少年兵のヒーローアカデミア   作:M.T.

2 / 16
個性把握テスト

 合格発表から月日はあっという間に流れ、今日は雄英の入学式。

 真っ白なシャツと深緑のズボンを身につけ、朱色のネクタイをつけて、グレーのブレザーに袖を通す。

 採寸の時、体型が分かりにくいようにわざと一回り大きいサイズにしてもらったから、丈が少し余っている。

 あくびをしながら厨房に顔を出すと、パチパチと油の跳ねる音が聴こえてくる。

 

「おはよう、ベリ!いよいよ今日だな!」

 

 父さんが、中華鍋でジャッジャッと野菜を炒めながら声をかけてくる。

 中華料理店を経営している両親の朝は早い。

 開店前は、家族用のダイニングを兼ねたテーブル席で、家族4人で朝食を囲むのが日課となっている。

 両親が作った朝食の回鍋肉定食を完食し、スクールバッグを持って外に出ようとすると、颯兎と母さんが声をかけてくる。

 

「兄ちゃん、超かっこいい!」

 

「ベリちゃん、忘れ物ない?ちゃんとハンカチとティッシュ持った?」

 

「うんヘーキ」

 

 過剰に俺の事を心配してくる母さんを適当にあしらっていると、父さんが俺の肩をポンと叩いた。

 

「ベリ、頑張ってこい!」

 

 父さんは、白い歯を見せてニカッと笑った。

 この人は、母さんと颯兎を人質に取っている俺の入学を、まるで実の子供の事のように喜んでくれている。

 俺は父さんに、精一杯の営業スマイルを向けた。

 

「行ってきます」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 居候先を兼ねた中華料理店、兔子軒から電車とバスを乗り継いで移動する事30分。

 広大な敷地内に聳え立つ雄英の校舎が見えてきた。

 雄英から近すぎず遠すぎない場所に居候できたのは、我ながら運が良かったと思う。

 日本に来たばかりの頃は、ミニスカートの女子高生や一人で通学している小学生を見てギョッとしたりもしたけれど、今ではすっかり見慣れた光景だ。

 

(わかってはいたけど、クソ広いな)

 

 雄英の校舎に辿り着いた俺は、事前に頭に叩き込んだマップを辿りながら心の中で呟く。

 なんだここは、ジャングルか?

 アクセスが新入生に優しくなさすぎるぞ。

 

 なんて考えていると、茶髪ボブの女子が廊下の真ん中で立ち止まっているのが見えた。

 入試の時に俺が助けたキノコ女子だ。

 制服を見る限り、俺と同じヒーロー科らしい。

 あの子、受かってたのか…

 

「道に迷ってるなら…一緒に行こうか?」

 

「あ、入試の時の!」

 

 俺が声をかけると、キノコ女子が振り向く。

 

「私、小森希乃子。あの時はありがとノコ」

 

 名前わからないけど、試験の時キノコ生やしてたからとりあえずキノコ女子って呼んでたけど…

 本当にキノコって名前だったんだ。

 

「オレは雪野ベリ。よろしく」

 

 俺は、小森さんに自己紹介をして、そのまま二人で教室に向かう。

 1年生の教室が並ぶ廊下へと辿り着くと、7〜8mはある巨大な扉が並んでいるのが見えた。

 多分、異形型“個性”の生徒や教師への配慮だろうけど…逆に開けづらかったりしないのか?

 なんて思いつつ、俺はA組の教室、小森さんはB組の教室の前で立ち止まった。

 

「あー…もしかして、クラス違う感じ?」

 

「……みたいノコね」

 

 俺が首を傾げながら尋ねると、小森さんが少し残念がる。

 せっかく接点を持った新入生第一号が別のクラスだと、不安になる気持ちはわからなくもない。

 

「まあでも、ちょくちょく会うでしょ。教室隣だし」

 

「ノコ」

 

 俺が言うと、小森さんが頷く。

 雄英って、授業がハイペースすぎて、合同授業とかイベント以外だと他クラスと接点作るの難しいらしいから、違うクラスの人と接点を持てたのは逆に良かったのかもしれない。

 小森さんと別れた俺は、自分のクラスのA組のドアを開ける。

 引き戸のレールとは別の動力が働いているのか、ドアが思いの外スムーズに開く。

 

