少年兵のヒーローアカデミア   作:M.T.

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お待たせしました。
最近今際の国のアリスの二次の執筆に筆が乗ってしまっていて、こちらの更新を疎かにしてしまっていました。
これからは、少しずつ投稿ペースを戻していけたらと思います。
職場体験は、ステインがタヒんで特に大きな事件も起こらないので、1話で終わります。


職場体験

 ヒーローネーム決めの後、俺達は相澤先生から職場体験の説明を受けた。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリスト渡すから、その中から自分で選択しろ。指名の無かった者は、あらかじめこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

 

 そう言って相澤先生は、オファー受け入れ可の事務所の一覧表を俺達に見せた。

 皆は、配られたリストを見ながら自分の行き先を決める。

 

「俺ァ都市部での対・凶悪犯罪!」

 

「私は水難に関わる所がいいわ。あるかしら」

 

 切島くんと梅雨ちゃんは、既に自分の行きたいところをなんとなく決めているらしい。

 俺はなぁ、ぶっちゃけどこでもいいんだよな。

 逆に行きたくない事務所から順に削ってって、残ったとこから決めるか。

 

「今週までに提出しろよ」

 

「あと二日しかねーの!?」

 

 相澤先生が言うと、瀬呂くんが驚く。

 これ、指名多い人キツくないか?

 全部確認する作業がまず大変そう。

 

「オイラはMt.レディ!!」

 

「峰田ちゃん、やらしい事考えてるわね」

 

「違うし!」

 

 梅雨ちゃんに図星を突かれた峰田くんは、必死に否定してるけど…

 今「ギクッ」つったよな。

 

 俺は……どうしよっかな。

 誰かに合わせよっかな、別にどこでもいいし。

 なんて考えていると、葉隠さんが話しかけてくる。

 

「ねぇ雪野くん、職場体験どこ行くか決めた?」

 

「んー、オレ?まだ決めてない。あと二日あるし、ゆっくり決めようかな〜って」

 

「あんた意外とマイペースだよね」

 

 俺が指名の紙をピラピラさせながら言うと、耳郎さんが呆れたように言う。

 そんな話をしているとだ。

 

「雪野、ちょうど良かった。ちょっと来い」

 

「……?はい」

 

 いきなり相澤先生に呼び出された。

 ……俺、何かやっちゃいました?

 

「どうしたんですか?」

 

「たった今セメントスから聞いたんだが、指名の変更があったらしくてな。お前にも指名が来ている」

 

「はぁ……」

 

 今になって俺に指名?

 正直、体育祭の俺のどこに興味を持つ要素があったのかわからないけど…

 こんな目立たない子を指名するとか、物好きもいたもんだ。

 

「正直、体育祭を途中棄権したお前になんで今更指名が来たのか、俺には理解できん。だが、せっかく指名を戴いたんだ、しっかりトップヒーローの仕事を学んでくるといい」

 

 そう言って相澤先生は、一枚のリスト……もとい、メールのスクショを俺に見せてきた。

 そこに書かれていたのは、ウィングヒーロー“ホークス”という文字だった。

 

 

 

 ………は?

 

 嘘だろ?

 

Почему(なんで)…?

 Черт возьми(なんてこったい)Я в замешательстве(わけがわからないよ)Помогите(助けて)…」

 

 えっ、いや、待って。

 なんで?

 なんでこのタイミングで?

 No.3ヒーローのホークスから?

 体育祭で全ッッッ然目立ってなかった俺に指名?

 

 いや、嬉しさとか驚きとかより、普通に怖さが勝つんですけど?

 体育祭を見て、俺を指名する要素どこにあった?

 しかも、()()って事は、他の有望株の指名をやめて俺にしたって事だよね?

 何考えてんのこの人?

