少年兵のヒーローアカデミア   作:M.T.

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USJ襲撃事件(1)

 マスコミパニックの数日後。

 相澤先生が今日のヒーロー基礎学の説明をした。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトそしてもう1人の3人体制で見る事になった」

 

「ハーイ!何するんですかー!」

 

 相澤先生が説明すると、瀬呂くんが手を挙げて質問する。

 

「災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練だ!!」

 

 そう言って相澤先生が見せたのは、『RESCUE』と書かれたカード。

 戦闘訓練の後は救助訓練か…

 

「レスキュー…今回も大変そうだな」

 

「ねー!」

 

「バカおめー!これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

 

「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

 

 上鳴くん、芦戸さん、切島くん、梅雨ちゃんが順番に発言するけど…

 相澤先生の前で喋ったりなんかしたら…

 

「おい、まだ途中」

 

 相澤先生が、“個性”を発動しながら睨んできた。

 俺は効かないけど、シンプルに圧が強い。

 軍学校時代の鬼教官を思い出すわ。

 

「今回、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 そう言って相澤先生は、相変わらず合理的に要点だけ伝えて行ってしまった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その後、着替え終わった俺達はバスの前に集合した。

 今回は葉隠さんは、流石に全裸は危険だって事で、体操服を着ていた。

 俺が紹介したサポート会社がコスチュームを作ってくれているから、それ待ちらしい。

 そして緑谷くんは、爆豪のせいでコスチュームがボロボロになっちゃったから、体操服に顔のガードと肘当て・膝当てだけという格好だった。

 

「ん、デクくん体操服だ。コスチュームは?」

 

「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから…修復をサポート会社がしてくれるらしくてね。それ待ちなんだ」

 

「…………」

 

「こっち見んな」

 

 俺が無言で爆豪くんを凝視すると、爆豪くんは気まずさからか俺を睨み返してきた。

 白い目で見られるのが嫌なら、はじめからあんな事するな。

 

「バスの席順でスムーズに行くよう番号順に2列で並ぼう!!」

 

「飯田くんフルスロットル…………!」

 

 飯田くんは、フルスロットルで指示を出した。

 ……飯田くん、張り切ってるのはいいんだけどさ。

 多分それ、意味ないと思うよ?

 

 

 

「こういうタイプだった、クソウ!!!」

 

 移動中のバスの中、飯田くんが悔しそうに叫ぶ。

 バスの席はボックス席ではなく、前半分が横向きのロングシートになっているバスだった。

 飯田くんは番号順で2列になるように座れと言ってたけど、この並びじゃ意味がない。

 ちなみに俺の席は葉隠さんと隣同士で、轟くん峰田くんが通路を挟んで隣に、口田くん常闇くんが後ろに、麗日さん八百万さんが前にいる。

 

「イミなかったなー」

 

「ぐおぁあおぉぉぉ!!」

 

 芦戸さんが辛辣なツッコミを入れると、飯田くんはさらに落ち込む。

 そんなやり取りをぼんやりと眺めていると、梅雨ちゃんが口を開く。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

 

「あ!?はい!?蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの“個性”、オールマイトに似てる」

 

「!!!」

 

 あ、とうとう言われた。

 増強系の“個性”なんて珍しくもないし、普通に使ってりゃそんな事言われなかったんだろうけど…

 あんだけSMASH、SMASH言ってたらオールマイトみたいって思うよそりゃ。

 

「そそそそそそうかな!?いや、でも、僕は、その、えー」

 

 図星を突かれた緑谷くんは、目を泳がせて必死に言い訳を考えていた。

 わかりやすっ。

 “個性”について訊かれるのはわかってた事なんだから、言い訳くらい考えときゃいいのに。

 なんて思っていると、切島くんが反論する。

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ。しかし増強型のシンプルな“個性”はいいな!派手で出来る事が多い!俺の硬化は対人じゃ強えけど、いかんせん地味なんだよなぁー」

 

 切島くんは、腕を硬化させながら言った。

 無いものねだりすんな、俺なんて“無個性”だぞ。

 

「僕は凄くカッコいいと思うよ!プロにも十分通用する“個性”だよ」

 

「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 

「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」

 

「………」

 

 緑谷くんと切島くんが話していると青山くんが空気を読まずに自慢してきたけど、直ぐに芦戸さんが心を抉る言葉を投げかける。

 青山くんは、笑みを浮かべてはいたものの見るからに傷ついていた。

 そんなにいじられるのが嫌なら、コスチュームに“個性”のデメリットを軽減する機能をつけるか、漏らしてもバレない仕様にしとけ。

 “個性”の話で盛り上がる中、切島くんは後ろの席に座っていた轟くんと爆豪くんに目を向ける。

 

