ミハイル side
体育祭の翌々日、この日は休校という事で、ほとんどの雄英生が休暇を有意義に使って身体を休めていた。
だが生憎、俺には休暇というものは無い。
この日も、俺はアレクセイに呼び出されて依頼を受けていた。
アレクセイは、日本の警察の上層部に潜入しているスパイで、主に情報収集や情報操作を担当している。
日本の警察やヒーローは、事件が起こった後じゃなきゃ動けないが、他所者の俺達には日本の法律なんて関係ない。
だからこうして、アレクセイが徹底的に掻き集めた情報を、俺に提供してくれているというわけだ。
俺がこの国でスパイ活動をできているのは、情報提供や事件の揉み消しなどの、彼のサポートのおかげだ。
「ミハイル。お前には、“ヒーロー殺し”ステインを確保してもらう」
そう言ってアレクセイは、俺に資料を渡してくる。
資料に書かれているのは、今世間を騒がせている殺人鬼、“ヒーロー殺し”ステイン、本名赤黒血染のプロフィールだ。
奴は昨日俺のクラスメイトの飯田天哉の兄であるターボヒーロー“インゲニウム”を襲撃し、今もなお逃走中。
『英雄回帰』の思想を掲げているそうだが、正直俺には興味がない。
オールマイトのようなナチュラルボーンヒーローを理想としているらしいが、奴のしてきた事を鑑みれば、鼻で笑わざるを得ない。
明らかに汚職に手を染めているヒーローのみを襲撃するならまだわからんでもないが、インゲニウムのような特に後ろめたいスキャンダルもないヒーローまで襲撃している時点で、奴のロジックはとうに破綻している。
それでも日本の犯罪率の低下に貢献しているというのだから、とんだお笑い種だ。
こんな奴が持ち上げられるのは、平和ボケしている日本だからこそだろうな。
「ステイン…確か、オールマイトのファンの殺人鬼だったよな?オールマイトに直接危害を加えないなら、優先して確保する必要は無いんじゃないのか?」
「奴が既に
「……何?」
「これを見ろ」
そう言ってアレクセイが見せてきたのは、ターゲットであるヒーロー殺しが写っている写真だ。
ヒーロー殺しの隣には、腸みたいなマフラーを巻いた男が写っている。
アレクセイは、マフラーの男を指差しながら口を開いた。
「ターゲットと一緒に写っているこの男、裏社会じゃ有名なブローカーだ。オレらが捕らえた
「話が見えてこないな。
「今世間は、ステインの話題で持ちきりだ。オレ達が取り逃した
洗いざらい聞き出せ……か。
奴が
こんな奴でも、一応は長い間警察やヒーローから逃げ切り、社会の注目を浴び続けている殺人鬼だ。
アレクセイの考えが正しければ、売名と戦力強化の為に、
ブローカーと接触している事実がある以上、既に
もしシロだったとしても、元々多くの命を奪ってきた殺人鬼だ。
抹殺を躊躇う理由はどこにもない。
「それはいいが、アテはあるのか?」
奴は一つの街で必ず4人以上のヒーローを襲撃する。
今はまだインゲニウムしか被害に遭ってないから、奴は必ずまた保須に現れる。
そして奴が現れるのは、6割以上が路地裏などの人気がない場所だ。
……まさか、保須中の路地裏という路地裏を虱潰しに探せって言うんじゃないだろうな。
「心配するな。既に網は張ってある」
そう言ってアレクセイがニヤリと笑う。
ああ、悪い事を企んでいる顔だな。
◆◆◆
??? side
「ひっ、ひっ…!!」
チクショウ、チクショウ…!!
なんで俺がこんな目に…!?
ヒーロー殺しが、俺を見るなり鬼の形相で襲いかかってきやがった。
確かに俺は、ヒーロー活動で稼いだ金をキャバクラにつぎ込んで、妻と娘を顧みずに嬢に手を出して妊娠させた。
でも元嫁には慰謝料は払ったし、養育費だって毎月きっちり払ってる!!
