“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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第一章(4)魔法使いと魔王

 ――――魔王という存在について語るとしよう。

 

 ……五〇〇年前。

 人知を越えた『魔法』という力を手にしても他者や社会に危害を加えなかった魔法使いと、

 それとは対照的に……殺人、瞞着(まんちゃく)、強奪、征服を繰り返していた『邪心』の魔法使いがいた。

 

 ……ある時、自分たちを止めようとする他の魔法使いたちを忌まわしく思い、邪心の魔法使いたちが集まり生み出した存在がいる。

 

 ――それこそが魔王(まおう)

 人の形をした破滅の象徴。魔法使いたちが滅ぶ切っ掛けとなった存在(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 邪心の魔法使いたちは魔王を操り他の魔法使いを殺そうとしたが、(くだん)の魔王は邪心の魔法使いの手には終えず――遂には邪心の魔法使いは全員魔王に殺されてしまい……その牙は残る他の魔法使いにまで向いた。

 

 立ち向かう者は殺され、

 複数人で取り囲もうとも無駄。

 魔法使いは一人、また一人と殺されていき、

 

 ――そして、

 

          ◆

 

 ――――その日の事を、昨日のように覚えている。

 

          ◆

 

 私を生み出した魔法使いを魔法の試し打ちとして皆殺しにし、その溢れんばかりの力に笑い……私を止めようと迫り来る魔法使いを片っ端から殺していった。

 

 私の力を知っておきながら挑みにくるのだ。

 魔法使いたちは(みな)歯ごたえがあった。

 しかし最終的に辿る結末は同じ……生きて帰れた者など一人もいない。

 

 そんなある日、

 

『…………………………………………』

 

 ……ある、一人の少年が立ちはだかった。

 ボロ布を纏った、表情が全く動かない(・・・・・・・・・)死んだ瞳をもつ亡霊のような少年。

 

“黒紫の剣”を得物(えもの)とする少年の強さは異常だった。

 私の繰り出す魔法を(ことごと)く打ち払い、突き進んでくる。

 

 幾千幾万の光の奔流も、

 天から無数に降り注ぐ雷の槍も、

 生きている限り追尾し続ける炎の竜巻も、

 半径一〇キロメートルを氷河に変えようとも、

 

 避け、弾き、切り裂き、溶かし――私の心臓を貫いた。

 

『――――がッッッ!?』

 

 初めて感じた敗北の感覚。死の感覚。

 心臓を破壊しても少年は私を滅多切りにし、五体(ごたい)も残らないほどに殺し尽くしてくる。

 

『ご――、のぉおおおおお!!』

 

 千切れかけの右腕を突き出し……私は剣に首を貫かれながらも彼の腹を貫き、内部から黒焦げにした。

 

『  ……     、  …… …………  』

 

 これで相討ち。

 どちらもあと数秒足らずで死ぬ――だが、

 

(貴様の魂……貰ったぞ――ッ!)

 

 死ぬ寸前、私は少年の魂に自分の魂を寄生させ、転生の魔法を行使した。

 自分の魂のみを転生させなかった理由はただ一つ、

 

 ――次の少年(コイツ)の人生、

 親の慈愛も、友の友情も、大切な思い人からの愛情も……全てを知り、幸せになった後に――コイツを乗っ取りその全てを奪ってやる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ため。

 

 私を倒した生意気なガキには相応しい末路だ。

 記憶を戻した後に私が誰なのかを教え、コイツの幸せを一つ一つ……ゆっくりと殺してやる――――。

 

          ◆

 

 ……しかし問題があった。

 最期に行使した転生の魔法……瀕死の状態で行使したため転生する未来を決められず、生まれ変わるその時まで私は少年の魂と共に悠久(ゆうきゅう)にも近い時を過ごさねばならなかった。

 

(むぅ……暇じゃ)

 

 何かをすることはできない。今の私は少年の魂と共にある同じ魂なのだから。

 ――できるとすれば、それは『見る』ことだけ。

 たとえば『記憶(きおく)』……だが自分の記憶など自分が経験したことしか見れない。

 だから――

 

(暇潰しじゃ……忌々しいが、私を倒した貴様の記憶、見せてもらうぞ――)

 

          ◆

 

 最初の記憶は――

 

(――――――――()?)