 教室を見渡せば、既にクラスメイトが何人かいた。

 蛙顔の女子、入試の時の眼鏡くん、岩みたいな頭の男子、タラコ唇の男子、六本腕の大柄な男子、耳朶が長い女子、紅白頭の男子、ポニーテールの女子の計8人。

 …よし、計算通り。

 最初でも最後でも目立つからね。

 黒板に貼られた座席表で自分の席を確認し、鞄をどすっと机に置いた。

 俺の席は、窓側の一番後ろ。

 チビなのに一番後ろの席にされるの、いくらなんでも理不尽すぎない?

 …まあ、最初から真面目に授業聞くつもりないから別にいいんだけど。

 

 さて…始業までの間、どうするかな。

 とりあえず、席の近い生徒に挨拶して回るくらいはしておくか。

 目立ちすぎたら任務に支障が出るけど、目立たなさすぎても逆に怪しい。

 自然と溶け込むには、ある程度はコミュニケーションが取れて、自我が出過ぎない程度に主体性のある人間だと印象づける必要がある。

 とりあえず前の席の女子に話しかけてみる事にした。

 

「や〜この校舎、広いよね。オレなんてうっかり迷っちゃった。あ、オレ雪野ベリ。はじめまして」

 

「はじめまして、雪野さん。私は掘須磨大付属中学校から来ました、八百万百ですわ」

 

「八百万さんね…うん、よろしく。キミは?」

 

 俺は、警戒心を解く為に営業スマイルを浮かべつつ、八百万さんの隣に座っている紅白くんに話しかける。

 ウチの国には初対面で笑って挨拶する文化は無いけど、日本では笑って挨拶をするのが礼儀だと父さんと母さんに教わった。

 すると紅白くんは、数秒ほど経ってようやく自分に話しかけられているのを理解したのか、間を置いてから返事をした。

 

「……轟焦凍」

 

「そっか、よろしく轟くん」

 

 轟焦凍、八百万百。

 二人ともA組の推薦入学者だ。

 奇しくも推薦二人と席が近くなったな。

 

 八百万さんは八百万財閥の令嬢だし、轟くんはNo.2ヒーロー、エンデヴァーの息子だ。

 二人とも、スパイとして近づいておいて損はない。

 だけど八百万さんは兎も角、轟くんはあまり話しかけられるのが得意じゃないタイプと見た。

 距離の詰め方を間違えたら、今後のスパイ活動が難航する可能性がある。

 こっちからは距離を詰めすぎずに、しばらくは様子を見ておくのが賢明だろう。

 

 それから暫くして、他の生徒も教室に入ってきた。

 ピンク色の肌の女子、赤髪の男子、黒いメッシュの入った金髪の男子、肘が丸い男子、頭がカラスの男子、宙に浮いた制服、葡萄みたいな頭の男子…

 このクラス、キャラ濃い奴多いな。

 なんて考えていると、宙に浮いた制服が俺の隣の席に鞄を置いて話しかけてきた。

 

「席、隣だね!私、葉隠透!よろしく!」

 

「葉隠さんね。オレは雪野ベリだよ。よろしく」

 

 俺は、隣の席の女子の葉隠さんに挨拶をした。

 せっかく席が隣になったし、とりあえず会話を広げておくか。

 

「葉隠さんって、透明人間だよね?」

 

「うん、そうだよ!」

 

「なんかオレの“個性”と似てるね」

 

 俺は葉隠さんとの距離を縮める為に、“個性”の話をした。

 俺は“無個性”だけど、表向きは“個性”があるって事にしている。

 ただでさえ“無個性”は絶滅危惧種なのに、雄英ヒーロー科に紛れ込んでたら余計に怪しまれるから。

 もちろん“個性”因子が無いから、“個性”を探知する“個性”持ちとかがいたら一発でバレるんだけど、バレた時の為の言い訳もちゃんと用意してる。

 

「そうなの?ちなみに雪野くんの“個性”って何?」

 

「んーっとね…」

 

 俺が葉隠さんに“個性”を教えようとした、その時。

 バンッと勢いよく扉が開き、不良っぽい男子が教室にズカズカ入ってくる。

 

 うわ…何あいつ。

 …あれ?