 

 俺は、思わず日本語を忘れて困惑を口にした。

 すると、母国語でどっかのワカメヘッドみたくブツブツ言っている俺を心配してか、相澤先生が声をかけてくる。

 

「……おい。大丈夫か?」

 

「あっ、すみません…」

 

「で、どうすんだ?行くのか?」

 

 どうしよう、このタイミングでの指名の変更とか、正直気持ち悪いから断りたいんだけど…

 でもトップヒーローの指名を断るとか心象悪いだろうし、こいつなんでヒーロー科に来たの?とか思われかねない…

 それだけは絶対に避けたい……!!

 

「…………イカセテイタダキマス」

 

 俺は結局、渋々ホークスのところに行く事に決めた。

 どうしよ……俺、大ピンチ☆

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そして職場体験当日。

 俺達は、コスチュームを持って雄英の最寄り駅に集まった。

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」

 

「はーい!」

 

「伸ばすな『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」

 

 皆それぞれ自分の職場体験先に向かう。

 俺と常闇くんは、九州行きのリニアに乗りに行く。

 リニアのホームに向かう途中、常闇くんが俺に話しかけてくる。

 

「まさかお前もホークスに指名をいただいていたとはな」

 

「うん。なんか急に変更があったみたいでさ。にしても緊張するな〜、No.3ヒーローの事務所で職場体験なんて」

 

 なんて会話をしつつ、リニアに乗り込む。

 学生の身分でグリーン車とは、流石雄英……

 相変わらず金の使い方がプルスウルトラしてるな、と思っていると、席のモニターに設置された車内販売のメニューにリンゴジュースが売っているのを見つける。

 

「常闇くん、リンゴジュース売ってるみたいよ。貰う?」

 

「ッ…!?頂戴しよう」

 

「オレノモヨコセ!」

 

 俺がリンゴジュースを注文しようとすると、黒影(ダークシャドウ)が口を挟んでくる。

 すごい今更だけど、黒影(ダークシャドウ)って食べたり飲んだりできるのか…

 意思が独立してるタイプの“個性”って、まだまだ謎が多いな…

 

 なんて考えているうちに、リニアが新大阪駅を通過する。

 なんか麗日さんみたいな喋り方をする人が増えたな…

 こういう喋り方、確かカンサイベンっていうんだっけ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 博多駅から徒歩五分、俺達がやって来たのはウィングヒーロー“ホークス”の事務所だ。

 10代でビルボードチャートトップ10入りを果たし、巷では『速すぎる男』なんて呼ばれていたりもする。

 正直なんでホークスに急に指名されたのかはわからないけど、指名を戴いたからにはここで学ばせてもらおう。

 なんて考えていると…

 

「キャーーー!!泥棒ーーー!!」

 

 どこからか女性の声が聴こえ、俺と常闇くんが同時に振り向く。

 見ると、(ヴィラン)が女性物のバッグをひったくり、“個性”を使って逃走を図っていた。

 常闇くんが咄嗟に黒影(ダークシャドウ)を出そうとした、その時だった。

 

「ああ!君達が職場体験の?」

 

 (ヴィラン)目掛けて無数の羽根が飛んできて、(ヴィラン)を捕捉すると同時にバッグを奪い返し、羽根で浮いたバッグが持ち主の女性のもとへと飛んでいく。

 ふと上を見上げると、羽根でできた剣を持ったホークスが、ちょうどビル5階分くらいの高さを飛んでいた。

 突然の出来事に呆気に取られていると、ホークスが俺達のもとへ降り立ち声をかけてきた。

 

「俺の事務所へようこそ」

 

 そう言ってホークスは、俺達を事務所の中へ案内してくれた。

 事務所の案内がてら、ホークスが自己紹介をする。

 

「常闇くんと雪野くんだったよね。二人とも知ってると思うけど、俺はウィングヒーロー“ホークス”。1週間よろしくね〜」

 

「…よろしくお願いします」

 

「………」

 

 ホークスが満面の笑みを浮かべて握手を求めてくるので、俺は思わず顔を引き攣らせてしまった。

 何を考えてるかわからない奴の笑顔ほど怖いものはない。

 

「あぁ、ごめん。確か君が住んでたとこだと、初対面同士は笑わないんだっけ?」

 

