“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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 そこに()たのは――


第二章(6)黒衣の魔法少女

「……………………」

 

 ……気づけば、そこは墨色の世界だった。

 腹部に(あな)を開けられ影に落とされたアリファは、辺りを見渡さずともここがコルバの獣界(じゅうかい)であることを理解した。

 

 ――獣界という、コルバの体内に展開された魔法。

 ……黒一色の世界に住まう影の獣。

 特徴は、何度倒そうと無限に湧き出る影の獣。

 それともう一つ(・・・・・・・)――影の獣に殺された者の異能の力は(・・・・・・・・・・・・・・・)コルバの力に変わる(・・・・・・・・・)。……というもの。

 

 この世界に落とされてしまえば、如何に強力な力を持っていようと無限の影の獣の前ではいずれジリ貧となり、体力と魔力が切れていき……最終的には殺されてしまう。

 

 ……つまり、

 この世界に落とされてしまえば、そこで“終わり”なのだ。

 すぐにとはいかないが……このままでは夢華の『魔力(ちから)』も、アリファの『(ちから)』も、どちらもコルバに奪われてしまうだろう。

 

「っ……影、の……」

 

 死にかけを囲う獣の軍勢。

 ……だが腹部を貫かれたアリファには抵抗する力はなく……精神面でも抗う気力はなかった。

 あるのは後悔と謝罪。

 自分が死なせてしまった三人への思いだった。

 

(夢華……恵弥……ミーちゃん――っ、)

 

 ……どんな苦しみを味わったのだろう。

 ……最期に何を思って死んでいったのだろう。

 

(わたし……っ――わたし、が…………っ)

 

 ――自分はどんな苦しみを味わうのだろう。

 ――自分は何を思って死んでいくのだろう。

 

 猿の()が膝へと爪を突き立てる。

 蛇の()が首を折ろうと体を巻き付ける。

 狼の()が腹を食い破ろうと牙を突き刺す。

 

「……………………は」

 

 どうやら退屈な死に方はしないらしい。

 大切な人を三人も死なせた自分にはお似合いの結末だ。

 

 ――でも(・・)

 ――――彼女(・・)が、それを許さなかった。

 

 アリファを喰らおうとしていた影の群れが、瞬く間に体を断ち切られ絶命する。

 …………え? と、何が起きたのかを確認するよりも先に言葉が差し込まれた。

 

「……アリファちゃん……無事……?」

 

「――――っ、」

 

 今度は言葉さえ出なかった。

 幻聴ではないかと疑いつつ、重かった顔を上げてみる……長い白髪に、学校の制服を思わせるブレザーのような丈の長い外套。

 

「夢、華……?」

 

「ふぅ……、はぁ……!」

 

 もう会えないと思っていた少女が、アリファと影の獣の間に立ち塞がっていた。

 震える喉が、詰まる物を吐き出すように必死に声を絞り出す。

 

「生き……てた、の?」

 

 もう喰われていると思っていた少女が生きており、アリファを守ろうと剣を握ってくれている。

 生きていてくれて嬉しい気持ちと……彼女を陥れてしまったことへの罪悪感。

 ……合わせる顔などない、と……再び顔を伏せてしまい――

 

「アリファちゃん! 逃げるよ!」

 

「え……? ――っ、……ゆ、夢――」

 

 無理矢理――それでいて優しく――体を抱き上げると、建物を遮蔽物とするように墨色の世界を()んだ。

 一点には留まらないように……常に走り続け、時には屋根を跳ねた。

 

「…………どうして……?」

 

 傷口(ふくぶ)に手を置きながら、覇気を失いかけている声で問いかける。

 ……問いかけられた夢華も、どう答えるべきか悩んでいるようだった。

 

「わたし……夢華や、恵弥を陥れて…………死なせた、のに……っ――――」

 

 夢華に掴まる手に、自然と力が込められる。

 罪悪感。反省。後悔。……手に込められた力はどれが(みなもと)になっているかわからない……恐らくは全てだろう。

 アリファを抱いている夢華はその思いに気づき、閉じられていた唇を開いた。

 

「……私もね、自分の気持ちがよくわからない……今だって、自分の事や、アリファちゃんの事で、ずっと混乱してる……。

 …………だけど――」

 

 逃げる速度を(はや)めながら、心に浮かんだ言葉を宣言するように音に変えた。

 

「私の体は、アリファちゃんを助けるために動いた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)から。

 咄嗟に動いた体を、咄嗟に浮かんだ思いを――私は信じる。

 確かに言いたいことはあるけど……それは全部、ここを一緒に脱出して、傷を治してからだよ」

 

「……夢華――」

 

「大丈夫だよ……絶対に助けるから……!」

 

 宙を舞いながらアリファに情報を求めた。

 

 ――ここは何処なのか?

 ――コルバが生み出した魔法の中なら、どうしてアリファがここにいたのか?

 ――あの後……あの広場で何があったのか?