 なんかあの顔、見た事あるな。

 ああ、思い出した。

 爆豪だ、ヘドロ事件の。

 

 え?何で俺がヘドロ事件を知ってるのかって?

 オールマイトが活躍した事件だから、入学前に少し概要を調べておいたのさ。

 雄英に入ったら必ずオールマイトの話は出てくるだろうから、クラスメイトの話題について来れるように、過去10年分のオールマイトの活躍した事件は全部暗記している。

 ヒーローになりに雄英に来てるのにオールマイトを知らなかったら、お話にならないものね。

 

 気を取り直してさっきの話の続きをしようとすると、なんか画風が違う金髪の男子が変なポーズをしながら入ってきて、廊下側の一番前の席に座った。

 なんだあいつは…

 今までで一番キャラの濃い二人に気を取られつつも、今度こそ葉隠さんに“個性”の話をしようとすると、今度は眼鏡くんが立ち上がって爆豪くんの席の前まで行き、爆豪くんに対して説教をした。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

 

「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

「ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

「聡明〜〜〜!?クソエリートじゃねえかブッ殺し甲斐がありそうだな」

 

「君ひどいな!本当にヒーロー志望か!?」

 

 暴言を吐く爆豪くんに対して、例の眼鏡くん、飯田くんがドン引きしている。

 そして俺も、内心ドン引きしていたりする。

 俺の国では、初対面の相手にいきなり暴言を吐くというのは、戦闘開始の合図と同義だ。

 次の瞬間には首を刎ねられたとしても、喧嘩を売った方が100%悪いというのが、子供でも知ってる常識。

 彼とは、あまり仲良くなれないかもしれない。

 

 爆豪くんと飯田くんが言い合いを始めたせいで、葉隠さんに“個性”を教えるタイミングを失ってしまった。

 彼女も爆豪くんと飯田くんに気を取られているようだし、また今度皆でまとまって話せるタイミングにでも話すか。

 いちいち自己紹介の度に説明するの面倒だし。

 

 そうこうしているうちに、最後の二人…縮毛くんと茶髪ボブの女子がなんか楽しそうに話しながら教室に入ってきた。

 二人が話していると、そこに飯田くんも加わって、三人で楽しく話をする。

 なんか仲良さそうだなぁ…と他人事のように思っているとだ。

 

 

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」

 

 下の方から声がしたので視線を下へ向けると、ちょうどボブ女子の下あたりに、長髪の男が寝袋に包まって床に寝転がっていた。

 不審者は、ゼリー飲料を取り出して一気に飲み干す。

 

(((なんか!!!いるぅぅ!!!)))

 

 皆驚いてるなぁ。

 まあ、俺は気付いてたけどね?

 女子のスカートの下で寝るような不審者と関わりたくなかったから、あえて触れなかっただけで。

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね。担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 相澤と名乗る男は、寝袋を脱ぎながらのっそりと立ち上がって挨拶をした。

 え、今担任って言った?

 うわ…初日から不安なんだけど……()()()()()()

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 そう言って相澤先生は、寝袋の中から体操服を取り出す。

 ふと机の横にかけられていた紙袋の中を見てみると、中には新品の体操服が入っていた。

 さて…着替えてきますか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 着替えを終えた俺は、皆と一緒にグラウンドに出た。

 ちなみに俺は、学校指定のジャージの上にフード付きの薄い上着を着ている*1

 紫外線対策だけど、体型を誤魔化せるし、結果的には一石二鳥だ。

 

 え?着替えはどうしたのかって?

 普通に男子更衣室で着替えましたけど?

 だって戸籍上は男だし、男子更衣室で着替えるのは当然の事でしょ。

 3年間一緒に過ごすのに、着替え如きで警戒される要素を作ってる場合じゃないし。

 

「「「「“個性”把握…テストォ!?」」」」

 

 相澤先生から“個性”把握テストとやらの説明を受けた俺達は、口を揃えて文句を言った。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

 さっきのボブ女子…確か、麗日さんだっけ。

 麗日さんは、俺達の意見を代弁するように大きな声を上げた。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

 相澤先生はヒーローが云々言ってるけど、同じヒーロー科のB組がいない時点で色々お察しだ。

 初日から入学式ブッチするとか…こいつ正気か?