「派手で強えつったらやっぱ轟と爆豪だな」

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」

 

「んだとコラ出すわ!!」

 

「ほら」

 

 梅雨ちゃんが思っている事を言うと、爆豪くんがキレる。

 あ、緑谷くんが頭を抱え出した。

 

「この付き合いの浅さで既に、クソを下水で煮込んだ様な性格って認識されるってスゲェよ」

 

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 上鳴くんに貶された爆豪くんがさらにキレる。

 そういうとこだぞ、お前。

 「死ね」とか「殺す」とか暴言吐くの、本当にやめてほしい。

 本物の戦場で命の奪り合いをしている俺としては、シラけるだけだから。

 

「低俗な会話です事!」

 

「でもこういうの好きだ私」

 

「爆豪くん、君本当に口悪いな!」

 

 上鳴くんと爆豪くんの品のない会話に八百万さんが呆れ、麗日さんは身体を揺らしながら笑った。

 飯田くんは、相変わらず爆豪くんに注意をしている。

 流石に暴言が聴くに堪えないので、俺も口を出す事にした。

 

「海外進出も考えてるなら、そういう暴言はやめた方がいいと思う。『死ね』とか『殺す』とか、マジに捉えられかねないから」

 

「お前が言うとやけに説得力あるな」

 

 俺が言うと、瀬呂くんがツッコミを入れる。

 そして爆豪くんはというと、反論の言葉が思いつかなかったのか、ビキッと額に青筋を浮かせたまま黙り込む。

 皆で楽しくワイワイ話していると、相澤先生が地を這うような声で注意をする。

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」

 

「「「ハイ!!」」」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 バスに揺られる事数分、今回の訓練場に到着した。

 バスを降りると、目の前にはドーム状の建物が聳え立っている。

 建物の中に入ると、いくつかのエリアに分かれた広大な敷地が広がっていた。

 ビルが倒壊した市街地、土砂崩れにより民家やビルが埋もれているエリア、岩肌が剥き出しになった山岳、轟々と燃えている市街地、巨大なウォータースライダーが設置されたプール、ドーム上の建物。

 考えうる事故や災害を詰め込んだテーマパークのような施設だ。

 

「「「すっげーーー!!USJかよ!!?」」」

 

「ゆぅえすじぇー…?」

 

 まるでテーマパークみたいな設備を見て、皆は口を揃えて驚いている。

 「USJ」という単語が聴こえたけど、あんまり日本に詳しくない留学生の設定なのですっとぼけておいた。

 俺がとぼけていると、切島くんが話しかけてくる。

 

「あ、そっか。雪野は知らねぇよな。日本のデッケェテーマパークだよ。ユニバーサルなスタジオの…」

 

「……?ああ、アレか。アメリカのやつなら知ってる。ユニバーサルなスタジオのジャパン版、でUSJね」

 

「そうそう」

 

 切島くんのわかりやすい説明に頷いておく。

 そのテーマパークの存在自体は知ってるけど、俺の祖国含め、ヨーロッパにはそのテーマパークは無いからなぁ。

 なんて考えていると、今回の講師の一人、スペースヒーロー「13号」先生が現れる。

 

「水難事故、土砂災害、火事etc.あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も…… ウソ()災害()事故()ルーム!」

 

 USJじゃん。

 権利問題とか大丈夫なのか?

 

「スペースヒーロー『13号』だ!災害救助で目覚しい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わー!私好きなの、13号!」

 

 ヒーローオタクの緑谷くんと、13号ファンの麗日さんがはしゃぐ。

 それにしても、オールマイトはまだか?

 今日はオールマイトも講師として参加するって話だったはずだけど。

 

「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが」

 

「通勤時に()()ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでいます」

 

「不合理の極みだなオイ」

 

 今、とんでもない会話が聴こえたんだけど。

 オールマイトマジで何やってんの?

 もし(ヴィラン)が今攻めてきたら、俺が対処しなきゃじゃん。

 まあ、その為のスパイ活動なんだけどさ。

 やっぱり念の為に武器揃えといて正解だったな…

 

「仕方ない、始めるか」

 

「えー、始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」

 

(((増える…)))

 

 13号先生の増える小言に、その場にいる全員が辟易する。

 13号先生は、全員の顔を見渡し、話し始めた。

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”は『ブラックホール』。どんな物でも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 緑谷さんが13号先生の話を聞いてそう答え、麗日さんはヘドバンをするかのように激しく首を縦に振った。

 そんなに激しく首振ったら、鞭打ちになるよ?