「あ…えっと…それもあるんですけど、緊張してて…」

 

 俺は警戒しているのを悟られないように言い訳した。

 俺の国だと、笑顔を見せるという文化がない。

 まあ、日本だと笑顔は信用を得る為のツールっていう考え方なのは分かってるけど。

 

「そう緊張しないでよ。ここでは一応プロヒーローと学生って関係だけど、むしろ友達みたいなもんだと思ってくれればいいから」

 

「はぁ…」

 

 フレンドリーに接してくるホークスに、俺のみならず常闇くんも、少し拍子抜けしていた。

 トップヒーローの職場体験と聞いていたから、もっとこう、厳かな感じだと思っていたんだろう。

 なんて思いつつ、俺と常闇くんは、ホークスと握手を交わした。

 その時、一瞬ホークスが目を細めたような気がしたけど、何だったんだろう。

 

「さて、早速だけど、君達のヒーローネームを教えてくれるかな?」

 

「俺は漆黒ヒーロー“ツクヨミ”です」

 

「夜の神様か。カッコいいね」

 

 ホークスがそう言うと、常闇くんは満更でもなさそうな顔をした。

 なんだろう、最初はちょっと仲良くなりづらいと思ってたけど、常闇くんって実はピュアな人なのかもしれない。

 

「雪野くんは?」

 

「オレはベリです」

 

「本名?」

 

「はい。自分の名前、割と気に入ってるので」

 

 常闇くんと俺のヒーローネームを聞いたホークスは、そのままサイドキック達に自己紹介をさせていった。

 なんとか短時間で、全員のヒーローネームと“個性”を頭の中に叩き込んだ。

 流石に本名までは覚えてないけど。

 

「それじゃ、今からパトロールに行くよ。二人ともコスチュームに着替えて支度してね」

 

 そう告げられて、40秒ほどでコスチュームに着替えて支度をする。

 こうして、職場体験が始まった。

 俺達は、ホークスと一緒に上空をパトロールしながら、ヒーロー活動の説明を受けた。

 

 プロヒーローは一応公務員だけど、その勤務形態は一般の公務員と何もかも異なる。

 ヒーローは犯罪の取り締まりや人命救助を行い、任務が完了したら貢献度を報告する。

 その後専門機関の調査を経て、貢献度に応じた給料が振り込まれる。

 それから、ヒーローは副業も許されているらしい。

 最近化粧品のCMに出ているスネークヒーロー“ウワバミ”なんかがその例だ。

 

 なんて説明を受けつつ、俺達は街で起こった小犯罪の対応を手伝った。

 とは言っても、ニュースにならないような小犯罪がほとんどだった。

 ひったくり、露出狂、チンピラ同士の喧嘩、道路交通法違反etc…

 職場体験の身分で危ない事はさせません、って事なんだろう。

 

 この日の職場体験を終えた後、俺達はホークスの誘いで、彼の行きつけの高級料理店で夕食を食べた。

 店の仲居さんに御座敷の個室に案内され、お品書きに書かれていたコース料理が次々と出てくる。

 他に食べたいものがあったら注文してねと言われたけど、無理です…

 俺と常闇くんは、メニュー表に書かれた値段を見てヒソヒソ話す。

 ホークスの奢りとはいえ、お会計が怖いやつだこれ…

 

「ツクヨミくん、ベリくん、ここの焼き鳥美味いっしょ。俺のオススメ」

 

 そう言ってホークスは、美味そうに焼き鳥を頬張る。

 俺がなかなか焼き鳥に手を出せずにいると、ホークスが話しかけてくる。

 

「どうしたの?焼き鳥嫌い?」

 

 なかなか食事の手を進めない俺を見て、ホークスが話しかけてくる。

 俺は、ずっと引っかかっていた事をホークスに尋ねる事にした。

 

「……ホークス、ひとつ聞いてもいいですか?」

 

「何?」

 

「なんでオレを指名したんですか?オレ、体育祭で全然目立ててなかったし…正直、指名する旨みが全然無いと思うんですけど…」

 

