“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
……五〇〇年前。
日本は室町時代……人によっては戦国時代とも言われるこの時。
ある山の
名前は――
今年で
彼女にはある悩みがあった……それは、『取り柄』がないこと。
何をやるにしても――夢華自身は全力でやっていても、周りからは遅いやら、もっと速くやれと言われ、必死にやっている夢華を遠目で見ながら陰口を叩いてくる。
それは他人のみならず、夢華の両親まで。
「はぁ……」
そんな視線が耐えられなくなり、ため息を吐きながら山へと入り……川の流れる場所へと辿り着いた。
「…………」
…………ほんっと、自分が嫌になる……。
……どうすればいいのか……もう家にも帰りたくないと思い、何も考えずに膝を抱えながら目を閉じようとして――、
「大丈夫……?」
ふと、声をかけられた。
男の子の声だった。……振り返ってみると、黒髪黒眼の少年がそこにいた。
「いきなりごめんね。元気が無さそうだったから」
あはは……と苦笑いしながら少年は頬を搔く。
「えっと……キミは?」
久しぶりの邪気のない言葉を受け、初めて会う少年に意外そうな目を向けながら名を尋ねる。
「そう、だね……まずは自己紹介だよね」
少年は一泊置いてから、
「俺は
それが夢華と――
◆
久しぶりに楽しい会話だった。
相手の顔色を伺いながらの会話でもなく、どう思われているかを考えながらの心が締め付けられるような会話でもない。
何気ない雑談で笑い合ったり、最近あったことを話し合って笑い合ったり……会話って、こんなに楽しいものだったんだと実感できた。
その中でも一際興味を引いたのは――、
「
冗談を言っているのだろうと思ったが、
「ほい――っ」
と、彼が手のひらから『炎』を立ち上らせたのを見て、それは本当なんだと目を輝かせた。
「ふふっ……魔法の事、他の人には内緒だよ?」
人差し指を口元に当て、維月は『炎』をさらに立ち上らせる。
魔力を操り、魔法という奇跡を起こす存在――魔法使い。
その人が今、目の前にいる……少年にさらに興味が湧いてしまうのは仕方のないことだった。
「ねぇねぇ! 他にも使える魔法とかある?」
気づかぬ内に身を乗り出していたからか、輝く瞳を見たからか……恐らくは両方を受け、維月は少し
「……あ、あるよ。魔法使いの中でも俺には特に才能があるみたいで……『水』とか『風』とか『雷』とかいっぱい使えるけど……、」
「けど……?」
そこで区切ると、維月は何かを察したように口を閉じて――すぐに『にぱっ』、と笑いながら開いた。
「それはまた明日にしよう。楽しみを一気に
維月との最初の出会いはそこでお開きとなった。
――すぐに魔法を見せなかったのは、次も会うための口実。
夢華の沈んでいた背中や、何処か落ち込んでいた様子を見抜いた維月が、夢華にとっての毎日の楽しみを増やそうとした彼なりの配慮だった。
◆
両親の目を盗んで維月と会うのが夢華の日課になった。
家にいるよりもずっと楽しく、彼との会話は自分に笑顔を取り戻させてくれた。
一日ごとに違う魔法を見せてくれる彼にすっかり気を許していた夢華はある日、維月に自分の事や周りの境遇を話した。
「なるほど……それは確かに、家にいても気持ちは良くないね」
「でしょー? 私だって必死に頑張ってるのに、お母さんたちもそんなに言わなくていいじゃん……。
……陰口が聞こえてくるのが一番心にくるよ……」
膝を両手で抱えて顔をうずめる。どうしようもない気持ちをため息と共に吐き出し、家に帰ったらまた言われるな……と目を伏せる。
「……人には必ず向き不向きがあるからね。
夢華にだって、まだ見つかってないだけで必ず取り柄はあるはずだよ」
「……そう、かな?」
「うん。絶対にあるよ。
もし取り柄が見つかって、それをお母さんたちに話しにくいなら――俺に話してよ!