 なんて考えていると、13号先生が説明を始めた。

 

「えぇ…しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそう言う“個性”が居るでしょう。超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っている事を忘れないで下さい。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めてる可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では…心機一転!人命の為に“個性”をどう活用するかを学んで行きましょう!君達の力は傷付ける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな。以上!ご清聴ありがとうございました」

 

「ステキ—!」

 

「ブラボー!!ブラーボー!!」

 

 13号先生が礼をしながら締めくくると、麗日さんは声を上げ、飯田くんも拍手をする。

 そんな時だった。

 

「そんじゃあまずは…」

 

「!」

 

 相澤先生が異変を察知して振り向くのと、俺が反射的にナイフと銃を抜くのはほぼ同時だった。

 中央噴水の位置に、黒い靄のようなものが現れる。

 その渦の中から、手で顔を覆った銀髪の男がこちらを覗いていた。

 

 

 

「一かたまりになって動くな!!!」

 

 相澤先生は、俺達に向かってかつて聞いた事ない程声を大きく張り上げて叫ぶ。

 だけど俺以外は、状況が飲み込めずキョトンとしていた。

 

「13号!!!生徒を守れ!!」

 

 相澤先生は、声を張り上げて13号先生に指示を出す。

 その間にも、渦の中からゾロゾロと(ヴィラン)が現れる。

 だけど切島くんに至っては、入試の時同様学校側が用意した仮想(ヴィラン)だと勘違いしていた。

 

「なんだアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

「動くな!!あれは(ヴィラン)だ!!!!」

 

 そう言って相澤先生は、サポートアイテムのゴーグルを身につける。

 頭部が黒い靄になっている男は、“個性”と思しき黒い靄を展開しながら口を開く。

 

「13号に…イレイザーヘッドですか…先日()()()教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここにいるはずなのですが…」

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

「どこだよ…せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…子供を殺せば来るのかな?」

 

 手を顔で覆った男は、ブンっと顔を振り上げて独り言を口にする。

 その言葉に、相澤先生が捕縛武器を構えて臨戦態勢を取る。

 切島くんは、下の広場にいる(ヴィラン)を見下ろして口を開く。

 

(ヴィラン)ンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んで来るなんてアホ過ぎるぞ!」

 

「先生、侵入者用センサーは!」

 

「勿論ありますが…」

 

 八百万さんが尋ねると、13号先生が答える。

 すると轟くんが冷静に現状を分析する。

 

「現れたのはここだけか学校全体か…何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうにそういう事が出来る“個性(ヤツ)”がいるって事だな。校舎と離れた隔離空間、そこに少人数(クラス)が入る時間割…バカだがアホじゃねぇ、これは『何らかの目的』があって用意周到に画策された『奇襲』だ」

 

「その通り」

 

 轟くんの説明に頷きつつ、俺も戦闘態勢を取る。

 いくらワープの“個性”があるからって、あまりにも用意が良すぎる。

 先日学校に侵入してカリキュラムを盗んだのは、こいつらで間違いない。

 終わった事を嘆いても仕方ないけど、やっぱりあの時シメておくべきだった。

 

「13号、避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策も頭にある敵だ、電波系のヤツが妨害している可能性がある!上鳴、お前も“個性”で連絡試せ!」

 

「っス!」

 

 敵の視線を遮るように、相澤先生が俺達の前に立ちながら指示を出す。

 上鳴くんは、サポートアイテムの電子変換無線を使って学校に連絡を試みる。

 通信機器なら俺のマントのフードの中にも入ってるけど、妨害電波のせいで繋がる気配が全くない。

 

「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら“個性”を消すっていっても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の“個性”を消してからの捕縛だ、正面戦闘は………」

 

 おいこら緑谷(バカ)、敵前で人の戦闘スタイルを喋るな。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ」

 

「先生」

 

 俺は下の広場に行こうとする相澤先生の背後に立ち、小声で手短に要件を伝える。

 

「目の水分を保持する効果がある目薬です。一度点せば1分間は効果が持続します」

 