「君、留学生でしょ?」

 

「……えっ?そうですけど」

 

「遠く離れた異国の地で過ごしてきた君が、何を思ってこの国に学びに来たのか、興味があってね」

 

 ……ああ、そういう事か。

 やっとわかった、彼が俺の何を見たがっているのか。

 俺は、頭の中で編み出した答えを、思いつくままに言った。

 

「オレの国は、隣国との紛争が絶えません。幼い頃から、争いのない世の中にしたいと常々思っていました。オールマイトがいるこの国で、平和というものを知りたい。平和の為に戦っているヒーローがいるんだって事を、故郷の皆に教えたい。その為にこの国に学びに来ました」

 

「うん、いいね!やっぱり君を指名して良かったよ」

 

 俺が答えると、ホークスは満面の笑みを浮かべる。

 俺は、自分の皿に盛り付けられた焼き鳥に七味唐辛子と柚子胡椒をつけて、一口齧った。

 

「……うまか」

 

「はは、博多弁になっとーばい!」

 

 慣れない博多弁を使ってみると、ホークスが笑う。

 すると、その時だった。

 

『速報です。東京都保須市の駐車場にて、覆面ヒーロー“ジャスティスマスク”の変死体が発見されました。警察は、事件と事故の両面で捜査を進めています』

 

 ヒーローの変死体が発見されたというニュースが流れた。

 発見されたのは言うまでもなく、俺が撃ち殺した汚職ヒーローだ。

 

「保須か〜、最近物騒だねぇ」

 

「ヒーロー殺しの仕業ですかね」

 

 俺は、ニュースを見てヒーロー殺しの仕業だと疑う発言をした。

 ヒーロー殺しを暗殺した後、奴の死体は、保須から数十km離れた雑木林に隠した。

 あんな殺人鬼でも、犯罪の抑止力になっていた。

 奴が殺された事が世間に知れたら、バカが大量に湧くのが容易に想像できる。

 だから現場の証拠を極力消し、奴が暗殺された事実自体を隠蔽した。

 おかげで、世間ではまだヒーロー殺しが死んだという事実は明るみになっていない。

 新たにヒーローがヒーロー殺しの毒牙にかかった、と考えるのが自然だ。

 

「そういえば、飯田くんの職場体験先も保須だったよね」

 

「ああ。飯田…凶事に巻き込まれていないといいが…」

 

「…そうだね」

 

 飯田くんを心配する常闇くんの言葉に、俺も頷く。

 ヒーロー殺しは俺が殺したから、飯田くんがトラブルに巻き込まれる事は無い。

 だけど、ヒーロー殺しが殺された事はいずれ明るみになる。

 復讐の対象を失って、燃え尽きないといいけど。

 

 こうして、俺と常闇くんの職場体験一日目は無事終了した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 職場体験4日目。

 ホークスの元での職場体験も、あと3日で終わりだ。

 

 2日前、保須では脳無が出現して、エンデヴァーやマニュアルをはじめとしたヒーロー達が対応したらしい。

 後から聞いた話によると、飯田くん、轟くん、そして何故か緑谷くんもその場にいたそうな。

 幸い三人とも、大怪我はしていないそうで、次の日にはそれぞれの職場体験に戻って行ったらしい。

 何かとトラブルを引き寄せるな、緑谷くん。

 

 (ヴィラン)連合絡みの事件だから、俺も現場に直行したかったけど、俺達は福岡だから流石に無理がある。

 事件の調査は、アレクセイが何とかしてくれるらしいけど。

 今は、その調査結果待ちだ。

 

 そしてそのニュースも、今朝のヒーロー殺し死亡のニュースであっという間に掻き消された。

 保須で脳無が暴れていた事なんて、覚えている日本人はほとんどいないだろう。

 ヒーロー殺しが殺されたニュースは瞬く間に全国に広まり、世間は今混乱の最中にある。

 抑止力を失った事で凶悪犯罪が増加し、ヒーロー殺しの遺志を継ごうというバカも現れ始めている。

 それにしても…ただでさえヒーロー殺しが出現して世間が注目している時に、(ヴィラン)連合が脳無をけしかけてくるなんて、ヒーロー殺しが関係しているようにしか思えない。

