“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!? 作:雪山崇一
……気づけば引率のお姉ちゃんは二人になっていた。
彩李は子どもたちと鬼ごっこを開始し、
「そこのウサちゃん、この子と握手してもらってもいいかな?」
ミアがマスコットキャラクターであろう大きなウサギの着ぐるみに話しかけると、うん、と頷いた着ぐるみ……いや、ウサちゃんは園児と握手をする。
「ふわ~! ありがとうウサちゃん!」
嬉しそうに握手をする園児。
……しかし、途端に『え?』と首を傾げる。
「……どうかしたか?」
園児は困惑した様子でウサちゃんの手を細かく見ている。
ミアが頭上にハテナを浮かべていると、園児は困惑したまま、
「ウサちゃんの手、だよね?
……なのに……なんか、ウサちゃんのふわふわの手の内側? に、人の手みたいな感触が……」
――ビクッッッ!? と。
ウサちゃんのみならずミアまでも驚き飛び跳ねた。
「もしかして……ウサちゃんの中に人が――」
「――中に人なんていない! ウサちゃんはウサちゃんだ! だよねウサちゃん!?」
子どもの夢を壊さないようにミアが必死に呼び掛けるとブンブンブン!! と頭を何度も縦に振りながら肯定してくる。
「あ、だよね……そうだよね! ウサちゃんは妖精さんだもんね!」
ルンルン気分に戻った園児は再びニコニコし始める。
ほっ、と胸を撫で下ろしたミアはふと冷静になる。
(何をしているんだ私は……目的は魔法少女だというのに)
ちらと園児を見ると、みんなウサちゃんに夢中だった。
なら今がチャンス。足早に魔法少女の元へ――
「っ、ん……?」
ポケットに入れていたスマホが揺れ動く。取り出せば電話がかかってきており、
「え――え!?」
液晶に表示された名前を見てあたふたし、急いで出る。
「も、もしもし――。
……え? でも今日は
電話を切ると、はぁ……と頭を抱え、
「……つぐつぐ今日は物事が上手くいかない」
彩李の方を見ると、今も園児たちと鬼ごっこを繰り広げており、どちらとも笑顔だった。
今日、何度目かわからないため息をついて、
「あそこに茶々を入れるのは野暮だな。
……仕方ない、今日は下見という事で切り上げるか。
次にあった時には……覚悟しておけ、魔法少女」
そして
◆
引率を終えた帰り道。
気づけばミアの姿はなく、何事もなく一日は終わった。
「アイツと事を構えることはなかったな」
『(君が子どもたちと遊んでいた時、ずっと奴を監視していたが、特に怪しい動きはしとらんかったな)』
「……あのまま何もしていなければいいんだけどな」
気づけば夕方。
基本的に料理をして食事する彩李だが、今日は子どもたちと遊び、動物を見に回ったため、体には疲れがある。
正直今から買い物と料理をするのはツラい。
……何処かのお店で晩御飯を、
『(――――ん? これは……)』
「どうかした? メイナ」
声を聞いて立ち止まると、そこはレストランだった。
彩李も入ったことがない、最近出来たであろうバイトを募集しているレストラン。
『(――――。彩李、晩御飯はここで食べぬか?)』
「このレストランでか? 急にどうして」
『(……入れば、愉快なものが見れるかも知れぬぞ?)』
くくっ、と笑いを交えながら伝えてくるメイナ。
それに眉を潜めながらも、レストランのドアを開けた。
「いらっしゃいませー! 何名様、で…………」
「――ん、な――ッ」
出迎えてくれた店員さんが固まる。
それは彩李も同じだった。
あまりにも短すぎる別れと、早すぎる再開。
「な、な……」
レストランの従業員の制服に身を包み、自然と出た笑み(もう崩れたが)を表情に出迎えた
『なんでお前がここにぃー!?』
店内に響く二人の驚愕。
ノクス所属のミア――
◆
「むぅ~~~……」
ミアは頬を膨らませながらテーブルに突っ伏していた。
二人が驚きの声を上げた後、このお店の店長がやって来て、
『なんだいミアちゃん、知り合いかい?