なのに、
路地裏に逃げ込んだ瞬間、右足に焼けるような痛みが走った。
「ぐああああああっ!!」
あまりの痛みに、バランスを崩してその場に倒れ込む。
見ると、右足の腱を斬られていて、血のついた刃物を舐めるヒーロー殺しがすぐそこにいた。
奴に血を舐められた瞬間、指一本も動かせなくなる。
チクショウ、まただ…!!
クソ、動け…!
いやだ、こんなところで死にたくない…!!
「ま、待ってくれ!俺には、妻と子供がいるんだ!頼む、見逃してくれ…!」
俺は、目に涙を浮かべながら、ヒーロー殺しに命乞いをした。
だが奴は、俺の言葉には耳も貸さずに刃物を振りかぶる。
「ハァ……お前の事情など知るか。お前は私欲の為に力を振るい、英雄を歪ませる社会の癌だ。死ね、贋者」
そう言ってヒーロー殺しが刃物を振り下ろそうとした、その瞬間。
俺の上に乗っていたヒーロー殺しが、バッと飛び退く。
ヒーロー殺しが上を向くと、そこには、さっきまで無かったはずの人影があった。
◆◆◆
ミハイル side
「見つけたぞ」
『殺すなよ。そいつには、聞かなきゃいけない事がある』
「わかってる」
ヒーロー殺しを見つけた俺は、スナイパーライフルを構えつつ、無線でアレクセイとやり取りをした。
囮作戦は、無事成功した。
アレクセイ曰く、確実にヒーロー殺しを誘き寄せる為に、格好の的となるヒーローを囮として保須に連れてきたという。
アレクセイが探していた囮の条件は、主に三つ。
ヒーロー殺しが看過できないようなスキャンダルがある事、都内にヒーロー事務所に勤務している事、そして血液型がO型である事だ。
前者二つはわかるが、何故囮の血液型がO型である必要があるのかというと、ヒーロー殺しの“個性”が関係しているのだという。
今までの統計によると、ヒーロー殺しの“個性”『凝血』の効果は血液型と関係があるらしく、O、A、AB、Bの順に拘束時間が長くなるらしい。
囮のゴミヒーローには、できるだけ長くヒーロー殺しから逃げてもらった方が都合がいい。
『ヒーロー殺しに狙われるようなスキャンダルがある』、『都内に事務所がある』、『血液型O型』、この条件に当てはまるヒーローに絞って探してみたら大量にヒットしたらしく、その中で白羽の矢が立ったのがこの馬鹿というわけだ。
インゲニウムの事件の後、すぐにこいつに目をつけたアレクセイは、こいつを捕らえてボコボコにした上で自身の命とスキャンダルを材料に脅迫し、ヒーロー殺しが現れるであろう保須に行かせた。
そしてアレクセイの思惑通り、ヒーロー殺しご本人がまんまと網にかかってくれたというわけだ。
とはいえ、最初のライフル弾を避けられたのは、流石に想定外だったけど。
ヒーロー殺しの肩には、俺の撃ったライフル弾が掠っているが、ダメージを与えたと言える程の深さじゃない。
俺に気づいてビルの屋上へと登ってきたヒーロー殺しは、俺を睨みながら口を開く。
「ハァ……ヒーローじゃないな。何者だ」
「オマエの大嫌いな
「そうか。死ね」
俺は咄嗟にスナイパーライフルを発砲するが、ヒーロー殺しはライフル弾を避けてナイフを投擲してきた。
俺はギリギリのところでナイフを避けたが、次の瞬間にはヒーロー殺しが距離を詰めて刃物を振るってくる。
うっわ、完全に殺す気満々じゃん。こっわ。
この至近距離だと、刃物相手にライフルじゃ分が悪い。
俺は、殺す気で斬りかかってくるヒーロー殺しの斬撃を、ライフルの銃身で受け流した。
だが、それでも攻撃を防ぐので精一杯で、反撃に移れそうになかった。
俺がライフルの
「がああああっ!!」
ヒーロー殺しが、刃物に付着した血を舐める。
その瞬間に前のめりに倒れ込むと、ヒーロー殺しが上から俺の背中を踏みつけ、俺の肩に刀を刺した。
「がっ!!」
ヒーロー殺しが俺の肩に刀を刺すと、俺の肩からはジワジワと血が流れ出す。
ヒーロー殺しは、動けない俺を押さえつけて、首に刀を当てながら言った。
「最期に言い残す事はあるか」
「優しい殺人鬼だな。あるよ、言い忘れた事。
俺がそう言った直後、ヒーロー殺しはその場に膝をつく。