 やっぱり、当初はヒーロー殺しと組んで、世間に(ヴィラン)連合の名を知らしめるつもりだったのかな。

 

 俺は、ニュースを見てすぐに飯田くんに電話をかけた。

 お兄さんの仇討ちの為に、わざわざ保須を職場体験先に選んだ彼の事だ。

 ヒーロー殺しが死亡したと知ったら、変な気を起こしかねない。

 俺が電話をかけると、飯田くんは電話に出てくれた。

 

『すまない、兄の事で、君達にまで要らぬ心配をかけた』

 

「聞いたよ…ヒーロー殺しが死んだって」

 

『ああ…奴の事は、俺が裁きたかった…』

 

 そう告げる彼の声からは、復讐の対象を失った喪失感が感じ取れた。

 目的を失って消沈している彼に、俺はあえて真逆の言葉をかけた。

 

「良かったね」

 

『な…!?何を言っているんだ君は!?犯罪者とはいえ、人が死んだんだぞ!?』

 

「飯田くんが殺されちゃうよりずっとマシだよ」

 

 俺がそう言うと、飯田くんがハッとする。

 やっぱり俺の思った通り、差し違えてでもヒーロー殺しに復讐するつもりだったらしい。

 

「オレ、わかってたよ。君がお兄さんの仇を取ろうとしてるんじゃないかって…もしヒーロー殺しに復讐しようとしていたら、君が殺されてたかもしれなかった。人の死を喜ぶなんて、不謹慎だってわかってる。でも、大事なクラスメイトが殺されたり傷ついたりするよりは何百倍もいいよ」

 

『雪野くん……』

 

「一人で抱え込んでないでさ、辛い時は相談してよ。友達だろ」

 

『……ああ。すまなかった』

 

 俺がそう言うと、飯田くんは憑き物が落ちたように頷く。

 これで、いつもの彼に戻ってくれるといいんだけど。

 

 その後、俺と常闇くんは、ホークスと一緒にパトロールをした。

 相変わらず、俺と常闇くんは、ホークスの羽根で持ち上げられてぶら下がっている。

 俺も飛べればいくらか仕事も楽になるんだけどなぁ。

 ……あ、そうだ。

 

「ホークス、オレ、飛んでみたいです。飛び方を教えていただけませんか」

 

 俺は、思い切ってホークスに相談してみた。

 ホークスのところに職場体験する事になったのは想定外だったけど、せっかくトップヒーローに近づくチャンスを得たんだ。

 利用できるものはとことん利用させてもらおう。

 なんて考えていると、ホークスは少し驚いたような顔をする。

 

「飛ぶって…君、飛行系の“個性”じゃないでしょ?」

 

「わかってます。だからこそ、戦術の幅を広げたいんです。サポートアイテムを使って、飛行できればと思って」

 

「いいね。飛べる仲間が増えるのは嬉しいよ」

 

 俺が相談すると、ホークスは笑顔を浮かべて俺の頼みを承諾してくれた。

 パトロールが終わった後、ホークスは事務所に戻ると、サイドキックに話をつけてお古のサポートアイテムを探してくれた。

 

「確か、ウチのサイドキックが前に使ってたサポートアイテムがあるんだよね。それ使う?」

 

「いいんですか?」

 

「今から新しいの作ってもらってたら、職場体験終わるまでに間に合わないでしょ?どのみち誰かに譲るつもりだったし」

 

「…ありがとうございます」

 

 俺がホークスと話していたちょうどその時、サイドキックが段ボール箱を持ってきた。

 段ボール箱の中には、サポートアイテムが入っていた。

 腰に装着するタイプのアイテムで、周囲の空気を取り込んで圧縮し、それを放出する事でホバリングを可能にするらしい。

 だけどあくまで浮くだけで、飛ぶ為の道具ではないので、ワイヤーを射出して移動の補助をしないといけない。

 