 

 ……最初の記憶から目を見開いた(・・・・・・・・・・・・・)

 

『こんなものじゃないだろう? もっと魔力の質を上げろッ!』

 

 期待に答えられなかったから……男に腕の皮を剥がされている(・・・・・・・・・・・)

 

『さっさと強くなって、魔法使い(俺たち)の悩みの種を――魔王を殺せ。わかったな?』

 

 腕の皮を剥がされているというのに、幼い少年は顔色一つ変えずに受け入れ、

 

『はい。わかってます』

 

 機械のような……いや、機械そのものの無機質(むきしつ)起伏(きふく)のない返事。

 そのあまりの抑揚(よくよう)のなさに、私は寒気を覚えた。

 

          ◆

 

 少年は両親を殺され(・・・・・・)今の男に連れ去られた(・・・・・・・・・・)孤児だった。

 

 魔法使いとして卓越した才能を持っていた少年は魔王()に対抗する手段として育てるよう言われていたが、子どもに幸せに生きていて欲しいだけの両親はコレに反対。

 

 ……結果としてその両親は殺され、少年は連れ去され、調教(・・)の果てに人間性を失い、ただの魔法使い(機械)と変わり果てた。

 

 卓越した才能というのは嘘ではない。

 成長速度も、魔法の威力も、適応力も並みの魔法使いとは比較にならない。

 …………だが、

 

 ……少年に人権はなかった。

 ――――人ではなく、機械/手段だから。

 

 ……少年に自由はなかった。

 ――――必要ないから。

 

 ……少年に感情(いろ)はなかった。

 ――――魔王()を殺す以外の不必要な機能は調教によって切り落とされたから。

 

(…………なんだ、それは――)

 

 期待に答えられるよう、無表情で、無感情のまま、少年は着実に力をつけていく。

 

 時には足の膝をミシミシと、逆方向に(・・・・)……一気にではなく、ゆっくりと、時間をかけて男に折られた。

 

『いたくありません』

 

 それは痛みに慣れる――痛みによって(・・・・・・)戦闘に支障がでないようにする訓練(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(……っ、)

 

 見ているだけで顔が歪んだ。

 私だって、あんなことをされたら苦痛を漏らす。

 なのに――

 

 腕を(ひら)かれ、血肉をかき混ぜられ、骨をゴリゴリと削られても。

 

『いたくありません』

 

 眼球を潰され、歯を全部(・・)抜かれても、

 

        (いたくありません)

 

 訓練(・・)の後、損傷した、欠陥した体は全て治癒魔法で治されていく。

 

 ……手足を一本ずつ引き千切られ(・・・・・・)、腹を滅多刺しにされても、

 

『いたくありません』

 

 血管をびりびりと引き剥がされても、

 

『いたくありません』

 

 顔色は変わらない。

 反抗の意志の欠片もない。

 痛覚がないわけじゃないだろうに、淡々とそんな言葉を繰り返す少年を見て、

 

(……私の、せいじゃ……)

 

 ポツリと、言葉を溢した。

 

(…………私のせいで……この子は……)

 

 生まれて初めて、胸に痛みを覚えた(・・・・・・・・)

 ひとつでも幸せなことはないのか?

 笑うようなことはないのか?

 ……無機質な顔をこれ以上見るのは耐えられない……こんなの、あんまりではないか――。

 

 必要な機能だけを残された魔法使い(機械)

 それに不備があってはならない。無駄があってはならない。

 魔王を殺す。ただそれだけのために調整された存在。

 

(…………、そういえば……)

 

 少年との戦闘を思い返す。

 あの一戦、何処かおかしい(・・・・・・・)とは思っていたが、結局答えは見つからないまま戦いは決着した。

 

 だが答えはわかった。

 あの戦い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 殺したいなら“殺意”がある。

 倒したいなら“敵意”がある。

 

 ……なのに少年は、私を殺すその瞬間でさえも“殺意”がなかった。

 

 その、答えは……、

 

          ◆

 

 結局……途中からではなく、生まれから死ぬまでの人生(きおく)、その全てを見た。

 最後における私との戦闘においては、怖くとも気になり、記憶の少年と『感覚器官』を共有してまで見た。

 

 …………不気味過ぎて寒気が……吐き気がした。

 何の思いもない(・・・・・・・)のだ。

 

 傷を負い、激痛を覚えても痛いとも思わず、

 まるで心がないように……何の殺意(感情)もないまま私を殺した。

 ――私が殺し返した時も同義だ。

 恐怖も何もない。……死ぬ前になんとか殺せたという達成感すらない。

 

