“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
……かくして、晴風夢華は魔法少女になった。
その実力と魔力は並みの魔法使いすら凌駕し、『魔法使いの少年』や『魔王』相手にも防衛戦ならばこなせるほど。
しかし……一つだけ
“契約”を行った
それは――契約者を『
魔法少女になった者は、その身が超人となり、保有している魔力が限界以上に引き上げられる。
それも契約できるのは限られた者だけであり、その条件を満たしていたのは夢華のみ。
……“契約”という魔法は、そんな
◆
違和感に気づいたのは契約から五年後のこと。
夢華の両親も不審には思ったが最初は気にせず……それから数年が経った時に、その不審は確信へと変わった。
……どれだけ時が経とうと変わらない体。
たったそれだけの事だ……なのに、元より夢華に対して当たりが強かった両親は嫌味や侮辱の数々を飛ばし、
やがて耐えきれなくなった夢華は……体から魔力を暴発させてしまった。
“…………バケ、モノ……ッ――!”
“あ、あなた……! 早くッ! 物置の
魔力に体を凪払われた両親。瓦礫となった家。
両親のみならず、近所に住んでいた人からも同じ視線と
「う……ッ、うぅ……ッ! あ、あぁ……!」
……自分の家が何処だったのかは、もう覚えていない。
それからは誰とも会わないように注意を払い、独りで生きてきた。
……武士が馬を駆り、武器で敵将を討つところを見た。
……海から異国の船が来るところを見た。
……日本が異国の文化を取り入れていくのを見た。
……時代が変わる瞬間を見た。
……戦争が起こる瞬間を見た。
……戦争が終わる瞬間を見た。
――それこそ、
変わらない体と共に……変わっていく世界を、この目で見てきた。
……それでもエミのことを一度も恨んだ事はなかった。
エミ自身、こうなる事は知らなかっただろうし……契約は自分の意志で選んだことだ。
◆
長い時間を生きていれば様々な事を経験する。
ある時には――
「アンタ……は」
黒い髪に、黒い瞳の男……間違いない。
「あ? 誰だお前……?」
エミが言っていた男――コルバだ。
最初こそは怪訝な顔をしていたコルバだが、夢華が魔法少女へと変身すると、その顔は驚きに変わり……そして、ニタリと笑った。
「はっ……エミのやつ、契約をしてやがったのか。
対した魔力だな――ッ!!」
それがコルバとの
……結果は引き分け。
初見であったという点が大きかったのだろう……互いに手の内を読みきれず、傷を負い、二人は同時に身を引いた。
◆
次にあった時、コルバは三体の
始まりの魔物たるコルバが新たに生み出した……新しい魔物。
――
同時に仕掛けてくる三体の魔物。
囲まれたとしても攻撃を
……中でもミアは
三体を相手取り、かろうじて撤退させることはできたものの、
自身の生み出した魔物がどれほどやれるか見定めるためか、コルバが乱入してこなかったのは幸運だった。
……もしコルバまで戦いに参加していたのならば、腕の一本は失くなっていたことだろう。
◆
長い時間を生きていれば様々な事を経験する。
ある時には――“
五〇〇年も生き続ければ、人の『良い』ところも……『醜い』ところも、嫌というほど見る。
助け合い。同情。愛情。
騙し合い。蹴落とし。裏切り。
一つ例を上げれば、
……ある日、独りでいる夢華に声をかけてくれた家族がいた。
夢華も心身共に疲弊していたため、その家族に迎えられ、しばらくの間を幸せに暮らしていた。
その後、どうして独りでいたのかと理由を聞かれ、自分の過去を話し……誰かに打ち解けたかったのか、魔法を見せた。
――『家族』は目を輝かせ、自分の『妹』になってくれた女の子は自分により興味を持つようになった。
………………
……『家族』は、自分と引き換えに渡された
「………………………………あぁ…………」
家族に引き取ろうとしてくれた愛情は『本物』だった。
……けれど、魔法を使える存在だと知った途端、金儲けのために使おうとしたのもまた、『本物』だった。
「………………あぁ……っ、ぅ、あ――っ」
殺されるのか、解剖されるのか、蹂躙されるのか、
取り押さえられながら最悪な考えだけが脳裏に浮かび『家族』の愛情も醜さも本当だったことに頭の中がぐちゃぐちゃになりどうするのが正解なのかどう接すればよかったのかもわからなくなり――――
「――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッッッッッ!!」
………………………………気づ、けば、
「 ぁ 」
周りに生きているものなど、一人もいなかった。
……みんな……みんな死んだのだ…………
発狂から魔力の暴風を吹き荒らした、
家も、『家族』も、政府の人間も、乗せられるはずだった車も……
◆
………………あれから何年経ったのかわからない。
それだけじゃない……人というものがわからない。
……何を信じればいいのか……どう信じるのか、
「ごめん、なさい……ごめん……なさい――っ……!」
今でも思い返せばうわ言のように謝り出す。
殺してしまった人たちに対して……そして、
「エミちゃん……維月……」
……エミのような酷い目に遭う
……死んで彼に会うことができた時に、顔向けできるように前を向くと、誓ったのに……。
(……どっちも……守れてない)
……まるで亡霊のように宛もなくさ迷い歩く。
心が空っぽになってしまったような虚無感。
……そんな時だった、
「わ――っ!?」
――――その
ぽんっ、と。自分とぶつかってしまったその娘を咄嗟に支える。
「……っ――ご、ごめんね。大丈夫?」
「は、はい……こちらこそ、ごめんなさい」
見た目からして、小学生くらいだろうか。
茶髪のショートヘアーを揺らしながら、落としてしまった紙袋を足元に、夢華を見上げてくる。
不思議と吸い込まれるような瞳に何処か懐かしさを感じながら、彼女の落とした紙袋を拾う。
「っ……、これ」
紙袋から漏れ出ていた人形が目に入った。
何かのアニメのマスコットキャラクターのような、愛らしい小さな動物……?