 

 アリファは包み隠さず全てを話してくれた。

 ノクスが事実上の崩壊になった事を知ったところで――

 

「ッ!? 夢華――ッ!!」

 

 アリファが突如として叫びを上げた。

 叫ぶ事となった要因を、夢華は直感で感じ取った……その要因は、()にあった。

 

「――ッ!?」

 

 空の彼方に――ワイバーン(・・・・・)が飛んでいた。

 現実には存在しない架空の生物。

 だが――この獣界(じゅうかい)には存在する、『影の獣』の一体。

 …………その……口が(・・)――開かれて――――

 

『!?』

 

 カッッッ(・・・・)――!! と。

 アリファごと夢華を貫く光線が飛来(ひらい)した。

 

「アリファちゃん――!!」

 

 自由の()かない空中で必死に身を(ひね)り――/――ズジャッ(・・・・)!!

 

「ッッッ――!? あ゛、ァ゛!?」

 

 たとえ命を躱されようと、光線は容赦なく夢華の右足を貫いた。

 上空一〇〇メートルから地上に落下していく。

 受け身を取るのも忘れたまま、一心不乱にアリファを守ることだけを考え、彼女を抱きしめたまま背中から地上に激突する。

 

「がっ……!? ぐ……!?」

 

 体を何度も打ち付けようやく勢いが止まる。

 止まる直前にアリファが腕から離れてしまい、数メートル先に身を倒していた。

 

「アリファちゃんッ……大丈夫!?」

 

「わたしより……あなた、が……」

 

 大きな怪我はなさそうだ。

 夢華は(あな)が開いてしまった右足に治癒魔法を回すが、即座に回復には至らない……こうしている間にも、

 

「ちっ……!」

 

 先ほどのワイバーンだけでなく、周囲の影から何十体もの獣が湧き出て、まともに動けない二人にトドメを刺そうとしてくる。

 

「く、そ……」

 

 アリファも『幻』を生み出し獣に対抗しようとするが、コルバに貫かれた腹部の激痛や多量出血も合わさり、意識が定まらず魔法を行使できない。

 ……………………さらには、

 

「……あ……え……?」

 

 ワーニスと同じように……体が魔力()に変わり始めていた。

 ――――お前はもうすぐ死ぬ(・・・・・・・・・)

 

「――――ゃ……ッ、嫌……ッ!! 嫌だ……ッ! 嫌ぁぁぁぁぁぁぁッ!! 死にたくないィィィィィッッッ!!」

 

 遂にはパニックを起こし、狂ったように泣き叫んだ。

 

「っ……! アリファちゃん――!!」

 

 片膝立ちになりながらも得物(えもの)の剣を獣の軍勢に向ける。

 瞬間――軍勢が一斉に襲いかかった。

 

「ぐ……っ! ぁ――あァ……ッ!!」

 

 向かってきた獣の頭を斜めに切り飛ばす。

 頭が半分になった獣は残った体を勢いそのままに何度も地面に打ち付けていく。

 周囲の確認の為に振り返ると、

 

「――ッ!?」

 

 無防備に体を晒しているアリファへと、別の獣が飛びかかっており――/――咄嗟に剣を投げつけ、その剣尖が飛びかかろうとしていた獣の頭を割る。

 

「次――!」

 

 得物を失った夢華に第三の獣が殺しにかかる。

 殴り飛ばそうとしたが、体勢がとれていないだけに空振りしてしまい、振り抜かれた腕へと噛みつかれてしまう。

 

「う゛、あ゛ァ――!? い、づ……!!」

 

 夢華が抑えられている内に、次の獣が夢華を飛び越えアリファへと駆けていく。

 

「その――子に……ッ!!」

 

 魔力を纏わせた左手の手刀が右腕を味わっている獣の首を狩る。

 

「手を出すなァ――ッッッ!!」

 

 自由となった身で、左足の力でバネのように跳ね、今まさに喰い殺そうとしていた獣を殴り飛ばす。

 

「ぐっ!? ぅ……ぁ!」

 

 ――それが限界だった。

 危機を救った夢華はそのままアリファの上へと重なるように倒れ込み、疲労困憊(ひろうこんぱい)で荒い息を吐く。

 

「ぅ……え……? 夢、華……」

 

 今の状況が理解できないほどの錯乱だったのか、アリファは今何が起きているのかをようやく理解したようだった。

 ……目を真っ赤に充血させたアリファに覆い被さり……痛みに耐えながら、それでも安心させるように微笑んで、

 

「大丈夫だよ……」

 

 動揺に染まっている女の子の頭を抱擁(ほうよう)して、

 

「っ――、夢華――」

 

「絶対に、私が守るから――」

 

 獣の一斉攻撃から……アリファを守る()となった――。

 

          ◆

 

 死は……、

 

「――――、…………?」

 

 ――――――やってこない(・・・・・・)

 

 目を開ければ……獣たちは切り裂かれ、黒い亡骸(なきがら)となって地面に落ちていっていた。

 

「……え?」

 

 疑問を抱くよりも先に……背後に(・・・)、何者かの気配を感じた。

 振り向けば、その方向から迫っていた獣も断ち切られており、

 

 この黒い世界でもよく見える、

 黒い外套を纏った桃色髪の少女が立っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 黒紫の剣を片手に、二人を窮地(きゅうち)から救った桃色髪の少女は振り返って――

 

「大丈夫……?」

 

「――――」

 

 ――――どうしてかな――――。

 あの男の子(・・・・・)を思わせる女の子が、優しく身を案じてきた。




 ――――反撃の時がきた。

          ◆

【次回】――『魔王と共に駆けろ』
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