“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
◆
ただ
……維月との別れから三年が経過していた。
晴風夢華は心に深い傷を負ったまま一五歳となり、維月と約束した『取り柄』さえも見つけられずにいた。
「…………」
今日もまた、彼と出会った『思い出の川』へとやって来た。
……あれから維月がどうなったのかはわからない。
『魔法使いの村』に住む者の話によれば、
こうして彼と出会った川へとやってくれば、もう一度彼に出会えるかもしれない……そんな夢を描きながら夢華は川へと辿り着き、
――
何かが水に触れる音がした。
「――え?」
顔を上げ、川を辿り、音の発生源へと目を向ける。
そこには――
「……………………はい?」
全裸。つまりは何も着ていない産まれたばかりの姿だ。
何処から拾ってきたのかボロッボロの布切れを身に纏っているが、その内側に素肌を炸裂させているなら人はそれを全裸と呼ぶのだ。
「ぱあ――! ……うん?」
……川の水で喉を潤していたらしい少女は、銀髪のショートヘアーを揺らし、紫色の瞳で視界の端に現れていた夢華を捉えた。
「あ……あぁ……ッ――」
…………どうやら五〇〇年前でも知らない誰かに裸を見られた時のリアクションは同じらしい。
夢華に見られていた事を知った銀髪の少女は、口をぱくぱくさせ、頬をみるみる内に赤くし……見てしまった夢華も頬を赤らめ、何か気の利いた言葉を探し――
「そのー……」
目線は布切れの隙間の素肌へといき、
「や――柔らかそうな肌だねっ!」
――――バカ、アホ、ボケ。
「おひゃああああああああああああああー!?」
◆
(……さっきの一件、どちらかと言うと悲鳴の権利は私の方になかった? ……まあ、失言したのは私だけど)
座り込んだ夢華は静かに空を見上げていた。
隣には同じく座り込んでいる銀髪の少女がいる。
先ほどの事を気にして、布切れで体を覆いながら顔を背けているが……冷静に考えればこんなところで全裸で川の水を飲んでいた自分に落ち度があったと思い、
「あの……さっきは、ごめんね……まさか、人が来るとは思わなくて」
「あ……うん。私も、ごめん……だけど、これからはもうちょっと周りに目を向けた方がいいと思うよ」
「……………………はい」
「あはは……本当に
――ピシリッ、と頭が傷んだ。
単なる忠告を促すつもりだったのだが……
「? どうしたの?」
「っ……いや、なんでもないよ。
私、晴風夢華……キミの名前は?」
浮かんだ痛みを払い、銀髪の少女の名前を聞き出す。
そして、
「わたしの名前はエミ。――
夢華にとっては三年ぶりとなる、魔法使いに続くトンデモワードが叩きつけられた。
「妖、精?」
あ――という顔をしながらエミは口を塞ぐ。
勢いで言ってしまった、という感じなのだろう……事実ではあるが常人にはとても信じられない事を口走ってしまっていた。
「いや、その……! 今のは……えーっと……!」
冗談だよ、と言えばいいのにパニックになっているからか真面目にどう説明しようかと考えている。
……対する夢華は、
妖精……超常の生命体。現実には存在しないと思われていたもの……だが夢華は三年前にも存在しないと思っていたものが、実在していたと驚く場面に遭遇している。
「――――魔力。魔法。魔法使い。魔王」
「!? あ、あなた――!?」
「やっぱり、エミちゃんに関係あるんだね」
知りうる限りの単語を口にする。
それに反応するかどうかの確認……どうやら“当たり”だったようだ。
なら――
「エミちゃん――キミの事、詳しく聞かせて」
この子は何か知っているかもしれない……維月の手がかりを。
「魔法使いの事を……魔王の事を、知ってるんだね。
……なら、思っていたより簡単に説明できそう」
ふぅ……と、息を吐いた後、
「今から三年前――破滅の象徴であった魔王を、魔法使いの少年が相討ちで倒した。
――でもその時……『二つの奇跡』が起こった。
一つはわたし――
――それがわたし……
一度の説明で内容を頭に叩き込む。
エミは妖精であり、魔王は倒されている。
そして倒したのは『魔法使いの少年』――
「……魔王を倒した魔法使いの少年が誰なのかわかる?」
魔力や魔法は奇跡を起こすものだ。
その奇跡を人間の常識に当て嵌めたら答えは難しいが……奇跡を起こせる、
――それ以上に気になったのは『魔法使いの少年』だ。
「……い、一回で飲み込めたの? もっと聞かれるかと思ったけど……」
「前に魔力や魔法については聞いたことがあったから、あまり悩まなかったんだ。
……それで? その少年が誰かはわかる?」
「……ごめん。少年の魔力から生まれたのは事実なんだけど……その少年の事は断片的にしかわからないんだ。
魔法使いであるということと、少年であるということ以外は……」
「…………そう」
そうなのかもしれない、という情報はあれど確証は何処にもないとの事だった。