これを愛らしいと思う少女のような心がまだ自分に残っていた事に苦笑していると、
「あなたも好きなんですか!? 『フラーワー』が!」
興奮したように茶髪の女の子が身をぐいっと乗り出してきた。
のわっ!? と、驚きながら目に星を浮かべている女の子を見て、
「ふ、フラーワー……? このキャラの事?」
「はいっ!!」
ひしっ! と、夢華が持っていた
「アニメ『魔法少女ブルーム』に登場する妖精で主人公のパートナーなんですけど猫なのに背中に
「お……落ち着いて、落ち着いて!」
休みなく
「……ところで、その……魔法、少女――?」
先ほどの早口の中にあった単語を繰り返す。
魔法少女……その単語は、だって……私の…………、
「魔法少女ブルーム――みんなを助けて明るく寄り添ってくれる正義の味方です!」
紙袋から本を取り出し、元気よくページを開いてくる。
そこには猫の妖精フラーワーと仲良くじゃれあっている桃色髪の女の子が描かれていた。
――その隣には、『変身した姿!』という
「どうです? 可愛いですよね!?」
「う――うん、そうだね。……これが、魔法少女……」
ページには『魔法少女ブルーム!』と上の方に大きく載っており、夢華の知る魔法少女とは違う、ポップさ全開の魔法少女がそこにいた。
……それに、女の子は『アニメ』と言っていた……つまり、
(魔法少女――エミちゃんと契約した私とは違う……この五〇〇年の間に生まれた『フィクション』としての魔法少女)
自分の『魔法少女』としての在り方とのあまりの違いに、少しだけ圧倒されてしまったが――印象に残ったのは、嬉しそうに語る女の子と、この一文――
『魔法少女は人々を助けてくれる、みんなの希望だよ――!』
「――っ」
心を揺さぶられるとは、このような事を言うのか。
長い年月により沈んだ気持ちや、精神の
……深く、息を吐く。
小さな女の子との出会いが、自分とは違う『魔法少女』との出会いが……
「魔法少女はみんなの希望……か――」
――エミのような娘を、自分のような娘を作らないために魔法少女になると誓った。
――死んだ後、彼に顔向けできるように前を向くと誓った。
まだ、どちらも守れていないけれど……そもそもこんなに
――今からでもいい、顔を上げて前を向け。
自分の思いは二つとも『人を守る』という事が根底にある。
守る為の力なら
守る為の意志なら
……
――――魔法少女とは、
「ん――、……あの、」
「ふふっ――、」
――――現実でもフィクションでも、人を守る存在なのだから。
……あの日、殺してしまった人たち以上に、より多くの人間を救おう。
償いになるかはわからないけど……それでも、罪と向き合うと決めた。
「ありがとうね」
女の子の頭を撫でながら感謝を告げた。
「へ……? わたし……何かお礼言われること、しましたっけ……?」
「ん――ごめんね。確かに、これだけだとわからないね。
でも……キミのおかげで大切な気持ちを思い出す事ができたから……本当に、ありがとう」
魔法少女の事を簡単に語ることができず、説明も出来ないままもう一度お礼を言ってしまったが……そのお礼を向けられた女の子は、最初こそは首を傾げていたものの、
「――わたしがあなたの大切な気持ちを思い出させることができたなら、よかったです!」
女の子自身も、本当に嬉しそうに、夢華が前を向けた事を笑顔で祝ってくれた。
(あぁ――)
――“守りたい”。
こんな笑顔を向けてくれるキミを。
「私、晴風夢華。――キミの名前は?」
魔法少女グッズが詰め込まれた袋を抱きしめながら、茶髪の女の子が夢華を見上げながら、元気よく――
「わたしは、
よろしくお願いします、夢華さん!」
◆
――――長い
「…………ぁ…………」
腹部を焼くような灼熱感。
口の端から漏れ、もう固まっている血。
そして――影で作られたような、墨のような世界。
「わた……、……し……」
こひゅー、こひゅー、という、か細い呼吸を繰り返しながら思考をなんとか纏まらせる。
纏まった思考は記憶を鮮明にしてきた。
……先ほどの、コルバにアリファ……そして、