ヒーロー殺しが驚いた様子で地面に膝をついているのを確認した俺は、ニヤリと笑って起き上がる。
「貴…様……何故動ける……?」
ヒーロー殺しは、信じられないといった様子で俺の顔を見る。
俺は、服のフードの中に手を入れ、ヒーロー殺しが斬りつけた部分に仕込んであった輸血パックを取り出し、その場に投げ捨てる。
斬られて苦しんでいたように見えたのは、ただの演技だ。
防刃インナーを着ている俺の身体に、ダメージは一切無い。
“個性”『凝血』。
対象の血液を摂取する事で、その身体の自由を最大で8分間奪う、それが奴の“個性”。
“個性”を使う為に血のついた刃物を舐めるだろうと思ったから、麻痺毒入りの輸血パックを服の中に仕込ませてもらった。
ついでに言えば、俺が最初に撃ったライフル弾にも、麻痺毒を仕込んであった。
輸血パックの血を何の躊躇いもなく舐めたのも、ライフル弾の毒が既に体内を侵蝕していて、毒で動けなくなる前に俺を殺そうと勝負を急いでいたからだろう。
「安心しろ、その程度の毒じゃ死なない。オマエを生かしたのは、話をする為だ。オマエには、知っている事を洗いざらい吐いてもらう」
そう言って俺は、スナイパーライフルを拾い上げて構える。
その前に、下にいるゴミをスナイパーライフルで狙い撃ち処分する。
あいつに恨みは無いが、俺達の正体を知った時点でどのみち処分対象だ。
邪魔者がいなくなったところで、ヒーロー殺しへの尋問を始めた。
ヒーロー殺しを拷問したが、思ったより口が堅く、大した情報は聞き出せなかった。
奴の反応を見るに、
ヒーロー殺しとしての矜持故か、それとも粛清対象である俺へのせめてもの嫌がらせのつもりか。
「最期に言い残す事はあるか」
「ハァ……お前如きが俺を殺せると思うな、小僧……俺を殺していいのは、オールマイトだけだ…!!」
俺が尋ねると、ヒーロー殺しは殺意でギラついた目を向けながら言った。
「殺せると思うな」という発言は、単なる負け惜しみじゃなく、俺を殺したところで憎しみの炎は消えない〜的な意味なんだろうか。
まぁ、信念もクソもないガキに負けた時点で、負け惜しみにしか聴こえないんだけど。
「そうか、死ね」
そう言って俺は、ヒーロー殺しの脳幹と心臓にライフル弾を撃ち込みトドメを刺した。
大した収穫は得られなかったが、得られたものがゼロだったわけじゃない。
良かったな、社会のクズが最期に人の役に立てて。
◆◆◆
雪野ベリ side
ヒーロー殺しを殺害した翌日。
この日は、昨日までの快晴が嘘のような土砂降りだった。
欠伸をしながら登校していると、ちょうど緑谷くんと校門の前で鉢合った。
「おはよう緑谷くん」
「あっ、おはよう雪野くん」
「朝からお疲れ?」
「うん、朝からすごい話しかけられて大変だった…」
「ふーん……」
「他人事…!!」
朝から疲れている様子の緑谷くんをジト目で見ると、緑谷くんがツッコミを入れてきた。
俺は全然声をかけられなかったけどな。
まあ、わざと目立たないようにしてたから、当然と言えば当然なんだけど。
「オレはね…全然。“個性”『ステルス』だから、目立たないのがアイデンティティ」
「ハハハ…」と乾いた笑いをこぼしながら言うと、緑谷くんが苦笑いを浮かべる。
おい、その顔やめろ。
一番リアクションに困る反応だから。
そんな事を考えながら歩いていると…
「何呑気に歩いているんだ!!遅刻だぞ!おはよう緑谷くん!!雪野くん!!」
「カカカカッパに長靴!!」
レインコートと長靴で完全武装した飯田くんが、バシャバシャと音を立てて俺達の横を駆け抜けた。
飯田くんにつられて、俺達も校舎へと走る。
「遅刻って、まだ予鈴5分前だよ?」
「雄英生たるもの、10分前行動が基本だろう!!」
いつも以上に張り切っている飯田くんを見て、緑谷くんはハッとした表情を浮かべる。
飯田くん、ヒーロー殺しにお兄さんを再起不能にされていっぱいいっぱいなのを、皆に悟られないように元気に振る舞ってんのかな。
「兄の件なら、心配ご無用だ。要らぬ心労をかけて、すまなかったな」
飯田くんはそう言って笑顔を浮かべると、ひと足先に教室に戻って行った。
……いや、気まずっ。
