――何もなかったみたいに
次の日の朝は、昨日と何一つ変わらなかった。
同じ通学路。
同じ校門。
同じ、少し眠そうな教室。
ガラガラッ
優は教室のドアを閉じ、自分の窓際の席の方を見る。
窓際からひとつ離れた一番後ろ。
彼女は窓の外を眺めている。
昨日のことが、夢だったみたいに。
「……」
彼女の後ろを通り、席に着く。
声をかける理由はない。
いつもと同じ朝だから。
チャイムが鳴り、
担任が入ってくる。
日常が、始まった。
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二時間目の途中で、黒瀬夏夜音はまた机に突っ伏した。
変わらない。昨日と同じだ。
みんなも、同じように気を遣う。
「起こさないでね」
「うん」
話題が、少しずつずれていく。
でも、優は違った。
昨日から、
彼女が眠る前の一呼吸が、分かる。
重心が落ちる前の、ほんの間。
彼女が一瞬その場の空気や、『優の魔法』を緩ませる気がした。
魔法で自分の影が、机の下で揺れないように、優は無意識に力を抑えていた。
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昼休み。
「優〜」
高橋が、今日も廊下から声をかけてくる。
「腹減った〜飯の時間だ〜」
「お、今日は唐揚げだ」
「いいな〜、一個くれよ」
前の席に高橋が座り、二人で弁当を広げる。
黒瀬夏夜音は、隣の席で目を閉じたままだ。
そんな彼女を見て、
「昨日の日直、どうだった?」
高橋が、何気なく聞く。
「……普通だった」
「そりゃそうか」
間違ったことは言っていない。
日直日記には昨日は「特になし」しか書かれていない。
無かったことになった方が僕的には全然有難いまである。
高橋は箸を止めて、ふとそちらを見る。寝息を立てる彼女はまるで違う空間にいるかのように感じられた。
「黒瀬、今日も寝てるな」
「うん」
「大丈夫なんかな」
一瞬だけ、言葉に詰まる。
「……みんな見守ってるよ」
「それな、不思議な人だよな」
「そーだね」
それで話は終わった。
そして午後の授業が始まり、放課後まで昨日みたいな出来事は、起きなかった。あまりにも普通の日常。昨日見たことなんて本当に幻か寝ぼけていたと思ったのかもしれない。
帰りのホームルームが終わって、それぞれ部活や帰宅のために教室を楽しげに出ていく。帰宅部の優は教室に残る理由もない。
帰り支度をしているとき、隣から小さな気配がした。
黒瀬夏夜音が起きたのだ。
「……深見優くん」
昨日と同じ呼び方。でも、今日ははっきりと。
優は、手を止めた。
「な、なに?」
「今日さ」
夏夜音は、少し言葉を探している。
「"何も"、なかったね」
胸の奥が、静かに鳴る。脳裏に昨日の出来事が過ぎる。
若干手に汗が滲んで呼吸が浅くなるのが自分でもわかった。
「き、昨日のあれは……」
「分かってる」
彼女は、優の言葉を遮った。
「あれは幻だよね。」
少し間を置いて、窓の外に視線を向けたまま、
小さく続ける。
「幻なんて、たまに見れるから幻なんだと思うよ」
それだけ言うと、黒瀬夏夜音はまた静かになった。
教室には、風の音と外の喧騒が残る。
昨日は、偶然だった。
今日は、何も起きなかった。それでも。
隣の席にいる彼女だけが、優の“何も”が見えている気がした。
その事実が、少しずつ日常を変え始めていた。
優の魔法
・少しだけ透かして見える
・ものを引き寄せる
・自分の影の形を変えられる(影を薄くすることも出来る)
キャラ紹介
深見 優(ふかみゆう)15歳♂︎
黒瀬夏 夜音(くろせかやね)15歳♀
高橋(たかはし)15♂ 優の友達
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