だけど――夢華は何となくではあるが、その『魔法使いの少年』というのが維月ではないかという確信にも近い直感があった。
――魔法使いの少年が魔王を倒した。
その話だけでも信じることができる。
魔法使いの中でも卓越した才能を持っているから、ではない……。
――“彼”なら魔王が相手であろうと倒すことができると信じているからだ。
呆れるほど簡単な考え……しかし夢華の中で、黒宮維月という少年はそれほどまでに信じられる/大きな存在となっていた。
「ありがとうね、話してくれて」
だとするならば、
……これほどまでに自分の頭の回転の良さを恨んだことはない。
うつむき、深い息を吐くが、心は重くなっていく一方だった。
「だ、大丈夫……?」
……その心の内を心配してくれているこの子に言っても仕方がない事だ。
……いい加減切り替えろ。落ち込んでばかりいるな。亡くなった人が蘇ったりはしない……ならせめて、自分が死んで彼に会うことができた時に、顔向けができるように前を向いていないと――。
「――――、大丈夫だよ。……少し、踏ん切りがついたから」
「そ、そう、なの……?」
「うん。だから心配いらないよ。
――エミちゃんの話、もっと聞きたいな。さっき、二つの奇跡が起きたって言ってたけど……もう一つの奇跡は?」
ふっ、と笑いながら切り替える。
エミは心配の目を向けていたが、夢華が切り替えたのを見て、自分も切り替えなければと話を再開する。
「えっと……もう一つの奇跡っていうのは――奇跡というよりは神の
「キミと似たような……?」
「わたしは、魔法使いとこの世界の魔力が合わさり生まれたけど、
もう一人は――
自然とエミは目を細めて、
「ソイツはわたしと違い、魔王の魔力を受けて生まれたからか性格が悪性で、わたしのことも
この世界に生まれてすぐ活動を初めて、この山にある“魔法使いの村”とは違う、別の場所で生き残っていた魔法使いたちを殺し、魔力を奪い……三年の時を得て魔力を蓄え強くなっていった」
悔しそうな感情を瞳に込め、空を見上げる。
「でもわたしには何もできなかった……悔しいけど、アイツとは違い、わたしには戦闘能力がなかった……あったのは、発現した“一つの魔法”だけ」
「……エミちゃんの魔法?」
うん。という頷きが返され、
「――“
一定以上の魔力を保有している少女と契約することで、その少女に超人の力を与え、保有している魔力を限界以上に引き出す――完全な支援型の魔法よ」
……まぁ、でも……と、エミは苦笑し、
「今のところ、その条件に合う少女とは会えていないんだけどね」
「一人も? 魔法使いの中にもいないの?」
「あはは……驚くべきことに、ね。
――契約という魔法によって少女に力を与える……さしずめ、わたしと契約した子は魔法使いならぬ『
……その条件に合う子は、今まで一人もいなかったんだけど――」
ふと、そこで目線は夢華へと向けられた。
「っ……な、なに? どうしたの?」
「――――、いや」
まるで
「……まぁ、ともかく……色々と困ってるの。
もしも……本当に魔法少女が誕生したなら――“ソイツ”を倒せるかもしれないからさ……」
◆
それからしばらくの日々をエミと共に過ごした。
あの後、全裸のまま去ろうとしていたエミを引き止めて自分のお下がりの服を上げたり、
ぐぅ~、と……お腹を鳴らした彼女がその辺の虫を食べようとしたので、急いで家からおむすびを作ってきて食べさせたり、
(なんか……このまま行かせたら大変な事になりそう……)
心配の直感に従い、
――また明日ここで会おうよ。と……『少年』と一緒に出会っていたこの場所で、今度はエミと待ち合わせることにした。
エミとは毎日その川で出会い、様々な交流を行った。
……時にはエミの夢華と出会う前の三年間の話を聞いたり(三年間全裸のままだったの!? というツッコミが出た)、
……時には森や川の自然の中で遊んだり、
……時には森から出て、
とにかく自分の知る限りの楽しみを彼女に与え、三年間一人で生きてきた彼女に寄り添い続けた。
――『少年』が、自分にそうしてくれたように。
……もう、後悔などしないように。
今度は自分が誰かを救う番だと――自分にできる精一杯を彼女に注いだ。
………………………………
◆
………………その日、
………………
…………嫌な予感しかしなかった。
「はぁ……っ! はぁ……ッ――!」
……探した……探して……探し続けて――。
日が暮れるまで走って、そして……
「エミちゃん……ッ!!」
駆け寄るも……触れることすら
飛び散った中身、体の内側を
「………… 、 …………ぁ 、っ …………」
「っ!? エミちゃん!!」
それでもエミは辛うじて生きていた。
ぬちゃ……というイヤな音を手で感じながらも抱き上げる。
「しっかり……しっかりして! エミちゃん!」
斬撃は顔にまで奔っている。
……左目は割れ、
その状態で放置されていたにも関わらずまだ生きていられたのは、彼女が妖精である為だ……それも、あと数分の命だが。