 ウチの国だったら大事な式典をブッチするとか、即斬首刑よ?

 

「ハンドボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ?“個性”禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」

 

「先生。オレ、その体力テストっていうの、よくわかりません」

 

「あ?あー、そうか、お前はそうだったな。じゃあ周りの奴に聞け。俺の口から全部説明するのは非合理的だ」

 

 俺が質問すると、相澤先生が答える。

 いや、合理的って言葉で誤魔化してるけど、ただ説明が面倒くさいだけですよね?

 なんて思っていると、相澤先生は爆豪くんに話しかけた。

 

「爆豪、中学の時ハンドボール投げ何mだった」

 

「67m」

 

 67m…?

 凄いのか凄くないのかよくわからん。

 

「じゃあ“個性”を使ってやってみろ。円から出なきゃ何をしてもいい。早よ。思いっきりな」

 

 先生がそう言ってボールを投げ渡すと、爆豪くんはボールを受け取って円の中に入った。

 爆豪くんは、ボールを持った腕を振りかぶり、そして──

 

「んじゃまぁ…死ねぇ!!!」

 

 

 

 ――ボオォン!!! 

 

 

 

(((……死ね?)))

 

 ……いちいち暴言がうるさいな。

 やっぱり彼とは、仲良くなれそうにない。

 

 爆豪くんがヒーローらしからぬ暴言を吐きながら球威に爆風を乗せてボールを投げると、ボールは三重の環状の雲を残して遥か彼方へと飛んでいく。

 あれ、瞬間的に遷音速突入してない?

 しばらくしてボールが着地し、相澤先生の持っていた端末から『ピピッ』と音がする。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 そう言って相澤先生が見せた端末には、『705.2m』と表示されていた。

 すると、他の皆がどっと湧き上がった。

 

「なんだこれ!!すげー面白そう!」

 

「705mってマジかよ!?」

 

「“個性”思いっきり使えるんだ!!流石ヒーロー科!」

 

 面白そう、か…

 この状況でよくそんな発言が出てくるな。

 なんというか…ヒーロー科の学校って、思ってたのとちょっと違うかもしれない。

 なんて考えていると、相澤先生が口を開く。

 

「………面白そう…か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 相澤先生のその言葉で、場の空気がガラッと変わる。

 あーあ、地雷踏んだ。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

「「「はあああ!?」」」

 

 相澤先生が言うと、皆は声を荒げて驚いた。

 こうなるのは予想がついてたけど、一応驚いておこう。

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の自由!ようこそ、コレが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 相澤先生は、前髪を掻き上げながら挑発するように笑顔を浮かべた。

 相澤消太。

 除籍回数驚異の154回を記録している、イカレ教師だ。

 さっき俺が()()()()()で不安って言ったのは、こういう事。

 この人、毎年1年A組の担任を受け持ってるから、2分の1の確率で相澤が担任になるのは覚悟してたけど…

 よりによって相澤の方かよ、くそ。

 

「最下位除籍って…!!入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽過ぎる!!」

 

 麗日さんは、相澤先生に対して抗議をした。

 この状況で口を挟むとか、度胸あるなぁ…

 

「自然災害…大事故…身勝手な(ヴィラン)達…いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽に塗れてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。“Puls Ultra”さ。全力で乗り越えて来い」

 

 相澤先生は、挑発するように笑顔を浮かべながらクイクイっと人差し指を曲げた。

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 俺は相澤先生の挑発に応える代わりに、手の関節をボキボキ鳴らした。

 祖国の為にせっかく大金と人脈を使ってここまで来たのに、こんなところで除籍になってる場合じゃない。

 たとえクラスメイトを全員蹴落としてでも、最後までヒーロー科に居座ってやる。

 

 

 

第一種目:50m走

 

 俺の出席番号は最後なので、一個前の八百万さんと一緒に走る事になった。

 俺が準備運動をしていると、八百万さんが先生に質問した。

 

「先生、質問ですわ!スタートの前に“個性”を使うのはアリでしょうか?」

 

「いや、ナシだ。スタートの合図の後なら何してもいいがな」

 

「…ですわよね。わかりました」

 