ヒーロー殺しが死んだって知ったら、どんな反応すんのかな…(※殺した張本人)
燃え尽き症候群にならないといいけど。
◇◇◇
「超声かけられたよ、来る途中!!」
「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」
「俺も!」
「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」
「ドンマイ」
芦戸さん、葉隠さん、切島くんが興奮気味に言い、瀬呂くんが机に手をついて辟易した顔でぼやくと、梅雨ちゃんが瀬呂くんに追い討ちをかける。
「たった一日で一気に注目の的になっちまったよ」
「やっぱ雄英すげえな…」
上鳴くんと峰田くんが、顔を見合わせて言った。
皆の会話を聞きつつ教室に入ると、葉隠さんが話しかけてきた。
「あ、おはよう雪野くん!体調大丈夫?」
「うん。もう大丈夫。ご心配をおかけしました」
葉隠さんが途中で帰った俺を心配していたので、俺は軽く手を振った。
皆と話していると、予鈴が鳴ったので、皆急いで自分の席に戻る。
すると時間通りに―
「おはよう」
「「「「おはようございます!!」」」」
相澤先生が教室に入ってきたので、皆で一斉に挨拶をする。
包帯が取れてすっかり本調子に戻った相澤先生に、梅雨ちゃんが声をかける。
「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」
「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなもんより今日のヒーロー情報学…少し特別だぞ」
それを聞いて、切島くんと上鳴くんが身構える。
他の皆も、何をするのかと身構えていた。
「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」
「「「「「胸膨らむやつきたああああ!!」」」」」
相澤先生の発表を聞いた途端に、皆のテンションが一気に最高潮になる。
うわ、うるさ。
でもその直後、相澤先生が睨むとすぐに全員大人しくなった。
全員が黙ると、相澤先生が話を始める。
「というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2、3年から…つまり今回来た『指名』は将来性に対する『興味』に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんて事はよくある」
「大人は勝手だ!」
相澤先生が言うと、プロの世界の厳しさを知った峰田くんは机をガンっと叩く。
すると葉隠さんが相澤に尋ねる。
「頂いた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」
相澤先生は、葉隠さんの質問に対して頷き指名の集計結果を表示する。
A組指名件数
轟:4,123
爆豪:3,556
常闇:360
飯田:301
上鳴:272
八百万:108
切島:68
麗日:20
瀬呂:14
「例年はもっとバラけるんだが、二人に注目が偏った」
「だーーー白黒ついた!」
「見る目ないよねプロ」
上鳴くんは椅子にもたれかかり、青山くんは不服そうな表情を浮かべながら言った。
いや、上鳴くん200件以上指名来てんじゃん。
「1位2位逆転してんじゃん」
「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな…」
「ビビってんじゃねーよプロが!!」
切島くん、瀬呂くんが、優勝者の爆豪くんより準優勝の轟くんの方が指名数が多い事を指摘すると、爆豪くんが怒鳴る。
いや、そりゃそうでしょ。
こんな奴をスカウトして問題行動を起こされたら、プロからすりゃたまったもんじゃない。
「流石ですわ、轟さん」
「まぁ親の話題ありきだろ」
八百万さんが隣の席の轟くんに話しかけると、轟くんが素っ気なく答える。
いやいや八百万さん、あんただって100件も指名もらってんだろうが。
指名を貰えなかった俺等の事も少しは考えよう?
