“のじゃロリ”が体に住み着き、TS魔法少女に……!?   作:雪山崇一

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第一章(8)魔王はメスガキをわからせる

 優勢に見えた魔法少女と魔物との戦い。

 だが卑怯な手によって夢華は致命傷を負い、戦闘不能に追い込まれてしまった。

 

「……っ!」

 

『(待つのじゃ、彩李)』

 

 黒い外套を纏い駆け出そうとした彩李に待ったをかけてくるメイナ。

 焦る気持ちから『何だよ!』と言いそうになるが、メイナは『こういう場面では無駄な事は言わない』という確信にも近い直感が走り、静かに声に耳を傾ける。

 

『(まず魔法少女の方じゃが……あの()大丈夫じゃ(・・・・・))』

 

「……大丈夫って、なんで?」

 

『(君ならば駆け寄ればそのカラクリに気づくじゃろ。

 ……それと、あの“ガキ”の方じゃが――)』

 

 前世ぶりに口の悪いメイナの声を聞き、

 そして――

 

『(あのガキは私が相手をする(・・・・・・・))』

 

「――は?」

 

『(卑怯なやり方は私が一番嫌う手段じゃ……。

 だから……あのガキは私がやる。泣かせてやろうぞ)』

 

「いや、その……それ以前に、お前出てこれるのか!?」

 

 恐らくは誰もが頷くであろう問いかけ。

 メイナは『ふっ』と小さく笑い、

 

『(私がいつまでも、君の『中』に住まうだけの存在だと思うたか?

 前作のラスボスが味方になっているのに一度も戦わずにエンディングを迎えたら……アニメや漫画では不満の声が飛びかねん展開じゃろ?)』

 

「……お前、魔王の割に昨今のアニメについて詳しいな?」

 

『(全て君の見ていた娯楽(モノ)から学んだものじゃ……まぁ、それはさておいて。

 ――今の私は魂だけの存在じゃが、活動する肉体を生み出す魔法を編み出しておってな。

 といってもまだ未完成じゃが――メスガキをボコす試運転には丁度いいじゃろ)』

 

 後になるに連れて声が低くなるメイナ。

 静かに……しかし確かに腹を立てているのは火を見るより明らかだった。

 

『(君は魔法少女に寄り添っておれ……あのメスガキには私が灸を据えてやろう)』

 

 言葉が終わると同時に彩李の胸元にふわっ、と温もりが灯る。

 

「おわ!?」

 

 驚いた彩李の胸から抜け出た『灰色の輝き(メイナの魂)』は次第に内側より光を増していき、人の姿を形作っていく。

 光が収まれば――そこには――

 

「――やはり(じか)に感じるのが一番じゃな。肌に触れる風が気持ちいいのう」

 

 ――幼き少女の容姿を持つ魔王メイナが五〇〇年の時を得て、現世に再臨(さいりん)していた。

 

「……メイナ」

 

 一度『中』であってはいたが、現実で目にするとそのプレッシャーをまじまじと感じる。

 淡い紫の髪を風に濡らし、紺色の瞳は愛おしく彩李(かのじょ)を見る。

 

「やはり……(なま)の君の方がめんこいな。

 そう遠くない日に、君と逢引(あいびき)といくかのう♪」

 

          ◆

 

 メイナがアリファと相対している中、彩李は夢華へと駆け寄り具合を()ていた。

 魔法少女としての制服(ふくそう)は消え去り、残る証は長髪となった白髪だけ。

 

(でも、傷が――ッ)

 

 真っ赤に濡れた胸元をなるべく揺らさないように見て……、

 

「……え?」

 

 ――胸元の真っ赤な“穴”が、徐々に塞がっていく(・・・・・・・・・)のを目撃した。

 ……そういえば、メイナは言っていた。

 

 ――魔法少女は大丈夫。君ならば駆け寄ればそのカラクリ(・・・・)に気づく……と。

 

(……っ、魔力が)

 

 確かに彼女は瀕死の重傷を負っているが、それでも魔力は活発に動き魔法を行使している(・・・・・・・・・)

 ――――そうだ、そもそも。

 彼女の変身はまだ解除されていない(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 服装こそは消えたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………ぅ、あ……」

 

 彼女にはまだ意識があった。

 これほどの重傷を負っても変身を解除させずに留まらせ、胸に穴を開けられてもまだギリギリ意識が消えていなかった(・・・・・・・・・・・)

 

 この状況でも彼女は『治癒魔法』を全力で行使している。

 

(メイナの言ってた“カラクリ”ってこれか……確かにこの状態なら、時間はかかるけど体は治るか)

 

 メイナが夢華の傍にいろ、と言った意味がわかった。

 彼女は夢華の傷を治せという意味で駆け寄れと言ったのではなく――

 

「――――」

 

 これから“流れ弾になりかねない自分の攻撃”からこの娘を守れと言ったのだ。

 

          ◆

 

「お仕置きの時間じゃ。

 ――――慈悲はないぞ? ガキ」

 

 ガタガタと震えが止まらない体。

 それでも全身全霊で魔力を回し、

 

「っ――ああああああああああああッ!」

 

 脅威を振り払うように魔力を込めた右腕を振り抜いた。

 しかしその一振りは空を切り、

 

「こっちじゃ」

 

 既に背後に回っていたメイナの蹴りがアリファの体を薙ぎ払う。

 何度も体をコンクリートに打ち付けようやく勢いが止まる。

 

