“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
……獣界から脱出して、はや数十分。
姉妹としての時間を作れるようにと、二人に部屋を貸してきた彩李が、メイナと夢華のいる自室へと帰ってくる。
「夢華さん、体は大丈夫ですか?」
「うん。すっかり良くなったよ、ありがとね」
ベッドの上で休んでいた夢華が、痛みが引いた顔で伝えてくる。
「とはいえ疲労は溜まっておろう。しばらくは休むとよい。この家、今は部屋が有り余っておるからのう」
「それ俺が言うべきことじゃないか……?」
いきなり我が物顔で休むよう促したメイナに苦笑しつつ、そっと息を吐きながらこれからの話に備える。
「さて、落ち着いたところで、お互いについて話すとするかのう……」
「…………うん」
正直なところ、夢華はまだ困惑が頭に強く残っていることだろう。
ミアや恵弥には、夢華たちを助けに行っている最中に自分たちのことを話し、
アリファには、今ごろミアが自分たちの事を話してくれているだろう。
……だから、夢華に事情を話すのはこれが初めて。
彩李たちも夢華や魔法少女の事を詳しく聞きたいので、良い機会だ。
「まずは私たちから話そう。その
「……わかった」
◆
一〇分後……お互いの事情を話し終えるとメイナは珍しく眉間に
「…………、なるほどのう」
手を置いた口元から重く声を呟いた。
……この一〇分の間で様々な事を話した。
――魔法使い。魔王。魔法少女。
――精霊。妖精。
そして――夢華が自分たちと同じく、五〇〇年前の人物だということ。
(この子が……俺たちと同じ五〇〇年前の……)
部屋には沈黙が流れていた。
いや……沈黙というよりは、みな考えているのだ。
メイナは変わらず口元に手を置き、話された内容を脳内で整理している。
――
普段のメイナからは考えられないほどの沈黙を
……他の内容からも反応はしていたが、黙ってしまうほどの衝撃を受けたのはソレだった。
……そして、
「――――
夢華の喉からもようやく声が絞り出された。
――彩李は五〇〇年前に存在していた魔法使いの少年であり、
……そして、メイナの魔法により今の時代に転生した。
……その話が彩李の口から語られた時、
夢華はひゅっ――と息を詰まらせ、まるで発作を起こしたかのように瞳が落ち着きを失い、震え続けていた。
「維月……なの――?」
無意識のうちによろめきながら立ち上がった夢華は、
……昔の事であったとしても忘れていない。
……調教の果てに壊れたとしても欠けていない。
彩李は肯定を示すように頷いて、
「俺の……前の名前は、
……でも、どうして夢華さんが知って――――」
確かに五〇〇年前の事を語った。
しかしその時に、前世の少年であった時の
夢華がよろめきながら駆け寄って来たかと思うと、彩李を強く
「ゆ、夢華さん!? いきなりどうし――」
「維月――維月だ! 間違いない……っ!!」
嬉しさを堪えきれない声はこちらの声を遮るほど。
抱擁を解き、目線を合わせた夢華は彩李の両肩を掴んで、
「維月、私だよ――覚えてる?
五〇〇年前、あの山で、川で、私にたくさんの魔法を見せてくれたでしょ?」
まるで今まで我慢していたものを解き放ったかのように言葉を並び立ててくる。
突如として彩李に抱きついてきた夢華に驚いていたメイナだったが……夢華の声を聞き、何かを考えるように再び小さく顔を伏せる。
肩を力強く掴む手も、嬉しそうな表情も、油断すれば泣いてしまいそうな瞳も……真っ正面から向けられている彩李にはわかる。
……決して気が触れて叫んでいるモノではない。
全部真実だ。嘘など一つもない……。
……
「…………ごめん、なさい」
この言葉が自分から出てくることに、心が傷んだ。
「
「……………………………………………………え?」
……夢華の表情から
掴む手がわなわなと震える中、笑顔が消えていった顔に理解を
「な、なに言ってるの……? 五〇〇年前に、会ったでしょ……?