「……、ぁ…………夢、華……?」
「エミちゃん――ッ……何が、あったの……? 一体、誰がこんな――ッ!」
……っ……は、はは……。と、エミは渇き切った苦笑を溢して、
「三年前から……わたしが嫌いなのは知ってたけど……こんな、滅多切りに……しやがって……」
「三年前、って……」
「うん……“魔王の魔力”を受けて、誕生した……わたしとは似て非なる……もう一人の、存在……」
こふっ、と血の塊を吐く。
内臓まで刃が走っているというのに、まだこれほどの血が出てくる……しかしそれは、
「……アイツは、わたしと似た条件下で生まれたけれど……自分の事を妖精ではなく――魔王の
自分を見つけ、切り刻んだ
「黒の髪と、黒の瞳を持つ
この名前と特徴を……覚えて、いて……。
……見かけても、近づいちゃ……ダメ……だからね?」
……名前と姿を、脳内に焼き付くように刷り込ませる。
維月の命を奪ったのは魔王であり……エミの命を奪ったのは、その魔王の
最初に『
そして今、もう一度『
二度も守れなかった己への怒りと……大切な人を奪ったモノへの殺意。
だが……あの時と同じ――魔力も魔法も使えない自分には為せない
「…………」
――――なら、
エミと“契約”を結ぶことのできる少女の協力を得ることができれば……ヤツに届くかもしれない……。
……一人……たった、一人でいい――ッ、
「魔法、少女」
……その口が、堪えきれない怨みを漏らしていた。
夢華は気づいていなかった――復讐を果たすためだけにエミの力を利用しようとしている事に。
自らの愚かさがその
「…………
「――――――――、え?」
……魔法少女という単語を聞いたエミが、反射的に言葉を
「だから、“あなた”……わたしの契約の条件に当てはまるのは、あなた……見つけられたのは、夢華だけ……」
一秒……夢華からすれば長い時間、理解するのに時間がかかった。
(私に……契約できる――魔法少女としての素養がある?)
――なんの取り柄もないと思っていた自分に、そんな取り柄があったなんて。
だけど……復讐に走ろうとしている夢華に、
“取り柄を見つける”――
「なら、私と契約して! エミちゃん――ッ!!」
自らの復讐を果たそうと、死にかけの妖精へと詰め寄っていた。
「…………」
鬼気迫る覇気を目の前にして――いや、それよりも前から夢華の
「ど、どうして――ッ!?」
……どうして――か。
そんなの決まっている……だって、
「……どこまでも優しい、善良なあなたに、復讐の為に契約してほしくない」
いつも優しく、常に自分に寄り添ってくれたあなたに……
「――――」
頭に冷水をかけられたようだった。
殺意と復讐でグチャグチャになっていた思考が落ち着き、本来の自分を少しずつ取り戻していく。
どうして彼女に寄り添ったのか……、
――今度は自分が助ける番だと思ったから。
どうして取り柄を見つけたいと思ったのか……、
――維月との約束を果たしたいと思ったから。
……ならどうして、
「――――っ……、」
――――私が、バカだから…………。
「……………………ごめん……っ……、」
エミに、維月に、自分の思いに……掠れるような声で謝った……。
復讐から契約すれば、殺すことにしか使えなくなる。
かといって大した覚悟もなく契約しては、途中で意志が歪み、自暴自棄になりかねない。
強大な力を得るというのはそういう事だ……強い意志を持たなければ、いずれは自分が第二のコルバや魔王に堕ちてしまう。
だから――宿す意志は使い回された思いで、なんの特別もないもので――でも、揺らぐことのない嘘偽りのない決意。
「二度とエミちゃんみたいな酷い目に遭う
――“
何の捻りもない、単純に真っ直ぐなその思いが……これ以上ないほどに魔法少女を示す『意志』の在り方だった。
「っ――――、ふふっ――」
死の間際……安心した妖精は、力が抜けていく手で夢華の手を掴んで――
◆
――そして、夢華は魔法少女となった。
もう“契約”を行える妖精はいない。
魔力があろうとなかろうと魔法少女は二度と誕生することはない。
正真正銘……晴風夢華は世界でただ
【エミとコルバの解説】
『エミ』
銀髪のショートヘアーに、紫の瞳が特徴的な
魔法使いの少年と、魔王との決戦の後、
――『魔法使いの少年の魔力』と、『世界に満ちる魔力』が合わさり誕生した存在。
”
――エミはこの少女を『
『コルバ』
黒髪黒眼の
魔法使いの少年と、魔王との決戦の後、
――『魔王の魔力』と、『世界に満ちる魔力』が合わさり誕生した存在。
エミは自分の事を妖精と定義したが、コルバは魔王の魔力を受けて生まれた自分を
……エミは『魔法使いの少年の魔力』を受け、コルバは『魔王の魔力』を受けて誕生した故に、生まれながらに意見が合わず、二人はお互いに嫌っている。
――“契約”という、自分を殺しかねない存在を生み出す魔法を発現させたエミを恐れ、三年間追い続けて殺した。
◆
次回で回想は終了! そして同時に獣界に落とされた夢華の視点へ!