入学試験
事の始まりは中国、軽慶市。発光する赤児が産まれたというニュース。
以降各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま、時は流れる。
今では、世界総人口の約八割が、“個性”と呼ばれる何らかの特異体質を持つ超人社会となっている。
混沌渦巻く世の中で、かつて誰しもが空想し憧れた、一つの職業が脚光を浴びていた。
その職業こそ…
ヒーロー。
“個性”を悪用する犯罪者・
しかしヒーロー社会となった今でも、戦地へ駆り出される少年兵の数は、累計30万人を超えるとされている。
そんなヒーロー社会の某国には、大規模な児童養護施設が複数箇所に点在している。
そこには、紛争や育児放棄により孤児となった生後間もない赤ん坊が収容されている。
2歳を過ぎたあたりから、超人的な力、“個性”を発現させる子供が増え始める。
そこでは、“個性”が発現する事は“祝福”と呼ばれ、“祝福”を受けた子供は施設を離れ、里親のもとで暮らす事になる。
だが中には、一般的に“個性”が発現するタイムリミットとされる4歳を迎えても、“個性”が発現しない者もいた。
“祝福”を受けないまま生誕から4年を迎えた、その瞬間から、
“祝福”を受けなかった者達は、国の軍事施設に送られ、国の為に死ねる道具としての教育を受ける。
脱走防止用のチップを身体に埋め込まれ、人を壊す為の技術を、昼夜問わず叩き込まれる。
成績不振者や、教官に楯突く者は、見せしめとして死なない程度に痛めつけられた。
それらに与えられた唯一にして最後のチャンスが、10歳以上の者を対象に行われる“選別”。
“選別”に合格した者は、名前と仕事を与えられ、外に出る事を許される。
それらは、“選別”に受かる為に、互いに競い合い蹴落とし合う日々を送った。
そして今期は、10名の
アレクサンドル。
アンドレイ。
エフゲニー。
フョードル。
ペテロ。
ピョートル。
セルゲイ。
ヴァシリー。
ユーリ。
そしてミハイル。
選別に合格した者達に与えられた新たな仕事とは、兵役だった。
兵士として国軍に配属された者達は、毎日のように戦地へ駆り出され、その中には当然命を落とす者もいた。
だが、奇しくも
最年少の10歳でありながら首席で“選別”に合格し、最初の出兵では、強力な“個性”を持った千人の軍勢をたったの30人で殲滅し、武神として畏れられた。
それから3年後、彼に新たな任務が舞い込んできた。
「ミハイル。次の仕事は雄英高校への潜入だ」
長官官舎の執務室にて、最高司令官が次の任務を言い渡す。
司令官の目の前には、あどけない顔をした中性的な少年が立っていた。
短く切り揃えられたプラチナブロンドの髪に、藍玉のような明るいブルーの瞳、そして少女のような可憐な顔つきは、
150cmに満たない小柄な体格のせいか、きっちりと着こなした軍服は丈が余っていた。
幾千人を闇に葬り、武神として畏れられる軍人だとは、誰が見ても想像がつかない。
「…雄英…日本のヒーロー育成機関ですか。なぜ私が?」
少年は、怪訝そうな表情を浮かべながら質問をする。
すると司令官は、一枚の紙を手に持って口を開く。
「先日、オールマイトが来年度から雄英高校に教師として就任するとの情報を入手した。この事はまだ一部の人間しか知らないが、いずれ世間に知れ渡れば、雄英は世界中の
司令官の無茶振りに、少年は内心少し戸惑っていた。
国の為に戦うという同じ目的はあれど、殺す為に戦う軍人と、守り救う為に戦うヒーローは、ある意味対極にある職業だからだ。
人を壊し殺す方法しか教わってこなかった少年は、人を守り救う方法を知らなかった。
ヒーロー育成機関という未知の組織への潜入は、本当に自分が適任なのだろうかという疑問が頭を過った。
しかし少年は、眉ひとつ動かす事なく敬礼をしながら答える。
「……
それから数ヶ月後。
国軍の最高司令官は、お抱えの職人に少年の偽の戸籍と身分証明書を作らせ、少年をスパイとして日本に送り込んだ。
無事に日本に渡った少年は、偽造パスポートに書かれた自分の名前を見る。
雪野ベリ。
それが彼に与えられた、この国での
◇◇◇
雄英高校ヒーロー科!!