 俺は、まだ封を開けていない新品の目薬を相澤先生に手渡した。

 軍とサポート会社が共同開発した視力補強用の目薬で、目の水分を保持し、一度点せば1分は瞬きをしなくても視力を維持できるスグレモノだ。

 銃火器とか渡せば強いんだろうけど、生憎今の俺は、相澤先生に手渡せる銃火器の予備が無い。

 予備があったとて、どのみち使いこなせなきゃ意味がないし、今の俺ができるサポートはこれくらいしかなかったんだけど。

 

「…そうか、助かる。だが何故お前がこんなものを…」

 

「ドライアイは、狙撃手(スナイパー)にとって死活問題なので」

 

 俺が目薬を渡すと、相澤先生(イレイザーヘッド)は頭を下げてから、(ヴィラン)の群れへと突っ込んでいった。

 相澤先生(イレイザーヘッド)は、広場にいた(ヴィラン)の“個性”を消し、捕縛武器を使ってちぎっては投げた。

 仮にもプロヒーローだしな、あれくらいはやってもらわないと困る。

 

「肉弾戦も強く…その上ゴーグルで目線を隠されていては『誰を消しているのか』分からない……集団戦に於いてはそのせいで連携が遅れをとるな…なるほど、嫌だなプロヒーロー。『有象無象』じゃ歯が立たない」

 

 顔に手をつけた(ヴィラン)は、首筋を掻きながら不機嫌そうに言った。

 相澤先生(イレイザーヘッド)の戦いぶりに、緑谷くんは目を奪われていた。

 

「凄い…多対一こそが先生の得意分野だったんだ…」

 

「分析している場合じゃない!早く避難を!!」

 

 相澤先生(イレイザーヘッド)の戦いに感心する緑谷くん(バカ)に、飯田くんが避難を促した。

 だけど……

 

 

 

「させませんよ」

 

 13号先生が俺達を連れて向かった先に、さっきの靄男が現れる。

 

「初めまして、我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 オールマイトを殺すだと?

 オールマイトに危害を加える奴は、我が国の敵。

 長官からは、疑わしき者は迷わず殺せとのお達しだ。

 流石に皆が見てる前では殺せないけど、殺さずに仕留める方法はいくらでもある。

 そう考えながら、俺は銃を構える。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈…ですが、何か変更があったのでしょうか?まぁ…それとは関係無く…私の役目はこれ」

 

 (ヴィラン)が最後まで言い終わる前に、13号先生が指先のキャップを外して“個性”を使おうとした。

 だけど、それと同時に二つの影が(ヴィラン)の前に現れた。

 爆豪くんと切島くんは、同時に(ヴィラン)に攻撃を仕掛けた。

 二人の仕掛けた攻撃が、黒い靄を吹き飛ばす。

 

「その前に、俺達にやられる事は考えなかったか!?」

 

 切島くんは、勇ましく啖呵を切る。

 だけど黒い靄は、何事もなかったかのようにすぐに人型に戻った。

 

「危ない危ない………そう…生徒と言えど優秀な金の卵」

 

 ん…?今、「危ない」って言ったよね。

 物理攻撃を完全無効化できるわけじゃないって事か。

 まあ、実体が無いなら服なんて着られないしね。

 それがわかったのはいいけど、仕掛けたタイミングが最悪。

 

「ダメだ!退きなさい二人とも!」

 

 二人が13号先生と俺の射線上に立ったせいで、攻撃ができない。

 敵を捕らえるチャンスを無駄にしやがって、このクソバカ共。

 二人を押し除けて発砲しようとしたが、遅かった。

 

「散らして嬲り殺す!!」

 

 ズァッと爆発的に広がった靄に、皆はなす術なく飲み込まれた。

 俺は靄が襲いかかる瞬間に反射的に飛び退き、靄の攻撃を避けた。

 その場に残ったのは、俺、芦戸さん、飯田くん、麗日さん、障子くん、瀬呂くん、13号先生だけだった。

 

「皆は!?いるか!?確認できるか!?」

 

「散り散りにはなっているがこの施設内にいる」

 

 飯田くんが声を上げると、障子くんが複製した耳で全員の音を聞き取って報告する。

 

「物理攻撃無効でワープって…!!最悪の“個性”だぜおい!!」

 

 瀬呂くんが、黒い霧状の(ヴィラン)を見て言った。

 すると13号先生が飯田くんの方を見て言う。

 

「………委員長!」

 

「は!!」

 

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください。警報が鳴らず、そして電話も圏外になっていました。警報機は赤外線式…先輩…イレイザーヘッドが下で“個性”を消して回っているにも拘わらず無作動なのは…恐らくそれらを妨害可能な“個性”がいて…即座に隠したのでしょう。とするとそれを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」