「っ!」

 

 怯えたように顔を上げると、自分を飛ばした位置から一歩も動いていないメイナの姿がある。

 

「――こ、のッ!!」

 

 出し惜しみなどしない。

 考え得る限りの『幻』を生み出し『具現化』していく。

 

 ――この街を覆い尽くすほどの巨大な『クラーケン』を上空に、

 ――今にでも噛みつこうとしている『猛毒の蛇』をメイナの周囲に無数にばら撒き、

 ――全方向からメイナへと『音速の槍』を射出する。

 

 ……だが、

 

「――――は」

 

 小さな笑いと共に、

 ――――全ての『幻』は、行使された『雷』の雷撃(らいげき)により灰塵(かいじん)と帰した。

 

「…………は? …………へ?」

 

 呆けた声に答えるモノは何もない。

 幻は(ちり)一つ残らず消滅し、メイナに対抗している者を再びアリファ一人にする。

 

 ――幻のイメージに狂いはなかった。

 ……猛毒の蛇が即死させるハズだった。

 ……それがダメなら音速の槍が貫くハズだった。

 ……最後の手段として上空のクラーケンの落下によってこの街ごと押し潰すつもりだった。

 

 なのに、

 なんで、

 どうして、無傷なの……?

 

「……この程度か」

 

 コツ……と、魔王(・・)が一歩踏み出してくる。

 

「ひっ――い、や!!」

 

 何も効かない。

 自分の攻撃が一切通じない。

 そんな相手が歩み寄って来ているという事実に背筋が凍え、恐怖が心を支配していく。

 

「く、来るなぁ……ッ!!」

 

 叫びと共に魔力が(ほとばし)る。

 先ほど防がれたというのにコレをしてしまうというのは、アリファの心がそれほどまでに追い詰められていることを表していた。

 

 結果として、

 魔力はその身を呑み込んだ。

 

「……へ?」

 

 さっきは効かなかったハズなのに……と、思ったのも束の間。

 …………コツ(・・)…………コツ(・・)、と。

 

「は……、ぁ――あ、あぁ――!?」

 

 魔力を喰らってもなお歩みを止めなかったメイナが、先ほどと変わらぬ歩行で詰め寄って来ていた。

 

「……あえて喰らってみたが……さしたるダメージにもならんのう。

 この程度でよくイキれたものじゃ……」

 

「い……や――! っ――!」

 

 幻の翼を生やし、その場から離脱する。

 今はとにかくこの場から少しでも遠くへ離れたくて――

 

「――――、あ、え……?」

 

 飛び上がった筈なのに……上半身が上がらない。

 ……なに、かが……背中に乗って(・・・・・・)――

 

「逃げられると思うたか……?」

 

 気づけば……魔王は背へと飛び移り、アリファの逃げを封じていた。

 

「ふえ……?」

 

 情けない声を漏らし、涙目になったアリファの顔を見下ろしながら、

 ――メイナは翼を捥ぎ取って(・・・・・・・)、地面へと蹴り返した。

 

「ごぼえ……!?」

 

 地面を涙で濡らしながら空から降ってくる魔王に怯え、生まれたばかりの小鹿のようにビクビクと震え、

 

「小娘、一つ教えといてやろう」

 

 その短い言葉にさえ飛び跳ねた。

 枕があれば両手で抱き締めていただろうアリファは降りてきたメイナへと、

 

「ひっ……ひっ……ひ、あ……!」

 

 言葉にならない声を漏らしながら顔を向ける。

 

「自分の身の程は弁える事じゃ。

 調子に乗り過ぎれば今回のような目に遭うぞ?

 年上に対して舐めた態度を取れば、その本人やその言動を見ていた者から報復されるとは思わんかったのか?」

 

 ……魔法の行使が上手くいかない。

 心が乱れすぎてイメージができない。

 ずりずり、と。地面に擦りながら後退することしか……、

 

「よいか? ゆめ忘れるな――」

 

 ――ギュルルルルルルッッッ!! と。

 並々ならぬ魔力がメイナを中心に渦を巻き、彼女が最も得意とする『雷』の魔法、その行使の燃料となっていく。

 

「――たとえ力が落ち、破滅の象徴は(すた)れようとも、

 ……魔王はまだここにおることを(・・・・・・・・・・・・・)――」

 

 瞬間――

 

「いっ……!?」

 

 天から降り注いできた幾条(いくじょう)もの雷の柱がアリファを囲うように突き刺さり、文字通り雷の“檻”となってアリファを閉じ込めた。

 

「ま……まさ、か……」

 

 正面を見れば、

 

「お仕置きじゃ、メスガキ」

 

 渦を巻くは既に魔力ではなく雷。

 日が落ち、崩壊した街は彼女の周囲のみ白き輝きに満ち、弾ける雷は稲妻となりこの場全域を(はし)り抜け、

 その中心には、

 

 ――神の(もたら)(かがやき)の支配者がゆらりと手を向けていた。

 

「我の言の葉を胸に刻み、反省せよ」

 

 迸る雷撃を遮るモノは何もない。

 他者の見せた異能の類いなど比較にならない威力を内包する雷はアリファへと一直線に突き進み――

 

「ぁ――――、…………ごめん、なさ――――」

 

 ようやっと溢れ出た謝罪の言葉もろとも魔王の雷撃は薙ぎ払った。




 メスガキ、わからせ完了。
 次回は、『彩李とメイナのデート+α』です!
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