「わあああ」
「うむ」
麗日さんは、喜びのあまり前の席の飯田くんの肩を掴んで揺すっている。
アレ、ムチウチにならないのかな…
「無いな!怖かったんだやっぱ」
「んん………」
そして指名が無い緑谷くんと峰田くんは、複雑そうな表情を浮かべていた。
緑谷くんはアレだな、峰田くんの言う通り、指ぶっ壊してたから怖がられたんだろうな。
俺がプロでも、笑いながら指壊す奴とか普通に嫌だし。
でも、逆に良かったんじゃないかな。
あの試合を見て指名するような酔狂な奴は、十中八九緑谷くんとオールマイトの関係を勘繰ってる奴だろうし。
「むー、無いね!」
「まぁ最終種目出てないからね、しょうがない」
不服そうな葉隠さんに対して、俺は冷静に返した。
クラスのほとんどの人は指名を貰ってないから、別に驚きはない。
イカレポンチの緑谷くんは兎も角、順当に二回戦に勝ち進んだ芦戸さんすら指名0件だからね。
「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきたァ!」
相澤先生が言うと、砂藤くんと麗日さんが興奮気味に反応する。
なるほどね、プロに俺達を知ってもらう為のヒーロー名か。
「まぁ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
突然、相澤先生の言葉を遮る形で、教室の入り口の方から声が響く。
「この時の名が!世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」
「「「「ミッドナイト!!」」」」
ミッドナイト先生が、セクシーポーズをしながら教室に入ってきた。
あんな青少年の教育に悪そうな教師が学校にいていいものか。
なんて考えていると、相澤先生とバトンタッチした。
「まぁそういう事だ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来ん。将来自分がどうなるか名を付ける事で、イメージが固まりそこに近付いていく。それが『名は体を表す』って事だ…“オールマイト”とかな」
そう言って相澤先生は、俺達全員にペンとフリップを配ると、寝袋に入って寝始めた。
…うん、もうツッコむのも面倒臭い。
◇◇◇
15分後。
「じゃ、そろそろできた人から発表してね!」
うわぁ…
発表形式かよ。
これはなかなか度胸が…
なんて考えていると、真っ先に青山くんが教壇に立つ。
「行くよ…輝きヒーロー“I can not stop twinkling.”(キラキラが止められないよ☆)」
「「「短文!!!」」」
え、嘘でしょ?
それヒーロー名?
というか、英語かフランス語かどっちかにしろよ。
「そこはIを取ってCan'tに省略した方が呼びやすい」
「それね、マドモアゼル☆」
意外にもミッドナイト先生的にはアリだったらしく、ミッドナイト先生のアドバイスを採用したのがそのまま青山くんのヒーロー名になった。
そして次は芦戸さんが前に出た。
「じゃ次アタシね!エイリアンクイーン!!」
「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」
「ちぇー」
芦戸さんのヒーロー名は、ミッドナイト先生が即ボツにした。
……ごめん、元ネタ知らないから面白さがわからない。
というかこれ、なんか変な空気になってない?