 俺はその日の夜、ホークスから譲り受けたサポートアイテムを試した。

 スイッチを押すと、腰の装置から機械音がする。

 これは、装置が正常に作動し、周囲の空気を取り込んでいる音だ。

 手元のスイッチを押すと、噴射口から勢いよく圧縮空気が噴射され、身体が3mほど浮き上がる。

 その状態でビルに狙いを定め、ワイヤーを射出する。

 ワイヤーを収縮させると、身体が勢いよくビルに引き寄せられる。

 

「わっ…と」

 

 俺は咄嗟に、圧縮空気を押し出して慣性を殺し、ビルの壁面に軟着した。

 今までそういう動きをした事がなかったから、一瞬反応が遅れた。

 空を飛ぶのは、思いの外難しいもんだね。

 

「これは練習が必要そうだな…」

 

 俺はその日から、空き時間を見つけてサポートアイテムで飛行の練習をした。

 飛ぶ時の身体の使い方なんかはホークスに教えてもらって、あとは自力で動きを身体に順応させた。

 休憩時間中にサポートアイテムの調整をしていると、常闇くんが声をかけてきた。

 

「雪野。お前、ホークスに何やら特別な師事を受けているようだが…?それに、そのアイテムは一体?」

 

 常闇くんがソワッとしながら俺に話しかけてくる。

 どうやら俺の新しいサポートアイテムが気になるらしい。

 別に隠す事でもないし、話してもいいか。

 

「ああ、これ?ホークスに譲ってもらったんだ。今、飛び方を教えてもらってるとこなんだよね。オレはホークスみたいに自力で飛べないし、常闇くんみたいに強い“個性”があるわけでもないから、少しはできる事を増やしたいなって思って」

 

「ほう…」

 

 俺が話すと、常闇くんはさらにソワッとする。

 コツは掴んできたし、職場体験終了までには間に合いそうかな。

 少し改造すれば、相澤先生みたいに捕縛武器を使った戦闘スタイルにも応用できるかもしれない。

 帰ったらサポート科に相談してみよう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 職場体験最終日。

 この日は、パトロール中に(ヴィラン)退治をした後、最後の食事に博多の屋台ラーメンをご馳走になった。

 

「一週間、大変お世話になりました」

 

 全ての日程を終わらせた俺と常闇くんは、荷物をまとめてホークスとサイドキックの皆さんに最後の挨拶をした。

 

「君らならいつでも大歓迎だよ!」

 

「卒業後はウチ来いよ!」

 

 サイドキックの皆さんは、親しげに俺達に話しかけてくれた。

 卒業までに興味が削がれてしまうかもしれない、という心配は要らなさそうだ。

 

「とても有意義な一週間でした」

 

「それはこっちも同じだよ。君達が頑張ってくれたおかげで俺も助かったし。卒業後は本当にウチに来てもらおうかな?」

 

「また屋台ラーメンを奢っていただけるなら、喜んで」

 

 俺と常闇くんをスカウトしてくるホークスに、俺は冗談混じりの返事をした。

 するとホークスは、「そりゃ大出血になりそうだ」と苦笑した。

 

「それじゃ、ツクヨミくん、ベリくん。インターンでまた会おう」

 

「はい!」

 

「御意」

 

 ホークスの有難いお言葉に、俺と常闇くんはハッキリと返事をした。

 その後ホークスは、右手を振りながら俺達を見送ってくれた。

 俺達は、再度深く一礼してから、駅までの道を歩いていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

ホークス(鷹見啓悟) side

 

「はい。この一週間、標的を探ってみましたが…怪しい言動は見受けられませんでした」

 

 常闇くんと雪野くんを見送った後、俺はこの一週間の調()()()()を公安委員会会長に報告した。

 

 雪野ベリ。

 雄英高校ヒーロー科1年A組の新入生。

 俺の任務は、職場体験の一週間、彼を秘密裏に調査する事だ。

 