 …………当然だ。

 少年はもう、ただのヒト(機械)になってしまっていたのだから。

 

(……)

 

 記憶を見終わる。……再び少年の魂を近くに感じる。

 

(……幸せになれる筈だった人生を、奪ってしまったな……)

 

 ……罪悪感(ざいあくかん)を覚えたのは初めてだった。

 殺すためではなく、ただ触れたいから手を伸ばしたのは初めてだった。

 

 ……復讐の心はもうなかった。

 それどころか、すぐに抱きしめたい/謝りたいと思い、

 

(少年……どこじゃ?)

 

 触れられない。抱きしめられない。謝れない。何処にいるかわからない。

 ……だが、傍にいることはわかる。

 

(すまない……本当に……)

 

 幸せを奪われた少年。

 ただ機械として一生を終え、そして解放(・・)された。

 

 次の転生先の人生……そこにはどんな事が待ち受けているかはわからない。

 今回とは違うのか、それとも今回と似通ったものなのか――前者であって欲しいと願うが。

 

 使い捨ての魔法使い。

 両親以外、彼のことを救世主としてしか見ず、憐れむ者はいなかった。

 ……両親以外、彼を人間扱いする者はいなかった。

 

(……のう、少年)

 

 彼がこんな目に遭う元凶となった魔王が何を、と思われるだろう。

 ……その通りだ。私が生まれなければ……私がもう少し違う心を持っていれば、彼がこんな目に遭うことはなかった。

 

 ――でも、だからこそ。

 

 彼をこんな目に遭わせた者として、

 その人生(きおく)から罪を知り――護りたい(・・・・)と、償いたい(・・・・)と、思った者として。

 

(私はずっと貴様の傍で――()の傍で、君を支え続ける……約束じゃ)

 

 ずっと、彼の傍にいる。彼を支え続ける――自分にできる精一杯の愛情を与えようと、静かに誓った。

 

(――――)

 

 彼を感じ、魂のまま揺蕩(たゆた)う。

 自分の侵した罪を、彼の過去を魂に刻みつけ、ゆらり、ゆらりと、彼を感じ続ける。

 

 ……転生の時が来たら、私はこの子の『中』に身を潜めよう。

 私の力が必要になった時に、私はこの子に語りかける。

 それまでは記憶は戻さない。戻すとしても慎重に、(つら)くはないように……。

 

(――――)

 

 ずっと、悠久に――それこそ、五〇〇年の間。

 私は一度も彼を感じ忘れることはなく、その魂に寄り添い続けた。

 

          ◆

 

 ――そして今。

 

 小さな寝息を立てながら眠りにつく彩李の傍に、彼女はいる。

 

「本当に可愛い寝顔じゃのう……」

 

 思わずその隣に寝転がり、(すく)うように顔を撫でた。

 

 少年は少女となり、たくさんの幸せに恵まれた。

 新しい家族ができた。初めての友達ができた。温かな愛情を受けて育ってきた。

 ずっと『中』にいた魔王が、つい微笑んでしまうほどに。

 

「よかった、本当に――」

 

 起きたらちゃんと質問の返しをしなければな……と思い、彩李を抱きしめながらメイナも一緒に微睡(まどろ)みの中へと浸る。

 

 支え続けると誓った少女を強く抱擁(ほうよう)する。

 破滅の象徴となった魔王の姿はもう、何処にもなかった――。




夜釖(やとう)彩李(さいり)

 ――前世では卓越した才能を持っていたが故に他の魔法使いから狙われ、両親を殺された上に拐われ、調教された少年。
 その一生を、魔王を倒すためだけの『機械』として生きた子ども。

 メイナの転生の魔法により、幸せな第二の人生を歩んでいくことができた。


【メイナ】

 五〇〇年前、魔法使い(機械)の少年と相討ちとなった魔王。

 ……邪心の魔法使いたちにより誕生した際には、魔法の試し打ちにと邪心の魔法使いを皆殺しにし、自身の溢れんばかりの力に笑うほど残虐性に満ちた性格をしていた。

 ――しかし転生の最中、暇潰しにと少年の人生(きおく)を見て……自分のせいで人ではなく機械として生きた少年の人生を目の当たりにし、心境に変化が現れ――来世では生まれ変わった少年を支えて生きていくことを誓った。
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