こういう日本のお笑い、確かオーギリって言うんだっけ。
なんて考えていると、今度は梅雨ちゃんが手を挙げる。
「じゃあ次、私良いかしら」
「梅雨ちゃん!!」
「小学生の時から決めてたの、フロッピー」
そう言って梅雨ちゃんは、『梅雨入りヒーロー FROPPY』と書かれたフリップを見せた。
「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!!皆から愛されるお手本のようなネーミングね!!」
ありがとう
そこから、皆どんどんヒーローネームを発表していった。
切島くんは、剛健ヒーロー“
耳郎さんは、ヒアヒーロー“イヤホン=ジャック”。
障子くんは、触手ヒーロー“テンタコル”。
瀬呂くんは、テーピンヒーロー“セロファン”。
砂藤くんは、甘味ヒーロー“シュガーマン”。
芦戸さんは、リドリーヒーロー“エイリアンクイーン”改めPinky。
上鳴くんは、スタンガンヒーロー“チャージズマ”。
葉隠さんは、ステルスヒーロー“インビジブルガール”。
「良いじゃん良いよ! さぁ、どんどん行きましょー!!」
八百万さんは、万物ヒーロー“クリエティ”。
轟くんは、“ショート”。
常闇くんは、漆黒ヒーロー“ツクヨミ”。
峰田くんは、モギタテヒーロー“GRAPE JUICE”。
口田くんは、ふれあいヒーロー“アニマ”。
そして次は俺の番だ。
「
「あなたも名前ね?」
俺は筆記体で『Белый』と書いたフリップを見せた。
とんちをきかせたり、カッコつけて外国語にしてみたり、ダブルミーニングだのトリプルミーニングだのを考えるのは時間の無駄だ。
3年間しか使わない名前だし、そもそも『雪野ベリ』という名前自体が偽名なんだから、偽名にコードネームを重ねるのはダルい。
皆が重い思いのヒーロー名を発表していく中、爆豪くんはというと。
「爆殺王」
「そういうのはやめた方がいいわね」
即ダメ出しされていた。
馬鹿じゃねぇのかこいつ、ヒーロー名に“殺”を入れるな。
ワールドワイドに活動するなら『死ね』と『殺す』は禁止って俺のアドバイス、聞いてなかったのか。
「じゃ、私も…考えてありました」
「シャレてる!」
麗日さんは、少し恥ずかしそうに『ウラビティ』と書かれたフリップを見せた。
『グラビティ』からG(重力)を取ってウラビティね、うん、いいと思う。
「思ってたよりずっとスムーズ!残ってるのは、再考の爆豪くんと...飯田くん、そして緑谷くんね」
もう三人しかいないのか。
なんて考えていると、飯田くんが前に出てヒーロー名を発表した。
飯田くんのフリップには、『天哉』と書かれていた。
「あなたも名前ね」
飯田くんも名前か…
だけど俺や轟くんとは違って、どこか迷っているように見えた。
そして次は、緑谷くんが前に出てフリップを見せた。
「!?えぇ緑谷、いいのかそれェ!?」
「うん。今まで好きじゃなかった。けどある人に、“意味”を変えられて…僕には結構な衝撃で...嬉しかったんだ。これが僕のヒーローネームです」
そう言う緑谷くんのフリップには、『デク』と書かれていた。
えぇ…マジかよ、蔑称…?
緑谷くんは満足げだし、他の皆もなんか納得してるけど…
……ごめん、全然ピンとこない。
これがアジア人と東欧人の感覚の違いなんだろうか。
そして最後の爆豪くんはというと。
「爆殺卿!!」
「違うそうじゃない」
また変なヒーロー名を発表して、ミッドナイト先生にボツされた。
結局保留にされて、『バクゴー』って仮名に落ち着いたけど。
◆◆◆
オールマイト side
「あれ、1年の指名、今頃来てますね。二名」
職員室で事務作業をしていた
今になって指名……?
一体誰なのだろう?
「緑谷くん来てますよ」
「───!へえ!!どれどれ…」
緑谷少年の名前を出された私は、後ろからパソコンの画面を覗き込む。
表示された画面を見た瞬間、心臓が跳ね上がる。
「───!!!!この方は…」
おいおい、嘘だろ…!?
こ、この方は……!!
「あと、もう一名は追加の指名じゃなくて、
変更だと……?
もう期限を過ぎた今になって?
「指名した二名のうち一名を、轟くんから雪野くんに変更したいみたいです」
緑谷少年の次は、雪野少年か……
緑谷少年には私が直接伝えるとして、こっちの方は、もうリストを配っちゃってるだろうな…
早く相澤くんに知らせなければ。
それにしても、一体誰が…?
「……へぇ、彼が…!」
おいおい雪野少年…!
君、とんでもないビッグネームに気に入られたんじゃないのか…!?