 先生に確認を取った彼女は、何かを諦めた様子で俺の隣に来た。

 二人ともスタート位置に着くと、計測ロボが合図を出す。

 

『On your marks…Set…』

 

 合図と共にスターティングブロックに両足を置き、地面に両手をついてクロウチスタートの構えを取る。

 そして…

 

『START!!』

 

 スタートと同時に駆け出した。

 スピード特化の“個性”を食ってしまわないように力をセーブし、尚且つ手を抜いていると思われない程度には本気で走る。

 記録は4秒38。

 飯田くん、轟くん、爆豪くんに続けて4位。

 ………ちょっとやりすぎたかもな。

 

 そして俺の隣を走っていた八百万さんは、結局この種目では“個性”を使わなかった。

 先生に事前に“個性”を使っちゃダメか聞いていたあたり、溜めが必要な“個性”っぽいな。

 ま、次の種目になればわかるか。

 

 

 

第二種目:握力

 

 この種目も、ヒーロー科としては低すぎず、尚且つやりすぎない記録に抑えた。

 記録は、右79.96、左80.02。

 

 六本腕の男子…確か、障子くんだったっけ?

 障子くんが、540kgwを記録していた。

 1位は彼かと思ったその時。

 

「できましたわ!」

 

 そう言って八百万さんは、腹部からプレス機を引っ張り出した。

 そしてそのプレス機で握力計を挟み、1tというふざけた記録を叩き出す。

 

「……は?」

 

 いや、それはアリなのか?

 もう握力関係ないじゃん。

 さりげなく相澤先生の方を見ながら八百万さんを指さしてみるも、先生はノーリアクション。

 あ、アリなんですね、はい。

 

 ちなみにこの種目は八百万さんの圧勝。

 そりゃそうだ。

 

 

 

第三種目:立ち幅跳び

 

 言うまでもない、普通に飛んだ。

 記録は4m13cm。

 この種目は得意な人が多かったから、初めて10位以内から落っこちた。

 

 

 

第四種目:反復横跳び

 

 記録は89回。

 なんか俺の隣で、葡萄頭のチビがこっちを見て煽りながらブヨンブヨン跳ねていた。

 いや、こっち見んな。

 

 結局、葡萄チビが2位の八百万さんの記録にダブルスコア以上の差をつけて1位になった。

 手加減したとはいえ、こいつに負けたのはなんか腹立つ。

 

 

 

第五種目:ボール投げ

 

「セイ!」

 

 腕力に任せて普通に投げた。

 記録は79m。

 この種目も得意な人が多いから、順位で言えば下の方だった。

 あと死ぬほどどうでもいい事だけど、うっかり“個性”無しの爆豪くんより高記録を叩き出したもんだから、当の本人にすげぇ睨まれた。

 

 この種目で1位を取ったのは、麗日さんだ。

 なんか“個性”でボールを浮かせて∞を叩き出してた。

 その様子を少し離れたところで見ていると、麗日さんの測定が終わって、今度は縮毛くんが前に出た。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

 

「ったりめーだ。“無個性”のザコだぞ!」 

 

「“無個性”!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

「は?」

 

 なんか、飯田くんと爆豪くんが言い争ってる。

 『“無個性”のザコ』という発言が聴こえたが、無視だ無視。

 俺の事を言ってるわけじゃないし、格下の戯言なんか俺の心には響かない。

 

 なんて考えていると、例の縮毛くん…緑谷くんがボールを投げた。

 ボールは、50mに届かないところでポトリと落ちる。

 

「46m」

 

「な…今、確かに使おうって…」

 

「“個性”を消した」

 

「!?」

 

「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」

 

 そう言い放つ相澤先生の髪はザワザワと逆立ち、瞳は赤く光っていた。

 

「消した…!!あのゴーグル…そうか……!視ただけで人の“個性”を抹消する“個性”!!抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』!!!」

 

「イレイザー?俺…知らない」

 

「名前だけは見た事ある!アングラ系ヒーローだよ!」

 

 まあ俺は、データベースからデータ盗んで調べたから知ってたけどね。

 …というか、さっきからオールマイトがこっち見てるんだけど。

 え、あの人あんなとこで何してんの?