 

「しかしクラスを置いてくなど委員長の風上にも…」

 

 13号先生が指示を出すと、飯田くんが反対しようとする。

 すると瀬呂くんが口を開く。

 

「いいから行けって非常口!!外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!?」

 

 瀬呂くんがそう言うと、飯田くんがハッとする。

 

「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!!お前の脚で靄を振り切れ!!」

 

「救う為に“個性”を使って下さい!!」

 

「食堂の時みたく…サポートなら私超出来るから!する!!から!!お願いね、委員長!!」

 

 瀬呂くん、13号先生、麗日さんが言うと、飯田くんはゲートに向かって走り出した。

 すると靄男は、姿を変えながら俺達に襲い掛かろうとする。

 

「他に手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか」

 

「バレても問題がないから語ったんでしょうが!!」

 

 13号先生が“個性”を使って靄男を吸い込もうとすると、靄男が“個性”を使おうとする。

 俺はその隙を見逃さず、気配を消して背後を取り、そして…

 

 

 

 靄男の肩にナイフを突き立てた。

 

 

 

「ぐああああぁぁぁっ!!?」

 

 俺がナイフを深く突き立てると、靄男が叫び声を上げる。

 ちゃんと深く刺さった感触がある。

 ナイフが刺さった場所からは、物理無効なら流れるはずのない赤い液体が流れ、ポタポタと床に滴る。

 

「ぐ……貴様……!!」

 

「やっぱりね…完全物理無効なら、『危ない』って発言は出てこないよな?」

 

 そう言って俺は、ナイフに付着した血を払う。

 うっかり俺ごと吸い込みそうになった13号先生は、慌てて指先のキャップを閉める。

 

「雪野くん、何を!?」

 

「こいつ今、13号先生を殺そうとしていたので、殺られる前に一泡吹かせました」

 

「危険です!そんな事をしたら…」

 

「いや、オレが刺してなきゃヤバかったでしょう。どうやらあいつ、貴女の『ブラックホール』をワープゲートで飲み込んで、自滅させようとしてたみたいですし」

 

「くっ……」

 

 俺が靄男をチラッと見ながら言うと、靄男は悔しそうに黄色い目を細める。

 カマかけてみただけなんだけど、図星だったんかい。

 兎に角、靄の弱点は暴いた。

 こいつさえ仕留めりゃ、クソ共にはもう帰る手段が無い。

 だったら最優先にこいつを仕留めるのが最善。

 

 背後を取った時点で殺そうと思えば殺せたけど、仮にもヒーロー科に在籍している以上、皆が見てる前で殺すわけにはいかない。

 第一、こいつには訊きたい事が山ほどある。

 ここで暴れたらクラスの皆には俺の実力がバレるかもしれないけど、俺は工作員である前に兵士だ。

 目の前に排除対象がいるんだから、仕留めないという選択肢は無い。

 

「ワープゲートはオレ達がなんとかします。13号先生は、その隙にこいつを吸い込んで拘束してください」

 

「ダメです、退きなさい!!そんな自分から死にに行くような危険な行為、教師として見過ごすわけにはいきません!!」

 

「先生、誰も死にに行こうだなんて思っちゃいませんよ。死なない為に戦うんです」

 

 俺は13号先生の制止を振り切って、靄男をじっと見据える。

 俺がナイフを構えている間にも、靄男は飯田くんの元へワープゲートを展開しようとする。

 思ったより回復早いなオイ。

 なんて思った、その時。

 

「行け!!早く」

 

 障子くんが、被膜で黒い靄を覆った。

 その隙に飯田くんが全速力でゲートへと走る。

 靄男は、飯田くんの行く手を阻もうと、またしても“個性”を発動しようとした。

 そうはさせまいと、俺は鏢のような形状のナイフを靄男に投げつけた。

 

Ты тормоз.(遅い)

 

「ぐ……!」

 

(速い…攻撃の軌道が読めない!)