そこはプロに必須の資格取得を目的とする養成校!
全国同科中最も人気で最も難しくその倍率は例年300を超える!!
国民栄誉賞に打診されるもこれを固辞!!「オールマイト」!!
事件解決数史上最多!燃焼系ヒーロー「エンデヴァー」!!
ベストジーニスト8年連続受賞!!「ベストジーニスト」!
(そんなとこに潜入捜査の為に受験する奴なんて、俺くらいだろうな)
そんな事を考えながら、この俺…ええと…ああ、この国では『雪野ベリ』…だったっけ…合ってるよね?
この俺、雪野ベリは、雄英高校の正門を潜る。
2月26日、俺は一般入試実技試験を受ける為、雄英高校に来ていた。
雄英の入試は、筆記試験と実技試験がある。
筆記試験は既に終わっているので、今日実技試験を受ければ入試は終わり。
筆記試験は、思ったよりは難しくなかった。
短期間で日本語を覚えるのは苦労したけど、そこさえクリアしてしまえば、試験勉強は日本語の習得の半分の時間で終わった。
筆記は問題ないとして、問題は実技だ。
試験内容が例年の傾向通りなら落ちる事はまず無いと思うが、兵士としての戦い方がかえって不利になる試験の可能性もゼロじゃない。
ま、受かりさえすれば無問題。
合格すれば3年間は、祖国の為にオールマイト狙いの
卒業さえしてしまえば、後は国に帰って兵士に戻るだけ。
だけどヒーロー免許を取る事そのものは、案外悪いものじゃない。
仮免さえ取れれば学外での銃火器の使用が許されるし、ヒーロー免許は祖国で売ったら一生遊べるだけの金になるし。
実際、ほとんどの国ではヒーロー免許を狙った盗難事件は日常茶飯事だ。
俺は軍の命令で手に入れたものを売ったりはしないけどさ。
なんて考えていると、長い金髪をトサカのように逆立てた長身の男が壇上に現れる。
確か、ボイスヒーロー「プレゼント・マイク」だったか。
プロヒーローでありながら、教師とラジオDJとの三足の草鞋で生計を立てているらしい。
『受験生のリスナー俺のライブにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』
プレゼント・マイクは、TPOを弁えない大音量かつハイテンションで俺達に呼びかけた。
運の悪い事に俺は最前列だから、うるさいったらありゃしない。
音量が大きすぎて逆に聴き取れないので、実技試験対策に持ってきた軍用の耳栓を耳に突っ込んだら、ちょうどいい音量になった。
軍用の耳栓で防ぐのがやっとって、どんだけうるさいんだよ…
『こいつあシヴィー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?YEAHH!!!』
プレゼント・マイクはハイテンションで受験生に呼びかけるが、案の定総スカン。
そりゃそうだ。
この状況で返事できる奴は、自分の実力を信じて疑わないバカか、最初から受かる気がなくてライブ感覚で来てるバカか、ただのバカだ。
『入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらうぜ!!持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!OK!?』
プレゼント・マイクは、二度も総スカンを喰らったのも気にせず、受験生にレスポンスを求めた。
強いな。
流石はラジオDJをやっているだけの事はある。
『演習場には仮想
聞いた限りだと、今年の試験内容も、事前に入手した過去の実技試験の内容とあまり変わらない。
というかこれ、戦闘系の“個性”に有利すぎないか?