 これ、見なかった事にした方がいいやつ?

 

「見たとこ…“個性”を制御出来ないんだろ?また行動不能になって、誰かに助けて貰うつもりだったか?」

 

「そっ、そんなつもりじゃ…!」

 

「どういうつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ。昔、()()()()()()()()が大災害から一人で千人以上を救い出すと言う伝説を創った。同じ蛮勇でも…お前のは一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の“力”じゃヒーローにはなれないよ」

 

 相澤先生の発言に緑谷くんが反論すると、相澤先生は容赦なく彼の身体に捕縛布を巻きつけて引き寄せた。

 お説教は終わったみたいだ。

 

「“個性”は戻した…ボール投げは2回。とっとと済ませな」

 

 相澤先生が緑谷くんを解放すると、緑谷くんは何かをブツブツ言いながら円の中へ戻っていく。

 気圧されたか、それとも何かを掴んだか。

 

「彼が心配?僕はね……全っ然」

 

「ダレキミ?」

 

 50m走と立ち幅跳びの時にヘソビームを出してた男子が、麗日さんの肩に手を置いて話しかける。

 えっ、何こいつ、怖っ…どういう神経してたらそんなサラッとボディタッチできるわけ?

 彼は要注意人物なのかもしれない。

 オールマイトとは関係ないだろうけど、一応マークしとくか。

 

「指導を受けていたようだが」

 

「除籍宣告だろ」

 

 飯田くんと爆豪くんが、何か話してる。

 緑谷くんは、何かをブツブツ言いながらボールを持った腕を振りかぶる。

 

「見込みゼロ」

 

 相澤先生が言い放った、直後だった。 

 

 

 

「SMASH!!!」

 

 

 

 緑谷くんが投げたボールは、遥か彼方へと消えていった。

 なるほど、パワーを指先だけに集中させたのか。

 記録は…目算で700mくらいか。

 

「あの痛み…程じゃない!!先生……!まだ……動けます!」

 

「こいつ……!」

 

 緑谷くんは、指を赤黒く腫らして目に涙を浮かべながらも笑っていた。

 相澤先生もまた、笑顔を浮かべる緑谷くんを見て笑った。

 

「やっとヒーローらしい記録出したよーー!」

 

「指が腫れ上がっているぞ!入試の件といい…おかしな“個性”だ……」

 

「スマートじゃないよね」

 

 麗日さんは喜んでるし、飯田くんは“個性”の方に驚いてるけど…

 ヘソビーム、お前は何なんださっきから。

 

「………………!!!」

 

 爆豪くんは、すごい記録を叩き出した緑谷くんを、信じられないものを見る目で見ていた。

 うわ、すごい顔…

 

「どーいう事だコラ!訳を言え!デクてめぇ!!」

 

「うわああ!!!」

 

 爆豪くんは、怒鳴り散らして爆破を放ちながらものすごい剣幕で緑谷くんに襲いかかった。

 はぁ……なんというか、さっきからうるさいな、彼。

 わざとやってるとしか思えないくらい、悉く俺の地雷を踏み抜いてきてるんだけど。

 もう仲良くなれない通り越して、嫌いの域に片足突っ込んでる。

 やっぱこの国終わってるよ…あんなのでもヒーロー科に入れちゃうんだから。

 

「んぐぇ!!」

 

 あっ、爆豪くんが相澤先生に捕まった。

 そして掌の爆発も消えている。

 

「ぐっ…!!んだ、この布、固っ…!!」

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。ったく、何度も“個性”を使わすなよ……俺はドライアイなんだ」

 

 “個性”凄いのにもったいない。

 元々ドライアイ体質だったのか、“個性”を使うからドライアイになったのか…どっちにしろ致命的でしかない。

 

「時間がもったいない、次準備しろ」

 

 そう言うと相澤先生は“個性”を解除した。

 何にせよ、相澤先生が止めてくれて良かった。

 あれ以上続けてたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

 

 

第六種目:持久走

 

 記録は3分15秒。

 ちなみにこの種目は、飯田くんと八百万さんが1位争いをしていた。

 “個性”の使用で大幅にタイムロスした八百万さんだったけど、創造したバイクに乗って一気にごぼう抜きして飯田くんに追いついてきた。

 もし50m走が事前に“個性”を使っていい競技だったら、あの時もああするつもりだったのかな。

 