「っ――! う、っ……」
目の前で押し潰された恵弥の事を……痛感させられた自らの無力さと共に思い出す。
地面……なのかもわからない真っ黒な床に気づけば爪を立てていた。
爪が曲がり、
「……ごめん……恵弥ちゃん……。わた……私、は……ッ――!」
どれだけ謝っても死んだ命が蘇るわけじゃない。
どれだけ反省してもあの子に頭を下げれるわけじゃない。
……後悔を前にすれば腹部の灼熱感/激痛などどうでもよかった。
「ぐ……、ぅ…………ここ、は……?」
頬に涙の跡を残し、辺りを見る。……ここは現実ではなかった。
――全てが『墨』色。黒一色の筈なのに何故か周りの風景が見える。
“崩壊した街”が広がっているかと思えば、ある境界線からは“草原地帯”が展開され遠くには山もある。
更にはある区域からは果てしない“
現実にはあろうはずもないグチャグチャの世界。
それがコルバの『中』に展開されている『影の獣』の住処――『
(私は……
――
夢華の考えを裂くように……『街』から……『床』から……ありとあらゆる『影』より“獣”が姿を現した。
理由など知れたこと……ここはヤツらの住処で、そこに
「ぁ……、ぐ……っ!」
立ち上がろうとするが激痛がそれを阻止する。
……いや、阻止しているのは激痛だけではない……精神的な苦痛も一緒だ。
じりじりと距離を詰めてくる獣の数は一〇や二〇を越えている。
このままでは喰われてしまう……というのに――、
(私、は……)
助けたい人々……その中でも一番助けたかった
ここを生き延びたところで……一番助けたかった子さえ助けられない自分に……他の人々を助けられるのだろうか――。
(私……は…………)
心が折れる寸前の彼女に立ち上がる気力は残っていなかった。
……身を晒している彼女の首筋に獣が牙を突き立てる。
首筋の次は腕を、腕の次は腹を、腹の次は心臓を――
「――――――――、ぁ」
死ぬ。殺される。喰われる。
何も為せないまま、ここで
走馬灯は……最後に脳裏を過ったのは――
“――わたしがあなたの大切な気持ちを思い出させることができたなら、よかったです!”
一番守りたかったのに守れなかった……妹みたいな女の子で――――
◆
――――
黒塗りの世界を照らす、輝きの一閃。
餌に群がっていた獣たちは一撃で薙ぎ払われ……剣を振るった夢華は体中から血を流しながら立ち上がってみせた。
「……死ね、ない…………死ねる、もんか……ッ!」
瀕死の彼女を動かしてみせたのは脳裏に
助けられなかった/守れなかった……目の前で殺されてしまった女の子。
その子を殺した
だというのに、ここで自分が死んだらどうなるか……。
止めるものがいなくなれば、あの男は今まで以上に行動が活発になるだろう、
殺すか……それとも、人を利用するか――どちらにせよ、看過などできる筈がない。
「これ以上――やらせてたまるかッ!!」
あの子を失ったからこそ……これ以上はやらせない。
体中に治癒魔法をブン回す。獣に喰われたところも、コルバにやられた腹部にも。
「このままじゃ、死んでも死にきれない……死ぬのなら、たくさんの人を守ってから死ねッ!!」
もはや強迫じみた意志。
突き動かそうとするのは人々を守ろうとする心。
――――これでいいのか…………?
…………良くはない。――けれど、
ここから脱出しようとするための原動力としては申し分ない。
活力の
「ああああああああああああッ!!」
その身を侵食するように魔法少女の力を纏う。
長い白髪に、学校の制服を思わせる服装へと。
「邪魔……ッ!」
無限に湧き出てくる獣へと飛びかかる。
最初の獣を両断し、次の獣の鉤爪を躱しながら首を跳ね、首を噛み千切ろうとしてきたヤツの口の中に剣を刺す――そのまま背後から襲おうとしていた四体目の獣へと振り抜く。
「が、ぐ……ッ!! ……あ゛、ぁあ゛ア゛――ッ!!」
全身を削られながらも前に突き進む。この世界から脱出するために切り払う。
どうすればいいのかはわからない……今はただ、前へと――――
「――――、っ!?」
ふと……視界の端に映った
「アレ、は……」
そこに