なるほど…道理でヒーロー業とは相性悪いわけだ。
“個性”の良し悪しに関係なく、お国の為に死ぬ事を強要される祖国の方が、ある意味人の価値は平等なのかもしれない。
にしても持ち込み自由…か。
その気になればマシンガンとか対戦車ライフルとか持ってこれたな。
流石に学生の試験には過剰戦力だし、そもそも日本は銃火器の規制が厳しいから持ってこなかったけど。
「質問よろしいでしょうか!?」
『!』
「プリントには四種の
突然、眼鏡をかけた七三分けの男子が立ち上がって質問した。
これから説明されるかもしれないんだから黙って聞いてりゃいいのに…
なんて考えていると。
「ついでにそこの縮毛の君!」
眼鏡くんは、後ろに座っていた縮毛の男子を指さして注意した。
「先程からボソボソと…気が散る!!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
「すみません…」
眼鏡くんに注意された縮毛くんを、他の受験生がくすくす笑った。
あの手の奴に絡まれると面倒なので、机に突っ伏して気配を消した。
『オーケーオーケー、受験番号7111番くん、ナイスなお便りサンキューな!四種目の敵は0ポイント!そいつは言わばお邪魔虫!スーパーマリオブラザーズやった事あるか!?レトロゲーの!アレのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体、所狭しと大暴れしている『ギミック』よ!倒せない事は無いが、倒しても意味は無い!リスナーには上手く避ける事をオススメするぜ!』
「ありがとうございます!失礼致しました!」
プレゼント・マイクが説明すると、眼鏡くんが直角にお辞儀をしてから席に座った。
ところで、スーパーマリオブラザーズとかドッスンとか、何の話をしてるんだろう?
例えがイマイチピンとこないんだけど。
『俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者」と!!“Puls Ultra”!!それでは皆!よい受難を!』
「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者」…か。
だったら俺は、尚更ヒーローにはなれないな。
だって俺は、今までの人生の中で、不幸だと思った事は一度もないから。
むしろ、命が綿毛のように軽い世界で生き延びる事に、生き甲斐さえ感じている。
どこまで行こうと俺は、血で血を洗う戦禍の中でしか生きられないのかもしれない。
◇◇◇
「にしても…どれだけ金かけてんだか」
バスでA会場に連れて来られた俺は、目の前に広がるビル街を見てポツリと呟く。
そりゃあ、この壮観見たさに記念受験する奴もいるかもね。
白いフード付きの上着を羽織り、自分の身長と同じくらいの大きさのケースを背負っている俺を見て、周りの受験生はニヤニヤ笑っていた。
多分「ラッキー」とか思われてんだろうなぁ…
なんて思っているとだ。
『はい、スタートー!』
プレゼント・マイクの間の抜けた掛け声が、高台の上から聴こえてきた。
その瞬間、俺はスタートラインの向こう側へと踏み出し駆け抜けた。
だけど、開始から数秒ほど走っても、他の受験生が追いかけて来る気配がない。
「……
ああ、もしかしてまだ始まってないと思ってんのか?
そう考えていると、プレゼント・マイクが叫ぶ。
『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』
プレゼント・マイクに尻を叩かれて、ようやく他の受験生が弾かれるように走り出した。
一際高いビルを見つけた俺は、スタートでリードしたのをいい事に、雨樋をよじ登って屋上を陣取る。
背負ったケースを置いて広げつつ、双眼鏡で市街地を見渡す。
この試験で一番大事なのは、情報収集力。
敵を知らずに戦うなんてナンセンス。
実戦なら情報収集は観測手に任せるんだけど、ないものねだりをしても仕方ない。