 先日の(ヴィラン)連合によるUSJ襲撃事件、死穢八斎會壊滅事件、保須での脳無による襲撃事件、そしてヒーロー殺し殺害事件。

 ここ2ヶ月弱で、重傷者や死者が出る事件が頻発している。

 それだけじゃなく、ここ最近、希少度の高い“個性”持ちの失踪が頻繁している。

 失踪者が増えた時期が、ちょうど彼が日本に来た時期と一致する。

 彼に中学校以前の経歴が一切無いのも、不可解だ。

 

 もし、彼が(ヴィラン)連合のスパイだとしたら?

 USJの時の(ヴィラン)は、彼が手引きしていたとしたら?

 連合の戦力強化の為に、秘密裏に希少度の高い“個性”を持つ人物を攫っているとしたら?

 発想が飛躍し過ぎているとは思うが、その可能性はゼロじゃない。

 

 そこで公安は、この職場体験を利用して、雪野くんと(ヴィラン)連合の関わりを調査する事にした。

 俺が雪野くんを指名したのは、その為だ。

 雪野くんの監視の指示が下ったのが、もう既に常闇くんと轟くんを指名した後だったから、指名替えという形になっちゃったけど。

 もちろん、彼が無実だったら、その時は快くサイドキックとして迎え入れるつもりだった。

 

 一週間雪野くんを監視してみたけど、内通している証拠も失言もなかった。

 保須に脳無が出現したと聞いた時の反応も、本当に想定外だったみたいだし、(ヴィラン)連合のスパイだという可能性は低そうだ。

 雪野くんと(ヴィラン)連合の繋がりは見つからなかったけど、その代わり、思わぬ発見があった。

 

 ……いや、()()()()()、と呼ぶべきかな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

雪野ベリ side

 

「ただいま」

 

「あらベリちゃん、おかえりなさい」

 

 職場体験に行った後、家に帰ると、いつも通り母さんと颯兎が出迎えてくれた。

 颯兎は、ぴょんぴょん飛び跳ねながら俺に話しかけてくる。

 

「兄ちゃん、ホークスんとこに職場体験行ったんでしょ!?話聞かせてよ!」

 

「うん。後でね」

 

 俺は、興奮気味に話しかけてくる颯兎を落ち着かせてから、シャワーを浴びに行った。

 コックを捻ると、熱い湯が雨のように出てきて肌を弾く。

 俺は、天井を見上げながらため息をついた。

 

「はぁ……疲れた」

 

 いや、ほんと疲れたよ……

 まさか、とうとう公安に目をつけられるとはな…

 

 世間では知られていないけど、ホークスは公安委員会直属のヒーローだ。

 プロヒーローが裁ききれないような汚物を秘密裏に処理する為に、他のプロヒーローとは別に、公安が雇っているヒーローがいるという話は、俺が来る前から日本に潜入している仲間から聞いている。

 わざわざ提出期限後に指名替えしてまで、体育祭で全然活躍してなかった俺を指名したという事は、()()()()()なんだろう。

 何なら、(ヴィラン)連合の仲間だと疑われている可能性すらある。

 まぁそれは、ちょうど俺が入学した雄英の1年A組で事件が起きたから、留学生の俺に疑いの目が向くのは別に何もおかしい事ではない。

 正直いきなり指名が来た時は少し焦ったけど。

 

 今はまだ疑われているだけで、バレてるわけじゃない。

 もし全部お見通しなら、職場体験の指名替えなんて回りくどい事はせずに、暗殺なり逮捕なりすればいいだけの話。

 失言しないように気をつけたし、事務所では工作員の仲間とやり取りはしていないから、俺が祖国の工作員だって事はバレてない。

 

 でも、公安から目をつけられているとなると、少し厄介だな…

 俺のスパイ活動は、公安に潜入している仲間に揉み消してもらっているけど、庇ってもらうのにも限界がある。

 これからは、あまり目立った行動はできないな…

 

 

 

 

 

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