“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
助けに入ってきた桃色髪の少女――
それを――降り注ぐ『
「からかって場を和まそうと思うていたが……そんな余裕はなさそうじゃの」
彩李の次にその場に現れたのは、薄い紫のショートヘアーと、紺色の瞳を宿す小柄な女の子だった。
白いブラウスに、上から羽織った紺色のカーディガン。紫のミニスカートに両足を包む黒いタイツという
……しかし、今しがた雷撃を放った本人である彼女にとって
――――殺し合いの場に、これ以上相応しい
「あな、たは……」
アリファは怯えが全身を駆けていくのを感じた。
彼女はアリファにとっての『トラウマ』。
あの姿を……あの雷撃を、忘れる筈がない。
「魔、王……」
「あの日以来じゃな、小娘」
……だがあの時と違って敵意はない。
戦う意志は感じるものの、それは自分に対してではない。
自分と……夢華に向けられているのは身を案じる思いだけであり――
――――
空を駆け巡る/埋め尽くす『
……狙い撃とうとしていたワイバーンや、体を串刺しにしようとしていた
「キミ、たちは……彩李ちゃんに……メイナちゃん?」
呆然としたまま夢華が二人の名を呼ぶ。
「この間ぶりじゃの、夢華。色々と言いたいことはあると思うが……
メイナが手を翳すと、傷を負っていた二人の体が治癒の光に包まれる。
「っ――、これ……」
「傷、が……」
癒され、痛みが引いていく体に触れる。
アリファにいたっては、半透明になりかけていた手を握っては開き、体が存在している実感を噛み締めていた。
「ありが、とう――でも、どうして……? 魔法少女でもないのに……?
っ……、まさか……
動揺の中に僅かな警戒を灯して恩人を見上げる。
仕方がないとはいえ向けられたその視線。
向けられた当の本人は気にしていないように『ふむ……』と、息を吐き、
「……正解ではないが……まぁ、ある意味では
今はその認識でよい……じゃがこれだけは言っておく。
私は――私たちは、君たちの味方じゃ」
――バッ!! と。
新たな影の獣が飛び込んでくる……その動きは
様々な建物の側面を足場とし、四人の少女の内、一番ダメージを負っているアリファを狙いに定めて飛び付き――
死神を思わせる大鎌。
遮っただけに思えた一振りは、その実、
大鎌の使い手たる『灰色髪の少女』はソレを自在に操り、獣を瞬く間に切り刻み
「無事か、アリファ!」
「――っ!? ミーちゃん……!」
あの日、自分がプレゼントした黒いリボンで髪を二つに結っている
「アンタは……ミア?」
「手酷くやられたな、魔法少女。私の言葉など信じられないだろうが、今は時間が惜しい……脱出するぞっ!」
次から次に現れる敵味方のオンパレードにダメージとは別の意味で
……ここから出たいのは夢華も同じ。アリファの手を引き、少しずつ治ってきている体を優しく引き上げる。
「……ていうか、彩李ちゃんの服装……あの日、学校であった子の……」
「あ……あはは……説明が大変だなぁ……」
この
「立てるか? 夢華にメスガキ……こんなとこ、とっとと出るに限るからのう」
「う……うん。なんとか、立てはするけど……」
「まだ……キツい」
ふらつく二人に手を貸そうとした時――体の
「あ――」
「……彩李、どうした?」
不意に胸元に手を置いて立ち止まった彩李に、メイナが小首を傾げると、
「この子が、『わたしも手伝いたい』ってさ――」
瞬間、彩李の胸元から飛び出るように『白い光』が
「っ……、キミ――っ」
白い光は茶髪の女の子へと変わり、傷を負っている二人を離さないように強く抱きしめた。
「――
アリファの驚きは夢華も同じ。
死んでしまったと思っていた女の子が、自分を抱擁している。
呆然と抱きつかれるままだったアリファが、ゆっくりと……震える手で恵弥を抱き返す。
「生きて、いたの……?」
その一言で潰される瞬間を思い出したのか、二人に回されている手が小刻みに震えた……だけど、それこそがいま生きているという何よりの証で――
「生きていて、
アリファの
「うん――わたし、生きてるよ……。
会いたかったよ、アリファちゃん――」
自分を殺しかけた相手に、どうしてそんな言葉をかけてくれるのか。
……どうして、会いたかったと言ってくれるのか――。
……どうして、涙を流してくれるのか――。
――――それが、新芽恵弥という女の子だから。
もう魔法少女になる
その心の在り方は、まさしく子どもが思う魔法少女としての
「――――っ……、」
アリファの涙が恵弥に触れられるなら、恵弥が流した涙もアリファに届く。
恵弥の涙を頬に感じながら、アリファは恐怖からではなく、感謝と
「う――ぁ、ああ……っ! う……っ――!