ケースを広げて、中に入っているスナイパーライフルを取り出す。
もちろん本物の銃じゃなくて、オモチャのエアガンだけど。
とはいえ俺独自の解釈で改造を施して貫通力を高めてあるから、フライパン程度の装甲なら簡単に貫通する。
一応お手製手榴弾とかも持ってきたけど、この試験なら活躍の機会は無さそうかな。
「うわあああああああ!!」
叫び声が聴こえてきたのでスコープを覗き込むと、受験生が3ポイント
あの程度の敵にビビる奴が、よく受験しようなんて思えたものだ。
なんて思いつつ、右手を振り上げた3ポイント
弱点の関節部分を集中的に狙って2発、3発と撃てば、ロボットは機能停止して動かなくなった。
妨害と見做されて即退場にならないように、戦意を失って敵前逃亡する受験生を狙っている個体を狙い撃って倒す。
「
狙うのは、10位から20位の間。
落ちたら話にならないけど、かと言って点を取りすぎても目立つ。
例年の試験傾向を考えれば、トップ5を除けばあとは団子だから、ボーダーギリギリを狙うと落ちる事もあり得る。
毎年受験生のレベルがどんどん高くなっているらしいから、今年もまた平均点が上がる可能性が高い。
去年の合格者の平均点は大体25ポイントくらいだったから、10ポイントくらい余裕を持って35ポイントくらい稼いでおこう。
「これで36ポイント目…」
残り時間は、あと5分。
3ポイント4体、2ポイント7体、1ポイント10体で、合計36ポイント。
もうこの時点で目標点は取れたけど、もう少し殺っとくか…
なんて考えながらスコープを覗き込んだその時、ズシン、と地面が揺れる。
見ると、全長10mはある0ポイント
どうしようかな…
まず、ぶっ倒すなんて論外。
俺なら仕留められなくはないけど、入試の段階から目立つような事はしたくない。
となると、スルー一択だな。
とはいえ、このまま逃げたら、ポイントが足りずに不合格になる可能性がある。
事前に入手した情報によると、採点基準には、
というか、倒しても意味がない0ポイントなんてのがある時点で、別の審査基準がある事くらい、普通気づくと思うけどね。
まあでも救助ポイントは0ポイント
上りと同じように雨樋を使って下に降りた俺は、倒壊に巻き込まれて倒れていた茶髪ボブの女子に声をかけた。
確か、ロボットを内側からキノコまみれにするというエグい倒し方をしていた女子だ。
「大丈夫?」
「あ、ありがとノコ…」
俺は、キノコ女子に声をかけ、瓦礫をどかして救出した。
キノコ女子の怪我した足に応急処置を施した俺は、彼女の肩を支えてすぐにでも逃げられるように態勢を整えた。
「ロボがこっちに向かってきてる…すぐにここを離れよう」
「私の事はいいから早く逃げるノコ」
「そんな事、できるわけないでしょ」
「なんで…」
「……そんなの、決まってる」
点数稼ぎの為だよ。
祖国の為に、オールマイトの命を狙うアホを排除する。
その為に、雄英に潜入するのが俺に与えられた任務。
それさえ達成できれば、他がどうなろうと知ったこっちゃない。
「人を助けるのが、ヒーローだから」
気がつけば俺の口は、思考とは真逆の言葉を放っていた。
よくもまあ、心にもない綺麗事を、息をするように吐けたものだ。
自分でも引くわ。
なんて考えながらも、キノコ女子を助けていると…
『終了〜!!!!』
プレゼント・マイクが、終了のアナウンスをした。
できる事はやったし、あとは結果を待つだけだ。
◆◆◆
教師陣side
入試の数日後。
全ての試験結果が出揃い、モニタールームには教師陣が集まっていた。
「実技総合成績が出ました」
その声と共に大きなスクリーンに受験生の実技のポイントが書かれた順位表が表示される。
スクリーンには上位十名が表示されていた。
「レスキューポイント0で1位とはなぁ!!」
「「1P」「2P」は標的を捕捉し近寄って来る。後半他が鈍って行く中、派手な“個性”で寄せ付け迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」