 

 靄男に対して、俺はあえて銃を抜かずにナイフのみで攻撃した。

 こいつのワープゲートに対して、銃は相性が悪い。

 銃だとワープゲートで防がれて、下手したら俺が自滅しかねない。

 だからナイフでの攻撃に切り替えた。

 攻撃の軌道さえ読まれなきゃ、こいつもワープゲートを出しようがない。

 

「行けええ!!!飯田くーん!!!」

 

「行けええ!!」

 

 俺が靄男の動きを止めた隙に、麗日さんが靄男に触れて浮かせる。

 そこへ瀬呂くんが現れ、テープを使って靄男を拘束。

 そしてそろそろ、さっき靄男に刺したナイフに仕込んでおいた麻痺毒が効いてくる頃だ。

 その隙に13号先生が『ブラックホール』で完全に靄男の動きを封じ、飯田くんが僅かに開いた自動ドアの隙間から外へと飛び出し駆け抜けた。

 俺が深くため息をついていると、芦戸さんが声をかけてきた。

 

「雪野、大丈夫?」

 

「うん。普段やらない事やったからちょっと疲れただけ」

 

 芦戸さんが心配してきたので、俺は頬の汗を拭いながら答える。

 いやほんと、普段やらない事やったから疲れたよ。

 ここがヒーロー科の学校じゃなくて本物の戦場だったら、背後取った時点で殺してたし。

 

「…ありがとうございます、雪野くん。しかし、今の戦い方は、一体どこで…?」

 

「サバゲー」

 

 靄男を拘束した13号先生がお礼を言うので、俺は端的に答えた。

 せめてここから見える範囲だけでも状況を確認できないかと考え、双眼鏡でUSJ全体を見渡すと、山岳エリアに、上鳴くん、耳郎さん、八百万さんがいるのが見えた。

 (ヴィラン)に上鳴くんが捕まり、耳郎さんと八百万さんは何もできずに両手を挙げている。

 俺はスナイパーライフルを構えて、上鳴くんを人質に取っている(ヴィラン)を狙撃した。

 エアガンで撃たれた(ヴィラン)が倒れると、フードに内蔵された通信機が復活する。

 ああ、今の奴が通信を妨害してたのか。

 飯田くんに助けを呼びに行ってもらったのに、無駄骨になっちゃった。

 なんて思いつつ、ボルトハンドルを起こして薬室を開き、さらにボルトハンドルを手前に引いて排莢した、その時。

 

 

 

「ぐあああああっ!!」

 

 広場の方から、相澤先生の悲鳴が聴こえる。

 見ると、脳が剥き出しになった黒い肌の(ヴィラン)が、相澤先生を押さえつけていた。

 その様子を見て、顔に手をつけた(ヴィラン)が不気味に笑う。

 

「対平和の象徴、改人“脳無”」

 

 脳無?という化け物は、相澤先生の腕を握り潰し、小枝のようにへし折る。

 まずいな、靄の確保に時間をかけすぎた。

 相澤先生の“個性”でも無力化できてないって事は、素の力が常人離れしてるって事か。

 飯田くんが応援を呼んでくれたからオールマイトは来てくれるだろうけど、できればオールマイトの戦力ダウンは避けたい。

 オールマイトが来る前に片付けるか…

 頭を仕事モードに切り替えた俺は、近くにいた障子くんと芦戸さんに話しかける。

 

「障子くん、引き続き索敵をお願いします。芦戸さん、万が一(ヴィラン)がこっちに来たら()()してもらえますか」

 

 俺は索敵能力に優れた障子くんに観測を、このメンバーの中では一番攻撃力が高い芦戸さんに護衛を任せ、スナイパーライフルを構える。

 すると芦戸さんがぎょっとした表情を見せる。

 

「えっ、対処って…雪野あんた何するつもり!?」

 

狙撃手(スナイパー)は安全地帯が仕事場なので。お願いしますね」

 

 そう言って俺は、広場にいる(ヴィラン)にスナイパーライフルの銃口を向ける。

 対オールマイト兵器を寄越して勝ったつもりだろうけど、こいつらには一つ大きな誤算がある。

 それは、本物の戦場を生き延びてきた俺の存在だ。

 タダで帰れると思うなよ、(ヴィラン)

 

 

 

 

 




黒霧確保&電波(ヴィラン)撃破。
やっぱり気づかれずに遠距離の敵を一方的に殲滅できるスナイパーは強いですね。
いよいよオリ主のターンです。
次回予告!!

オールマイト「私が来t……あれ?もう全部終わってる?」

雪野「更に向こうへ、Plus Ultra」


ちなみにバスの並び順はこうです


障子 瀬呂   常闇 口田

 轟 峰田   雪野 葉隠

爆豪 耳郎   麗日 八百万

  切島      上鳴

  蛙吹      青山

  緑谷      芦戸

  砂藤      飯田

  相澤

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