…………ごめん、なさい……ごめんなさい……!」
恵弥の小さくも強い、小柄な体にしがみつきながら、
「――――あり、がとう…………」
心からのお礼は、周りに溶けてしまいそうな、消え入りそうな声。
苦しいくらいに抱き寄せてくる抱擁が、『ちゃんと聞こえたよ』と告げていた。
「大丈夫だよ。わたし、怒ってないから」
「――――――――ん……」
まるで親に
◆
「恵弥ちゃん……」
アリファとの会話を聞きながら、恵弥の体に身を預けていた。
恵弥とアリファとの間の気持ちの
……彼女を守れなかったことからの罪悪感だ。
助けられる力を持っていながら助けられなかった。
目の前にいたのに手が届かなかった。
恵弥が生きていたのは本当に嬉しい……けど、守れなかった自分が情けない……そんな自分が彼女とどう顔を合わせれば……、
「夢華さん」
「っ……、」
親に叱られる子どものように震えてしまった。
今の夢華は何を言われても怯えてしまうだろう……びくびくと震えながら言われる言葉を待ち、
「――ずっと、わたしたちを守っててくれて、ありがとうございます」
「――――――え?」
震えはこなかった。……代わりにきたのは困惑と動揺。
……いま、彼女は何と言った――?
ありがとうございます。と……お礼を言わなかったか?
「……なん、で?」
目の前にいたのに守れなかった。自分のせいで怖い思いをさせてしまった。
……自分は目を合わせるのも怖いのに――この子は自分から真っ直ぐに目を合わせてくる。
「メイナさんから、夢華さんが魔法少女だって聞きました。
ミアさんからは、夢華さんが前から沢山の人を助けていたっていう事も」
「……でも……わた、しは……キミを、助けられなくて……」
「そんなことないです――!」
力が抜けていた夢華の手を
「夢華さんが頑張ってくれたから、わたしは生きてるんですよ……!」
「――――え?」
自分がコルバに殺されそうになっていた時の事を……いや、それよりも前の事を思い出し、少しだけ顔を歪ませて、
「……コルバって人、わたしを閉じ込めた時、こう言ってたんです。
――――魔法少女が呼び掛けに応じなかったら、お前の体を引き裂いて晒してやる、って……」
……ズプッ……と、胸に張り付くような声だったのを覚えている……。
コルバは魔法少女を排除できるのなら、恵弥の命などどうなろうと構わなかった。
だから、魔法少女が――夢華が来た時、堪らなく嬉しかった。
自分の事を助けに来てくれたんだって、とても安心できた。
それに、夢華が助けようと
たとえ助けに駆けつけても、コルバやアリファとの戦いが長引いていなければ……死を隠蔽するメイナの魔法も間に合わず、そのまま殺されていただろう。
「夢華さんが来てくれたから、わたしは助かったんです。
夢華さんが必死に戦ってくれたから、メイナさんの魔法が間に合ったんです。
……だから――」
そう。だから――
「どうか……自分を責めないでください。
助けられていないとか、そんなこと、絶対ありませんから……!