「対照的に
「思わず YEAH!って言っちゃったからなーーー」
「しかし自身の衝撃で甚大な負傷…まるで発現したての幼児だ。妙な奴だよ。あそこ以外はずっと典型的な不合格者だった」
「細けえ事はいんだよ!俺はあいつ気に入ったよ!!」
「YEAH!って言っちゃったしなーー」
(………ったく、ワイワイと…)
そんな事を考えつつ、長い黒髪と無精髭が特徴的な教師が、茶髪ボブの女子を助けている白いフードの少年に目を向ける。
合理主義を突き詰めたような性格のこの教師は、合格者ほぼ全員に救助ポイントの審査で0点をつけていた。
救助ポイントで最高得点を取った8位の少年ですら0点をつけた彼が、合格者の中で唯一高得点をつけたのが、実技総合成績2位の少年だった。
そんな中、ちょうど他の教師陣の注目が、2位の少年に向く。
「派手さで1位と8位に気を取られてたが、 2位の彼もいい線いってたな」
「
「でもさぁ…この子、あまりにも出来すぎてるというか…
「あの短時間で試験の意図に気付いたのか、それとも事前に情報を入手してたのか…どっちにしろ小賢しい奴だな」
他の生徒が助ける為に助けている中、この少年だけは、
彼の救助活動の動機は、自分を犠牲にしてでも誰かを助けたいというヒーロー的精神ではなく、救助活動をすればするほど加点されるはずという打算。
一部の教師陣の救助ポイントの採点が低めなのは、これが理由だった。
逆に一人の教師だけは、一人だけ試験官の意図にいち早く気づいた勘の良さ、あるいは事前に入試の試験内容を調べて救助ポイントの存在を知っておく用意周到さ、そして勝ち抜く為なら手段を選ばない強かさに高得点をつけたようだが。
会議はまだまだ続く。
合格者の成績を一通り振り返った後は、クラス分けの会議が行われた。
◆◆◆
雪野ベリside
「へい、大盛りチャーハンお待ち!」
頬に傷のある彫りの深い顔立ちの男が、作りたてのチャーハンをテーブルにドン、と置いた。
俺は、チャーハンの皿を自分の手元へ引き寄せて、スプーンで掬ったチャーハンを口の中へかき込む。
すると男が、俺の頭をガシッと掴んで髪をワシャワシャしてきた。
「おい、いただきますくらい言え〜」
「ベリちゃん気持ちいい食べっぷりね〜」
俺が髪をワシャワシャする男を無視してチャーハンをかき込んでいると、兎耳のような髪型の白髪の女が笑った。
雪野アリ、雪野兎。この国での俺の父親役と母親役だ。
ただでさえ日本人じゃないのに、親がいないという時点で目立つので、雄英への潜入には保護者役が必要だった。
理想は、口が堅くて余計な詮索をせず、それなりに頭が良く、必要とあらば俺の祖国の為に死ぬ事を躊躇わない人物。
そんな奴日本にいるわけないだろ、とブローカーには文句を言われたけど、根気よく義理の親探しを続けた末に見つけたのが、彼等雪野夫妻だった。
アリさんは元軍人で、日本に帰化して中華料理店を経営していたのだけれど、一緒に働いていた兎さんとの間に子供ができて、そのまま結婚したのだという。
元軍人なら口の堅さと知能は申し分ないし、こっちは家族という弱みを握っているから、逆らえば妻子を殺すと脅せばどうとでもなる。
とはいえ俺の事を実の息子のように扱ってくれてるし、こっちとしても脅して言う事を聞かすような事態にならないに越した事はない。
実技試験の日から一週間、特にやる事もなく食っちゃ寝して過ごしているとだ。
玄関の方から、ドタドタと足音が聴こえてくる。
「おとーさん、おかーさん!郵便!」
そう言って駆けつけてきたのは、雪野夫妻の実子で俺の義理の弟の
彼の手には、『雄英高等学校』と書かれた封筒が握られていた。
封筒を開けると、中には書類と小型プロジェクターが入っていた。
それを取り出してスイッチを押すと、ブンッという音と共に映像が投影される。
『やぁ!ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は雄英高校の校長、根津さ!』