――なら、もう上がっても大丈夫だよ。今日は急なシフト変更の呼び出しにも関わらず来てくれてありがとうね』
『へ!? い、いや別に知り合いというほどじゃ……って、何で隠さなくてもいいよ~って感じの微笑みを向けてるんですか! ま、待って下さいよ店長ぉぉぉー!?』
……一〇分前の事を思い返す。
それからもう流れるような感じで同じテーブルに落ち着いてしまった二人。
ミアに至っては足をバタバタさせながら
(……面白いものが見られるってこういう事かよ)
『(あぁ。ヤツの魔力をこの店から感じ取ったからのう……しかし残念じゃ、どうせならご奉仕してもらった方が
(お前やっぱ魔王だわ)
夕飯にと注文した親子丼を前に、彩李はミアが気になって箸が進んでいなかった。
かくいうミアも、美味しそうな生姜焼き定食を前に
……どうやらバイト姿を見られた事が相当恥ずかしかったらしい。
『(バチバチに悪役ムーブを決めてた女の末路がコレとは……面白いのう♪)』
そんな彼女よりバチバチの悪役ムーブをかましている魔王を内側に、彩李は『えーっと……』と苦笑しながら、
「とりあえず……定食冷めるから食べたら?」
「お前に言われずとも食べるわ!」
不貞腐れからやけ食いモードに変わる。
モグモグと食べ続け口がリスのようになるミアを見ながら彩李も親子丼を一口食べて、
「お前、ノクス……? って組織に所属してるんだよな? しかも魔法少女を倒す事を目的にしてるのに、どうしてここでバイトしてるんだ?」
「……なんでお前にそんなこと言わなくちゃならな――」
「今度もう一人の魔法少女にあった時にお前がバイトしてることを伝え――」
「――わかったわかった! 話すから言うな!」
頬を
ふぅ……と息を吐いて呼吸を整えると、
「
「…………。何て言うか、お前……」
『(とんでもなく真面目な……
メイナの言葉に『まったくだ』と心の中で返答する。
……対象の情報を知る為にはその人物付近の事を調べるのが手っ取り早いと思うが、この少女は律儀にバイトしながらその人物の付近のみならず、生活している社会から知ろうとしている。
「……っ――な、なんだその目は……」
「いや、その……敵の事を知るにしては、真面目に働いているんだなって思って。
ここの店長とも仲良さそうだったし……」
「? 働いているんだぞ? 真面目にやるのは当然だ。
それに、噛みまくった上に目が泳ぎまくった面接だったのにあの店長は笑顔で雇ってくれたんだ。
それには信頼と感謝で報いらないとな……」
「…………お前、本当に悪い奴?」
◆
「……そうだ、お前には聞きたい事があったんだ」
食事を終えて外に出ると、不意にミアが彩李を横目で見て、
「お前は何のために戦っている」
「……え?」
意外と言えば意外か、
敵からの質問とは思えない内容に一瞬呆けてしまう。
「俺の戦う理由……?」
「命を
「……どうしてそんなこと聞きたいんだ?」
「人が一つしかない命を懸けてもやりたい事――何故やりたいのか、その理由が気になるのは当然だろう」
……何か裏があるようには思えない。
ミアは本当に、単純な疑問から問いかけているだけだろう。
『(……それは私も気になっていたな、君の戦う理由が)』
彩李の前世を知るメイナは理由を知りたいと目を細める。
――
両親が殺され、連れ去られ、洗脳とも言える『調整』を受けて
……その記憶は彩李も思い出している。
ならば彼女は何故戦おうとするのか……その理由は二人の予想よりも早く彩李の口から語られた。
「――
「――え?」
『(――――)』
――隣からは小さな驚きと戸惑いが、
――『中』からは静かに息を呑む音が、
「あんな思いをする子どもは……あんな人生を強制される子どもは……俺一人で十分だ」
最初は泣き叫んだ……だけど泣くことすら許されなくなった。