 

 

第七種目:上体起こし

 

 俺の記録は52回。

 得意な人があまりいない種目だったので、5位と好成績。

 ちなみにどうでもいい事だけど、八百万さんが記録に挑んでいるのを、俺のペアの葡萄が鼻息を荒くして凝視していた。

 こいつ、体力テストの結果とか関係なく今すぐ除籍した方がいいと思う。

 

 

 

最終種目:長座体前屈

 

 記録は63.1cmとまずまずの成績。

 身長は低いけど、身体は柔らかい方だからね。

 でも同じくらい身体が柔らかい芦戸さんと葉隠さんには、僅差で負けた。

 まあそれは、身長の差があるから仕方ない。

 ちなみに1位の蛙顔の女子の蛙吹さ…「梅雨ちゃんと呼んで」……梅雨ちゃんは、ベロを使ってすごい記録を叩き出していた。

 

 

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する」

 

 全ての種目が終わると、相澤先生が端末を操作して空中に順位表を投影する。

 すると全員が自分の名前を探し始める。

 俺の順位は8位。まぁ良い方なんじゃないか?

 で、肝心の最下位は…

 

 

 

 ──緑谷出久。

 

 ボール投げの時に指を犠牲にして3位に食い込んだ彼だ。

 …ま、あれ以降指の痛みのせいかボロボロだったし、しょうがないか。

 でも……

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

 そう言って相澤先生は、空中に表示された順位表を消した。

 皆がポカンとしていると、相澤先生はハッと笑って言った。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「はーーーーーー!!!!??」」」

 

 相澤先生の言葉に、主に飯田くん、麗日さん、緑谷くんの三人が驚愕する。

 緑谷くんに至っては作画荒れてるけど…大丈夫か?

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない…ちょっと考えれば分かりますわ…」

 

 呆れながら言う八百万さんの発言に、俺は柄にもなく少しイラッとした。

 除籍宣告した時の先生の表情は、どう見ても本気だった。

 多分最下位の緑谷くんが思ったより見込みがあったから、除籍が嘘って事にした…ってとこか。

 完全に本質を読み違えているのに偉そうに言えるのは、少なからず一位だからという驕りがあるからだろう。

 まあ、だから何ってわけじゃないんだけど。

 

 それにしても、オールマイトは何がしたかったんだろう。

 普通に授業風景が気になっただけかな?

 それとも、気にかけてる生徒がいたりするのか…

 任務に関係ある事だったら放置できないけど、かと言ってオールマイトに直接聞くのは怪しすぎる。

 そろそろ、皆に探りを入れてみるか。

 

 

 

 

 

*1
紫外線に弱い体質なので、一応許可は貰っている




B組との接点を作る為に主人公と小森ちゃんを同じ会場にしただけで、小森ちゃんとカップリングする意図は全くありません(そもそもこいつ中身女だし)。
黒色くん(公式彼氏)、安心したまえ。君の未来は守られた。
そして言動が怪しすぎて入学初日から主人公に要注意人物認定されてる青山くん超逃げて。


ちなみに主人公は“無個性”ですが、表向きは“個性”を持ってるって事にしてます(青山と緑谷が“個性”貰ってやっと合格したのに、“無個性”のまま合格しちまう上に“個性”持ちのフリをゴリ押しするオリ主ェ…)。
どんな“個性”か予想してみてください。
ヒントは葉隠ちゃんの“個性”と性質が似ている事、男子更衣室で堂々と着替えができてる事、“個性”因子がない事がバレても言い訳できる事です。


そして“個性”把握テストの結果表。

 1位:八百万百   11位:口田甲司
 2位:轟焦凍    12位:砂藤力道
 3位:爆豪勝己   13位:蛙吹梅雨
 4位:飯田天哉   14位:青山優雅
 5位:常闇踏陰   15位:瀬呂範太
 6位:障子目蔵   16位:上鳴電気
 7位:切島鋭児郎  17位:耳郎響香
 8位:雪野ベリ   18位:葉隠透
 9位:芦戸三奈   19位:峰田実
10位:麗日お茶子  20位:緑谷出久
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。