少なくともわたしは、夢華さんに助けられましたから――!」
疲弊しきった心に届くようにと――、
「――夢華さんに助けられた人は、確かにここにいますからっ!」
掴んでいた夢華の手を自分の胸に当てながら――『あなたは頑張っている』――と、伝えた。
「――恵弥、ちゃん」
自分の頑張りを
自分の思いを認めてくれる言葉だった。
“人を守る”――言葉にすればただそれだけの、子どものような自分の思いを。
(……そういえば、前にも)
あの街で、恵弥と最初に出会った時にも、
亡霊のようにさ迷い、このまま消えてしまいそうだった自分を救ってくれたのは目の前の女の子だった。
今、この瞬間のように――あの時も、夢華の
「っ――――、ん――」
恵弥の小さな手が頬に伸びてくる。
目元をなぞっていく指先――そこには
「――――あ」
そこでようやく夢華は、自分が
「ん――っ」
涙を拭い、
落ち着くために息をそっと吐き出し、まるで母親のような包容力を持つ女の子と目を合わせて、
「また、助けられちゃったね……凄いよ、恵弥ちゃんは」
「えへへ――助けられてるのはお互い様です。あんなに怖い人と戦ってる夢華さんの方が凄いと思いますよ」
真っ暗な世界だというのに、とても明るい笑顔。
――この笑顔に、勇気づけられる。
――この笑顔が、力をくれる。
「ありがとうね。――いつも、本当に……」
◆
恵弥が夢華とアリファを支えながら歩き、彩李とメイナが前を、ミアが後ろを守り、『出口』へと走る。
――『出口』……というよりは、彩李たちがこの世界に入ってきた『入口』だ。
メイナが、ミアとコルバの“繋がり”からこの
……その入口/出口は『裂け目』となってこの世界に出現している。
――――だが……その裂け目は
「メイナ、裂け目はあとどれくらい持つ――?」
「おそらくじゃが……持って、
――その数分を過ぎてしまったら、この世界に閉じ込められてしまう。
……幾度となく迫り来る影の獣を打ち倒しながら、二人が裂け目への道を切り開く。
「っ――、」
五〇メートル先の獣が接近するよりも早く、メイナがその距離を一瞬で跳び――獣の頭を
鉤爪が胸に刺さったまま
「っ――!」
逃げる隙間など存在しない巨大な『雷の
ワイバーン……ではなく――
一帯を
対するメイナは
「――任せろ」
――空へと躍り出た彩李が
顔が砲門のため表情はわからないが、体が震えていることから
その動揺が命取りとなり、地に足をつけた彩李が細い足に力を込めたかと思うとその場から
(一番ヤバいのは
残る空の驚異はワイバーンのみ。
――彩李は身を捻り、黒紫の剣から魔力の斬撃を振るうと、避ける
……スタッ、と。黒い外套を風に揺らしながら、桃色髪の少女が舞い降り、
(……後ろは大丈夫だな)
◆
脱出している最中に――彩李やメイナ、ミアたちについての詳細を恵弥から聞きながら、現状がどうなっているかを把握し――少しずつ治ってきた体で裂け目へと向かう。
「――っ……、」
長年の魔法少女としての感覚が足を止めた。
夢華を支えていたアリファや恵弥が不思議そうに夢華の顔を覗き込んでくる。
「夢華さん……?」
「……どうしたの?」
「……なに……この感覚は――」
夢華が違和感を感じる位置……彩李とメイナの先に目を向けていると……数秒遅れてアリファも気づいて顔を上げる。
――違和感が具現化したのは、まさにその時だった。
他のモノよりも一際大きい
二足歩行に、二つの腕というシンプルな――/
――黒き巨体の
「――――――
……圧倒されるしかない。
幻想にのみ存在を許される獣が……『獣界』において
……剣を思わせる影の腕が
……そして、
(ぁ――、――――
その直感は正しかった。
……
目にも止まらぬ速さで二柱の
◆
――――その光線を、
◆
「……私たちを無視するとは
光線よりも速く前線から戻ってきたメイナが回し蹴りを放ちながら息を吐いた。
「怪我はない?」
「っ……う、うん……大丈夫」
「た……助かったわ」
「……彩李さんとメイナさんは大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫。……ってことはメイナも大丈夫だな」
へらっ、と笑いながらメイナに目配せすると、
「当然じゃ。君に耐えられて私に耐えられぬわけがなかろう」
服についた汚れを払いながら自慢気に微笑み、
「私たちを逃がさんとばかりに出てきよったな。
獣界という名なのは知っておったが……まさか幻想の生き物まで『獣』とカウントしておるとはの」
予想外の事に驚いてはいるが、その表情に焦りはなかった。むしろ
「この世に存在するモノでも、存在しない生き物でも変わらないさ……
ミアとは違う、
……いつもの彩李とは違う、五〇〇年前の調教教育によって染み付いた『どんな存在も殺せばそこまで』という考えが、
視界の先でドラゴンが
誰であろうと気圧されてしまうであろう
「獣だろうが、ドラゴンだろうが……その程度で止められると思うなよ?」
それはドラゴンに対してか、この世界の主に対してか。
静かな挑戦状を打ち込み――