夢華の得意な事、知りたいから!」
「――――」
“
――そんな気持ちを向けられたのは初めてだ。
(私の、取り柄)
――見つけてやると思った。
絶対に成し遂げて、維月の――驚く顔? 喜ぶ顔? ――いや、どんな表情でも、その反応が見てみたいと思った。
久しぶりに心が踊り出す。やる気に満ち溢れてくる。
ワクワクする感情が心の奥から沸き上がってくる。
「――――っ! わかった――!
見つけたら、必ず維月に教えるね……!」
維月との会話は、夢華にとっては救いだった。
価値がないと決めつけていた自分に/人生に光を差してくれた存在。
……落ち込み、重くなっていた胸から、その重りを取り払ってくれた人。
「これから先も、話したいことがあればいつだって俺が聞くよ。
俺の家、夢華の家から山を隔てた向こう側の村――『魔法使いたちが住む村』にあるから、その間のこの川にはすぐに来れるし……会いたい時には、この川で会おうよ」
その思い出の川で約束を交わし、また明日ね、と二人は離れていく。
出会ってから一週間。
るんるんとした気分で山を下っていくのは初めてだった。
「ふんふん、ふ~ん♪」
鼻歌を交えながら帰っていく。
明日はどんな話をしようかな、と胸を弾ませながら。
◆
………………次の日、
………………
……どうして? と思い、山を下る。行き先は彼の家がある村。
――――どうして来ないのか。
――――早く維月に会いたい。
向かいの山の麓に村は一つしかなかった。
…………そうして見つけた彼の家は、
…………
「……君、見ない顔だね」
男性と女性の遺体に手を合わせていた村人の老人が呆然としている夢華に話しかけてくる。
夢華は何とか『維月の……友だち、です……』と答えると、
「なるほど……維月くんが言っていた、魔法を見て嬉しそうな反応をした女の子、というのは君のことか」
静かに目を伏せた後、夢華を憐れむような瞳を向け、何があったのかを話してくれた。
――魔法使いには、人知を越えた『魔法』という力を手にしても他者や社会に危害を加えなかった魔法使いと、
……それとは対照的に……殺人、
……ある時、『邪心』の魔法使いたちが、自分たちを止めようとする他の魔法使いたちを忌まわしく思い、一つの“存在”を生み出した。
「それこそが人の形をした破滅の象徴――我々は“
――そして、魔法使いとして卓越した才能を持っていた維月は……誰よりも魔王を恐れた、この村に住んでいた『魔法使いの男』によって魔王に対する切り札として連れ去られたという。
「……維月くんはまだ一二歳の子ども。
いくら才能があったとて戦いを強制させていいわけがない。
……村の者が追っているが足取りは掴めておらん」
…………一週間ほど、前。
夢華が維月と初めて会った日。
不思議には思っていた……
夢華のように家にいたくない理由があって、わざわざあの場を訪れていたのか……恐らくはそうだ。
……一週間ほど前から『魔王に対する切り札』として騒ぎ始められたことが嫌になった維月はこの村を離れ、あの川へとやってきていたのだ。
「――――っ、」
…………まったく、何が『大丈夫……?』……だ。
大丈夫でないのは彼も同じだったではないか……。
なのに自分の事は言わず、夢華のことだけを優先して寄り添い続けた。
……自分の事も、話せばよかったのに――――っ、
「……維月……っ」
いま何処にいるのか、自分に何ができるのか……必死に考えるものの、魔法使いでない自分にはどちらも為すことができないことに気づいた……。
老人もそれ以上は何も言わなかった……拠り所を失った心のまま、維月の両親のご遺体に手を合わせ、村を出ていく。
……これが
夢のような……いや、本当に夢に過ぎなかった、あまりにも幸せな一週間の終わりだった……。
「………………………………あぁ…………」
…………ほんっと、自分が嫌になる……。
私は自分のことばっかりで……彼を助けることも、彼に寄り添うことも、していなかった……。
この作品のターニングポイントである五〇〇年前の話は、もう少し続きます。