けるかが重要じゃ)』

 

 ……目の前の魔法少女は静かそうに見えて、その実、狙った獲物には食いついてくるタイプだろう。

 穏やかな瞳の奥には、彩李のことを理解しようとしている覇気が放たれていた。

 

「――ご、」

 

 でもどうか、どうか今日だけは勘弁してほしい。

 短時間でたくさんの事が起きすぎだ……せめて後日、後日で。

 

「……ご?」

 

 ぽつりと呟かれた彩李の声に首を傾げる夢華。

 彩李は自分の足にありったけの力を込め、

 

「――ごめん、話はまた今度っ!!」

 

「え? ――――え、ちょ!?」

 

 バホォンッ!! と、衝撃波が発生するほどの大ジャンプ。

 夢華が止める間もなく彩李は街の奥へと消えていく。

 

「え、ぇええ!? ここは話し合う流れでしょ!? ちょっとおおおおおー!?」

 

 この返しで夢華が堅物(かたぶつ)ではない、ちょっと愉快な娘だと知れたことは報酬かもしれない。

 対する彩李は返事も返さず、その場から離れていく。

 

「今はこれが最善策だ……!」

 

『(別に頭がパーティーになってもいいのではないか? 私は楽しいぞ?)』

 

「お前だけだ楽しいのはッ! 俺は今日はもう話を整理して寝たい!(切実)」




晴風(はるかぜ)夢華(ゆめか)

 純白の魔法少女。
 彩李よりも歳上の少女。メイナ曰く、全盛のメイナと防衛戦ならばこなせるくらい強いらしい。

 魔法少女は彼女だけであり、これからも魔法少女は誕生しない……誕生することができない(・・・・・・・・・・・)

          ◆

 次回、『魔王のサキュバス化』。
 魔王の姿、初お披露目! ……からの(・・・)――?
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