君の住む村のあったあの山だよ! その山にある川で私と会ってたでしょ!? 何回も……私に魔法を見せてくれるって言って――!」
「……っ、」
これだけ聞いても何の事なのか……わからない。
……夢華が間違っていないなら、自分が忘れているのだ。
だから……思い出さなきゃいけないのに。
「夢華、さん……っ」
必死に伝える
「い……維、月……?」
「……ぁ――――」
――――泣かせたく、ないのに……。
どうすればいいかわからない……どうしてあげるべきなのか、なんて声をかければいいのか……。
冷たい空気にすらならない『間』の中、沈黙だけが続いていって……、
「……それは、
慎重に言葉を選んだ後に、メイナがその沈黙を破った。
顔をそちらへ向けたのは夢華のみならず彩李もだった。
横で聞いていただけのメイナが、答えに思い当たることがあるように言葉を発してきたのだから無理もない。
「……メイナ?」
「……夢華よ。君の言葉から推測するに、君は五〇〇年前の彩李――黒宮維月と会ったことがある。
その事を彩李に聞いているのに、彩李は覚えていないと言っている……そういう事か?」
「う、うん……そういう事だけど……」
……
「実はな夢華、私は五〇〇年前……維月であった頃の彩李と戦い、その果てに転生の魔法を使ったんじゃが……その転生の途中、彩李の記憶を見ていてのう」
「……記憶を?」
「そうじゃ。それこそ生まれてから私と戦うその時まで……黒宮維月の一生をな。
じゃが――」
不意に苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、
「その記憶の一部に、
……記憶の閲覧中――ザザザザザッ!! と。
目の前がノイズがかったように見えなくなり、その時の記憶は一切見ることはできなかった。
……ようやく見えるようになった時には、少年は魔法使いの拐われ、調教を受けているところだった。
ノイズが走ったのは、『普通に暮らしていた記憶』と『拐われた後の記憶』の“
「……先ほども話したが、維月は魔王と戦う為に、魔法使いに拐われ非人道的な事をされてのう。
……恐らくはその時の痛みや
――
消えてしまった“間”の記憶は――維月にとって、とても楽しかった夢華との記憶。
直近で起きたことも合わさり、楽しさが
「……っ、そんな……」
彩李の肩を掴んでいた手が、するすると力を失い滑り落ちていく。
「じゃから、その……君が会っていた存在は、彩李で間違いないのじゃ……」
メイナの歯切れが悪かったのは、自分が何よりの元凶であるからだ……。
自分が生まれなければ……あるいは、生まれた時にもう少しまともな思考を持っていれば……維月が錯乱した魔法使いに拐われることもなく、夢華が維月を失うこともなかったのだから……。
「……夢華さん……あの……」
そこまで口にして……しまった、と自分を責める。
何か言わなくてはと思い
「……その……」
けれどこのままには出来ない。
――涙を流している子を、このままにはできない。
だから止まることはせずに言葉を進ませて……、
「大丈夫……だよ」
夢華が先に言葉を発した。
頬に涙を伝わせていながらも、自分を落ち着かせるようにそっと息を吐いた夢華は、なんとか笑みを浮かべて、
「たとえ記憶が無くても……維月の生まれ変わりに……彩李ちゃんに、会えただけで――私は……ちょっとだけ、救われたから」
気を使った言葉ではなく、心からの本心だった。
嬉しそうに……でも悲しそうな笑顔を見せる夢華から気まずく目を逸らしながら……メイナはどうにかして記憶を戻せないかと
(っ――、記憶は消えたわけではない……じゃから、自然と治る可能性もあるが――あるいは、
見れば夢華は少し落ち着いたようで、袖で涙を
様子を見ながらメイナは覚悟を決めて問いかけた。
「……夢華よ」
「――っ、……どうしたの?」
一拍置いて、続ける。
「君は……私を恨んでおらんのか?
私は……維月を君の傍から引き離した元凶なのじゃぞ……」
そうだ……かつて維月の記憶を見たメイナにはわかる。
ノイズがかっていた部分が夢華と会っていた記憶ならば、そこから先……魔法使いに拐われてから自分と殺し合うまで、維月は夢華とは一度もあっていない。
誕生した
……そんな存在を彼女がどう思っているのか……怖くはあったが聞いておかなければと思った。
「……恨んでいない……とは、言いきれない。
でも、キミは私たちを助けてくれた……それに、維月を……彩李ちゃんを助けてくれてる」
涙を拭いとった夢華は目が赤いまま……それでもちゃんとメイナへと目を向ける。
怒りも、恨みも確かにある……メイナの正体を話された時……僅かながら、殺意さえも抱いた。
けれど、今までの彼女を思い返せば感謝の思いもある。
自分と恵弥を助けてくれたこと、
第二の人生を送っている
「だから……恨みよりも、感謝の方があるかな」
そしてなにより――
「――こうして維月の生まれ変わりに会えたのは、キミのお陰だから……
何度も泣いて、心が折れたけど――やっと
五〇〇年は長すぎたけど……いつか、必ず良いことが起きると信じて、心が折れても、ふらつきながらでも、何度も立ち上がった。
……それが、やっと報われた。
記憶の中の自分は塗り潰されてしまったけれど、
「……そう、か」
誰にも聞こえない声でメイナは言葉を落とす。
……許されないと思っていた。
……感情をぶつけられると思っていた。
……
でも、この子は認めてくれた……感謝をしてくれた。
なら、それに答えないと――、
「そう思ってくれるのか……ありがとう、夢華。
これから先も、君の気持ちを裏切らずに生きていく……絶対にな」
自らの心に刻むように言葉にし、表情を柔らかくしたメイナが夢華に思いを伝える。
敵意を向けあってもおかしくない二人が、程よく収まっている光景が広がっている中、
「………………」
夜釖彩李だけは、いたたまれない表情で顔を伏せていた。
本当はこの話で二章が終わる予定だったのですが、文字数が予想以上に多くなったので、分割することにしました!
ということで、
次回――『魔王の膝枕』――でお会いしましょう!
次回で第二章が終わる……はず(ぼそっ)……