指を折られた時は痛かった。腹を裂かれた時は擂り潰されたような声が漏れ出た。内蔵を素手で掴まれた時はオカシナ過呼吸を味わった。
さっさと狂うようにと開かれた体内に虫や生ゴミ、
ソれカらはツラくなかッタ。イタみもキニしなくナった。イウことサえきいてレばソれいジョうノことハされナくなッたカラ。
(…………ダメだ)
――あぁ、それはダメだ。
いま思い返してもアレは絶対に、人はもちろん、子どもは絶対に経験してはいけないこと。
一度経験した“彼”だからこそ、アレが狂うということなんだとわかる。
悲しみも絶望も感じない、死よりもツラい、本当の意味での
……あんな非道な魔法使いはもういないけれど、
今を騒がす“
やがて魔物に恐怖し追い詰められた人間が……かつての
――――だから、俺が戦う。
そんな人を生み出さないために。
魔物と戦っている魔法少女という女の子を支えながら、魔物と戦う。
「――――、深くは聞かない。戦う意志がその理由に込められているのは、お前のその『目』を見れば明らかだ」
言葉はなくとも答えを聞いたミアはそれ以上は聞いてこなかった。
ミアも……『中』のメイナも、彩李の“戦う理由”を何度も頭の中で繰り返している。
「――――、あっ――そ、その……」
敵サイドのミアも黙り込んでしまうほどの『目』をしていたらしい。
無言のまま、足音だけがここにある。
……、……気まずい。
思いを受け止めてくれたのは嬉しいが、二人をここまで黙り込ませてしまっては……その……申し訳がない。
「えっと……ミア、喉渇いてないか?」
「え……? べ、別に渇いては――」
いない、と言いかけて、
彩李が何故こんな質問をしているかに気づき……そっと目を閉じ、
「……いや、少し渇いているな。先ほどの生姜焼き、美味しかったが味が濃すぎたのかもな」
「なら、そこのベンチに座っていてくれ。適当に買ってくるから!」
駆け出していく彩李の背中を見ながらベンチに腰を下ろした。
「全く、変な気を使って……。あんな空気を作ってしまったのは私なのだから、気を使わなければならないのは私の方だというのに……」
でも、正直に言えば助けられた。
あの空気を変えられるような気の効いた言葉は思い浮かばなかった。
彩李が気を使ってくれなければ、別れる時までこのまま無言であっただろう。
(さて……アイツが帰って来た時の話の話題でも考え――)
――
――ぴくん、と。
その鳴き声が聞こえた途端、ミアの体は可愛く反応した。
◆
自販機で飲み物を買ってベンチに戻ると、彼女の姿は何処にもなかった。
「あれ、アイツは……?」
辺りを見渡すも姿はなく、少し歩いて名前を呼ぶも返事がない。
「ミアー! ……何処に行ったんだ?」
ん~、と唸っていると不意に、
『(――
メイナは愉快なモノを見たようにくつくつと笑った。
「メイナ? どうした?」
『(くっ、はは……彩李よ、あっちを見てみよ)』
姿は見えないのに『あっち』が何処を指しているのかは理解できた。
メイナの指す方向は路地裏だった。
そちらへと顔を向けると――
「
「みゃ~♪ お前可愛いにゃ~♪」
――猫語で野良猫に頬擦りを続けるミアの姿があった。
「……」
――なんだよ、あの顔は……、
――なんだよ、あの笑顔は……、
――アイツって、あんな可愛い笑顔になれるのかよ!?
「ごめんにゃ~、知りにゃいがそろそろ来るからいかにゃいと――――/――ぁ……」
――――こちらを見ている彩李に気づいた。
対する彩李はどうするべきか考えるが結局『あはは……』と小さく笑うことしかできず……、
「ぁ、かっ――ん、な!?」
ミアはみるみるうちに頬を赤く染めていく。
目を泳がせまくる彩李は何とか声を絞り出す。
……そして絞り出した一言がコレだ、
「あー、その~…………続けていいぞ?」
「~~~っっっ!?(翻訳できない恥ずかしの大絶叫)」