少し前なら、「なんでネズミが?」とギョッとしていたかもしれないが、俺は雄英の教師の顔と名前を事前に頭に叩き込んでいたので、雄英の校長だとすぐに理解できた。
『はじめまして、雪野くん!早速、君の合否を発表するのさ!』
校長の言葉と共に、ドラムロールが始まった。
その演出、必要か?なんて思いつつも結果発表を待っていると、ドラムロールが止まると同時に校長にスポットライトが当たる。
『おめでとう、合格さ!まず筆記は、問題なく合格圏内だった。そして実技。
次席か…ちょっと調子に乗り過ぎたかも。
できれば10位くらいで合格したかったんだけどな。
まあ、首席じゃないだけマシか。
というか、落ちてないだけ御の字だ。
『おいでよ、ここが君のヒーローアカデミアさ!』
その言葉を最後に、映像が終わった。
俺が背もたれに体重を預けて息を吐いていると、だ。
「「「やったああああああ!!!」」」
家族三人が、凄い勢いで飛びついてきた。
「聞いたかお前!?ウチのベリがやったぞ!」
「ええ!すごいわベリちゃん!」
「兄ちゃんおめでとう!」
両親は抱き合って大喜びし、颯兎も俺に抱きついて自分の事のように喜んでいた。
任務の間だけの偽装家族なのに、なんでここまで大袈裟に喜べるんだろう。
「今日はめでたい日だ!!こんな素晴らしい子を産んでくれてありがとう、兎!!」
「あんっ、ダメよあなた、子供達が見てるわ」
「……ご馳走様」
アリさんが兎さんをソファーに押し倒し、兎さんは抵抗しつつも満更でもなさそうな表情を見せた。
両親が俺そっちのけでイチャイチャし出したので、俺はすぐに席を立った。
俺、この人達から産まれてきた覚えないんだけど。
というか俺の祝いの席で何してんの、この人達。
「んしょ…」
イチャイチャし始めた両親から逃げるように自室に駆け込んだ俺は、本棚をずらして地下へと続く隠し通路の梯子を降りていく。
梯子を降りていくと、俺専用の地下室に辿り着いた。
部屋には、祖国と連絡を取る為の通信機器と、安物のベッドが置かれている。
部屋の明かりは天井から吊るされた電球一個しかない殺風景な部屋だけれど、逆にこの生活感の無さが心地良い。
雄英から送られた書類を雑にテーブルの上に置き、ベッドに座り込んだ俺は、着替えの為に服を捲り上げる。
全身銃創や手術痕だらけで、鍛え上げられた身体の胸部には、男の身体にはないはずの膨らみがある。
胸につけた下着を捲り上げると、下着と一緒に引っ張り上げられた胸の膨らみが、ふる、と重力に従って落ちる。
胸の谷間には、斜めに傷が走っている。
施設にいた頃、心臓にチップを埋め込む為に切開された痕だ。
この傷は嫌いじゃない。
どれだけ自分を騙して役に徹していようと、この傷を見れば、自分を保っていられるから。
『雪野ベリ』なんて人間は、この世に存在しない。
ヒーロー志望の学生って事になってるけど、そんなの真っ赤な嘘。
名前も嘘。
“個性”も嘘。
生い立ちも嘘。
年齢も嘘。
性別すらも嘘。
俺には、ヒーローというものがわからない。
ましてや、なりたいと思った事なんて一度もない。
それでも、純粋にヒーローを目指す少年の役に徹しよう。
祖国の命運と、プロとしてのプライドにかけて。
フィクションでは噛ませ犬にされる事も少なくない軍人を最強キャラとして書いてみたくて執筆しました。
ちなみに主人公の祖国のモデルは、ソで始まるあの国です。
そして主人公達のコードネームの元ネタは、例の国出身の銃火器の設計者・開発者の名前からとっています。
気になる方は調べてみてください。
あと入試の上位10人の成績載せときます。
VILLAIN RESCUE 合計
1位 爆豪勝己 77 0 77
2位 雪野ベリ 36 40 76
3位 切島鋭児郎 39 35 74
4位 麗日お茶子 28 45 73
5位 塩崎茨 36 32 68
6位 拳藤一佳 25 40 65
7位 飯田天哉 52 9 61
8位 緑谷出久 0 60 60
9位 鉄哲徹鐵 49 10 59
10位 常闇踏陰 47 10 57